2009年02月28日
1988年オリンピック開催を目指していた名古屋、そして、その20年後、2008年オリンピック開催を目指していた大阪。それぞれ、奇しくもソウル、北京という同じ東アジアのライバルたちに敗れ去り、オリンピック開催の夢は消えました。そして、その後、名古屋は愛知万博の開催に向かい、また、大阪は、東アジア競技大会、柔道や陸上競技の世界選手権の開催に向かうことになります。
名古屋と大阪は、何故敗れたのか?。
1981年のIOC、国際オリンピック委員会の総会で、ソウルと最後まで争った名古屋でしたが、当時のサマランチ会長が読み上げた都市名は、「ソウル」。固唾をのんで見守って「名古屋」という名が読み上げられることを期待していた私は、ひどく落胆したことを覚えています。2001年のIOC総会では、大阪は1回目の投票で惨敗しました。後に、1回目の投票で獲得した票数以上の国のIOCメンバーが、“大阪に投票したのに残念だった”、と発言したことで、大阪市民でなくとも困惑する珍事も発生しています。名古屋の場合は、愛知、岐阜、三重の東海3県の広域開催を計画の柱としていたようですが、招致失敗の最大の要因は、市民の関心が低かったことだと、当時のマスコミ報道は伝えています。また、IOCが重要視している開催国政府の保証(ガバメント・ギャランティー)に関しても、過去の東京や札幌と比べて、些か鈍かったようにも伝えられています。そして、大阪市の招致活動は、IOC総会の投票結果にも表れているように、期待したこととは全く逆の結果に終わっており、53億円と言われている招致費用を費やしたことに対する批判が相次ぎ、その後の大阪市の財政運営にも大きな負担を与えたと言われました。あまりの得票数の少なさを考えると、立候補ファイルに込められた計画そのものに欠陥があったのか、はたまたロビー活動の失敗だったのか、その原因を追究することすらナンセンスに思えるような結果でした。
大阪市の招致活動に関しては、今回の2016年と同様に、立候補ファイル提出後のIOC評価委員会による立候補都市の視察機会が設けられており、その時の資料を読み返してみると、その4日間の視察の状況がよく分かります。4日間の内容は、基本的に、午前中は立候補ファイルに基づいた各テーマ毎にその詳細を討議するワーキングセッションが行われ、午後は実際に競技会場候補施設などの現場視察に費やされたようです。スケジュールは、4日間の間、ほぼ目一杯の状況で、特に、ワーキングセッションでは、かなり専門的な、また、かなり詳細な内容に質問が多数出され、相当の時間を質疑応答に費やした、ということです。立候補ファイルに記述されている内容と、現実の発言内容に食い違いなどあろうものなら、それは質問の集中砲火を浴びせられる結果となったようなのです。大阪市の招致委員会としては、用意周到に準備をしていたと、この時の報告書では語られていますが、特に財政やマーケティングに関しては、突っ込んだ質問が相次いだようで、その後の議事進行を押してしまい、半分程度の内容は、その説明時間を短縮して行わなければならなかった、ということでした。IOC評価委員会による開催都市の視察は、想像以上に内容の濃い、実践的な内容である、ということなのです。
ちなみに、招致委員会の役員やJOCの役員の他、大阪市長を始めとした大阪市の局長クラスの職員、各企業のトップ、大学教授などの蒼々たるメンバーが出席して行われたワーキングセッションのスケジュールは、下記のようなものでした。
<第1日目>
・テーマ1(国、地域および候補都市の特徴)
・テーマ7(全体的な競技のコンセプト)
<第2日目>
・テーマ4(環境保護および気象)
・テーマ5(財政)
・テーマ6(マーケティング)
・テーマ10(オリンピック村)
※予定していた「宿泊施設」「輸送」は翌日に繰越し
<第3日目>
・テーマ13(宿泊施設)
・テーマ14(輸送)
・テーマ2(法的側面)
・テーマ3(通関および入国手続き)
・テーマ9(パラリンピック競技大会)
<第4日目>
・テーマ11(医療/保健サービス)
・テーマ12(セキュリティ)
・テーマ15(テクノロジー)
・テーマ16(コミュニケーションおよびメディアサービス)
・テーマ17(オリンピズムと文化)
こうして内容を見てみると、今回の立候補ファイルの内容とほぼ同じ要素が網羅されており、また、第2日目の財政やマーケティングに、特に目が向くことも想像できます。現実的には、机上プランで終わらない堅実な財政計画と、それを支えるマーケティング計画の精度が、IOCの注目ポイントであることは、今回も変わらないのではないでしょうか?。
競技会場や大会関連施設の視察に関しても、IOC評価委員会は、大阪市の招致委員会の想像を超えるほど、精力的に動き回ったようです。当初は、すべて競技会場を視察する予定はなかったようですが、急遽、全会場の視察を希望したことも、そのひとつの表れです。招致委員会としては、各競技会場毎に歓迎ムードを演出する取り組みを計画していたようですが、実際は、現場でもかなり専門的な質問が相次ぐなど、スケジュールにも度々変更が生じていたようです。招致委員会の思惑以上に、IOC評価委員会のメンバーには、接待重視の期待など欠片もなかったのです。この辺の考え方も、ほんの小さな原因かもしれませんが、大阪市の招致失敗に繋がったのでは?・・・、と想像してしまいます。
この時の開催都市の視察は、2月に行われていますが、その視察を踏まえて、3ヵ月後の5月には、IOCから評価レポートが提出されています。その評価レポートに記載された大阪市の計画に対する評価は、下記のようなものでした。
<評価された項目>
競技計画、オリンピック村計画、環境対策、テクノロジー
<課題とされた項目>
輸送、非組織委員会予算
特に課題としてクローズアップされたのは、大阪市の負担で行われることを予定していたオリンピック開催関連のインフラ整備に対する財政負担でした。評価レポートでも、大阪市の課題とされた内容は、その解決が難しい、と判断されており、この時点で、ライバルの北京、トロント、パリとの差は、歴然となっていたのです。オリンピック村(選手村)から競技会場までの移動時間に関する懸念、そして、大阪市のインフラ整備に投入する財政負担の大きさに対する懸念。何れも、今回の立候補ファイルで、どの立候補都市も強調して有利さをアピールしている部分であり、コンパクトな会場施設の配置や、政府や行政の負担を抑制していることが、明確に謳われているところでもあります。この時の評価レポートの中にある各都市への課題点に関する評価を読み比べると、テクノロジーや慢性的な交通渋滞に対する懸念以外は、北京が圧倒的な評価を得ていたようで、この評価レポートの内容そのものに、最終的な開催地決定投票の結果が出た、と言えるのかも知れません。
また、各立候補都市に対する評価を押並べて見てみると、立候補ファイルに示されたテーマ毎に、かなり専門的な見地からの評価が多く、課題の抽出についても、核心を突いた内容がそのほとんどでした。立候補ファイルに記載された内容が、あまりにも理想だけを語ったものならば、現実の視察段階では、その矛盾が指摘され、逆に悪評価に繋がる、ということです。また、視察の際のワーキングセッションでのプレゼンテーションや、実際の会場視察においても、単なる段取りやムードの演出だけではなく、如何に立候補ファイルの記載された内容が正しく、現実に即した計画的なものであるのかをアピールしていく方策を検討すべきなのでしょう。大阪の失敗は、そうしたことを如実に語ってくれていると感じます。
なお、IOCの評価レポートの結果に対して、各立候補都市は、IOCに意見書を提出する機会が設けられており、この時の大阪の招致委員会も、IOCから提起された輸送や非組織委員会予算に対する課題などについて、意見書を提出して理解を求めようとしています。特に、非組織委員会予算に対しては、大阪市の財源の大きさや、オリンピックに直接関係しないインフラ整備をも含む、しかも長期的な計画であることを強調しています。この時、立候補ファイルに記載されたインフラ整備のための非組織委員会予算として計上された金額は、280億ドル。日本円(1ドル=100円として)にして、2兆8千億円。大阪市の年間予算の約半分に当たる規模です。大阪市の説明は、この280億ドルは、向こう7年間で支出するものとしており、また、この金額は、全額が大阪市の負担によるものではなく、国などによる分担になっていて、実際に大阪市の負担額は、3,400億円に留まるのだ、としています。しかし、この説明は分かるのですが、それでは、何故最初から立候補ファイルにそのように記載しなかったのか、ということが問われます。大阪市の意見書によるニュアンスでは、IOCから示された質問要項に沿って記載するとこうなった、と弁明気味の意見が述べられていますが、如何にもお役人の考えそうなことで、杓子定規に、その場凌ぎをやってしまったのでしょう。
大阪が何故北京に破れたのか?。・・・というよりは、最後の決戦前に、既に大阪は脱落していたことが、こうした経緯から読み取れました。立候補ファイルは、単なる形式だけのものではなく、如何に真実を描くか、というところが重要であることを、大阪の失敗から学ぶべきですね。東京の計画も、多額の財政出動が予定されており、計画的な見地からの整合性が、果たしてどこまで取れているものなのか・・・?。もう直、それは明白になります。
posted by umekichihouse |07:36 |
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2009年02月27日
世界的不況が表面化し、世界経済が混乱し始めた昨年秋ごろの報道では、2012年ロンドン五輪の施設建設や周辺インフラの整備などの財源が、大幅な縮小を強いられる事態に陥り、逆に、招致段階より4倍以上に膨れ上がっている建設コストに批判が集中しているなど、先の暗い話題が紹介されていました。現状で報道されているロンドン五輪関連の施設建設やインフラ整備などの予算規模は、93億2,500万ポンド。日本円にして1兆8,650円もの規模になっています。新設される8万人収容規模のオリンピックスタジアムは、当初計画の倍近くの1,200億円、選手村も計画を削減したものの、1,300億円規模に予算は膨らんでいるそうです。ロンドン五輪では、33の競技施設の内、半数は既存施設を活用する計画を招致段階で打ち出していましたが、それ以外に、先のオリンピックスタジアムや競泳会場など、9会場は新設であり、また、残りの9会場も仮設での設置が予定されており、ここに掛けられる工事費用は、前述の通り、莫大なものになっているのです。イギリス政府は、93億2,500万ポンドの内、約64%を負担するようですが、それ以外にも、多くの公的資金が使われるのは必至であり、今後、工事規模の縮小や代替案に対する論議が、ますます加速していくように思います。
さて、2012年オリンピックですが、各立候補都市が提出した“立候補ファイル”には、予定される競技会場に関する計画も、第9項にキチンと網羅されています。ファイル全体でも、競技会場に関する内容が最もボリュームがあり、イメージパースで示されている会場紹介も多々ありますので、どれも素晴らしい競技環境を映し出しているのですが、実際にはどのようなものになっているのか?。今回は、各立候補都市別に、想定している主な競技会場に関する計画について検証してみたいと思います。(競技会場の後の数値は、それぞれ、大会時の観客収容数、大会組織委員会以外の費用負担分の金額、大会組織委員会の費用負担分の金額、開館時期、の順で記載してあります。金額の単位はすべて百万USドル。)
<東京の立候補ファイルからの抜粋>
東京の計画では、新築を予定している競技会場は、下記の4会場です。
・オリンピックスタジアム(10万人/831/31/2015年5月)
陸上,サッカー
・代々木公園アリーナ(1万5千人/157/12/2015年5月)
バレーボール
・海の森水上競技場(1万4千人/305/43/2015年5月)
ボート
・葛西臨海公園(1万2千人/13/13/2015年5月)
カヌー(スラローム)
・若洲オリンピックマリーナ(2千人/70/16/2014年5月)
セーリング
※上記4施設合計の建設費:1,376百万ドル/同仮設費:115百万ドル
次に、既存施設を恒久施設として工事を行い利用する競技会場は、以下の8会場です。
・有明テニスの森(3千~1万人/50/6/2015年5月)
テニス
・日本武道館(1万1千人/36/5/2015年5月)
柔道
・東京辰巳国際水泳場(5千~2万人/227/135/2015年5月)
競泳,飛び込み,水球,シンクロナイズドスイミング
・夢の島公園アーチェリー場(7千人/4/19/2015年5月)
アーチェリー
・夢の島ユースプラザアリーナ(7千~1万8千人/385/11/2015年5月)
アリーナA(7千人):バドミントン
アリーナB(1万8千人):バスケットボール
アリーナC(1万2千人):体操,新体操,トランポリン
・大井ホッケー競技場(5千~1万人/22/24/2015年5月)
ホッケー
※上記4施設合計の工事費:724百万ドル/同仮設費:181百万ドル
また、既存施設を恒久施設工事を行なわず利用する競技会場は、以下の13会場です。
・東京ビックサイト(4千~1万人/0/29/2016年6月)
ホールA(1万人):レスリング
ホールB(6千~8千人):フェンシング,テコンドー
・国立代々木競技場(1万2千人/0/15/2016年6月)
ハンドボール
・東京体育館(8千人/0/4/2016年6月)
卓球
・国技館(1万人/0/9/2016年6月)
ボクシング
・夢の島競技場(1万4千人/0/46/2016年6月)
馬術
・東京国際フォーラム(5千人/0/1/2016年6月)
ウェイトリフティング
・陸上自衛隊朝霞訓練場(3千人/0/31/2015年5月)
射撃
※その他、サッカー会場として、国立霞ヶ丘競技場など6会場
※上記13施設合計の工事費:0百万ドル/同仮設費:159百万ドル
その他、仮設工事のみで競技会場を建設するものが7会場あり、その仮設工事費の合計は、129百万ドルです。以上、32競技会場の大会組織委員会以外(東京都の負担)の予算としての計上分は、合計2,100百万ドル。そして、大会組織委員会が負担する仮設工事などの予算は、合計455百万ドルとなり、競技会場に要する建設及び仮設工事費用の合計は、2,555百万ドル、ということです。東京の計画では、新規の恒久施設の建設は、全32施設中、4施設のみですが、既存施設の恒久施設としての工事ということで、8施設に掛ける費用の大きさが際立ちます。特に、有明テニスの森には、5,000人収容の第1コートを新設したり、現状からは想像できない規模にまで施設を拡大する夢の島ユースプラザは、ほとんど新築に近いものです。
では、シカゴのケースを見てみると、新築が予定されている競技会場は、7会場で、その建設費の合計は1,792百万ドル。大会組織委員会の負担分である仮設費は497百万ドルとなっています。新たに建設されるのは、メインスタジアムのオリンピックスタジアムの他、ボートおよびマラソン水泳競技会場、カヌー競技会場、自転車トラック競技会場、サッカー競技会場、ホッケー競技会場、そして水泳競技会場です。また、既存施設の恒久施設工事を行わない利用による競技会場は、12会場あり、その仮設工事費用は71百万ドル。更に、仮設のみで施設を建設する競技会場は、10会場で、その仮設工事費は114百万ドルとなっています。その他、射撃会場は既存施設を恒久施設としての工事を施して使用される予定で、その費用は大会組織委員会以外の負担分が19百万ドル、大会組織委員会負担分が7百万ドルとなっています。よって、大会組織委員会の負担分の合計工事予算は、611百万ドルとなっており、東京を160百万ドル程、上回っていることになります。
また、競技施設の7割が既存施設の利用で賄うとしているマドリードのケースを見ると、体操、ホッケー、バレーボール、バスケットボール等、8会場が新築される予定になっています。大会組織委員会以外の予算ですが、その建設費の合計は、907百万ドル。大会組織委員会予算となる仮設工事費は、107百万ドルとなっています。既存施設で恒久施設としての工事を要する競技会場は、メインスタジアムのオリンピックスタジアムや水泳会場を含めて6会場あり、その改修工事費は732百万ドル。仮設工事費は、32百万ドルとなっています。一方、既存施設で恒久施設としての工事を必要としない競技会場は、17会場もありますが、その仮設工事費は66百万ドルに収まっています。既存施設を活用する競技会場は、33会場中、23会場と、全体の7割になっていることが、マドリードの計画の特長のようです。そして、大会組織委員会の負担する合計工事予算は、205百万ドルと、シカゴの1/3、東京の半分以下の規模で納めているのも、マドリードの特徴と言えるでしょう。競技会場施設の充実振りが、アピールポイントになっていることが、ここでもよく分かります。
