2008年10月04日
「ネーミングライツの功罪」その5 ~施設所有者に求めること
国際大会レベルのスポーツイベントの開催に適したスポーツアリーナということで、国内10施設をご紹介する内容を以前取り上げましたが、では、それらの建築費はどれほどのものかご存知でしょうか?。土地の収用費や建物の構造、駐車場などの周辺施設に違いがありますし、また、建設された時代の物価価値もありますから、一概に比較することは出来ませんが、7,000から8,000席前後の固定席で観客席規模を持つ施設は、凡そ200億円前後から250億円程度のようです。(例えば、東京体育館で230億円と言うことです。)スタジアムモードで37,000席もの客席を有するさいたまスーパーアリーナは、約360億円ということですから、この規模レベルになると、サッカーや陸上競技のスタジアムとほぼ同額レベルか、もしくは高い低いレベルとなります。(宮城スタジアムや大分の九州石油ドームなどは、250~270億円程度の規模ということです。)やはり、屋内施設の方が、固有客席数とのバランスで見ると、建築コストは高くなるようです。7万席近くの収容力を持つ日産スタジアム(旧横浜国際総合競技場)は、約600億円と日本でも最大規模のスポーツ施設となりますが、一般的な市や町にある市民体育館レベルだと40億円とか50億円レベルですので、建築費を見るだけでも、スポーツ施設はピンキリです。 さて、それらのスポーツ施設や文化施設に、ネーミングライツ制度を導入しようとしている行政、またはその機関は、前回まで取り上げた課題や問題点を克服しながらその導入を果たすために、どのような点に留意すべきなのかを考えたいと思います。アメリカ式ですと、上記の建築費の1/3~1/2をネーミングライツ制度の導入により、15年から20年で償却する計画が平均的なようなので、それに当てはめると以下のシュミレーションが出来ます。 ・建築総額:200億円のアリーナ施設 ・内、100億円をネーミングライツ制度の導入により20年間で償却する ・年5億円の負担で20年契約でネーミングライツを売却する ということで、行政などの負担は半分の規模で収まります。もちろん、年間単位での管理運営費は掛かりますが、可動席を含めて1万席レベルのアリーナ施設だとすると、イベントの招致や国際大会の開催も可能となり、コンサートや文化イベントの開催も含めて、その立地条件次第では、稼働率は高い水準で上げていくことができると考えます。(興行的なイベントでの稼働率を上げていかないと運用収益は上がらない。) 一方で、40億円とか50億円規模の所謂市立体育館レベルの施設に対して、ネーミングライツ制度を導入するとどうなるでしょうか?。数字上では年に2億円だとすると、建築費の全額を20年で償却することになり、行政負担はゼロ(管理運営費は除く)になります。しかし、そうはうまくいきません。この規模の施設では、大きなイベントを招致できず、また、国際大会などは到底無理な話です。市民や地域住民の利用を目的とした施設に留まるでしょう。もちろん、施設の建設目的がそうであるならば何ら問題はありません。ただし、その施設にネーミングライツ制度を導入しようとする考えそのものが間違っていると思います。 第一に、市民や地域住民が日常的に利用することを目的とした公共施設に、企業名を付していいのか、という疑問があります。その企業が市民サービスを向上させたり、施設の利便性を向上させるような取り組みを自らの負担でやってくれるなら、ある意味で一考の価値はあるかもしれません。しかし、そのような都合の良い考えを持った企業が、この時代にいるのでしょうか?。もしいたとしても、そのような企業ならば、自らの全額負担で自前の施設を作ってしまうでしょう。Fリーグの名古屋オーシャンズのホームアリーナである大洋薬品オーシャンアリーナなどが良い例です。(大洋薬品オーシャンアリーナは、ネーミングライツによる施設ではありません。) 第二に、年間2億とか、仮に5,000万円だとしても、それほどの投資効果やプロジェクト効果を、所有者である行政やその機関が創出できるのか?、という疑問があります。前回取り上げた宮城県の事例のように、年に数回の無料利用とか、施設に企業名入りの看板を取り付けるだけの稚拙な内容では、広告価値ですら、限りなくゼロに等しくなってしまいます。味の素スタジアムの場合は、その周辺はもちろんのこと、東京都が主導で、周辺の市や町に認知を図らせるための施策を施すと同時に、公共性のある施設名称として根付かせていく努力をしています。これがなければ、いくらJリーグチームのホームスタジアムとしての利用があったとしても、年間2億円を超える投資は、広告的にもマーケティング的にも、全く回収できないものに終わっていたでしょう。ネーミングライツでは、ネーミングライツを導入する立場としての行政の手法にこそ、プロフェッショナル性が求められるのだと思います。 最後に、ネーミングライツ制度導入に際する施設所有者としての留意点を列記したいと思います。 ◇ネーミングライツ制度を導入しようとしている施設における広告上、マーケティング上の価値判断は適切に行ったか?。(企業名と施設名はイーコールイメージで捉えられることを念頭に、用意周到に調査すべき。) ◇施設を単なる広告媒体としてのみに捉えていないか?。(ただ名前を付ける行為がネーミングライツ制度の本質ではない、ということを念頭に入れてプロジェクト計画を策定すべき。) ◇ネーミングライツを単なる広告手段として捉えていないか?。(長期に渡ってスポーツや文化の発展や育成という行政の取り組みを支援してくれる姿勢があることを前提として、ネーミングライツの売却先は選定すべき。) ◇つまり、ネーミングライツは、長期的プロジェクトとしての視点に立たなければ成り立たない。
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posted by umekichihouse |06:44 |
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