2008年11月18日

メディオ・セントロ“ミスター・ダイレクト”の価値

 先日、徐にチャンネルをまわしていると、バルサ TV "Historia"でバケーロの引退試合が放送されていた。

 ホセ・マリア・バケーロ。

 いうまでもなく、ヨハン・クライフ監督時代のDREAM TEAMで“カピタン”を務め、その多くのメンバーが名を連ねた当時のスペイン代表でも中心選手として活躍していた。

 懐かしい面々が映っていたこともあって、しばらくその試合に観入っていた。試合はバケーロの花道を飾るべく奮闘したバルサが圧倒する展開。レアルから電撃移籍でやってきたルイス・エンリケもすっかり馴染んでいるし、ルイス・フィーゴが若くて細くて。。。いやはや懐かしい限り。

 正直、当時、バケーロはそんなに気に留めていた選手ではなかった。ミカエル・ラウドルップ、ロマーリオ、フリスト・ストイチコフ、ロナルド・クーマン、“チキ”ベギリスタイン、セルジ・バルファン…etc。強烈な個性とタレントを持つ華やかなメンツに比べると、どうしても地味な印象が拭えなかった。

 ボールを受けては捌き、またボールを受けては捌く。その繰り返し。時折フリーランニングでGOAL前へ切れ込むことはあったが、概ね前後左右にボールを散らす姿は、華麗なドリブルやSHOOT!を決めるタレントたちの派手なPLAYより、明らかに見劣りしているように感じられた。要は非常につまらないPLAYERに見えて仕方がなかったわけだ。

 スペイン代表では攻撃的MFに据えられていた。アメリカW杯での背番号は⑩。
 「10番はフレン・ゲレーロで良いだろ!?」と、随分憤っていた記憶がある。

 もちろん、統率力という意味においての信頼はあったのだろうが、クライフもなぜバケーロをそんなに重用するのか?当時の自分にはよく分かっていなかった。



 「後ろにパスを出せる点を評価している」

 何で目にしたかは忘れたが、クライフがバケーロに対する評価として、そんな類のことを言っていたことがあった。攻撃すること、点を獲ることに主眼をおくDREAM TEAMのサッカーにおいて、ともすれば全員の意識が「前へ前へ!」と向きがちになるところで、バケーロが一旦ボールを下げることによって、バランスが整えられ試合を落ち着かせられるといった理由だったと思う。

 なるほど。
 イヴィツァ・オシムの「水を運ぶ人」の話ではないが、そういった地味な役回りをこなせる者がいてこそ、TEAMは成り立ち機能するということだろう。オシムといいクライフといい、攻撃サッカーを標榜する指揮官が、こういった選手を必ず重用する点もまた面白い。

 とはいっても、それでもまだ、本質的にバケーロのPLAYの価値を理解していたとは言い難かった。そのPLAYの意を酌み取るというよりは、その意を表す言葉を理解していただけだった。或いは、そういったモノの見方をできる名将の慧眼に感心していただけだったのかもしれない。



 『オレンジの呪縛――オランダ代表はなぜ勝てないか?』という本を最近読んでいる。なぜオランダがトータル・フットボールに辿り着いたのかを、オランダの気質、風土、歴史、社会、時代、文化の観点を織り交ぜ謎とくという、なかなかに読み応えのある一冊だが、それによると、オランダ人は空間把握能力に長けているのだという。

 海、湖、湿地を埋め立ててきたオランダ人は、歴史的に空間=スペースを埋める、或いは新しく作り出すといったことを常に考えざるをえなかった。国土の半分が海抜より低い地に住むだけに、必然的に空間というものに敏感にならざるをえなかったというわけだ。

 “トータル・フットボール”は、そんな土壌に生まれた育った者たちだからこそ生み出すことができたというわけである。

 攻守において、誰かが動いて空いたスペースを、別の誰かが入って埋める。ピッチ上で連動して有機的にスペースを生んだりなくしたりする。そこにはまさにオランダ人の空間利用の概念がピタリと当てはまる。

