2009年01月31日
日本国内の9つのスポーツリーグによる日本トップリーグ連携機構(JTL)という組織があります。2005年5月24日に、日本における団体ボール競技、8競技9リーグのトップリーグが連携し、互いのリーグの強化活動の充実並びに運営の活性化を図っていくことを目的に設立された組織です(JTLホームページより)。2006年からは、事業推進委員会を発足させ、重点事業として「国際競技力向上」、「リーグ活性化」、「総合型地域スポーツクラブ支援」、「選手キャリア支援」、「toto販売支援」の5本柱を掲げ、9つのリーグ共通の課題解決や新しい施策の策定を推し進めています。ファンの目から見ると、個々のリーグの存在しか表には見えませんので、このJTLの存在はあまりクローズアップされることはありませんが、このJTLが、国際舞台での競争力を高めるための施策として、それぞれのスポーツ競技におけるトップアスリートの活動基盤であるクラブ組織の経営にもメスを入れ始めました。
大学やスポーツ団体、更には各分野の専門家など、10名の有識者と2名のスタッフで構成される「トップアスリート活動基盤整備事業」プロジェクトと銘打たれた組織は、トップアスリートの活動基盤であるチームやクラブを“トップレベル・スポーツクラブ”と呼び、それらチームやクラブ組織の経営安定という側面から、対象とする9リーグに所属するチームやクラブに対して、アドバイスや情報提供を行っていく、というものです。対象となっているチームやクラブは、7つのリーグから10のチームやクラブが選ばれており、中には、女子バスケットボールのJOMOサンフラワーズなどの日本のトップクラスのチームも含まれています。大半は、企業チームからクラブチームへと発展解消し生まれ変わったクラブが多いようですが、男子ホッケークラブの名古屋フラーテルのように、NPO法人格を取得し、総合型地域スポーツクラブとして活動しているクラブもあります。新興のクラブ組織もありますが、企業チームから、その存続を模索してクラブ組織として生まれ変わって活動しているケースが多いようです。
経済不況の影響により、幾多の名門スポーツチームが、その歴史にピリオドを打ってきた悲しい歴史は、いま、再び繰り返されようとしています。過去にも、特に1998年から2002年までの5年間には、220もの企業チームが廃部または休部に追い込まれました。アイスホッケーの西武、アメリカンフットボールのオンワードなどの完全な廃部や休部以外にも、予算の削減や規模の縮小などを含めると、かなりの数の企業チームが、世界的経済不況の影響にさらされています。そして、今後ますますその影響は強くなっていく可能性が高いものと見られています。西武やオンワードなどは、新たな支援先や受け皿となる企業を模索しているようですが、廃部や休部に追い込まれた企業チームの中には、やはり、クラブ組織として独自の運営による生き残りを模索するケースも出てくるでしょう。また、先の名古屋フラーテルのように、総合型地域スポーツクラブとしての存続形態を見出す場合もあるでしょうし、既存の総合型地域スポーツクラブとの連携や協働を模索するケースも出てくるかもしれません。組織はあっても、指導者や指導するノウハウがない総合型地域スポーツクラブもまだまだあるようなので、さまざまなスポーツの活動環境を作ることが理想であるそうしたクラブ形態での生き残りは、ある意味で良い選択肢かもしれません。ただし、大きな課題も立ちはだかります。活動財源の確保です。企業から給与、または報酬を貰える企業スポーツという環境の中では、全くと言っていいほど障害になっていなかったものが、いまや、単なる努力だけでは解決できない課題が、そこにはあるのです。
「トップアスリート活動基盤整備事業」プロジェクトは、そうした環境にあるクラブや、やがてそうした課題を抱える可能性のあるクラブなどにとっては、有意義なものであるに違いありませんし、そのプロジェクトの目指す方針も理解できます。しかし、どんなに地域と密着して、地域のための活動を通して支援者が増えたとしても、結局のところ、それだけで選手たちが食べていけるだけの財源を確保で来ている状況にはないのです。プロだろうが、アマチュアだろうが、リーグの中での試合を通して得られる入場料収入や、試合の価値を基盤として得られるスポンサーからの協賛金など、リーグも球団もプロとして活動しているbjリーグですら、大半の球団は満足に得られている状態にまでなっていない、と聞きます。スポーツの普及という側面では、クラブ組織の拡大は非常に有意義です。しかし、経営のためにスクールやセミナーなどの事業展開に時間を費やさなければならない環境の中で、“トップアスリート・スポーツクラブ”としての真意は生まれてくるのかどうか、私は個人的に疑問です。もちろん、リーグとしての収益構造を確立しなければ、どんなに個々クラブが一生懸命やっても、具体的な財源は生まれません。
JBLやbjリーグの話題とは離れてしまったようですが、実は、この2つのリーグの在り方を模索して行く上でも、これからの時代のスポーツの底辺を支えるだろうスポーツクラブの存在のあり方を考えることは、重要だと考えています。新しいプロリーグを創設しても、企業チームやクラブチームの形態で存続していこうとする組織もあるかもしれませんし、それら組織の受け皿を、下部組織としてキチンと整備することも、重要な命題になるからです。そして、その下部組織の経営を支える具体的な施策も、理想論を横に置いておいたところで、キチンと論議されなければなりません。そこから、学校の部活動を基盤とした育成から、クラブを基盤とした育成への変革が生まれるのです。
Jリーグやbjリーグのように、毎年のように全国各地に新しいクラブが誕生しています。地域に根ざして、地域に愛されるクラブになろう。しかし、普及だけやっていても強くはなれません。普及だけ進んでも、それだけで食べてはいけません。クラブ経営の前に、リーグの経営システムを整備、構築することの方が、先決であるように感じます。
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2009年01月30日
オリンピックに出場すること。それは、単なるひとつの目的ではなく、大きな命題です。特に、オリンピックから遠ざかっている男子バスケットボールにとっては、広い意味では将来的な普及という側面でも大きな意味を持ちます。オリンピックに出ることが決してすべてではありません。しかし、スポーツを取り巻く日本の社会の中で、メディアからの支持や支援、そしてメディアを通じて認知され、人気が生まれていくというスポーツの実例を見るまでもなく、現状のファンや競技者の規模を維持していくだけの施策では、維持していくことすらままならないでしょう。情報技術の発達によるメディアの力や、プロスポーツの登場によるファンの存在の大きさがクローズアップされる中で、オリンピックという世界が認める大きな舞台に立つ意義は、ビジネスという側面も踏まえて、ますます大きなものになっていくようにも感じます。オリンピックに出場することによる波及的効果、それがスポーツ競技団体としてのマーケティング力の指針にもなり、社会的な認知や人気を得るためのバロメータにもなるのです。
12月17日、日本バスケットボール協会は、長い混乱の一因ともなっていたJBLとbjリーグの分裂状態を打開するための検討委員会を立ち上げました。「トップリーグのあり方検討委員会」。両リーグの代表や有識者などで構成されたこの委員会は、新聞報道などによると、まだ、論点を整理する、という意味合いの組織であるようでもあります。もちろん、直ぐに連携や統合などという具体策を期待する人はいないでしょうから、お互いに最も適切とするところの“あり方”を見出していく、ということなのでしょう。しかし、委員会の様子を伝える報道には、お互いのリーグの利益ばかりを優先するような意見もあり、両リーグのねじれ具合は、たった4年という時間の経過でありながら、かなり深刻なものになっているように読み取りました。事実、単なるリーグ同士の共存とか、連携とかいうこと以前に、日本のスポーツ界独特の企業スポーツを前提としたJBLと、完全プロ化しているbjリーグとの間には、リーグ組織はもちろんのこと、各所属チーム(球団)の経営という論点が大きく立ちはだかります。単に、バスケットボールというスポーツで、どっちか強いか、どっちが優れているか、などという低次元の話ではありません。JBLの大半のチームは企業チームであり、球団としての経営という課題はありません。しかし、bjリーグのすべての球団は、金銭面での収入がなくては経営を維持していけない存在です。親会社が宣伝目的で多額の補助をしていたとしても、それも日本的なプロ球団のあり方ですから、金銭面での収入であることに違いはないのです。プロ球団と企業チーム。この両者を、どのように連携させるのか、共存させていくのか、はたまた統合できるのか???。「トップリーグのあり方検討委員会」の導き出す結論がどのようなものになるかは、前回述べた日本代表の強化という命題にもかかわる問題ですから、非常に大きな責任を負っているといえるでしょう。
先の全日本総合バスケットボール選手権のテレビ中継の際に、日本協会男子強化部長の倉石氏は、フリップボードを使って、日本バスケットボールの将来像についてお話ししていました。この話しの中で、倉石氏は、リーグとしての存在を、現状の2つのリーグの統合でもない、共存でもない、全く新しいプロリーグの創設によって表現していました。恐らく、現状の2つのリーグを一旦発展解消し、その直後に全く新しいプロリーグ組織を立ち上げる。そしてそのリーグに、現状の2つのリーグからの参加を呼びかけていく、というものだと思います。
あくまでも私個人の考えですが、元々こうした考えには賛成、というよりは、この手法しか有り得ない、という考えでした。ルールの違い、チームや球団の経営形態の違い、そもそもリーグそのものの法的根拠(任意団体と民法組合)が異なる中での存在ですから、どっちがどっち、という話では解決の糸口すら見出せません。何やら、朝のニュースワイド番組で取り上げられている独立行政法人の統廃合のようですが、やはり、お互いの利益を守るためにも、一旦はお互いの利益を捨て去る覚悟が必要であるように思います。ギリギリの運営予算の中で必死にやっているbjリーグの各球団にとっては、「いまさら・・・」という声も聞こえてきそうです。しかし、そもそもbjリーグは、日本協会傘下という立場に縛られずに独自にやっていく道を取ることを決意して創設された存在であったはずです。旧JBLが、完全なプロ化を推し進められなかったことによる結果であったことも確かですが、独自の道を歩む決意をしたbjリーグ自体が、この在り方検討委員会に参加しているということは、何らかの意図で共存の道を模索している、とも捉えられることでもあり、完全なる新リーグへの発展解消というプランは、全くの夢物語にはならないようにも思えます。あくまでもひとつの選択肢にすぎないことではあるでしょうが・・・。
2月には、国際バスケットボール連盟、FIBAのエルフィンストン会長が来日する予定、と共同通信が伝えていました。1月に強化合宿のために日本協会幹部が、エルフィンストン会長の母国であるオーストラリアを訪れた際に、2つのリーグの統合を求める要請を受けたらしいのですが、この報道では、来日の際にも再度、同様の要請をする予定であることも明らかにしています。世界クラブ選手権の開催を模索しているFIBAにとっても、過去に、ユーロリーグを巡って苦汁を舐めた経緯があります。だからということではないでしょうが、世界を一枚岩にしていく使命を負う国際競技連盟の責務として、世界のほんの小さな島国のリーグにすら、危機感を覚えたのか、はたまたちょっとしたリップサービス的な発言に過ぎなかったのか・・・。本気なのであれば、FIBAをも巻き込んだ2つのリーグの分裂問題は、日本代表の強化という視点以上に、大きな課題としての捉え方をしなければならないでしょう。外国人が最も重視する信頼という課題に対して、さて、どう出るのか?。机上の論議だけでは済みません。
posted by umekichihouse |05:38 |
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2009年01月29日
お正月恒例の全日本総合バスケットボール選手権大会、通称オールジャパン。今年は国立代々木競技場第一体育館を主会場として、男子はアイシンの連覇、女子はJOMOが5年ぶりの優勝を飾って幕を閉じました。そして、その代々木第一体育館の3F観客席前方のフェンスには、いままで見たことのないメッセージバナーが掲出されていました。“GO FOR OLYMPIC ! オリンピック出場へのひたむきな努力を”。選手やチームを応援するための横断幕に混じって掲出されていた、そのバナーに記載されていたメッセージは、1976年のモントリオール五輪以来、オリンピック出場を果たせないでいる男子にとって、まさに悲願以外の何ものでもなく、そのメッセージを一般のファンの前に堂々と掲出した日本バスケットボール協会、JBAの並々ならぬ決意表明であったとも感じられました。オバマ大統領就任に際しての新聞見出しに准えれば、まさに、“JBA TAKES CHARGE”ですね。
