2009年03月16日

スポーツイベントのチケッティングに必要なターゲットインサイトとアイディアの力

ワールド・ベースボール・クラシックに出場する日本代表、“サムライジャパン”に注目が集まる中、見事に連覇したならば、今シーズンのペナントレースにも、より多くのファンが集まるでしょうか?。それとも、注目の目は、ますますMLBへと注がれるのでしょうか?。何れにしても、今年も、新しい野球シーズンが間もなく始まります。

観客動員数としては、セ・リーグに約250万人ほど、まだ差があるパ・リーグですが、各球団とも、さまざまなアイディアを駆使しており、前シーズンを確実に上回る結果を残しており、今シーズンもより一層の集客を目指しているようです。そうした中で、先頃、パ・リーグ6球団による共同事業会社、パシフィック・リーグ・マーケティングは、リーグ共同の企画として、フィギュア付チケットを発売しています。既に、対象試合の一部は完売しているということで、ファンのみならず、マニアにも受けているのかもしれません。この企画は、単独ではさまざまな景品を付けて、チケットの販売促進策に生かしているこれまでのケースと異なり、6球団共同の企画ということで、対戦相手の選手のフィギュア1体と、ホームチームの選手1体の、2体が1セットでもらえるところが特徴になっています。フィギュア付チケットが売り出されるカードは特定されており、特に集客が伸び悩むウィークデーのカードがその対象となっているようです。チケット価格が通常と同じでも、ファンやマニアには、チケットを購入しなければもらえない希少価値があり、また、6球団の対戦それぞれに、ホームとビジターのユニフォームも異なっているなどの細かい配慮もあるようで、すべてのフィギュアを集めようとする熱狂的なマニアも出てくるかもしれません。

スポーツイベントのチケッティングは、以前にも取り上げたテーマですが、最近は、観客動員をより積極的に考え、そこに科学的な戦略やマーケティングを取り入れている傾向が、数多く見られるようになりました。Jリーグでは、毎年のように観客調査を実施するなど、各球団のみならず、リーグとしての取り組みも、以前より活発になってきているように思われます。先のフィギュア付チケット販売企画のように、ひとつの球団や、ひとつの対戦カードだけでは、集客効果を持続できない場合でも、リーグ全体の取り組みにより、その効果を、シーズンを通して結果が得られるような長期的なものにしていけるチャンスが生まれてきます。また、そうした企画の実施の過程では、ターゲットインサイトという戦術も必要になることが実践で理解され、より効率的で効果的な戦略が具体化できる場合もあります。つまり、アイディアがいくら素晴らしくても、そのアイディアを誰に向けて打ち出していくのが不明確であれば、アイディア倒れに終わってしまいます。また、ターゲットがしっかりと見定められていても、そのターゲットに対して的確なアイディアがなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。精度の高いターゲットインサイトと、的確なアイディアが、同時に企画としてなければ、その企画は、効果性のある企画としてはその実効性を持たないのです。

スポーツイベントやリーグのチケッティングは、基本的には、シーティング(座席配置)、プライシング(価格設定)、そしてセールスチャネル(販売場所や流通網)が基礎となって計画が立てられますが、これは、計画上はキチンとした内容であるようで、実は、買ってくれる人の顔を見ていない場合が多いのです。集客力があるイベントやゲームであれば、何ら問題はないでしょう。しかし、特に日本国内のプロ以外のスポーツリーグの場合、子供たちのために低価格のチケットを用意しようとか、コアファンのために選手に近い場所のチケットを用意しようとか、あるいは、日頃行き慣れているスポーツショップでもチケットを取り扱ってもらおう、などという、小・中・高校生向けの対策は取っていても、大人向けの一般ファンを動員するための施策は、あまり具体的に見られません。また、チケットエージェンシー経由でのオンライン販売に乗せてしまえば、後は“お任せ”的な販売対策しかしていないケースも少なくありません。更に、地方都市での開催の場合は、販売チャネルに関しても、ままならない環境にあるケースが少なくありません。これは、単発のゲームを対象とした興行では、ターゲット論を生かしたアイディアなど、考える余裕もないからで、中期スパンでのリーグとしての戦略構築が、絶対的に必要なのです。

◇チケットを買ってもらいたい我々のターゲットは誰なのか?
◇我々の競合するエンタテイメントは何なのか?
◇ターゲットは我々にどの程度の価値観をもっているのか?
◇ターゲットの我々に対する理解度とはどのようなものなのか?
◇試合を観戦する目的は?(選手の応援、チームの応援、スポーツ観戦、暇つぶし・・・)

ターゲットの個性を分析すれば、ターゲットに対してどのようにアプローチすればよいか、ヒントが生まれてきます。先のフィギュア付チケットを購入している人の中には、その特典付チケットを、買うこと自体を楽しんでいる人もいると思います。希少価値の高い商品を買う人の中には、そうした人が少なからずいるからです。しかし、チケットを買っても観戦に訪れなければ、それは別の問題ですが、そういう人もいる、ということを認識しておくことも、アイディア創出の上では重要でしょう。そして、ターゲットにアプローチする段階で、次の仕掛けが必要です。それは、集客効果を広く拡散していくことです。つまり、同伴率を引き上げていくために、グループ観戦やファミリー観戦に適したアイディアを付加していくことです。更に、リピート率を引き上げることがありますが、これはチケッティングというよりは、興行運営全体で考えなければならないことなので、ここでは省略します。

フィギュア付チケット販売企画は、どの程度当たるのか!?。リーグ共同企画としての効果の程に、興味深々です。

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2009年03月13日

スポーツイベントにおける旅行代理店との付き合い方と専門機能の活かし方

JTBやknt!などの大手旅行会社には、インパウンド(Inbound)、つまり外国人を迎え入れて行う国際的にイベントやコンベンションなどの事業に関わる、宿泊および輸送の運営機能に対応していくための専門部署が設けられています。私も、何度か、こうした部署の方々の専門的な業務に助けられた経験がありますが、彼らの持つ専門性とは、ツアーや団体旅行の添乗サービスやガイドなどという、従来の旅行会社からイメージする業務のものとは違います。もちろん、大会の公式ホテルにおける選手や役員、関係者などの宿泊を手配したり、バスなどの車輌を手配することも含まれますが、これらはほんの一端に過ぎず、基本的には、大会などの運営業務を司る一員として、大会の運営機能のひとつとして働くことが業務の柱となります。具体的に言うと、スポーツイベントで、選手やチームの輸送のための大型バスを手配しますが、そのバスの運行スケジュールや、バスの使い方に至るまでの管理も業務として必要となります。どちらかというと、その管理業務こそが、イベント運営の際には需要になります。大会全体のスケジュールの把握や、時には、スポーツ競技そのものの知識や特性を理解していないと、対応ができない場合も出てきます。当然のことながら、大会運営で必要とされるさまざまな運営機能との連携が、さまざまに生じてきますので、イベント運営に関る知識がなければ、連携する業務担当者との会話すらできないことになります。

ある地方都市での国際スポーツ競技大会の時のことをご紹介します。大会の宿泊や輸送を担当した旅行会社は、大手の地方支店だったのですが、選手や関係者用の宿泊手配をしたまでは良かったものの、彼らの食事の用意として、すべて一律でのクーポン券の配布で対応しようとしたのです。ツアー客や団体客にはこれで十分でしょう。しかし、国際大会の場合、特に選手の食事は、体調管理や栄養学的な面で、気を使うべきもので、国際競技連盟などの主催団体によっては、食事のメニューを指定したり、事前にチェックをする場合が当たり前にあります。また、国によっては、宗教上の都合から、食べられない食材もあり、朝食にアジの干物が出たら、単なるジョークになってしまいそうです。水分補給のためのドリンク類の用意も、内容によっては含有成分などに留意する必要があります。ドーピングには抵触しないでしょうが、選手やチーム帯同のドクターなどの方が神経質に考えている場合もあります。ほんの一例ですが、これだけでも、ホテル運営を担当する専門スタッフとしては落第です。

また、大会運営専用にチャーターしたバスの運行においても、ただ時間通りに運行すれば済む話しではなく、発着場所、運行経路、渋滞時の回避策、セキュリティの必要性、積み込むべき荷物や備品の確認、競技会場のおける選手やチーム用車輌の進入動線などなど・・・、車一台の運用に関してだけでも、大会運営の生命線を握る場合もあり、連絡網を含めた管理体制は、非常に詳細な計画立案が求められます。

更には、アタッシェという、選手やチーム、審判などの競技役員、VIPなどに随行して、移動や各種サービスを請け負う専門スタッフの派遣を担うこともあります。アタッシェには、通訳としての語学力はもちろんですが、本業たるツアーコンダクターとしてのサービスノウハウ、大会運営に必要な情報のやり取りと集約、そしてホテルや競技会場の中での案内や補助業務に至るまでの、さまざまな作業が要求されます。大会運営を管理する立場からすると、アタッシェという存在は、選手やチーム、競技役員やVIPとを繋ぐ重要なコミュニケーションラインであり、まさに猫に付ける鈴のような存在です。彼らからの連絡ひとつで、競技会場内の運営体制を動かす必要にも迫られるのです。旅行会社は、ツアコンを含めて人材派遣的なサービスも請け負うこともあるようですが、まさにその機能が、イベント運営の現場では活かされます。

また、VIPなどの要人、来賓のためのプロトコール業務が必要なケースも大きな大会ではありますが、それは、競技会場のみならず、本部機能を設置するホテルはもちろんのこと、空港や鉄道の駅の中にも必要となることがあります。空港で到着したVIPを、事前手配で用意した車輌に乗せ、ホテルに送り届け、そして今度はホテル内のプロトコール機能によりサービスを提供する。ここにも、ホテル運営、宿泊対応、車輌手配などの旅行会社としての業務機能が活かされるため、プロトコール業務の担当スタッフとは、緊密な連携が必要となります。もちろん、ホテル側の協力により、ホテル内における大会専用のセキュリティ体制を最小限にしていくことも、担当旅行会社の役割ですし、大会の運営機能を設置する上でも、医療対応の体制やゲストサービス、インフォメーションサービスなど、ホテル独自の運営機能とは別の大会専用の運営機能をキチンと整備することも重要な役割になります。ホテル任せ、ということは通用しないばかりか、大会に関係のない一般の客もいることで、そこでのバランスを上手く調整しながら、大会運営に十分な協力を得られるようにしていくが、彼らのノウハウとしてなければならないのです。

単純に考えて、ホテルの宿泊を手配するから、それは旅行会社に任せて・・・、などと考えて大会の運営計画を立案していくことは、その旅行会社のイベント運営に対する力量の見極めの欠落と、彼らのリソースをうまく活用していない証拠になります。イベント全体の運営計画を、十分に理解できるだけの経験値、もしくは理解する能力が低ければ、それは、大会運営を担う本部的な組織そのものが、大きな負担を抱えることを覚悟しておかなければなりません。そして、担当旅行会社には、人的対応能力に優れたスタッフがいますから、彼らを適材適所でうまく活用しながら、スタッフ配置のバランスを考えていくことも、念頭に置くべきでしょう。決して、会社の規模の大小ではありません。イベント運営に対する考え方や知識、そして優れた人材の有無で、良いパートナーを選びましょう。

posted by umekichihouse |04:56 | イベントオペレーション | コメント(2) | トラックバック(0)
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2009年03月11日

「猪苗代の真実!?・・・フリースタイルスキー世界選手権大会の現場にて」その3 ~大会運営編

今月2日から8日まで、福島県猪苗代町で開催されたFISフリースタイルスキー世界選手権。モーグルで期待された上村選手の2冠など、日本人選手の期待通りの活躍に、7日には観客のスペースを満員電車並みの観客が埋め尽くし、テレビや新聞の報道も、WBCやJリーグの開幕に引けを取らない扱いでした。大会組織委員会は、大盛況、大成功と、自らの大会運営を自画自賛するのかもしれません。FIS、世界スキー連盟の会長も、地元の新聞報道によれば、大絶賛ということで、世界に誇るフリースタイルスキーのメッカとしての面目も立ったというところです。しかし、実際に現場に行った私の目には、いくつかの疑問もありました。それは、スポーツイベントの現場を多く見てきたから、見えなくてもいいものも見えてしまった、ということかもしれませんが、猪苗代で見た疑問とは、多くの地方開催の国際大会の現場で、例外なく感じられたことでもあり、今回は、大会運営の現場にフォーカスして、その点を検証してみたいと思います。

私の疑問とは、3つの点に集約されます。一つ目は、前々回も取り上げたテーマですが、観客に対する配慮と運営上の体制についてです。二つ目は、競技運営と大会運営という2つの運営機能の連携についてです。三つ目は、大会スポンサーと大会運営機能との連携についてです。

まず、一つ目の観客に対する配慮と運営上の体制についてですが、最も疑問に感じたのは、観客が競技を観戦するためのエリアの設定と、そのエリア内のコンディション整備に関する要件です。雪不足のため、競技コースはもちろんのこと、すべてのエリアには、大量の雪が持ち込まれ、そして人工降雪機による対策も練られたようです。コース周辺にほとんど雪が無かったり、あちこちに地肌が見えていた場所があったことを考えると、大会組織委員会や地元の方々の、コース整備や大会を開催するための準備作業には、大変な努力があったことが容易に想像できました。もし、大会期間中に雨が降ったりしたら、もっと大変な状態になっていたに違いありません。雪はザラメ状で柔らかくなっており、歩くだけでも大変な状態でした。観客が観戦するスペースは、モーグルコースの一部に設置されたスタンド席以外は、すべてフリーのスペース、つまり只の更地であり、しかも、ほとんどは平らではないために、前の人の頭で後ろの人が全く見えない場所もありました。競技の正味時間は、決勝だけでも1時間30分程度あり、雪の柔らかいこともあって、立ちっぱなしでの観戦は、足腰にきついものでした。ひとつ感じたのは、一般の観戦スペースの足元のコンディションを、もう少し整備してくれると、観客の負担はかなり少なくなったのでは?、ということです。競技コースは万全に整備されていました。当然のことです。しかし、大会運営全体で、観客を誘導するスタッフは、見るからにたくさんいたのですが、彼らは立っているだけ。何人かだけでもそうした整備に気を使ったり、観客対応という運営機能がキチンとあれば、準備段階から、そうした配慮は、具体的な対策として計画されていたのかもしれません。

また、物品輸送や人の輸送のため、ウインタースポーツらしく、スノーモービルが大活躍していました。しかし、このスノーモービルの運行コースが、時には観客の動線にも入ってくるため、非常に危ない思いをしました。運転しているスタッフは、恐らく地元の人だと思いますが、スノーモービルを警察車輌の緊急車の如く運転してくるため、歩いている人への配慮がありません。「どけ!」、という感じです。配慮云々というよりは、観客から入場料を取って大会を運営している感覚が、ゼロですね。ADカードを見て、氏名を確認した上で公表しようと思いましたが、それはやめます。しかし、大会スタッフとしての気持ちの高揚がそうさせているのかもしれませんが、私が運営責任者なら、その場でADカードを没収して帰します。

