2008年12月04日
インターネット時代のマーケティングプロセスを示している「AISAS」理論。2004年に電通により提唱され、2005年には商標登録されているこの理論の、最後の「S」である情報共有(Share)こそが、インターネットによる情報社会の中で、重要な機能を秘めていると言われています。最も象徴的なものが、「口コミ」です。つまり、ある特定の情報が、不特定多数の人を介して広がる情報拡散の現象です。それは、インターネットの出現によって、いまや大きな力を持つまでになりました。しかし、この口コミは、情報を介するそれぞれの人の情報に対する理解や認識の違いにより、時には大きく異なる内容に変容されてしまう危険性もあります。コントロールが効かない、ということです。
この「口コミ」を、コミュニケーション手段として、情報拡散の元となる情報を意図的にコントロールしようとする考えが、WOMマーケティングと呼ばれているものです。口コミによる情報の拡散を、仕掛けて起こすのです。“WOM”とは、Word of Mouthの頭文字をとった言葉で、言葉の通り、口コミのことです。そして、このWOMマーケティングは、「AISAS」の“S”を表す情報共有行動の戦略的設計を具体化したもので、情報の拡散元となるインフルエンサー(影響者)と呼ばれるターゲットを見極め設定することから始まります。つまり、情報を拡散する力があり、その情報をある程度の信頼を持って受信してもらえるような発信者でなければ、インフルエンサーにはなり得ません。更に、インフルエンサーが情報を掲載するインターネット上のあらゆる情報ソースがメディアともなります。ブログ、メール、掲示板、ウェブサイト、メールマガジンなどなど・・・。
そして、この情報共有によって拡散された情報は、「AISAS」の新たな「A」、つまり注意喚起の元となり、そして新たな「I」、つまり興味をも作ることに繋がっていきます。情報の連鎖がその輪を広げていくのです。インターネット上で、情報が独り歩きしていく、ということでもあります。しかし、ここにコントロールは効きません。だからこそ、最初の情報の発信者となるインフルエンサーの存在が重要になるのです。意図的な情報(悪意という意味ではなく)をインフルエンサーを通じて流し、新しいコミュニケーションを引き起こす、ということで、インフルエンサーの存在ありきでコミュニケーション計画を設計していくことになります。そして、このインフルエンサーこそが、WOMマーケティングのターゲットとなるのです。
スポーツイベントで言うならば、WOMマーケティングのターゲットは、そのスポーツ競技における情報発信者として信頼があり、日常的に幅広いCGM(Consumer Generated Media)に対して情報を掲載し、また他のCGMに対する影響力を持っている人になるでしょう。しかし、単純にスポーツイベントの主催者となる関係者や出場するチームや選手の関係者、またはその他の直接的な利害関係者ということだけでは、一般的なスポーツファンにまで情報が到達する可能性は低くなります。情報の受信者の感情や感性、または趣味趣向によって、情報を客観的に捉えてもらえない可能性があるからです。特に、幅広い情報の拡散をめさすならば、効果的ではないかもしれません。では、どのようなターゲットが最適となるのか?。
最も重要なことは、情報を客観的に伝えられる、または伝えていると思われている人であることかもしれません。そして、情報の拡散率から考えると、ある程度の著名人であることが望ましいかもしれません。テレビのキャスターであったり、コメンテーターであったり、ジャーナリストやスポーツライターであったり・・・。しかし、すべての人が万人に信頼され愛されているわけでもないので、ターゲットは複数いた方が波及効果は高くなるでしょう。そこに話題性という効果が生まれるからです。マイナーなスポーツとされていたハンドボールでの北京五輪アジア地区予選の再試合の時でも、日本代表の宮崎選手のテレビやメディアへの出演は高い効果があったと思います。しかし、それは、中東の笛という意図的な試合操作が行われていた疑惑に対するスポーツファンの批判的な気持ちが伏線にあったからこそ効果が上がったとも言えるわけで、その伏線の情報を伝えていたのは、先のキャスター、コメンテーター、ジャーナリスト、そしてスポーツライターたちでした。彼らによる試合に対する興味度をくすぐるような言動や記事は、ハンドボールというスポーツの域を超えさせて試合会場へ足を運ばせる効果を生み出したのだと思います。かなり特殊な事例だとは思いますが、効果という面から考えると、人が口々に伝えていく情報の拡散の効果は、伝えていく人たちの存在次第では、計り知れない効果を生む、ということだと思います。
もちろん、一般的なスポーツファンが、その熱烈な思いをインターネットを通じて伝えていき、やがては大きなムーブメントを引き起こすこともあるでしょう。あくまでも、そこには伝えていくに十分な情報の価値や、感情や感性といった伝えていく人の思いも込められています。イベントであれば、そのイベントの本質がキチンとした一定の価値を持つものであることが条件になることは当然です。