以前このブログでも書かせていただきましたが、オリンピックへの出場とは、競技人口や普及度などという数値以前に、スポーツ競技の世間一般の評価基準として、かなり重いものです。参加することに云々・・・、とか、4年に一度のスポーツの祭典、とか言われる表面的な形容ではなく、オリンピックへの出場を果たせないスポーツ競技団体にとっては、そのスポーツの普及という側面からも、オリンピックへの出場を勝ち取ることは、すべてに勝る命題なのです。それは、オリンピック期間中のみならず、普段のメディア報道の取り扱い方にも露骨に表れます。世界で戦う力の証明、その最も象徴的な指標が、オリンピックへの出場ということなのです。
全日本総合バスケットボール選手権の男子決勝のテレビ中継の中で、NHKのアナウンサーと中継解説を務めていた日本バスケットボール協会男子強化部長である倉石氏は、北京五輪でのテレビ中継現場での様子を振り返って、「あの場に日本がいないことは本当に残念であり、寂しかった」、とコメントしていました。“GO FOR OLYMPIC !”のバナーを前にしたその言葉のニュアンスは、いかにも印象的に聞こえたのは私だけでしょうか?。そして、その倉石氏を交えて、去る21日、日本バスケットボール協会は、平成21年度の男女強化計画の方針を発表しました。記者会見という形式でこの時期に発表するのも異例なことだと思いますが、北京五輪の予選であった2007年のアジア選手権以降、特に男子は、1度もフル代表の招集機会はなく、約1年半もの間、全く日本代表の有志を見る機会がないままに過ぎていた中での、突然の記者会見の開催は、先の“GO FOR OLYMPIC !”というメッセージを、単なるお題目に終わらせない、という、まさに決意表明だったのかもしれません。
女子のU-18でのアジア制覇などと比べて、アンダーエイジ世代でもなかなか結果を残せていない男子は、ジェリコ・パブリセビッチ監督に率いられて2006年世界選手権に向けて強化を進めていた当時にも課題とされていた、世代を超えた一貫した強化システムの具体化に着手するようです。男子日本代表監督には、アメリカから、長年大学バスケット界で手腕を振るってきたデビット・ホッブス氏を招聘。単なるチーム強化ということだけではなく、選手個々の能力そのものから強化の対象とし、育成という視点にも重きを置いたプランが練られていくようです。更に、代表のカテゴリーも、世界の舞台を目指す集団としての形を明確にするため、国際バスケットボール連盟による世界大会基準の世代カテゴリーに再編成し、U-18、そして新設のU-16というアンダーエイジチームを、トップチームとなる日本代表の下に位置づけて、中学生世代からの一貫強化を目指すようです。特徴的なのは、過去にヤングメンと呼ばれていたU-21世代や、ユニバーシアード代表などの大学生世代のカテゴリーを設けず、日本代表の、謂わば“Bチーム”としての位置付けを取っていることでしょう。世界での潮流は、20歳前後の世代は、既にプロ選手として世界の舞台の一線で活躍する世代になっており、この辺でも世界基準に対応した競争力を養おうとする意図が感じられます。そして、“JBA強化指定選手”のような選手「個」の強化を明確に謳った新しい強化計画には、とにもかくにも世界の舞台に立つためのレールを敷いていこうとする強い意志も汲み取れます。まさに、“GO FOR OLYMPIC !”を具体化するための施策なのでしょう。
しかし、選手「個」の強化や、アンダーエイジ世代を含めた一貫強化の体制を、単なる絵空事ではなく、より実践的に進めていくためには、選手が所属する学校、企業、球団というさまざまな組織との連携こそがカギになるように思います。日本の教育システムや、部活動における勝利至上主義のような環境の中にあって、強い日本を作るという意図が、どこまで末端まで浸透して、その協力体制が作られるかが、日本バスケットボール協会に課せられた大きな課題とも言えるのではないでしょうか?。それは、普及という視点よりも、育成や強化といういくつかの犠牲を強いることにもなるスポーツ独特のプログラムに起因します。日常的に活動している所属組織の立場と、日本代表という立場との整合性、スケジュールのとり方、国際的カレンダーと日本的カレンダーとの不具合、などなど・・・。どのスポーツにも見られるように、日本代表の強化にまつわるこうした課題は、選手個々の所属組織との連携なくして成り立ちません。こうした面から考えると、日本のバスケットボール界に存在する2つのリーグの行く末は、非常に重要なテーマとなってきます。しかし、経済的利益の追求や、球団経営という実情、そして企業チームとしての在り方など、プロ化して15年以上の歳月を経ているサッカーの場合と大きく異なり、バスケットボールには、単なる机上のプランや戦略だけでは片付けられない、まさに水と油の思惑がさまざまに存在しています。
リーグの発展こそが代表を強くしていく、という理想には程遠い、難解な課題が2つのリーグの実情でもあります。
posted by umekichihouse |06:11 |
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2009年01月28日
現在、bjリーグの一部のチームもホームアリーナとして使用しているように、多目的ホールでのボールゲームの開催も増えてきています。既存の観客席を有しない施設もあり、また、フロアなどの競技環境もすべて仮設で設置、設営しないと開催できないため、コスト的にはかなりの負担になることは当然です。ただし、アリーナ空間を自由に設計でき、また、観客席の配置を臨機応変に設定できるため、観戦する側からしたら、ある意味で面白い体験が出来るかもしれません。問題はコストなのです。bjリーグの新潟が使用する朱鷺メッセも大きなコンベンションホールですが、仮設スタンド席の設営だけで約1,000万円掛かると言われています。週末の2試合を行ったとしても、1日当り500万円ですから、入場料単価を多少とも引き上げないと、試合興行だけでコストをカバーしようとするとなかなか難しい面もあります。
過去には、国際大会レベルのイベントも、多目的ホールで開催されています。古くは、1999年に福岡国際センターで、シドニー五輪予選を兼ねた男子バスケットボールアジア選手権が、また、最近では、徳島市の“アスティとくしま”で、北京五輪予選を兼ねた男子バスケットボールアジア選手権が開催されました。何れも、開催地地元の行政などが開催費の大半を負担するなど、地元の開催に対する熱意は相当なもので、特に、徳島では、大きなスポーツイベント自体あまり開催された実例もなく、各種スポーツリーグやプロレスなどの興行イベントを除けば、ほとんど始めての開催、と言っていいほどの状況だったようです。
以前、このブログで、ホームアドバンテージについて取り上げた際に、2004年の1月に、仙台で開催された女子バスケットボールのアテネ五輪予選を兼ねたアジア選手権の開催について記述しましたが、その時に、先の徳島での男子バスケットボールアジア選手権に関する内容のコメントを頂きました。内容は、仙台の会場の熱気と比べて、徳島では、会場そのものが観戦し辛く、運営面に対しての改善を求めるものでした。批判的なものではなく、日本代表を応援するファンとして、また、バスケットボールファンとしての希望を仰っていたのだと理解しています。今回は、その徳島での男子バスケットボールアジア選手権について、会場施設というハード面を主体とした検証を述べたいと思います。
そもそも、メイン会場となった“アスティとくしま”という施設は、スポーツアリーナではありません。基本的には、コンサートや演劇などのステージイベントを行うために設計された施設です。可動式の客席や昇降式のステージを収納すれば、大きな展示会なども開催できる多目的ホールとなりますが、照明、音響、大型映像装置等の付帯設備のすべては、ステージイベント用に常設または仮設される設計なのです。この中で、以前述べた会場の利用計画や動線計画などの運営に関る基礎計画を策定していくのは、困難を極めたようです。最も象徴的な問題点は、以下の3点でした。
◇試合コートを取り囲むように一般用の観客席を設置できないこと
(ステージ上に一般観客席を設定すると、チームや大会関係者の動線と渾然一体となってしまい、安全の確保はもちろんのこと、運営上の不備を引き起こす可能性が大きい)
◇運営機能の拠点となるバックヤード諸室が一般観客の動線上にあり、運営スタッフやメディア、来賓等の動線を専用に確保できないこと(一般入場口エリア周辺および同じサイドにしか適切な運営諸室を設けられない)
◇チームや運営関連車輌の通行路となる会場周辺道路が狭く、また一般車輌の侵入も可能であり、特にチームの移動に使用する大型バスの運行に支障があったこと(会場の手前で車輌の進入規制を行ったり、チーム用の大型バスの配車などの運用において、その都度、細かな対応を取らざるを得なかった)
簡単に言えば、設営、運営、輸送など、ほとんどの大会運営機能において、各種の課題を抱えていたのです。こうなると、マンパワーによる臨機応変な対応で、その場、その場を凌ぐしかありません。結果的に、観客に対する対応が十分に取れるようになったのは、大会の後半に入って、この会場独特の運営パターンがスタッフの中に浸透してからのことでした。それでも、1試合毎に、普段はやらなくていいような作業を連続して行わなければならず、スタッフの負担は、通常のスポーツアリーナで開催する際の数倍に達していたと思います。
最も懸念されたのは、コートを取り囲むような客席配置は、動線やアクセス規制の問題、そして、ステージ側にテレビカメラを設置することを、国際連盟サイドが既に決定していたことによるテレビ中継設備の設置要件により、全く不可能となっていました。結果的に、ステージイベントのように、観客は一方方向で試合を観戦するスタイルとなり、会場全体を感性が包み込むような熱気は作れません。観客席規模は3千席にも満たなかったのですが、序盤の日本戦はほぼ満員になった日も多く、関係者は、応援に駆けつけてくれたファンには本当に頭が下がる思いだったようです。しかし、普段の応援の雰囲気とは違って、戸惑った観客も多かったと思います。
外見だけではなく、機能として、国際大会の開催にふさわしい会場だったかどうかという判断は、後のファンを維持していく、または新たに開拓していくためには重要だったでしょう。仮設対応でも対処し切れなかった数多くの苦渋の判断を強いられた関係者の気持ちを代弁するわけではありませんが、会場となるハード面の機能性は、時には大会の成否をも左右しかねないのです。試合にも負け、関係者には、無念の記憶だけが残っているようです。
posted by umekichihouse |07:48 |
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2009年01月27日
スポーツイベントが計画される段階で、支出額の見込み、つまりコスト規模に関しては、往々にして、見込める、または目標とする収入額に応じて設定されるケースが多々あります。特に、地方開催される国際大会などのケースでは、行政などの負担分が財源の基礎とされる場合が多く、また、支出に関しては、その段階ではイベントの実態を掴んでいないケースがあり、概算数字はともかく、必要不可欠な費目の精査もままならないため、過去の実例や類似例を元に暫定計上されている場合の方が多いように思います。その場合、特に問題になるのは、行政の財政負担が突如として減額されたり、予想を超える規模の支出額に、想定した財源負担の規模が追いつかない場合などです。一言で言って、計画性の甘さと言えば簡単ですが、特に、ウインタースポーツの場合、通常の会場施設が整っているアリーナやスタジアムでの開催と異なり、競技会場の整備を一から行ったり、寒さや悪天候対策のための仮設施設の設置や暖房設備などの設備対応も必要となるため、予め必要な費目設定をした上での実施レベルの検証をしていかないと、費目そのものが漏れている場合は、そっくりそのまま予定外支出となってしまう場合もあります。
今年3月上旬に福島県猪苗代町、磐梯町で開催されるFISフリースタイルスキー世界選手権も、数年も前から、大会実施予算に関して、県や町が右往左往している様子が報道されていました。当初の実施予算と比較して倍を超える規模の支出額が飛び出してみたり、更には3倍という数字も出ていました。結果的には、本大会運営費を含む20年度予算は総額5億1282万2000円ということで組織委員会の発表がありましたが、期待していた協賛金もなかなか集まらないということも聞き、福島県や猪苗代町などからの補助金計1億6250万円も、どこまで膨らんでいくのか、心配の種はまだまだ尽きないようです。日本で常に世界トップレベルのスポーツ競技シーンを見られることが続けられるように、ひとつの大きな失敗が悪しき例にならぬよう、ぜひ成功させて欲しいものです。