恐らくこうした観客に対する配慮が欠けていた原因は、運営組織の構築に問題があった、と想像します。恐らく、運営という組織を、競技運営とその周辺を管轄するべき大会運営とを、区別していなかったからだと思います。その場合起こりえることは、競技の進行や運営に関る要件のみに大会運営の機能が集約されてしまい、競技が無事終わればOK、という考えになってしまうことです。競技が始まる前の観客に対する配慮、そして帰りの配慮、更には、観客が大勢になった場合に起こりえるトラブルに対する配慮、などなど・・・。観客だけを見て大会運営をコントロールしようとする人や、そのための体制が何も感じられず、見ることが出来ませんでした。“おもてなしコーナー”では無料で豚汁が振舞われていましたが、それは、決して大会運営上の観客サービスとは言いません。

もし悪天候になった場合にどのように対処するのか?。それも、少なくても私の周辺にいたスタッフは、何も指示を受けていなかったようですし、その気配りの態度すらありませんでした。ゲレンデの下にはホテルやレストラン施設もあり、特に、ホテルのロビーは、大会専用利用ではありませんでしたので、午前中の予選から観戦している人にとっては、最高の休憩場所です。もちろんすべての観客が利用するほどのスペースはありませんが、日中のホテル内は閑散としており、どのような対応も取れたように感じました。海外の大会では、大きなテント施設を仮設して対応しているケースも資料で見たことがあります。費用の問題もありますが、もしもの場合の対策が、全く見当たらない大会という印象は拭えませんでした。

さて、二つ目の競技運営と大会運営という2つの運営機能の連携ですが、特に不満に思ったのは、競技の進行に伴い、刻々と変わる競技結果の表示が見られなかった、ということです。実は、競技の結果、つまりリザルトデータは、コースのフィニッシュライン近くに設置された大型映像装置に、テレビ放送で利用するCGとして表示されていたのです。ただし、競技中は、テレビ中継でもお分かりの通り、リザルトの一覧は表示されることはありません。スタッフの方に、電光掲示板かそのような情報が分かり表示はありますか?、と尋ねると、その方は大急ぎで確認してくれました。しかし、結果的には、大型映像装置に映し出される画面でしか確認できないことが分かり、その方はこう言ってくれました。「確かに、誰が1位で2位との差はどのくらい、というのが分からないと見ていても楽しくないですよね。今度係りの者に言っておきます」。今度と言われても大会は終わっているのですが、このスタッフの方の言葉通り、今回の大会は、ほとんど観客の立場に立ったものの見方をしていなかったようです。ちなみに、大型映像装置に関しては、大会開催予算で紛糾していた時期の話題にもなっていましたが、当初は取り付ける予定はなかったようなのです。FIS、国際スキー連盟からの要請で取り付けられた経緯があるようなのです。もし、この大型映像装置がなかったならば、観客は、競技結果を、場内のアナウンスのみで知ることになったのでしょうか?。これでは、本当の意味でのレースの興奮は沸いてきませんよね。テレビで見ていた方がよっぽど分かり易いです。ライブで見るからこそ、そうした運営装置は必要なのです。競技運営上では不必要かもしれません。関係者のPCなどには、リアルタイムでリザルトデータが転送されているからです。しかし、大会運営という観点からは、観客のための情報提供ということからも、絶対に必要なのです。タイムやスコアが分からない試合やレースを見て、本当にライブ感を楽しめるわけがありません。

競技を運営する組織は、観客に対する配慮やサービスという概念を、競技運営上の障害となる危険性のあるもの、と見る競技関係者がいます。ある時には、その考えは重視すべきです。競技運営なくしてイベントは成立しませんから・・・。しかし、競技の成り立つ要素のひとつが、観客であり、彼らの声援である、ということも忘れてはなりません。そこでは、競技運営側の立場で、観客をコントロールする大会運営の立場にアドバンテージを与えることも必要になります。そうした連携が、大会全体を成功に導くのだと思います。たかがスコアボードひとつでも、置き方ひとつで何の役にも立たないこともあります。今回も、せっかくの大型映像装置も、本当にすべての観客から見通せる位置にあったのか、角度は適切だったのか、などということを現場で検証したのかどうか、という点に関しては疑問が残ります。確かに、VIP席であろうポジションに対しては、正確に置かれていました。しかし、観客からは、少し見辛かったのではないですか?。

最後の三つ目、大会スポンサーと大会運営機能との連携ということですが、タイミングとリザルトシステムは、SEIKOが担っていたようです。また、ホストブロードキャスターである福島中央テレビが、独自にリザルトデータ用のCGシステムを構築していたとは思えないので、恐らくこれもSEIKOがやっていたのではないかと推測します。この業務は、競技運営の心臓部であり、機材やシステムの設置に関しても、かなりのコストを要するため、大きな役割を成した存在であったことでしょう。しかし、読売新聞を始め、その他のスポンサーが、大会運営にどのように貢献していたのかは、全く分かりませんでした。オリンピックや他のスポーツ競技における大会スポンサーの位置付けは、単なるお金の成る木としての存在ではないことは当然で、大会運営に必要な機能やサービスをキチンと提供することで、観客としてもその存在を認知することが出来ます。当然、資金的な援助も見込めます。しかし、お金を出す側としては、いまでは、単なる露出効果やイメージ訴求だけで、数十万規模の予算でも簡単には拠出してくれません。今大会においても、2億数千万円の予算がスポンサーシップなどの協賛金で賄われていたように報道されていましたが、大会運営との連携や、観客サービスという視点での協力を要請するなどして、それが具体化されていれば、スポンサーにとってもより効果性は望めたでしょうし、大会組織委員会としても、より有意義な協賛が得られたのではないでしょうか?。コース内の広告看板を見る限り、JAや東洋水産がスポンサードしていましたが、観客のためにカップ麺を安く提供したり、農産物を使って、豚汁以外にも地元の名産を振舞ったりと、競技大会としてというよりも、世界的なイベントとして、もっと観客が楽しめるような施策が、スポンサーの協力によって計画されても良かったのではないか、と感じました。ドリンクメーカーによって、暖かいコーヒーのサービスや、スープ飲料の提供なんかも、ウインタースポーツのイベントではよく見られますが、そうした多様なサービスがほとんどみられなかったことは、今回の大会運営全体を見て、非常に残念に思いました。

余談ではありますが、7日のモーグル種目は、東京都庁で開催していたイベントの会場で、クローズドサーキットとしてライブ中継されていたようです。地元局でも録画中継でしたから、唯一の“生”だったわけです。録画中継を予定していたJスポーツの中継映像の伝送機会を利用して、Jスポーツが協力したのか、はたまた東京都がオリンピック招致イベントとしての経費負担で、独自の回線を確保したのかは分かりませんが、光ファイバーのインフラかあれば、物理的にはどこでも可能になる方法です。これを、猪苗代周辺や、場合によっては、全国のスキー場と提携してクローズドサーキット展開しても面白かったと思います。テレビ中継との影響が懸念されますが、日本テレビ以外での放送は、夕方の4時からでした。ならば、スキー場でしか見られなかった人も多かったはずです。費用の問題があるならば、光ファイバー通信を売り込んでいる通信会社との提携や、テレビ受像機に直接光ファイバーを繋いで番組を視聴するサービスも多様化していますから、その辺のPRも加味した連携も考えられたかもしれません。これもITシステムに関連した大会運営という機能の一部として、活かせたノウハウのひとつだと思います。

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2009年03月10日

「猪苗代の真実!?・・・フリースタイルスキー世界選手権大会の現場にて」その2 ~情報発信編

男女モーグルが行われた7日。大会期間中初のテレビ中継が行われました。FISフリースタイルスキー世界選手権猪苗代大会は、当初、日本テレビとの間で、放送権およびホストブロードキャスターに関する業務委託契約について交渉が行われていた、と報道がありました。しかし、日本テレビと大会組織委員会とは契約に至らず、最終的には、同局系列の地元局、福島中央テレビがホストブロードキャスターを務めることになった、という経緯があります。放送権に関する契約に、大会主催者であるFIS、国際スキー連盟が関与していたのかどうか、はたまたホストブロードキャスターに関する契約及び業務発注の経緯などの詳細については、全く情報が公表されていませんので定かではありませんが、福島中央テレビがホストを担うということで、この大会の中継番組は、全国での中継機会がほとんどなくなるだろう、という予測はありました。結果的に、上村愛子選手に期待がかかるモーグル種目のみが、東北や北海道、それに新潟、長野を加えた9地区で放送された、というのが精一杯だったようです。関東地区では、一度は撤退した日本テレビにより、当日の深夜に放送され、合計で10局のミニネットのような形にはなりましたが、6日間の競技日程の中で、たった1日のみの中継というのは、些か寂しい思いがしました。ちなみに、CS放送のJスポーツで、7日のモーグル決勝の模様が、同日の夜9時から録画放送され、また、8日のデュアルモーグルの模様は、14日の午後4時から放送される予定ということになっています。上村選手の2冠達成のレースは、中継番組という形では、Jスポーツでしか放送されませんので、ファン必見ですね。

2007年のFISノルディックスキー世界選手権の際には、ホストブロードキャスターは、札幌市在局の民放局とNHKとの連合組織が務めましたが、日本国内の放送は、テレビ朝日およびBS朝日、CS放送のテレ朝チャンネルが中継を担当していました。日本人選手に期待のかかったジャンプ種目などは地上波とBS放送で、そして、連日の各種目の中継は、テレ朝チャンネルでの放送スタンスが組まれ、実施種目のほとんどはテレビ中継されていました。しかし、選手や関係者が宿泊するホテルでは、視聴契約の関係でCS放送が視聴できなかったため、選手や関係者からは、“何故テレビ中継が無いんだ!?”、と疑問を呈されたそうです。スキー競技が盛んで、ファンも多いヨーロッパなどとの違いが露骨に表れたエピソードですが、今回のフリースタイルでは、CSでの生中継すらなく、競技のテレビ放送は、福島中央テレビのみによるダイジェスト放送が唯一のものだったらしく、FIS関係者や選手たちは、どのように感じたのか、知りたいところです。

福島中央テレビがホストブロードキャスターとして制作した国際信号は、当初の予定では30ヶ国程度の海外局に配信される予定ということでしたが、実績については未確認です。しかし、3会場の競技コースの近くには、キャリアを請け負っていたであろうKDDIのSNGが配車されており、欧米大陸との時差を考えるとライブということではないにしろ、適時伝送されていた様子は見て取れました。以前、世界陸上でのTBSクルーの奮闘ぶりを取り上げましたが、国際大会でのホストブロードキャスターには、通常の国内大会以上に、高い制作能力とスポーツ競技そのものに対する知識や理解度が求められます。今回は、海外局のアドバイスなどがどれほどあったかは分かりませんが、競技コース周辺で“HBC”のビブを着用してドタバタしていた姿を見ると、福島中央テレビのクルーの皆さんも、選手と同様に、世界選手権という大舞台に挑んでいる、という意気込みをヒシヒシと感じました。しかし、本当に残念なのは、国内での放送回数の少なさです。同時期に行われていたノルディックやアルペンの世界選手権が、NHK衛星第一放送で連日中継されていたことを思うと、そこでのジャンプ団体および複合団体での活躍をも上回るモーグルでの活躍があっただけに、CSであっても、BSであっても、もう少し大会全体を楽しめるテレビ中継体制を組んで欲しかった、というのが、スポーツファンの一人として思うところです。

さて、新聞での報道を見ると、スポンサーとして読売新聞が協賛していたようですが、その読売新聞を始めとして、全国紙での大会の報道は、かなり大きい扱いであったように思います。特に、上村選手がバンクーバー五輪へのキップを獲得し、世界選手権を初めて制したモーグル種目の報道は、同じ日に日本が韓国に大勝したWBCの報道にも負けない扱いになっており、各紙が1面にも記事を掲載していました。やはり、新聞のスポーツ報道は、オリンピック絡みは確実に大きくなりますね。また、モーグル以外の種目の報道も、そこそこの扱いで報道されていたことを考えると、バンクーバー五輪への出場権が掛かった大会として、そのタイトルの価値に比例した扱いが、メディアにもあったことが覗えます。しかし、競技大会という点での報道は、大会の開催地が日本でなくとも、日本人選手の活躍があれば、それはそれなりの報道があって当たり前です。特に、バンクーバー五輪への出場権が掛かる大会ですから、そのニュースバリューは、普段のワールドカップとは自ずと違ってきます。では、開催地として、日本での開催を実現した価値は、どの程度反映されたのでしょうか?。スポーツイベント、特に国際大会を開催する上で、シティセールスとも言われる開催地のPRは、大会開催費の負担の対価として考える上でも、重要なファクターです。

福島県の県域で発行されている地元新聞は2紙ありますが、どちらにも大会の準備の段階から、大会の様子はさまざまな話題を通して報道されていました。特に、読売新聞系の福島民友新聞では、地元の住民参加による活動も取り上げられており、競技の様子のみならず、大会周辺の情報も少なからずありました。しかし、これらの報道は、あくまでも地元住民にしか届かないニュースであり、そのことを考えると、少し底の浅いニュースであったようにも感じます。恐らくこれは、大会組織委員会としての、情報の発信の仕方に問題があったように感じます。開催地地元の住民に、大会の存在をアピールし、一人でも多くの町民、市民、県民が、大会に関心を持ってもらうようにしていくことは大切です。しかし、地元の住民は、大会の開催を通して、県外から、全国から、より多くの観光客や観戦者を呼び込む立場にあるホストであり、地元のことを地元住民の中だけで情報循環させて満足することが、大会を開催する目的でも、大会に求めていることでもなかったはずです。大会を通じて、もっと県外に猪苗代をPRし、全国から観戦に訪れてもらおう。その機運を高め、地元住民自らアクションを起こしてもらうための動機付けを行うのが、地元メディアとしての使命だったのではないか?、と思います。

