2006年09月23日

大きな流れは風が呼ぶ~前橋育英・伊勢崎工業戦から~

総力戦、そして全員野球。
何も珍しい単語ではない。
だが、時として、何気なく発している“全員●●”がどれほど重く、大変なものであるかを知る。
ほんの一瞬の判断を通して。

群馬県前橋市、県営敷島球場。
夏の大会を思わせるような強い日差しのなか、秋季大会3回戦前橋育英対伊勢崎工業の試合は始まった。

初回から前橋育英が3点を先取し、中盤までに8点のリードを奪い、このまま7回コールドで試合は決まるだろうと疑わないような危なげない展開。
前橋育英・広神キャプテンですら、「7回表の守備につくときは勝つと思っていた」と言うほど。

ところが。
ここからひと波乱もふた波乱もあるのが高校野球。
なにせ、今夏の大会では9回に5点取って逆転したチームですらサヨナラ負けに喫している。
勝負に絶対はない。
特に高校野球には。

実は、リードしていたとはいえ、前橋育英は本調子にはほど遠い状態だった。
主力選手をケガや風邪で欠き、思うようなメンバー構成は愚か、誰をどのように組み合わせていけばいいか、パズルに近い状態と言っても過言ではない。
ギリギリの勝負だった。
あと1回を守りきれば勝てる。
それが安堵につながったのか、7回コールド勝ちを目前に、思わぬ困難に見舞われる。
アウトが取れない。
終わるはずの試合が終わらない。

焦りが加速して不安を呼ぶ。
出さなければいけないはずの声が出ない。
キャッチャーからライトにまわった広神は、本来自分が構えているはずの場所を見ながら、バッテリーを見ながら、不安を抱くとともに、キャプテンである自分に何ができるかを考え、苦悩する。
「声を出しても届かない。でも何かを伝えなきゃいけない。同じグラウンドなのにすごく難しかった」

何とか守りきってつかんだ勝利。
思わず訪れた試練に、周囲の大人たちは声を揃えた。
「ベストメンバーを揃えられないなかで戦い、勝てたことは大きい。結果としてはこれもよかった」

マイナスをプラスに。
誰しもがそう思う。
今に満足して、先を見ようとしなければ。

広神は違った。
「マイナスをプラスにというのは言い訳だと思う。マイナスはマイナス、よくなかったことはよくなかったこと。そうやって受け止めなければ、次にはつながらないし、次に勝つことなんてできないと思う。
何が悪かったかをしっかり受け止められているか。それをカバーするために何をすべきか。苦しいときにフォローできなかったことも含めて、自分の課題をそれぞれが受け止めないといけないと思う」

先を、次を見据えてそう言った。

キャッチャーとしてすべてを見渡し、ボールを受ける彼がライトに回り、本来は見えないはずのチームメイトの背中を見始めてから、微妙な風が試合の流れを変えた。
“風”の力は小さいと思っても、大きく吹くことが多大にあるらしい。

次を見据えて、キャプテンがどうまとめていくか。
次はどんな“風”が吹くか。
先が読めないだけに、高校野球は面白い。
 

posted by tanaka yuko |22:37 | 高校野球 | コメント(2) |
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