最大の課題は、初期段階でのコストに関する精査でしょう。特に、精査すべき費目の策定が、あまり具体的に考えられていなかったのではないでしょうか?。行政がスポーツイベントの予算書を策定する際の費目は、概ね非常に大雑把で、例えば、仮設施設のためにいくらとか、どれどれの緊急対策のためにいくら、などという細かな費目については、実際に精査しているのかどうかはわかりません。もちろん、国際スキー連盟から、大会に関する何らかのレギュレーションが出されているはずですから、開催地としての負担や、業務としての義務に関する内容は把握されているはずで、それに対する実際の業務の内容と実行費用の見込みを丁寧に積算するだけで、数倍もの見込み違いを生むことはないはずです。もしゼロならばそれでひとつの精査は出来るわけですし、精査すべき費目が抜けていることが一番怖いことなのです。やるべきことなのに予算がなく出来ない。これでは、国際大会を開催に向かってのスタートラインにも付くことは出来ません。
アリーナやスタジアムで実施されるスポーツイベントでも、前回までに述べたように、施設要件によっては予想外の支出を強いられるケースがあります。しかし、これも、支出費目として予め想定されていれば、施設要件において不必要な費目はゼロになるし、必要な場合は、その施設の状況と開催レベルの応じた規模において精査していけばよいことです。例えば、アリーナ施設におけるインドアスポーツの場合では、以下の6点に絞って、前々回述べたような会場の利用計画や運営計画で見出した要件を当てはめながら、まずは必要とされる競技会場の設営内容を吟味していきます。この場合、競技会場の既存施設や設備でカバーできるケースでは、会場施設使用料としての負担は増えますが、仮設などの設営費用に関しては負担が軽減されるということになり、その辺は最良の手法や手段を見極めていくことが重要になります。
1)競技会場の使用料(付帯設備や備品の使用なども精査していく)
2)仮設制作に関する制作費用(仮設対応で設置しなければならない制作物の制作原価)
3)終了後に減価償却されてしまう会場装飾用などの看板、サイン、掲出物などの制作費用
4)電気や通信に関する工事費用(競技会場の既存設備の能力に応じて異なってくる場合あり)
5)外部から持込が必要な什器や機材、備品に関するリースや手配費用(競技会場に常備されているもの以外)
6)設営、撤去に関する人件費、輸送費、諸雑費などの経費
あくまでも私個人のやり方かもしれませんが、4)の専門資格や技術が必要な工事費用は別として、設営に関る人工さんや大工さん、またはアルバイトのスタッフなどの人件費は、設営全体の計画の中で複数の作業を担当することから、ひとつひとつの作業の中に人件費や輸送費、諸雑費などの経費は含まずに積算し、それらは別の項目として算出します。つまり、2)の規模が大きければ大きいほど、関わる人工さんの数は多くなりますが、その設営作業が終了した後の作業では、複数の作業を同時並行で進められる規模の人数ということで、作業スケジュールの組み方次第で、個々の作業を積み上げて必要な数のスタッフを揃え、そこにそれぞれの人件費が計上されるよりも、効率的で分かりやすい費用の精査を可能にします。極端に言えば、テーブル一本だけ設置するのに、そのためだけにスタッフの人件費を支払うことはないのです。輸送に関しても、混載可能な方法を考えたり、車輌運用の効率を考えることが、この考えに基づけばできるのです。一概には言えませんが、これは、搬入口のコントロールが煩雑になる搬入や搬出時のリスクを軽減することに繋がります。個々の作業別に搬入や搬出用のトラックが出入りするのでは、トラック車輌自体が作業場の大きな障害物になりかねません。そこで、輸送のシステムを可能な限り効率化することによって、そうした煩雑作業を減少させ、更には輸送コストを軽減しようということです。
既存固定席だけで4,500~5,000人程度収容可能な客席規模を有する築20年以上の体育館で、ボールゲームの国際大会を開催した際に掛かる平均的な設営費用について検証してみます。<参考例>
◇アリーナ席用仮設スタンド席用部材ユニット関連費(イスは体育館常備備品を使用) 約689万円
・コートサイド用 2組 約434万円
・コートエンド用 2組 約255万円
◇コート周辺及び仮設席上テーブル席設置関連費(W1,800mm幅テーブル計60台をすべて持込み、イスは体育館常備備品を使用、プレス席、競技運営関連席、その他) 約46万円
・テーブル及びテーブルクロスリース 約28万円
・テーブル席嵩上げ用山台 約18万円
◇その他メインアリーナ用仮設制作関連費 約9万円
・テレビカメラ用イントレ台 約3万円
・スコアボード用イントレ台 2組 約6万円
◇2F客席内仮設テーブル席設置関連費(設置可能仕様の新規制作テーブル計12台をすべて持込み、イスは既存客席のイスをそのまま使用、コメンタリーポジション) 約30万円
・テーブル及びテーブルクロスリース 約30万円
◇その他スタンド客席内仮設制作関連費 約8万円
・テレビカメラ用イントレ台 3組 約8万円
◇各諸室内整備設営関連費(テーブルおよびイスは体育館常備備品を使用) 約124万円
・会議室以外の土足禁止室内床養生対策 約500㎡ 約20万円
・間仕切り用パテーションボードリース 120台 約84万円
・キャビネット、スチール棚等什器リース 約20万円
◇各入場口および受付の整備設営関連費(テーブルおよびイスは体育館常備備品を使用) 約6万円
・屋外テント 2張 約6万円
◇各種看板、サインボード制作関連費(建込み用材料費含む) 約220万円
・メディアエリア用バックドロップボード 3式 約46万円
・大会タイトル表示看板 2式 約25万円
・インフォメーション用ボードパネル 2式 約25万円
・立看板 25枚 約68万円
・サインボードおよび表示パネル 80枚 約56万円
◇電気工事関連費
・幹線工事、分電盤設備、コンセント設置工事等 一式 約136万円
◇設営および撤去作業経費 約480万円
・設営管理者および本番期間中メンテナンス要員 延べ15名 40万円
・人工およびアルバイトスタッフ 延べ180人 約310万円
・重機使用(フォークリフト) 8台 約20万円
・設営関連輸送費(10tX12台、4tX6台) 約110万円
上記合計で、約1,748万円となります。ちなみに、仮設によるロッカールーム設置には、2部屋の工事費込みで約900万円掛かります(空調、照明設備費含む)。また、冷房設備が完全に完備されていない施設の場合などは、最大で1,300万円前後の費用が掛かります。会場施設の貧弱さは、即、コストに跳ね返ってくる、ということです。
国際大会では、可能な限り思惑を排除した上で、その時点で考えられる収入規模を慎重に積算し、その金額を上限として、運営規模、つまり、大会の開催に関わる支出費用を精査していく手段もあります。しかし、この場合、積算から算出された支出規模ではありませんから、計画が具体化した時に精査する金額とかなりの開きを生じる場合があります。その場合は、どの費目要件がそのオーバーする分に相当するのかを、正確に見極めておく必要があります。つまり、オーバーする分は、場合によっては赤字決算となる要因になるものですから、競技上のレギュレーションや、運営上のリスク、または大会全体に影響するような開催内容の貧弱性を露呈する場合などを想定して、犠牲にすべきものを、ひとつひとつ精査していくのです。欲を言えばキリがありませんが、天井が明確に設定されているわけですから、そこは英断しやすいところでもあります。これをやれるかやれないかも、スポーツイベントに関わらず、すべてのビジネスにおけるは面と同様に、経営的なセンスが問われることになるのでしょう。また、そのセンスを持ち合わせるトップが存在する運営組織があれば、必ずやそのイベントは成功に向かうと思います。
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2009年01月26日
スポーツイベント、特に国際競技連盟が主催する公式大会では、競技日程以外に事前の公式練習などの公式スケジュールも設定されるため、競技会場の設営は、大会本番の1週間前から行われるケースもあります。競技の種類によって、設置が決められている競技器具や設備などの設置や調整にかなりの時間を要したりする場合もあり、一概には言えませんが、ボールゲームの場合などは、下記のような流れが一般的ではないかと思います。
◇設営第1日目: 墨出し、試合コートの設置、競技用具の設置、試合コート周辺のテーブル配置など
各運営諸室への備品や什器の運び込み、または運び出しなど
仮設スタンド席の設置、可動席・移動席の設定など
◇設営第2日目: 看板等の装飾制作物の設置、各種台座などの仮設制作物の設置
電気工事(幹線工事~配電ケーブルの配置など)
通信回線工事(幹線工事及び必要機器の設置~通信ケーブルの配置など)
運営用各種電機・電子機器の設置
※通電後、各種機器および通信回線などのテスト
各諸室用備品およびリース品の配置
◇設営第3日目: 会場内外に各種サイン、案内看板、案内表示などを設置
テレビ中継用機材、設備などの設営
アクセス規制用プラスチックフェンス、ボードなどの設置
競技環境の最終インスペクション
各種テクニカルリハーサル
リハーサルゲーム(本番シュミレーションテスト)
ゲームエンタテイメントなどのリハーサル
◇公式練習第1日目: 試合コートにおける公式練習
※競技関連業務は稼動、会場運営業務は観客対応の準備
※場合により、メディア受入開始
◇公式練習第2日目: 試合コートにおける公式練習
※大会前日に行う各種テクニカルミィーティング
※場合により、開会式、または公式レセプションの実施
つまり、設営に3日間要する設定ですが、実質は2日間で仮設用電源位置に至るすべての場所で通電し、通信回線が使用可能な状態になっていることが必要となります。大会運営用に設置される各種機器は、通電して初めて使用可能となり、しかも使用テストが開始されます。また、インターネット回線も含めて、すべての通信回線に関しても同様です。逆に、テーブルの一台一台が、計画通りの位置に設置されていないと、そこへ設置されるはずの電源タップや通信回線の分配器が取り付けられませんし、その工事が終わらなければ、視覚的に装飾を施すためのカバーや看板の設置もできません。看板設置後に配線のやり直しなどがあると、作業効率が悪くなってしまうからです。ましてや、仮設スタンドなどの大きな仮設物のやり直しなどは、とんでもない時間のロスを招きます。
作業のほとんどすべてを人の手によって行うものですから、ひとつひとつの作業は、同時並行で進むことはもちろんのこと、設営スタッフの役割と作業の手順を事前に綿密に計画しておかないと、延べ人数にして膨大な人件費をロスしかねません。人員を削減するのではなく、適切なシフトと配置で、効率を考える、ということです。また、会場に運び込む機材や備品の納入スケジュールも綿密に計画しなければなりません。事前に、納入側に対して、厳重に通達しておく必要がある場合もあります。そのためには、会場で使用可能な搬入口の使用に関する事前の取り決めも必要です。最も効率的なのは、搬入口単位で時系列によって搬入スケジュールを組み立てておくことです。精密機器が納入された後に、バスケットのゴール等の大型の機材が搬入された場合、精密機器を傷つけたりする場合も想定できるからです。
更に、時間的には設営の半分以下、時には1/3以下の時間で作業を終えてしまう撤去と搬出の作業ですが、これは、設営時以上に作業が一時に集中するため、撤去の手順や順番、大型機材などの一時的な止め置き場所、そして搬出口毎の運用方法を、事前に段取りと時系列での計画を、設営時以上に綿密に想定しておく必要があります。電気ケーブルの撤去中にテーブルの運び出しを行っていて、ケーブルに引っかかり大怪我をしたケースなどもあります。早く作業を終えたい、というのは誰しもが考えることですが、複数の作業が混在して同時並行で進んでいることを意識しておかないと、効率的でないこと以上に、危険が伴うのです。特に、撤去や搬出は、深夜の時間帯に行われるケースが多いため、会場の周辺環境によっては、騒音対策のため、搬出時間に制限を設けている施設もあります。
効率を求める上でも時間との勝負ですが、時間を上手く操る計画性も、イベント運営の技術だと思います。
posted by umekichihouse |05:27 |
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2009年01月25日
