2008年10月14日
“スポーツ省(庁)”の設置に向けての意義と課題 ~あるセミナーから感じたこと
北京五輪終了直後に、各スポーツ新聞の紙面を、「スポーツ省(庁)」の設置に関する報道が賑わしていました。日本では、教育と言う観点から、“体育”という側面からの意味もあると思うのですが、各スポーツ競技団体の管轄は、文部科学省となっています。しかし、スポーツ施設に関しては国土交通省、健康と言う観点からスポーツを捉えると、それは厚生労働省、そして、スポーツビジネスに関しては経済産業省と、スポーツを取り巻くさまざまな関連要素は、すべて別々の官庁で管轄されているのが実態です。つまり、文部科学省の管轄業務だけでは、スポーツ全体の発展を包括的に構築していくことは不可能なのです。パラリンピックを取り上げた時にも述べましたが、障害者スポーツは、厚生労働省の管轄ですし、日本でのスポーツの普及、育成、強化を実践しようとするための行政体制は、いまだ、1964年の東京オリンピック当時と、何ら変わっていない状況なのです。 去る、10月11日に、日本スポーツマネジメント学会の主催セミナーがあり、その講師の一人として、元文科副大臣で、現在、スポーツ議員連盟「新スポーツ振興法」制定プロジェクトチームの事務局長をされている遠藤利明衆議院議員が講演を行いました。今回のセミナーのテーマは、「日本のスポーツはどこへ向かうのか?」というもので、その中で、北京五輪の総括に関するサブテーマと、スポーツ立国調査会報告というサブテーマがありました。北京五輪に関する総括に関しては、ビジネスの側面からはミズノの役員の方が講演され、また、メディアと言う側面からは日本選手団のプレスアタッシェを勤められたJOC委員の方が講演されましたが、何れも、表面的な事象をご報告されていただけで、あまり目新しいものはお聞きできなかったので、ここでは敢えて取り上げません。注目したのは、先の遠藤議員の話しでした。 スポーツ立国調査会なるものを、私は初めて聞いたのですが、自民党の政務調査会の中のひとつの政策集会のようなものなのでしょうか。会長には現総理の麻生氏、そして最高顧問には元総理で日本体育協会会長でもある森氏が名を連ねています。役員の名前の中には、若手で名の知れた議員の方もいますし、スポーツ選手出身の議員の方もいます。会の趣旨は、国家戦略としてのスポーツの振興を目指す、というもので、以下の2点にそのミッションが集約されています。 ◇スポーツ振興は、トップレベル競技者の競技力を更に引き上げること このためには、国の強力なイニシアティブが必要である ◇国全体としてスポーツの裾野や基盤を広げること このためには、多様な取組みに対する協力や支援といった方策が有効である この2点のテーマに対して、遠藤議員は、まず現行のスポーツ振興法の改正、または新たなスポーツ法のような新法の制定が急務であると指摘しています。ちなみに、現行のスポーツ振興法は、東京オリンピックを間近に控えていた昭和36年、1961年に制定されています。つまり、スポーツというよりは、“体育”の振興と言う意味合いが強いものであったことは容易に想像できます。戦後15、6年の日本で、経済基盤の発展を背景として、競技力というよりは、普及や育成という観点からスポーツを捉えていた時代ですから、当然と言えば当然なことだったのでしょう。しかし、その法律が、現代に至るまで、ほとんど改正もされず、脈々と生きていることに問題がある、と遠藤議員は指摘されていました。スポーツと言うものに対する考え方を変えて、単なる振興という観点から、スポーツを国家戦略の一つとして考えていく、というのです。 「スポーツを通じた国際交流は、世界の平和に大きく貢献している。そして、スポーツは、言語、民族、宗教等の違いを超え、同一のルールの下に競い合うことで相互の理解を深め、国際的な友好親善に大きな役割を果たしている。そうした状況の中で、スポーツを国の元気を生み出す源泉と位置付け、国策として緊急に必要な政策を実行していくために、国家戦略としてのスポーツのあり方を明確にしていく」。 セミナーで配布された資料には、上記の内容が前提として明記された上で、以下の3つの戦略が示されています。 ・戦略1 : 競技力の向上に国を挙げて取り組む ・戦略2 : 国際競技大会の招致に国として積極的に取り組む ・戦略3 : 地域のスポーツ環境の整備を支援する 半世紀前の法律で、現代のスポーツ振興の方策や方向性が、正しく導かれることは100%ありません。間違いなく、その視点が異なります。体力の増強や精神修養としてのスポーツをあり方と、ゼロコンマ何秒の世界を争ったり、1点を取ることにすべての精力を傾けるスポーツのあり方は、全く別の次元にあるものです。今の今まで、なぜこうした旧態以前とした法律が存在していたのかさえ知りませんでしたが、文化や芸術に対する国の予算的な政策と、スポーツに対するものが、どれほど違うのかを話されたことで、明解にその理由が分かりました。日本の文化関連予算は、約1,000億円あるそうです。スポーツはその1/5にも満たないそうです。また、芸術文化振興基金は650億円規模であるのに対して、スポーツ振興基金は、その1/2にも満たない。つまり、文化の育成には予算は付けるが、スポーツにはそれほどの力点が置かれていなかった、というのが実情らしいです。予算がなければ、どんなに高い理想を掲げても、何のアクションも起こすことは出来ません。文化がどうの、スポーツがどうの、ということではなく、問題なのは、物事の考え方なんだと思いました。 遠藤議員は、面白い例えを用いていらっしゃいました。「私が絵画を鑑賞したり、音楽会に出席する時は、誰も何も言わないでしょう。しかし、ゴルフに行く、というと周りの目が違ってきます。絵画鑑賞や音楽鑑賞は文化活動と見られても、ゴルフは単なる遊びとしか見えていない。スポーツを遊びと捉える、その考え方から変えていかないと、そこに予算というものは付いて来ないんです」。 ゴルフをやるという行為のすべてが健全かどうか、という論議は別にして、体育の普及なら、教育と言う観点から予算措置は考えやすかった、というのが旧態以前とした考え方なのだと思います。勝負を競ったり、得点を争うスポーツ競技は、ゲームであり、言葉の意味の通りの“遊び”という解釈になってしまうような考え方が、政治の世界にも脈々とあるのですね。これでは、当たり前のアプローチで、国がスポーツ云々を語っても、一生、現行のスポーツ振興法の呪縛からは抜け出せないかもしれない、と、政治に無頓着な私でも、ようやく遠藤議員などがやっておられる活動の意義が分かってきたように思います。 スポーツ施設の改善や充実のという課題も然り。パラリンピックに象徴される身障者スポーツの課題も然り。そして、学校教育の一定のシステムに縛られた環境の中で強化と育成の矛盾と戦っている教育現場の課題も然り。そして、我々のようなスポーツをビジネスとして捉えて活動している人間たちの置かれている社会的立場に関する課題も然り。すべては、別々の管轄官庁による行政管理下に置かれた上での政策の矛盾を露呈したものだと思います。「スポーツ省(庁)」の設置に向けての動きは、そうした矛盾からの開放、という点から考えるだけでも、日本のスポーツの発展には、大きく貢献していくことは間違いない、と私は考えています。 ただし、遠藤議員は、まだまだその道は険しい、ということも自認されておられました。現状の政治情勢を見ても、いつ総選挙に突入するかも分からない。その中で、国会審議を待ち受ける法案は数多くある。新しいスポーツ振興法の制定は、その次、その次になってしまい、なかなか順調とは言えない。ましてや、消費者庁設置が決まるまでにも6年以上を費やしている現状を考えると、省庁の統合政策に矛盾するような新しい省庁設置の動きに対しては、いろいろ多様な圧力もある。・・・・・・、まだまだ明確な道は開けていないのも、現実のようです。 行政から見ると、それぞれの省庁の管轄する業務区分や産業区分的な物の見方から、スポーツ全体の産業は、バラバラに管轄されています。しかし、スポーツの市場は、プロ・アマ問わず、一体となって動いていますし、また、一体とならなければ機能していきません。プロスポーツがどんどんその市場を拡大している中では、その傾向はますます顕著になっていくことでしょう。市場の動きに政治が着いて行っていない最たる例が、スポーツなのかもしれません。スポーツ競技団体の長や役員には、数多くの国会議員が名を連ねています。