最後に、リオ・デ・ジャネイロのケースを見てみると、複数の競技を開催できるOTCという多目的ホールや水泳競技会場を含めた9会場が新築の予定になっています。既存施設で恒久施設としての工事を要する競技会場は、メインスタジアムや自転車トラック競技会場など8会場、そして、既存施設で恒久施設としての工事を必要としない競技会場は、マラカナスタジアムを含めたサッカー競技の5会場や、体操競技会場、バレーボール競技会場など10会場となっています。また、仮設工事のみで施設を建設する競技会場は、7会場です。ただし、リオ・デ・ジャネイロの“立候補ファイル”に示されたこの項目に記載された金額数値の単位が、百万USドル単位になっているのですが、仮設工事のみで施設を建設する工事費だけを見ても、その合計は78,446百万ドルとあり、これはどう見ても金額単位の設定ミスであるように思いました。(日本円にすると7兆8千億円にもなってしまいます。) 千ドル単位だと78百万ドルとなり、他の立候補都市の計画金額とも近いものになるのですが、どうなんでしょうか?。ちなみに、千ドル単位だとすると、大会組織委員会以外の負担の合計は、478百万ドル。そして、大会組織委員会の負担の合計は、282百万ドルとなりますが、果たして正解はどうなのでしょうか???・・・。(困った、困った・・・。)
posted by umekichihouse |07:16 |
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2009年02月26日
先の2008年北京五輪では21億ドル、2012年のロンドン五輪では24億ドルと報道されているオリンピックの大会運営予算。2016年オリンピックの各立候補都市が“立候補ファイル”で示した大会組織委員会予算は、何れもその規模を上回るものになっており、シカゴは倍以上、東京やリオ・デ・ジャネイロでも1.5倍程度までになっています。マドリードは、ほぼロンドン五輪並みの計画規模ですが、それも今後何処まで膨らむのか、ロンドンの現状を見ても、決して予断は許されないでしょう。大会組織委員会が直接管理するこの大会の運営を支える財源は、前回も述べたように、リオ・デ・ジャネイロが803百万ドル、シカゴは少ないものの83百万ドルを、政府または州や市の行政からの補助金に頼りますが、東京とマドリードは、一切の公的財政支援を受けずに大会を開催する計画を発表しています。しかし、メインスタジアムの建設や、選手村、メディアの前線基地となるメインプレスセンター(MPC)、国際放送センター(IBC)などの関連施設の建設など、大会組織委員会が管理しない施設などのインフラ整備に費やされる予算は、数千億円にも及ぶ規模が想定されており、膨れ上がったロンドンのそうした予算額や、国家プロジェクトとして大規模なインフラ整備を行った北京ほどではないものの、大会運営の裏側には、大規模な財政出動が実態としてあります。
世界的な経済不況が長期化する様相を呈している中で、各立候補都市は、大会運営に直接関るその予算を、どのように計画しているのか?。それは、収入確保に関する計画以上に、注目されるところです。今回は、その支出に関する計画内容を、“立候補ファイル”に示された予算数値を紐解きながら、各立候補都市の意図を読み取ってみたいと思います。
まず、最初の費目としてある大会組織委員会が負担する設備投資に関してですが、これは、シカゴのみが201百万ドルを計上しています。シカゴは、大会組織委員会の管理以外の、競技会場の設備投資予算に関して、東京やマドリードの1/30以下の金額しか計上しておらず、また、83百万ドルを政府補助金で得ているための計上なのかどうか?。真意は図りかねます。その他の3立候補都市は、大会組織委員会としては、一切、設備投資に関する負担を計上していません。
では、それ以外の費目について、以下に、各立候補都市別に“立候補ファイル”に示された金額数値を比較しながら、検証していきます。(金額数値は、各費目毎に、東京、シカゴ、マドリード、リオ・デ・ジャネイロの順番で記載しています。また、金額の単位は、すべて百万USドルで、数値は2016年の計画数値を用いています。)
◇競技会場の運営関連
733(24%)/953(22%)/256(10%)/368(11%)
◇選手村の運営関連
174( 6%)/280( 7%)/138( 5%)/328(10%)
◇メインプレスセンター/国際放送センターの運営関連
63( 2%)/ 58( 1%)/ 50( 2%)/ 51( 2%)
※上記、大会施設運営関連費目の合計:
東京 970百万ドル(全体比31%)
シカゴ 1,291百万ドル(同30%)
マドリード 444百万ドル(同17%) ※東京の1/2、シカゴの1/3
リオ・デ・ジャネイロ 747百万ドル(23%)
上記費目は、運営スタッフなどの人件費を除く、設営や装飾、そして備品や什器の設置、および運営環境を整備する付帯要素を網羅したものと推測されます。すべての立候補都市で、MPC、IBCの運営コストはほぼ同等レベルなのに対して、競技会場の運営コストは、最低のマドリードと最高のシカゴとの差が、約3.5倍もの規模になっています。これは、新設会場のための費用を抑えているシカゴは、大会運営や競技運営のための仮設的な施設整備や備品や機材の充当に費用が掛かるからだと推測されます。元々のハードに投資しなくても、その施設をオリンピック大会で使用するために整備することは、当然のことながら必要に迫られますから、公共投資的な費用を費やす必要がない分、純然たる大会運営費用で、大会運営環境の整備は行わなければならないのでしょう。
一方で、競技会場の新設及び既存施設の恒久施設とするための工事に2,434百万ドルを費やす予定のマドリードは、大会組織委員会の予算としては、設営や装飾、運営環境の整備に掛かる予算を、必要最低限に抑えられているようです。選手村についても、大会後の活用計画が詳細に計画されています。大会で予定される利用計画に準じた大会後の利用について、ここは学校、ここはホテル、ここは病院・・・、などと事細かく計画されていることに驚きました。また、マドリードが大会組織委員会以外の予算として選手村の建設費用として金額を計上していないのは、大会後の活用を見越した施設の一時的な借用ということでの、選手村施設の利用を前提にしているのかもしれませんが(あくまでも推測ですが・・・)、大会後の利用計画にまで踏み込んだ精度の高い計画性が、選手村の運営コストを最低限に抑えているのかもしれません。
東京は、シカゴと同様に、既存施設を、恒久施設としての工事を必要としない活用の仕方を予定する施設が13会場あり、ここでの運営環境整備に掛かる費用がかなり費やされるために、予算の1/4に近い規模のウェイトになっているものと推測します。それにしても、マドリードの3倍、4倍の運営コストを要する東京とシカゴの計画は、どの立候補都市も謳っている既存施設の有効活用という謳い文句とは現実離れしているようでもあり、これは、既存施設のオリンピックレベルの競技大会開催に必要とされるファシリティレベルの差が影響しているとしか思えません。逆に言うと、マドリードの既存施設は、非常に充実している、ということでもあります。
リオ・デ・ジャネイロの選手村の運営コストが、東京の約1.9倍、マドリードの2.4倍になっていますが、リオ・デ・ジャネイロは、選手村の仮設工事費を大会組織委員会の予算として計上していることもあり、このような金額になっていると推測します。各立候補都市供に、大会の運営計画もさることながら、予算計上の施策についてもそれぞれの考え方があるようで、一概に比較できないために、本当の意図を読み取るまでには至りません。
◇スタッフ人件費関連
235( 8%)/575(13%)/325(12%)/397(12%)
運営予算の全体比から見ると、東京のみが他の立候補都市より5%ほど低い数値になっています。これは、東京都や都内市町村の職員の応援を見越した人件費の抑制を予定してのことなのか?、ボランティアの募集や研修に掛かる費用がここに計上されているとすれば、ボランティア関連の経費を抑制してのことなのか?、確かな根拠は不明です。最も低いレベルでコストを抑えていることはひとつの評価対象かもしれませんが、現実的には、大会運営で最も重要なのはスタッフの人力であり、ここに東京が適正なコストを計上できないとすると、少し大会運営の根本を見誤っているような気がしてなりません。あくまでも、他の立候補都市との比較においての感想に留まりますが、それにしても、大会運営予算が最低規模のマドリードの7割程度しか計上されていない、というのは気になります。ちなみに、シカゴの金額的な大きさは、単なる人件費単価の高さなのか、人数の多さなのか、はたまた研修などの人事関連コストの問題なのか・・・、は不明です。
◇情報通信(IT)関連
503(16%)/475(11%)/490(18%)/565(17%)
ここ10年で、世界的に大容量で高速の通信インフラが整備され、それに伴い、IT技術も飛躍的に向上したために、スポーツ競技におけるデータ解析や分析、そしてそれら情報の伝達や伝送手段が、飛躍的にハイテク化しました。そして、大会全体の情報量も飛躍的に増大し、単なる計時機器やコンピュータ機器等の問題以上に、情報を管理、運用するシステム全体の精度が重要視される時代になっています。光ファイバー伝送は、テレビ中継における伝送手段としても、もはや当たり前になっており、それらインフラの整備状況は、オリンピックの立候補都市にとっても“あって当たり前”の条件になりつつあります。上記計上金額を見ると、その都市の通信インフラの整備状況やIT環境に対する対応力のバロメーターのようにも見えます。そのことからすると、やはりリオ・デ・ジャネイロだけは、若干の立ち遅れが無きにしも非ず、という印象を受けます。
◇式典・文化プログラム関連
118( 4%)/142( 3%)/207( 8%)/145( 4%)
開会式、閉会式、表彰式、文化プログラム、そして聖火リレーなどの運営コストですが、開会式に東京の1.5倍、閉会式には2倍の費用を計上しているマドリードの計画意図が、式典の充実に重きを置いていることがよく分かります。また、マドリードは、文化プログラムにも、リオ・デ・ジャネイロの2倍、東京との比較では9倍以上の費用を計上しており、オリンピックを通じて、スペイン、そしてマドリードの文化を世界に発信していこう、という意図が更に表れています。全体予算が最も低い中で、式典や文化プログラムの実施に、最も高いウェイトを置いているマドリードのオリンピック招致の目的が、この辺にも明確に示されているようにも感じました。
◇パラリンピック運営関連
143( 5%)/217( 5%)/ 89( 3%)/197( 6%)
オリンピック後に同じ会場や施設を利用して行われるパラリンピックの運営費であり、パラリンピック開催だけのための専門のコストが計上されているものと推測します。先の大会関連施設の運営コストと、ほぼ同等の比率で金額が計上されていることから、各立候補都市供に、パラリンピックもオリンピックと同様の考え方を前提とした運営計画を考えていると推測されます。
◇その他支出項目について
上記以外の費目については、犯罪率が高いとされるリオ・デ・ジャネイロや、治安の悪さが指摘されているシカゴの警備に関するコスト規模が、リオ・デ・ジャネイロは27百万ドルと東京の1/5、シカゴは48百万ドルと同じく東京の1/3弱の規模しか計上されていないことが些か気になりました。警察機関の全面的な協力で賄う計画なのかどうか・・・。有料サービスでの対応で賄う計画ではないのかもしれません。
また、輸送に関しては、マドリードが他の立候補都市の1/2から1/3程度しか計上されてなく、大会施設周辺の公共交通網の整備の万全さの表れなのかどうか、注目したいところでもあります。
posted by umekichihouse |06:08 |
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2009年02月25日
2016年オリンピックに立候補する4都市が提出した“立候補ファイル”。前回は、その収入に関する計画内容を検証してみましたが、今回は、それをもう少し掘り下げて検証してみたいと思います。そのテーマは、チケッティング、そして、国内スポンサーおよびサプライヤーに関する2つです。
[1]チケッティング
まずは、収入の2割前後のウェイトを占め、金銭面以外にも、大会全体の盛り上げに必要な観客動員に結びつくチケッティングに関する内容です。各立候補都市のチケット販売による収入規模は、前回取り上げましたが、今回は、各立候補都市が計画するチケット価格の想定計画について比較しながら、観客動員対策に対する各立候補都市の構想を検証してみます。以下は、“立候補ファイル”に示された凡そのプライシングに関する内容です。
<東京>
・チケット販売総定規模 730万枚
・予算計画上の販売目標率 85%
・想定する平均チケット単価 87ドル(50%が50ドル以下の設定)
※開会式:231~1,389ドル/人気競技:9~324ドル
<シカゴ>
・チケット販売総定規模 (記述不明)
・予算計画上の販売目標率 (記述不明)
・想定する平均チケット単価 71ドル(51%以上が50ドル以下の設定)
※開会式:520~1,645ドル/人気競技:平均141ドル(それ以外は61ドル以下)
<マドリード>
・チケット販売総定規模 794万枚
・予算計画上の販売目標率 76.5%
・想定する平均チケット単価 (記述不明)
※開会式:490~840ドル/人気競技:36~249ドル
<リオ・デ・ジャネイロ>
・チケット販売総定規模 700万枚
・予算計画上の販売目標率 81%
・想定する平均チケット単価 36ドル(31%が20ドル以下の設定)
リオ・デ・ジャネイロのファイルでは、他の立候補都市のファイルと比較して、チケッティングに関する記述が詳しくなく、あまり正確な情報は理解できませんでしたが、予算全体に占めるチケット収入金額が、418百万ドルと、シカゴの半分の規模でしかなく、それは、想定するチケット単価の低さからも容易に推論できます。800百万ドル以上の補助や助成を政府や行政から得ているため、多くの市民や国民に観戦の機会を与えることを目的としているのか?。それとも、経済環境からこれ以上の値付けはできないためなのか?。確かな根拠は不明ですが、お国柄を表していることなのかもしれません。何れにしても、財政基盤の安定を考える上では、かなり不利な計画であると言えるのではないでしょうか。
マドリードは、ファイルからは想定するチケット単価を見つけ出すことは出来ませんでしたが、チケットの販売目標率とチケット販売収入の予定額から計算すると、チケット単価は83ドルとなり、東京の計画に近いものとなります。しかし、販売目標率が、東京よりも9%も低く、これは、数多くの国際スポーツイベントの開催実績から導き出した経験値による数値のようなので、東京やシカゴと比較すると300百万ドル以上もの収入の差がありますが、堅実な計画を示しているのかもしれません。また、人気競技で想定するチケット単価も、東京やシカゴよりも低いことも、そうした経験値を踏まえた判断なのでしょう。収益よりも、実質的な観客動員を具体化することを念頭においているのかもしれません。
東京とシカゴの計画は、ほぼ等々のように感じましたが、東京の想定する平均チケット単価が、87ドルというのは、半数規模のチケットが供に50ドル以下の設定であることから考えると、高額帯のプライシング比率がシカゴよりも高いことを示しています。シカゴよりも平均値で16ドルも高いというのは、競技会場の座席キャパシティが影響していることなのでしょう。また、逆に、インドアスポーツや陸上競技など、アメリカの得意種目での、より高い割合での収益確保を念頭に置いたシカゴの戦略が影響しているのかもしれません。チケッティングは、収入の確保という点においては、最も確実な収入源であり、計画算定できる側面を持ちます。また、大会全体を盛り上げるためには、満員レベルにするための観客動員も欠くことのできない戦略であり、ここは、プロスポーツを始めとする数多くの実戦経験があるアメリカのスポーツ興行力を前提とした自信が、4都市で最も高額なチケッティングに関する予算額を導き出す結果となっているのでしょう。
