2008年10月16日
「F1日本GP、運営面での失態からの威信回復」その1 ~観客不在の運営計画
FIA、国際自動車連盟が主催する世界最高峰のモーターレース、F1。正式名称は、FIAフォーミュラ・ワン・ワールド・チャンピオンシップ。ヨーロッパでは、サッカーW杯やオリンピックと肩を並べるスポーツ界トップクラスのイベントとして注目されています。その日本グランプリが、昨年に引き続き、富士の裾野にある富士スピードウェイ(富士SW)で今年も開催されました。 1987年にF1日本GPが復活して以降、2006年までの20年間に渡り、F1と言えば、日本では鈴鹿サーキットがその代名詞でした。このホンダのホームサーキットで作られた数々のF1日本GPの歴史は、モータースポーツファンのみならず、多くのスポーツファンの記憶の中に、いまだ留められていることと思います。その鈴鹿での開催契約が2006年で切れるところを狙って、F1開催の奪取を目論んだのが、2000年に富士SWを買収したトヨタでした。2005年までに約200億円以上もの費用を投じて、F1開催に必要な改修を施したのです。そして2007年と2008年のF1日本GPの開催を勝ち取ったのです。2009年以降は、鈴鹿との交互開催となるようですが、F1進出からF1開催までを実現したトヨタの並々ならぬ思いが、昨年の富士SWには込められていたことでしょう。トヨタvsホンダのプライドをかけたプロジェクトでもあったはずです。しかし、その目論見は、昨年、脆くも崩れ去りました。 富士SWは、富士の裾野という高地にあり、気圧も高く、天候の不安定なサーキットとして知られていました。昨年は、その危惧が的中し、激しく降り続く雨、そして濃い霧に視界が閉ざされるなど、天候は最悪のコンディションに見舞われたのです。昨年のF1日本GPで起こった数多くのトラブルは、後日の富士SWの記者会見を見る限り、予想を超えた悪天候に起因したものであると、富士SW側は弁明していました。しかし、誰の目にも、それは、運営上の対策を軽んじた結果が招いた“人災”だったのです。つまり、スポーツイベントで最も重視しなければならない観客サービスと言う視点をも無視した、リスクマネジメントの欠如が引き起こしたものだったのです。政治で言えば国民不在。まさに、観客不在の運営計画がもたらした悲劇に他なりません。 天候の悪さは、出場レーサーたちが、口々に「中止すべきだった」と言っているくらい、ひどいものでした。富士SWの名物とも言える1.5kmのホームストレートでは、時速320kmものスピードで飛ばすF1マシンの吹き上げる水しぶきが5m以上もの高さに舞い上がり、レーサーたちの視界を遮りました。どんなベテランでさえも、恐怖感を感じないレーサーはいません。もし事故が起こったら・・・、という時のために待機しているドクターヘリも、悪天候のため飛ぶことすら出来ません。レース開催さえ危ぶまれたほどの状態の中で、富士SW側は、その決行を決断しました。その決断が、14万人という大観衆に混乱をもたらすことになるとともに、あまりにお粗末な運営体制を露呈させることにもなったのです。 施設面では、まず、コースを見渡せない観客席があることが発覚しました。ホームストレートから第1コーナーへフルブレーキングで突っ込む最大の見せ場のスタンド席が、その傾斜設計のミスから、客席からコースが全く見えない状態にあることが判明したのです。立面図、つまり断面レベルからの客席設置計画は、どんなスポーツイベントでも実施していると思います。アリーナスポーツでも、当然のことながら厳密に事前検証を行います。それが、観客が入ってから発覚するという失態は、前代未聞です。素人以下の設計と、事前のインスペクション不足だったと言わざるを得ません。また、仮設トイレの不足や、雨を凌ぐための場所の確保にも、不手際がありました。14万人がどうしたら快適にレースを観戦できるか。それが、富士SWをF1の聖地としての地位奪還をもたらすための最大のテーマだったはずです。しかし、結果的に、高地という立地条件も重なり、冷え込みの強さからトイレには常に雨にさらされた長蛇の列が並び、そして、食事をするのにも数少ないテントスペースに、多くの観客が押しかけてしまう状態を作り出していたのです。中には、雨に濡れながら弁当を食べなければならなかった人もいた、ということですので、その対応のまずさは、度を越していたことは想像するに容易いことです。 更に、僻地に作られるサーキットならではの運営対策である、観客の輸送計画にも、その甘さが露呈しました。富士SWでは、隣接したエリアに最大14万人すべてが利用するための駐車場設備が設けられません。よって、最寄の駅や、周辺に設定された臨時駐車場から、「チケット&ライド方式」により、バス輸送を行うことを計画していたのです。この手法は、よく行われる運営方式なので、バス輸送ルートさえ確保されている限りは問題が起こることはありません。しかし、大きな落とし穴は、バス輸送をシャトル方式、つまり、サーキットと駅や駐車場の間を往復運行させたことでした。公式予選が行われた日の昼、まず、激しい雨により、大型バスの行き来で簡易舗装だけ施されていた道路は陥没し、バスの通行が阻まれました。また、サーキット内のバス乗り場につながる道も陥没してしまい、通行できなくなったのです。修復作業もその開始が遅れ、対処工事が始まったのは、予選レースが終わった後でした。約2万人もの観客は、雨宿りをする場所もなく、数時間もの間、雨の中でいつ到着するのかさえ分からないシャトルバスを待つハメになりました。観客を誘導するスタッフの数も、その対応も十分なものではなかったようです。 シャトルバスの運行による渋滞を引き起こしたもうひとつの要因は、狭い道を2レーンにしてVIP車輌とツアーバスを優先通行させたことにもあったようです。まさに、“人災”以外何物でもない悲劇が、そこにはありました。インフラ整備の問題以前に、根本原因は、観客サービスを前提とした運営計画の不備だったことに、間違いはありません。
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posted by umekichihouse |06:15 |
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