2008年12月04日

芝生化運動 グリーンスポーツ鳥取 ニール・スミスさんインタビュー

NPOグリーンスポーツ鳥取 
ニール・スミスさん インタビュー

スポーツは何の為にあるのだろうか? 

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『例えば、芝生と言う言葉を誰かに説明するとして、あなたは何と説明しますか。』 あれはまだ暑い、夏のことだ。泥にまみれることが美徳とされる日本において、その象徴とも言える夏の甲子園決勝、その前日、砂丘で有名な鳥取の町に僕はいた。 この質問の答えを見るためにいた。 そこには例え、どんな風にスポーツがなろうとも、絶対に忘れてはならないものがあった。 *報道ステーションで放送されて以来、興味を持っている方がいらっしゃるようので、 取材したものの、公開していなかったこの文章を掲載します。 blogとしては長いと思いますが、芝生化・鳥取方式に興味のある方はご覧になってください。 キーワード:ニール・スミス ニュージーランド人 鳥取方式 校庭 芝生化運動 報道ステーション neil smith


日本の砂漠、それが校庭。
そう言われて、校庭で育ってきた僕は少なからずショックを受けた。確かに、何故校庭はわざわざ土にするものが多いのだろうか。そう教えてくれたのは、NPO(特定非営利活動法人)グリーンスポーツ鳥取(以下GST)代表として芝生化を進めているニール・スミスさんだ。ニュージーランドで生まれ育ち、今年で53歳になる。トラックの運転手から証券会社まで様々な仕事についた後、辿り着いた国、日本。何故、この国で芝生化活動するのか。話を聞いてみた。
『1974年に初来日した時以来、日本の校庭や運動場(グラウンド)が土であることに違和感を得て生活をしていました。土のグラウンドが1カ所もないニュージーランドで育った人間にとって、固くて転んだら出血する日本の校庭やグラウンドが日本の子供達から外で思いっきり良く走り回り、安心して遊ぶ権利を奪っているように見えてしょうがなかったんです。1998年に妻のふるさと、鳥取に来て生活基盤が落ち着いたら、色々な出来事や出会いを通じて、2004年から今の芝生化運動を何となくという感じで始めることになりました。最初は自分がまだ健在なうちに気持ちよく芝生の上でラグビーが出来る地元クラブを作りたいということがきっかけでグリーンフィールドを整備し、またも何となくその延長線上で校庭や空き地を芝生にする運動を起こすようになりました。』

人を巻き込む力。
目をつけたのは湖山池の脇にあるここは県有の牧草地だった。鳥取県総合管財課の石賀さん曰く『湖畔の景観を保全する理由で辺り一体を牧草地にしていた場所でした。』一方、ニールさんに言わせれば、『芝生も牧草も景観を保全するなら代わりはない。』ただ、そこにはもう一つ問題があった。県の条例第3編第5章第1節第4条の2『(行政財産である土地の無償貸付け又は減額貸付け等)第4条の2 行政財産である土地は、他の地方公共団体その他公共団体において公用又は公共用に供するときは、これを無償若しくは時価よりも低い価額で貸し付け、又はこれに地上権を設定することができる。ただし、当該貸付け又は地上権の設定に係る期間が1年を超えない場合(当該期間が通算して1年を超えることとなる更新を行う場合を除く。)に限る。(昭51条例36・追加、平14条例60・一部改正)』
ニールさん曰く『この法律ができたのは、1951年。その時にNPOという概念はなかったはずである。』そこで、NPOの公益性を訴えた。それに対して当時の片山善博鳥取県知事が応えた。石賀さん曰く『公共性の高い団体への開放と共にどの団体にもまずは1年間という時間的制約がついたという面はある。しかし、NPOと地域、自治体がいかにパートナーシップをとっていくかという時代の中で、そのきっかけの一つではあったと思います。』かくして、土地を借りたニールさんはまず耕すことから始めた。トラクターで土を掘り返し、石を拾う。最初は一人で行っていたが、一日中石を拾い続けるニールさんの姿を見て、手伝わなければと住民が腰を上げた。今では、活動を共にしている湖西自治会の方々だ。そして種ではなく、あらかじめポットで育てた苗を植えた。1年で同じ場所とは見まがうほどの綺麗な芝生が出来上がった。現在は、個人会員と賛助会員の会費で賄われている。まさにクラブだ。clubには動詞で「会費を払う」という意味がある。しかしながら、ニールさんの人を巻き込む力は凄い。ニールさんたちが中心となって作られた市街地にある弥生公園は、今は近くにある薬屋の主人が芝生を刈っているという。
『個人的にはまちづくりの理想のモデルだと思っています。』これは市民の要望を元に、グリーンフィールドにトイレを設置した「市民協働型トイレ棟設置事業」に携わった鳥取市企画推進部協働推進課の若田かおりさんの言葉。
『強引なところもありますが、人を巻き込むこと、交渉力が凄い。』これは彼とずっと面と向かい合いながら、県との間を取り持っている石賀さんの話だ。
多くの仲間とつながれる人間は一番強い。
『みんなで使い管理したい。街をよくするのは行政ではなく住民だという認識を持つきっかけになれば。』これがGSTの理念のひとつである。だから、グリーンフィールドにはあまり規制を設けず、自分たちの常識と話し合いで活用してもらっているという。

