陽のあたるところだけがスポーツじゃない。

“競走曲”~ 安藤勇太選手×竹澤健介選手 対談 後編~

このエントリーをはてなブックマークに追加

20070102-23.jpg
人間と言う生物が一回拍を打つのにかかる時間…それがおよそ1秒と言う時間である。
その1秒間が60集ると1分間になる。だから、何だと思うかもしれない。
その中でなにができることがあるのかと思ってもいい。もはや何もできない。
しかし、これを八倍にすると、人間が知覚する「今」という時間の幅ができ上がる。
人は時間の単位を細かく切りきざめるほどに、
人生を悠久のものへと昇華することの出来る生き物だ。
1秒いや、その瞬間を生きる彼らはその刹那にどれほどの練習を費やし、
何をみているのだろうかというのは単純に興味がある。
早稲田大学という同じ場所に身をおき、昨年、5000m日本歴代3位の記録を樹立し、
今年箱根駅伝において華の2区を任されることとなっている竹澤健介選手と、
一輪車の100m・200mの世界記録保持者である安藤勇太選手は、
体育会と個人アスリートというコントラストと、
個人競技という共通項は摩訶不思議なコンチェルトを奏でる。

今回はその後編




安藤:才能って凄く言われるけど、どう思う?
    浅田真央とか出てくると凄い才能だとかいわれるけれど、
    実際そういうのってどう思う?

――才能とは何か?これは安藤がこの対談をするにあたり暖めていた質問である。
   竹澤は言う。走ることが好きで始めたのではない、走ることが速く、
   勝つ喜びがそこにはあった。きっと多くのスポーツ選手同様に、
   竹澤もそんなスポーツが持つ魅力の穴に滑り落ちてしまったのであろう。
   どの学校にも必然的に存在する学校一足の速い子、
   運動会のヒーローはこのようにして走り出した。
   では、才能とは何なのだろうか。
   努力と才能。それはその関係式の答えを探す安藤の心の声のようにも感じだ。

竹澤:なかったって言ったら、嘘になると思う。誰でもそうじゃん。
    才能のない選手が出てくることなんてまずない。

安藤:じゃあ才能ってあるものなのかな?

竹澤:俺はあると思うよ。

安藤:大学入る時ってさ、あんまり騒がれなかったよね

竹澤:うん。

安藤:入ってから才能が開花したって色々書かれてさ、でも才能が開花したってさ、
    どこが開いたのかはわからないよね。

竹澤:それはあるよね。才能って何なのかはわからない。
    ただ言える事は、日本人よりも身体能力が優れている奴はいくらでもいるし。
    でも才能でやっぱ勝てない競技もあるよね。正直言って。

安藤:でも才能だけじゃ勝てないでしょ。

竹澤:才能だけじゃ勝てない。才能がある奴が努力するから勝てないよね。
    極みまでいくと才能でしょ。

安藤:でも、才能の差で決まっちゃうんだったら、やっている意味がわからなくなっちゃう。

竹澤:でも極みまでいくと才能だよね。努力で何とかなる?
    それに応じた才能を持って生まれたとしか言いようがない。

安藤:才能って何。俺の考えでは、才能っていうのは後付けに過ぎない気がする。

竹澤:才能ってモノを大きく見ればいいと思う。
    才能っていうものの本質だけみれば、陸上だったらケニア人、
    黒人のほうが絶対強いわけじゃん。
    でも、才能ってモノの中に自分がやってきた努力とかを入れた中で、
    それを「才能」って呼んであげればいいのかなって思う。
    だから、「才能」って言葉の捉え方を変えるしかないよね。
    才能ってものだけを見ちゃえば、勝てない競技も勿論あると思うよ。
    身体能力も違うし。でも、そこを突き詰めていくから面白い。

――筋肉の質も才能だし、努力できることも才能だし…?

竹澤:色んな才能が集ったから、それが「才能」なんですよ。

安藤:八百万の神みたいな(笑)全部が集っている奴が上に行くんだろうね。

竹澤:才能だけで、考えたらさ、日本人なって本当大したことない。何もないと思うよ。

安藤:元々スポーツをしてきた文化があるわけじゃないからね。勤勉ってだけ…。

竹澤:気質だけでしょ。才能を持って生まれても、それに気付かずに過ごしていく人もいるし、
    気付けたことも「才能」だと思う。だから、
    身体能力ってことだけを才能って捉えてしまうと、辛いよね。日本人には。

――日本では、才能=センスみたいな捉えられるからね。

竹澤:センスって言う部分も、色んな部分が踏まえられている。くくれない。
    どの程度捉えられているのかもわからない。
    けど、才能だけで片付けちゃダメだと思う。
    勿論身体能力的に無理な人間もいることは事実だし、
    今までもそういう人間を見てきたし。頭ではわかっている。