私がJR猪苗代駅に着いた時、率直に感じたのは、驚くばかりの静けさでした。同じ列車で到着した人が、10数人いましたが、私以外は、みんなスキーをしにきた大学生のようでした。駅員さんは彼らに、「フリースタイルを見に来たの?」と尋ねると、若者の一人は、「え!?、何!???・・・」、という感じでした。駅員さんが大会があることを説明すると、「そうなんだ!・・・」。彼らは、スノーボードをしに来たようでしたが、大会のあることすら全く知らなかった様子でした。今年は、例年にない雪不足のようで、北海道や北陸地方以外は、どのスキー場も客足は遠のいているようです。従って、普段のこの時期にはもう少し賑わっていると、駅員さんは言っていましたが、逆に、こうしてせっかく訪れたスキー客が大会のことを知らない、というのは、少し寂しくありませんか?。駅から会場までの無料シャトルバスの運行もあることだし、また、パーク・アンド・ライド方式の輸送体制を敷いて、車で来た観客にもしっかりとした対応を準備しているのですから、ほんの半日を大会観戦に当てようとするスキー客も、決して少なくないような気がします。前回も述べましたが、大会前から注目され、前売り券が完売していたモーグルは別にしても、それ以外は町内などから動員された団体客が多く見られましたし、町内や近隣から訪れたと見られるお年寄りなども多く見られたくらいですから、もっと県外や全国からの集客を実現していくための施策が取られていれば、もっと盛り上がった大会になったことは間違いありません。地元紙が、そうした地元の機運を高める先導役としての役割を果たし、その受け皿を大会組織委員会が構築していく。そうした取り組みの一つ一つは、大会のみならず、開催地における観光事業の拡大にも活かせるノウハウになっていくと思うのです。

モーグル、エアリアルの会場となったリステルスキーファンタジアは、過去に20年近くもの間、モーグル種目などのワールドカップ大会を開催してきた実績を持ち、世界屈指の難コースとして世界に知られています。テレビ中継の中でも、また、FIS会長の記者会見の場でも、今大会の競技コースの素晴らしさは語られていました。まさに、フリースタイルスキーのメッカであり、それは、大会組織委員会としても、開催地である地元の行政としても、誇らしい評価であったに違いありません。雪不足の中で、万全のコースコンディションを維持できたのも、こうした実績と、リステルに所属するスキーチームやスタッフの努力によるものであることは、現場に訪れた私にもよく分かりました。競技コース以外には地肌が見える箇所がいたるところにあり、降雪機を利用したり、大量の雪を運び込んで競技コースを整えた大会組織委員会、スキー連盟、そして地元の方々の努力が無ければ、この大会は開催できなかったでしょう。だからそこ、大会を無事開催したということよりも、世界に誇れるコースを有するこうした観光資源を、大会の開催を通して、もっと広くアピールできるチャンスはあったし、その方法論もあったと思うのです。

何度も述べますが、大会の開催地の住民に方々に、大会開催の意義や、大会の素晴らしさを知ってもらうこと、会場に足を運んでもらうことは大切です。しかし、開催地の人たちは、本来は、“ホスト”なのです。つまり、大会を通して、日本全国からお客さんを呼び込むことを、経済的、またはマーケティング的に、もっと綿密な計画を具体化するべきだったのです。それが、地元住民にとって、経済的な利益にもなり、また、中・長期的なリピーター開発の源にもなります。福島民友新聞などに掲載された大会の話題の多くは、地元住民がお客さんを迎えるための準備の模様でした。2009個ものゆきだるまを作ったこと。ボランティア総出で関係者用のIDカード(正確にはADカードです。今回はIDカードと呼んでいました。)を作成していたこと。開会式で疲労する踊りを練習する子供たちの姿。タクシーに付けられた大会宣伝用のステッカーのこと、などなど・・・。しかし、これらのニュースや情報は、地元の住民にしか届かない情報であり、また、地元の住民の皆さんが喜ぶお話しにしか過ぎません。先に述べた、経済やマーケティングを意識した計画とは、大会広報において、何をアピールすれば県外、そして全国から観戦者が訪れてくれるか、また、世界的なコースを有する素晴らしいスキーリゾートしてのアピールをどのようにしていけば、全国のスキーヤーに来てもらえるのか、ということにフォーカスすべきだった、と考えます。

実際に大会の会場や町の雰囲気を見て、ウインターリゾートとしての猪苗代の、私が知らなかった価値を見ることが出来ました。それは、世界選手権を開催する、また世界が認めるすばらしいコースを有するスキーコースがある町、ということです。毎年スキーに出かけている人には、ひとつの選択肢なのです。上越に行く人、信州に行く人、北海道に行く人・・・。東京から正味2時間で行ける世界最高峰のモーグルコースがあるスキー場なんて、言葉だけでは伝わりませんよね。だから今回の世界選手権の開催意義は、あったのだと思いますし、例え税金が投入されていても、その対価としての効果は、将来に渡って見込めたはずです。情報の扱い方、そして発信の仕方ひとつで、その効果は違ってきます。その判断を冷静に見極める余裕が、大会組織委員会には足りなかったようです。
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2009年03月09日

「猪苗代の真実!?・・・フリースタイルスキー世界選手権大会の現場にて」その1 ~観客サービス編

昨日の8日まで、福島県猪苗代町では、フリースタイルスキーの世界選手権大会が開催されていました。3月2日から競技が開始され、5種目に熱戦が展開。無事、その幕を閉じました。この大会に関しては、2007年春頃から大会開催のための財政問題に揺れ、一時はその開催費用が、当初の予定よりも大幅に拡大するなど、開催が危惧されるほどの問題にまで発展していましたが、大会1ヶ月前には、長野オリンピックムーブメント推進協会などからの補助金など、4,300万円もの予算増額があり、最終的な予算額は5億5,600万円になっていたようです。しかし、チケットの売上が思うように進まず、目標数値を下方修正するなどの事態になり、結果的には、1万枚、3,000万円の売り上げ目標の減額に至った経緯があります。それでも、実質的には下方修正した目標にも届いたかどうかは微妙にところで、目標を下方修正した際の実績でも、その半分程度に留まっていたことを考えると、最終結果においても相当苦戦されることが予想されます。一方で、寄付金などの支援企業、事業所は、大会ホームページに記載されていた数だけで124社にも及び、また、スポンサーシップも形の上では、読売新聞社を始めとして、明星食品、東邦銀行、住友生命などの広告看板が立ち並んでいました。ただし、これら協賛金収入も、予定よりも目標額を減額させたようで、最終的な決算がどのようになるのかは、興味深いところです。

大会が開催された、リステルスキーファンタジア、猪苗代スキー場中央、アルツ磐梯の各コースは、この大会のプレ大会やリハーサル大会の開催以外にも、各種目毎のワールドカップ大会の開催実績があり、特に、リステルスキーファンタジアのモーグルコースは、ダフィーコースと呼ばれ、1988年から男女それぞれ16回ものワールドカップが開催されている世界屈指のコースのようで、最大傾斜37度の難コースです。まさに、フリースタイルスキーの競技会場としては、実績もコース環境も、世界選手権の舞台として申し分のない会場なのです。

私も、財政問題に揺れたりしていた経緯から興味があったことと、また、世界選手権という戦いの舞台の運営現場の姿を見てみたかったこともあり、実際に足を運ばせていただきました。スキークロス種目が行われた猪苗代スキー場や、ハーフパイプ種目が行われたアルツ磐梯には行くことはできませんでしたが、主会場となったリステルスキーファンタジアでは、競技はもとより、大会運営の様子をつぶさに見ることが出来ました。しかし、何よりも驚いたのは、例年にないという雪不足の実態です。ホテルリステル猪苗代のプライベートコースであろうスキーファンタジアのゲレンデは、リフト乗り場付近ではほとんど地肌が見えるくらいの雪の無さで、スタッフの方に聞くところによると、人口降雪と雪を運び込んでの整備によって、なんとか大会開催にこぎつけた苦労があったようです。当然のことながら雪質はザラメ状になっており、滑走するコンディション以前に、競技会場に行くまでの足元がやわらかい砂道を歩くように足を取られる状態で、その色も土の色が混じっているような感じでした。競技会場の整備には、自衛隊の協力なども含めて、地元の方々が相当の労力を費やしていたようで、温暖化による影響なのかどうかは定かではありませんが、ウインタースポーツ大会の難しさが、この点に凝縮されていたようにも感じました。

さて、今回より、3回に分けて、このフリースタイルスキー世界選手権大会における大会運営面について、一般の観客として見た視点から、検証してみたいと思います。まず今回は、スポーツイベントで最も基本的な大会運営の要素となる、観客サービスについて取り上げます。

全体的な雑感としては、この大会の印象とは、「世界選手権大会という世界最高峰の決戦の場」というイメージを得ることが出来なかった、という感じです。一般のスキーヤーの利用もあったようですが、雪不足のためか、その数もほとんどなく、ゲレンデ全体としても、この大会がなければ閑散としていただろうことが容易に想像できました。そして、スキー場手前にある猪苗代駅や臨時駐車場との間に儲けられたシャトルバスの発着場から、競技会場となっている場所へ移動する道程の途中にも、大会を示す看板やサインは多数あるのですが、そのひとつひとつが、従来スキー場にあるものなのか、大会のために設置されたものなのか判別できないくらいに小さいもので、イベントプレゼンテーションという視点からは、何の満足感を得られるものになっていませんでした。ワールドカップは、過去20年間に渡って開催されており、コース自体もそれなりの知名度はあるのでしょうが、やはり世界選手権という大会の威厳は、オリンピックに次ぐ舞台としてのものはあるべきです。選手もファンもそれを期待するでしょうし、何よりも開催地としてのアピールが無ければなりません。

何故そうなっていたかは、あくまでも想像に過ぎませんが、大会の運営を担う組織が考えていた観客の客層の想定にその原因はあったように感じます。つまり、地元の猪苗代町民や福島県民の応援を主体において、県外や全国から来るだろうスキーファンの立場に立ったものの考え方をしていない、ということです。事実、エアリアル種目の決勝が行われた日には、バス8台分の団体が来場しており、そのほとんどが地元の小学生や中学生でした。また、近くの町から来たであろうお年寄りの姿も多く見られ、スキー競技を堪能したくて来ているファンは、見た目だけの観察ですが、それほど多くは無かったと思います。エアリアルという種目の知名度の問題もあるのでしょうが、この種目の行われた4日の公式入場者数は、2,249人。しかし、大会主催者が発表するこの大会の入場者数は、選手やコーチ、関係者の数もカウントされているもので、観戦者としての数は、1,447人に過ぎません。最近では、プロ野球ですら入場者数の発表は、ほぼ正確な数値を用いています。昔は、会場の中にいるすべての人の数を大雑把に推定して数値を“作って”いたのが、実情だったようですが、いまでは度が過ぎると信用を失ってしまいます。敢えて選手などの数も含めた発表にしているのかどうかは定かではありませんが、この辺からも、有料入場者に対する考え方が違っているように思います。また、そうした考え方だからこそ、観客に対する大会として、開催地としてのイベントの見せ方や、アピールの仕方が必要最低限のものだけに留めさせているのかもしれません。

モーグル種目の前売りチケットは、完売したとの情報が大会公式サイトにも掲載されていました。上村選手の活躍も期待でき、日本人選手の活躍こそに注目が集まるのも当然なのですが、モーグル種目の人気そのものも、フリースタイルスキーの中では高いものがあります。長野五輪では、里谷選手の金メダルもあり、実際の競技コースの現場は凄く盛り上がっていました。しかし、今回の大会は何か違う。世界選手権大会という世界の舞台であるという雰囲気やイメージが、コースの周辺以外は、何もそれらを醸成するようなものは無いのです。モーグルコースへ行くためには、リフトでの移動を観客も強いられます。そして、その途中には、普通のゲレンデの風景が広がっているだけです。観客の興奮度や期待感を醸成する仕掛けがあれば、競技会場もより盛り上がり、日本人選手にとってもアドバンテージも上がってくる、というものでしょう。

競技会場への誘導係として配置されていたスタッフの方々は、恐らくボランティアの方々も数多くいたのだと思いますが、“いるだけ”、というふうに映りました。問題なのは、競技会場に設けられた観客のための観戦スペースの中における対応です。エリアの入口には、ADカードやチケットをチェックするような人が立っているのですが、アリーナやスタジアムのように決められた座席があるわけでもなく、フリーのスペースに立って競技を見ている場所が区分けされているだけなので、その辺の誘導や案内にもう少し気を配ってくれればいいのに・・・、とも感じました。人気のモーグル会場には、少しだけの観客用スタンド゜が仮設されていましたが、ほとんどはフリーのスペースです。空いている場所を教えてあげたり、列を整理してあげたり、ちょっとした工夫でもあれば、何時間も立って観ることしか出来なくても、観客にとっては嬉しいのでは?、と感じました。チケットを買って見に来てくれている、という“お客様”という感覚がないように受け取ってしまうのです。中には、恐らくスキー連盟関係の人だと思いますが、サングラスをして、如何にも横柄な態度を振舞っていた人もいました。ADカードを見ると、その表示には、単なる“スタッフ”としかなく、この人のような勘違いをされている人が、世界選手権という威厳を損ねるのですね。

JR猪苗代駅にも、「おもてなしの心で大会を成功させよう!」と書かれた横断幕が掲出されていました。競技会場の片隅には、“おもてなしコーナー”として、無料で豚汁が振舞われていました。寒い中なので、嬉しいサービスだったと思いますし、私もおいしく頂きました。しかし、その“おもてなしの心”とは、誰に向いたものだったのでしょうか?。地元の新聞に連載されている大会の記事を見ると、そこにも地元の人たちによる“おもてなし”の様子が紹介されています。ただし、それは、海外からやってきた選手やチーム関係者に対してのものだけで、県外や全国からやってくる観客に対しても施策や試みに関しては、皆無でした。つまり、開催地として目指していた“おもてなし”の具体策とは、国際大会としての海外選手や関係者に対するものだけだったような気がしてなりません。競技としては、その意図が、選手やチーム関係者に向いて当然です。しかし、大会運営としては、それはお金を出して見に来てくれる人たち、つまり観客に向くことが当然だと思うのです。今回の大会では、それがゴチャマゼになっていたようです。スポーツイベント、特に国際大会では、地方開催の場合は特に、その辺の考え方の過ちはよく見かけられます。大会に出場する選手や関係者も大事です。しかし、彼らに対応する業務は、観客に対するものと全く異なる計画に基づくものであり、対外的には、やはり観客を主役として大会が迎える、というスタンスを崩すべきではないと考えます。せっかくの“おもてなし”も、一杯の豚汁以外には、何も感じることが出来なかった、というのが正直な感想です。