日本のスポーツ施設、特に、インドアスポーツ用アリーナ施設のスポーツイベントなどの興行を前提とした機能面における不備の多さについては、以前、このブログでも取り上げました。スポーツイベントにおける会場設営と仮設制作の最大の課題とは、イベントの会場となるその施設要件との戦いでもあるのです。しかし、その課題とは、観客席などのキャパシティやメインアリーナとなるエリアの広さなどの単なる施設規模だけを指すものではありません。問題なのは、イベント運営上の“機能”に関する不備なのです。また、この課題は、施設の機能不備を仮設で対処することにも繋がり、結果的に、興行原価の抑制の足枷となりやすいコスト面にも大きく影響します。一方で、会場作りに多大な時間を要することにもなり、場合によっては、余計な日程を設営のために使わざるを得なくなり、これも結果的に、会場の使用料金、つまりコストを膨らませてしまうことにもなります。
2006年に日本各地で開催された男子バスケットボールの世界選手権においても、会場となった施設要件の問題で、関係者は大きな悩みを抱えていたようです。特に課題とされた内容は、下記の通りです。
◇チームロッカールームが4部屋整っていないこと、また、その対処として、仮設設置せざるを得ない会場があったこと(空調や給排水設備などの設置も必要となり、建築許可など手続き上も負担が大きくなった)
◇VIP用のホスピタリティルームの適切な場所での設定が難しかったこと(誘導などの作業において一般観客との区分が出来ずに人的対応規模を増大させて対処せざるを得なかった)
◇国際大会、しかも世界選手権というレベルでのメディア取材規模に対応したスペースや機能を有するワーキングルームなどの適切な場所での設定が難しかったこと(予選でも100から200人、決勝では500から600人規模のメディアが作業するためのワーキングルールスペースが、試合コートから遠い場所にしか設けられなかったり、通路スペースに仮設設置せざるを得なかった)
◇試合コートの周りに既存設備として使用可能な可動席、または移動席が完全にない、もしくは個席仕様の座席ではないため、一部会場では数百人規模の仮設席をアリーナ面に設置したこと(特に、コート周辺に設置されるテーブル席として設置されるべきプレス席や、テレビカメラ設置のための台座設置のために、専用の仕様による仮設席ユニットを持ち込まざるを得なかった)
◇メインアリーナの既存の照明設備の照度が低く、電球の交換などの対策を会場側に依頼するも、そのコスト負担の問題で交渉にかなりの時間を要したこと(会場によっては規定レベルの半分程度の照度しかない場合もあり、古い施設の場合は、根本から対策を練らなければならなかった)
◇可動席、または移動席の設備に対する故障を防ぐために、客席での飲食が禁止されていたケースがあり、その対策としての設備検証や適切な対処策に関する調査や手続きに時間を要したこと(興行という側面から、客席での飲食は必要不可欠な要件であり、清掃対策の負担を軽減するための措置として、一律に規制方針を採る行政主導の規制がある中で、許可を得るための交渉と対策に苦慮した)
その他にも細かくはいろいろあったようですが、最も大きな課題は、チームロッカールームの設定にあったようです。1日に複数の試合を行うボールゲームの大会の場合、前の試合中に次の試合の対戦チームが来場するため、4つのロッカールーム設備は必要不可欠なのです。しかも、シャワー設備があり、しかも適切な広さがなければなりません。通常の町の体育館設備はともかくとして、興行に対応していると思われる施設においても、現状、日本にあるアリーナ設備の大半は、この点における使用条件が十分とは言えないのです。運営計画の精査により、施設の運用によってどうにか対策を練ろうとするのですが、多くの場合は、国際競技連盟のレギュレーションをそこまで曲げることもできず、仮設対応せざるを得ない、というのが現実です。コスト面においても、時間の有効活用という面においても、ほとんどの場合は、主催者の意図通りに事は運びません。
また、アリーナモードで2万人収容という日本最大レベルの規模を誇るさいたまスーパーアリーナでも、スタジアムモードとの切り替え使用を前提にしての構造に起因してか、選手、メディア、そして運営と、それぞれが干渉し難いアクセスコントロール計画を整備しようとしても、なかなか理想通りには行きません。特に、500人を超える収容規模のメディア用のワーキングルームの設置に関しては、広い部屋はあっても試合コートとの位置関係から考えて、あまりに不適切に位置にしかないのです。また、コートとメディアワークルーム、記者会見場とを結ぶ動線上に、試合後のインタビュースペースであるミックスゾーンを設定しようとしても、そのスペースを適切に確保できる場所は、運営上最も重要な動線の一部でもあり、また非常に狭いスペースしか確保できません。観客にとっては非常に見やすく快適な観戦環境を作り出す素晴らしい施設なのですが、一歩裏側に回ると、運営上の不具合があちこちに見られるのです。設計上はアメリカのスポーツ施設を参考にしている、ということを聞いたことがありますが、外観だけを見て、あまり、実際の運用面での検証はなされていなかったのかもしれません。ちなみに、2006年の男子バスケットボール世界選手権の際には、南側の可動席を使用せず、約430席分のプレス席と、18ポジション分のテレビ中継用のコメンタリーポジションを、テーブル席を設置する仕様での仮設スタンドを組んでいます。どんなに素晴らしい施設であっても、プロスポーツなどの日常的なスポーツ興行が、アリーナ施設ではまだまだ少ないためか、運営機能面における付帯設備や施設の要件は、まだまだ貧弱と言わざるを得ません。実際のノウハウを注入する機会が、建物の建設とは、全く異なる次元でしか検討されていないのかもしれません。
一方で、競技設備をそっくりそのまま仮設設置したケースもあります。2001年に福岡市で開催されたFINA世界水泳選手権大会です。テレビ朝日が初めて本格的な世界大会レベルでのホストブロードキャスターを務め、パチャポというマスコットも登場し、世界のトップスイマーを凌ぐ日本選手たちの活躍によって、特に競泳種目への人気は、これ以降、格段に大きなものになっていきました。この大会で最も注目されたのが、大規模コンベンション施設であるマリンメッセ福岡の多目的展示室に設置された世界初の室内での仮設による50mプールです。
当初の計画では、福岡市内に公認のコースを有するプール施設が建設される予定だったということですが、バブル崩壊後の不良債権処理の余波などで景気の回復は遅れており、地方行政の財源も厳しいものだったようで、結果的に仮設での対応しか選択肢はなくなったようです。その際に、福岡ドーム内に仮設プールを設置する、という案もあったそうです。しかし、福岡ドームのグラウンド上に50mプールを設置した際にかかる荷重が大きすぎて、耐久レベルを超えることが判明し、結果的に、マリンメッセ福岡に設置されることになった、ということです。室内施設での仮設プールの設置は、短水路ではスウェーデン社製などの25mプールでの実績はあったものの、50mプールとなると世界的にも実績がなく、仮設設置計画に関してはかなり難航したようです。そこで登場したのが、プール施設の製造で日本で最も実績のあったヤマハ発動機です。ヤマハ発動機は、モーターサイクルやボート、ヨットなどのマリン関連事業で有名ですが、実は、レジャー施設、病院や福祉施設、そして国立スポーツ科学センターなどの競技用施設へのプール設備の導入事例で国内トップクラスの実績があり、その数も2万件に迫る規模だということです。そして、数々の実績とノウハウを結集して、マリンメッセ福岡に設置された仮設プールは、長さ50m、幅25m、深さ3mの世界水連公認の世界初の室内用仮設プールが導入されることになりました。
世界選手権大会を開催するには「施設建設費・プール工事費・施設維持管理費」など、当初の計画通りに行えば、莫大な費用が必要となりますが、既存施設を利用する特設プールならばプールを仮設できるので、大幅なコスト削減が図られます。また、側面で㎡単位約4トン以上の水圧がかかるとされた水圧に対する耐久性の問題に対しては、荷重を分散させる支持材の配置を行って、きめ細かな強度設計を実現したようです。「水夢21」と名付けられたFRP製の仮設プールは、大会前の設営に2週間、大会終了後の撤去に1週間と、設営撤去にも大会運営上、想像を超える大きな負担となる時間を要さずに済ますことが出来、大会の大きさと波及効果から考えれば、まさに施設要件との戦いに打ち勝った事例として賞賛されるべきものだと思います。また、仮設プールが設置された際のフロア面は、丁度2階のフロアの位置にあたる場所にあり、その位置から壁面に向かって仮設スタンド席も設置され、期間限定の世界仕様のプール施設が、ほぼ100%仮設設営によって生まれたのでした。
2001年の福岡世界水泳では、メインプールとなったマリンメッセ福岡の他にも、博多の森テニス競技場には、水球競技用のプールとして、長さ35m、幅22m、深さ2mの仮設プールも設置され、更には、マリンメッセに隣接するコンテナヤードにも、ウォームアップ用の50mプールも仮設設置されています。博多の森テニス競技場では、既存客席の中断辺りから上の客席は、通常通りに使用されるなど、既存設備も生かした効率的な運用が計画されたようです。東京だと、有明コロシアムに仮設プールが設置される感じですね。ちなみに、短水路での世界選手権大会は、世界各地の著名なアリーナ施設でも開催されており、私も、アメリカ・インディアナポリス市にあるNBAのインディアナ・ペイサーズが本拠地とするアリーナで実施される際の計画図面を見ましたが、客席の目の前にプールがある臨場感があり、普段見慣れている既存のプール施設で観戦する水泳競技とは、一味違った競泳の迫力を体験できるかもしれません。ますます進歩する仮設技術が、アリーナ施設の可能性を広げているのです。
しかし、一方で、仮設設営される要件が、その規模が大きければ大きいほど、事前の現場検証が出来ない部分が多くなります。特に、競技エリアの周辺に設定されるべきテレビ中継放送設備やメディアの取材エリアなど、実際に仮設設備が設置されないと細かな確認が出来ないものも多く、大会本番の直前に変更に次ぐ変更を強いられたり、これも仮設されたスタンド席上部からのカメラアングルや、コメンタリーポジションからの見え方に支障があったりと、ホストブロードキャスターを務めたテレビ朝日のスタッフのご苦労も、相当なものだったと聞きます。この世界水泳以外にも、先の男子バスケットボール世界選手権でも、仮設スタンド席からの見え方やミリ単位での設置位置の検証は、実際に設置してみるまで分からない点も多々あったようです。さいたまスーパーアリーナでは、500席以上の仮設スタンドを、既存の客席ブロックと連結しなければならなかったために、高さや横の位置が微妙に狂うだけで危険を生み出してしまう可能性が出てしまいます。私がよくやるのですが、事前の計画図面上で、単に平面的な図面だけではなく、かなり危ないと思われる場所に関しては、必ず側面からの位置関係を図面上で確認するようにしています。つまり、断面図です。後ろの人の目線を前提に、前にある障害物が視野にどれだけ影響するか・・・などということを検証するのです。客席からの見切れの問題なども、大半はこれで事前に解消できます。
会場となる施設の機能性が興行面において優れている、または、競技の運営上、適切な対応が可能である会場施設は、特にアリーナ施設においてはなかなか見当たらないのが現状です。海外の最新の施設の情報を見ると、そのままでいつでも大規模なイベントが開催できる機能が備えられているようで、本当に羨ましい限りです。
posted by umekichihouse |06:42 |
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2009年01月24日
あくまでも、私が経験してきた、または携わってきたスポーツイベントを例にすると、一定期間の開催日程で行われる国際大会や単発のイベントを問わず、イベントの実施に向けて最初に行うことは、競技会場作りに関する計画を策定することです。会場として想定されている施設の各種要件に基づいて、スポーツ競技毎の特性を踏まえた上で、イベントの運営機能をどのように配置していくか、そして、イベント運営の対象となる関係者の動線をどのように設定していくか、更に、アクレディテーションカードの運用を前提として、アクセスコントロールをどのように具体化していくか・・・、などという競技会場の利用計画に関連する最もベーシックな計画案です。
次に行うことは、競技会場の利用計画を前提として、その中に配置すべき運営スタッフの業務職種、人数規模、必要とされる適性能力などを踏まえて、人的対応に関わるイベントの運営に関する基礎的な計画を策定することです。“基礎的な”と付け加えたのは、ここではあくまでもイベント運営の基本方針や運営規模をシュミレーションするだけで、具体的な各業務別の運営計画は、それぞれの業務単位の組織で構築されていくものだからです。その情報集積の結果が形になったものが運営マニュアル、というわけです。
