2008年08月31日
国際スポーツ大会の運営予算と収入確保の課題
男子バスケットボール世界選手権、世界陸上競技選手権大阪大会、世界ノルディックスキー世界選手権札幌大会、バレーボール世界選手権・・・と、各種スポーツの世界大会が、ここ数年の間に、続々と開催されました。そして、世界バスケでは、日本協会の人事問題にまで発展した赤字問題がいろいろと報道されましたが、しかし、大阪市の財政負担額に大きさに対する市民からの声が波紋を呼んだ世界陸上、そして同じく開催地行政からの補助金が、当初の倍以上に膨らんだ世界ノルディックと、バスケットだけに限らず、世界選手権大会を誘致した金銭的な結果だけを見れば、どの大会も、大きな財政負担を強いられています。世界ノルディックは、FIS(国際スキー連盟)からの分配金に対する為替レートの関係もあり、黒字に終わった、との報道がありましたが、それも、予算合計で38億円もの開催地自治体からの補助金があったこそのものです。 バレーボールは言うに及ばず、日本で世界一流の大会が開催されることは、スポーツファンにとっては、本当に嬉しい限りです。生で見ることはもちろん、日本での開催を機に、テレビ放送が行われることも、“世界を見る”機会が実現できるわけで、大きな事業成果があると思います。しかし、常に、その決算が問題視され続けています。当初予算と決算数字との差は、支出額の見積りの甘さもあるかもしれません。警備費等、世界情勢の変化に伴う緊急的な対策費の追加があったのかもしれません。ただし、世界陸上や世界ノルディックの例は、あまりにも開催地自治体の負担が大きいと言わざるを得ません。ちなみに、世界陸上では、大会総費用93億円の内、約40億円が大阪市の負担と報道されていますし、同じく、世界ノルディックでも、大会予算の52億円の内、約38億円が札幌市の負担と、大会公式ウェブサイトに公表されていた報告には記載されています。世界バスケは、赤字額と言われている13億円は、確かに巨額ですが、公表されている当初予算通りだとすると、開催地自治体からの負担額は、最終決算額としている約36億円中、全開催地合計で7-8億円程度です。赤字が悪い、自治体の負担はしょうがない・・・、云々という議論は、全く相容れないものですが、世界大会の招致のためには、開催地自治体の巨額の負担なくして成り立たないのが現実なのでしょうか?。 来年3月に、福島県猪苗代町で開催されるフリースタイルスキー世界選手権も、例外ではありません。招致時の予算策定額と、現実的な見積額との差が3.5倍以上にもなったことは、計画段階の甘さが指摘されても仕方がない事実です。5億8千万円から14億円になり、それが21億2千万円になり、更に、8億1千万円で“新予算”が策定される、という数字遊びとしか思えない計画策定の様子に、驚きを隠せません。その差額の約13億円とは、一体なんだったのか?。 国際スポーツ大会の招致には、競技団体だけではなく、開催地の自治体の協力が欠かせません。当然、多くの補助を期待するのも仕方ないでしょう。しかし、補助の規模に対する前提となる予算面での計画性の低さが問題なのだと思います。特に、支出を補う収入の確保に関する課題は、常に問われます。世界ノルディックも観客動員の伸び悩みが、結局は当初3億円程度の見込みに対して約半分程度にとどまってしまいましたし、世界陸上でも、同様な論議が更に加速しました。では、スポンサーシップ収入は?、というと、当然その収入に大きく頼るのは、安易な考えの場合が多いようです。景気がどうのこうの以前に、大会のスポーツイベントとしてのマーケティングバリューの問題でしょう。テレビ放送があり、世界での開催実績もあり、特に、世界陸上は、1991年に東京で成功している事例を残しています。そこには、マーケティング的な見地からも、スポンサー企業は、大きな期待を見出すかもしれません。事実、全体予算の30%が事業収入という予算書も残されています。しかし、行政が主体で、単なる金集めとしか思えない協賛集めの場合、協賛の“価値”を示せるはずもなく、当然期待薄とならざるを得ません。 何十億円という大きな予算額を前提としても、絵空事になりますので、以下に、数億円規模の国際大会の事業予算計画について述べます。あくまでも、個人的なシュミレーション案ですが、基準としてご覧ください。 <計画前提要素> ◇対象スポーツ:バスケットボール、バレーボール、ハンドボールなどのインドアスポーツ ◇想定大会期間:試合日 計日間, 準備、公式練習、休息日 計6日間 総計14日間 ◇想定開催地:大都市圏 または 地方都市(県庁所在地) ◇想定会場:2会場 主会場/7,000人以上収容クラス+補助会場/3,000人収容クラス <支出費目毎の想定負担率> 1.