しかし、現実の動きとして、まだまだ水面下であったとしても、遠藤議員のように、新しいスポーツ環境を作り出すために活動していらっしゃる人たちがいることと、その具体的な活動内容を垣間見れたことは、今回のセミナーに参加して得られた唯一の成果でした。逆に言えば、まだまだ世間に知られていないその活動内容を、もっとPRしていくことが大事である、という気もしました。日本では、なんでもそうですが、世論を盛り上げていく手法や戦略、戦術に疎いですね。特に、政治家は下手の最たるもののような気がします。選挙中のあの勢いをもって、遠藤議員にも、もっと自分たちの活動を世に知らしめていって欲しいと思います。 最後に、今回参加したセミナーについて、感想を述べたいと思います。 日本スポーツマネジメント学会は、まだ活動を開始してからあまり時間がたっていないと認識しているのですが、アジアや北米、そしてヨーロッパなどの学会組織との連携も視野に入れているようで、日本でのスポーツビジネスやマネジメントに関する理論的な体制構築や整備を進めていくためには、必要な組織だと思います。先のスポーツ立国調査会などにも寄与しているようですし、またまだ活躍の場は広がると思います。しかし、セミナーを通してだけですが、私が感じるのは、あまり実践的ではない、つまり、現実のビジネス現場と遊離している感じがしています。また、現場で起こっている事象や問題点を、的確に把握し、何らかの提言を加えていくことも、こうした学会組織の役割であるように思います。学会の役員の多くは大学の先生方ですので、学術的な研究のという側面が強いのかもしれませんが、それならば、もっと人材育成という視点での活動に集約されたほうがいい、とも感じます。 セミナーは、誰が対象で、何を得て欲しいのか、ということが明確に伝わらないことも問題だと思います。私は第2回から参加しましたが、その時は、参加者名簿を見る限り、学生から社会人の方々まで、230名以上もの参加者があり、会場も満員でした。それが、今回の第4回では、結構注目したいテーマだったのにも関わらず、120~130名程度。私の感じていることを同様に感じた人が多かった、ということが、参加者の減少に繋がっていたとも考えられなくもありません。スポーツビジネスに関して、こうした機会はまだまだ少ないですし、もし改善の機会があれば、ぜひご一考頂きたく思います。また、講演者のリード役として、モデレーターという人が進行を務めていらっしゃいましたが、この方々も、学生さんのようでしたが、もっと勉強してから臨んだほうがいいと思います。代表質問などでも、あまりにもレベルが低い質問ばかりで、参加者には何の参考にもならなかったのではないかと思います。セミナー全体の運営にも、もっと専門家らしい配慮が必要であることも、付け加えておきます。
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posted by umekichihouse |06:16 |
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“スポーツ省(庁)”の設置に向けての意義と課題 ~あるセミナーから感じたこと
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いつも記事を興味深く拝見し、学ばせていただいております。スポーツ省(庁)の設置には関心をもっています。地域現場レベルですが、文科省管轄の総合型地域スポーツクラブ推進育成事業や地域スポーツ種目(バスケットボール)の普及・育成の場づくりを取り進めているなかで、活動をより充実させていきたいと思うと文科省の範疇を超えるような内容が、実際の現場において必要となるケースがあり、はがゆく思うことが多々あります。
日本スポーツマネジメント学会については、存在だけは知っていましたが参加したことがないので、参加してみたいと思いました。せっかくの意味ある活動の場として、今後活動が実のあるものに発展していってほしいものですね。
posted by old-rookie | 2008-10-16 04:01
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