2006年11月06日

ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

世界バレー1次ラウンドもいよいよ今日が最終日。
既報の通り、日本代表はポーランド代表に3-1で勝利し、2位で2次ラウンド進出を決めました。
名古屋での2ndステージも楽しみな限りです。

日本代表もさることながら、この1次ステージ代々木会場(Aブロック)で、私が最も強い印象を抱いたのはケニア代表チーム。
結果は5戦全敗。惜しくも勝ち星は挙げることはできなかったけれど、キャプテン・ナコミチャ選手の試合終了後の会見で発した言葉がとても印象的なものだった。

1次ラウンドすべてと、今日の韓国戦の感想を述べられ、彼女はまず淡々とした表情で、「今日が最後の試合だったのでベストを尽くそうと試みたが、昨日の敗戦のショックを拭いきることができず、ムードに乗ることができなかった」と話した。
通訳が訳し、同じ質問を韓国代表の選手に振ろうとしたところ、それを彼女は制し、「もう1つだけ」と続けて話し始めた。
「この場を借りて、菅原監督にお礼が言いたい。私にとって、ケニアチームにとって、監督はバレーのコーチであるとともに父親のような存在だった。もう一度一緒にケニアに戻り、また監督に指導してもらいたいと強く願っています」
あまりにストレートな感謝の言葉に、思わず涙腺が緩みそうになった。
そして、ナコミチャキャプテンに「あなたが菅原監督から教えられたことのなかで、特に大きなことは何でしたか?」と聞いた。すると彼女は、1つ1つを噛み締めるように言った。

「私は監督に出会うまではケニアの外でバレーをする経験などなく、ただジャンプしてボールを打つだけ、レシーブもスパイクも基礎を何も知らなかった。そんな私たちに、監督は日本で練習する機会を与えてくれて、プロとしてプレーするきっかけもつくってくれた。常に監督の指導を受け続けられたわけではなかったけれど、監督が自分のよさを生かすプレーを教えてくれた。この年齢(今年36歳)で現役を続けている選手はほとんどいないし、同じ頃にプレーした選手たちはみんな引退している。そのなかで私が現役選手としてモチベーションを保ちながらプレーすることができているのは、監督のおかげだと思う。本当に感謝しています」

心のなかの思いを、言葉にして一気に吐き出すかのように、ナコミチャは言った。
そして、監督より先に退席する際に、菅原監督とがっちり握手をした。

とても美しく、胸を打たれる光景だった。
2人の強い信頼関係を感じた。

特別なコートなどなく、体育館の数も限られている。
野原に穴を掘り、木をポール代わりに立てて、そこにネットを張り、1つしかないボールを使ってゲーム形式の練習をする。
それがケニアでのバレーボールの風景であり、バレーボール事情だという。
かつて柳本監督の指導にもあたり、現在はバレーボール協会強化副委員長を務める菅原監督が、ケニアチームの指導に携わり始めたのは3年前。ケニアからの要請にこたえるかたちで、監督としての指導が始まった。

英語を話すことができず、選手たちに思うように意思疎通がはかれない。
「自分が情けなくて、情けなくて、毎晩ひとりで涙を流していた」
67歳になる指揮官は、そうつぶやいた。
何とかして伝えたい、教えてあげたい、そんな必死の思いが、カタコトの単語とジェスチャーを介して、少しずつ選手たちに浸透し始め、今では顔を見るだけで選手が何を考えているか、何が言いたいのかがわかるようになった。

世界選手権に向けて、「3ヶ月間で1年分の強化をしよう」とハードな毎日を過ごした。
朝は7時20分に宿泊先を出発し、それから17時過ぎまで一日7時間以上に及ぶ練習をした。
「まだまだ世界大会にでるには恥ずかしいレベルかもしれない。でも少しずつ、新しい芽も育っている」(菅原監督)。

次なるステージへ向け、世代交代の必要性を訴えた後で、「でもナコミチャだけは別。彼女には40歳まで現役を続けろと伝えてあります」と笑った。
ここでもまた、2人の信頼関係が垣間見えた気がした。