財政問題揺れた大会ですので、開催経費を抑制する、もしくは無駄をなくす、という取り組みは必要だったでしょう。また、お金を使うことが、先に述べたようなイベントプレゼンテーションを具体化する唯一の手法ではありません。逆に、何かひとつのことに絞って大会の見せ方を統一していくようなアイディアがあっても良かったと思います。競技会場までの動線上に設置されたさまざまな看板やサインのひとつひとつも、その設置場所が不適当だったり、サイズが小さ過ぎて文字が全く読めなかったりと、経費に合わせてなのか、制作の意図なのかは分かりませんが、看板やサインが何のために、誰のために設置されているのかすら分からないほど、何も意図や意味を感じないのです。世界選手権大会の開催。それは、モーグルに代表されるように、コースの素晴らしさだけで開催されるものではなく、大会運営全体を通して、その大会の意義、格、そしてタイトルの価値を感じさせることが出来なくては、それだけの規模の大会を開催する意味が薄れてしまいます。そしてそれは、出場選手や関係者、メディア、更には観客と、それぞれに対して施策が取られるべきで、そうした計画がないのならば、国内の大会と大会名称が違うだけのものに終わってしまいます。確かに、世界の一流選手の繰り出す技や技術は素晴らしく、見ているだけで魅了されました。しかし、大会を運営する側は、その素晴らしさを、より魅力的に伝える場を作らなければなりません。より広くアピールしていくための方法を取らなければなりません。大会の成功は、恐らく、地元では大々的に語られるでしょう。しかし、全国のスキーファンが、スポーツファンが、そして世界のスキー関係者がどう評価するのか?。実質的な観客動員数(有料入場者として)などの数値も含めて、客観的な検証が必要だと思います。

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2009年03月07日

スポーツイベントの隠れたリスクを回避する運営“シミュレーション”力

“シミュレーション”とは、言葉の意味としては、ふりをする、真似をする、ということで、サッカーで、相手選手との接触の際にわざと転倒してレフェリーを欺く行為を指すルール用語では、全くその通りの使われ方がされています。一方で、科学や技術分野、または広くビジネスの場で使われている“シミュレーション”の意味は、諸事象に関する数値的あるいは物理的モデルによる模擬実験、とされています。この計画(または企画やアイディア)をシミュレーションして、その結果を分析してみよう」とか、「この予測結果は、さまざまなケースをシミュレーションして導き出しています」とか、仕事をする上で、仮想として立案したものを、縮小した規模で検証してみたり、一定の変数を用いてコンピュータ上での予測を導き出してみたりすることは、よくあることでしょう。実際に、天気予報や自然災害の発生確率の予測、また、交通システムを構築する上での交通量の予測など、我々の生活に身近な情報の中にも、さまざまに“シミュレーション”技術は活用されています。ゲームや自動車試験場にあるドライブシミュレーターなども、“シミュレーション技術”が応用されたものですね。更には、新型医療機器の開発や、建築物や自動車製品などの欠陥を改善していくことなども“シミュレーション”技術を用いて行われていますし、マーケティングの分野では、消費者の行動や購買傾向をモデル化してシミュレーションしていくことにより、新しい販売促進計画を立案していくことにも応用されています。

“シミュレーション”は、大学の研究室などでも専門的に研究されており、工学や物理、化学といった理科系分野はもちろんのこと、先のマーケティングのような経営工学として、また、都市計画などの新しい研究分野にも、当たり前のように応用されている“技術”です。敢えて“技術”と言ったのは、“シミュレーション”することそのものが、単なる考え方や理論だけではなく、現実的な社会の現場で、さまざまに活用されているからです。少し小難しい話をしてしまいましたが、最近、この“シミュレーション”分野を研究している方の話を聞き、スポーツイベントの運営などの業務分野においても、この“シミュレーション”は、もっと科学的に、もっと理論的に活用していくべきだと思い、話題として取り上げさせていただきました。

“シミュレーション”により、さまざまな仮説から、実際にどのような利点があるのか、逆にどのような欠陥が生じるのか、と言った予測を導き出す過程においては、基本的にリスクはありません。時には、頭の中だけで、それぞれの仮設に対する予測を検証していくことも出来るからです。それが、コンピュータの中であっても、ミニチュアモデルを使った場合であっても、また、図面上での机上作業であっても、リスクは生じません。つまり、“シミュレーション”する技術、つまり知識や情報、そしてノウハウがあれば、より正確な予測が導き出せるのです。

“シミュレーション”を行う際に、最も重要なのは、過去のデータや事象を数多く集積することです。それは、経験から導き出されるもの、研究によって得られるもの、そして、調査から拾い上げられるものなど、多種多様にあります。それらのデータや事象を、理論的に分析していきます。そして、そこから傾向や特性を導き出し、仮設を立てていきます。そのひとつひとつの仮説に対して、最初に分析で用いた経験や研究、調査から得た変数、つまり、“シミュレーション”の条件となるテーマや数値を元に“シミュレーション”を行い、さまざまな予測を導き出していくわけです。予測はあくまでも予測ですが、その予測に対する予防策や、対応策が、事前に用意されていれば、現実に起こりえるトラブルや事故、ミスなどのマイナス事象にも、的確に対応でき、またはそれらが起こることを防ぐことができるかもしれません。

スポーツイベントにおけるイベントオペレーションの現場でも、“シミュレーション”は既にさまざまな場面で行われています。特に、オリンピックや世界規模の大会の現場では、多数の選手や関係者、そして来賓、メディア、ブロードキャスターなどが、それぞれの役割や目的を持って行動するわけですから、それぞれの行動パターンや動線、更には、リスクを把握した上で全体の運営計画を立案していかないと、ひとつひとつのトラブルにも的確に対処することはできなくなります。本来行わなければならないことを犠牲にする事態にもなりかねません。ひとつひとつの大会運営業務における“シミュレーション”を積み重ね、そして、そこから得られる予測のすべてを大会運営全体の“シミュレーション”に適合させながら、より俯瞰的な視点からの予測を導き出していく、というプロセスが取られています。スポーツイベントでは、アクレディテーションシステムによって、大会に関わるすべての人物を、関係者としての資格認可区分に応じて、アクセスを許可するエリア、使用できる座席の位置、更には、利用できる輸送手段やサービスの内容まで、さまざまな要件が規定されていきます。それこそ、“シミュレーション”の結果に基づく予測を前提として策定されるものです。特に、オリンピック大会で使用されるIOCのアクレディテーションシステムは、対象となる人物の立場に応じて、機械的に資格認可判断を下していけるだけの精密さであり、これは単なる身分証としてのカードの発給だけではなく、警備、宿泊、輸送、ホスピタリティなどなど、あらゆる大会運営に有効な機能を持つものなのです。

一枚の会場図面から、大会運営に必要な運営機能の配置が決まり、そこにハード要件としての設営や仮設要素が加わり、そして、その中に人員が配置されて、初めてイベント会場は稼動されます。そのプロセスにおいて、より精密な“シミュレーション”技術を応用できれば、本番の現場でのリスクは、最小限にすることが可能となります。

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2009年02月22日

「国際スポーツ大会のホストシティが陥る“落とし穴”」その4 ~無視できないテレビ要件

前回、メディアについて取り上げましたが、世界クラスの国際大会で、競技の様子を世界に配信するホストブロードキャスターの役割は、メディア以上に、大会の運営そのものに大きな影響を及ぼします。国際競技連盟が、テレビ放送に関する要件を規定する中には、ホストブロードキャスターの位置付けや役割を、そこに掛かる経費面も含めた義務として開催地の組織委員会に負担させるケースと、大会運営の一部として、施設や設備に関るハード面だけを組織委員会にサポートを求めるケースがあります。どちらも、テレビ放映権料というお金の流れや契約主体のあり方によって、大会毎、または国際競技連盟毎に、その規定はマチマチですが、前者は、世界陸上大阪大会でのTBSのように、日本国内でテレビ放映権を持つテレビ局が、ホストブロードキャスターを兼務する場合と、ノルディックスキー世界選手権札幌大会の時のように、複数の放送局やプロダクションが第三者組織を形成して、ホストブロードキャスターを務める場合があるようです。何れも、組織委員会という大会の運営機能の一員として、組織委員会と一体となった業務の遂行を求められるのですが、金銭的な損得勘定も一体となる部分が多いため、大会としての支出も大きくはなりますが、大会規模か大きければ大きいほど、運営効率を高めることは容易になります。逆に、後者の場合は、国際競技連盟が直接契約主体となって事を運ぶため、大会の運営主体である組織委員会は、受身の立場として、テレビ放送側の要求を聞いていかなければなりません。確かに、テレビ放送制作というコスト面の負担はありません。しかし、テレビ放送にまつわるさまざまな施設や設備的要件の一つ一つは、ほとんどが組織委員会としての負担で行う領域の業務であり、しかも、受身ということで、他の運営計画を犠牲にするケースもしばしばあり、決して効率的に大会運営を実現できる、とは言い難いのです。

また、後者の場合は、組織委員会との関係においても、間に国際競技連盟が存在するため、テレビ放送側の要求を検討する上でも、往々にしてコスト負担に関わる役割分担に終始してしまい、より良い運営環境を作り出そう、というような前向きな発想になりにくいようです。大会運営に担う組織委員会側としては、余計な経費は使いたくない。しかし、テレビ放送側の必要性から、コストを伴う作業を増やさなければならない。では、その経費負担はどうするのか・・・、というようなことです。お互いの情報を的確に擦り合わせていく上でも、準備の進行手順に時間的なズレが生じたり、そのことに起因して、会場設営や運営の体制準備が後手に回ってしまったりと、テレビ制作面でのコスト負担というお金の話し以上に、多くの課題が浮上してしまうこともあります。

どちらのケースにおいても、大会の運営を担う組織委員会と、大会のテレビ制作を担うホストブロードキャスターは、大会運営全体から見れば、一体となるべき存在であり、技術的にも、人的にも、共通のファクターが数多くあります。だからこそ、国際大会におけるテレビ放送に関するレギュレーションは、単にテレビ関係者のみが理解していれば良いことではなく、大会運営側としても、その内容は、きちんと精査できる能力が必要なのです。

地方で開催される国際大会のケースを見ると、民放のキー局がテレビ中継制作を担い、そのサポートを地元の系列テレビ局が行う、という事例が多々ありますが、彼らの作業を、大会を運営する組織委員会が、全く業務機能として認知していないケースがよくあります。「テレビはテレビ屋さんがやることだから、我々は関係ない」、というスタンスです。確かに、組織委員会として、テレビ制作のために技術者を出すとか、制作の補助をする、ということはありません。しかし、テレビ放送に関る施設や設備面での環境を整え、また、大きな国際大会には必要となる海外のライツホルダーに対するサービス機能の、国際放送センターなどの施設運営のためのスタッフを配置するなどの業務は、組織委員会が支えなければならないのです。テレビカメラを一台設置することでも、客席を潰すわけですから、これもチケッティング業務なども含めて一体となった作業が必然ですし、また、大きな物量となるケーブリング作業も、競技会場全体の設営要件に大きく関わってきます。こういうことだけ拾っても、「我々は関係ない」業務ではありません。逆に、より密接に連携しなければ、大会は成り立たない、と言っても言い過ぎではありません。

国際大会では、競技会場内に、テレビ制作用の諸室を設定することも必要になります。数十名、時には数百名の規模のスタッフ用諸室が必要になりますので、安易な設定はできません。もちろん、動線を考えた設定にしなければ、テレビ中継車の配車位置であるコンパウンドとのアクセスもスムーズになりませんし、電源や通信回線の仮設での引き込みにも留意しなければなりません。また、競技会場の既存設備として館内共聴システムがあれば、中継映像を運営諸室で同時にモニターできますし、これは、大会運営側にも必要な設備となります。これは、テレビ制作側に、大会運営側が要請し、その協力で具体化できるものです。競技進行全体の計画に関しても、競技関係者だけが認知していれは良いものではなく、テレビ制作はもちろんのこと、大会運営全体として共有すべき情報になります。特に、テレビ中継がライブで放送、または海外に伝送される場合などは、1分1秒の狂いが大きな放送事故につながりかねません。そこでの金銭的な損失は、「我々は関係ない」では済まされないのです。

デジタル化、そしてHD(ハイ・ディフィニッション)化が当たり前のようになり、テレビ放送に関る技術も、その規模はますます大きくなりつつあります。伝送に関しても、いまでは光ファイバー伝送が当たり前ですし、競技会場にそれらのインフラが無い場合は、大会運営側にも大きな負担となってしまいます。より効率的な大会運営環境を整えていく上でも、テレビ放送に関する要件を、しっかり押さえておくことが、大会運営側にも求められるのです。

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2009年02月21日

「国際スポーツ大会のホストシティが陥る“落とし穴”」その3 ~メディアに対する認識

国際競技連盟が主催する国際大会における運営上の“ルール”や“基準”を定めたレギュレーションには、そのほとんどの場合、メディア、マーケティング、そしてテレビ放送に関する要件について、それぞれ単独の“ルール”や“基準”が説明されたものが用意されています。実は、この3点についてが、日本、特に地方都市で世界クラスの大会を開催する上で、非常に大きな課題となり、また、意外に無視されがちなのです。これは、日本におけるスポーツイベントが、「日本人の、日本人による、日本人のためのイベント」として開催されているからに他なりません。もっと言うならば、地方で行われるスポーツイベントには、その地域の人々しか観戦に訪れず、また、メディアも地方に本籍を置く所謂地方メディアしか取材には訪れません。すべてがそうだとは言いませんが、凡その場合は、そのことに違いはないでしょう。ましてや、ホストブロードキャスターが国際信号を制作して、海外へ中継する、などということは、全く想定されないことなのです。だからこそ、世界クラスの大会を開催する時、開催地地元の行政や競技団体は、普段国内大会として開催する、選手やチームの参加規模が大きい国体やインターハイなどの方が、大会規模が大きいだけに、その運営基準を前提として、国際大会を考えがちになるのだと思います。そして、そこに、ビジネスのとしての側面を持つメディア取材、テレビ放送、そしてスポンサーシップなどのマーケティングなどという概念は、始めから入り込む余地はないに等しいのです。しかし、そこに、ひとつの“落とし穴”があるとも言えます。

メディアに関する国際大会における業務は、普段、国内で行われているスポーツイベント以上に、会場施設においても、人的対応においても、専門性が問われます。何故ならば、イベントの場に取材に訪れるメディアの多くは、世界の大規模なスポーツイベントで、自分たちが受けることができるサービスや取材機会のあり方を、運営する側以上に熟知しているからです。当然のことながら、メディア自身が、ある一定の規制を受けることも承知しています。また、国際大会では、取材申請を申し込んでくるすべてのメディアが、その承認を得られるとは限りません。メディア各社毎に人数的な制限も設けられますし、各種公的な団体に加盟していないメディアについては、承認されないケースもあります。また、取材を許可されたメディアも、“報道の自由”を振りかざして、競技会場やその周辺で、何の制限もなく自由に取材活動できるか、と言えば、それは大きな間違いです。取材を許可される前提として、大会独自の取材規定を守るべき義務を負います。それは、大会全体の運営を、円滑に行うための協力を強いるものであり、また、取材の公平さを保つためのものでもあります。

