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オリンピックスタジアムでプロポーズ:ウィル・クレイ(三段跳び)

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 8月16日午前中に気持ちがほっこりすることがあった。  男子三段跳びのウィル・クレイ(米国)は17m76の自己ベストで銀メダルを決めると、スタンドで試合を見守っていた家族とガールフレンドの元に駆け込んだ。彼女にハグをし、キスした後、クレイは持っていた指輪を手渡し、彼女に「結婚してくれませんか?」とプロポーズ。突然のことに彼女はびっくりし、その後、泣きながら「イエス」と返事をした。

 これだけも充分に素敵な話なのだけど、クレイの行動には隠された裏話がある。

 クレイの彼女の名前はクイーン・ハリソン。米国の100mハードルと400mハードルの選手だ。自己ベストはそれぞれ12秒43と54秒55と世界トップレベルの選手だ。ハリソンは北京五輪とテグ世界陸上は400mハードルで、モスクワ世界陸上には100mハードルに出場し5位になっている。  「二人でリオに行こう」と頑張ってきたが、ハリソンは全米五輪選考会で4位に終わり、代表入りできなかった。米国女子の100mハードルの決勝は五輪や世界陸上の決勝よりもレベルが高い。ロンドンDLで世界記録を出したケニー・ハリソンも選考会で6位になり涙を飲んだ。   「指輪はずっと前に買ってあって、いつにしようかなと考えていたんだけど、今朝目が覚めた時に『試合が終わったらプロポーズしよう』って決めた」  リオまで応援にきてくれたハリソンへの感謝と愛情はもちろんだが、代表入りできなかったハリソンへの気遣いもあった。  男子三段跳びの試合のすぐ後の種目が、女子100mハードルだったからだ。 「彼女が出るはずだった試合だったから、すごくつらいと思ったんだ。代表に入れなくて、ものすごくつらかったと思う。僕もその痛みを分かち合いたい、そして痛みを和らげてあげたい、そう思ったんだ」  教会で結婚する際に牧師がカップルにこう語りかけるのを聞いたことがあるだろう。 「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻/夫を想い、妻/夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?(Wikipedia参照)」  クレイはここまで支えてくれたハリソンに感謝し、今度は彼女の痛みに寄り添ったのだと思う。

 ハリソンは目標にしていたリオ五輪に出場できず落胆も大きかったはずだ。憧れの舞台で輝いている姿をスタンドで見るのは心がチクチクくるものもあったと思う。でも金メダルを目指して戦うクレイの前ではそんな表情を見せなかったという。それどころかツイッターで米国代表の選手たちを応援するコメントをたくさん載せている。傷心の立場でなかなか出来ることではない。    何年か前のダイヤモンドリーグの試合の際に、選手村ホテルのロビーで選手と話していた時のことだった。ハリソンが大きな袋と、包装紙とリボン、セロテープを椅子に広げて買ってきたばかりのプレゼントを包装し始めた。とても焦っていて、それでうまく包むことができなくて、より焦りが募っていて、それがなぜか可愛く見えた。  それからわずかな時間が経った後、クレイがスーツケースを引きながらホテルに現れると、ハリソンは子犬のように飛びついてハグをした。  周りの選手やお客さんも思わず笑顔になったのをよく覚えている。 「お誕生日おめでとう」  そう言ってハリソンはクレイにプレゼントを手渡した。  周囲の人は皆、「あーーーー、だから焦ってたのか!」と全てに合点が言って、目配せしたり、笑ったりしていた。  二人は練習拠点がカリフォルニアとアリゾナに分かれているため、1年のうちでも会えるのはごくわずかだ。同じレースに出る時にはとてもうれしそうな二人を何度かみかけた。寂しい気持ちになることもあるだろう。でもすべては「五輪のため」とお互いに励ましあいながら、ここまで歩んできた。特にクレイはロンドン後に怪我の連続で満足に跳躍できない年が続いた。それを支えたのはハリソンだった。

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及川彩子(オイカワアヤコ):NY在住ライター。オリンピックスポーツ、野球、サッカー、女子ゴルフなどを取材。雑誌、新聞、ウェブサイトなどに執筆。「月刊陸上」、「スポナビ」、「Number」、「スポルティーバ」、「サッカーダイジェスト」などに寄稿。NYシティマラソンの伴走者を描いた作品で2006年度さいたま市スポーツ文学賞大賞受賞。
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