2008年10月03日
「ネーミングライツの功罪」その4 ~導入時に考えるべき課題と対策
宮城県利府町菅谷地区にある宮城県総合運動公園。その敷地内の宮城スタジアムは、2002年FIFAワールドカップの会場ともなったスタジアムです。そして、隣接する総合体育館が、ネーミングライツを導入し、昨年4月、ホットハウススーパーアリーナと名称を変更しました。ホットハウスとは、仙台市に本社を置く不動産会社で、bjリーグの仙台89ersのスポンサーも務めています。さて、このネーミングライツの導入に関して、宮城県が発表した募集要項があります。WEB上でダウンロードできたものなので、一般公表して構わないだろうという判断で、以下にその一部内容を抜粋してご紹介します。 <宮城県総合運動公園総合体育館 ネーミングライツ-募集要項> 1.目的 新たな財源の確保により安定した経営基盤を確立するとともに、県のスポーツ振興施策の充実強化を図るため・・・(省略)。 5.希望金額 ネーミングライツの希望金額は、1年当たり2千万円程度とする。 6.スポンサーに対する特典等 メインアリーナの2日間無料使用権 (総合体育館の指定管理者は上記に規定するスポンサーメリット以外のスポンサーメリットを追加提案して、優先交渉権者から提示されたネーミングライツ料の増額について優先交渉権者と協議する。) 7.契約の期間 2年 ※2007年4月1日~2009年3月31日 上記の内容に対して、ホットハウス社がネーミングライツ制度を受け入れた、ということです。この内容について、幾つかの疑問点があります。 まず、目的が財源確保、としている点です。恐らく施設の管理運営費の補填だと考えられます。日本のスポーツや文化施設に対するネーミングライツの導入事例の目的は、そのほとんどが稼働率の悪さから来る収入面の低さをカバーするためのものだと推測されます。ホットハウススーパーアリーナも、宮城県内では約7,000席以上という最大規模の観客収容能力がありながら、仙台市の中心部と離れていることもあり、なかなか稼働率は上がっていないようです。(この9月の予定を見ても、収入になりそうな行事としてはコンサートが1件ある程度です。他はほとんど県内の民間使用に留まります。)つまり、財源確保というのは、ストレートに、所有する宮城県側の意図であり、施設そのものの利点や、現状での稼働率が高いとか、イベントなどの開催頻度が高いというような、ネーミングライツの導入の前提となるような権利購入者にとってのメリットは、どこにもありません。 次に、希望金額ですが、上記に示した内容の対価としても、その効果は非常に低いものと言わざるを得ません。敢えて言うならば、県の施設であり、県内最大規模である、という点だけでしょう。その点から考えると、年間2,000万円という金額は、対価としては妥当なのかもしれませんが、たかだか2,000万円を得るために、県の施設の名称に一般企業の名を付すというのは、行き過ぎです。もし、この施設の建設費をかなりの割合で軽減できる規模での制度導入であれば、県民も納得したでしょうが、この金額では、施設内に広告看板を設置する対価程度のものにしか思えず、ネーミングライツという制度をあまりに安易に利用しているとしか考えられません。ちなみに、公共施設には、イベントや大会開催時に主催者が掲出するスポンサーなどの広告看板に対して、その掲出料を課金する制度があります。ほとんどが1㎡単位で数千円と言うものです。通常、屋内施設での広告看板1枚の面積は、約3㎡程度ですから、1日当り、1万円程度になります。もし、このような看板を3枚、年間通して設置すると、掲出料収入だけで1,000万円を超える計算になります。つまり、2,000万円というネーミングライツの対価は、年間に定期的にイベントや大会を開催できている状態であれば、広告掲出料収入で十分に得られる規模のものだ、ということなのです。宮城県が誇る屋内施設のネーミングライツの対価としては、あまりにも安売りです。 また、スポンサーメリットという内容を見ると、この募集の内容が、本来のネーミングライツ制度の本質と全く異なることが明快です。つまり、単なる資金稼ぎのための最も程度の低いスポンサーシップでしかない、ということです。しかも、メリットとして明示されているのは、2日間の無料使用のみ。最も高い料金単価で計算しても、1日12時間使用するとして、240万円。2日間としても500万円にもなりません。その他のメリットは、増額交渉の対象というのですから、これは明らかに、施設の管理運営資金を調達する目的のみであることは明白です。 そして、最大の懸念事項が、契約期間の短さです。ホットハウススーパーアリーナと言う名称は、日本最大規模の屋内施設である“さいたまスーパーアリーナ”とも似ているし、一体どこにある施設なのか、一般的には認知されているのでしょうか?。少なくとも、宮城県内での認知は徹底されているのでしょうね。しかし、例え認知されていたとしても、もし3年目に別のスポンサーが名前を付けたら、利用者は困惑しないのでしょうか?。多額の税金を投入して建設した公共施設が、単なる広告媒体として扱われていることに、県民は何の疑問も抱かないのでしょうか?。日本独特の事情の下で、アメリカのようなシステムでネーミングライツの運用が無理ならば、少なくとも、契約期間だけは、最低でも10年スパンで考えるプロジェクトの性格を持たせることは出来ないものでしょうか?。もし、10年という長期に渡る契約になれば、名を付す企業にも、それなりのポリシーや運用体制が必要になると思います。