また、会場作りに関する計画と、人的配置による運営計画とは、常に連動するものですから、計画の精査や見直し作業において、一方的な捉え方をするものではありません。つまり、会場作りの計画に合わせて人的配置を計画しても、その規模や運用に問題が生じる場合は、会場作りの計画そのものを変更、または調製しなければならないのです。逆に、物理的な欠陥やコスト面における負担が大きくなることが想定される場合は、会場作りの計画を優先して、人的配置の規模を拡大し、運営計画で会場施設の不備を補わなくてはならない場合もあります。
こうして、イベントの基本計画が策定された段階で、会場作りにおける設営要件を吟味します。会場施設の不備を補う仮設設置が必要な内容はどうか、リース品や会場にある常備備品で対応できるものはどれだけあるか、また、会場の使用期間終了後にイベント主催者に義務付けられる原状復帰作業を踏まえて、常備されている既存備品や設備を移動して使用する場合の対策なども考慮しなければなりません。この段階で、初めて設営関連の専門スタッフや専門会社との間で、設営の手法や手段、そしてコスト面などの要件を踏まえた具体的な設営計画が話し合われます。イベントの基本計画が精査されない段階で会場の設営に関する内容を吟味しても、時には会場の装飾に関することだけに終始してしまったり、時には実際にスタッフが配置されてイベントが稼動した段階で必要とされる設営要件が見落とされてしまったりと、ソフト面である人的配置に基づく運営計画と、ハード面である設営計画が、それぞれバラバラの目的や方針に向かって走り出してしまうケースもあるのです。つまり、事前に計画される会場の利用計画や基礎的な運営計画は、会場作りを具体化するための設営計画の舵取り役になります。また、設営図面が作成される前の、イベント運営の基礎計画を表した運営計画図面がそれに当たります。
会場となる施設を、イベントの内容に合わせて作り上げていくのは設営業務を専門にしている会社へ発注されることはもちろんですが、イベント主催者としては、彼らに提供すべき情報を、出来る限り事前に精査して計画することが求められるのです。結果的に、それは、コスト面においても、イベントの準備または期間中のトラブル対策や計画変更という事態に対処する場合においても、例えば、たった一台のテーブルの配置だけでも、“どのような意味があるのか”、ということを理解して事に当たるのと、理解しないまま事に当たるのとでは、全く作業効率が異なってきます。逆に、イベント毎の運営の細部まで理解している設営スタッフがいることにより、事前の基礎計画以上のアイディアが生まれるケースもあります。
あくまでも私が日頃取っている施策に過ぎませんが、イベント会場の運用に関して私が事前に作成している運営計画図面には、次のようなものがあります。
1)会場利用計画図面(イベント運営上必要な諸室機能の配置、施設要件上仮設対応が必要な内容、客席の配置とシーティング、イベント演出やテレビ放送制作等における持込設備の配置など)
2)会場動線計画図面(イベントに関わる関係者の会場内での動線を、利用計画図面に基づいてシュミレーションし、入場口の配置や駐車位置などの想定に関する内容まで検証したもの)
3)会場アクセスコントロール計画(上記2つの計画図面に対して、選手専用エリア、運営専用エリア、その他の規制エリア、そして一般観客エリアなどのゾーニングをシュミレーションし、アクレディテーションカードによる会場内のアクセス規制と警備ポイントを検証したもの)
4)運営諸室およびエリア内整備計画(各運営諸室およびエリア毎に、会場常備備品や外部からの持ち込み備品の配置、OA・IT・AV機器などの配備、必要臨時電源の配備、必要通信回線の配備、その他運営什器の配備などを検証したもの)
世界選手権などで使用する会場が複数になる場合などでは、図面資料だけで膨大な量になるケースもありますが、イベントの運営全体の計画を、適正なレベルで計画していくための基礎的な資料になります。よって、会場に想定される施設のインスペクション作業はもちろんのこと、既存の設備状況に関するスペックなどの情報収集作業は、想像以上に時間が掛かる作業になるのです。会場施設の機能面における課題が大きければ大きいほどに。
posted by umekichihouse |07:02 |
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2009年01月23日
スポーツイベントにおける試合会場での来賓接遇および来賓対応業務はもちろんですが、プロトコール(Protocol)業務には、対象となる人物のインビテーションに関わる業務、つまり、対象人物の確認、その対象人物のすべての来賓の中におけるカテゴリー区分、対象規模の確認、そして招待する上での手続きなどの事前業務も含まれており、イベントや大会の期日の数ヶ月前から、その業務の本番は始まっています。
まず、プロトコール業務の対象者を、その現在の肩書きや立場を、スポーツにおける場合や社会的ポジションを含めて、序列を形式的なカテゴリーとして区分します。どこかの競技団体の会長は、一国の元首や国王である場合もありますし、企業のトップである場合もあります。各人物の立場や社会的ポジションは、競技団体などのスポーツ組織の中でのもの以上に、社会的に重要な地位である場合もあるので、このカテゴリー区分の作業は、国際儀礼としてのプロトコールの知識と経験が重要になります。更に、そのカテゴリー区分に応じて、イベントや大会としてのサービスの内容も異なりますし、最終的には、試合観戦する際の席次にも大きく影響します。また、それぞれの対象者が、試合会場の現場まで、どのようなルートで来場されるか、また、海外から来日する場合などは、そのフライトスケジュールや、もちろん宿泊に関する対応、車輌手配などの以上手段の確保まで、事前に正確な情報を得ることも重要な業務のひとつとなります。現場で混乱しないことはもちろんのこと、セキュリティ対策を要する人物の場合などは、警備や関係する公的機関などとの連携も必要になり、イベント運営機能全般にも多大な影響をもたらすケースも生じます。
基本的には、イベントや大会の主賓として最高ランクの接遇を行う対象を、VVIP、その下の通常の来賓として接遇を行う対象を、VIPなどと区分しているようです。ちなみに、招待という意味において、スポンサーや大会関係組織から無償での観戦機会を提供される対象が、どんなスポーツイベントにもいますが、それら一般的な招待という対象には、特定の座席や、時にはプログラムや大会グッズなどのお土産が付くサービスを施す場合もありますが、プロトコールという概念に則った接遇業務の対象からは除外されます。あくまでも、イベントや大会に対する貢献に対するサービスとしての対応に留まります。(大規模な国際大会では、特定の枠内ではあるものの、一般招待者を対象として、ホスピタリティスペースの利用やその他の特典を付与する場合があります。スポンサーによるキャンペーンの懸賞特典として、また、ディーラープロモーションとして、得意先の接待などにイベントの場を活用するケースなどです。)
プロトコール業務では、来賓が観戦する座席エリアの配置や席割りの決定も重要なプロセスの一部です。特に、貴賓席やロイヤルボックスと呼ばれる最高ランクの座席エリアは、その中でもどの位置が最上位の席か、という設定課題もあります。これらは、会場運営を担う業務組織との連携により、時には仮設設営を施す必要があったり、一般席のエリアまで拡充したエリア設定を施す必要がある場合もあります。試合会場の既存の施設要件によって、かなりの作業負担を強いられるケースも多々あります。VVIP、VIPの観戦座席エリアの設定は、イベントや大会を主催する国際競技連盟(IF)毎に、その考え方や方針は一律ではありませんが、それぞれのIFの経験値や開催国の慣例、そして来場する来賓のレベルによって、セッティング計画が組み立てられていきます。これら作業は、ハード面での計画以上に、対象となる来賓の詳細の確定がギリギリのスケジュールになることが往々にしてあるため、本番直前になるまで確定しないことの方が多いようです。私が知っている専門の方々も、相当我慢強い人たちが多いように思います。また、この業務は、会場の現場よりも、そこまでの準備プロセス作業の精度によって、業務の成否が決してしまうので、専門的な知識や、特に経験がものを言う仕事である、とも彼らはよく言います。
試合会場の現場では、来賓専用の駐車スペースの位置、車寄せ、入場口、受付、来賓席、ホスピタリティスペース、そして、それらの結ぶ場内での誘導動線の配置や計画が、会場運営組織との連携で、プロトコール業務としても重要な業務になります。特に、一般観客との動線区分や、時には対象者が競技団体の関係者である場合、選手やチーム関係者との接触を要望する場合もありますので、適切な対応が取れるようなアクセスコントロールを事前に計画しておく必要があります。ADカードと呼ばれる身分証兼通行証を、特別な場合を除いて、VVIPにも携帯していただきますので、そのADカードに、一律でのルールがあることを前提として、それぞれの対象に応じた対策を付すこともあります。運営側としては、来賓の安全を確保するための考えがあるのですが、そこは人間のやることですから、なかなか一律な対応だけでは、逆にトラブルを引き起こしてしまう場合もあるのです。
また、プロトコール機能は、試合会場だけではなく、開催地の交通の要所である空港や駅などにも設置しなければなりません。更に、来賓が宿泊するホテルの中にも、適切なプロトコールの専用機能が必要な場合もあります。ホテルが持つ接遇機能を前提として、イベントや大会独自のサービス機能としての意味合いです。すべては、ホスピタリティ精神に基づいたイベントサービスとしての機能なのです。もちろん、すべては人間の手による人間味のある対応に心掛けることは当然です。“機能”とは、ハード面のことではなく、人の能力を示しているのです。
スポーツは世界共通のものですが、だからこそ、日頃から国際慣習に基づいたイベントオペレーションのスタンダード的なマナーにも、気を配ることが必要なのでしょう。世界の田舎者にならないように・・・。
posted by umekichihouse |05:59 |
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2009年01月22日
スポーツイベントには、“オモテ”と“ウラ”の仕掛けがあります。“オモテ”の仕掛けとは、観客を楽しませたり、試合の緊張感を醸成するために、時には秒単位の進行計画に基づいて行われるイベント演出です。単に、華やかさや意外性を狙ったものだけではなく、あくまでもゲームを主役とした盛り上げ施策でなくてはなりません。巨大な音響システムで大音響を響き渡らせるだけでは、観客の観戦環境を壊すだけになってしまいます。緻密な計算と観客の反応を見ながらの臨機応変な演出戦略こそ、ゲームエンタテイメントの真髄ですね。
では、“ウラ”の仕掛けとは何か?。それは、観客ももちろんのこと、取材に訪れるメディア、招待される来賓、そしてゲームの主役である選手や、そのゲームを裁くレフェリー等の競技役員に対するサービス業務のすべてを示します。最高の試合環境を作り出すために計画される人間の手によるサービスです。イベント業務としては、ホスピタリティと呼ばれています。“おもてなし”とか言う言葉で訳されますが、単に観客も含めた外部の人たちに対するものだけを指すのではなく、そのイベントの中の対人サービスのすべての根底にある精神、または心構えのようなものかもしれません。
観客に対するホスピタリティとしては、イベント会場内での案内や誘導の一つ一つのサービスが重要となります。特に大切なのは、観客との対話する態度や言葉遣い、そして観客の質問や問合せに的確に対応する臨機応変な能力です。ゲームを楽しみに来場した観客も、スタッフのたった一度の不本意な対応によって、せっかくの気分を害されてしまうこともあるでしょう。残念なことですが、決して悪気はなくても、人間のやることですから、気付かないところで誠意のない態度を示してしまうこともあるのです。だからこそ、こうした業務には経験が必要となるのです。ボランティアを起用する際には、さまざまなケースに応じた具体的な研修が必要になるもの、こうした点に起因するものです。決してマニュアル通りにはいきません。「自分が観客の立場であったら、どう思うか?」ということを常に頭の片隅において考えてみるとよく分かります。そうした点では、会場内のトレイが汚かったり、売店でなかなか欲しいものが買えなかったり、また、お昼時なのに食べ物が完売してしまった、なんていうことも、観客に対するホスピタリティの欠如だと言えます。会場内に的確なサインや案内掲示が十分にされていないことも同様です。観客に対するホスピタリティとは、イベントの運営機能のすべてがその任を担うもので、常に「自分が観客の立場であったら、どう思うか?」ということを念頭において、細心の注意を払って運営計画を練らなければならないのです。一度のミスが、そのお客様の一生分の観戦機会を奪ってしまう可能性もある、というのは決して言い過ぎではないように感じています。マイナスの口コミ効果、というものもありますからね・・・。