これに対して、大会を運営する側は、これらメディアに対して、適切に、また、誠意を持って対応する義務を負います。そして、イベントの様子を、競技の様子を、日本中に、世界中に発信してくれるメディアの取材機会を、公平に、世界基準での内容で、設けなければならないのです。プレス席、カメラポジション、メディアワークルーム、記者会見場、ミックスゾーン、そして場合によっては単独社によるインタビュースペースなど・・・。また、メディア取材のために装備される機能は、そのひとつひとつに、適切なスペースの広さ、照明や音響設備、通信機器や回線、電源がなければならず、国内で行われる大会そのままに、“これくらいで十分”という意識でやると、「日本では満足なサービスを受けることが出来なかった」、などという海外メディアの評価が報道として流れてしまったり、国内メディアでさえ、他のケースとの比較において、「○○○○競技の時は良かったが、今度の大会は取材がしにくい」、などと、大会そのものまでも批判的に捉えられてしまうこともあります。言うならば、メディアも大会運営に必要な大きな要因であり、広報という大会機能を充実させていく上でも、メディアは重要なパートナーなのです。その辺の意識は、見逃すことは出来ません。

しかし、一方で、国際競技連盟が規定するメディアに関する要項の中には、厳密に、その取材機会を制限しています。メディアによる取材機会を妨害する、ということではなく、取材機会を公平に保つことはもちろんのこと、選手やチームの安全を維持したり、大会運営の円滑な進行を妨げないようにするためのものです。公平という点では、ニュース取材として許可されたテレビ局の取材でも、カメラ撮影が禁止されている場所での取材や、撮影すること自体許可されていない対象の取材など、テレビ放映権を有するライツホルダーの権利を守る、という対処も行われます。よく隠れて客席から無許可で撮影しているケースを見かけたりしますが、一般観客にビデオ撮影が禁止されているスポーツイベントでは、権利という以前に、こうした悪質なメディア取材を規制するために、一律での撮影禁止措置を講じている場合もあります。「俺は客だからいいだろう」、ということを見逃せば、時には、大会主催者は多額のテレビ放映権を支払っているテレビ局からの信頼を失うことにもなり、非常に神経質な問題であることが分かると思います。取材の公平さを保つ、ということは、メディアを担当する大会組織のスタッフだけの仕事である、というよりは、大会運営全体に関わる重要な要件であり、時には、観客サービスにも、その影響は出るものであることを、大会を運営する側は認識すべきなのです。

スポーツイベント、特に国際大会の場合、メディア対応に関わる施設整備や人員配置などに、意外に大きな金銭負担を強いられることがあります。しかし、世界基準で、質の高いサービスを実現することで、彼らの報道によるパブリシティ効果をより高いレベルで得られることが出来るならば、そのために使われるコストは、後々、十分に回収できるのではないでしょうか?。メディアは、大会を成功されるための、重要なカギにもなる存在なのです。

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2009年02月20日

「国際スポーツ大会のホストシティが陥る“落とし穴”」その2 ~簡単ではない“レール”の敷設

世界選手権などの国際大会の開催に関して、国際競技連盟が、その開催国または開催都市に求める開催費用に関する負担と、開催国または開催都市に与える収入機会に関する要件は、各国際競技連盟によって一律ではありません。特に、収入機会に関する規定は、国際大会の運営主体となる開催国または開催都市のLOC(Local Organising Committee)、組織委員会の予算計画の基礎となる要件であるため、どの組織委員会も、当然のことながら最も慎重に検証する項目になるでしょう。

ノルディック、アルペン、フリースタイル、スノーボードといった競技種目で世界選手権を主催するFIS、国際スキー連盟の場合などは、世界選手権の開催組織のルールを定めたレギュレーションにおいて、組織委員会の収入の一部を、FISが保持する、と規定しています。つまり、組織委員会の得た興行収入は、そのすべてが組織委員会のものとして計上することは出来ないのです。(逆に言えば、広告収入やテレビ放映権収入の60%は、国際競技連盟から組織委員会に還元されるケースもある、ということですが・・・。)

◇入場収入の10%
◇広告収入(競技場内に設置された広告看板など)の40%
◇テレビ放映権収入の40%
(FIS公式ウェブサイトに掲載された資料より抜粋)

また、テレビ放映権に関しては、国際競技連盟が一括した権利を管理し、その一部を開催地の組織委員会へ補助金として還元する場合もあります。こうした場合は、ホストブロードキャスターの責任や義務に関しては、その費用も含めて、一切を国際競技連盟が取り仕切る場合と、組織委員会にそのすべてを負担させる場合があり、組織委員会としては、予算計画の策定のみならず、開催云々の分岐点となるような重要項目となるでしょう。

更に、スポンサーシップについては複雑で、全世界でスポンサーとしての権利を行使できるグローバルスポンサーとの契約が国際競技連盟にある場合は、組織委員会としては、グローバルスポンサーの契約業種と競合する業種のローカルスポンサー、つまり、開催国のみに限定した権利を保持できるスポンサーと、契約することは出来ません。よって、ローカルスポンサーから得られるすべての収入が、組織委員会の収入とすることができても、そこには大きな制約があるのです。

バレーボールの場合のように、テレビ放映権と付随する形で、イベント興行権に関わるマーケティング等のすべての商業的権利を、国際競技連盟から買い取っているケースもあります。FIBA、国際バスケットボール連盟の場合は、組織委員会の収入として、入場料収入と開催地行政などからの補助金や寄付金にほぼ限定する旨を明記しており、テレビ放映権やスポンサーシップ、マーチャンダイジング等のマーケティング関連の権利は、全く別の契約によるものになっています。つまり、別途、権利を買い取ることをしないと、その権利を行使した収入は得られない、ということです。この場合、支払う対価としての権利料以上の契約を達成しなければ、せっかく権利を獲得しても事業費用全体としては赤字に陥る危険性が生じます。

2002年のFIFAワールドカップや、2007年のFISノルディックスキー世界選手権の場合では、FIFAやFISからの還元された分の為替差益もあって、最終決算は黒字になったというケースもあるようですが、何れにしても、それらも開催地の行政負担があっての大会収支ですから、純粋な興行収支という視点から見れば、余程の入場料収入が見込めなければ、国際大会の財政は、赤字ありきになってしまう仕組みが、この辺に見え隠れしています。
さて、ここまでは、前回の補足でしたが、ここからは、前回取り上げた国際競技連盟の規定するレギュレーションの、大会運営業務に関る項目を、如何に世界基準という“レール”を敷設すべきか、という視点で検証してみたいと思います。

①競技運営および会場施設に関する要件

競技エリアのセッティングについては、国際大会開催のためのレギュレーションというよりは、競技ルールに明記されている内容を遵守するのが当然ですが、競技エリアの周辺に設置または設定されるべき各種運営要件に関わる内容は、レギュレーションとして規定されています。大型映像装置の設置から各種諸室の必要な規模や内容まで、大雑把な規定もあれば、備品の一つ一つを細かく規定しているケースもあります。そして、この要件こそが、日本で国際大会を開催する上で、最も大きな課題となる場合が多いのです。欧米の競技施設は、基礎のインフラから、日常的に興行を実施する環境にあるものが多く、すべてとは言えませんが、基本的に大会運営機能はすでに装備されています。しかし、日本の施設は、特に地方都市の多くは、国際大会のみならず、スポーツ興行を前提とした運営機能面に配慮した施設構造にはなっていません。特に問題なのは、一般の観客と大会運営の機能が混在しないように、そのエリア設定が出来ないことと、大会実施の場合に必要となる諸室スペースや設備が、恒常的に用意されていない、ということです。国際競技連盟が規定するレギュレーションを、100%遵守しようとすれば、当然のことながら、多額の費用を掛けて仮設対策や一部の改造による対処を考えざるを得なくなります。つまり、普段は全く別の目的で使用されている部屋やスペースを、一時的な仮設改装して運営環境を整備していくしかありません。ハード面では、コストを抑えたリーズナブルな対応策は取り辛いのです。こうした日本の競技施設環境の置かれた状態を前提にすると、国際大会の開催時に、最も大きな課題として立ちはだかる要件は、インフラに関する要件、ということになります。ここでの最良の解決策は、なかなか難しい面がありますが、ひとつ言えることは、実際の運営面において、スタッフの人的対応力を駆使した会場施設の利用計画を組み立てることかもしれません。最低限の仮設策を施し、その中での動線、アクセスコントロールといった人間の動きを人間によって管理していく計画を練っていくことです。これは、スタッフの能力に大きく依存することを前提とするものですが、勤勉で実直な日本人の良さを信じて、活かすほかありません。逆に言えば、そこに、日本で開催する利点を、世界にアピールできるチャンスがあるのかもしれないのです。うまくその運用が実現できれば、警備などの他の運営要件をも効率的にしていくことができるため、全体的なコスト抑制効果を生み出す結果が得られるかもしれません。

②宿泊および輸送/移動に関する要件

国際大会の開催に当り、選手やチーム、関係者が宿泊するホテル内での対応や、競技会場との移動手段を管理する輸送業務は、非常に重要な要件になります。国際競技連盟が規定するレギュレーションにも、場合によっては、選手や関係者毎に部屋のタイプやスペース、また必要とされる部屋数などを、詳細に規定しているケースもあります。ホテルのグレードを明記している場合もありますね。更に、選手やチームのホテルと、競技をジャッジする役員とは、別のホテルを設定する旨を厳格に規定している場合もあります。しかし、実際に開催地内の理想的な時間的エリアの中に、理想的な設備を整えたホテルが立地している場合は、一部の大都市を除けば、ほとんどありません。数百人、時には何千人という選手たちを、ひとつのホテルに宿泊させることが出来れば、運営側としてはその業務負担は大きく削減できます。しかし、現実には、国際大会が開催される時期が、観光シーズンに当たっていたり、大きな会合や宴会が開催されていたりと、数百人規模でも完全にブッキングすることが難しいケースがほとんどです。世界陸上大阪大会でも、ホテル運営に関するトラブルが多々生じたようですが、選手や関係者の活動拠点となる施設だけに、これら要件は、大会の成否に関わる重要なものになるため、大会運営の計画を練っていく上でも神経を使う業務となるのです。しかし、ホテルという既存の営業施設ということもあり、大会が使用するホテルの確保に関しては留意していても、それが決まると、あまり注意が向かなくなるという傾向もあります。また、これら業務は、往々にして旅行会社に委託して業務を管理してもらうケースが多いのですが、大会全体の運営を管理する立場の組織委員会としては、宿泊や輸送に関する要件の重要さを、改めて認識すべきでしょう。競技会場に全神経を集中するがために、大会の公式ホテルの運営を無視しては、大会は成り立たないのです。逆に、この業務を任される旅行会社などには、国際大会の運営全体の構造や、業務の性格を的確に理解してもらう必要があります。国際大会の宿泊・輸送業務は、“ツアコン”業務ではありません。あくまでも、イベントサービスとして、選手や関係者が、安全に、そして的確に競技に集中できる環境を整えていく責務を負っているのです。場合によっては、本来の業務以外の業務に関わるケースも出てきます。そして、そこでも、同じように専門性が問われるのです。特に輸送に関しては、大型バスからタクシーの配車や運行管理まで、多くの輸送機関との連携を迫られます。宿泊や輸送は、当然のことながら、海外からの来賓をも対象とするため、プロトコール業務とも密接に連携します。公式ホテルの中には、プロトコール独自の機能を設ける必要があるのです。そこに波及して、警備という要件が加わる場合もあります。このように、非常に多岐に渡る大会運営の要件が、宿泊・輸送に関する業務には課せられるため、ひとつひとつの業務ではなく、大会運営全体としての連携が具体化されることにより、ここでも、全体的なコスト抑制効果を十分に生み出す結果は、そのやり方次第では、得られるかもしれません。

③アクレディテーションおよびITシステムに関する要件

大会関係者としての資格を認定した証、それがアクレディテーションカード(ADカード)です。そして、そのADカードには、その携帯者それぞれの資格に応じた競技会場内でのアクセス許可内容も明示されています。つまり、ADカードは、身分証と通行証の2つの機能を持ち、時には何万人という単位の規模となる国際大会の運営のカギとなる運営ツールなのです。オリンピックなどではパスポートの代替としての役割もあるほど、大会に関わるすべての人たちには重要なものであるため、その申請から発給に至るシステムは、厳密に管理されなければなりません。そして、ADカードの申請で得られる関係者情報は、競技のデータや大会運営の情報と供に、一括して統一したシステムで管理されるのが、最近の国際大会での傾向です。大会のスポンサーやサービスプロバイダーとして、IT関連企業の名が当たり前のように登場してくるのも、こうした大会運営上の必要性から来るものです。しかし、アクレディテーションに対する日本での一般的な感覚は、単なる通行証であるとか、時にはチケット代わりのような感覚で取り扱う人がいるほど、まだまだ成熟されていないように思います。よくボランティアが、ADカードの発給拠点となるアクレディテーションセンターに配置されますが、発給資格の条件や審査プロセスなどを、事前にキチンと整備しておかないと、“トラブルセンター”になる可能性も生じます。アクレディテーションシステムが厳密に運用されている国際大会では、大会に関わるすべての施設や拠点で、ADカードの内容をチェックするだけで、それぞれの関係者に対する対応が判断できますから、大会運営を円滑に進めていく上でも、このシステムの構築は、その運用するインフラとなるITシステムの構築と供に、大会の成否を握るひとつのカギと言えるでしょう。

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2009年02月19日

「国際スポーツ大会のホストシティが陥る“落とし穴”」その1 ~世界基準という“レール”

日本では、いまや、数多くの世界選手権クラスのスポーツイベントが開催されています。しかし、前回まで取り上げた世界陸上などを開催した、大阪市などの大都市でも陥る可能性がある“落とし穴”が、そこにはあります。それは、日頃、国内競技大会を主催したり主管している経験値を前提とした、誤った自信から生まれてきます。

私も実際に経験しましたが、地方都市で国際大会を行う場合、当然のことながら、何度も現地へ足を運んで準備作業を進めていきます。その中で、地元の競技団体の方々から必ずと言っていいほど言われることは、「我々には我々のやり方がある」、「我々には国体(またはインターハイ)をやってきた実績がある」、というような言葉です。しかし、この言葉の裏側には、3つの“落とし穴”があるのです。

1.国際競技連盟が定めるレギュレーション(またはガイドライン)
2.海外からの選手団、メディア、来賓等を“迎える立場”である、というホストシティとしての意識
3.世界基準での競技運営、そして競技環境

この3点は、世界のトップクラスの選手やチームが出場し、戦う大会やイベントの場と、日頃日本で行われている国内競技大会との、各種イベント構成要件に対する考え方の違いが、最も表れてくるポイントなのです。