鳥取方式。
東京都は本年度から向こう10年で、都内に約2000校ある公立小中学校のすべてで校庭を芝生にするとしている。また、Jリーグ百年構想でも校庭の芝生化を掲げ、芝生化は主流となりつつある。その中でGSTから今いくつかのスポーツ団体で広まっている鳥取方式という言葉。ちなみにもう1つ有名なものでは、宮城県の塩釜FCで展開されている方法の『塩釜方式』がある。これらは今後、日本の芝生化にあたってのキーワードになるのではないか。では鳥取方式とは一体なんだろう。僕の探していた答えはここにあった。
『芝は英語でグラスといいます。それは草という意味です。芝生は芝や草(雑草)など種類を問わず、それらを刈り続けることでできた絨毯のような形状です。だから、芝生は自動車という言葉と一緒であると考えてください。自動車にはロールスロイスのような高級車から、中古の軽自動車という風にピンからキリまであります。でも日本人が芝生と考えているのは高級車ばかり。それで芝生化は「高い」と考えられている。では、運転免許を取ったばかりの子どもに高級車は必要ですか。『鳥取方式』というのは、方法ではなく概念です。日本にある芝生に対する固定概念を崩すことです。芝生は様々なランクがあって、芝生化は懐具合にあった形で進められます。今、僕は一年間、1平方メートル20円以下で芝生を管理しようとしているんです。』
今では、まちの小学校や幼稚園から、公園のグラウンドだけでなく、京都大学のラグビー場と鳥取に限らず様々な場所に普及している。

世界を見上げるのではなく、日本という足元を見てみる。
何故芝生にこだわるのか。それはニールさんの日本のスポーツへ対する意見の中にある。
その指摘は鋭い。それは日本以外の現状を知っているからなのか、日本人よりも一歩引いた目線を持っている見ることができるからなのだろうか。もっとも、僕ら地球人は足元を見るのが下手なのかもしれない。「地球は青かった」という言葉で知られているガガーリンは1961年、その足元を見るために月にまで行ったのだ。耳を傾けてみよう。
『「運動」という言葉を広辞苑で引くと「体育・保健や楽しみのために身体を動かすこと」となっています。まずは特定な目的を達成するためにやるものであるとの認識が日本語に存在します。では、英語で運動に当る sport という単語の意味はどうでしょう。オックスフォード辞典でまずでてくるのは pleasant pastime です。日本語に訳すと「楽しく時間を過ごすこと」という意味です。日本語の運動に含められているような目的意識が存在しないのです。部活を支えているのは言葉に表されるこの考え方です。また、日本は、ナショナルチームを強くすることを目標に、少人数制の強化プログラムを組んで選手を育てています。しかし、強くなることは目標なのか結果なのか、大きな違いがあります。私は強い選手が育つのは結果であると思います。それは何の結果かというと、スポーツをすることを楽しいと感じ、大勢の人たちがスポーツをした結果です。そこから強い人間が必然的に生まれてくる。』