次に、メディアに対してのホスピタリティとは、表面的には、メディアワークルーム等で飲みものや軽食を提供するケータリングサービスがそのすべてのように見られがちですが、メディアは、ADカードという身分証兼通行証を発給されている大会主催者に認可された人たちでもあり、観客とは少し違った対応が求められます。事前に計画されたイベント毎に規定される“ルール”を守ってもらうことです。これも、単に強制的な対応ではなく、イベントの運営をよりスムーズに行うために“協力”を求める態度が必要です。メディアによる取材活動を、イベントの運営を優先するばかりに、その行動を阻害してしまっては、イベントを広報していく、というメディア対応業務本来の目的に反してしまいます。そこには、やはり、対話する態度や言葉遣いが大切になります。そして、観客に対応すること以上に、メディア対応に関する専門的な知識や経験が必要となります。より専門性のあるスタッフを配置して対応体制を整えることも、メディアに対するホスピタリティを充実するためには必要な施策であると言えます。
国際大会などのように、複数のゲームが連続して続く場合は、メディアは観客が休憩しているゲームとゲームの合間の時間帯にも取材活動に忙殺されます。ミックスゾーンでのインタビュー、記者会見、ゲームデータの分析などなど・・・。だからこそ、公平で適切な取材活動の機会提供が、イベント運営側には求められます。そして、そのことは、PR効果として自らに還元されるメリットを生み出すことにも繋がる、ということを踏まえて考えなければなりません。メディアからも好印象が得られるイベント運営を実現することは、広報活動の一環にもなるのです。
更に、VIPと呼ばれるイベントの主催者が招待する来賓に対する対応は、最も難しく、最も専門性が問われる業務かもしれません。大規模な国際大会では、プロトコール(Protocol)という言葉も使われます。プロトコールとは、IT分野では、情報機器間でどのようなデータをどのような順番で送るか、などという手順の取り決めを指していますが、国際交流の場では、“国際儀礼”という意味で解釈され、そのルールや慣習などを指します。それぞれの国の文化や慣習を尊重し、接遇に際してのマナーを国際慣例の立場から重視する、といったようなものです。
サッカーでは、ワールドカップの試合会場に、国王や大統領クラスの国のトップが訪れることも当たり前です。また、中東諸国などでは、国王一族や国の元首の親族がその国のサッカー連盟のトップに就いていることもよく見受けられます。国と国のスポーツの試合である一方で、それら国々の重要な交流サロン的な役割も、サッカーの試合会場はその役割を担ってきた歴史もあります。そのような場で、来賓接遇に関するすべての業務は、まさにプロトコール(国際儀礼)に則って具体化されていきます。その点からも、スポーツイベントにおいて、“プロトコール”と呼ばれる業務は、来賓接遇に関する一切の業務を統括する意味として用いられているのだと思います。
posted by umekichihouse |07:11 |
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2009年01月21日
2007年、会場設備や運営の不備により、大混乱を起こしたF1日本グランプリは、昨年、見事に“カイゼン”を成功させ、まさに世界のトヨタの威信を見せてくれました。この“カイゼン”のプロセスについては以前のブログでも取り上げましたが、12月16日に、富士スピードウェイは、レース終了後に観戦者を対象に公式サイトを通じて行ったアンケートの結果を公表しています。そして、ウェブ上だけのアンケートにも関わらず、8,276人が回答に応じ、10点満点で、「交通アクセスのスムーズ度」は8.6ポイントなど、概ね合格点といえる評価を得たようです。中でも、情報がボランティアなどのスタッフに行き渡らず、その不明確な対応によって十分な誘導や案内が出来ていなかった2007年に問題視された「スタッフの対応」については、8.3ポイントと、完全とはいえないものの、概ね合格点の水準であったようです。人間による対応ですから、完璧は有り得ませんが、レース運営全体の評価からも分かる通り、イベント会場でのスタッフによる対応能力が、如何に重要かが垣間見れます。
スポーツイベントでは、観客規模が大きければ大きいほど、そこに多くのスタッフを配置し、観客に対して最大限の配慮をするように務めます。安全を確保する、という観点でも、イベント全体の雰囲気を向上させるためにも、観客の満足度が高ければ高いほど、イベント運営はスムーズに行うことが可能となります。そして、そのためには、観客に対するスタッフ個々の対応能力、つまり、接客能力が重大な課題となります。
地方で開催されるスポーツの国際大会の場では、例外なく、地元の高校生や大学生がボランティアとして起用され、実際に彼らが観客や、時には来賓に対する応対を任されています。マンパワーというだけならばそれだけで済みますが、相対するのは人間であり、それもお客様です。さまざまなケースに応じた対応や、的確な情報を把握した上での臨機応変な対応など、経験値に裏づけされた能力が必要な場面が多々ある中で、大半は十分な対応は全くできていません。彼らに一概に原因があるというのではなく、それを指導すべき運営の管理者側の責任も大きいのでしょう。東京や大都市で行われる場合は、イベントが頻繁に開催されるためか、イベント専門の運営会社や警備会社のスタッフが、すべてのポジションではないものの、最低限の重要なポジションには配置され、しかも、ボランティアなどのスタッフ指導も行ってくれます。ただし、警備法上、専門の警備員の下にボランティアスタッフを配置しての警備体制は敷くことはできないため、本来はやってはいけないことであることなのです。それでも、そうした不本意な運営体制を組まないと、スタッフ手配の人件費だけで膨大な運営費となり、イベント運営が出来なくなってしまうのも現実です。
来賓接遇などのホスピタリティについては、別の機会に取り上げるつもりですが、その来賓接遇のスタッフに、国際大会などでは航空会社のキャビンアテンダントの経験を持つスタッフを配置するケースがあります。語学の問題もさることながら、相手の立場や役職などをひとりひとり把握しながら、それぞれに応じた対応を強いられるような場合は、素人のスタッフではトラブル発生のリスクが大きくなるからです。また、トラブル発生時の対応に関してのノウハウを、認識しているかどうかの問題もあります。確かに人件費は高くなりますが、リスクをお金で解決することも、場合によっては必要であり、また、それは装飾などの豪華さなどで解決するものではなく、あくまでも人間と人間との接し方により対応していかなければならないものなのです。
スポーツイベントにおける人的対応に関しては、その運営組織の作り方にも問題の原因がある場合があります。形だけの組織を作っても、それが現場で実際に機能するかどうかまで、あまり考えられていないケースが多々あります。単に、既存の組織名に合わせて組織図を作り、そこに具体的な名前を当てはめているだけの場合などです。起こりえる問題は、組織の業務部署名が、イベントの中でどのような業務に対応し、対応すべきなのはどのような人たちで、どのように対処すべきか・・・、などということが全く想定されずにいることです。結果的に、業務部署間で横断的な対応や対処をすべきところが、横の連携の仕方も把握できずに、相手方に大きな負担やリスクを強いる結果になることも、珍しくはありません。場合によっては、本来の業務担当ではないスタッフが、一時的に目の前にある対処すべき事案に向き合わなければならない場合も出てきます。組織や部署間の業務が横断的に把握できていれば、最低限の対応は出来るのです。運営マニュアルなど、事前に運営情報を網羅した資料の活用は、こうした点でも活かされます。しかし、あまり経験値のない地方の競技団体やスポーツ組織の皆さんは、失礼ながら、あまりその辺の意識が薄いように思います。
Jリーグ、bjリーグ、そして各地の野球独立リーグなど、プロリーグが全国の町に広がり、各地でプロチームが活動しています。単に、スポーツの普及や育成という観点や、地域の活性化などの経済的な利点だけではなく、人材育成という点において、試合運営を通してスポーツイベントに必要な人的対応に関するノウハウや経験値が浸透して、スポーツ全体の運営能力が向上することにより、よりレベルの高いスポーツ環境が作られていくことが必要だと思います。ワールドカップや世界選手権など、各スポーツ競技の世界的な大会が数多く日本で開催されていますが、そこで培われた運営ノウハウが、日頃行われるスポーツリーグの一つ一つの試合の現場で活かされるようになっていくことにより、その試合の運営レベルは向上し、観客にとっても、選手にとっても、良い結果をもたらす好循環を生み出すように思います。まずは、人的対応という能力の大切さに目を配ることではないでしょうか?。
posted by umekichihouse |07:13 |
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2009年01月20日
スポーツマーケティングでは、基本的に、スポーツそのものをマーケティングしていく、つまり、スポーツの市場性や経済価値を創造していこうとするマーケティングアプローチと、スポーツというコンテンツを利用してマーケティングしていく、つまり、スポーツの持つ特性や価値を利用してビジネスを創造していこうとかビジネスを拡大していこうとするマーケティングアプローチがあります。あくまでも、原則論で、それら2つのアプローチが一体となってアプローチが試みられる場合もありますし、一概には言えませんが、スポーツマーケティングの根本にある考え方として一般的に認識されています。
前回述べた、スカパー!などの衛星放送事業での新規契約者獲得のために、大きな放送権契約を行って、そのスポーツコンテンツの価値を利用することなどは、まさに、スポーツを利用したビジネス創造のパターンと言えるでしょう。ただ一方で、CS放送などでは、数多くのスポーツ専門チャンネルが登場し、普段地上波では見ることの出来ないようなスポーツや、日常的に世界のスポーツを、しかもライブでも見ることが出来るようになったため、スポーツそのものの市場創造に大いに貢献していることも確かです。しかし、スカパー!の契約者数を見る限りにおいて、世界のさまざまなスポーツの視聴機会は増えたり、Jリーグが全試合視聴できる機会が設けられるようになったこと以前に、そこにいる視聴者があまりにも少なく、本当に日本中のスポーツファンが満足できる環境にあるのか、というと、まだまだ創生期にしかすぎないように感じます。普及を目的として考えた場合、その先にいる潜在的な視聴者の数があまりにも限定されたものにしか過ぎないからです。
どんなに大規模な世界的なスポーツイベントや大会の放送権契約を獲得しても、それはあくまでも、放送事業者のビジネス目的以外何ものでもなく、逆に、視聴契約のない地上波放送のみしかスポーツを楽しむ機会がない多くのファンの立場に立つと、ある意味で、視聴機会が奪われている、というのは乱暴でしょうか?。
もし、Jリーグが、従来の放送権料を大幅に下げても、NHKなどとの契約を優先するスタンスを取っていれば、少なくとも、受信契約をしている世帯だけでも1,300万世帯を超えるNHK衛星放送での定期的な中継放送により、スカパー!受信契約世帯の数倍以上のファンが視聴機会を得られ続けていたのではないでしょうか?。それ以上にもっと多くの試合の中継を見たければ、スカパー!での中継を見る、という少ないニーズにも対応するようなテレビ中継環境を作ることになり、専門チャンネルと一般放送のそれぞれの利点を活かした共存体制が続いていたように思います。長期的な視野でのファン作りや顧客満足、ということではなく、やはり、目先の金を優先したのかどうか?。まだまだカバーする視聴規模が小さいCS放送やスポーツ専門チャンネルとの契約と、幅広く数多くの視聴者をカバーする地上波や一般チャンネルとしてのBS放送との契約を、一律で天秤にかけて放送契約をすること自体、普及の足枷になるような気がするのです。
バスケットボールの競技人口は、1995年から1996年にかけて、100万人を超える規模になっていました。現在のように個人登録制度にはなっていませんので、いまの数値との比較は正確ではないとは思いますが、それでも100万人という数は大きく、確かに、バスケットボールというスポーツは、ファッションとしても人気を博していました。人気漫画のスラムダンクやNBAの人気拡大もあり、バスケットボールの専門誌も、一般誌並みの発行部数を記録していたとも聞いています。スポーツの人気のみならず、スポーツをやっている人たちの規模を示すバロメーターとしても、スポーツ専門誌の市場規模は、格好の指標となります。それだけに、スポーツ専門誌は、スポーツファンや競技者たちを、確実にカバーしている特長的なメディアです。しかし、より幅広く潜在的な普及の種を植えて、芽を出させていくための施策としては、より幅広いニーズを捉えた情報を発信している専門性に捉われない一般メディアに注目してもらえるように、絶えず努力していく必要があります。スポーツというコンテンツを利用してマーケティングしていく、つまり、スポーツの持つ特性や価値を利用してビジネスを創造していける可能性を、それぞれのスポーツは、一般メディアにも理解してもらえる環境作ることが求められます。競技団体にも、リーグにも、そしてそこに加盟するチームにも、更には、そこで活躍する多くの選手たちにも・・・。