[2]国内スポンサーシップと公式サプライヤー
開催国内のみにその活動範囲を限定された国内スポンサーの獲得は、収入の確保においても、また、大会運営上の必要な機材や機器の提供、そしてサービスの提供を受けていくためにも、重要な要素であることは間違いありません。先の北京五輪では、2,140億円という大会運営予算規模であったことが報道されていましたが、その半分を国内スポンサーシップで賄ったとされています。IOCの資料(大会開幕前に作成されたメディアガイド)によると、公式パートナーには、海外企業を含めた11社、公式スポンサーには同じく10社、そして公式サプライヤーとして15社が名を連ねており、計36社が国内スポンサーとなっています。
2016年オリンピックの“立候補ファイル”でも、3段階のカテゴリーランクに国内スポンサーは区分されており、簡単な表記を見ると、トップランクとしては、“Partner”、次に、“Sonsor、そして”Supplier“となっています。1社10億円から50億円以上ものフィーを支払うことになるわけですが、マドリードやリオ・デ・ジャネイロは、個々スポンサー候補のカテゴリー毎に、想定するフィーの金額規模も記載してあります。また、ファイルの中には、各招致委員会が想定するスポンサー企業の業種を、想定候補として示しているのですが、この一覧を見ていると、それぞれの立候補都市毎のイベントスポンサーシップ市場における傾向というか、それぞれの業種のスポンサー企業に対する期待するところの考え方も、マチマチであることが読み取れます。4立候補都市の取り上げているスポンサー候補業種を、ひとつのファーマットで一覧にしてみと、意外にも、重複する業種は少ないものでした。もちろん、業種の名称は、ほとんど重なっています。しかし、注目したいのは、3段階に区分された国内スポンサーシップのカテゴリー毎の候補としては、ほとんど一致してこないのです。具体的に一部の例を下記に取り上げてみます。
・航空会社を、東京とシカゴはSponsorと位置付けているが、マドリードとリオ・デ・ジャネイロはSupplierと位置付けている。
・自動車メーカーを、東京とシカゴはSponsorと位置付けているが、マドリードとリオ・デ・ジャネイロはSupplierと位置付けている。
・ホテルを、シカゴとリオ・デ・ジャネイロは、それぞれSponsor、Supplierと位置付けているが、東京とマドリードはスポンサーシップの対象として想定していない。
・メディアを、東京、マドリード、リオ・デ・ジャネイロは、それぞれSupplierと位置付けているが、シカゴはスポンサーシップの対象として想定していない。
上記以外にも、それぞれの開催都市の生活環境や経済環境を背景として、スポーツのスポンサーシップに対する考え方の違いが窺い知れるのですが、東京の計画は、現状のJOC、日本オリンピック委員会のパートナーシッププログラムを元に内容が構成されているようです。一方で、マドリードやリオ・デ・ジャネイロの計画では、大会運営に必要とされるさまざまなサービスを提供する業種が、Supplier候補として取り上げられており、金銭的な収入を期待する半面、物品やサービスの提供によるコストセーブによって大会の収支構造を支えようとする意図が見えてきます。特に、マドリードの場合は、Partner候補としては、6業種程度しか記載されていませんが、Supplier候補の業種では、15業種も記載されており、その内容を見ても、警備、輸送、通信、物流、医療、施設管理や機械技術など、大会運営に必要とされるであろう現実的な業務業種がそのほとんどです。金銭的な支援を求める対象と、大会運営の円滑化や効率化という点で支援を求める対象を、バランスよく計画しているのだと思います。スポンサーシップは、大会運営に大きな財源をもたらすものですが、スポーツ競技大会の運営で必要とされるさまざまなソリューションを提供してくれる存在であることも、忘れてはならない、ということですね。面白いのは、リオ・デ・ジャネイロのファイルには、ボランティアの募集や研修、清掃、印刷、そして建設や紙の供給、というカテゴリーもありました。確かに、膨大な量の用紙が必要にはなりますが、他のカテゴリーを見ても、何か産業構造のレベルの違いのようなものも、各都市のファイルの中に見え隠れしています。
先に、北京五輪の運営予算が2,140億円と述べましたが、今回の4立候補都市の予算計画で最も低いマドリードでも、2,659百万ドル。シカゴに至っては、4,267百万ドルと、北京五輪の2倍の規模にもなっています。北京五輪の場合は、共産主義国家であったこと、そしてそれに伴い、人件費や経費の発生根拠などの考え方の違いによって、一概に今回の予算計画と比較することはナンセンスかもしれません。オリンピックで7万人。パラリンピックを含めると10万人という数のボランティアが人海戦術で立ち回った北京五輪。アテネ五輪やシドニー五輪でのボランティアは、4万5千人程度ですから、その倍の数のボランティアに関わる経費を賄うことだけを考えても、金銭的な比較は容易ではありません。しかし、大会運営を支える予算規模が、3,000百万ドル、4,000百万ドル規模にまで拡大していることは、公的資金に頼らず、民間からの資金援助によって賄おうとする計画そのものに、より精密な確実性や現実的な検証の目が必要になっていることも見逃せません。今回の4立候補都市が提出した“立候補ファイル”の中に、どこまで現実に即した意図が込められているものなのか、次回、支出面の検証をしながら、更に読み取っていきたいと思います。
ちなみに、東京の国内スポンサーシップに関する合計金額である766百万ドルの、更に倍の規模の収入を想定しているシカゴの計画を見ると、現状の経済力以前に、何か計画的な意図があるのか?、とも勘繰りたくなりました。
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2009年02月24日
2016年オリンピックの“立候補ファイル”。その8項目目には、財務計画に関する内容が記載されています。前回は、大会組織委員会の予算として計上されている内容以外の費目、つまり、大会組織委員会が直接管理しない費用について取り上げましたが、今回は、大会組織委員会が直接管理し、また、その収入を確保しなければならない予算計画の収入面にフォーカスして取り上げたいと思います。
スポーツイベントにおける運営予算計画は、確保できる見込みを想定した収入規模を前提として、支出内容を収入規模に収める方策を検討していくアプローチと、逆に、支出内容を費目毎に積み上げながら、その規模に応じた収入確保の方策を検討していくアプローチがあると思います。前者の場合は、確実性の高い収入確保が見込める一方で、その金額規模に収めようとする支出項目の策定を行いがちであるため、実施計画に伴う支出の実際の金額規模が、時として収入規模を超えてしまうケースが多々あります。収支均衡は理想であるものの、収入の枠に数値的な側面だけを捉えて支出規模を収めようとしても、なかなか理想通りには行きません。後者のケースの場合は、支出内容は、現実的な積算根拠を元に算出されるため、確実な予算規模の策定が可能である反面、それをカバーすべき収入の確保の方策に、時として無理を生じさせる可能性が生まれてしまいます。支出の規模に合わせようと、実現性の低い規模にまで収入の見込みを増大させてしまったり、期待値のみが高い費目の設定や金額規模の設定を行ってしまうからです。
2016年オリンピックの開催地として立候補している4都市の“立候補ファイル”に記された財務計画は、果たしてどのような意図や計画理念で策定されたのかは定かではありませんが、一定のフォーマットに収められているため、ひとつひとつの費目に示された金額を検証するだけで、それぞれの組織委員会の考え方の一端を垣間見ることができます。ちなみに、4都市の各予算規模の増額は、以下の通りです。(数値は2016年計画のもの)
<東京> 3,115百万USドル
<シカゴ> 4,267百万USドル
<マドリード> 2,659百万USドル
<リオ・デ・ジャネイロ> 3,265百万USドル
総額規模から見ると、最高レベルのシカゴと、最低のマドリードとは、1,608百万ドルもの格差があり、東京とリオ・デ・ジャネイロとは、ほぼ同等レベルの規模になっています。なぜこれだけの格差が生まれているのか?。なぜシカゴはこれだけの費用を必要とするのか?。そして、なぜマドリードはこれだけ低い予算で賄えるのか?。そうした観点からも、各費目毎の検証をしながら、それぞれの予算計画に対する意図を読んでいきたいと思います。
(金額数値は、各費目毎に、東京、シカゴ、マドリード、リオ・デ・ジャネイロの順番で記載しています。また、金額の単位は、すべて百万USドルで、数値は2016年の計画数値を用いています。)
①IOCによる分配金に関しての費目
◇放送権料分配収入(IOC Contribution)
◇TOPスポンサーシップ料分配収入(TOP Sponsorship)
上記2つの項目は、すべての立候補都市に一律の条件であり、どの財務計画にも同一の金額が記載されています。放送権収入からの分配は、675百万ドル、そして、TOPスポンサーシップ収入からの分売は、335百万ドル、となっています。TOPスポンサーから得られる収入の分配に関しては、IOCの規定により、50%が冬季及び夏季オリンピックの大会組織委員会に分配されることになっており、冬季組織委員会と夏季組織委員会との分配率は、“1:2”となっています。つまり、計上されている335百万ドルから逆算すると、2013-2016年のTOPⅧで得られる収入総額の見込みは、約10億ドルということになります。北京五輪前に、IOCロゲ会長は、2013-2016年は11億ドル以上の規模になる、と記者発表していましたが、TOPⅦ並みの見込み額に想定を抑えた、ということなのでしょう。
一方で、放送権収入に関しては、IOCは、それぞれの大会における放送権契約の総額の49%を大会の組織委員会に分配する、としてあり、その比率から逆算すると、2016年の放映権料は、1,378百万ドル、ということになり、北京五輪時の1,700百万ドルを大きく下回ります。しかも、その金額規模は、2000年のシドニー五輪並みであり、この点においては、確かな根拠が不明確です。高騰を続けてきた放送権料を抑制する意図なのか?、敢えて低く見積もったものなのか?・・・。
IOC、国際オリンピック委員会は、去る18日、それまでEBU、欧州放送連合との契約を継続してきたヨーロッパ地区でのオリンピック放送を、2014年と2016年の大会に関しては、パリに本部を置くスポーツエージェンシー、スポーツファイブ社にその権利販売の代理人を任せる契約を締結したことを発表しています。また、EBU加盟国は52ヶ国ですが、スポーツファイブ社が販売を行う権利を持つ範囲は40ヶ国であり、既に契約済みのトルコやイタリアを含めて、フランス、ドイツ、スペイン、イギリスなどの経済大国は、スポーツファイブ社との契約からは除外されているようです。これら除外されている各国の放送局や放送グループとの契約交渉は、IOCが直接行うようですが、このIOCとスポーツファイブ社との契約によって、オリンピックの放送権料は、恐らく、より高騰しているものと想像することは容易く、その状況から、“立候補ファイル”で一律に計上されている675百万ドルという数値は、かなり低いレベルでの見込み数値と言えるでしょう。IOCの何らかしらの意図なのか?、開催地が決定していないことによる暫定数値、というものでしかないのか?、はたまた、IOCの分売に関する規定が変えられたのか?、・・・。何れにしても、放送権料が高くなれば、それだけ大会組織委員会に分配される金額は増えるわけですから、一旦はリーズナブルなものとして考えましょう。
②大会組織委員会独自のマーケティングによる収入に関しての費目
◇国内スポンサーシップ(Local Sponsorship)
708(23%)/902(21%)/325(12%)/313(10%)
◇公式サプライヤー(Official Suppliers)
58( 2%)/553(13%)/331(12%)/282( 9%)
◇チケットセールス(Ticket Sales)
815(26%)/836(20%)/506(19%)/418(13%)
◇ライセンシング(Licensing)
129( 4%)/198( 4%)/122( 5%)/ 52( 2%)
※上記の立候補都市毎の合計と全体予算に占める割合
・東京 1,710百万ドル(55%)
・シカゴ 2,489百万ドル(58%)
・マドリード 1,284百万ドル(48%)
・リオ・デ・ジャネイロ 1,065百万ドル(34%)
シカゴと東京との差は、779百万ドル。全体予算の差額は、1,152百万ドルですから、その68%は、独自のマーケティング収入でカバーしようとしているのが、シカゴの戦略です。一方で、東京は、IOCからの分配金と合わせると、全体の9割近くを、所謂マーケティング収入に頼る収入構造である、ということが言えると思います。シカゴは、IOCの分配金を足しても、全体の8割余りでしかなく、これは、後述する寄付金や政府などからの助成金の割合が、高い(全体の9%)ということです。それにしても、チケット販売を含めて、組織委員会独自のマーケティング収入で、全体の7割近い収入を確保するという自信は、やはり、プロスポーツ大国としての経験がものを言っているのかどうか?、かなり興味深い内容です。
マドリードとリオ・デ・ジャネイロは、かなり低い割合になっています。マドリードは、全体予算が他の立候補都市よりも低い(東京とは456百万ドル、シカゴとは1,608百万ドルもの差)から、ということもありますが、全体比率からしても、5割以下のウェイトしか置いていないようです。更に低いレベルなのが、リオ・デ・ジャネイロで、全体予算に占める割合は、34%しかありません。これは、後述する政府や市からの助成金の割合が高いからです。この数値的な傾向だけを捉えると、リオ・デ・ジャネイロの収入構造は、日本の地方都市での国際大会の予算計画に近いものがあるように思います。開催国内の市場に収益源を求めることができる経済力の有無、という経済環境の格差も影響していると思いますが、倍以上、もしくは1.5倍くらいもの差が、この計画数字にも表れている、ということは、立候補都市としてのアピールポイントのひとつであろう、財政基盤の確かさを、些か低く捉えられる可能性も多少はあるのではないでしょうか?。
何れにしても、世界No.1、No.2のGDPを誇るアメリカと日本の経済力を背景として、そのことが露骨に収支構造にも表れていることを考えると、支出計画という戦略的な側面を考えなければ、財政面での安定性は、東京とシカゴに分があるようにも感じるところです。しかし、世界的経済不況の影響が、両国の経済にどこまで深刻な打撃を与えるかは、まだまだ未知数なところもあり、7年後の経済状況如何では、この収入構造が破綻してしまう可能性もあります。その点から考えると、全体を抑えたレベルで計画を策定しているマドリードにも、別の意味での安定性を垣間見ることができます。
③政府・行政・一般からの補助および助成に関しての費目
◇寄付(Donations)
86( 3%)/285( 7%)/ 4( 0%)/ 35( 1%)
◇補助金・助成金(Subsidies)
0( 0%)/ 83( 2%)/ 0( 0%)/803(25%)
◇その他収入(Other)
270( 9%)/384( 9%)/295(11%)/314(10%)
特徴的なのは、全体予算の25%を、国、州、市から均等に補助金を得る想定のリオ・デ・ジャネイロの計画です。ブラジルは、世界的な経済不況の影響が比較的軽微だとも言われているようですが、この依存率は、IOCにどのような印象を与えるものなのでしょうか?。また、アメリカらしく、シカゴが、寄付による収入に300億円近い期待をしているところも面白いです。その他収入に関する詳細は不明ですが、金額が大きく、その内容も知りたいところです。
posted by umekichihouse |06:09 |
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2009年02月23日