結果ではなく、中身が大事
ニールさんは課題として、①過度の練習、②季節感の欠如、③合わない環境での練習や試合を挙げている。また、それは昨年、ハンカチ王子こと現・早稲田大学の斎藤投手や楽天の田中選手などが参加した日米親善高等野球大会に関してこう話す。
『確かに五分五分の成績だったのですが、実態はどうでしょうか。何でもそうですが、スポーツも中身が大事だと思います。その結果を出すためには日本の選手のほとんどがリトルリーグに入り、中学校高校での部活を経験しています。その間、ほかのスポーツや趣味、家族との時間、野球以外の友達との時間、身体までも犠牲にしてきている訳です。俗に言う「青春=野球」の世界です。対戦したアメリカの青年達はどうでしょう。野球はあくまでも夏の6、7ヶ月間しかやっていなくて、それも週1、2回の短い練習です。それ以外の時間で豊かな青春時代を過ごしています。中には通っている学校のバスケット代表になったり、アメフトの代表になったり、テニス、サッカーなどほかのスポーツで楽しんでいたり、ガールフレンドや友達と遊ぶ時間を堪能したり、全く別な趣味を持ったり、いわゆるバランスの取れた生活をしています。それでプロ選手より多くの練習をする日本と同じレベルの野球が出来るようになっています。問題は短期的な結果を求めるかそれとも内容の濃い楽しい人生を子ども達に提供するかです。貴方なら自分の子供にどんな生活や青春を送ってほしいですか。
季節感がないというのはもう一つ問題があります。日本体育協会のホームページに掲載されているガイドラインによりますと、気温が27℃、湿度が70%以上では「特別の場合以外、運動を中止する」とあります。ここ25-6年間で135人の小中高校生が熱中症で死亡していて、6-9月での死亡が全体の95%を占めていただけではなく、1件を除いて、全てがこのガイドラインを超えている条件で起きたそうです。体育協会に所属している指導者が自分達の協会の出しているガイドラインを無視した結果、134人もの子供達の命が奪われた訳です。どうしてそのガイドラインを無視したか、子供が死んでいるのを知っていて,どうして指導方法を改善しない。「伝統だから」では納得できません、子供と殺すのは日本の伝統ではないはずです。』
大リーグ、N.Y.ヤンキースのA・ロドリゲスは言います。
『余り若い頃には野球ばかりに集中しない方が良いと思う。色々なスポーツをやってみて、楽しんで、自分自身の運動能力を最大限引き出すべき。』
『シーズンが10カ月半に及ぶのは長すぎる。テニスを知らない人は選手がクレージーだと思うでしょうね。』これはプロテニス選手のマリア・シャラポアの言葉。
ニールさんは言う。
「ビジネスだったら、何度も挑戦してもダメならば、やり方が間違っていることになる。」
結果として、世界との壁を感じるたびに何とかその理由を探し出そうする我々は、『世界基準』と比べて、そのやり方が間違っていることに気がつくべき時なのかもしれない。

誰がためにスポーツはある。
芝生化を反対する理由の中に維持管理にお金と手間がかかるというのがある。また、芝生の短所は土と違って傷むことだ。しかし、それは芝生が衝撃を吸収しているということである。土のグラウンドでは子どもが傷むが、そのかわりに芝生が傷んでくれる。それはメリットではなかろうか。では前述の理由は誰の視点だったか。
ニールさんの目はいつだって子どもに向けられている。
『何故、芝生なのか。最近は、芝生化は地球温暖化防止といわれます。私はそれをあまり否定はしませんが、もっと単純な理由があります。それはスポーツが楽しい、体を動かすことが楽しいと思ってもらいたいからです。気持ちがいい環境を提供すれば、子どもたちは言われなくても体を動かします。芝生で一番いいのは転んでも痛くないところです。ふかふかしていて転ぶのが怖くない。これがスポーツではどうなるか。柔道と畳はセットであるように、ラグビーも芝生とセットです。では、コンクリートの上で柔道は出来ますか?答えはYESです。でも、怪我をします。それでは誰もやりたがりません。怪我をしないように練習が単調になります。誰も積極的にはいかないでしょう。それでは世界との差は広がっていくばかりかもしれません。けど、僕にしてみれば土の上でサッカーやラグビーをすることはコンクリートの上で柔道するくらいおかしいと思っています。』