安藤:色んなことを含めちゃえば、ある意味身体障害者は
    100mの世界記録を争うことは不可能じゃん。
    片方足がなかったら。それも一つの「才能」ってことになる。

竹澤:もしもその人が、パラリンピックで優勝したら、もしも足があったらさ、
    パラリンピックでは優勝できない。
    でも、その人は(足)ないってことで優勝すれば、それは凄いこと。
    だから、何が才能かってわからないよね。
    持って生まれたものが全てだから。自分って言う人間が生まれたこと自体が。
    後は自分で後付でしょ。俺らは自分がやれば上達する場所に乗っかっていけたっていう。
    その中の一人だと思うよ。
    もし野球選手が陸上やっていたら、陸上で強くなったかもしれないし。
    俺らはそこには乗らなかった。俺らはそういったところは恵まれた人間なのだと思うよ。

安藤:やっぱ色んなもんが合致しているよね、そこには運とかもあるし。

竹澤:勿論、早稲田に入れたって言うのは俺の場合は運だしね。運も実力の内だし。

安藤:運があっても掴んでいない人間もいるし。

竹澤:それは俺らのこれから次第ってこと。今までの結果は、今のところ報われた部分。

安藤:さらに上に行くのは、今まで以上に宝くじの倍率が上がっていくのと同じように、
    さらに難しくなっているからね。
    そんな時に、恐らく陸上のことしか考えてなくて、陸上だけやっていたら、
    限界が来るのかなって思う。

竹澤:自分の能力を引き出せないまま、終わるような気がするから。
    だからこそ、色んなもんを得たい。

安藤:でも、やっぱ色んな人の出会いに楽しみを感じたり、
    成長していることを聞くと、人間力っていうか、
    色んなことを身に付けていけば、もっと競技でも変わっていくのかな?

竹澤:それはあるかも。

安藤:ってかそっちがないともう陸上としては変わっていかない、そこまでいくと。

竹沢:何か見つけなくちゃいけないかもしれない。このままじゃ、このままだよ。
    いくとこまである程度いったし。これから伸びていくのは難しいし。伸びていけるとも思う。

安藤:自信はあるんだ?

竹澤:延びていけないんだったら、辞めているし。

――何気なく出てきた「辞める」という言葉を安藤はどう受け止めたのであろうか。
   私自信がはっとしたのは言うまでもない。
   現在竹澤は、陸上で大学に入り、体育会に所属し、陸上部の寮に住み、
   まさに陸上を中に生活を送っている。
   近い将来竹澤が陸上で実業団に入るのであれば、
   それは仕事であり、拘束力があるはずだ。いや、今でさえそうかもしれない。
   作年解散したシダックスを筆頭に社会人野球や
   実業団における選手のキャリアは、会社が決めることが多い。
   その一方で、安藤は個人アスリートだ。
   仮に安藤という世界王者が自らのキャリアを閉じることに関して、
   社会的な拘束力はそれほど多くない気がする。
   もしかしたら、安藤は常にそういった自問自答の中で、
   キャリアの綱渡りをしてきたのかもしれない。
   それに気が付かなかったのは日本のスポーツの多くが
   不文律やしがらみの中で成立しているからだろう。
   そしてそれに呼応するような竹澤の最後の一言は、
   当たり前のことが当たり前でないスポーツ界、
   いや日本の社会に投げかけるものが確かにあった気がした。

安藤:そこで見切りつけちゃったら、終わっちゃうね。

竹澤:もうダメ!だと思ったら、俺辞めるよ。だから面白いんだろうね。

安藤:辞める時ってその見切りが付いた時なのかな?

竹澤:自分がどうするかは、その時に自分が決めると思う。

安藤:今は辞めた時のことは考えない?

竹澤:今は、普通に就職しないといけないって一番に考えている。
    もし、自分がこれ以上できると思うかもしれないし、
    本当に続けたいと思うかもしれないけれど。
    その時にならないとわからないじゃん。
    でも、流れとして就職ってものが必ずあるし、それに向かっての準備はしないといけない。

安藤:教員免許の取得とかってこと?

竹澤:そういうことはしないといけないと思う。陸上だけじゃ生きてはいけないし。

安藤:不安に思う部分はあるの?