「この一戦だけは見逃すべきではない」、とか、「ここに登場する○○○という選手は、将来の日本を背負う逸材だ」、とか、イベントの本質であるそこでしか見られない価値観を、言葉として伝えられ、更に伝える人の信頼性をもって伝えられるならば、その情報の価値は、広告で表現されるものよりも何十倍の効果を発揮することもあるでしょう。スポーツイベントにおいて、新聞や雑誌の記事が観戦のキッカケになったという調査結果をよく目にしますが、広告がそうである割合は非常の低いものです。客観性という視点からも、口コミ効果をうまく戦術として設計できれば、予算の限られたイベントのPR活動も、大きな費用対効果を生むことになるかもしれません。
posted by umekichihouse |04:39 |
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2008年12月03日
「チケットを売る=イベントを売る」。このことは以前も述べましたが、イベントそのものに確固たる形はありません。チケットという紙切れに記載された情報が、唯一形となっているだけです。イベントは、その現場で得られる体験のすべてですから、特に、スポーツイベントでは、ゲームやレースが終わってみるまで分からない不確定要素の多い商品である、と言えます。その不確定要素の多い商品を売るための戦略なのですから、そこでのチケッティング戦略とは、形のある消費財のようなものよりも、もっと科学的に、そして綿密に計画されるべきものなのでしょう。
ターゲットのセグメントや見極めにより、情報伝達の戦術としてクロスメディアという考え方が活かされ、ターゲットの能動的な行動を導き出し、購入に繋げていく、というプロセスを前回述べましたが、インターネットの時代である現在は、そのプロセスがそこで終わるわけではありません。購入まで導かれたターゲットが、その購入した商品に対する主観的な情報を、更にインターネットを通じて情報を分散する行為を行います。ブログ、メール、自己のウェブサイトがある場合はそこでの情報掲示など、CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれていますが、消費者自らが作り出すメディアに載せて、情報は更に送り出されることになるのです。もちろん、購入した商品や体験したイベントの内容に満足しなければ、送り出される情報はマイナス要因になるかもしれません。しかし、それは商品またはイベントそのものに欠点があることですから、致し方ありません。逆に言えば、その情報を分散する行為を、商品やイベントの場を提供する側は、決して無視できない、ということです。
こうしたプロセスは、それまでのコミュニケーション戦略で用いられた「AIDMA」という概念と、大きく異なっています。それは、「AISAS」と呼ばれるもので、2004年に電通が提唱し、2005年には商標登録もされています。では、この「AISAS」とはどのような考え方なのか?。
「AISAS」とは、マーケティングプロセスにおける以下の消費者行動を示す言葉の頭文字をとったものです。
「A」ttention(注意が喚起され・・・)
「I」nterest(興味が生まれ・・・)
「S」earch(検索し・・・)
「A」ction(購買し・・・)
「S」hare(情報を共有する)
「AIDMA」理論と決定的に異なることは、購入に至る過程での商品に対する吟味や考えることが記憶(Memory)させる機会を捉えず、インターネットを利用した行動を重視して、検索(Search)や情報共有(Share)を購入の決め手としていることです。つまり、インターネット時代を反映した消費者行動を前提とする考え方なのです。
また、「AIDMA」理論では、“注意→興味→欲求→記憶→行動”と、段階的な行動プロセスを示しているのに対して、「AISAS」理論では、“注意→興味”というプロセスは同様でも、その先のプロセスは、一定の法則がありません。つまり、興味を持ったら、次に検索する場合もあるし、その情報を直ぐに共有する行為を行うこともあるし、また、直ぐに購入してしまうこともある、と考えられています。
検索(Search)においては、最近のTVコマーシャルの大半は、CMの最後に特定のウェブサイトを検索してもらえるように検索キーワードを表示しています。“詳しくはウェブで・・・”というコマーシャルメッセージが違和感なく聞けるのもインターネットが普及していることの裏返しなのでしょう。最近では、この検索ワード自体が高値で取引されている、という話しを聞くほどです。スポーツイベントなどでも、チケット販売の詳細を専用のウェブサイトで閲覧してもらえるような導き方をしている広告表現が当たり前になっています。更に、そのウェブサイトには、チケットを販売しているチケットエージェンシーのウェブサイトへの導入の仕掛けもされており、消費者は数回のクリックをするだけでチケットの購入画面にたどりつけるようになっています。記憶する間もなく、感覚的な発想だけで購入直前のポジションにまで導き出せているのです。