雑誌においては数万と数十万、テレビでは数百万と数千万と、スポーツを専門的に情報発信するメディアと、一般的な数多くの情報の中のひとつとしてスポーツを扱う一般メディアは、規模の論理からすると桁が違うものになります。しかし、メディアの力は、規模だけではなく、カバーする読者や視聴者が誰なのか、ということも重要な要素であると思います。スポーツ専門メディアが、コアのスポーツファンやスポーツ競技者に支持されていることは、そこで生み出される情報は、より専門性の高い情報であり、その価値を一般メディアにも利用してもらうようなアプローチが可能になるようにも思うのです。
そこから考えると、従来以上に、スポーツ専門メディアと競技団体、リーグなどのスポーツ関連団体との連携は、単なる業務的な契約や権利契約の枠を超えて、もっと密接なビジネスパートナーとなるべきだとも思います。メディアだから公平中立であるべき、とか、報道の自由の制約が生まれる、とかいう危惧もありますが、スポーツをより大きく普及し、やがては長期に渡っての強化の環境を作り出していくために、スポーツ専門メディアと競技団体やリーグは、スポーツの発展という共通の命題の下に、新しい協力関係を模索してもいいように思います。
posted by umekichihouse |07:22 |
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2009年01月19日
野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール・・・と、スポーツ競技の専門雑誌は、数多くありますが、出版不況と言われる中で、確かに、実売部数を大幅に伸ばすことは、サッカーなどの人気スポーツでも難しい時代になって来ているようです。しかし、ファッションを中心としたものや、ライフスタイル提案型、トレンド発信型のものなど、所謂一般誌と言われる雑誌と比較すると、当然のことながら対象とする読者対象数の違いや編集テーマの一般性から見て、実売部数は桁が違うレベルにあります。しかし、そんな中でも、スポーツ専門誌の販売実績は、堅実だと言われています。元々部数の少ないものに対して堅実も何もない、と言われればその通りかもしれませんが、注目すべきは、ぞれぞれのスポーツファンや、特に、実際にスポーツ競技をやっている人たちの定期的な情報源として、読者層を確実に捉えやすいメディアであることです。よって、スポーツ競技をやっている人たちへ向けての情報発信メディアとしては、広告ひとつ取っても、情報の一部として捉えられやすいメディアである、という位置付けも可能です。イベントスケジュールから、その結果、そして、新しいスポーツ関連商品に関する情報など、実際にスポーツ競技をやっているからこそ、それら情報は読者に、価値あるものとなります。インターネット時代においても、スポーツ専門誌にあるようなスポーツ競技の細部まで知り尽くした記事や論評、そして選手やチームの動向に関する情報などは、検索してもなかなか手に入る性格のものではありません。スポーツ専門誌の編集者たちの、知識や経験に裏打ちされた専門的な観点からスポーツを見た記事は、スポーツ競技を実際にやっているから、その価値は、単なる結果や戦評的な情報よりも高いものとして受け入れられているのです。
20年以上もお付き合いのあるスポーツ専門誌の出版社の方が言うには、「スポーツ専門誌は、広告も情報のひとつとして取り扱う。スポーツメーカーの商品広告などは、スポーツ専門誌の読者にとって、それ自体が読みたい情報になっている。それ故に、編集記事のクォリティが悪ければ、広告の情報価値に負けてしまうことになる。だから、専門誌ならではの新鮮で専門性の高い記事の編集に力を注がなければならない。意外に、スポーツ専門誌の編集コストは高いんですよ」、ということです。特に、Jリーグなど、国内リーグの情報を取り扱っているスポーツ専門誌は、試合が行われる全国各地へ取材に出向き、そして写真を撮らなければならないため、スタッフの数はもちろんのこと、さまざまな経費だけでも馬鹿にならないといいます。ただデスクで記事を書いているんじゃ、スポーツ専門誌は出来ないのです。また、Jリーグを取り扱うサッカー雑誌は、週刊で発刊されているため、時には試合会場から東京の編集室へ、衛星回線を使って写真を伝送していたこともあったそうです。メディアのワーキングスペースとなるイベント会場のプレスルーム等で、通信設備や回線などがキチンと確保されていなければ、つい数日前の試合の写真がスポーツ雑誌をめくっても見ることは出来ない、ということなのです。
アメリカならばNBA、NFL、MLB。ヨーロッパならばサッカーの各国リーグやUEFAチャンピオンズリーグなど、海外スポーツを専門に取り扱う雑誌も多くなりました。しかし、ここでも通信社や公式カメラマンなどから供給される写真だけ使っていたら、何も差別化は出来ませんし、雑誌毎の特徴も出せません。スポーツ競技をやっている人たちよりも、もっと幅広く読者層はいますから、国内以上に専門的な観点から見た記事や情報が求められます。いまでは、海外の各地に契約する記者や派遣記者が数多くいるようですし、テレビ放送と連動して、インサイドストーリーやインタビューを豊富にするなど、ますます個性ある雑誌作りが求められています。こうした海外スポーツの専門誌にも、固定ファンは数多くいるのです。ちなみに、幅広い年齢層の読者に対する情報の伝わり方は、やはり、スポーツ競技をやっている比較的年齢層が絞られているスポーツ専門誌の方が、高いとも言われています。
こうしたスポーツ専門誌は、スポーツ競技が行われている限り、その情報は枯渇することはありません。毎日新しい情報が生み出されている、と言っても過言ではないのです。そして、その辺が、一般雑誌の存在と、スポーツ専門誌の存在の違いかもしれません。では、実際にスポーツ専門誌は、どの程度読まれているものなのでしょう。部数自体は、当然のことながら一般雑誌よりは低いものですが、それぞれのスポーツの競技人口にある程度比例している、ということも言えるようです。凡そですが、売れているもので一桁後半程度の部数(万単位)。売れていないが安定して発行されているもので一桁前半程度の部数(万単位)というレベルらしいです。つまり、先に述べたように、編集コストは、常識範囲以下のレベルまでに抑えると専門誌としての情報価値を損ねてしまうので、必然的に販売価格が一般雑誌よりも高めになるのは仕方ないことなのです。
では、広告媒体としての価値はどの程度なのでしょうか?。雑誌メディアは、その編集内容から、読者層がある程度計算されて発行されていますから、当然、実売部数が多ければ多いほど広告に対するレスポンス効果は高くなる、と考えられます。では、スポーツ専門誌は、実売部数自体があまり大きなものではないので効果が薄いか、と言えば、それは大きな間違いです。これは私も実際に経験していますが、かつて3on3バスケットの大会を全国で実施していた時、その参加者を募集する際には、バスケットボール専門誌にたった1ページの広告を掲載しただけでした。それだけで、何百、時には千を越えるチームが応募してきてくれます。人数にすると何千人という数の人たちに情報が伝わったことになります。もし、バスケットボールをやっている人たちのリストが、幅広い年齢層に分散してあったとして、それら全部にDMを送って1,000件のレスポンスを得ようとすると、仮に10%のレスポンスだとしても、約10,000通のDMを発送しなければならず、ハガキでも印刷などの経費を除いて50万円。ハガキで伝わる内容ではないと考えますので、封書にしたり、その送付物を制作したり、また、送付先のリストを入手することを考え合わせると、その金額は、数倍になるでしょう。つまり、バスケットボール専門誌を利用する上で、最も利点があるのは、バスケットボールをやっている、またはやっていた人たちに確実にリーチすることなのです。例え5万部の実売数としても、スポーツ専門誌の最大の特徴は、回し読み、つまり回読率が高いことですから、想定するターゲットへのリーチ率が高い上に、そこそこの数の読者の目に触れる確率が高いとすれば、広告目的が明確である限り、広告媒体としての価値は、信頼できるものだと考えます。ちなみに、5万人にハガキでDMを送付すると、それだけで250万円です。
テレビ放送においても、スカパー!など、CS放送の登場により、数多くのスポーツ専門チャンネルが生まれました。J SPORTS、GAORA、SKY-A+などなど・・・。ゴルフや卓球などの特定のスポーツに絞った専門チャンネルもありますから、どんどん契約していったら月の視聴料がいくら支払っても足りなくなってしまいます。先日のブログでもご紹介した通り、高校バスケットボールの選抜大会、ウインターカップは、昨年から全試合放送になりましたし、大会終了後ではあるものの、バレーボールの春高バレーも、全試合がCS放送では視聴できます。海外リーグはもちろんのこと、トップリーグから高校スポーツまで、これだけの数のゲームを地上波で放送することは不可能であり、CS放送によるスポーツ中継番組の増加は、間違いなく、スポーツファンを拡大することに、新しいテレビ視聴機会を提供しているという意味においては、十分に寄与しているように思います。
しかし、視聴契約をしなければ見ることは出来ないため、便利だからといって、その視聴者が爆発的に伸びているか、というと、それは理想通りには行きません。4チャンネルを持つJ SPORTSも、視聴可能世帯数は、昨年8月のデータで、761万世帯。ただし、ケーブルテレビ経由での受信可能世帯数が、その8割を超える規模です。また、直接受信が144万世帯ですから、スカパー!の個人契約数から見ると、約360万件に対して4割です。しかし、視聴“可能”世帯というのが盲点で、可能は可能でも視聴契約をしているかどうかの明確なデータは公表されておらず、少なくとも、契約数が確かなスカパー!の契約者数に対するJ SPORTSの受信可能世帯数を踏まえて、ケーブルテレビにおいても同じ割合で契約者がいると仮定すると、761万に対して4割ですから、304万世帯、ということになります。全国のテレビ放送受信世帯数からすると、約1割にも満たない規模となります。そして、すべてのJ SPORTS契約世帯が視聴したとしても、地上波的に視聴率で考えると、6%程度の数値になり、これが最大値ということなのです。半分の契約世帯が視聴したとして3%ですから、あくまでも数字遊びに過ぎませんが、スポーツ専門という観点から考えると、地上波でのスポーツ中継における平均的な番組の数値と、ほぼ一緒のレベルが、上限となるのでしょう。つまり、テレビとか、CS放送とかという見方ではなく、スポーツ専門チャンネルは、あくまでもスポーツ専門メディアという捉え方で、その媒体価値を想定することが妥当なのではないでしょうか?。ちなみに、J SPORTSの視聴可能世帯数は、ここ1年での増加数が、約15万世帯です。スカパー!自体がここ最近は契約数を伸ばしていませんので、ケーブルテレビ経由のものも含めて、今後もそれ程拡大していく気配はないようです。
年間30億円の5年契約という大型契約となったJリーグとスカパー!ですが、スカパー!の契約者が伸び悩んでおり、契約初年度から大幅な赤字が続いていると聞きます。視聴パックの値上げなどにも波及しているようですが、専門メディア的な位置付けを越えた経営判断が正しかったのか間違いだったのか・・・?。テレビジョンマネーはスポーツの発展に大きく影響する立場にある時代ですから、衰退の事態だけは避けて欲しいのですが、専門メディアこその、分相応のメディアとしての在り方を見極めて、CS放送としての特性を活かして欲しいと、ひとりのファンとして考えます。
スポーツを専門に取り扱うメディアは、個々のメディアがカバーするサーキュレーションは、極々小さいものです。しかし、それらメディアがカバーする読者や視聴者は、スポーツをやっていたり好きだから、能動的にそれらメディアに接触しています。つまり、専門性の高いメディアとして、その地位を確実に築いています。それでも、それらスポーツ専門メディアを利用する側から考えると、既存のスポーツ実践者やファンに対しての情報伝達力は高いものの、不特定多数の、いわゆる潜在的ニーズを持った人たちに対する波及効果は、それ程望めない、ということでもあります。普及、というよりは、現状の競技者層やファン層の規模を維持するための効果に、スポーツ専門メディアに対する期待は限定して考えるべきなのです。