竹澤:思うね。伸びると思ってやるだろうけど、もしかしたら伸びなくなるかもしれないし。
    足が動かなくなるかもしれない。その不安は常にある。
    今でも結果が出なかったらって凄く不安でもあるし。でも、その分勝ったときは嬉しい。
    わかんないよね、どうすればいいか。俺はこう思うとしか言えないよね。
    それが正しいの?って言われたらわかんない。

安藤:違うと思うんだったら、それでいいし、どっちが正しいじゃないからね。

竹澤:正しいものを探しているわけじゃないから。
    本質的に、やり始めたきっかけとかを大切にしたい。
    嫌なのだったら、辞めればいいって思っている。
    人には惑わされたくないし、自分のやることは自分で決めるし、
    やるべきことは自分でやる。

安藤:仕事じゃないしね。

竹澤:だって、一回しかないんだよ?人生って。自分が正しいと思うことをやるしかないでしょ。
    それで人のせいにするんであれば、それほど悲しいことはないでしょ。

安藤:しかも、やらなくてもいいスポーツだからね。それをやれ!って言われたらね。

竹澤:好きでやっているのに、嫌いになったらそんな悲しいことはないよね。
    好きでありたいよ。好きでやっているうちがいいよ。

安藤:そこで見切りが出来ないとダメだよね。

竹澤:それも立場で変わるかな。奥さんが出来たらそんなこともいっていられないし。

安藤:準備が出来ていなかったら、それがなくなったら何にもなくなっちゃうとかね。
    それに縋るしかないしね。

竹澤:早稲田って言う大学はセカンドキャリアもある。

安藤:そういう準備があるからこそ、結果を出せていける部分もあるよね。
    …世間はさ、中田やイアンソープが引退するって驚くけどさ、
    それだけ色んなことを考えていて、
    その競技が飽きたらほかのことをやろうって言う準備ができているだけ。

竹澤:準備ができているんだと思う。

安藤:だから、下手にこのまま中田とかソープが続けても、
    彼らにとっては意味がないだろうなっていう。

竹澤:それは、何でもそうだけど、自分がこれで終わりって思ったときに終わりなんだよ。
    自分が決めるでしょ。最後は。人中心(の人生)だと全然面白くないよね。



20070102-17.jpg
竹澤健介選手
兵庫県姫路市出身
一年生にして箱根駅伝で
“華の2区”を任される
渡辺康幸(現早大監督)
以来の快挙を成し遂げる。
日本代表。
夏には5000m13分22秒36という
日本歴代3位の記録を樹立した
早稲田のエースである。


20070102-08.jpg
安藤勇太選手
愛知県名古屋市出身
小学校1年で一輪車を始め、
日本はもとより世界で活躍する
ユニサイクリスト。
フランスの一輪車メーカーKOXX ONEが
世界各国の選手を集めて結成した
"TEAM KOXX ONE"の一員として活動する一方、
日本の選手をまとめ、
一輪車界全体の発展にも尽力している。
06年8月にスイスで行われた世界大会で
100mと1500m部門で優勝。
05年に100m11秒69の世界記録を樹立した。
公式HP http://yuta-ando.com/






1ページ中1ページ目を表示中

記事カテゴリ:
インタビュー
タグ:

【お知らせ】
Yahoo! JAPAN IDで記事にコメントできるようになりました

このブログの最近の記事記事一覧

この記事へのコメントコメント一覧

この記事にはまだコメントがありません

こんな記事も読みたい

ブロガープロフィール

profile-iconyamagiwaboy1012

篠 雄也
1985年生まれ。英国在住。
スポーツ科学部を卒業後、
ジャーナリズムを学ぶために、09年9月より英国留学中。

スポーツの未来を考えながら、ノンフィクション・ドキュメンタリー制作に日々挑戦する。
  • 昨日のページビュー:4
  • 累計のページビュー:212599

(05月06日現在)

ブログトップへ

このブログの記事ランキング

  1. 芝生化運動 グリーンスポーツ鳥取 ニール・スミスさんインタビュー
  2. サッカーインカレ決勝 【大学サッカーを盛り上げろ】これを見ればばっちり予習。
  3. さよならカットマン
  4. 新関東フットボールリーグ第二節試合情報
  5. その男凶暴につき
  6. 新関東フットボールリーグ1部は立教が優勝!!+最終結果
  7. 3,2,1のカウントダウン
  8. 新関東フットボールリーグ1部第六節【追記あり】
  9. 何が空気をきれいにするか知っていますか?
  10. “競走曲”~ 安藤勇太選手×竹澤健介選手 対談 後編~

月別アーカイブ

2010
05
02
2009
12
11
10
09
08
2008
12
11
07
02
01
2007
12
11
10
09
08
07
06
04
03
02
01
2006
12
11
10
09
08
07
06
05
03
02
2005
08
07

このブログを検索

スポーツナビ+

アクセスランキング2017年05月06日更新

アクセスランキング一覧を見る

お知らせ

rss