情報共有(Share)においては、ブログやメールなどにより、消費者個々の判断で、瞬時に情報は拡散されています。先に述べたように、その内容はマイナス要因もあり、リスクも多いのです。予測もしない誹謗中傷に見舞われることがあるかもしれません。そのために、イベントの現場などでは、観客に対して、イベントの感動や経験をより良いものとして発信してもらうための仕掛けを、イベント会場で行っているケースも出てきました。以前にご紹介した東京ディズニーリゾートにオープンした「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」でも、観客に対して、リピーターを呼び込む仕掛けとして配布物などに工夫を凝らしています。イベント主催者は、「AISAS」理論の上では、イベントが終わったら観客は帰るだけ、という考えが、場合によっては大きなリスクを負うことになる、ということを意識すべきでしょう。如何に観客サービスが重要か、そして観戦環境の整備が重要か、ということも、戦略や戦術として考えられなければ、次のお客を呼び込むことすら出来なくなる可能性も導き出してしまうのです。
eコマース、つまりインターネットを通じた商取引や知的活動が当たり前の時代になり、マーケティングやコミュニケーション活動に対する考え方や理論も大きく変化している中で、イベントという目に見えない価値を売っているイベントビジネスの現場でも、より科学的で緻密な戦略や戦術に対する要求は、ますます高くなる気がしています。
posted by umekichihouse |08:02 |
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2008年12月02日
興行イベントのチケットを購入する場合、現在ではチケットエージェンシーなどのイベントチケット専用のウェブサイトから購入するのが一般的です。昔は、・・・とは言っても10年にもならないと思いますが、チケット発売当日の時間直後から電話をかけまくって購入していた壮絶なチケット争奪戦から考えると、ネット普及の威力は、イベントのチケットの購入パターンをも大きく変容している、と言えるでしょう。また、イベントのチケット販売を告知する手段においても、スポーツイベントであれば、スポーツショップなどでチラシを配布してもらったり、ポスターを掲出したり、また、広告展開においても、スポーツだからスポーツ新聞、という定石なのか単なる通例なのかは知りませんが、意外とパターン化した手法が多く見られました。前回述べたNBA公式戦の時のように、日本経済新聞にイベント告知の広告を掲載するなど、場合によっては“無駄金”と言われかねないほどの例外的なものだった思います。また、チケット販売のためのPR関連費も、当然のことながらイベントコストの一部となりますので、費用を節減するためには、単価の安いメディアを選択した結果として、スポーツ新聞が多用されていた、という経緯があるのかもしれません。何れにしても、世の中にイベント開催を知らしめる、という目的はあっても、“誰に?”という概念は、あまりなかったと考えます。
しかし、インターネットの普及と、情報伝送量が大きい光通信設備などのインフラの整備により、我々がインターネットで得られる情報量は、そのほとんどが消化し切れないほど、膨大なものになりました。しかも、音や映像というものもその情報の中に容易に入れ込めるため、文字的な情報以外にも、イメージ的、つまり感覚的な情報までが無作為に飛び込んでくるのが当たり前になっています。
こうした中で、スポーツイベントに限って言えば、スポーツだからスポーツ新聞などという短絡的な発想はもちろんのこと、チケットエージェンシーにチケットの販売を依頼すれば売ってくれる、という過剰な期待も、もはやほとんど過去の遺物になってしまっています。また、イベントのチケットは、単発のものであれば当然のことながら、短期集中型の販売計画を策定し、しかも、販売コストを抑え如何に効率的に入場料収入を回収するか、というところに力点が置かれます。では、情報過多の時代の中で、その効率とはどこに求めるべきなのか?。