大会を主催する国際競技連盟は、それぞれ内容は異なりますが、各国際大会実施の際に適用される約束事を規定しています。それは、毎年世界を転戦して行われるスキーやスピードスケートのワールドカップのようなシリーズ戦、2年、または4年に一度開催される世界最高峰の選手やチームを決する世界選手権大会など、それぞれの大会の性格に分けて規定されています。当然のことながら、世界選手権は、どの大会よりも、数的規模、会場の設定要件、競技運営周辺の準備要件、技術的な運営要件、そしてマーケティング要件などなど、かなり厳密に、その開催基準が明示されています。それら要件は、言ってみれば“レール”です。レールの上に、選手、役員、競技関係者、運営関係者、メディア関係者、放送関係者などが客車として乗り、そのレールの上を走るわけです。そのレールを、大会開催地であるホストシティに、如何に順応させながら敷設していくか、という作業が、ホストシティの役目であり、責務となるのです。つまり、国際競技連盟の規定するレギュレーションというレールは、すべての開催地でそのまま敷設できるわけではありません。試合会場や競技場の設置環境や設備環境、空港などの主要交通機関とのアクセス、公式ホテルとなる宿泊施設の立地要件、法的問題、そして開催費用など、あらゆる構成要件において、開催地特有の、または特殊な環境や条件に応じた順応方法を見出しながら、敷設方法までを考えていかなければならないのです。そして、既定のレールが敷設できないからといって、全く別のレールを敷くわけにはいかないのです。それでは、開催地返上になってしまいますし、世界大会としてのレベルが維持できません。

こうしたレギュレーションやガイドラインの内容は、各国際競技連盟が文書にしているケースもありますし、実際の契約書段階のドラフトで示される場合もあります。何れにしても、相当な量の内容であるはずです。しかし、すべての内容を、最初から厳密に精査していく必要はありません。無理にやろうとすると、現実の開催環境とのギャップに戸惑い、往々にして間違った解釈を意識的に導入してしまいがちになります。個人的な考えですが、私は、最も効率的だと思われる内容検証の段取りを、下記のように考えています。

◇まず、下記の5点を厳格に精査する。
   ・基本要項(日程/会場/実施種目などの開催要件)
   ・費用負担の分担内容(収入獲得条件も含む)
   ・国際信号制作等のテレビ放送要件
   ・メディア対応要件
   ・来賓対応要件(プロトコール要件)

※特に、開催費用の負担項目や内容は、厳密に精査しなければなりません。中には、選手の数や役員数、それぞれの滞在条件、日数などが明記されているケースもあります。また、テレビ要件に関しては、ホストブロードキャスターの責務が、国際競技団体直轄管理か組織委員会管理か、という点で、費用面においても、運営面においても、大きく異なってきます。基本は、世界に配信されることが前提であることを踏まえなければなりません。メディア対応要件については、海外からのメディアを含めて、その対応に関する一定条件が、施設や設備的にも、サービス面においても、かなり詳細に規定されています。このメディア対応については、日頃の大会運営と全く違った対応を強いられる場面が多々あるようです。来賓の対応要件も含めて、重要なポイントです。

◇次に、上記5点の検証結果を前提として、レギュレーションの記載項目全体に対する精査を行います。
   ・政府または行政保証要件(ビザ、関税、通関など)
   ・保険要件(対象、保障内容など)
   ・競技運営要件
   ・アクレディテーション要件
   ・宿泊要件(公式ホテル運営要件)
   ・輸送/移動要件
   ・会場施設要件(必要諸室、設備、備品など)
   ・ITシステム要件
   ・マーケティング要件(スポンサーシップ、マーチャンダイジングなど)
   ・広報要件
   ・チケッティング要件(シーティング割合に関わるもの)
   ・式典要件(開会式、閉会式、表彰、レセプションなど)
   ・警備要件
   ・医事要件(医療対応、ドーピングコントロールなど)

※上記内容については、個々、次回取り上げたいと思いますが、これらとは別に、メディア、テレビ放送、マーケティングに関しては、独立したレギュレーションやガイドラインが規定されているケースもあります。そこには、より詳細な要件が既定されており、これらの要件が、専門性が高いことを示しています。これらの点については、国際競技連盟が、広告代理店やテレビ局と直接契約するケースもありますが、大会運営という観点で、組織委員会にも大きな影響が生じますので、内容の理解度は、同等レベルで維持しておくことが必要だと考えます。尚、開催地の責務として行うべき「観客対応」に関する内容は、国際競技連盟のレギュレーションには含まれていませんので、これは、他の要件と兼ね併せて、組織委員会にて、別途、精査されなければなりません。

◇いよいよ、現状の開催地における施設等の“ハード要件”と対照し、その差異を厳格に導き出す。
   ・試合会場の施設、設備、許容量等の技術的なスペックとの対照
   ・公式ホテルの施設、設備、許容量等の技術的なスペックとの対照
   ・競技運営環境における技術的なスペックとの対照

◇更に、日本の慣習、法制度、競技大会における実績、人員環境、物品状況等の“ソフト要件”と対照し、その差異を厳格に導き出す。
   ・経験値が全くない、または普段と異なる運営業務の見極め
   ・運営に必要な人員の数的規模、配置、能力、適性、手配先の見極め
   ・運営に必要な物品の数的規模、配置、機能・性能、手配先の見極め

◇「基本計画」としてのオペレーションプランの策定を行う。
   ・試合会場運用計画(設営、利用、動線、エリア区分、客席配置など)
   ・公式ホテル運用計画(宿泊対象、利用、動線、運営機能配置など)
   ・運営組織計画(業務部署、指揮命令系統、統括責任者など)
   ・輸送計画(来日時、離日時、開催期間中など)
   ・物品調達計画

※この「基本計画」内容のすべてが、国際競技連盟による世界基準を前提とした、開催地オリジナルの現実的な運営計画の骨子になります。また、この「基本計画」をもって、現実的な予算計画の策定が可能になります。国際競技連盟のレギュレーションとの差異を、どのように開催地の要件や条件に順応させ、“レール”を敷設していくか、という内容が「基本計画」になりますから、そこでは、現状に見合う開催環境にしていくための仮設対策や人員配置による課題解決方法など、より現実的な予算が導き出せるはずです。更に、この「基本計画」を、国際競技連盟に提出し、正式な承認を得る必要があります。正式なカウンタープロポーザル、ということです。

以前取り上げた「FISフリースタイルスキー世界選手権猪苗代大会」での予算策定のプロセスにおける混乱は、こうした準備プロセスの不備が最大の原因だった、と思います。この時点で、かなり確証が高いレベルで予算概算が導き出せていれば、それを減額するリスクは、大会の開催自体にも及ぶということになりますから、判断の基準は大きく異なっていたと思います。つまり、開催できる範囲でなんとか開催しよう、などという安易な判断は出来なかったはずです。結果的には、身の丈の予算に近い数字になったようですが、結果的に本当にそれで開催意義を見出せるのかどうか、大会の終了まで注目して見ていきたいと思います。

“日本の常識は、世界の非常識かもしれない”。このような感覚を、常に頭の中に入れておいて現実の業務と向き合うことが、スポーツイベントに関わらず、いろいろなビジネスの局面で役に立つこともあります。外資系のスポーツメーカーに勤務していた時も、外人どもに腹を立てることは頻繁にありました。その原因の多くは、単純な考え方の違いです。外人さんは、比較的、物事を単純に考えます。日本人は、あれこれ詮索しすぎて、物事を難しく考えがちのような気がします。私の個人的な感想だけかもしれませんが、そうした考え方のズレが、「なんでお前らはそんなに軽く考えるんだ!」、という気持ちになって、腹を立ててしまうのでしょう。国際競技連盟が規定している大会開催のためのレギュレーションには、彼ら自身の経験からの反省を踏まえた内容もあるようです。彼らも、一義的にすべてを遵守させようとはしません。だからこそ、彼らの考えを日本流に応用した結果を、キチンと示す努力が必要なのだと思います。つまり、世界基準に日本流を応用するための応用力こそ、大会の成功に繋がるのです。

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2009年02月18日

「世界陸上大阪大会の回想」その4 ~スポーツをエンタテイメントで魅せることの是非

世界陸上大阪大会では、猛暑にもかかわらず、数多くの名勝負が繰り広げられました。残念なのは、女子マラソンの土佐選手以外に、日本人選手の表彰台に立つ姿を見られなかったことと、力を出すことなく敗れ去っていった日本人選手があまりにも多かったことです。猛暑のためなのか、地元開催という重圧なのか・・・。ホームアドバンテージは、生まれなかったようです。事前の前売り状況から、“少ない”、と危惧された観客の動員も、単なる金銭面からだけではなく、日本人アスリートに対する応援という点において、低調に終わらせた原因になったのでしょうか?。

もちろん、競技としては、素晴らしい大会であったことに変わりはありません。しかし、その裏側では、数多くの批判や不満があったことも、事実です。マスコミ報道はもちろんのこと、報道記者によるブログ上でのコメントや、一般のインターネット上での書き込みにも、大会の盛り上がりを賛美する声以上に、問題を提起するような内容が多かったことは、私も実際に目にし、そして実際に感じました。その中でも、私が個人的に非常に落胆したのは、いつもオリンピックのテレビ中継で一番楽しみにしている開会式、そして閉会式などの式典の様子です。

開会式の内容は、大会が開幕する1ヶ月以上も前に記者会見が行われ、その概要が発表されました。監修に映画監督の篠田正浩氏、総合演出は、宝塚歌劇団の小池修一郎氏。そして、3部構成で行われた開会式の最後には、人間国宝の坂田藤十郎氏の“大阪締め”で、出演者と観客が一体となり盛り上がる・・・、という目論見だったようです。テーマは、“鼓動(Beat)”。しかし、大会初日の夜の競技開始前に、約1時間30分を費やして行われたこの開会式は、本当にこれだけのものが必要だったのか?。また、大会がいよいよ始まる、といったアテンションとしての内容に凝縮した短時間での演出に出来たのではないか?、という一抹の疑問が、私にはありました。当日は、男子砲丸投げと女子10,000mの決勝種目も行われ、選手たちは既に戦闘モードであったはずです。選手団の入場行進も、一部の国々を除けば、ほとんどは参加せず、ボランティアなどのスタッフが行進の列を成している始末で、これでは、観客と一体になるはずもありませんし、期待感は醸成されません。ホストシティとしてのシティセールス効果を考えた施策だったのでしょうが、その後に行われる真剣勝負に水を差すようなものだったような気がしました。天皇皇后両陛下のご臨席もあり、所謂式典としての演出効果は必要だったのでしょう。ただし、客席の半分より少し多い程度の観客の数を見ても、もっとやることは他にあったのではないか、と感じてしまう風景が、テレビ中継の画面を通じても見て取れました。

前にご紹介した「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)には、ホストブロードキャスターを務めたTBSの国際映像チームディレクターの言葉として、観客席を一杯にすることこそが、最高の演出である旨が語られています。スポーツイベントでは、満員の客席から沸きあがる観客の声援や歓声、時にはどよめきが沸き起こったり、そうした観客席から漂ってくる興奮は、そのまま選手たちに伝わり、そして選手たちを鼓舞します。だからこそ、観客席を一杯にすることは、スポーツイベント最高の演出になるのです。観客をより一層盛り上げたり、興奮度を助長する仕掛けは、何かしらは必要でしょう。しかし、その仕掛けそのものを“主役”にしては、観客の興奮や期待感は削がれてしまう危険性があります。世界陸上大阪大会の開会式は、あれだけの出演者をそろえながら、観客一人一人の反応を全く見ずに、目の前の進行台本を忠実に再現しただけのものだった、と言うのは言い過ぎでしょうか?。期待もしていただけに、残念に思いました。

また、その期待感を削がれた思いは、閉会式にもありました。大阪らしい演出を求めたと思われるその内容は、河内音頭で締めくくられたのです。スポーツナビのコラムに記述された閉会式に対する感想は、「日本勢不振の元凶を閉会式に見た!?」、というタイトルで表されていました。その中には、1991年に東京で開催された世界陸上の閉会式のことが引用されており、阿波踊りでほとんどの選手たちが一緒に踊っていた熱狂の様子が、懐かしく語られています。しかし、16年後の大阪では、選手たちはただ見ているだけで、これも空回り、という始末。「こんなひどい閉会式だったら、やらない方がマシ。恥ずかしすぎるよ」、というようなベテラン記者の過激な言葉まで紹介しているほど、このコラムを書いた記者は落胆していたのでしょう。ほぼ観客の視線と同じレベルでフィールドを見つめているメディアの目からも、こうした落胆振りが語られるということは、選手はもちろんのこと、観客の興奮度は、全く上がらず仕舞いに終わっていたことでしょう。これでは、シティセールス効果など生まれるはずもなく、消化不良で終わってしまった感覚は、何か日本選手の不振ぶりとダブってしまうのも、無理がないように思いました。

阿波踊りと河内音頭。一体何が違っていたのでしょう?。それは、演目云々の問題ではなく、装置としての仕掛けの問題だと指摘する人がいます。たった1曲だけで終わってしまった河内音頭と、選手、関係者、そして観客へと、次々と踊りの輪を広げるように、エンドレスで盛り上げられた阿波踊りとの違いです。机上の進行のみに捉われていれば、客席の空気を感じることは出来ません。スポーツイベントにおけるエンタテイメントとは、その構成に結果を求めるのではなく、実際の仕掛けにこそ結果を求めるべきなのです。つまり、舞台演出やステージ演出とは、全く異なる客席目線での仕掛けが重要だということです。世界陸上大阪大会では、前回述べたように、7億円を超える費用を「式典/イベント費」として計上していました。その費用対効果は、今年ドイツで行われる大会に参加する世界中の選手たちの思い出の中にこそあると思います。彼らに、“大阪”への思いは残されているのでしょうか。

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2009年02月17日

「世界陸上大阪大会の回想」その3 ~ホストシティの憂鬱② 40億円の財務負担

世界陸上大阪大会の開催組織の中核は、IAAF、国際陸上競技連盟、日本陸上競技連盟、大阪市、そして広告最大手の電通により組織されていたようです。そして、IAAFのパートナーとして、大会のパートナーとして、更にはサプライヤーとして、26社もの企業が名を連ねる中で、男女それぞれのゼッケンスポンサーであるTDK、TOYOTAを始め、多くの日本企業が大会の運営を支えていました。前々回取り上げたホストブロードキャスターを務めたTBSはもちろんのこと、大会の頭脳とも言うべきITシステムを支えたEPSON、計時を担当したSEIKO、1万セットものスタッフウェアなどを提供したMIZUNO、世界中のフォトグラファーをサポートしたNIKONなど、IAAFのパートナーとなっている8社の中だけでも、日本企業は6社を占めます。中でも、TDKは、第1回大会から大会を支援し続けており、大阪大会の期間中には、その契約を2019年まで延長することを発表しています。世界陸上大阪大会は、こうした面から捉えると、まさに、日本で開催する環境は万全だったのです。しかし、それでも、ホストシティとなった大阪市は、この大会を開催するために、総額にして40億円という巨額な資金を拠出しなければなりませんでした。全体で97億円といわれている大会開催費の約4割に相当する金額です。他国での世界大会の開催における予算収支に関しては、知るべくもありませんが、日本での国際大会の開催には、毎度のように開催地の行政の金銭負担は、その都度大きな課題としてクローズアップされます。大阪市がこの大会を誘致した経緯のひとつとして、オリンピックの招致に失敗した後のシティセールス戦略の目玉としてのスポーツイベントの誘致、という側面があったことが、世界陸上誘致の成功時に報道されていました。東京と並ぶ日本の冠たる大都市としての世界に対するPR効果を、大阪市は求めていたのでしょうか?。