 「オランダ人は全体像をつかみとり、そこにあるものを細部まで把握する能力にすぐれている」

 クライフがピッチ上の指揮官となりえたのも、ピッチ上の全体的な状況を理解する能力に生まれつき恵まれていたからだという。人一倍その能力に長けていたクライフが重用したバケーロも、そんな能力に優れていたのだとしたら。。。

 だとしたら、どこぞの代表のようにチャレンジする力も勇気もなく、無意味にバックパスを出すのとバケーロのそれとは、本質的に意味が異なる。文字通り全体のバランスを整えるために、「どこに出せばTEAMの次のPLAYに最も生きるか」。

 瞬時にピッチ上の空間を判断・理解し、前後左右の最適な場所にボールを散らしていたのだとすれば、それをやり通すためには当然全体を見渡せるだけの視野の広さがなければならない。無意味にボールを下げるだけでは意味がない。

 自らもそうだったクライフは、自らとプレースタイルやタイプこそ違えどバケーロのそういった点を理解し、評価していたのかもしれない。。。

 何とはなしに眺めていたバケーロの引退試合で、そんなことが頭を過ぎった。
 目から鱗が落ちたような気がした。
 バケーロのスタイル、彼に対するクライフの評価、その根底にある?オランダ人の空間や風景の見方。
 全てがシンクロした。

 そして、本当の意味でそのPLAYの価値を理解した気がする。

posted by JIN18 |21:32 | ◎世界蹴球雑記系 | コメント(4) | トラックバック(0)
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メディオ・セントロ“ミスター・ダイレクト”の価値

コメント投稿者ID :

初めて投稿させていただきます。

体格的にもプレースタイル的にも地味な感じを受けていたバケーロが、
なぜバルサの10番だったか理解ができた気がします。

旧ユーゴのチームについてのエントリー含め、今後も更新を楽しみにさせてください。

posted by タカ | 2008-11-19 08:56

メディオ・セントロ“ミスター・ダイレクト”の価値

コメント投稿者ID :

■ タカさん
はじめまして。
ご来訪ありがとうございます。

かなりマニアック+癖のある?文章なのですが、また、訪れて頂けたら幸いです。

横パスやバックパスを出す理由とは、バランスを整えたり落ち着かせたり、或いは詰まったところで別の攻撃の糸口を探すためだと思うし、それは常々理解していることなのですが、クライフのTEAMで何故バケーロが評価されるのか??

それを考えたときに、実はバケーロはすごい空間把握能力を有しているのではないかという推察が脳裏に浮かびました。それを持って上記のようなPLAYを成しているのであれば、そこに無駄など存在しないし、凡庸な選手がバックパス出すのとはちょっと本質的に意味が違うのではないかと思った次第です。

上手く書けてるかは何ともですが。。。

posted by JIN18 | 2008-11-19 21:13

メディオ・セントロ“ミスター・ダイレクト”の価値

コメント投稿者ID :

20代半ばまでの人には分からない内容かもしれませんね。
オレもアメリカW杯のスペイン代表の10番がバケーロなんて知らなかったし、そもそもバケーロなんて知らなかったし。

オシムの秘蔵っ子・鈴木啓太もバックパスが出せる選手です。
今年は奮わないが、昨年・一昨年は効果的なサイドチェンジもしてました。

posted by 赤きN | 2008-11-19 22:54

メディオ・セントロ“ミスター・ダイレクト”の価値

コメント投稿者ID :

■ 赤きNさん
 うーん、そうなのかなー。
 そうなのか。
 新しい記事でも触れたけど、継続してサッカー見続けてると、どうも時の流れをついつい忘れてしまう。

 考えてみれば、当時、バケーロ後釜みたいな感じで成長したペップが役割引き継ぎキャプテンに就いたわけだけど、そのペップも現役引退して、今やパルサの監督だからね。

 アメリカW杯というと今の25、6歳で小学校6年ぐらいですか…。なるほど。

 鈴木K太のバックパスにはほぼ意味がないやろ??なぜそこで下げる的なのばっかぢゃないの??

posted by JIN18 | 2008-11-22 17:13

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