チケットとは、それ自体には本来何の価値もありません。イベントの内容や自分が購入した座席の種類が記載されているだけです。しかし、それは、対価としてお金を支払いました、という証明書でもあるため、チケットを紛失すると支払ったお金を無駄にしてしまう、ということから、大事に扱われます。そこにある種の価値観があるのかもしれませんが、そこにチケット販売の大きな落とし穴があるように思います。以前も述べたように、チケットを売る、という行為ではなく、イベントを売る、という行為に立脚しないと、イベントにおけるチケッティング戦略は、単なる紙切れを売るだけの商売になってしまいます。つまり、売りたいイベントの持つ情報や特性、特徴というものこそが、イベントにおけるチケッティングでは、最大の商品価値となるのです。チケット現物に価値がない、というのはそうした意味です。課題となるべき要素は、それら商品価値を持つだろう情報を、誰に、どのように方法で伝え、情報を伝えられた人たちをどのようにチケットの購入に誘導していくか、という、消費財におけるマーケティングと全く同じアプローチなのです。そして、情報という形のない価値を売るのですから、形のある商品を売るよりも、その差別化はもちろん、価値を図るモノサシも、対象とするターゲットの感情や趣向に大きく左右されることになります。
蛇足ですが、以前、日本バスケットボールリーグ、JBLのある試合でチケットが完売となっているのに空席があった、という出来事を取り上げました。その際の、“チケット完売”という情報は、その試合、イベントの持つ価値を大きくする効果がありました。そして、次の試合も完売になりそうだから早めに買わなくては・・・、というチケット購入への誘導へ結びつける効果もあります。逆に言うと、チケットの完売という情報とは違う状況があったことで、その試合、イベントの持つ価値は、チケットを購入した人たちにとっては、大きく価値の低下をもたらす結果をもたらした、とも言えます。ひとつの言葉の使い方で、イベントの情報は、予想もしない付加価値を生むこともあれば、前述のケースのように、マイナスに作用することもあるのです。
では、まず2つのポイントから、一般の消費財のマーケティングでも活用されているインターネット時代のコミュニケーション手法を取り入れたスポーツイベントにおけるチケット販売戦術について検証してみたいと思います。
①ターゲットインサイト
イベントの開催告知、およびそのチケット販売に関する告知は、漁で例えるなら底引き網漁という感じで、あまりその対象を限定せず、できるだけ幅広いメディアの読者、視聴者に情報が到達するように行われてきました。しかし、PRや宣伝に使える予算は限られていますから、多くの読者に情報を届けられる新聞媒体を使用する場合でも、大きなスペースでの広告ではなく、社会面下の小さな広告枠を使用しての告知が多く見られました。臨時広告が掲載されるスペースです。また、TVスポットCMも、テレビ局の事業部との提携や共同主催などにより、あまり予算を掛けずに実施できる方法での投下パターンが多く見られます。もちろん、大規模な観客動員が見込まれるイベントでは、広告のスペースも大きくして、ビジュアル的なインパクトを重視したイベントの興行価値の向上を狙ったものもあります。ただし、ほとんどの場合は、露出回数に重点が置かれているため、小さなスペースの広告をより回数を多く出稿するケースが大半です。
これらの手法は、情報量が過剰なまでに多く、またその収集方法もインターネットを通じて容易に出来る環境にある現在は、全く接触しないまま捨てられる情報も多くなり、情報の送り手であるイベント主催者は、情報を掲載する従来のマスメディアからの視点だけでは、効率という点であまり機能しなくなっています。いくらマスメディアのカバーする読者や視聴者の数を積算して分母を大きくしても、情報が到達する人たちの数である分子が小さいものであるならば、あまりに予算投下効率が悪いからです。
よって、現在の広告手法の中では、情報を伝えたいターゲットを明確に分類して、イベントがターゲットとする人たちに能動的な興味や知りたいという欲求を感じさせることにより、ターゲットを自ら能動的に動かすためのコミュニケーション計画を設計していくことに重点が置かれています。つまり、情報を押し付けるのではなく、餌をまいておびき寄せる、という感じです。漁でいうなら一本釣りのようなものでしょうか?。効率という点でそれはどうか?、というと、情報過多の時代の中で、膨大にある捨てられる情報の量に対して、おびき寄せる仕掛けそのものをコミュニケーション計画の設計の柱とするこの手法の方が、ターゲットを明確にしていくことにより、効率的に高いものになる、とされています。計画段階から、誰を対象としておびき寄せるか、ということを明確に設計しているからです。対象とするイベントは、どのような人たちが興味を示し、また、興味を持たせるための仕掛けが通用するのか、ということを、観客となるであろうターゲットの立場から考えていく、ということなのです。
ファンクラブやプレゼントなどへの応募などから得られたコア層と位置づけられるターゲットのデータベースを、メール配信やダイレクトメールなどの情報発信に活用していくことも、ターゲットとする人たちを明確に掴み、そして単なる年齢や居住地などというデモグラフィックな分類ではなく、趣味や趣向という観点からのターゲットセグメントを行うことにより、より効果的となります。また、その際には、その時点における世の中のトレンドや、競合する性格を持つイベントの存在やその動向を加味して、情報を伝えたいイベントそのものの本質的な価値の訴求方法を綿密に計画することも、効果を上げていくためには必要です。