それは、金額の問題ではなく、自社の名前がついた公共施設が県民や市民に利用されているのですから、社会的な責任も派生してくるでしょうし、企業の文化育成に対する姿勢も問われてくるかもしれません。そうしたことで、企業と施設の双方が、より良い施設運営の体制が築ける方向に、10年という長い期間の中で導いていけばよいのだと思います。ただ、募集要項の文字面を見る限り、そんな崇高なテーマはどこにもありませんから、全く期待できないことは見え見えですが・・・。 以上、宮城県のスポーツ施設について取り上げましたが、決して批判しているばかりではありません。今後、日本のスポーツ施設や文化施設が拡充したり、より充実した設備を整えていくなど、利用者の利便性が向上するための施策として、ネーミングライツ制度が活用されていくのは、決して悪いことではなく、上記の宮城県の例に対しても、ある意味で、今後の対策も考慮した上で、警鐘を鳴らしたいのです。 前回述べましたが、ネーミングライツとは、スポンサーシップと異なり、公共施設に企業や商品、ブランドの名前を付す行為ですから、そこには、導入後の社会的な責任も生じますし、文化を支えるという理念も必要になります。しかも、公共施設に企業名が付されるということは、公共性をも問われるプロジェクトになる、ということを、施設を所有する行政やその機関は、十分に熟慮すべきなのです。そして、それは、官民一体となったプロジェクトでなければなりません。だからこそ、安易にスポンサーシップによる対価を得ることばかり考えるのではなく、長期に渡るビジョンを描く必要があるのです。つまり、2年や3年で完結するビジネスではない、ということです。してはならない、のだと考えます。2年という期間単位は、恐らく行政的な発想でしょう。最近随意契約について取り立たされていますが、行政による一般的な契約単位が2年程度が最長のようですから、その考えが踏襲されているに過ぎないのでしょう。また、特定の企業のみに長期間にわたり権利を保有されることも、行政的な感覚からすると、好ましくないのかもしれません。ならば、ネーミングライツ制度は、考えるべきではないのです。 ネーミングライツに関しては、市民運動や行政の監視的な活動を行っているNPOなどの組織が、さまざまな形で、行政に対して改善を求めたり、警鐘を鳴らしたりするケースが多々見られます。その中から、いくつかのネーミングライツ制度導入に対する課題を取り上げてみたいと思います。 ◇公共施設の広告媒体化に対する市民感情の侵害 これは、前回も言及しましたが、本来のネーミングライツ制度の本質を、スポンサーシップという広告的な協賛制度にうまく置き換えているところで起こる問題です。ネーミングライツは、施設名に名を付すという点から、単なる金銭の対価としてのメリットだけではなく、社会的な意味合いや公共性を吟味したプロジェクトでなければならないと考えます。 ◇短期間で施設名が変わってしまう可能性がある 上記と連動して、ネーミングライツ制度は、10年、20年というスパンで考えるべきプロジェクトであり、その期間中においても、制度を導入した施設を中心とした、スポーツや文化の育成という視点からの活動を、計画的に構築していく使命を帯びるものだと考えます。それが、企業名が付された施設であっても、街や地域にとってシンボル的なものとして認知されていく土壌を作る元になるのです。プロスポーツリーグの隆盛を背景にしたアメリカの事例は、日本ではレベルの違いだけを見せ付けられる感じですが、日本でもアリーナレベルでのプロスポーツが盛んになれば、同じように機運は生まれてくるかもしれない、と期待を込めて思います。 ◇冠イベントや大会の開催が難しくなる イベントオペレーションを専門とする私にとっても重要な課題であり、実際に問題を抱えたケースも体験しています。国際サッカー連盟(FIFA)や国際陸上競技連盟(IAAF)は、主催する国際大会の開催時には、一切のネーミングライツ導入の施設名称を使用することが出来ないように規定されています。今年も日本で開催されるFIFAクラブワールドカップの決勝会場になる現在の日産スタジアムも、この通称ではなく、正式名称の横浜国際総合競技場が会場名称として使用されます。もちろん、クリーンスタジアムの規定に従って、すべての常設広告看板や広告表示は撤去、もしくはマスキングされます。FIFAやIAAF主催の世界クラスの大会ではなくとも、企業名が付された会場を使用する場合は、さまざまな問題を生じさせます。名を付した企業側の本来の思惑と、イベントや大会の主催者の考える興行利益は、真っ向から対立するものになるからです。企業側は、それらのイベントのPR効果に便乗した波及効果を狙うのは同然ですが、イベント主催者は、テレビ放送がある場合など、イベントスポンサーやテレビ放送スポンサーに対して配慮する必要が出てきます。会場名になっている企業が、イベントのメインスポンサーや、ましてや冠スポンサーと競合社であった場合などは、無条件でその会場の使用は拒否するでしょう。最近はコンサートにもツアースポンサーなどが付きますから、スポーツだけの問題でもありません。 今後も、老朽化のための改修費用の負担軽減や、先の例と同じく、管理運営費の補填のために、ネーミングライツ制度は利用されていくようです。ただし、一時の発想でネーミングライツを取り扱うのは、ぜひ避けるべきです。
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posted by umekichihouse |07:26 |
イベントオペレーション |
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