Jリーグのスカパー!との契約や、BS放送でのWOWOWのサッカー欧州選手権、テニスの4大トーナメントなど世界のビッグイベントの独占契約など、新たな視聴者を獲得するために、多額の放送権料を支払い放送権を獲得するケースが多くなりましたが、それにより、視聴契約をしていない、または視聴環境が整えられないスポーツファンは、地上波での視聴機会を失うことになりました。逆に、地上波では見られなかったさまざまなスポーツ、スポーツイベントを、スカパー!やWOWOWで見ることが出来るようになった、という恩恵もあります。ユニバーサルアクセス権が法的に保護され、世界的なスポーツイベントのテレビ視聴機会を、視聴契約を前提とする衛星放送などが独占できない国もありますが、視聴契約者獲得のために魅力あるスポーツコンテンツを、次々と買いあさるビジネスありき、ビジネス優先というその姿勢に、凡そ、スポーツの普及という理想は期待できないでしょう。
posted by umekichihouse |07:18 |
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2009年01月18日
年の瀬が迫る12月から正月気分の抜け切らない1月にかけて、1年の総決算とでも言うべき各スポーツ競技の日本チャンピオンを決する“全日本選手権”が、ボールゲーム種目を中心として行われました。各競技団体が主催する日本一を決するこれら大会は、基本的にはNHKにより、少なくとも決勝戦が放送されているため、日頃なかなか見る機会がないスポーツファンも楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。トップリーグのチーム、そしてサッカーなどのプロチームと、大学、高校、社会人、クラブチームなど、全国各地の予選大会を勝ち抜いてきた各チームが、同じ戦いの舞台で対戦できる、唯一ともいえる大会です。また、天皇杯、皇后杯という冠が、大会の格付けを“日本最高峰”と意味付けていることも、1世紀近い歴史を誇る大会が数多くあることも、“全日本選手権”が特別な価値観をもって見られているひとつの要因かもしれません。
日本を代表するトップチームが、大学チームにギリギリまで追い詰められたり、時には高校チームが大学や社会人チームを打ち破ったりと、試合はやって見なければわからない、ということを実感させ、それを期待するファンの思いが試合会場にも溢れ、日頃、それぞれの世代の中だけで戦っている、またはリーグの中だけで戦っている様子とは、一味違う大会の面白さを楽しめます。元旦に決勝が行われるサッカーの全日本選手権、天皇杯では、J1クラブをJ2クラブが破ったりすること以上に、地域代表の社会人チームがJ1クラブを追い詰めたり、J2クラブを破ったりする“下克上”が多くの場面で見られます。リーグ戦でもない、ホーム・アンド・アウェイでもない、一発勝負のトーナメント戦の醍醐味がそこにはあります。バスケットボールでは、随分昔になりますが、女子日本代表の監督経験もある北原選手を要して、明治大学が、並居る実業団チームを打ち破り、日本チャンピオンに輝いたこともありました。田臥選手を要して高校タイトルを総なめにしていた能代工業高校が、2回戦続けて大学チームを破ったこともありました。今回の大会では、大学のトップチームである青山学院大学が、JBLのプロチームであるレラカムイ北海道を土俵際まで追い詰めました。そんな勝負の醍醐味があることが、全日本選手権という大会の魅力なのだと思います。
しかし、全日本選手権で優勝することが、タイトルを勝ち取る以外に、どれ程の価値があるか、と競技団体関係者に問う時、果たしてどのような答えが返ってくるでしょうか?。ベスト8、ベスト4以上には、当然の如く、トップリーグのチームが勝ち上がってきます。日本のそれぞれのスポーツ競技を牽引する力を持つ選手たちが集まるリーグですから、当たり前のことです。しかし、彼らが日頃戦っているリーグで勝ち取るチャンピオンというタイトルの価値と、この全日本選手権で勝ち取る価値は、何かその先にあるもっと大きなチャンスを得られるなどの、違う価値観があっていいように思います。全日本選手権チャンピオンには、アジア、そして世界の戦いの舞台へのチャレンジの機会が与えられるとか、個人種目ならばランキングポイントが大幅にアップするとか、また、単純に強化のための海外遠征機会が主催者負担で得られるなど、愚の骨頂にもならないアイディアかもしれませんが、とにかく、何か特別な道筋や恩恵があることで、出場チームや選手たちに、全日本選手権とは特別な存在であることを植え付ける施策があっていいように思います。
リーグは注目されても、競技団体直轄で開催されるからというわけでもないでしょうが、全日本選手権は、何か本来のタイトルの価値と違って、その注目度が希薄であるように感じてしまいます。サッカーの天皇杯も、元旦開催は変わらないものの、かつてはお正月恒例の決戦という以外は、出場する選手たちに何か特別な思いなどはなかったように感じます。しかし、現在では、天皇杯チャンピオンには、ACL、アジアチャンピオンズリーグへの出場権が与えられることになっています。昨年、一昨年と、FIFAクラブワールドカップでJリーグのチームが世界トップのクラブと激突し、好試合を見せたことにも起因してか、この出場権に対する選手たちのモチベーションは、格段に上がったように思います。延長後半で劇的な勝利をもぎ取ったガンバ大阪の迫力を見れば、一目瞭然です。ACL、アジアチャンピオンズリーグは、日本サッカー協会の尽力もあり、今年から大幅に制度改革が行われ、欧州チャンピオンズリーグの形態とほぼ同じようなシステムになりました。世界につながるタイトルがそこにあるからこそ、選手たちのモチベーションは上がり、必然的に、天皇杯、全日本選手権という大会のタイトルの価値も高まっているのだと思います。
サッカーの例は特別なのかもしれませんが、リーグで勝つことの価値観とは一線を画す、日本最高峰のタイトルが全日本選手権で勝つことで得られる、という特別な価値観を創造していくことが、スポーツ競技それぞれの人気の拡大や普及のキッカケにもなっていくように思います。何よりも、出場する選手たちに、特別な意識が生まれるような大会にならなければ、全日本選手権という名も意味が薄れてしまいます。
プロリーグが誕生し、やがてその価値観が高まり、また、数多くの国際大会が日本国内で開催され、世界トップクラスの技や力を見慣れてきた中で、競技団体が直接主催し実施されている全日本選手権は、ほとんどのスポーツ競技において、旧態依然としたイメージしか感じないのは私だけでしょうか?。唯一、世代や立場を超えて、同じ戦いの舞台で雌雄を決することが出来る大会である全日本選手権。見ごたえある下克上も楽しいですが、トップ選手たちがトップ選手らしい力を最高レベルで発揮する大会、それもこの大会の見せ場として欲しいと思います。
posted by umekichihouse |05:59 |
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2009年01月17日
前回、“スポーツビジネスという職業はない”、ということを記述しましたが、今回はそのことを少し掘り下げて取り上げたいと思います。昨年の秋に、このブログを見ていただいていた方からメールをいただき、また、その方のブログの中で、この「ぶんきち日記」をご紹介していただきました。和光大学・経済経営学部の准教授、原田尚幸先生です。大学でスポーツビジネス論を担当している原田先生は、日本オリンピック委員会、JOCゴールドプラン専門委員会「国際競技力向上のための諸問題検討プロジェクト」メンバーでもあり、また『現場で学び現場に活かす!!』スポーツビジネス担当教員というポリシーで、自ら数多くのスポーツイベントなどの現場に足を運んで、単なる理論や理屈だけではない本質のスポーツビジネスを研究されている方でもあります。ちなみに、原田先生の活動は、ブログにも紹介されていますので、下記にご紹介させていただきます。
「スポーツビジネス・フィールド」http://www.plus-blog.sportsnavi.com/sport_biz/
「スポーツビジネス担当教員のブログ」http://blog.livedoor.jp/sports_biz/
メールを頂いたのがご縁で、お会いし、いろいろと意見交換する中で、昨年の11月に、原田先生の講座において、特別講義をする機会があり、普段はあまり直接お会いすることのない、スポーツビジネスを専攻する学生さんたちの様子も覗うことができました。講義の内容は、私が仕事の現場で積み重ね、現在フリーの立場で専門分野としているイベントオペレーションについて、柄にもなく、一応の理論的な体系と業務内容の体系を前提として、私が過去に携わったNBAのイベントビジネスを題材に述べさせていただきました。ビデオや写真を含めたPPTを使用しての内容でしたが、想像以上に学生さんたちの目が真剣で、実は途中から“マズイ!”と思ったほどです。何が“マズかった”のかというと、不本意ながら、あまり掘り下げると実務的になってしまい、理解できないだろうから、結構表面的な話題だけで終始しようと考えていました。しかし、学生さんたちの目を見ていると、本当にスポーツの仕事に就くことを考えている人たちなんだ、ということが感じられ、自ずと、予定していた講義内容とは逸脱したアドバイス的なことを言ってしまったりもしました。講義の最初に、「この中で、将来スポーツの仕事に就こうと考えている人はどれだけいますか?」と質問したところ、ほぼ全員が手を挙げたので、少し面食らったのを覚えています。
では、“スポーツビジネスという職業はない”、とはどういうことなのか。簡単に言えば、スポーツビジネスは、スポーツをビジネスとして、つまり仕事として取り扱ったり取り組んだりするものですが、実際にやっているのは、どこの会社や職場でもやっていることなんです。単に、その“取扱商品”が、スポーツ、もしくはスポーツに関連する物事だったりしているだけなのです。プロスポーツ球団のフロントでの仕事も、大方同じですよね。エージェント業務なんかでも、弁護士や弁理士、会計士など、職業資格や法律などの専門知識は必要であるものの、何もそれは、当然スポーツに限ったことではありません。スポンサーを獲得するための営業活動も、メーカーなどの営業職の仕事内容と本質は何も変わらないのです。常に新規顧客を求めなければならないとしたら、それ以上に厳しいかもしれません。ただ、そこに、スポーツやイベント業務のノウハウ、そしてマーケティングに関する専門的な知識が必要になることは、違いと言えば違いです。しかし、そこも、家電機器メーカーの営業さんには、その専門分野の知識がなければ売れるものも売れませんし、相手に信頼されません。そこは業務分野が違うというだけです。
スポーツイベントにおける観客サービスが、入場料収入を向上させていくための戦略の一つとして、各スポーツの現場でさまざまなアイディアが練られています。その観客サービスも、根本には、接客サービスやCS(顧客満足)戦略など、流通やレジャー産業では当たり前に要求されるスキルが必要とされるものであり、何もスポーツだから特別ということはありません。逆に、プロスポーツの世界では、その辺のスキルやノウハウを持つ人が少ないのかもしれません。最近、観客サービスに関する新規アイディアが次々と話題になるもの、それ以前には、そうしたことを考える人がいなかったからではないでしょうか。
スポーツの試合会場を設営することでも、電気設備や通信設備、その工事環境についての知識がなければ、最適な試合環境を作り出すことは出来ません。そもそも、限られた予算の中で最善を尽くすのですから、知識やノウハウを前提としたアイディアがなければ、行くな良いものを作ってもコスト感覚を無視することになります。IT技術に関しても同様です。最近では、競技設備自体が精密化され、また、競技データの取り扱いも、ほとんどすべてがデジタル化しています。テレビ中継においても、その設備環境は大きく変化し、スポーツイベントの現場の様子も大きく様変わりしつつあります。イベント会場の既存設備自体が旧態依然としているケースが多いため、その場その場での仮設対応を強いられるケースが当たり前のように出てきます。そうしたことも、通信関連やIT関連企業で養ったノウハウをもった人たちがスポーツビジネスの現場に来てくれれば、スペシャリストとしての腕を十分に発揮できるのではないでしょうか。
これは私の悩みの種なのですが、国際大会の現場では、最低でも英語が出来なければ、間違いなく損をします。少なくとも、時に膨大な量のレギュレーションやマニュアルを読みこなす読解力くらいないと、何も前に進めることはできません。ある競技団体の方が言っていました。「就職を希望する前に、まず社会人としての最低限のスキルがなければ話しになりません。ただスポーツが好きというだけでは、スタートラインにもつけないのです」・・・と。
posted by umekichihouse |05:42 |
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