去る2月12日、2016年に開催される夏季オリンピックの開催候補地として立候補している東京都は、IOC、国際オリンピック委員会に“立候補ファイル”なるものを提出しました。この“立候補ファイル”は、IOCから示されたオリンピック開催に関するさまざまな必要要件に対して、各立候補都市がその質問に回答する、という形式のものとされていますが、実際にファイルの中身を見てみると、すべての内容は、一律のフォーマットの中にそれぞれの候補地が考えている開催計画を織り込むものになっており、図面や写真、または図表の形式など以外は、一行一行の文章や、ひとつひとつの数値をキチンと読まないと、各候補都市の違いなど、明確にはわかりません。確かに、表紙のイメージや、使用されている写真の使い方など、お国柄や主張する意図を伝えようとする工夫自体は明確に分かります。東京オリンピック・パラリンピック招致委員会が提出したファイルは、和紙に印刷され、しかも、3部に分かれているファイルは、それぞれ和綴じの仕様で製本されており、更には、その3部のセットは、各セット毎に風呂敷包みで梱包されていたようです。しかし、問題は、そうした体裁だけではなく、もちろんのこと、その中身にあります。4月には、各立候補都市にIOCの評価委員会のメンバーが現地調査のため訪れる予定になっており、その際にも、今回提出したファイルの内容に基づいた実地検証が行われるのではないでしょうか?。(昔のように接待漬けのご一行様扱いではないと思います。) ちなみに、現地調査の日程は、下記のような予定になっているようです。
◇シカゴ 4/4-7
◇東京 4/16-19
◇マドリード 4/29-5/2
◇リオ・デ・ジャネイロ 5/5-8
それぞれ延べ4日間の日程のようですが、問題なのは、どの要件を重点的に視察するのか、ということでしょう。それぞれの都市が抱えている一番の課題に対してフォーカスするのか?、または、各都市の最も象徴的な施設やその候補地を検分するのか?、はたまた、都市環境の整備状況を、治安や交通網なども踏まえて観光客のように見て歩くのか???・・・。たった4日間ですべてを網羅することは不可能ですから、その辺の的の絞り方も、ひとつの戦略であるのかもしれません。朝日新聞のコラムにもありましたが、コストセーブを掲げての計画作りはいいとしても、過剰な接待やセレモニーばかりにお金を掛けるのは、その計画のコンセプトをも否定することにもなりかねないので、ここは、より実践的な対応に終始するように、期待するところです。
では、IOCに提出された“立候補ファイル”には、実際にどのような内容が網羅されているものなのか?。東京を始めとして、全4都市の“立候補ファイル”は公開されていますので、そのすべてを同じ机上に載せて、ひとつ、素人検証をしてみたいと思います。検証は、今回の①総論的雑感編、そして、②大会運営予算 収入編、③大会運営予算 支出編、④競技会場編・・・、と4つのテーマに分けます。
では、最初のテーマは、「総論的雑感」です。“立候補ファイル”は、17の項目に分けられて構成されており、3部に分けられている冊子の1部目には、最もベーシックな要件となる8つの項目が網羅されています。そこには、各立候補都市が、オリンピック招致に対してどのようなアピールをしているのか、また、政治や行政からの支援体制、そして財政的な計画内容が、具体的な数値を含めて記載されています。
まず、各立候補都市の大会関連施設の配置と、それらを結ぶ交通網、そして都市環境の平面的な情報が、一枚の図面に示されています。東京のアピールポイントとしては、8km圏内にほとんどの競技施設が網羅され、コンパクトな大会運営を実現できる旨が謳われていますが、ベイエリアをも網羅するため、水上スポーツ競技の会場も、キチンとこの圏内に収まっているわけです。ちなみに、8km圏内という指針の意味は?、というと、車での移動時間に関係しています。つまり、選手村などから競技施設までの移動時間が、専用車輌で15分から20分圏内にあることが前提となっているからです。国際競技連盟の主催する世界レベルの国際大会でも、このような時間的距離の重要度は当たり前であり、地方都市などは、適切な場所に適切なホテルがないことで、度々問題にもなる案件です。では、他の立候補都市の図面を見てみると、東京との比較において、下記のような感想を持ちました。
<シカゴ>
ミシガン湖岸のシカゴという都市の立地を生かして、4つの会場エリアが設定されており、東京と同様に、8km圏内に主要な大会施設はほとんど網羅(91%の会場は選手村から15分圏内にある)できているようです。東京のように湖を取り囲む立地にはなっていませんが、施設の配置状況は、私が見る限り、東京よりも集約されている、という感じを持ちました。また、空港と選手村との距離も30km足らずのようで、距離感としては東京と遜色無いようです。ホテルは市街地に10満室あり、宿泊環境も、10km圏内に8万室ある東京とも同レベルにあります。しかし、図面では読み取ることの出来ない課題が、シカゴにはあるようです。治安の悪さです。また、意外に公共交通網が整備不足である点と、以前から財政基盤の脆弱さがあった、ということも不安材料として取り上げられています。
<マドリード>
マドリードは、8kmではなく、10km圏内ということで、ほとんどの大会施設を網羅する配置になっています。また、その7割は既存施設で賄えるということ。更に、空港から中心部までの距離も車で20分圏内ということや、交通インフラの整備は進んでいるということで、東京やシカゴと、決定的な違いはないでしょう。しかし、内陸部にあるため、また、シカゴのように大きな湖がないため、水上スポーツ競技は、大きな河川の流域を利用した競技会場の設定になっています。大きくは、2つのゾーン(ファイルでは、コアゾーンとリバーゾーンという表記です)のエリアに競技施設が集中しており、リバーゾーンでは、河川の流域に広く競技施設が分散されていて、恐らく、周りの環境も自然に溢れているのでは?・・・、と思いました。宿泊環境は、市内に6万5千室のキャパシティがありますが、幾分不足気味かもしれません。なお、バスク地方独立を求める武力組織の存在が、治安に関する不安材料と言えます。
<リオ・デ・ジャネイロ>
大会施設の配置に関して、最も広範囲に分散しているのが、リオ・デ・ジャネイロです。凡その競技会場を網羅するだけで約25kmもの圏域となり、選手村から最大で30分足らずの時間を要する施設配置になっています。空港から選手村までは、約30km程度ですが、日常的な選手の移動をカバーする輸送計画に、相当に重点を置く計画が必要になるのではないでしょうか?。しかも、競技会場は4つのエリアに分散して配置されていますが、選手村があり半数の競技会場が位置する中心エリアから、他の3つのエリアのすべては、15kmから25kmくらいのところにあります。このため、大会施設の配置状況に関しては、コンパクトな大会運営という点において、リオ・デ・ジャネイロが最も不利でしょう。また、宿泊施設が市内に5万室と少なく、更に、犯罪率が高いことでも知られているため、2014年のサッカーW杯開催も契機として、そうした改善が進むかどうか、注目したいところでもあります。
以上のように、4都市の大会施設の配置状況を、一枚の図面上で検証しただけですが、見た目での競技会場の配置や選手村やMPC、メインプレスセンター、IBC、国際放送センターを含めた大会主要施設の配置の状況は、リオ・デ・ジャネイロ以外は、大きな欠陥と言える点はないように思います。課題となるのは、別の項目にもある大会関係者用の高級レベルのホテルやメディア用のホテルと競技会場との位置関係と、すべての大会関係施設を繋ぐ輸送網の整備状況、という点にあるのではないでしょうか?。道路や公共交通機関などのインフラの実態が、ひとつのカギになると思います。その点から言うと、現在の東京の計画は、引けを取るものではないようです。
最近の世界的経済不況の影響により、国や都市の行政が、一番その必要性を問われるのは、税金の投入による公共施設の建設や整備です。かつては、オリンピックの開催により数多くの施設が建設され、また、さまざまな公共的なインフラが整備されてきました。1964年に開催された東京オリンピックの例を持ち出すまでもなく、シドニーでも、アテネでも、そして北京でも、主要施設の新たな建設なくしてオリンピックの開催はあり得ませんでした。しかし、近年、冬季大会も含めて、既存施設の活用や施設の一部改修による低コスト開催の実現に動き出すケースも見られるようになり、今回のシカゴは、ほとんどの競技会場を既存施設で賄うことを特徴としているようです。東京も、基本的には、現存の施設を活用した計画を打ち出していますが、各都市の発表している大会運営予算以外の費用、つまり、組織委員会の予算に含まれない費用に関して見てみると、意外に各立候補都市の実情を窺い知ることができます。以下、各立候補都市毎に整理してみます。(数値単位は百万米ドル、数値は2016年)
<東京>
・競技施設 新設:1,559/改修:821 (計2,380)
・選手村 新設:942 ・MPC/IBC 改修:158
※その他、競技会場に関する設備投資の増加費用見込み:2,380
<シカゴ>
・競技施設 新設:54(他に、組織委員会予算にて:139)
・選手村 新設:977 ・MPC/IBC 0
※その他、設備投資の増加費用見込み 競技会場:69/選手村:1,250
<マドリード>
・競技施設 新設:1,704/改修:730 (計2,434)
・選手村 0 ・MPC/IBC 新設:328
※その他、設備投資の増加費用見込み 選手村:45/交通インフラ:267
<リオ・デ・ジャネイロ>
・競技施設 新設:425/改修:143
・選手村 新設:495 ・MPC/IBC 新設:235
※その他、設備投資の増加費用見込み 競技会場:282/MPC・IBC:235/交通インフラ:1,242/セキュリティ:424(運営においても507追加)
上記を見てみると、東京とマドリードは、競技会場や選手村の新規建設や改修に多額の設備投資を強いられることが分かります。また、リオ・デ・ジャネイロが、交通インフラの整備不足や治安問題の解決のための投資を強いられている状況も、上記の数値から読み取れます。それにしても、コンパクトを謳う東京にしても、合計では6,000億円以上の設備投資(追加も含めて)が必要であることが分かり、些か気の重い事実を目の当たりにしました。
posted by umekichihouse |06:53 |
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2009年02月22日
前回、メディアについて取り上げましたが、世界クラスの国際大会で、競技の様子を世界に配信するホストブロードキャスターの役割は、メディア以上に、大会の運営そのものに大きな影響を及ぼします。国際競技連盟が、テレビ放送に関する要件を規定する中には、ホストブロードキャスターの位置付けや役割を、そこに掛かる経費面も含めた義務として開催地の組織委員会に負担させるケースと、大会運営の一部として、施設や設備に関るハード面だけを組織委員会にサポートを求めるケースがあります。どちらも、テレビ放映権料というお金の流れや契約主体のあり方によって、大会毎、または国際競技連盟毎に、その規定はマチマチですが、前者は、世界陸上大阪大会でのTBSのように、日本国内でテレビ放映権を持つテレビ局が、ホストブロードキャスターを兼務する場合と、ノルディックスキー世界選手権札幌大会の時のように、複数の放送局やプロダクションが第三者組織を形成して、ホストブロードキャスターを務める場合があるようです。何れも、組織委員会という大会の運営機能の一員として、組織委員会と一体となった業務の遂行を求められるのですが、金銭的な損得勘定も一体となる部分が多いため、大会としての支出も大きくはなりますが、大会規模か大きければ大きいほど、運営効率を高めることは容易になります。逆に、後者の場合は、国際競技連盟が直接契約主体となって事を運ぶため、大会の運営主体である組織委員会は、受身の立場として、テレビ放送側の要求を聞いていかなければなりません。確かに、テレビ放送制作というコスト面の負担はありません。しかし、テレビ放送にまつわるさまざまな施設や設備的要件の一つ一つは、ほとんどが組織委員会としての負担で行う領域の業務であり、しかも、受身ということで、他の運営計画を犠牲にするケースもしばしばあり、決して効率的に大会運営を実現できる、とは言い難いのです。
また、後者の場合は、組織委員会との関係においても、間に国際競技連盟が存在するため、テレビ放送側の要求を検討する上でも、往々にしてコスト負担に関わる役割分担に終始してしまい、より良い運営環境を作り出そう、というような前向きな発想になりにくいようです。大会運営に担う組織委員会側としては、余計な経費は使いたくない。しかし、テレビ放送側の必要性から、コストを伴う作業を増やさなければならない。では、その経費負担はどうするのか・・・、というようなことです。お互いの情報を的確に擦り合わせていく上でも、準備の進行手順に時間的なズレが生じたり、そのことに起因して、会場設営や運営の体制準備が後手に回ってしまったりと、テレビ制作面でのコスト負担というお金の話し以上に、多くの課題が浮上してしまうこともあります。
どちらのケースにおいても、大会の運営を担う組織委員会と、大会のテレビ制作を担うホストブロードキャスターは、大会運営全体から見れば、一体となるべき存在であり、技術的にも、人的にも、共通のファクターが数多くあります。だからこそ、国際大会におけるテレビ放送に関するレギュレーションは、単にテレビ関係者のみが理解していれば良いことではなく、大会運営側としても、その内容は、きちんと精査できる能力が必要なのです。
地方で開催される国際大会のケースを見ると、民放のキー局がテレビ中継制作を担い、そのサポートを地元の系列テレビ局が行う、という事例が多々ありますが、彼らの作業を、大会を運営する組織委員会が、全く業務機能として認知していないケースがよくあります。「テレビはテレビ屋さんがやることだから、我々は関係ない」、というスタンスです。確かに、組織委員会として、テレビ制作のために技術者を出すとか、制作の補助をする、ということはありません。しかし、テレビ放送に関る施設や設備面での環境を整え、また、大きな国際大会には必要となる海外のライツホルダーに対するサービス機能の、国際放送センターなどの施設運営のためのスタッフを配置するなどの業務は、組織委員会が支えなければならないのです。テレビカメラを一台設置することでも、客席を潰すわけですから、これもチケッティング業務なども含めて一体となった作業が必然ですし、また、大きな物量となるケーブリング作業も、競技会場全体の設営要件に大きく関わってきます。こういうことだけ拾っても、「我々は関係ない」業務ではありません。逆に、より密接に連携しなければ、大会は成り立たない、と言っても言い過ぎではありません。
国際大会では、競技会場内に、テレビ制作用の諸室を設定することも必要になります。数十名、時には数百名の規模のスタッフ用諸室が必要になりますので、安易な設定はできません。もちろん、動線を考えた設定にしなければ、テレビ中継車の配車位置であるコンパウンドとのアクセスもスムーズになりませんし、電源や通信回線の仮設での引き込みにも留意しなければなりません。また、競技会場の既存設備として館内共聴システムがあれば、中継映像を運営諸室で同時にモニターできますし、これは、大会運営側にも必要な設備となります。これは、テレビ制作側に、大会運営側が要請し、その協力で具体化できるものです。競技進行全体の計画に関しても、競技関係者だけが認知していれは良いものではなく、テレビ制作はもちろんのこと、大会運営全体として共有すべき情報になります。特に、テレビ中継がライブで放送、または海外に伝送される場合などは、1分1秒の狂いが大きな放送事故につながりかねません。そこでの金銭的な損失は、「我々は関係ない」では済まされないのです。
デジタル化、そしてHD(ハイ・ディフィニッション)化が当たり前のようになり、テレビ放送に関る技術も、その規模はますます大きくなりつつあります。伝送に関しても、いまでは光ファイバー伝送が当たり前ですし、競技会場にそれらのインフラが無い場合は、大会運営側にも大きな負担となってしまいます。より効率的な大会運営環境を整えていく上でも、テレビ放送に関する要件を、しっかり押さえておくことが、大会運営側にも求められるのです。
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2009年02月21日