最後に「みなさんが期待してくれたものに応えられるバレーが見せられなくてすみません」と笑顔で残し、菅原監督は立ち去った。
謙虚に、相手を立てることを忘れない真摯な人だった。
自国の強化委員が、他国のバレーのために指導にあたるということに、異を唱える声も少なくなかったという。
しかし菅原監督がケニアに残したものこそがバレー普及のための大きな功績であり、こういう人こそが、名将と呼ぶにふさわしい人なのだと思う。

ケニア代表は明日、日本を後にする。
彼女たちを率いた父である、菅原監督は日本に残り、帰国する彼女たちを見送る。
結果だけを見れば、ケニアは勝利を挙げることはできなかった。
けれど、確かな絆と信頼関係のもとで築かれた大切なものを残してくれた。

いよいよ水曜からは2次ラウンドが始まる。
勝敗だけでなく、きっとたくさんの物語がそこに存在していることだろう。
楽しみは尽きない。

posted by tanaka yuko |03:03 | バレーボール | コメント(16) |
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この記事に対するコメント一覧
Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

ふと立ち寄った田中さんのブログでしたが、いい話を知ることができて、感動しました。ありがとうございました。

posted by メロン | 2006-11-06 10:01

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

こんにちは。
連日バレー応援してます。
こちらのブログで、文字だけなのにグッときて泣けてしまいました。
素敵な文章、ありがとうございました。
私もブログがありますが文章を書くのが苦手。。
表現力がうらやましいです。
また寄らせてくださいね。

posted by 天宝 | 2006-11-06 10:19

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

朝から、パソコンの前で泣いちゃいました。

posted by noripi | 2006-11-06 10:50

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

泣けた

posted by ラッシャー | 2006-11-06 12:19

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

(T_T)
日本を応援するイケイケな部分だけでなくこういうところもしっかり報道してほしいですよね
よい話をありがとうございました

posted by 名無し | 2006-11-06 14:13

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

他局の24時間テレビで、今年のテーマは「絆」だった。
絆とは、まさにこういうことを指すのだろう。

posted by 知恩 | 2006-11-06 15:25

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

ケニヤの試合を見ていましたので会見の内容が良く理解できます。小生の格言集の中に「結果を論ずるよりその過程に目を注げ」と言う言葉ありますが正にそのとおりだと思います。何年か先には日本にとって大きなライバルになると期待しています。
頑張れケニア。そして監督の情熱に拍手

posted by tony | 2006-11-06 17:17

「世界選手権」の重さ

初めまして。毎日のスポナビでのリポート、貴重な情報源です。ありがとうございます。

青年海外協力隊などではなく、日本でも名将といわれる監督が1からバレーを指導するというのは、菅原監督ご自身にとっても「挑戦」だったでしょう。

きのうの代々木最終戦でケニアvs.韓国戦も観戦しましたが、ケニアのひたむきさやボールに対する執念が垣間見えて清々しいものでした。
お客さんの拍手が温かかったです。
国際大会に何度も出てるのにいっつも最下位争い、それでも世界の最先端に触れられていつかは・・・と思う、これもまた「世界選手権」なのですね。
日本戦だけ行われているのではないという。一般メディアももっとこういうミックスゾーンのやり取りを採り上げてほしいです。

第2次ラウンドでは、国として最後の大会になるセルビア・モンテネグロに注目しています。どこまで進めるか見守っていきたいです。

posted by はちぽち | 2006-11-06 17:33

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

>メロンさん、天宝さん、noripiさん、ラッシャーさん、名無しさん、知恩さん、tonyさん、はちぽちさん

コメントありがとうございました。
ケニア代表、とっても素敵なチームで、コスタリカ戦後の会見で発した菅原監督の第一声は「コスタリカチーム、おめでとう」でした。
とても素敵な方でした。
これからもバレーボールをよろしくお願いします。
ありがとうございました。