“たかが”芝生。
僕はその日、一日中ニールさんの手がけた場所を見せてもらっていた。幼稚園や小学校の校庭から、この夏、世界陸上に出場したジャマイカ選手がキャンプで利用したトラック&フィールドまで様々なランクの芝生だ。スプリンクラーがついたり、埋まっていたりするもの、ビッグロールと呼ばれる既に完成した芝生のカーペットを貼る方法のもの、まだ半分だけ芝生になっているグラウンド、ただ雑草を刈り込むだけでやわらかい芝生のようになった河川敷など様々だ。全部、裸足で入らせてもらったが、芝生にも色々あることを体験した。でも、その匂い、手触り、そのどれもが人工芝では味わえないものだった。その中でも印象的だったのが、ある学校を訪れた時のニールさんの言葉だ。
『何でここの芝生がはげているかわかりますか?』そう言うとニールさんは芝のはげている場所を指差します。例えば、それは鉄棒の下や、サッカーのコーナーキックの場所だ。
『ここは人が良く通る道やよく使う場所だからです。でもそれでいいのです。はげているなら、別の場所で遊べばいい。大事なのは芝生ではなく、芝生があることなのです。』
事実、ニールさんもグリーンフィールドでお祭りをする時には芝生が駐車スペースに早代わりする。完璧とも言えるほど綺麗に整った競技場のグラウンドばかりを見て、身近に芝生があったとしても、そこには入らないようにと教えられてきた僕にとっては衝撃だった。ニールさんは言います。
『この活動をやっていると、夢は何ですか、とよく聞かれます。夢は全国の1億3000万人の人間が「傷む?別にいいよ、たかが芝生。どうってことないよ」と、ごく自然にその認識を持つようになった日に、GSTをたたむことです。』



限られた土地の中でわれ先にと、上へ上へと伸びようとする。影に入るのはイヤだ。
だから、健やかにというよりは、貪欲、強欲に草は伸びる。陽の光を得るためだ。
でも、足元が緩んでいては上へと伸びることはできない。
そんな時、草は、その茎は、かたくなる。ぎゅっとかたくなる。生きているからだ。
ニールさんが芝生の管理で一番大切にしていることはなによりもまず芝生を刈り込み、その形状を維持することである。刈り続けることで、まんべんなく陽が当たれば、かたくなってしまうことはない。草は横へ伸び、絡み合い、根付き、ふかふかの絨毯は出来上がる。
その上を子どもが走る。嬉しそうに走る。すると、土の上で走るよりもタイムが縮まる。それは転ぶことを恐れないことで、自然と走るストライドが大きくなるからだという。
僕はこの日、いい顔をしている人たちにたくさん出会った。人は正しいことをしている時に、モラール(仕事のやる気)が高まるというのは企業だけに当てはまることではないようだ。
もっとも、正しいことを貫くには力が必要だ。
それは権力ではない。暗い場所を一人で歩いたとしても恐れない精神力である。
転ぶことを恐れず、転んだとしても、立ち上がり、粘り強く交渉する。そうすることで、人を巻き込む。ネットワークは見えないところで、根を張っている。芝生の国で生まれ育ったからなのかはわからないが、ニールさんはそんな“芝生の匂いのする男”だ。
日本が芝生の匂いのする国になったら、その時はきっと何かが変わっている気がしている。


最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。

取材・編集 篠雄也 2007年11月26日
取材協力:NPOグリーンスポーツ鳥取代表 ニール・スミスさん、鳥取県総合管財課 石賀仁志さん、鳥取市企画推進部協働推進課 若田かおりさん
参考資料:グリーンスポーツ鳥取 HP: http://www.greensportstottori.org/lawn/
芝生化奮闘記 :http://plaza.rakuten.co.jp/playgrounds/diary/
とりねっと/鳥取県公式HP:http://www.pref.tottori.lg.jp/dd.aspx
塩釜FC HP:http://www5b.biglobe.ne.jp/~shiogama/
第13回スポーツ少年団指導者全国研究大会 
講演「日本におけるジュニアスポーツについて」資料
財団法人日本体育協会HP:http://www.japan-sports.or.jp/index.asp
Jリーグ公式HP:http://www.j-league.or.jp/
東京都環境局HP;http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/
朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞の記事データーベース

posted by yamagiwaboy1012 |17:43 | インタビュー | コメント(1) | トラックバック(3)
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芝生化運動 グリーンスポーツ鳥取 ニール・スミスさんインタビュー

コメント投稿者ID :

私も芝生化を応援しています!!
ぜひ頑張ってください!!

posted by 柴布王縁 | 2009-09-11 00:01

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