大会期間中に、産経新聞に掲載された「世界陸上大阪大会の経済効果」という記事を見つけました。関西大学大学院教授の手により試算されたもののようですが、総額210億円、となっています。詳細は、以下の通りです。

◇大会運営費  97億円
◇観客の消費効果  57億円
◇建設・施設修理費  13億円
◇観光効果  13億円
◇メディア滞在費  12億円
◇事前合宿・キャンプの経済効果  9億円
◇スポーツ用品の購買効果  7億円
◇アジアと海外からの観客の旅費  2億円

などとなっています。面白いのは、大阪市が40億円負担している大会運営費の総額と見られる金額が計上されていることです。確かに、大会運営費は、参加選手などのインハウンドシステムの設計や対応に問題が生じた宿泊や輸送に関する経費等、開催地である大阪市で消費されるものが大半であるため、経済効果の要因と言えば言えなくもあれません。しかし、40億円投資して、それがそのまま使われて経済効果というのは、無駄な公共事業で物議を醸していることと、何ら変わりません。“効果波及”という視点で見れば、海外や日本国中から多くの観戦者が大阪を訪れて、消費してくれることが最も望ましい形だと思います。お盆明けの8月下旬の時期に、市内のホテルが満室となっていたことは、大会関係者の宿泊を含めて効果と言えば効果ですが、観客動員数を見れば、公の数字でも、目標の45万人に対して、実績は35万9千人。これがすべて有料入場者、つまり、一般の観客としても、51万枚用意されたチケットに対しては、約7割です。大会1ヶ月前には、前売り券が3割に留まっていることが、IAAFによる記者会見でも危惧されていましたが、大会期間中を含めて、その後の1ヶ月で4割を売ったというのが事実であれば、大会観戦をキッカケとした観光にしろ、消費にしろ、そこそこの経済効果が、集客装置としてのイベント効果という点では、あったと言えるかもしれません。しかし、5万人収容(一般観客エリアは7割から8割程度だと思いますが)という長居スタジアムが、ほぼ満員の姿を見せたのは、9日間の内、半分の日程もありません。その辺での、大阪市民の不満も、インターネットの掲示板などへの投稿には見られたのも事実です。

では、97億円といわれている大会運営に関る経費の中身は、どのようなものだったのかを検証しながら、“40億円”の効果を見てみたいと思います。(数値は、大会公式ウェブサイトに掲載された収支予算書から抜粋したものです。決算書のものではありません。)

<数値は、2004年度から大会本番の2007年度までの4年度の合計>※10万円以下の金額は切り捨て
①収入: 約100億円(下記項目以外は含まず)
◇寄付金収入(大阪市負担金を含む)  5,090百万円
◇事業収入(協賛金、入場料など)  4,128百万円
◇助成金収入(団体、機関より)  100百万円
◇IAAF/VIK(国際連盟より、物品提供換算など)  500百万円
◇長期前受金収入  186百万円
②支出: 約97億円(下記項目以外は含まず)
◇事業費   8,022百万円
◇管理費   1,476百万円
◇予備費     162百万円

単純に見ると、黒字ですが、これはあくまでも予算ベースのものなので、収支供に、決算時には変動があったものとして考えたいと思います。(あくまでも全体像を推し量る目安として) 管理費については、人件費が、約9億円という規模で、約6割以上を占め、その他は、事務局運営関連の経費と見られます。それにしても、人件費だけで9億円というのは、他のスポーツ競技の国際大会から見れば、大会運営費全体に匹敵する規模にもなっており、大会の規模の大きさが推し量れます。また、事業費に関しては、大会運営に関する各業務毎に分類されているため、下記に、その詳細を記載することにします。

<事業費: 約80億円>
・チケット関連費             263百万円
・フードサービス関連費       497百万円
・式典/イベント費            757百万円
・スポンサー関連費          248百万円※
・アクレディテーション関連費    38百万円
・ボランティア関連費         204百万円
・情報通信費               494百万円
・施設改修関連費           962百万円★
・輸送関連費               865百万円
・宿泊関連費               538百万円
・広報関連費               180百万円
・放送(HB)関連費          460百万円
・競技運営費               422百万円
・物品/物流関連費           70百万円
・IAAF関連費              125百万円※
・プロトコール関連費          52百万円
・警備費                   295百万円  (その他事業 1,316百万円)

金額が10億円を超える「その他事業」の項目の詳細については、不明です。恐らく、会場に隣接した長居公園内に設けられた飲食や展示のブース施設や、猛暑対策にために設置されたミスト設備の設置、また、大会のPRブース等を大阪市内に設けるなどしたコストと推定されますが、この金額と、スポンサー関連費、IAAF関連費を除くと、大会運営の直接コストが算出できると推測され、それは、約63億円程度になります。

ちなみに、施設改修関連費(約9億6千万円)に該当する業務に関しては、組織委員会の発注による公募型指名競争入札により、単体企業に対する発注が行われています。内容は、下記の通りです。

◇メインスタジアム客席内の仮設席の設置(コメンタリーポジション、プレス席)
◇第2競技場内の競技施設設備の改修
◇球技場内の仮設設備の設置(プレスセンター、アクレディテーションセンター)
◇メインスタジアム周辺の施設整備(エリア規制、各種入場口、その他)

この工事は、単純な設営ではなく、既存設備を一旦取り外して新たな設備を取り付けるなどの作業もあり、また、当然のことながら、大会終了後には、原状復帰工事が必要となります。原状復帰には、大会終了から約1週間程度要したとされていますので、その工事の規模の大きさが窺い知れます。しかし、もし長居スタジアムが、その周辺の環境も含めて国際大会を開催するに足る施設環境が整備されているとしたら、10億円近くの費用は、桁が違ってくるほどに圧縮できた可能性も考えられ、2002年のFIFAワールドカップ開催時などに、こうした設備環境を整えておけば、または残しておけば、もっと効率的な大会運営も望めたと、個人的には思います。また、そこに、大阪市の財源の幾ばくかを投入しておけば、40億円という拠出も、かなり抑えられたのではないでしょうか?。全国各地にある行政が管理する公共のスポーツ施設の運用面での欠陥が、ここでも見え隠れしたように思います。

スポーツイベントの開催、特に、こうした大規模な国際大会の開催になると、どうしても、開催地の行政に依存しなければならない状況は、なかなか変えられません。低く見積もられたという13億円という入場収入の見込みに対して、その倍の収入が得られたとしても、大阪市の負担は、3割程度しか低減されないのです。その状況を抜本的に変えていくとすれば、競技会場施設が、より効率的に運用できるものにしたり、ボランティア組織をより充実する取り組みをしながら、運営コストの削減を可能にするソフトを養うなど、長期計画的な政策としてのスポーツ大会誘致を模索するしかないのです。いま、大阪市民は、この40億円を、どのように捉えているのでしょうか?。

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2009年02月16日

「世界陸上大阪大会の回想」その2 ~ホストシティの憂鬱① 人的対応能力における不備

前回ご紹介した「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)の巻末に、ホストブロードキャスターを務めたTBSの世界陸上総合ディレクターの、こうした言葉が紹介されています。「局としても世界陸上を経験したことで、スポーツ中継の理念が話し合われることが増えました。タレントの起用や大げさな実況、大げさなVTR。それらが一般視聴者を取り込んできた功績は否定できません。でも、競技自体に自信があれば、ライブを大事にしたシンプルなつくり方もあるんじゃないかと感じる人間も多くなりました。といっても競技画面をただ流すのではなく、ライブを中心に、わかりやすく見せる方法です。ただ、実はこれが一番難しいのかもしれません」。大会終了後に、インターネット上の掲示板などで、ファンの感想を拾ってみると、TBSの国内中継に対する批判も少なからずありました。タレントを起用した番組の進行や、選手一人ひとりに付けられた形容詞を連呼する実況など、この世界陸上に限らず、ゴールデンタイムにそれなりの視聴率を稼ぎ出すための施策を講じているのは、TBSに限ったことではありません。しかし、ゴールデンタイムにライブで中継する以上、視聴率というものが求められるのは事実で、普段あまり注目されないスポーツ競技の場合は、避けられないのでしょう。先の総合プロデューサーの言葉は、つくり手としては十分理解している中での葛藤を、如実に表しているものだと思いました。

さて、世界陸上大阪大会に関するインターネット上の掲示板などに投稿されている一般ファンや大阪市民の反応を拾っている中で、大会運営に実際に関ったボランティアの皆さんの悲痛なまでの叫びも、数多く目にしてしまいました。世界陸上大阪大会では、延べで4千人を超えるボランティアが、大会運営の携わっていたようですが、そのボランティアを配置し、指揮し、そして指導すべき組織委員会の運営機能の不備から、華やかな競技の裏側では、人的対応というイベントオペレーションの根幹に関わる問題が、数多く発生していたようです。

スポーツイベント、特に国際大会クラスの大きなイベントになると、競技会場の周辺に配置される大会運営機能の中で要求される運営業務は、競技会場の運営業務を遥かに超える規模になることがあります。特に、サッカー・ワールドカップやオリンピックなど、世界中が注目するスポーツイベントでは、世界中から観客、メディア、来賓らが集まってきますから、彼らに対する対応業務のひとつひとつには、時には専門性が高く求められますし、単に機械的なシステムだけを立派に構築しても、それだけでは大会運営は成り立ちません。その現場に立つスタッフという人間ひとりひとりの能力が、非常に重要になります。人的対応能力、それがスポーツイベントの成否に関わる重要な要素になることは、以前、富士スピードェイでのF1日本グランプリ開催時に巻き起こった問題を取り上げた際にも述べましたが、世界陸上大阪大会でも、同じような課題を浮き彫りにしていたようです。

一言で言えば、何千人という運営組織を機能させるための体制の不備が原因だと思います。スポーツボランティアに関しても、以前取り上げましたが、彼らを単なる安価な労働力としてしか捉えていなかったことが、最大の失敗要因でしょう。そして、大会運営に関る情報の伝達方法、指揮命令系統、そして何よりも、ひとつひとつの運営業務の中身そのものを、スタッフを扱う業務管理者たちに理解されていなかったことが問題であったように感じました。ボランティアの配置やシフトを管理するシステムがクラッシュしていた、ということが、数多くのボランティアの掲示板の中への書き込みにありましたが、それ以上に、システムだけに頼らざるを得なかった、ということにこそ問題はあるように思います。もし、ひとつひとつの業務を管理する立場のスタッフが、業務の性格(この業務は他の運営機能にどのような影響を与え、また、他の運営機能からどのような影響を受けるものなのか)、特性(この業務に必要な知識と情報は何か)、規模(円滑な業務遂行のためにはどの程度の人員配置が、どこに、何人必要か)などを、正確に把握できていれば、運営の現場単位で解決できる問題も少なからずあったと思います。それが、現場の管理責任者自身が、「私には分からない」、「他で聞いてくれ」、などという対応に終始していたという状況では、物事は全く解決するはずもありません。指揮能力や教育の不備という点では、ボランティアが競技中の選手を携帯電話で写真撮影していた、という問題も生じていたようで、ボランティア政策の根本から、その不備は起こっていたようです。中には、本来アクセスできないはずの選手専用の食堂で、大阪市の職員と思われるボランティアが、堂々と食事をしていた、ということも、掲示板には数件書き込みされており、もしこれが事実だとすると、多額の資金を拠出した大阪市と言えども、大会運営のモラルやマナーを完全に無視した行為であり、彼らの下に配置された一般ボランティアが機能するはずもありません。大会を成功させたい、大会の運営に関りたい、という強い意志を持って参加していたボランティアも数多くいたはずですが、残念ながら、彼らの意志は、ほとんど活かされずに、大会は終わっていったようです。

スポーツ競技そのものは、競技会場で粛々と進むものです。テレビやメディアを通して伝えられる大会の様子の中には、その裏側で葛藤し、奮闘する多くのスタッフの姿は見えません。しかし、こうした裏方のスタッフがいるからこそ、表舞台である競技会場は、粛々と進行することができるのです。ホテル運営、輸送、アタッシェ、フードサービス、情報提供サービス、連絡、記録などなど・・・。50km競歩では、前代未聞の誘導ミスが生じました。これに対して、当時の大阪市長は、「ボランティアがやったことで罪はない」、と発言していましたが、罪とかそういう問題ではなく、ボランティアを集めた、そして起用した大会組織にこそ、大きな意識の欠落があったように思います。

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2009年02月15日

「世界陸上大阪大会の回想」その1 ~世界から認められたテレビ界の日本代表

2007年8月、猛暑の大阪を舞台に、1,930人のアスリートたちが参加して、IAAF世界陸上競技選手権大会が開催されました。9月2日までの9日間に及ぶ戦いの様子は、全世界200を越える国と地域にテレビ中継され、延べ65億人もの人々に視聴されたそうです。そして、この世界的スポーツイベントを、ホストブロードキャスターとして世界に届けたのは、TBSのクルーでした。昨年の北京オリンピックの際にも、テレビ中継制作に携わる世界中から選ばれたスタッフたちの活躍ぶりを取り上げさせていただきましたが、全世界に注目されるスポーツイベントのテレビ中継制作を担うホストブロードキャスターは、大会運営組織の一員でもあり、大会の中核にあるまさに“ホスト”として、大きな責任と義務を負う立場です。そして、その責任と義務を見事に果たし、世界のテレビ界を代表する猛者たちから、見事な評価を得たTBS“チーム”の大阪での奮闘をノンフィクションで描いた回想録が、本として出版されています。タイトルは、「スポーツ中継の真実 65億人のハートをつかめ!」(ベースボールマガジン社刊)です。(2007年12月29日発売) ※以前ご紹介した箱根駅伝での物語を描いた本と併せて、お勧めです。

私も、大会の終盤に、まる1日の間、この世界陸上を大阪で体験する機会がありました。会場となった長居スタジアムは、見事にその様相を変え、隣接する長居公園も、大阪市民憩いの場から、世界陸上仕様に改造されており、スタジアムのメインスタンド側に位置する広場から駐車場に至る広大な敷地は、大会運営専用の通行路となっていたことはもちろん、その大半は、テレビ中継制作用の設備や仮設の建物が立ち並ぶ巨大なテレビジョンコンパウンドとなっていました。そのために、観客の入場口は、長居公園の中に仮設され、スタジアムまでの間を数百メートル歩かなければならない設定になるほどでした。この大会の開催に当り、公園の中にある“ブルーテント”の撤去に関わるトピックが報道されていたこともありましたが、メインスタジアム、第2競技場、球技場といった既存施設はもちろんのこと、長居公園全体が世界陸上開催のためのイベントスペースとして一体化された姿には、日頃サッカーの国際試合でも見られないようなスケール感を感じさせられたことを思い出します。