②クロスメディア
情報を伝えたい人たちが接触しているマスメディアを、如何に効率的に組み合わせて情報を掲載していくか、という視点からコミュニケーション計画を設計していく手法が、メディアミックスでした。しかし、先に述べたように、インターネットの普及と、そこにある情報量の多さを考えると、いくらマスメディアを効率的に組み合わせても、マスメディア自体に接触している人たちが減少し、また、情報が伝わるだけではなかなか行動を導き出せない現在の世の中では、メディアミックスという概念自体が過去の遺物になりつつあります。そこで、メディアという視点からではなく、①で捉えたある特定のターゲットの視点から、どうすればこちらが送り出す情報に接触し、ターゲットの行動を導き出せるか、という考えに基づいてコミュニケーション計画を設計していく手法が、クロスメディアと言われています。言葉通りに、単にメディアをクロスして配置する、ということではなく、あくまでもターゲットの日常の生活動線の中に、意図的にターゲットの行動を導いていくように“導線”を作っていくものです。クロスメディアに関して解説された書籍の中では、これを“シナリオ”作り、と表現しています。
最初に、膨大な情報量の中で、ターゲットが興味を引くように仕掛けを置きます。ここではマスメディアを活用することもありますし、また、ターゲット個々に情報が届けられるインターネットを活用したコミュニケーション手段もあるでしょう。何れも、情報の到達、つまりリーチ率を上げていくことが重要となります。次に、誘い出されたターゲットの行動範囲の中に、購入にたどりつくようにさまざまな仕掛けを置いていきます。そこは、お店かもしれませんし、交通経路かもしれません。また、興味を喚起したことによってインターネット上での検索の過程の中にあるかもしれません。つまり、計画的に設計された“シナリオ”の上を導かれるように、こちらが最終的に導きたい購入というポイントへ進んでいきます。
ここで重要なのは、ターゲットが情報に接触するコンタクトポイントを、意識的にマネジメントしていくことです。ターゲットの“導線”の上に、如何に効率的に情報を置いていくか、ということが重要なのです。メディアミックスとの大きな違いがここにあります。つまり、マスメディアだけを組み合わせるのではなく、あらゆる情報の伝達手段を組み合わせていくのです。マスメディアはもちろん、お店、商品、インターネット、人、イベントなどなど・・・。例えば、人であれば、その対象は、仲間であったり、恋人であったり、友人であったり、グループであったり、と多種多様です。つまり、テーマとなるイベントの情報訴求内容が、どこから伝達されるのが最も効果的なのかを検証していくことも効果をより上げていくための施策となります。スポーツイベントであれば、スポーツショップ、という発想だけではなく、ターゲットが日常接触するお店も多種多様なのですから、この辺の検証も必要であることは当然です。最近は、インターネット広告も、特定のウェブサイトに広告を貼るだけではなく、利用者毎に閲覧するウェブサイト上に趣向がマッチした広告を掲載する仕組みが出ています。ターゲッティング広告、というものです。
ターゲットをより鮮明に読み取っていくことで、彼らのコンタクトポイントを計画的に設計し、そこに“シナリオ”に沿った効果的な情報を仕掛けていく。そのことにより、ターゲットを動かしていく、というマーケティングアプローチこそが、スポーツイベントのみならず、すべてのイベントビジネスの現場で必要とされている時代なのだと思います。
posted by umekichihouse |08:03 |
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2008年12月01日
今回は、2006年に東京ドームでNBA公式戦を開催した際のチケッティング事例を元に、1日当り4万人を動員したインドアスポーツイベントの特殊なケースを検証してみます。それ以前には、東京体育館、横浜アリーナを使用して、それぞれ約1万人、約1万4,000人という規模で実施していましたが、ある程度の人気チームが来日するということで、また、公式戦ですから、それらチームへの入場料収入補償額がそれまでの1.5倍程度になったこともあり、最低でも3万人近い会場キャパシティが必要となりました。入場料収入だけで、2日間合計約6億円のネット収入を最低でも確保しなければならなかったのです。チケット平均販売単価が1万円としても、6万席という膨大な座席数です。その当時、仮にさいたまスーパーアリーナが開館していたとしても、その2万人のキャパシティでは、チケットの平均販売単価を1万5,000円以上にしなければならず、それでは机上計算では見合いますが、実際に販売できるかどうかの可能性を考えれば、非常に難しい選択を強いられたと思います。それでも販売単価1万円という高額な価格に対しては、懸念材料がさまざまにありました。チケットの価格帯は、それほど変わっていませんでしたが、問題はその販売しなければならない数の問題です。
