Yuki's Sports Arena

パク・ジュンギュ選手の涙

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 4年前のドーハ。中東の笛に翻弄され、ハンドボールとは言い難い競技を
余儀なくされた男子韓国チームの選手およびスタッフたちは、今回のアジア
大会が開催される前にメディアに対し「審判が正しく笛を吹いてくれれば」
と念を押しながら「金メダルを獲得できる」と伝えていました。特にこの大会
韓国チームの旗手に選ばれ、メディアへの露出が高かったユン・キョンシン
選手は審判問題の再発を危惧し、人々の注意を促すかのように「審判」と
いう言葉を頻繁に口にしていました。

 アジア大会の優勝は、韓国の男子選手にとって非常に重要なものです。
 この大会の金メダルは兵役免除を意味するからです。

 韓国の男子は19歳から29歳の間に兵役に赴かなければなりません。
 しかし、兵役に赴いたと同じに値する国家に貢献した者には特例があり、
兵役免除となる場合があります。スポーツ分野の貢献では、アジア大会の
優勝がそのひとつであり、他にはオリンピックでのメダル獲得(3位内入賞)
が主な例としてあげられます。

 特にハンドボールはヨーロッパ勢が強く、オリンピックでのメダル獲得が
難しい競技で、アジア大会での優勝が選手たちに与えられた兵役免除へ
の一番の近道であり、唯一に等しい道でもあります。
 こういう書き方をすると「兵役を免除されたいがために優勝を目指して
いるのか」と思われてしまうかもしれませんが、そんな簡単な感情などで
片付けられるものではありません。

 20代、選手として最も成熟する時期
 その2年を奪われることを避けたい
 思う存分ハンドボールをしたい
 できれば海外に行って自分の力を試したい

 彼らの気持ちを代弁すること、表現することは私にはできません。

 しかし、以前元大同の白選手を取材した折、ハンドボールをやっていて
一番よかったと思うことは?という私の質問に、彼が真っ直ぐに目を見て
「軍隊に行かずにすんだこと」と答えた言葉の重い響き、その表情は今も
忘れることができずにいます。

 ドーハのアジア大会で優勝できなかった韓国チームの選手たちの中に、
年齢の関係等から尚武(サンム:国軍体育部隊)に行った選手もいます。
所属していたチームから離れ2年間尚武に赴いた後、別のチームに入った
選手もいます。
 
 今大会、皆が金メダルを目指していた、スポーツ選手として頂上を目標に
することは当然ですが、韓国男子選手にとっては「好きなところで、心から
愛する競技を自由にプレーする権利を得ること」への挑戦でもありました。


 
 優勝の瞬間。

 その数十秒前から韓国チームのベンチでは全選手とスタッフが肩を組み、
その瞬間を待っていました。

 笛が吹かれた瞬間、はじかれたようにベンチからコートに走り出す選手、
コート上にいた選手たちはベンチにいた選手たちの方へと向かい、互いが
引き寄せあうように抱き合っている中・・・

 パク・ジュンギュ選手はオ・ユンソク選手と肩を組みながら皆のもとへ
行こうと途中まで歩きましたが、それ以上進むことができず歩みを止めま
した。チームメートたちに背を向けて空を仰ぎ、ユニフォームを両手で握り
締める彼の目には涙が溢れていました。

 自然に輪になっていく韓国チームの選手たち、そこから少し離れている
パク・ジュンギュ選手に気付いたイ・サングック選手とユ・ドングン選手が彼
に歩み寄りました。二人はパク・ジュンギュ選手を支えながら輪の中へ導き、
他の選手たちは微笑みながら彼ら三人を待っていました。そうして完成した
選手たちの輪は、全選手の笑顔と涙で何度も円を描きました。

 メダル授賞式の後、パク・ジュンギュ選手と少し会うことができました。
 競技終了直後とは正反対の、最高の微笑みを浮かべてハイタッチをした
彼は、プレーと同様に人柄も本当に魅力的な選手です。


 競技中のコート、表舞台だけでなく、選手の輝きは裏舞台にもあります。
 そして、それらは皆さんが足を運んだ会場で見つけて欲しいです。

 その中で応援するチームが勝つ理由も負ける理由も、見えてくることが
あるでしょう。見えるが故に歯がゆいことも辛いことも出てくると思います。
 しかし、いつかそのチームが最上の喜びを得るときまで、会場へできる
限り足を運んで欲しい、声を出して応援して欲しいと思います。

 願うよりも祈るよりも、会場の声援は選手に直接届くものだから・・・。


= 追 記 =
 この大会で5人の選手が兵役免除の特例を得ました。
 年齢順にシム・ジェボク選手、ユ・ドングン選手、チャン・スヨン選手、
オ・ユンソク選手、パク・ジュンギュ選手です(ジョン・ウィギョン選手は
別の事情で既に兵役免除になっています)。



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パク・ジュンギュ選手の涙

シム・ジェボク,チャン・スヨンはメカルもよく知っています。
彼らがこれからハンドボールに没頭して、世界で活躍していくんですね☆
韓国における中東の笛問題は兵役にかかってくる。
兵役のことは知っていましたが、中東の笛とのリンクはされていませんでした。
自分の浅はかさが身にしみます。。。
彼らはライバルでもありますが、仲間でもあります。
メカルも目下の目標として彼らと同じコートでハンドボールをしたいです☆

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 Yuki Hattori, Japan
 神奈川県生まれ、東京外国語大学朝鮮語学科卒業。基礎課程で朝鮮語学、3年次以降は主に英語教育学(特に語彙指導)を学ぶ。
 米国高校留学を経て大学時代から通訳を始める。1995年以降、国際大会チーム担当や要人随行、外国人選手・コーチの通訳および規定や契約作成、翻訳等主にスポーツ関係に携わる。90年代後半デンソーに所属し、世界的に活躍したバーバラ・イエリッチの元専属通訳。
 現在は記者を兼ね、欧州と韓国のスポーツ、主にハンドボール事情を追っている。
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