2008年06月16日

何やってんだよ、エメルソン

マルシオ・エメルソン・パッソス-。
Jリーグを知るものなら、知らない人間はいないことだろう。
札幌で、川崎で、そして浦和レッズで恐るべきスピードと得点力を見せつけたブラジル人FW。
特に、浦和レッズのサポーターには忘れられない選手であることは間違いない。


札幌時代はJ2で完全に切り裂かれ、得点を量産された。
この年、岡田武史率いる札幌とは4度対戦したものの、1度も勝つことはできず、目の前に立ちはだかるのは決まってエメルソンだった。
憎たらしくて、強い選手だった。
その後、川崎を経て浦和レッズへと移籍。
至宝、小野伸二がフェイエノールトに移籍した直後だけに補強ポイントとしては疑問の残るものだったが(トゥットも活躍していたし)、その卓越した能力には疑いの余地はなく、期待はふくらむものが大いにあった。
しかしながら、案の定独りよがりなプレーを連発。
なかなかチームにもフィットできない状況が続いていたが、03年のセカンドステージあたりから進境が見られ始める。


第1節のジュビロ磐田戦。
この試合は2トップで先発した田中達也とのコンビが爆発。
当時最強クラスの強さを誇っていたジュビロに3-1の快勝。
この頃からエメも周りの選手を信頼し始め、また浦和の選手達もエメという人間を理解して自分にプラスできるような変化が生まれてきた。
田中達也はエメルソンを見てFWとしての姿勢を学んだというし、02年入団の坪井も日々の練習でエメルソンとマッチアップし、日本を代表する快足DFとしての下地を築いていった。


こうした背景には、当時監督だったハンス・オフトの努力もあったのだろう。
合宿での2人部屋では必ず福田正博とペアにさせていたということからも(02年)、彼に掛けた思いが窺い知れるところだ。
そしてこの年、浦和レッズは初のタイトル、ナビスコカップを獲得した。
決勝では頭部から流血をしながらも2ゴールをゲット。
大会MVPこそ田中達也に譲ったものの、予選からの一連の試合をふり返っても、エメルソンの影響がどれほどの効果があったのかは、もはや言うまでもない。
シーズン終了後には見事、Jリーグアウォーズで年間最優秀選手賞を獲得。
年間6位のチームからMVPが出たことからも、エメルソンがいかに抜きんでた選手だったかということが伝わるのではないか。


そして04年にはセカンドステージを優勝。
CSでは目立った活躍は出来ず敗戦したものの、この年のエメは手が付けられない程だった。
リーグ戦では26試合で27得点を決めて得点王を獲得。
加入当初に目立った我儘なプレーには改善が見られ、警告や退場を受ける回数も格段に減ったと思われる。
圧巻だったのはさいたまシティカップでのプレー。
華試合、インテルは飛車格落ちのメンバーではあったものの、欧州の強豪相手に俄然気合の入っているエメは好プレーを連発。
自分で獲得したPKを決めて、それが決勝点に。
アダーニとの乱闘が盛り上がっていたのも印象的。
その後インテルから、8~10億円程度の正式な獲得オファーがあったとも報じられた。
とにかく、この年のエメは凄かったのだ。


この年には、帰化して日本代表入りへ-という話もかなり現実的に語られる。
実際、代理人のテオ氏によれば帰化申請の準備はしていたという。
Number誌のインタビュー、「サヨナラなんて言えないよ」などは読んでいて涙の出るような内容だった。
そんなエメルソンをサポーターは愛していたし、エメルソンもまた、日本を、浦和を愛していたはずだ。


05年、いつものように合宿に遅れてやってくる。
まあいつものことかと思ったが、この年はいかにも身体が重く、昨年までのスーパーなエメルソンの姿からはほど遠いものであった。
そしてJリーグの中断期間に入り、その間家族の病気かなにかで帰国していたエメは、シーズンが再開してもやはり帰ってこない。
もういい加減にしてくれよ…と思っていた頃、ネット上に衝撃的な映像が流れる。