横浜アリーナでは14,000人のキャパシティに対して、一般販売規模は、約90%の13,000弱。2日間で26,000席です。それに対して、ネット収入額は、3億1,000万円。単価にして、約12,000円です。それに対して、東京ドームでは、一般販売規模が、1日で35,615。2日間で、71,230席を売らなければなりませんでした。そして、最低目標である6億円を確保するためには、ネット金額ベースで、販売可能席数に対して70%、つまり、約5万席を最低でも売らなければならなかった、ということです。チケットの平均販売単価は、なんと13,000円を越える金額です。ちなみに、東京ドームでのシーティングとそれぞれのチケット価格は、以下の通りでした。
・RS席(@40,000円) 240席
・GS席(@25,000円) 5,330席(全体比15%)
・SS席(@20,000円) 7,316席(全体比20%)
・S席 (@15,000円) 7,536席(全体比21%)
・A席 (@10,000円) 4,374席(全体比12%)
・B席 (@ 5,000円) 6,271席(全体比17%)
・C席 (@ 3,000円) 4,266席(全体比12%)
・その他、バルコニー席 282席
さいたまスーパーアリーナでのスポーツイベント実施時の凡その販売可能席数は、19,000席程度ですから、上記のシーティング規模では、RS、GS、SS、そしてS席までで2万席を越えるものとなり、さいたまスーパーアリーナで最低でも15,000円のチケットを売ってバスケットボールのイベントを行うほどの意味合いです。しかも、ホームベース上付近にコートを設置し、2塁ベース上付近から外野方向にかけて約5,000席の仮設スタンドを設置した観戦環境ですから、通常のアリーナ施設、例えば横浜アリーナと比較すれば、お世辞にも見やすいと言えるものではありません。既存の内野席からは、イスに座った姿勢から少しグラウンド側に向きを変えないとコートをまっすぐに見ることが出来ない角度であることも、本来であれば万単位の高額チケットで売るような座席ではありませんでした。
通常のアリーナ施設と対比させると、所謂アリーナ席は、シーティングの位置から考えると、RS、GS、そしてSS席までの座席が相当すると考えられます。よって、全体に対して約35%程度の規模となり、この設定は、以前に検証したアリーナ施設の平均的な比率とほぼ一致しています。また、販売金額ベースでは、約2億9,000万円となり、最低販売目標額の6億円に対しては、約50%に近い数値となります。これも、以前にシュミレーション通りの比率となっています。
そして、最大の課題であるチケット販売に関するプロモーションとしては、2つのポイントに留意して計画を立案していきました。
1)NBAの公式戦という希少価値を最大限に訴求すること。
2)これまでの来場者となったターゲット層を分析し、彼らの生活動線上で認知を得るためのメディアを活用すること。
公式戦としての希少価値を訴求していくことは、それまでの3回の開催と変わりませんが、よりビジュアル的なインパクトを重視して、理屈抜きで「本物」「本場」ということを感じてもらえるようにするためにしていきました。必然的に、チケット購入のための文字情報は非常に小さなスペースとなり、チケットエージェンシーからは、彼らの過去の経験則から、“不利ではないか?”という疑問の声も出ました。インターネットの普及もまだまだの時代でしたので、詳細はウェブで・・・、という誘導も出来ません。しかし、それらの課題は、2)のターゲットインサイトをベースにしたメディアの活用方法で解決することにしました。1994年にNBA公式戦を実施した際に、実は、チケットはチケットエージェンシー経由では一切販売していません。すべてハガキでの申し込みに対する抽選販売とした経緯がありました。理由は、14,000のキャパシティを2日間埋めるだけの潜在的なファン層の存在が、凡そではありましたが確認できていたことと、彼らをその年から開始を予定していたファンクラブへの加入に導くためのデータベース作りを念頭においていたからです。今日では個人情報の取り扱いなどの規制のため、些か取り辛い手法ですが、1990年、1992年と、短期間でほとんどのチケットが完売していた状況も踏まえて、次のビジネスのスタンスに向けての布石を作る意味でも、このイベント事業を活用していたのです。イベントそのものは、全体のビジネスを活性化する、または伸ばしていくための市場戦略の一環として捉えていたため、それ自体での収益はそれほど大きくは期待していませんでした。イベントを開催することにより、より市場規模を拡大し、ファンを増やしていく、という戦略が、NBAの基本的なマーケティング戦略の一つであったからです。そのポリシーがあったからこそ、プレシーズンゲームなどの華試合ではなく、公式戦という本場アメリカと同様の価値のあるゲームを日本で実現できた、とも言えます。