国際競技連盟が主催する国際大会における運営上の“ルール”や“基準”を定めたレギュレーションには、そのほとんどの場合、メディア、マーケティング、そしてテレビ放送に関する要件について、それぞれ単独の“ルール”や“基準”が説明されたものが用意されています。実は、この3点についてが、日本、特に地方都市で世界クラスの大会を開催する上で、非常に大きな課題となり、また、意外に無視されがちなのです。これは、日本におけるスポーツイベントが、「日本人の、日本人による、日本人のためのイベント」として開催されているからに他なりません。もっと言うならば、地方で行われるスポーツイベントには、その地域の人々しか観戦に訪れず、また、メディアも地方に本籍を置く所謂地方メディアしか取材には訪れません。すべてがそうだとは言いませんが、凡その場合は、そのことに違いはないでしょう。ましてや、ホストブロードキャスターが国際信号を制作して、海外へ中継する、などということは、全く想定されないことなのです。だからこそ、世界クラスの大会を開催する時、開催地地元の行政や競技団体は、普段国内大会として開催する、選手やチームの参加規模が大きい国体やインターハイなどの方が、大会規模が大きいだけに、その運営基準を前提として、国際大会を考えがちになるのだと思います。そして、そこに、ビジネスのとしての側面を持つメディア取材、テレビ放送、そしてスポンサーシップなどのマーケティングなどという概念は、始めから入り込む余地はないに等しいのです。しかし、そこに、ひとつの“落とし穴”があるとも言えます。
メディアに関する国際大会における業務は、普段、国内で行われているスポーツイベント以上に、会場施設においても、人的対応においても、専門性が問われます。何故ならば、イベントの場に取材に訪れるメディアの多くは、世界の大規模なスポーツイベントで、自分たちが受けることができるサービスや取材機会のあり方を、運営する側以上に熟知しているからです。当然のことながら、メディア自身が、ある一定の規制を受けることも承知しています。また、国際大会では、取材申請を申し込んでくるすべてのメディアが、その承認を得られるとは限りません。メディア各社毎に人数的な制限も設けられますし、各種公的な団体に加盟していないメディアについては、承認されないケースもあります。また、取材を許可されたメディアも、“報道の自由”を振りかざして、競技会場やその周辺で、何の制限もなく自由に取材活動できるか、と言えば、それは大きな間違いです。取材を許可される前提として、大会独自の取材規定を守るべき義務を負います。それは、大会全体の運営を、円滑に行うための協力を強いるものであり、また、取材の公平さを保つためのものでもあります。
これに対して、大会を運営する側は、これらメディアに対して、適切に、また、誠意を持って対応する義務を負います。そして、イベントの様子を、競技の様子を、日本中に、世界中に発信してくれるメディアの取材機会を、公平に、世界基準での内容で、設けなければならないのです。プレス席、カメラポジション、メディアワークルーム、記者会見場、ミックスゾーン、そして場合によっては単独社によるインタビュースペースなど・・・。また、メディア取材のために装備される機能は、そのひとつひとつに、適切なスペースの広さ、照明や音響設備、通信機器や回線、電源がなければならず、国内で行われる大会そのままに、“これくらいで十分”という意識でやると、「日本では満足なサービスを受けることが出来なかった」、などという海外メディアの評価が報道として流れてしまったり、国内メディアでさえ、他のケースとの比較において、「○○○○競技の時は良かったが、今度の大会は取材がしにくい」、などと、大会そのものまでも批判的に捉えられてしまうこともあります。言うならば、メディアも大会運営に必要な大きな要因であり、広報という大会機能を充実させていく上でも、メディアは重要なパートナーなのです。その辺の意識は、見逃すことは出来ません。
しかし、一方で、国際競技連盟が規定するメディアに関する要項の中には、厳密に、その取材機会を制限しています。メディアによる取材機会を妨害する、ということではなく、取材機会を公平に保つことはもちろんのこと、選手やチームの安全を維持したり、大会運営の円滑な進行を妨げないようにするためのものです。公平という点では、ニュース取材として許可されたテレビ局の取材でも、カメラ撮影が禁止されている場所での取材や、撮影すること自体許可されていない対象の取材など、テレビ放映権を有するライツホルダーの権利を守る、という対処も行われます。よく隠れて客席から無許可で撮影しているケースを見かけたりしますが、一般観客にビデオ撮影が禁止されているスポーツイベントでは、権利という以前に、こうした悪質なメディア取材を規制するために、一律での撮影禁止措置を講じている場合もあります。「俺は客だからいいだろう」、ということを見逃せば、時には、大会主催者は多額のテレビ放映権を支払っているテレビ局からの信頼を失うことにもなり、非常に神経質な問題であることが分かると思います。取材の公平さを保つ、ということは、メディアを担当する大会組織のスタッフだけの仕事である、というよりは、大会運営全体に関わる重要な要件であり、時には、観客サービスにも、その影響は出るものであることを、大会を運営する側は認識すべきなのです。
スポーツイベント、特に国際大会の場合、メディア対応に関わる施設整備や人員配置などに、意外に大きな金銭負担を強いられることがあります。しかし、世界基準で、質の高いサービスを実現することで、彼らの報道によるパブリシティ効果をより高いレベルで得られることが出来るならば、そのために使われるコストは、後々、十分に回収できるのではないでしょうか?。メディアは、大会を成功されるための、重要なカギにもなる存在なのです。
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2009年02月20日
世界選手権などの国際大会の開催に関して、国際競技連盟が、その開催国または開催都市に求める開催費用に関する負担と、開催国または開催都市に与える収入機会に関する要件は、各国際競技連盟によって一律ではありません。特に、収入機会に関する規定は、国際大会の運営主体となる開催国または開催都市のLOC(Local Organising Committee)、組織委員会の予算計画の基礎となる要件であるため、どの組織委員会も、当然のことながら最も慎重に検証する項目になるでしょう。
ノルディック、アルペン、フリースタイル、スノーボードといった競技種目で世界選手権を主催するFIS、国際スキー連盟の場合などは、世界選手権の開催組織のルールを定めたレギュレーションにおいて、組織委員会の収入の一部を、FISが保持する、と規定しています。つまり、組織委員会の得た興行収入は、そのすべてが組織委員会のものとして計上することは出来ないのです。(逆に言えば、広告収入やテレビ放映権収入の60%は、国際競技連盟から組織委員会に還元されるケースもある、ということですが・・・。)
◇入場収入の10%
◇広告収入(競技場内に設置された広告看板など)の40%
◇テレビ放映権収入の40%
(FIS公式ウェブサイトに掲載された資料より抜粋)
また、テレビ放映権に関しては、国際競技連盟が一括した権利を管理し、その一部を開催地の組織委員会へ補助金として還元する場合もあります。こうした場合は、ホストブロードキャスターの責任や義務に関しては、その費用も含めて、一切を国際競技連盟が取り仕切る場合と、組織委員会にそのすべてを負担させる場合があり、組織委員会としては、予算計画の策定のみならず、開催云々の分岐点となるような重要項目となるでしょう。
更に、スポンサーシップについては複雑で、全世界でスポンサーとしての権利を行使できるグローバルスポンサーとの契約が国際競技連盟にある場合は、組織委員会としては、グローバルスポンサーの契約業種と競合する業種のローカルスポンサー、つまり、開催国のみに限定した権利を保持できるスポンサーと、契約することは出来ません。よって、ローカルスポンサーから得られるすべての収入が、組織委員会の収入とすることができても、そこには大きな制約があるのです。
バレーボールの場合のように、テレビ放映権と付随する形で、イベント興行権に関わるマーケティング等のすべての商業的権利を、国際競技連盟から買い取っているケースもあります。FIBA、国際バスケットボール連盟の場合は、組織委員会の収入として、入場料収入と開催地行政などからの補助金や寄付金にほぼ限定する旨を明記しており、テレビ放映権やスポンサーシップ、マーチャンダイジング等のマーケティング関連の権利は、全く別の契約によるものになっています。つまり、別途、権利を買い取ることをしないと、その権利を行使した収入は得られない、ということです。この場合、支払う対価としての権利料以上の契約を達成しなければ、せっかく権利を獲得しても事業費用全体としては赤字に陥る危険性が生じます。
2002年のFIFAワールドカップや、2007年のFISノルディックスキー世界選手権の場合では、FIFAやFISからの還元された分の為替差益もあって、最終決算は黒字になったというケースもあるようですが、何れにしても、それらも開催地の行政負担があっての大会収支ですから、純粋な興行収支という視点から見れば、余程の入場料収入が見込めなければ、国際大会の財政は、赤字ありきになってしまう仕組みが、この辺に見え隠れしています。
さて、ここまでは、前回の補足でしたが、ここからは、前回取り上げた国際競技連盟の規定するレギュレーションの、大会運営業務に関る項目を、如何に世界基準という“レール”を敷設すべきか、という視点で検証してみたいと思います。
①競技運営および会場施設に関する要件
競技エリアのセッティングについては、国際大会開催のためのレギュレーションというよりは、競技ルールに明記されている内容を遵守するのが当然ですが、競技エリアの周辺に設置または設定されるべき各種運営要件に関わる内容は、レギュレーションとして規定されています。大型映像装置の設置から各種諸室の必要な規模や内容まで、大雑把な規定もあれば、備品の一つ一つを細かく規定しているケースもあります。そして、この要件こそが、日本で国際大会を開催する上で、最も大きな課題となる場合が多いのです。欧米の競技施設は、基礎のインフラから、日常的に興行を実施する環境にあるものが多く、すべてとは言えませんが、基本的に大会運営機能はすでに装備されています。しかし、日本の施設は、特に地方都市の多くは、国際大会のみならず、スポーツ興行を前提とした運営機能面に配慮した施設構造にはなっていません。特に問題なのは、一般の観客と大会運営の機能が混在しないように、そのエリア設定が出来ないことと、大会実施の場合に必要となる諸室スペースや設備が、恒常的に用意されていない、ということです。国際競技連盟が規定するレギュレーションを、100%遵守しようとすれば、当然のことながら、多額の費用を掛けて仮設対策や一部の改造による対処を考えざるを得なくなります。つまり、普段は全く別の目的で使用されている部屋やスペースを、一時的な仮設改装して運営環境を整備していくしかありません。ハード面では、コストを抑えたリーズナブルな対応策は取り辛いのです。こうした日本の競技施設環境の置かれた状態を前提にすると、国際大会の開催時に、最も大きな課題として立ちはだかる要件は、インフラに関する要件、ということになります。ここでの最良の解決策は、なかなか難しい面がありますが、ひとつ言えることは、実際の運営面において、スタッフの人的対応力を駆使した会場施設の利用計画を組み立てることかもしれません。最低限の仮設策を施し、その中での動線、アクセスコントロールといった人間の動きを人間によって管理していく計画を練っていくことです。これは、スタッフの能力に大きく依存することを前提とするものですが、勤勉で実直な日本人の良さを信じて、活かすほかありません。逆に言えば、そこに、日本で開催する利点を、世界にアピールできるチャンスがあるのかもしれないのです。うまくその運用が実現できれば、警備などの他の運営要件をも効率的にしていくことができるため、全体的なコスト抑制効果を生み出す結果が得られるかもしれません。
②宿泊および輸送/移動に関する要件
国際大会の開催に当り、選手やチーム、関係者が宿泊するホテル内での対応や、競技会場との移動手段を管理する輸送業務は、非常に重要な要件になります。国際競技連盟が規定するレギュレーションにも、場合によっては、選手や関係者毎に部屋のタイプやスペース、また必要とされる部屋数などを、詳細に規定しているケースもあります。ホテルのグレードを明記している場合もありますね。更に、選手やチームのホテルと、競技をジャッジする役員とは、別のホテルを設定する旨を厳格に規定している場合もあります。しかし、実際に開催地内の理想的な時間的エリアの中に、理想的な設備を整えたホテルが立地している場合は、一部の大都市を除けば、ほとんどありません。数百人、時には何千人という選手たちを、ひとつのホテルに宿泊させることが出来れば、運営側としてはその業務負担は大きく削減できます。しかし、現実には、国際大会が開催される時期が、観光シーズンに当たっていたり、大きな会合や宴会が開催されていたりと、数百人規模でも完全にブッキングすることが難しいケースがほとんどです。世界陸上大阪大会でも、ホテル運営に関するトラブルが多々生じたようですが、選手や関係者の活動拠点となる施設だけに、これら要件は、大会の成否に関わる重要なものになるため、大会運営の計画を練っていく上でも神経を使う業務となるのです。しかし、ホテルという既存の営業施設ということもあり、大会が使用するホテルの確保に関しては留意していても、それが決まると、あまり注意が向かなくなるという傾向もあります。また、これら業務は、往々にして旅行会社に委託して業務を管理してもらうケースが多いのですが、大会全体の運営を管理する立場の組織委員会としては、宿泊や輸送に関する要件の重要さを、改めて認識すべきでしょう。競技会場に全神経を集中するがために、大会の公式ホテルの運営を無視しては、大会は成り立たないのです。逆に、この業務を任される旅行会社などには、国際大会の運営全体の構造や、業務の性格を的確に理解してもらう必要があります。国際大会の宿泊・輸送業務は、“ツアコン”業務ではありません。あくまでも、イベントサービスとして、選手や関係者が、安全に、そして的確に競技に集中できる環境を整えていく責務を負っているのです。場合によっては、本来の業務以外の業務に関わるケースも出てきます。そして、そこでも、同じように専門性が問われるのです。特に輸送に関しては、大型バスからタクシーの配車や運行管理まで、多くの輸送機関との連携を迫られます。宿泊や輸送は、当然のことながら、海外からの来賓をも対象とするため、プロトコール業務とも密接に連携します。公式ホテルの中には、プロトコール独自の機能を設ける必要があるのです。そこに波及して、警備という要件が加わる場合もあります。このように、非常に多岐に渡る大会運営の要件が、宿泊・輸送に関する業務には課せられるため、ひとつひとつの業務ではなく、大会運営全体としての連携が具体化されることにより、ここでも、全体的なコスト抑制効果を十分に生み出す結果は、そのやり方次第では、得られるかもしれません。
③アクレディテーションおよびITシステムに関する要件
大会関係者としての資格を認定した証、それがアクレディテーションカード(ADカード)です。そして、そのADカードには、その携帯者それぞれの資格に応じた競技会場内でのアクセス許可内容も明示されています。つまり、ADカードは、身分証と通行証の2つの機能を持ち、時には何万人という単位の規模となる国際大会の運営のカギとなる運営ツールなのです。オリンピックなどではパスポートの代替としての役割もあるほど、大会に関わるすべての人たちには重要なものであるため、その申請から発給に至るシステムは、厳密に管理されなければなりません。そして、ADカードの申請で得られる関係者情報は、競技のデータや大会運営の情報と供に、一括して統一したシステムで管理されるのが、最近の国際大会での傾向です。大会のスポンサーやサービスプロバイダーとして、IT関連企業の名が当たり前のように登場してくるのも、こうした大会運営上の必要性から来るものです。しかし、アクレディテーションに対する日本での一般的な感覚は、単なる通行証であるとか、時にはチケット代わりのような感覚で取り扱う人がいるほど、まだまだ成熟されていないように思います。よくボランティアが、ADカードの発給拠点となるアクレディテーションセンターに配置されますが、発給資格の条件や審査プロセスなどを、事前にキチンと整備しておかないと、“トラブルセンター”になる可能性も生じます。アクレディテーションシステムが厳密に運用されている国際大会では、大会に関わるすべての施設や拠点で、ADカードの内容をチェックするだけで、それぞれの関係者に対する対応が判断できますから、大会運営を円滑に進めていく上でも、このシステムの構築は、その運用するインフラとなるITシステムの構築と供に、大会の成否を握るひとつのカギと言えるでしょう。