IAAF、国際陸上競技連盟から、ホストブロードキャスターとして指名されたTBSは、1997年のアテネ大会より世界陸上の日本の中継局として、世界陸上を独占放送してきましたが、日本開催だからと言って、ホストブロードキャスターの任が、自動的に決まった訳ではありません。オリンピックはもちろんのこと、FIFAワールドカップ、そしてこの世界陸上は、世界3大スポーツイベントとも言われるように、どんなスポーツイベントや国際大会以上に世界中が注目するビックイベントであり、その世界中の人々に競技の模様を映し出す映像や音声を制作する技量も、世界一流であることが要求されるのです。事実、2002年に日本で開催されたFIFAワールドカップのホストブロードキャスターには、一部のスタッフを除いて、日本のテレビ局は参加できませんでした。EBU、ヨーロッパ放送連合に加盟するサッカー大国のテレビ局から選抜されたスタッフが、FIFA、国際サッカー連盟の直接の管理下において、ホストブロードキャストチームが特別編成されています。全世界に配信される国際信号(映像と音声)の制作、そして世界中から訪れるテレビ放送権を持つテレビ局、ライツホルダーに対するサービス対応業務など、大会を主催する国際競技連盟と一体化した運営統括組織の一員としての、責務を果たし得る経験や技術力が必要とされるからです。単に名ばかりではなく、世界最高峰の大会のホストブロードキャスターを務められる、ということは、スポーツ中継における世界一流のテレビ制作の力を持つ、という証でもあるのでしょう。

世界陸上大阪大会のホストブロードキャスターにTBSが指名された背景には、長年の世界陸上の国内放送の実績もさることながら、日本のテレビ局のスポーツ中継における制作能力が、世界基準にあることを、過去に示していたという事実も見逃すことは出来ません。1991年に東京で開催された世界陸上です。男子100mでのカール・ルイス、男子走り幅跳びでのマイク・パウエルによるとてつもない世界記録の達成、そして男子マラソンでの谷口選手の金メダル、また、“カール”を連呼していた長嶋茂雄氏のコメンテーター振りも懐かしく思い出されます。そのテレビ中継を担当していたのは、日本テレビでした。そのホストブロードキャスターとしての大役を果たしたスポーツ中継のパイオニアとしての実績は、TBSにも大きく影響していたのです。TBSは、大会の4年前から本格的な準備を始動し、陸上競技というスポーツの理解から始まり、ホストブロードキャスターとは何たるか、というところまで、ひとつひとつ検証していったと、本には書かれてあります。日本では数々のスポーツイベントを中継しているTBSでも、これほどの世界大会での経験値は、ほとんどなかったのです。また、一ライツホルダーとしての実績などは、及びもつかないほどに、ホストブロードキャスターに求められるものは大きいものだったのです。TBSは、実地のテストや経験を積むという意味において、日本テレビが放送権を持つ関東学生選手権や、NHKが放送権を持つ陸上競技日本選手権の、制作の請け負いも行っています。つまり、日本テレビやNHKの放送したスポーツ中継番組の制作は、TBSがやっていた、ということです。常識では有り得ません。しかし、先に述べた2002年FIFAワールドカップで、日本のテレビ局が苦汁をなめた悔しい経験を、NHKでさえ感じていたのでしょう。その名誉挽回の機会を、世界陸上の場でTBSに託したのであり、その成功のための粋な計らいが、その制作の舞台裏にはあったようです。それほど、世界的スポーツイベントにおけるホストブロードキャスターの役割は大きく、そこに求められるものは、世界一流の放送技術のみならず、一流のスポーツイベント運営に関るノウハウも重要な要素となります。

TBSが史上最高規模のスポーツ中継を実現するために、大阪に集結したスタッフは、実に600人を越える数でした。関わった、という意味においては、総勢800人にも及んだ、とも言われています。サッカーの国際大会でも、最大で70人から80人くらい。スタッフだけで、その10倍近い規模の制作体制を敷かなければならなかった、ということです。最大の理由は、陸上競技、というスポーツ競技の特性にあります。陸上競技と並んで、体操競技、ゴルフは、スポーツ中継において最も規模の大きい中継体制を強いられます。複数の場所で同時に競技が進行しているからです。更には、国際信号を制作する場合、それら複数の競技シーンを、ひとつの映像として世界に配信しなければなりません。北京五輪でのテレビ中継を取り上げた際にも、体操競技を例に、インテグレーテッド・フィードの制作について述べましたが、まさにこの“インテ”(業界では略してこう言うそうです)の制作こそ、国際信号制作の柱になるのです。簡単に一本と言いましたが、複数の競技の進行の中で、どのシーンを優先して、どのシーンはVTRで後出しするか、などなど・・・、国際競技連盟のプロダクションマニュアルに示されている規定を遵守するというプレッシャーも重なり、想像を絶する作業がそこにはあるようです。詳しくは本の中にも度々登場しますが、そこでの失敗は、即刻、配信先のライツホルダーからのクレーム対象にもなるため、ホストブロードキャスターに課せられた責任は、本当に重いものなのです。“もう一回やり直し”、なんていうことは、スポーツには有り得ませんから・・・。ちなみに、日本で放送された中継時間は、延べ100時間にも及んだ、ということです。その日本国内向けのテレビ放送は、ユニラテラル制作、略して“ユニ”と呼ばれますが、それだけのためにも専任の制作体制が組まれます。当然のことながら、国際信号では全選手を平等に扱うのに対して、ユニでは、日本選手をフォーカスします。ミックスゾーンでの競技直後のフラッシュインタビューから、ウォームアップの様子、そして賛否両論あった会場内特設スタジオでの番組進行など、そんなユニ制作体制だけでもひとつのイベント中継規模になるのです。

物量的には、中継で使用するカメラの台数だけで106台。ケーブルの長さは百km単位となり、各種放送機材の調達も、日本国内のみならず、世界中から集められたと聞きます。放送制作の前線基地となるテレビジョンコンパウンドは、中継車の数を図面上で拾っただけでも9台。そして、ホストブロードキャスターの心臓部とも言える作業場所は、プレハブ2階建ての総面積2,400㎡。その中に、国際信号制作、国内放送向けのユニ制作の機能が凝縮され、更には、ライツホルダー各局に対するサービス窓口となるブッキングオフィスも設けられます。食中毒事件でニュースにもなりましたが、スタッフ用の巨大な食堂もこの中に設けられています。また、世界中から来日し、長居スタジアムから実況放送、または独自の撮影映像を自国に送り出していたライツホルダーは、70局。この内、20局は、TBSのプレハブから200mほどの位置にあるライツホルダー専用のプレハブ施設に、ワーキングスペースを設けました。ここだけでも、総面積は2,700㎡。そして、テレビ放送に関る電源設備だけでも大規模なものになります。猛暑の中での冷房設備や、施設内の照明用にも使用される一方で、放送機材専用のテクニカル電源も必要となります。これらが混在使用されると、電源トラブルによって放送が中断される危険性も生じるため、想像以上に重要なファシリティーとなるのです。長野五輪で致命的な事故があったということも聞いたことがありますが、大阪ではそんな経験が生きて、トラブルは皆無だったようです。

ホストブロードキャスターには、国際信号を制作するという責務の他に、放送権を有するライツホルダーに対するサービス業務も重要な任務になります。まさに、“ホスト”としての責務です。大会の1年前に世界中のライツホルダーを集めた世界会議が実施され、その場では、会場現地で受けられるサービスの内容が提示されます。有償無償それぞれありますが、有償のサービスには、レートカードという料金表が提示され、その売上げの合計が、場合によっては数千万円から億単位の規模になるケースもあり、その規模から考えると、ホストブロードキャスターの制作の裏側にあるもう一方の業務の大きさと重要性が認識できると思います。会場内に必要とされる施設も、先のコンパウンド内のワーキングスペース以外に、コメンタリーポジション、フラッシュインタビューのポジション、国際放送センター、更には、コメンタリーポジションで行われる実況の音声を、国際映像などと一緒に配信するための施設としてCCR、コメンタリー・コントロール・ルームや、編集ルームなどがあり、これらを一括して設計から管理までの業務を担うのもホストブロードキャスターなのです。

ただし、ホストブロードキャスターは、その機能として、“イコール・ライツホルダー”ではありません。つまり、TBSは、ホストブロードキャスターとしての組織と、ライツホルダーとしての組織の2つの顔がある、ということです。ホストブロードキャスターは、大会運営の中枢である組織委員会の一員でもあり、一方では、大会主催者であるIAAFのひとつの機能ともなります。つまり、ホストブロードキャスターとは、大会運営とも密接な立場であり、LOCと呼ばれる大会の日本側の運営組織である組織委員会との連携と協働の中身が濃ければ濃いほど、大会は成功に向かう、と言っても過言ではありません。人員規模にしても、物量規模にしても、テレビ制作の実務を、その一端だけでも理解することが、スポーツイベントの運営現場で如何に重要かが、よく分かると思います。テレビ制作の専門雑誌には、このような記述があります。「ホストブロードキャスターと組織委員会とが、いい関係を保ち、共通の認識を持つことが、成功へのカギだ」。北京五輪でもホストブロードキャスターとして陸上競技担当を務めたフィンランド国営放送(YLE)のプロデューサーが語った言葉ですが、テレビ制作の現場と、大会運営現場は、機能的にも物理的にも一体であり、当然のことながら、スタッフの意識も共通なものがないと、より良い結果は望めないのです。
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2009年02月14日

「スポーツイベントとスポンサーシップ」番外編その2 ~スポーツ業界のマーケティング力

最も顕著な例として、大会やイベントのスポンサーを求める時、スポーツ業界には、そのスポンサーシップの価値を客観的に示すための科学的データがほとんどない、ということを感じ続けています。スポンサードする側の企業は、宣伝やマーケティング効果を計る独自の指標を持っていたり、専門機関に依頼して効果を分析する機会を設けている場合もあります。スポンサードを仲介する広告代理店なども、いままでのような、単なる露出的効果のみならず、イベントの集客効果や観客の属性分析を行うなど、次の機会への応用という視点でも、そうしたデータの活用場面を重視する傾向にあるように思います。

こうした中で、スポーツイベントや大会を主催する競技団体や組織における、マーケティングという視点からの機能や能力の貧弱さが、スポンサードしようとしている企業との比較においても、際立ってきているように思います。スポーツは、昔も今も、マーケティング的見地から考えて、優良なコンテンツだった、優良なコンテンツだ、というのは間違いありません。しかし、その捉え方の根本は、イメージ的な捉え方をしているだけのような要素が多いと考えます。新鮮で、純粋で、清潔で、力強く、躍動感があり、・・・などなど。これだけでは、イメージは良しとしても、そこにお金は投下されなくなってきていることを、キチンと見極めるべきだと思います。

◇潜在的なニーズ、ウォンツは、どこに、どれだけあるのか?
◇誰がターゲットなのか?
◇市場は今どうなっているのか?、どう動いているのか?
◇メディアの理解と認識の実際とは?
◇金銭的対価となるものは何か?、それはどこにあるのか?、それは何なのか?
◇情報の発信の仕方は適切か?、情報の収集の仕方は適切か?

それぞれのスポーツ競技が置かれている環境や状況は、当然のことながら一概には語れませんが、それぞれが置かれている環境や状況を正確に把握することなしに、効率的で効果が望める施策など、絶対に出来ないことは確かです。そのためには、イメージや感覚以前に、数値や言葉で、自らが置かれているポジションを把握することがスタートラインであるように思います。そこから、次の一歩の方向性を見出すためのデータがあり、その進捗の途中で、更なる検証データが出てくる。そうした科学的なマーケティング手法を、競技団体や組織自体が、自ら独自のノウハウを築きながら構築していかなければならない時代になってきていると思います。そして、そのために、最近拡大しているスポーツビジネスの教育現場や、その研究者たちを、積極的に活用すべきだとも思います。そして、その場合、単なるオブザーバーやアドバイザーという立場で意見を求めたり、アイディアを提供してもらう、というような論説的な協働ではなく、一緒にスポーツの環境の中に入ってもらって、ひとつひとつ検証しながら、客観的に示せる数値データや分析結果を導き出していく、というような実践的な協働の手法を見出していくことが、重要な課題だと思います。

スポーツイベントのスポンサーシップだけを考えても、イベントの集客する観客の“顔”が具体的に見えてくれば、スポーツイベントを取り巻く人々が優良な顧客に成り得る、という証明として、より具体的なイベントの利用価値を提案できるかもしれません。また、スポンサーシップによる効果の予測も、さまざまなケースを前提として、具体的に示せるようにもなるでしょう。集客される観客の数はもちろんのこと、イベントから発信される情報の頻度や大きさによる波及効果の度合いや、それらを地域的な特性の分析から再検証してみるなど、イベントの内容、集客力、会場施設の利用特性、情報発信力などの側面からの科学的分析が行えれば、それらを金銭という収入源を確保するためのビジネスツールとして活用することができます。もちろん、スポンサーシップのみならず、スポーツイベントの収入構造をさえるチケッティング、マーチャンダイジングなどの戦略要素にも、十分に応用は可能です。

世界的なビッグイベントはともかくとして、日本のスポーツを支えているお金の実態は、補助、寄付、助成といった性格のものが大半を占めている、と言っても過言ではありませんでした。しかし、プロスポーツが多様化していく中で、ファン、サポーター、ブースターなどと呼ばれるスポーツを取り巻く一般からの収入が生まれ、プロ球団にとっては大きな財源になっています。そこから、その入場料の対価としての価値を、より向上させようとして、観客サービスという概念が具体化され、より大きなところでは、ホスピタリティという概念を前提としたイベントサービスという領域にまで、その価値が求められるようになっています。その価値を数値として検証し、更に次の機会への活かし方を構築するノウハウが生まれれば、その価値はますます拡大していく可能性を秘めていきます。その可能性こそ、市場の拡大の余地、つまり、伸びシロということになります。伸びシロは大きいほど、より広く大きな視点での戦略構築を可能にしていきますし、その実行にも余力が生まれてきます。そして、そのすべては、根本となる現状の正確な把握があればこそ、のものでもあります。

外資系のスポーツメーカーは、製造業や販売業というよりは、マーケティング企業という自負があるようです。自らが市場を開拓し、拡大するために、最重要戦略の基本は、マーケティングに置いているのです。競技団体や組織にも、市場を取り巻くさまざまなステークホルダーと協働していくために、今やマーケティング力は必須なのです。

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