1994年にハガキによるチケット購入申し込みは、1人で4枚までの購入を許可していたため、申し込みに漏れた人たちの分も合わせても、データベースリストとして活用できたのは、約8,000人分でした。東京ドームでの7万席を埋めるためのものとしては、1人当りの同伴率が4人としても半分に満たないものです。しかし、このデータにより、それまでNBA公式戦のチケットを購入していた人たちの凡その分類は可能でした。7万人を動員するために、どのような人たちをターゲットにしていくべきか、という属性情報は掴むことかできたのです。この属性は、もちろん、当時のすべてのNBAファンに当てはまるものではありません。1万円や2万円という高額なチケットを買って公式戦の会場に来場してくれた人たちのデータに過ぎません。逆に、東京ドームを満員にするための基礎データとしては最適だったのです。
最大のターゲットは、20歳代半ばから30歳代前半の若いサラリーマン、そしてOLと設定しました。ボリュームゾーンとしては、NBAやバスケットボールに限らず、エンタテイメントの観戦や鑑賞に余暇費用を使っている人たちの関心が高かったのです。NBAをバスケットボールというよりは、アメリカ本場のプロスポーツ、という捉え方をしていた人たちです。また、カップルでの来場も多く、同伴率は、大学生やファミリー層よりも落ちますが、情報を的確に与えることにより、確実に顧客となってくれる客層でもありました。第二には、大学生をポジショニングしました。アメリカンスポーツ独特の応援スタイルにイベント観戦の価値を見出してくれている人たちで、同伴率も比較的高かったのです。彼らに対しては、チケット価格にして、1万円前後からそれ以下の購入を期待できることも、狙いの一つにありました。
また、1994年のチケット購入者は、東京もしくは関東地区以外の在住者も多数含まれていましたが、彼らは、どんなにプロモーション規模を拡大して実施しても、その数が何倍にも増える見込みはありません。それよりも、東京ドームへのアクセスを前提として、東京への通勤圏に在住する人たち、つまり、東京のベットタウンに住む人たちに対する情報伝達効果を最大にしていく戦術が練られました。現在では、ターゲットの生活動線、つまり、日常的な行動経路や店舗などを含めた情報への接触パターンを分析した上でのメディア戦略は当たり前ですが、この時は、チケットの販売における戦略としても、この手法を応用することにしました。興行規模が10億円とは言っても、確実にどの程度の収入が確保できるかは、実際のところやってみなければわかりません。特に東京ドームでの開催という初の試みでもあり、リスクという視点での分岐点は、前回の横浜アリーナでの実施規模に設定しました。つまり、上限でも6億円というレベルです。そして、その規模に対して、約5%の3,000万円をプロモーション費用として予算化したのです。最低でも6億円のチケット販売を実現しなければならない命題に対して、3,000万円という予算が少ないのか多いのかは分かりません。しかし、イベントコストに対する回収という使命と、リスクを拡大しないという課題とのハザマでの判断としては、ギリギリ妥当なものであったと考えています。問題なのは、もしもの場合のリスクの増加度を如何に抑えるか、という点での見極めなのだと思います。
実施においては、TVスポットCM、新聞広告、駅貼りポスター、電車の中吊りポスターという、非常にオーソドックスなメディアを選択しましたが、TVスポットCMは、出勤前の時間帯、そして帰宅後の時間帯に、チケット発売1週間前から徐々に投下本数を増やしていきました。併せて、同様の期間に、東京近郊、および通勤客が多数利用する都心のターミナル駅に、ポスター広告を掲示し、また都心へ向かう主要な通勤路線の電車内では中吊り広告を掲示しました。また、懸念とされていたチケットの購入方法を文字情報として確実に伝えるため、新聞広告を利用しましたが、スポーツイベントに多用されていたスポーツ新聞の広告は控えめにして、日本経済新聞を中心として、朝日、読売という全国紙の朝刊に、日経以外は東京本社版だけですが、7段規模の広告を掲載しました。日経に関しては、スポンサーセールスにも影響するようにという意味合いも込めて、全国版として掲載し、また、複数回の掲載を行いました。すべてのメディアの広告枠の獲得と料金交渉では、担当していただいた広告代理店の方に相当に無理をお願いしましたが、なんとか当初の目標規模の計画は実現できました。
