2008年12月02日
「スポーツイベントとチケッティング戦略」その7 ~新しいマーケティングアプローチの応用①
興行イベントのチケットを購入する場合、現在ではチケットエージェンシーなどのイベントチケット専用のウェブサイトから購入するのが一般的です。昔は、・・・とは言っても10年にもならないと思いますが、チケット発売当日の時間直後から電話をかけまくって購入していた壮絶なチケット争奪戦から考えると、ネット普及の威力は、イベントのチケットの購入パターンをも大きく変容している、と言えるでしょう。また、イベントのチケット販売を告知する手段においても、スポーツイベントであれば、スポーツショップなどでチラシを配布してもらったり、ポスターを掲出したり、また、広告展開においても、スポーツだからスポーツ新聞、という定石なのか単なる通例なのかは知りませんが、意外とパターン化した手法が多く見られました。前回述べたNBA公式戦の時のように、日本経済新聞にイベント告知の広告を掲載するなど、場合によっては“無駄金”と言われかねないほどの例外的なものだった思います。また、チケット販売のためのPR関連費も、当然のことながらイベントコストの一部となりますので、費用を節減するためには、単価の安いメディアを選択した結果として、スポーツ新聞が多用されていた、という経緯があるのかもしれません。何れにしても、世の中にイベント開催を知らしめる、という目的はあっても、“誰に?”という概念は、あまりなかったと考えます。 しかし、インターネットの普及と、情報伝送量が大きい光通信設備などのインフラの整備により、我々がインターネットで得られる情報量は、そのほとんどが消化し切れないほど、膨大なものになりました。しかも、音や映像というものもその情報の中に容易に入れ込めるため、文字的な情報以外にも、イメージ的、つまり感覚的な情報までが無作為に飛び込んでくるのが当たり前になっています。 こうした中で、スポーツイベントに限って言えば、スポーツだからスポーツ新聞などという短絡的な発想はもちろんのこと、チケットエージェンシーにチケットの販売を依頼すれば売ってくれる、という過剰な期待も、もはやほとんど過去の遺物になってしまっています。また、イベントのチケットは、単発のものであれば当然のことながら、短期集中型の販売計画を策定し、しかも、販売コストを抑え如何に効率的に入場料収入を回収するか、というところに力点が置かれます。では、情報過多の時代の中で、その効率とはどこに求めるべきなのか?。 チケットとは、それ自体には本来何の価値もありません。イベントの内容や自分が購入した座席の種類が記載されているだけです。しかし、それは、対価としてお金を支払いました、という証明書でもあるため、チケットを紛失すると支払ったお金を無駄にしてしまう、ということから、大事に扱われます。そこにある種の価値観があるのかもしれませんが、そこにチケット販売の大きな落とし穴があるように思います。以前も述べたように、チケットを売る、という行為ではなく、イベントを売る、という行為に立脚しないと、イベントにおけるチケッティング戦略は、単なる紙切れを売るだけの商売になってしまいます。つまり、売りたいイベントの持つ情報や特性、特徴というものこそが、イベントにおけるチケッティングでは、最大の商品価値となるのです。チケット現物に価値がない、というのはそうした意味です。課題となるべき要素は、それら商品価値を持つだろう情報を、誰に、どのように方法で伝え、情報を伝えられた人たちをどのようにチケットの購入に誘導していくか、という、消費財におけるマーケティングと全く同じアプローチなのです。そして、情報という形のない価値を売るのですから、形のある商品を売るよりも、その差別化はもちろん、価値を図るモノサシも、対象とするターゲットの感情や趣向に大きく左右されることになります。 蛇足ですが、以前、日本バスケットボールリーグ、JBLのある試合でチケットが完売となっているのに空席があった、という出来事を取り上げました。その際の、“チケット完売”という情報は、その試合、イベントの持つ価値を大きくする効果がありました。そして、次の試合も完売になりそうだから早めに買わなくては・・・、というチケット購入への誘導へ結びつける効果もあります。逆に言うと、チケットの完売という情報とは違う状況があったことで、その試合、イベントの持つ価値は、チケットを購入した人たちにとっては、大きく価値の低下をもたらす結果をもたらした、とも言えます。ひとつの言葉の使い方で、イベントの情報は、予想もしない付加価値を生むこともあれば、前述のケースのように、マイナスに作用することもあるのです。 では、まず2つのポイントから、一般の消費財のマーケティングでも活用されているインターネット時代のコミュニケーション手法を取り入れたスポーツイベントにおけるチケット販売戦術について検証してみたいと思います。 ①ターゲットインサイト イベントの開催告知、およびそのチケット販売に関する告知は、漁で例えるなら底引き網漁という感じで、あまりその対象を限定せず、できるだけ幅広いメディアの読者、視聴者に情報が到達するように行われてきました。しかし、PRや宣伝に使える予算は限られていますから、多くの読者に情報を届けられる新聞媒体を使用する場合でも、大きなスペースでの広告ではなく、社会面下の小さな広告枠を使用しての告知が多く見られました。臨時広告が掲載されるスペースです。また、TVスポットCMも、テレビ局の事業部との提携や共同主催などにより、あまり予算を掛けずに実施できる方法での投下パターンが多く見られます。もちろん、大規模な観客動員が見込まれるイベントでは、広告のスペースも大きくして、ビジュアル的なインパクトを重視したイベントの興行価値の向上を狙ったものもあります。ただし、ほとんどの場合は、露出回数に重点が置かれているため、小さなスペースの広告をより回数を多く出稿するケースが大半です。 