>かんたさん

元気でやっとります。来年のヒルマンはいずこに?
お時間あれば世界バレーも見てやって下さいね。
ありがとうございました。

>メグさん

コメントありがとうございます。
タイペイは、レシーブとブロックの連携が取れたいいチームでした。
でも、ちょっとしたおごりや情報不足はあったかもしれませんね。
2次ラウンド以降の日本に、さらに期待しましょう。
ありがとうございました。

>たかさん

コメントありがとうございます。
やはり大事なのは「基本」です。
今大会もサーブカットやディフェンスの位置に注目して見てみるというのも、また新たな楽しみ方があると思います。
ありがとうございました。

posted by たなかゆうこ | 2006-11-06 22:09

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

田中さんのコメントを読みました。ケニアのチームは素晴らしい試合をしました。厳しい環境をものともせず、堂々と戦っていた姿を思い出します。このような厳しい環境の中戦えた日本チームは誇りに思ってほしいとおもっています。チーム柳本の選手にぜひ読んでいただきたい記事です。今、逆行にいるチームは必ず強くなります。ケニアの選手たちは、これからももっともっと強くなると思います。いいえ、必ずなる。そしてまた世界と対戦して欲しい。そんな気持ちにされてくれる暖かいお話をありがとうございます。

posted by kyoco | 2006-11-06 23:53

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

たまたま立ち寄りましたが、大変いいお話、有り難うございました。

日本選手だけ見ていると、どうしても勝ち負けにこだわってしまいますが、参加している全選手にケニアと同じくらい心温まるエピソードが有るはず。

そういうところに目を向けた報道ってできないでしょうか。



posted by Lendl | 2006-11-07 01:08

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

グっとくるねぇ;;

posted by q | 2006-11-07 10:13

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

こんにちは!
本当に良いブログを見て心温まる良い話を聞き涙しちゃいました。。。
私もバレーをやっていますが、チーム自体監督コーチに感謝するって事を忘れて、不平不満を言ってるのを聞き(-_-;)感謝して頑張らないといけないですよね。日本戦の試合中継しかないので他のチームの試合も見たいですね。バレー大好きでバレー中継が無いときは寂しいです。勝ち負けだけじゃない!内容も兼ね備えないといけないですよね。明日からは楽しみ!応援するぞ!頑張れ日本!

posted by mario | 2006-11-07 17:02

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

はじめまして。
本当に伝わる文章でした。どんなことでも人と人の信頼ですよね。
感謝する気持ち忘れてはいけないって改めて感じました。
一つのブログからいっぱい感じ取る事が出来ました。ありがとう。

posted by たか | 2006-11-10 09:40

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

 田中さん、こんにちは。
 あけましておめでとうございます。

 以前こちらではなく(ハンドボールの植松選手からリンクが
あった)他のブログの方に書き込みをしましたが、覚えて
いらっしゃると嬉しいです。

 菅原監督のこと、ご存知かもしれませんが…
 95年のワールドカップでもケニア代表の監督でいらっしゃいました。
私の記憶に間違えがなければ、菅原監督はその年の95年もしくは前年の
94年にケニアの監督になられたはずです。その後日本に戻られて、
国内の指導にあたっておられました。ケニアの指導にあたられた3年間
というのは、実際には2回目の指導だと思います。そして95年の
ワールドカップにナコミチャ選手もプレーしていたかもしれません。
 ナコミチャ選手の記憶については、はっきりしていませんが、
95年のワールドカップのことは記憶に鮮明です。菅原監督とも
お話しをしましたが、誠実で温かい人柄の方だと感じました。

 2007年が田中さんにとって素晴らしい年になりますように。

posted by yuki | 2007-01-05 19:49

Re:ケニアのキャプテンの言葉に思わず…

 ごめんなさい、連続投稿です。

 前のコメントの「2回目」というのは間違いで「2回目以上」です。
 メディアでは4回目ということです。

posted by yuki | 2007-01-06 00:35

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