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2009年02月19日
日本では、いまや、数多くの世界選手権クラスのスポーツイベントが開催されています。しかし、前回まで取り上げた世界陸上などを開催した、大阪市などの大都市でも陥る可能性がある“落とし穴”が、そこにはあります。それは、日頃、国内競技大会を主催したり主管している経験値を前提とした、誤った自信から生まれてきます。
私も実際に経験しましたが、地方都市で国際大会を行う場合、当然のことながら、何度も現地へ足を運んで準備作業を進めていきます。その中で、地元の競技団体の方々から必ずと言っていいほど言われることは、「我々には我々のやり方がある」、「我々には国体(またはインターハイ)をやってきた実績がある」、というような言葉です。しかし、この言葉の裏側には、3つの“落とし穴”があるのです。
1.国際競技連盟が定めるレギュレーション(またはガイドライン)
2.海外からの選手団、メディア、来賓等を“迎える立場”である、というホストシティとしての意識
3.世界基準での競技運営、そして競技環境
この3点は、世界のトップクラスの選手やチームが出場し、戦う大会やイベントの場と、日頃日本で行われている国内競技大会との、各種イベント構成要件に対する考え方の違いが、最も表れてくるポイントなのです。
大会を主催する国際競技連盟は、それぞれ内容は異なりますが、各国際大会実施の際に適用される約束事を規定しています。それは、毎年世界を転戦して行われるスキーやスピードスケートのワールドカップのようなシリーズ戦、2年、または4年に一度開催される世界最高峰の選手やチームを決する世界選手権大会など、それぞれの大会の性格に分けて規定されています。当然のことながら、世界選手権は、どの大会よりも、数的規模、会場の設定要件、競技運営周辺の準備要件、技術的な運営要件、そしてマーケティング要件などなど、かなり厳密に、その開催基準が明示されています。それら要件は、言ってみれば“レール”です。レールの上に、選手、役員、競技関係者、運営関係者、メディア関係者、放送関係者などが客車として乗り、そのレールの上を走るわけです。そのレールを、大会開催地であるホストシティに、如何に順応させながら敷設していくか、という作業が、ホストシティの役目であり、責務となるのです。つまり、国際競技連盟の規定するレギュレーションというレールは、すべての開催地でそのまま敷設できるわけではありません。試合会場や競技場の設置環境や設備環境、空港などの主要交通機関とのアクセス、公式ホテルとなる宿泊施設の立地要件、法的問題、そして開催費用など、あらゆる構成要件において、開催地特有の、または特殊な環境や条件に応じた順応方法を見出しながら、敷設方法までを考えていかなければならないのです。そして、既定のレールが敷設できないからといって、全く別のレールを敷くわけにはいかないのです。それでは、開催地返上になってしまいますし、世界大会としてのレベルが維持できません。
こうしたレギュレーションやガイドラインの内容は、各国際競技連盟が文書にしているケースもありますし、実際の契約書段階のドラフトで示される場合もあります。何れにしても、相当な量の内容であるはずです。しかし、すべての内容を、最初から厳密に精査していく必要はありません。無理にやろうとすると、現実の開催環境とのギャップに戸惑い、往々にして間違った解釈を意識的に導入してしまいがちになります。個人的な考えですが、私は、最も効率的だと思われる内容検証の段取りを、下記のように考えています。
◇まず、下記の5点を厳格に精査する。
・基本要項(日程/会場/実施種目などの開催要件)
・費用負担の分担内容(収入獲得条件も含む)
・国際信号制作等のテレビ放送要件
・メディア対応要件
・来賓対応要件(プロトコール要件)
※特に、開催費用の負担項目や内容は、厳密に精査しなければなりません。中には、選手の数や役員数、それぞれの滞在条件、日数などが明記されているケースもあります。また、テレビ要件に関しては、ホストブロードキャスターの責務が、国際競技団体直轄管理か組織委員会管理か、という点で、費用面においても、運営面においても、大きく異なってきます。基本は、世界に配信されることが前提であることを踏まえなければなりません。メディア対応要件については、海外からのメディアを含めて、その対応に関する一定条件が、施設や設備的にも、サービス面においても、かなり詳細に規定されています。このメディア対応については、日頃の大会運営と全く違った対応を強いられる場面が多々あるようです。来賓の対応要件も含めて、重要なポイントです。
◇次に、上記5点の検証結果を前提として、レギュレーションの記載項目全体に対する精査を行います。
・政府または行政保証要件(ビザ、関税、通関など)
・保険要件(対象、保障内容など)
・競技運営要件
・アクレディテーション要件
・宿泊要件(公式ホテル運営要件)
・輸送/移動要件
・会場施設要件(必要諸室、設備、備品など)
・ITシステム要件
・マーケティング要件(スポンサーシップ、マーチャンダイジングなど)
・広報要件
・チケッティング要件(シーティング割合に関わるもの)
・式典要件(開会式、閉会式、表彰、レセプションなど)
・警備要件
・医事要件(医療対応、ドーピングコントロールなど)
※上記内容については、個々、次回取り上げたいと思いますが、これらとは別に、メディア、テレビ放送、マーケティングに関しては、独立したレギュレーションやガイドラインが規定されているケースもあります。そこには、より詳細な要件が既定されており、これらの要件が、専門性が高いことを示しています。これらの点については、国際競技連盟が、広告代理店やテレビ局と直接契約するケースもありますが、大会運営という観点で、組織委員会にも大きな影響が生じますので、内容の理解度は、同等レベルで維持しておくことが必要だと考えます。尚、開催地の責務として行うべき「観客対応」に関する内容は、国際競技連盟のレギュレーションには含まれていませんので、これは、他の要件と兼ね併せて、組織委員会にて、別途、精査されなければなりません。
◇いよいよ、現状の開催地における施設等の“ハード要件”と対照し、その差異を厳格に導き出す。
・試合会場の施設、設備、許容量等の技術的なスペックとの対照
・公式ホテルの施設、設備、許容量等の技術的なスペックとの対照
・競技運営環境における技術的なスペックとの対照
◇更に、日本の慣習、法制度、競技大会における実績、人員環境、物品状況等の“ソフト要件”と対照し、その差異を厳格に導き出す。
・経験値が全くない、または普段と異なる運営業務の見極め
・運営に必要な人員の数的規模、配置、能力、適性、手配先の見極め
・運営に必要な物品の数的規模、配置、機能・性能、手配先の見極め
◇「基本計画」としてのオペレーションプランの策定を行う。
・試合会場運用計画(設営、利用、動線、エリア区分、客席配置など)
・公式ホテル運用計画(宿泊対象、利用、動線、運営機能配置など)
・運営組織計画(業務部署、指揮命令系統、統括責任者など)
・輸送計画(来日時、離日時、開催期間中など)
・物品調達計画
※この「基本計画」内容のすべてが、国際競技連盟による世界基準を前提とした、開催地オリジナルの現実的な運営計画の骨子になります。また、この「基本計画」をもって、現実的な予算計画の策定が可能になります。国際競技連盟のレギュレーションとの差異を、どのように開催地の要件や条件に順応させ、“レール”を敷設していくか、という内容が「基本計画」になりますから、そこでは、現状に見合う開催環境にしていくための仮設対策や人員配置による課題解決方法など、より現実的な予算が導き出せるはずです。更に、この「基本計画」を、国際競技連盟に提出し、正式な承認を得る必要があります。正式なカウンタープロポーザル、ということです。
以前取り上げた「FISフリースタイルスキー世界選手権猪苗代大会」での予算策定のプロセスにおける混乱は、こうした準備プロセスの不備が最大の原因だった、と思います。この時点で、かなり確証が高いレベルで予算概算が導き出せていれば、それを減額するリスクは、大会の開催自体にも及ぶということになりますから、判断の基準は大きく異なっていたと思います。つまり、開催できる範囲でなんとか開催しよう、などという安易な判断は出来なかったはずです。結果的には、身の丈の予算に近い数字になったようですが、結果的に本当にそれで開催意義を見出せるのかどうか、大会の終了まで注目して見ていきたいと思います。
“日本の常識は、世界の非常識かもしれない”。このような感覚を、常に頭の中に入れておいて現実の業務と向き合うことが、スポーツイベントに関わらず、いろいろなビジネスの局面で役に立つこともあります。外資系のスポーツメーカーに勤務していた時も、外人どもに腹を立てることは頻繁にありました。その原因の多くは、単純な考え方の違いです。外人さんは、比較的、物事を単純に考えます。日本人は、あれこれ詮索しすぎて、物事を難しく考えがちのような気がします。私の個人的な感想だけかもしれませんが、そうした考え方のズレが、「なんでお前らはそんなに軽く考えるんだ!」、という気持ちになって、腹を立ててしまうのでしょう。国際競技連盟が規定している大会開催のためのレギュレーションには、彼ら自身の経験からの反省を踏まえた内容もあるようです。彼らも、一義的にすべてを遵守させようとはしません。だからこそ、彼らの考えを日本流に応用した結果を、キチンと示す努力が必要なのだと思います。つまり、世界基準に日本流を応用するための応用力こそ、大会の成功に繋がるのです。
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2009年02月18日
世界陸上大阪大会では、猛暑にもかかわらず、数多くの名勝負が繰り広げられました。残念なのは、女子マラソンの土佐選手以外に、日本人選手の表彰台に立つ姿を見られなかったことと、力を出すことなく敗れ去っていった日本人選手があまりにも多かったことです。猛暑のためなのか、地元開催という重圧なのか・・・。ホームアドバンテージは、生まれなかったようです。事前の前売り状況から、“少ない”、と危惧された観客の動員も、単なる金銭面からだけではなく、日本人アスリートに対する応援という点において、低調に終わらせた原因になったのでしょうか?。
もちろん、競技としては、素晴らしい大会であったことに変わりはありません。しかし、その裏側では、数多くの批判や不満があったことも、事実です。マスコミ報道はもちろんのこと、報道記者によるブログ上でのコメントや、一般のインターネット上での書き込みにも、大会の盛り上がりを賛美する声以上に、問題を提起するような内容が多かったことは、私も実際に目にし、そして実際に感じました。その中でも、私が個人的に非常に落胆したのは、いつもオリンピックのテレビ中継で一番楽しみにしている開会式、そして閉会式などの式典の様子です。
開会式の内容は、大会が開幕する1ヶ月以上も前に記者会見が行われ、その概要が発表されました。監修に映画監督の篠田正浩氏、総合演出は、宝塚歌劇団の小池修一郎氏。そして、3部構成で行われた開会式の最後には、人間国宝の坂田藤十郎氏の“大阪締め”で、出演者と観客が一体となり盛り上がる・・・、という目論見だったようです。テーマは、“鼓動(Beat)”。しかし、大会初日の夜の競技開始前に、約1時間30分を費やして行われたこの開会式は、本当にこれだけのものが必要だったのか?。また、大会がいよいよ始まる、といったアテンションとしての内容に凝縮した短時間での演出に出来たのではないか?、という一抹の疑問が、私にはありました。当日は、男子砲丸投げと女子10,000mの決勝種目も行われ、選手たちは既に戦闘モードであったはずです。選手団の入場行進も、一部の国々を除けば、ほとんどは参加せず、ボランティアなどのスタッフが行進の列を成している始末で、これでは、観客と一体になるはずもありませんし、期待感は醸成されません。ホストシティとしてのシティセールス効果を考えた施策だったのでしょうが、その後に行われる真剣勝負に水を差すようなものだったような気がしました。天皇皇后両陛下のご臨席もあり、所謂式典としての演出効果は必要だったのでしょう。ただし、客席の半分より少し多い程度の観客の数を見ても、もっとやることは他にあったのではないか、と感じてしまう風景が、テレビ中継の画面を通じても見て取れました。
前にご紹介した「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)には、ホストブロードキャスターを務めたTBSの国際映像チームディレクターの言葉として、観客席を一杯にすることこそが、最高の演出である旨が語られています。スポーツイベントでは、満員の客席から沸きあがる観客の声援や歓声、時にはどよめきが沸き起こったり、そうした観客席から漂ってくる興奮は、そのまま選手たちに伝わり、そして選手たちを鼓舞します。だからこそ、観客席を一杯にすることは、スポーツイベント最高の演出になるのです。観客をより一層盛り上げたり、興奮度を助長する仕掛けは、何かしらは必要でしょう。しかし、その仕掛けそのものを“主役”にしては、観客の興奮や期待感は削がれてしまう危険性があります。世界陸上大阪大会の開会式は、あれだけの出演者をそろえながら、観客一人一人の反応を全く見ずに、目の前の進行台本を忠実に再現しただけのものだった、と言うのは言い過ぎでしょうか?。期待もしていただけに、残念に思いました。
また、その期待感を削がれた思いは、閉会式にもありました。大阪らしい演出を求めたと思われるその内容は、河内音頭で締めくくられたのです。スポーツナビのコラムに記述された閉会式に対する感想は、「日本勢不振の元凶を閉会式に見た!?」、というタイトルで表されていました。その中には、1991年に東京で開催された世界陸上の閉会式のことが引用されており、阿波踊りでほとんどの選手たちが一緒に踊っていた熱狂の様子が、懐かしく語られています。しかし、16年後の大阪では、選手たちはただ見ているだけで、これも空回り、という始末。「こんなひどい閉会式だったら、やらない方がマシ。恥ずかしすぎるよ」、というようなベテラン記者の過激な言葉まで紹介しているほど、このコラムを書いた記者は落胆していたのでしょう。ほぼ観客の視線と同じレベルでフィールドを見つめているメディアの目からも、こうした落胆振りが語られるということは、選手はもちろんのこと、観客の興奮度は、全く上がらず仕舞いに終わっていたことでしょう。これでは、シティセールス効果など生まれるはずもなく、消化不良で終わってしまった感覚は、何か日本選手の不振ぶりとダブってしまうのも、無理がないように思いました。
阿波踊りと河内音頭。一体何が違っていたのでしょう?。それは、演目云々の問題ではなく、装置としての仕掛けの問題だと指摘する人がいます。たった1曲だけで終わってしまった河内音頭と、選手、関係者、そして観客へと、次々と踊りの輪を広げるように、エンドレスで盛り上げられた阿波踊りとの違いです。机上の進行のみに捉われていれば、客席の空気を感じることは出来ません。スポーツイベントにおけるエンタテイメントとは、その構成に結果を求めるのではなく、実際の仕掛けにこそ結果を求めるべきなのです。つまり、舞台演出やステージ演出とは、全く異なる客席目線での仕掛けが重要だということです。世界陸上大阪大会では、前回述べたように、7億円を超える費用を「式典/イベント費」として計上していました。その費用対効果は、今年ドイツで行われる大会に参加する世界中の選手たちの思い出の中にこそあると思います。彼らに、“大阪”への思いは残されているのでしょうか。
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2009年02月17日