なにやらアラブのような場所で歓迎を受けるエメ。
なにやら契約書のようなものにサインをしているエメ。
なにやらスタジアムのような場所でユニフォームを着てリフティングするエメ。


「ちょwwww何やってんすかwwwwwwエメwwwww」
というような書き込みでネット上は埋め尽くされていた。
私もびっくりした。びっくりした次には絶望感。しかしなんとなく笑ってしまう自分。
サポーターにとっては寝耳に水の話だったが、実はクラブの方は2ヶ月ほどかけて水面下で交渉していたとか。
エメの実力を一番近くで感じていた私たちは、移籍どうこうというよりも、移籍先が年金リーグのような印象の強いカタールだったことに疑問と落胆を覚えたものだった。
「俺たちの選手が、どこまで欧州でやれるのか」
「小野伸二はUEFA杯を優勝した。じゃあエメはどこまでいけるかな」
そう思っていただけに。


そしてカタールに移籍後、年齢詐称、パスポート偽造で逮捕。
同じ年くらいだったエメが、いきなり年上になってしまった。
次にはカタールへの帰化騒動。
日本が大好きで、恩返しがしたい、という気持ちに偽りがあったとは今でも思わないが、あまりにも淡々と出てくるこんな話題に、何やってんだよ…という気持ちを抱いたものだった。
その後、フランスのレンヌへと移籍。
しかしそこでは6試合無得点という、さんさんたる結果で終わり、再びアルサドへ。


そんなはずはない、通用しないわけがない。
私はそう思った。
しかし、エメは何もできずに欧州挑戦を終えてしまったのだ。
思えば、エメは決してメンタル面の強い選手ではなかった。
浦和に移籍してきたときも、信頼するピッタと一緒だったし、インタビューを見ても、彼の荒々しいプレースタイルとは裏腹に、優しい、あまり気の強くない青年という印象を受けた。
そんな彼が、人々の手厚いサポートのない場所で、同じような輝きを見せることは無理だったのかもしれない。
カタールリーグレベル、また当時のJ2なら何とかなるにしても、その上にあるステージでは、彼のもう一つ持つ本来のプレー、要するに独りよがりなプレーが通用するはずもなかったのだ。


最近になって、カタール代表としてプレーしているという話を聞く。
イラク戦の出場で、勝ち点剥奪がどうの、なんていう話も出てきた。
昨年末にサウジアラビアに移籍したマグノアウベスは、いかに日本という土地が恵まれているかを痛感したという。
特に、実際にプレーをするわけではない家族の人間なら尚更だろう。
結局、エメは何を手に入れたのか。
莫大な報酬?カタール国籍?
「エ~メ~!エ~メ~!」
はもう彼の耳に入ることはないだろう。
そのとき彼は何を思うか。


サッカーとは、才能があっても、実力があっても成功するわけではなく…
というよりも、何をもって成功とするのかもよく分からなくなる。
エメを見ていると、本当にそう思う。


だがそれでも、私はエメルソンが好きだ。
だからこそ、もし彼が近くにいたらこう言いたい。
「何やってんだよ、エメ!」
と。

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posted by yassol |21:18 | サッカー | コメント(3) | トラックバック(0)
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何やってんだよ、エメルソン

コメント投稿者ID :

本当にその気持ちわかります。あきれますね
ほんとにカタール代表無理なのかなーー
日本vsカタールという夢の試合はいったいって感じです。

posted by keishi | 2008-06-17 00:54

>>keishiさん

コメント投稿者ID :

ワシントンが凱旋しそうなのが好対照ですね。
そのまま、2人のサッカー選手としてのプロ意識の差なのかなという気がします。

posted by やっくん | 2008-06-17 07:45

何やってんだよ、エメルソン

コメント投稿者ID :

彼のブラジル時代は詳しく知りませんが、、、
(おそらく)あまり裕福とは言えない少年時代を過ごしたであろう彼にとっては、じゅうぶん成功していると言えるのではないでしょうか?

posted by どうかな? | 2008-06-21 08:54

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