2007年07月30日

馬場プロレスの本陣“私の中の王道記”その第一稿

 
 ジャイアント馬場は強者である。

 その懐は数々の事変に対し、思慮し、考察し、答えを導き出す。どこまでも「慎重穏士」と揶揄(やゆ)されたが、実際は容易に胸中を他者に明かさぬだけで、その心根は深い洞察の持ち主であり、そのリング上の絵巻においても誠に味わい深い空間を有した闘い模様であったのだと思える。

 若き日の私は「幾度と無く挑み、幾度と無く敗れても100回目に勝てば私は甦ってくる」と公言して憚(はばか)らなかった猪木の清さをよりプロレスラーとして好ましいと思っていたが、だからといって馬場自身をひいては馬場プロレスを批難することはまず爪の垢ほども無かったのである。

 かつてそういう私のスタンスに対し、「どっちつかずで下衆(げす)な奴と思われないだろうか?どちらか一方に偏っていた方がより支持を得やすく、考え方を統制し易い」と忠告してくださった方がおられた。どちらか一方に?到底、私には出来ぬ芸当に思えた。

 
 何故、そうであるのか?
 時が80年代、プロレス黄金時代を生んだ頃でも、私は私なりに冷静にブームなる事象を見つめていたはずで、ひとつにはその先年、幼少時からの新日だとか全日だとかに限らず、ある縁故もあって、様々なプロレスラー達のひととなりに触れていたという事実がやはり大きいのではないか?。私はまったく素直に他者からの受け売りでは無い、心の底から焦がれていたのだと思う。幼心にとってはあまりに見上げるほどの大男たち。皆々、月並みな表現だろうが、温かい眼差しと優しき慈愛を手向けてくれる強者であった。だからこそ次第に成長していく私にどちらが正でどちらが悪かなどという発想は生まれがたかった。まして新日派、全日派という考え方は私のプロレスを見るうえでの根底に遂にしっかとは根ざすことは無かったのである。

 しばし、論点を絞るうえにおいてそう、新日派だの全日派だの二極化した言い方、区別した物言いは私は好んで使うのだが、どちらか一方に偏った発想それ自体は諒としない性質だ。

 そんな私でも幼い時分は、やはり猪木の展開するリング絵巻の方が面白く映っていたことは事実だ。シリーズ後も速射砲の如く途切れることなく話題を提供してくる新日本のプロレスは魅惑的でさえあった。

 どこかにまだ霞(かすみ)がかかっていたのかもしれない、と書けば猪木プロレスを否定するようでよろしくない。猪木プロレスをどうこうと語る以前に馬場プロレスの奥の深さを見やるフィルターがただたんに曇っていたということであろう。

 私がリアルタイムでジャイアント馬場のプロレスを見続け、遂におぼろながらもその核心めいたものを感じとった試合とは、あのスタン・ハンセン全日電撃移籍、初シングルでの一戦では無かったか!?

 終始、試合をリードしハンセンに主導権を与えない。最後まで息があがることも無く、その年の東京スポーツ制定・年間最高試合賞に輝いた、まさしく“甦った馬場”と賞賛された一戦である。

 「こんな馬場も居たのか!?」

 新日派の弁士巧みさに押され曇りがちだった私のフィルターが綺麗さっぱり雲散霧消した一戦でもあったと思う。

 無論、結果は初めから決してはいたがあの馬場は見事な域のプロレスをみせたように思う。後年、札幌タッグ戦、壮絶に天龍にフォールされた一戦にも溜め息が漏れた。

 ハンセンに対しては意気地であり、天龍に対しては深さを知らしめたのである。天龍は試合後、「まだなんとも言えない」と感無量の様子であったが、その底では馬場の言い知れぬ懐の深さを見知ったはずである。

 vsハンセン戦のち、私は既に当時、幾度と無く長文の便りをしたためていたあの週刊ファイト元編集長、故・井上義啓氏宛てにまたまた思いの丈を綴った文章をものした。期日経って“おいそが氏”であった氏から私宛に返信が届けられた。そこにはこう、したためてあった。

 「馬場も、まだ死に際は見せんということですね。」

 そうしてまたこうとも書かれておられた。

 「馬場プロレスは“直視”して見たらあかんということですね。“俯瞰(ふかん)”してみて初めてその実態が見えてくる。これに対し猪木プロレスはやはり“直視”して見た方がより判りやすく相応しいと思います。」

 俯瞰して見るプロレス・・・

 氏らしいお言葉の中に、私が見定めてみたい馬場プロレスの根幹が横たわっているように感じた瞬間でもあった。

 私はそんなこんなもあってどちらか一方だけに偏る発想を捨てた。この先もまたそんなスタンスにこの身を置き、覆すまいと固く念じる次第である。

            (敬称略にて・この稿、改めてのちまた)



  

posted by 美城丈二 |01:23 | プロレス、この果て無き浪漫 |
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