世界陸上大阪大会の開催組織の中核は、IAAF、国際陸上競技連盟、日本陸上競技連盟、大阪市、そして広告最大手の電通により組織されていたようです。そして、IAAFのパートナーとして、大会のパートナーとして、更にはサプライヤーとして、26社もの企業が名を連ねる中で、男女それぞれのゼッケンスポンサーであるTDK、TOYOTAを始め、多くの日本企業が大会の運営を支えていました。前々回取り上げたホストブロードキャスターを務めたTBSはもちろんのこと、大会の頭脳とも言うべきITシステムを支えたEPSON、計時を担当したSEIKO、1万セットものスタッフウェアなどを提供したMIZUNO、世界中のフォトグラファーをサポートしたNIKONなど、IAAFのパートナーとなっている8社の中だけでも、日本企業は6社を占めます。中でも、TDKは、第1回大会から大会を支援し続けており、大阪大会の期間中には、その契約を2019年まで延長することを発表しています。世界陸上大阪大会は、こうした面から捉えると、まさに、日本で開催する環境は万全だったのです。しかし、それでも、ホストシティとなった大阪市は、この大会を開催するために、総額にして40億円という巨額な資金を拠出しなければなりませんでした。全体で97億円といわれている大会開催費の約4割に相当する金額です。他国での世界大会の開催における予算収支に関しては、知るべくもありませんが、日本での国際大会の開催には、毎度のように開催地の行政の金銭負担は、その都度大きな課題としてクローズアップされます。大阪市がこの大会を誘致した経緯のひとつとして、オリンピックの招致に失敗した後のシティセールス戦略の目玉としてのスポーツイベントの誘致、という側面があったことが、世界陸上誘致の成功時に報道されていました。東京と並ぶ日本の冠たる大都市としての世界に対するPR効果を、大阪市は求めていたのでしょうか?。
大会期間中に、産経新聞に掲載された「世界陸上大阪大会の経済効果」という記事を見つけました。関西大学大学院教授の手により試算されたもののようですが、総額210億円、となっています。詳細は、以下の通りです。
◇大会運営費 97億円
◇観客の消費効果 57億円
◇建設・施設修理費 13億円
◇観光効果 13億円
◇メディア滞在費 12億円
◇事前合宿・キャンプの経済効果 9億円
◇スポーツ用品の購買効果 7億円
◇アジアと海外からの観客の旅費 2億円
などとなっています。面白いのは、大阪市が40億円負担している大会運営費の総額と見られる金額が計上されていることです。確かに、大会運営費は、参加選手などのインハウンドシステムの設計や対応に問題が生じた宿泊や輸送に関する経費等、開催地である大阪市で消費されるものが大半であるため、経済効果の要因と言えば言えなくもあれません。しかし、40億円投資して、それがそのまま使われて経済効果というのは、無駄な公共事業で物議を醸していることと、何ら変わりません。“効果波及”という視点で見れば、海外や日本国中から多くの観戦者が大阪を訪れて、消費してくれることが最も望ましい形だと思います。お盆明けの8月下旬の時期に、市内のホテルが満室となっていたことは、大会関係者の宿泊を含めて効果と言えば効果ですが、観客動員数を見れば、公の数字でも、目標の45万人に対して、実績は35万9千人。これがすべて有料入場者、つまり、一般の観客としても、51万枚用意されたチケットに対しては、約7割です。大会1ヶ月前には、前売り券が3割に留まっていることが、IAAFによる記者会見でも危惧されていましたが、大会期間中を含めて、その後の1ヶ月で4割を売ったというのが事実であれば、大会観戦をキッカケとした観光にしろ、消費にしろ、そこそこの経済効果が、集客装置としてのイベント効果という点では、あったと言えるかもしれません。しかし、5万人収容(一般観客エリアは7割から8割程度だと思いますが)という長居スタジアムが、ほぼ満員の姿を見せたのは、9日間の内、半分の日程もありません。その辺での、大阪市民の不満も、インターネットの掲示板などへの投稿には見られたのも事実です。
では、97億円といわれている大会運営に関る経費の中身は、どのようなものだったのかを検証しながら、“40億円”の効果を見てみたいと思います。(数値は、大会公式ウェブサイトに掲載された収支予算書から抜粋したものです。決算書のものではありません。)
<数値は、2004年度から大会本番の2007年度までの4年度の合計>※10万円以下の金額は切り捨て
①収入: 約100億円(下記項目以外は含まず)
◇寄付金収入(大阪市負担金を含む) 5,090百万円
◇事業収入(協賛金、入場料など) 4,128百万円
◇助成金収入(団体、機関より) 100百万円
◇IAAF/VIK(国際連盟より、物品提供換算など) 500百万円
◇長期前受金収入 186百万円
②支出: 約97億円(下記項目以外は含まず)
◇事業費 8,022百万円
◇管理費 1,476百万円
◇予備費 162百万円
単純に見ると、黒字ですが、これはあくまでも予算ベースのものなので、収支供に、決算時には変動があったものとして考えたいと思います。(あくまでも全体像を推し量る目安として) 管理費については、人件費が、約9億円という規模で、約6割以上を占め、その他は、事務局運営関連の経費と見られます。それにしても、人件費だけで9億円というのは、他のスポーツ競技の国際大会から見れば、大会運営費全体に匹敵する規模にもなっており、大会の規模の大きさが推し量れます。また、事業費に関しては、大会運営に関する各業務毎に分類されているため、下記に、その詳細を記載することにします。
<事業費: 約80億円>
・チケット関連費 263百万円
・フードサービス関連費 497百万円
・式典/イベント費 757百万円
・スポンサー関連費 248百万円※
・アクレディテーション関連費 38百万円
・ボランティア関連費 204百万円
・情報通信費 494百万円
・施設改修関連費 962百万円★
・輸送関連費 865百万円
・宿泊関連費 538百万円
・広報関連費 180百万円
・放送(HB)関連費 460百万円
・競技運営費 422百万円
・物品/物流関連費 70百万円
・IAAF関連費 125百万円※
・プロトコール関連費 52百万円
・警備費 295百万円 (その他事業 1,316百万円)
金額が10億円を超える「その他事業」の項目の詳細については、不明です。恐らく、会場に隣接した長居公園内に設けられた飲食や展示のブース施設や、猛暑対策にために設置されたミスト設備の設置、また、大会のPRブース等を大阪市内に設けるなどしたコストと推定されますが、この金額と、スポンサー関連費、IAAF関連費を除くと、大会運営の直接コストが算出できると推測され、それは、約63億円程度になります。
ちなみに、施設改修関連費(約9億6千万円)に該当する業務に関しては、組織委員会の発注による公募型指名競争入札により、単体企業に対する発注が行われています。内容は、下記の通りです。
◇メインスタジアム客席内の仮設席の設置(コメンタリーポジション、プレス席)
◇第2競技場内の競技施設設備の改修
◇球技場内の仮設設備の設置(プレスセンター、アクレディテーションセンター)
◇メインスタジアム周辺の施設整備(エリア規制、各種入場口、その他)
この工事は、単純な設営ではなく、既存設備を一旦取り外して新たな設備を取り付けるなどの作業もあり、また、当然のことながら、大会終了後には、原状復帰工事が必要となります。原状復帰には、大会終了から約1週間程度要したとされていますので、その工事の規模の大きさが窺い知れます。しかし、もし長居スタジアムが、その周辺の環境も含めて国際大会を開催するに足る施設環境が整備されているとしたら、10億円近くの費用は、桁が違ってくるほどに圧縮できた可能性も考えられ、2002年のFIFAワールドカップ開催時などに、こうした設備環境を整えておけば、または残しておけば、もっと効率的な大会運営も望めたと、個人的には思います。また、そこに、大阪市の財源の幾ばくかを投入しておけば、40億円という拠出も、かなり抑えられたのではないでしょうか?。全国各地にある行政が管理する公共のスポーツ施設の運用面での欠陥が、ここでも見え隠れしたように思います。
スポーツイベントの開催、特に、こうした大規模な国際大会の開催になると、どうしても、開催地の行政に依存しなければならない状況は、なかなか変えられません。低く見積もられたという13億円という入場収入の見込みに対して、その倍の収入が得られたとしても、大阪市の負担は、3割程度しか低減されないのです。その状況を抜本的に変えていくとすれば、競技会場施設が、より効率的に運用できるものにしたり、ボランティア組織をより充実する取り組みをしながら、運営コストの削減を可能にするソフトを養うなど、長期計画的な政策としてのスポーツ大会誘致を模索するしかないのです。いま、大阪市民は、この40億円を、どのように捉えているのでしょうか?。
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2009年02月16日
前回ご紹介した「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)の巻末に、ホストブロードキャスターを務めたTBSの世界陸上総合ディレクターの、こうした言葉が紹介されています。「局としても世界陸上を経験したことで、スポーツ中継の理念が話し合われることが増えました。タレントの起用や大げさな実況、大げさなVTR。それらが一般視聴者を取り込んできた功績は否定できません。でも、競技自体に自信があれば、ライブを大事にしたシンプルなつくり方もあるんじゃないかと感じる人間も多くなりました。といっても競技画面をただ流すのではなく、ライブを中心に、わかりやすく見せる方法です。ただ、実はこれが一番難しいのかもしれません」。大会終了後に、インターネット上の掲示板などで、ファンの感想を拾ってみると、TBSの国内中継に対する批判も少なからずありました。タレントを起用した番組の進行や、選手一人ひとりに付けられた形容詞を連呼する実況など、この世界陸上に限らず、ゴールデンタイムにそれなりの視聴率を稼ぎ出すための施策を講じているのは、TBSに限ったことではありません。しかし、ゴールデンタイムにライブで中継する以上、視聴率というものが求められるのは事実で、普段あまり注目されないスポーツ競技の場合は、避けられないのでしょう。先の総合プロデューサーの言葉は、つくり手としては十分理解している中での葛藤を、如実に表しているものだと思いました。
さて、世界陸上大阪大会に関するインターネット上の掲示板などに投稿されている一般ファンや大阪市民の反応を拾っている中で、大会運営に実際に関ったボランティアの皆さんの悲痛なまでの叫びも、数多く目にしてしまいました。世界陸上大阪大会では、延べで4千人を超えるボランティアが、大会運営の携わっていたようですが、そのボランティアを配置し、指揮し、そして指導すべき組織委員会の運営機能の不備から、華やかな競技の裏側では、人的対応というイベントオペレーションの根幹に関わる問題が、数多く発生していたようです。
スポーツイベント、特に国際大会クラスの大きなイベントになると、競技会場の周辺に配置される大会運営機能の中で要求される運営業務は、競技会場の運営業務を遥かに超える規模になることがあります。特に、サッカー・ワールドカップやオリンピックなど、世界中が注目するスポーツイベントでは、世界中から観客、メディア、来賓らが集まってきますから、彼らに対する対応業務のひとつひとつには、時には専門性が高く求められますし、単に機械的なシステムだけを立派に構築しても、それだけでは大会運営は成り立ちません。その現場に立つスタッフという人間ひとりひとりの能力が、非常に重要になります。人的対応能力、それがスポーツイベントの成否に関わる重要な要素になることは、以前、富士スピードェイでのF1日本グランプリ開催時に巻き起こった問題を取り上げた際にも述べましたが、世界陸上大阪大会でも、同じような課題を浮き彫りにしていたようです。
一言で言えば、何千人という運営組織を機能させるための体制の不備が原因だと思います。スポーツボランティアに関しても、以前取り上げましたが、彼らを単なる安価な労働力としてしか捉えていなかったことが、最大の失敗要因でしょう。そして、大会運営に関る情報の伝達方法、指揮命令系統、そして何よりも、ひとつひとつの運営業務の中身そのものを、スタッフを扱う業務管理者たちに理解されていなかったことが問題であったように感じました。ボランティアの配置やシフトを管理するシステムがクラッシュしていた、ということが、数多くのボランティアの掲示板の中への書き込みにありましたが、それ以上に、システムだけに頼らざるを得なかった、ということにこそ問題はあるように思います。もし、ひとつひとつの業務を管理する立場のスタッフが、業務の性格(この業務は他の運営機能にどのような影響を与え、また、他の運営機能からどのような影響を受けるものなのか)、特性(この業務に必要な知識と情報は何か)、規模(円滑な業務遂行のためにはどの程度の人員配置が、どこに、何人必要か)などを、正確に把握できていれば、運営の現場単位で解決できる問題も少なからずあったと思います。それが、現場の管理責任者自身が、「私には分からない」、「他で聞いてくれ」、などという対応に終始していたという状況では、物事は全く解決するはずもありません。指揮能力や教育の不備という点では、ボランティアが競技中の選手を携帯電話で写真撮影していた、という問題も生じていたようで、ボランティア政策の根本から、その不備は起こっていたようです。中には、本来アクセスできないはずの選手専用の食堂で、大阪市の職員と思われるボランティアが、堂々と食事をしていた、ということも、掲示板には数件書き込みされており、もしこれが事実だとすると、多額の資金を拠出した大阪市と言えども、大会運営のモラルやマナーを完全に無視した行為であり、彼らの下に配置された一般ボランティアが機能するはずもありません。大会を成功させたい、大会の運営に関りたい、という強い意志を持って参加していたボランティアも数多くいたはずですが、残念ながら、彼らの意志は、ほとんど活かされずに、大会は終わっていったようです。
スポーツ競技そのものは、競技会場で粛々と進むものです。テレビやメディアを通して伝えられる大会の様子の中には、その裏側で葛藤し、奮闘する多くのスタッフの姿は見えません。しかし、こうした裏方のスタッフがいるからこそ、表舞台である競技会場は、粛々と進行することができるのです。ホテル運営、輸送、アタッシェ、フードサービス、情報提供サービス、連絡、記録などなど・・・。50km競歩では、前代未聞の誘導ミスが生じました。これに対して、当時の大阪市長は、「ボランティアがやったことで罪はない」、と発言していましたが、罪とかそういう問題ではなく、ボランティアを集めた、そして起用した大会組織にこそ、大きな意識の欠落があったように思います。
posted by umekichihouse |07:06 |
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2009年02月15日
2007年8月、猛暑の大阪を舞台に、1,930人のアスリートたちが参加して、IAAF世界陸上競技選手権大会が開催されました。9月2日までの9日間に及ぶ戦いの様子は、全世界200を越える国と地域にテレビ中継され、延べ65億人もの人々に視聴されたそうです。そして、この世界的スポーツイベントを、ホストブロードキャスターとして世界に届けたのは、TBSのクルーでした。昨年の北京オリンピックの際にも、テレビ中継制作に携わる世界中から選ばれたスタッフたちの活躍ぶりを取り上げさせていただきましたが、全世界に注目されるスポーツイベントのテレビ中継制作を担うホストブロードキャスターは、大会運営組織の一員でもあり、大会の中核にあるまさに“ホスト”として、大きな責任と義務を負う立場です。そして、その責任と義務を見事に果たし、世界のテレビ界を代表する猛者たちから、見事な評価を得たTBS“チーム”の大阪での奮闘をノンフィクションで描いた回想録が、本として出版されています。タイトルは、「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)です。(2007年12月29日発売) ※以前ご紹介した箱根駅伝での物語を描いた本と併せて、お勧めです。