チケット発売は、6月下旬から開始し、スポンサーとなっていただいたコンビニエンスストアによる先行発売の告知効果も便乗して、初動1週間で約7割の販売を達成することが出来ました。しかし、ここからが難しいところで、当初から7月下旬から始まるアトランタ五輪でのアメリカチームの活躍による話題の喚起や注目との向上を期待して、オリンピック終了までには少なくとも9割のレベルにはもっていきたいと考えていたのですが、結果的には、ほぼ完売となったのは、それから2ヵ月後のことでした。先に述べたように、7割では、イベントコストを回収する程度に留まってしまいます。今後の市場拡大策などへの投資を考えると、少なくとも9割は販売したいという願いがありましたので、かなり神経をすり減らした2ヶ月となりました。3割、約2万枚のチケットの売れ残りは、覚悟はしていたとは言え、かなりの精神的プレッシャーだったことを思い出します。
1996年の東京ドームでのNBA公式戦では、チケット販売による入場料収入は、ネットレベルで約8億円。スポンサーシップ収入で、テレビ中継放送のCMタイム分を含めて約3億円。そして、マーチャンダイジングやその他のテレビ放送権などのライセンス収入で約1億円の、合計で12億円の収入となりました。イベントコストも今までにないほどの規模になりましたが、大幅な増加もなく収められ、幾分の利益が生み出すことも出来ました。
チケッティングという視点で、この東京ドームでのNBA公式戦というスポーツイベントを考えた時、先にも述べたように、野球を観戦するために設定された座席からの、グラウンド内の小さなバスケットボールコートの見え方が常に課題となっていました。現場での検証作業でも、コートの設置位置は正確にわかっていても、それが実際にどのように見えるかは、当日まで誰もが頭の中で空想を巡らすしかありません。しかも、チケットの販売単価は、万単位のものです。コート内でのゲームは価値の高いものでも、そのゲームの観戦環境が粗悪なものであれば、チケットを買ってくれた人たちにとっては、非常に高いものに映るかもしれません。終始歓声の包まれた会場の中の雰囲気から考えると、ホッとした部分はありますが、イベント会場における座席などの観戦環境にも留意しないと、行われているイベントの中身は素晴らしくても、観客にはチケット価格分だけの満足度は与えられないことを、痛切に感じることが出来た機会でもありました。イベントの内容だけでなく、イベントの現場となる会場そのものにも、客を呼ぶ力と満足させるための環境というものは必要なのだと思います。
このことを裏付けるかのように、1999年に同じく東京ドームで開催されたNBA公式戦では、1996年と対比して、目視による測定のレベルだけでも約2割以上は客足が落ちています。特に、3F席などの観戦環境が懸念されていたエリアにおける空席が目立ちました。比較的安い価格設定を維持すべき座席エリアでありながら、1999年の時は、全体的にチケットの販売価格が引き上げられ、約3割程度の値上げとなっていました。当然のことながら、安い価格帯の座席エリアも値上げの対象でした。1999年は、NBAが直接すべてのイベント運営を賄っていたため、私はスポンサーの対応という立場でしか見ていませんでしたが、1996年の表には出ていなかった数多くの懸念材料が、もし活かされていれば、こうしたことは回避できたのかもしれません。半ば偶然にも完売という結果になってしまったため、マイナス要因はどこかに埋もれてしまったのでしょう。
ちなみに、1999年には、来場者に対するアンケート調査を実施しています。約800名に対して会場内でアンケート用紙を配布し、後日郵送してもらう方式にて、有効回答数は139でした。その調査結果の一部を下記にご紹介します。10年も前の調査ですので、NBAに対する意識調査としてではなく、NBA公式戦のイベント会場に訪れた観戦者の属性という視点から、先のチケッティングの状況と併せて見て頂ければと思います。
<年齢層>
・10歳代 2% ・20歳代 56%
・30歳代 40% ・40歳代以上 1% ※既婚率:66%
<在住する都道府県>
・東京都 27% ・東京以外の関東地区 33% 計60%
・東北および北海道地区 10% ・北陸および北信越地区 5%
・東海および中京地区 11% ・関西地区 9%
・中国および四国地区 4% ・九州地区 1%
<過去1年間でのバスケットボールイベントの観戦頻度>
・0回 66% ・1-2回 16%
・3-5回 9% ・6回以上 9%
<NBA JAPAN GAMESに関する情報の取得先>※複数回答
・雑誌記事 93% ・テレビCM 42%
・雑誌広告 35% ・テレビニュース 27%
・インターネット 51% ・新聞記事 32%
・新聞広告 14% ・テレビ中継番組 25%
<同伴者の相手>
・同姓の友人 40% ・異性の友人や恋人 13%
・夫婦 13% ・グループ 7%
・親子 2% ・ひとり 17%
最も特徴的なのは、過去1年間にバスケットボールイベントの観戦歴がない人が66%だったということです。また、4割の人は関東以外から来場していることから、このイベントのひとつの興行価値の高さが覗えます。
posted by umekichihouse |07:49 |
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