これらの手法は、情報量が過剰なまでに多く、またその収集方法もインターネットを通じて容易に出来る環境にある現在は、全く接触しないまま捨てられる情報も多くなり、情報の送り手であるイベント主催者は、情報を掲載する従来のマスメディアからの視点だけでは、効率という点であまり機能しなくなっています。いくらマスメディアのカバーする読者や視聴者の数を積算して分母を大きくしても、情報が到達する人たちの数である分子が小さいものであるならば、あまりに予算投下効率が悪いからです。 よって、現在の広告手法の中では、情報を伝えたいターゲットを明確に分類して、イベントがターゲットとする人たちに能動的な興味や知りたいという欲求を感じさせることにより、ターゲットを自ら能動的に動かすためのコミュニケーション計画を設計していくことに重点が置かれています。つまり、情報を押し付けるのではなく、餌をまいておびき寄せる、という感じです。漁でいうなら一本釣りのようなものでしょうか?。効率という点でそれはどうか?、というと、情報過多の時代の中で、膨大にある捨てられる情報の量に対して、おびき寄せる仕掛けそのものをコミュニケーション計画の設計の柱とするこの手法の方が、ターゲットを明確にしていくことにより、効率的に高いものになる、とされています。計画段階から、誰を対象としておびき寄せるか、ということを明確に設計しているからです。対象とするイベントは、どのような人たちが興味を示し、また、興味を持たせるための仕掛けが通用するのか、ということを、観客となるであろうターゲットの立場から考えていく、ということなのです。 ファンクラブやプレゼントなどへの応募などから得られたコア層と位置づけられるターゲットのデータベースを、メール配信やダイレクトメールなどの情報発信に活用していくことも、ターゲットとする人たちを明確に掴み、そして単なる年齢や居住地などというデモグラフィックな分類ではなく、趣味や趣向という観点からのターゲットセグメントを行うことにより、より効果的となります。また、その際には、その時点における世の中のトレンドや、競合する性格を持つイベントの存在やその動向を加味して、情報を伝えたいイベントそのものの本質的な価値の訴求方法を綿密に計画することも、効果を上げていくためには必要です。 ②クロスメディア 情報を伝えたい人たちが接触しているマスメディアを、如何に効率的に組み合わせて情報を掲載していくか、という視点からコミュニケーション計画を設計していく手法が、メディアミックスでした。しかし、先に述べたように、インターネットの普及と、そこにある情報量の多さを考えると、いくらマスメディアを効率的に組み合わせても、マスメディア自体に接触している人たちが減少し、また、情報が伝わるだけではなかなか行動を導き出せない現在の世の中では、メディアミックスという概念自体が過去の遺物になりつつあります。そこで、メディアという視点からではなく、①で捉えたある特定のターゲットの視点から、どうすればこちらが送り出す情報に接触し、ターゲットの行動を導き出せるか、という考えに基づいてコミュニケーション計画を設計していく手法が、クロスメディアと言われています。言葉通りに、単にメディアをクロスして配置する、ということではなく、あくまでもターゲットの日常の生活動線の中に、意図的にターゲットの行動を導いていくように“導線”を作っていくものです。クロスメディアに関して解説された書籍の中では、これを“シナリオ”作り、と表現しています。 最初に、膨大な情報量の中で、ターゲットが興味を引くように仕掛けを置きます。ここではマスメディアを活用することもありますし、また、ターゲット個々に情報が届けられるインターネットを活用したコミュニケーション手段もあるでしょう。何れも、情報の到達、つまりリーチ率を上げていくことが重要となります。次に、誘い出されたターゲットの行動範囲の中に、購入にたどりつくようにさまざまな仕掛けを置いていきます。そこは、お店かもしれませんし、交通経路かもしれません。また、興味を喚起したことによってインターネット上での検索の過程の中にあるかもしれません。つまり、計画的に設計された“シナリオ”の上を導かれるように、こちらが最終的に導きたい購入というポイントへ進んでいきます。 ここで重要なのは、ターゲットが情報に接触するコンタクトポイントを、意識的にマネジメントしていくことです。ターゲットの“導線”の上に、如何に効率的に情報を置いていくか、ということが重要なのです。メディアミックスとの大きな違いがここにあります。つまり、マスメディアだけを組み合わせるのではなく、あらゆる情報の伝達手段を組み合わせていくのです。マスメディアはもちろん、お店、商品、インターネット、人、イベントなどなど・・・。例えば、人であれば、その対象は、仲間であったり、恋人であったり、友人であったり、グループであったり、と多種多様です。つまり、テーマとなるイベントの情報訴求内容が、どこから伝達されるのが最も効果的なのかを検証していくことも効果をより上げていくための施策となります。スポーツイベントであれば、スポーツショップ、という発想だけではなく、ターゲットが日常接触するお店も多種多様なのですから、この辺の検証も必要であることは当然です。最近は、インターネット広告も、特定のウェブサイトに広告を貼るだけではなく、利用者毎に閲覧するウェブサイト上に趣向がマッチした広告を掲載する仕組みが出ています。ターゲッティング広告、というものです。 ターゲットをより鮮明に読み取っていくことで、彼らのコンタクトポイントを計画的に設計し、そこに“シナリオ”に沿った効果的な情報を仕掛けていく。そのことにより、ターゲットを動かしていく、というマーケティングアプローチこそが、スポーツイベントのみならず、すべてのイベントビジネスの現場で必要とされている時代なのだと思います。
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posted by umekichihouse |08:03 |
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