私も、大会の終盤に、まる1日の間、この世界陸上を大阪で体験する機会がありました。会場となった長居スタジアムは、見事にその様相を変え、隣接する長居公園も、大阪市民憩いの場から、世界陸上仕様に改造されており、スタジアムのメインスタンド側に位置する広場から駐車場に至る広大な敷地は、大会運営専用の通行路となっていたことはもちろん、その大半は、テレビ中継制作用の設備や仮設の建物が立ち並ぶ巨大なテレビジョンコンパウンドとなっていました。そのために、観客の入場口は、長居公園の中に仮設され、スタジアムまでの間を数百メートル歩かなければならない設定になるほどでした。この大会の開催に当り、公園の中にある“ブルーテント”の撤去に関わるトピックが報道されていたこともありましたが、メインスタジアム、第2競技場、球技場といった既存施設はもちろんのこと、長居公園全体が世界陸上開催のためのイベントスペースとして一体化された姿には、日頃サッカーの国際試合でも見られないようなスケール感を感じさせられたことを思い出します。
IAAF、国際陸上競技連盟から、ホストブロードキャスターとして指名されたTBSは、1997年のアテネ大会より世界陸上の日本の中継局として、世界陸上を独占放送してきましたが、日本開催だからと言って、ホストブロードキャスターの任が、自動的に決まった訳ではありません。オリンピックはもちろんのこと、FIFAワールドカップ、そしてこの世界陸上は、世界3大スポーツイベントとも言われるように、どんなスポーツイベントや国際大会以上に世界中が注目するビックイベントであり、その世界中の人々に競技の模様を映し出す映像や音声を制作する技量も、世界一流であることが要求されるのです。事実、2002年に日本で開催されたFIFAワールドカップのホストブロードキャスターには、一部のスタッフを除いて、日本のテレビ局は参加できませんでした。EBU、ヨーロッパ放送連合に加盟するサッカー大国のテレビ局から選抜されたスタッフが、FIFA、国際サッカー連盟の直接の管理下において、ホストブロードキャストチームが特別編成されています。全世界に配信される国際信号(映像と音声)の制作、そして世界中から訪れるテレビ放送権を持つテレビ局、ライツホルダーに対するサービス対応業務など、大会を主催する国際競技連盟と一体化した運営統括組織の一員としての、責務を果たし得る経験や技術力が必要とされるからです。単に名ばかりではなく、世界最高峰の大会のホストブロードキャスターを務められる、ということは、スポーツ中継における世界一流のテレビ制作の力を持つ、という証でもあるのでしょう。
世界陸上大阪大会のホストブロードキャスターにTBSが指名された背景には、長年の世界陸上の国内放送の実績もさることながら、日本のテレビ局のスポーツ中継における制作能力が、世界基準にあることを、過去に示していたという事実も見逃すことは出来ません。1991年に東京で開催された世界陸上です。男子100mでのカール・ルイス、男子走り幅跳びでのマイク・パウエルによるとてつもない世界記録の達成、そして男子マラソンでの谷口選手の金メダル、また、“カール”を連呼していた長嶋茂雄氏のコメンテーター振りも懐かしく思い出されます。そのテレビ中継を担当していたのは、日本テレビでした。そのホストブロードキャスターとしての大役を果たしたスポーツ中継のパイオニアとしての実績は、TBSにも大きく影響していたのです。TBSは、大会の4年前から本格的な準備を始動し、陸上競技というスポーツの理解から始まり、ホストブロードキャスターとは何たるか、というところまで、ひとつひとつ検証していったと、本には書かれてあります。日本では数々のスポーツイベントを中継しているTBSでも、これほどの世界大会での経験値は、ほとんどなかったのです。また、一ライツホルダーとしての実績などは、及びもつかないほどに、ホストブロードキャスターに求められるものは大きいものだったのです。TBSは、実地のテストや経験を積むという意味において、日本テレビが放送権を持つ関東学生選手権や、NHKが放送権を持つ陸上競技日本選手権の、制作の請け負いも行っています。つまり、日本テレビやNHKの放送したスポーツ中継番組の制作は、TBSがやっていた、ということです。常識では有り得ません。しかし、先に述べた2002年FIFAワールドカップで、日本のテレビ局が苦汁をなめた悔しい経験を、NHKでさえ感じていたのでしょう。その名誉挽回の機会を、世界陸上の場でTBSに託したのであり、その成功のための粋な計らいが、その制作の舞台裏にはあったようです。それほど、世界的スポーツイベントにおけるホストブロードキャスターの役割は大きく、そこに求められるものは、世界一流の放送技術のみならず、一流のスポーツイベント運営に関るノウハウも重要な要素となります。
TBSが史上最高規模のスポーツ中継を実現するために、大阪に集結したスタッフは、実に600人を越える数でした。関わった、という意味においては、総勢800人にも及んだ、とも言われています。サッカーの国際大会でも、最大で70人から80人くらい。スタッフだけで、その10倍近い規模の制作体制を敷かなければならなかった、ということです。最大の理由は、陸上競技、というスポーツ競技の特性にあります。陸上競技と並んで、体操競技、ゴルフは、スポーツ中継において最も規模の大きい中継体制を強いられます。複数の場所で同時に競技が進行しているからです。更には、国際信号を制作する場合、それら複数の競技シーンを、ひとつの映像として世界に配信しなければなりません。北京五輪でのテレビ中継を取り上げた際にも、体操競技を例に、インテグレーテッド・フィードの制作について述べましたが、まさにこの“インテ”(業界では略してこう言うそうです)の制作こそ、国際信号制作の柱になるのです。簡単に一本と言いましたが、複数の競技の進行の中で、どのシーンを優先して、どのシーンはVTRで後出しするか、などなど・・・、国際競技連盟のプロダクションマニュアルに示されている規定を遵守するというプレッシャーも重なり、想像を絶する作業がそこにはあるようです。詳しくは本の中にも度々登場しますが、そこでの失敗は、即刻、配信先のライツホルダーからのクレーム対象にもなるため、ホストブロードキャスターに課せられた責任は、本当に重いものなのです。“もう一回やり直し”、なんていうことは、スポーツには有り得ませんから・・・。ちなみに、日本で放送された中継時間は、延べ100時間にも及んだ、ということです。その日本国内向けのテレビ放送は、ユニラテラル制作、略して“ユニ”と呼ばれますが、それだけのためにも専任の制作体制が組まれます。当然のことながら、国際信号では全選手を平等に扱うのに対して、ユニでは、日本選手をフォーカスします。ミックスゾーンでの競技直後のフラッシュインタビューから、ウォームアップの様子、そして賛否両論あった会場内特設スタジオでの番組進行など、そんなユニ制作体制だけでもひとつのイベント中継規模になるのです。
物量的には、中継で使用するカメラの台数だけで106台。ケーブルの長さは百km単位となり、各種放送機材の調達も、日本国内のみならず、世界中から集められたと聞きます。放送制作の前線基地となるテレビジョンコンパウンドは、中継車の数を図面上で拾っただけでも9台。そして、ホストブロードキャスターの心臓部とも言える作業場所は、プレハブ2階建ての総面積2,400㎡。その中に、国際信号制作、国内放送向けのユニ制作の機能が凝縮され、更には、ライツホルダー各局に対するサービス窓口となるブッキングオフィスも設けられます。食中毒事件でニュースにもなりましたが、スタッフ用の巨大な食堂もこの中に設けられています。また、世界中から来日し、長居スタジアムから実況放送、または独自の撮影映像を自国に送り出していたライツホルダーは、70局。この内、20局は、TBSのプレハブから200mほどの位置にあるライツホルダー専用のプレハブ施設に、ワーキングスペースを設けました。ここだけでも、総面積は2,700㎡。そして、テレビ放送に関る電源設備だけでも大規模なものになります。猛暑の中での冷房設備や、施設内の照明用にも使用される一方で、放送機材専用のテクニカル電源も必要となります。これらが混在使用されると、電源トラブルによって放送が中断される危険性も生じるため、想像以上に重要なファシリティーとなるのです。長野五輪で致命的な事故があったということも聞いたことがありますが、大阪ではそんな経験が生きて、トラブルは皆無だったようです。
ホストブロードキャスターには、国際信号を制作するという責務の他に、放送権を有するライツホルダーに対するサービス業務も重要な任務になります。まさに、“ホスト”としての責務です。大会の1年前に世界中のライツホルダーを集めた世界会議が実施され、その場では、会場現地で受けられるサービスの内容が提示されます。有償無償それぞれありますが、有償のサービスには、レートカードという料金表が提示され、その売上げの合計が、場合によっては数千万円から億単位の規模になるケースもあり、その規模から考えると、ホストブロードキャスターの制作の裏側にあるもう一方の業務の大きさと重要性が認識できると思います。会場内に必要とされる施設も、先のコンパウンド内のワーキングスペース以外に、コメンタリーポジション、フラッシュインタビューのポジション、国際放送センター、更には、コメンタリーポジションで行われる実況の音声を、国際映像などと一緒に配信するための施設としてCCR、コメンタリー・コントロール・ルームや、編集ルームなどがあり、これらを一括して設計から管理までの業務を担うのもホストブロードキャスターなのです。
ただし、ホストブロードキャスターは、その機能として、“イコール・ライツホルダー”ではありません。つまり、TBSは、ホストブロードキャスターとしての組織と、ライツホルダーとしての組織の2つの顔がある、ということです。ホストブロードキャスターは、大会運営の中枢である組織委員会の一員でもあり、一方では、大会主催者であるIAAFのひとつの機能ともなります。つまり、ホストブロードキャスターとは、大会運営とも密接な立場であり、LOCと呼ばれる大会の日本側の運営組織である組織委員会との連携と協働の中身が濃ければ濃いほど、大会は成功に向かう、と言っても過言ではありません。人員規模にしても、物量規模にしても、テレビ制作の実務を、その一端だけでも理解することが、スポーツイベントの運営現場で如何に重要かが、よく分かると思います。テレビ制作の専門雑誌には、このような記述があります。「ホストブロードキャスターと組織委員会とが、いい関係を保ち、共通の認識を持つことが、成功へのカギだ」。北京五輪でもホストブロードキャスターとして陸上競技担当を務めたフィンランド国営放送(YLE)のプロデューサーが語った言葉ですが、テレビ制作の現場と、大会運営現場は、機能的にも物理的にも一体であり、当然のことながら、スタッフの意識も共通なものがないと、より良い結果は望めないのです。
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2009年02月14日
最も顕著な例として、大会やイベントのスポンサーを求める時、スポーツ業界には、そのスポンサーシップの価値を客観的に示すための科学的データがほとんどない、ということを感じ続けています。スポンサードする側の企業は、宣伝やマーケティング効果を計る独自の指標を持っていたり、専門機関に依頼して効果を分析する機会を設けている場合もあります。スポンサードを仲介する広告代理店なども、いままでのような、単なる露出的効果のみならず、イベントの集客効果や観客の属性分析を行うなど、次の機会への応用という視点でも、そうしたデータの活用場面を重視する傾向にあるように思います。
こうした中で、スポーツイベントや大会を主催する競技団体や組織における、マーケティングという視点からの機能や能力の貧弱さが、スポンサードしようとしている企業との比較においても、際立ってきているように思います。スポーツは、昔も今も、マーケティング的見地から考えて、優良なコンテンツだった、優良なコンテンツだ、というのは間違いありません。しかし、その捉え方の根本は、イメージ的な捉え方をしているだけのような要素が多いと考えます。新鮮で、純粋で、清潔で、力強く、躍動感があり、・・・などなど。これだけでは、イメージは良しとしても、そこにお金は投下されなくなってきていることを、キチンと見極めるべきだと思います。
◇潜在的なニーズ、ウォンツは、どこに、どれだけあるのか?
◇誰がターゲットなのか?
◇市場は今どうなっているのか?、どう動いているのか?
◇メディアの理解と認識の実際とは?
◇金銭的対価となるものは何か?、それはどこにあるのか?、それは何なのか?
◇情報の発信の仕方は適切か?、情報の収集の仕方は適切か?
それぞれのスポーツ競技が置かれている環境や状況は、当然のことながら一概には語れませんが、それぞれが置かれている環境や状況を正確に把握することなしに、効率的で効果が望める施策など、絶対に出来ないことは確かです。そのためには、イメージや感覚以前に、数値や言葉で、自らが置かれているポジションを把握することがスタートラインであるように思います。そこから、次の一歩の方向性を見出すためのデータがあり、その進捗の途中で、更なる検証データが出てくる。そうした科学的なマーケティング手法を、競技団体や組織自体が、自ら独自のノウハウを築きながら構築していかなければならない時代になってきていると思います。そして、そのために、最近拡大しているスポーツビジネスの教育現場や、その研究者たちを、積極的に活用すべきだとも思います。そして、その場合、単なるオブザーバーやアドバイザーという立場で意見を求めたり、アイディアを提供してもらう、というような論説的な協働ではなく、一緒にスポーツの環境の中に入ってもらって、ひとつひとつ検証しながら、客観的に示せる数値データや分析結果を導き出していく、というような実践的な協働の手法を見出していくことが、重要な課題だと思います。
スポーツイベントのスポンサーシップだけを考えても、イベントの集客する観客の“顔”が具体的に見えてくれば、スポーツイベントを取り巻く人々が優良な顧客に成り得る、という証明として、より具体的なイベントの利用価値を提案できるかもしれません。また、スポンサーシップによる効果の予測も、さまざまなケースを前提として、具体的に示せるようにもなるでしょう。集客される観客の数はもちろんのこと、イベントから発信される情報の頻度や大きさによる波及効果の度合いや、それらを地域的な特性の分析から再検証してみるなど、イベントの内容、集客力、会場施設の利用特性、情報発信力などの側面からの科学的分析が行えれば、それらを金銭という収入源を確保するためのビジネスツールとして活用することができます。もちろん、スポンサーシップのみならず、スポーツイベントの収入構造をさえるチケッティング、マーチャンダイジングなどの戦略要素にも、十分に応用は可能です。
世界的なビッグイベントはともかくとして、日本のスポーツを支えているお金の実態は、補助、寄付、助成といった性格のものが大半を占めている、と言っても過言ではありませんでした。しかし、プロスポーツが多様化していく中で、ファン、サポーター、ブースターなどと呼ばれるスポーツを取り巻く一般からの収入が生まれ、プロ球団にとっては大きな財源になっています。そこから、その入場料の対価としての価値を、より向上させようとして、観客サービスという概念が具体化され、より大きなところでは、ホスピタリティという概念を前提としたイベントサービスという領域にまで、その価値が求められるようになっています。その価値を数値として検証し、更に次の機会への活かし方を構築するノウハウが生まれれば、その価値はますます拡大していく可能性を秘めていきます。その可能性こそ、市場の拡大の余地、つまり、伸びシロということになります。伸びシロは大きいほど、より広く大きな視点での戦略構築を可能にしていきますし、その実行にも余力が生まれてきます。そして、そのすべては、根本となる現状の正確な把握があればこそ、のものでもあります。
外資系のスポーツメーカーは、製造業や販売業というよりは、マーケティング企業という自負があるようです。自らが市場を開拓し、拡大するために、最重要戦略の基本は、マーケティングに置いているのです。競技団体や組織にも、市場を取り巻くさまざまなステークホルダーと協働していくために、今やマーケティング力は必須なのです。
posted by umekichihouse |08:03 |
イベントオペレーション |
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