会場費 5-10% (施設使用料) ※すべて含む 2.会場設営・制作費 5-10% (設営、撤去、仮設制作、装飾制作、運搬、設営什器リース等) 3.会場運営費 15-20% (警備、観客対応、メディア対応、プロトコール、物品調達、ケータリング等) 4.競技運営費 5-10% (競技機材調達、競技進行、選手対応、審判対応、メディカル対応等) 5.宿泊・輸送費 35-40% (宿泊費、食事費、輸送車輌費、ホテル内大会施設運営費等) 6.広報・宣伝費 10-15% (メディア資料作成、ウェブサイト運営、宣材制作、媒体広告費等) 7.マーケティング経費 5-10% (チケット販売、マーチャンダイジング販売等) 8.総務経費 5-10% (事務局運営、その他) <収入費目の想定配分率> 1.チケット収入 30-35% (主会場のみの収入期待を想定し、1日4,000人動員規模にて) 2.スポンサーシップ収入 25-30% (VIK相当額を含む。また、権利購入料等は差し引く) 3.開催地自治体、公共団体、国際連盟等からの補助金・助成金・寄付金 30-35% 4.販売収入 5-10% (大会プログラム、記念品、その他) ※テレビ放送権は、国際連盟扱いと想定し、国際連盟から一部が補助金として入る想定。 <大会開催総予算想定> ◇大都市圏開催の場合: 4億5千万円~5億円 ◇地方都市開催の場合: 3億円~3億5千万円 上記は、過去に私が携わった大会や公表されている各種大会の予算規模を、各種実施条件等を整理した上で、適正な業務量や物量を想定して、金額規模を想定したものです。よって、条件設定が異なれば、また、競技種目に独特の要件がある場合は、数値は異なってきます。しかし、特に収入面に関しては、インドアスポーツの場合、全体の予算の中で、少なくとも1/3以上の動員成果に向けて努力しなければ、結果的に、前に述べたように、各種補助や助成に頼る結果になります。また、スポンサーシップについては、各スポーツ競技によって、国際連盟などが規定するマーケティング戦略上の契約条件が異なりますので、一概に言えるものではありませんが、収入全体の構成比率、また金額レベルから考えると、この程度の期待を持てないと、更に補助や助成に頼らざるを得ない結果となります。バレーボールなどの場合は、国際連盟とテレビ局間で、テレビ放送以外の事業関連も含めた包括契約が存在していると言われていますので、自治体や公共団体など以外に、事業補填がある場合があります。 上記のシュミレーション案から考えると、フリースタイルスキーやノルディックスキーなどの屋外のウインタースポーツは、会場設計次第では、有料入場という概念すら厳しいのかもしれません。よって、他の収入に頼らざるを得ない、とも言えます。結果的に、自治体の財政負担にシワ寄せがいくのだと思います。しかし、一方で、収入が期待できない分、単純に支出の削減を、机上だけで数字の計算に任せてしまうと、実際の業務への支障がどうなるか、と言った現実的な面が損なわれてしまう危険性を生じます。人件費を削減するためのボランティアの動員とか、会場設営の簡略化とか、警備や観客対策のレベルダウンなど、本番当日に起こりえるリスクの計算まで念頭に入れてあるのかどうかが課題でしょう。ボランティアは、単なる安い労働力としてしか捉えていないリスク、また、有料入場なのに満足な対応が何もない事への観客の反応に対するリスク、そして、会場周辺の整備の不徹底から生じるアクセスコントロールに関するリスクなど、リスク=金銭負担ということに留意すべきです。リスクを回避するためにはお金が掛かりますし、リスクを犯してしまうと、後に余計なお金の負担を強いられるケースは多々あります。 スポーツイベント、特に国際大会開催時の予算で、最も構成比率が高くなるものは、宿泊・輸送費です。特に、選手や役員の宿泊のために要する予算は、全体の1/3を超える場合もあります。また、それは、大都市圏と地方都市でも大きく異なってきます。十分な収容能力があるホテルが少ない、または分散宿泊を余儀なくされる場合や、試合会場から離れた場所でしか宿泊施設が瀬賄えない場合など、ホテル要件によって、輸送対策にも影響します。当然のことながら、都市や地域によって、宿泊単価や食事単価が相当異なる場合もあります。倍以上の差が生じることも珍しくありません。 また、会場運営費に関しても、開催地の地元のスタッフを活用することはよくありますが、スポーツイベントの特殊事情までは、経験値として乏しい場合もあり、多数のイベント開催でノウハウがある東京などからスタッフが派遣されるなどして、経費増になることも多々あります。運営上の安全性や効率、また、国際大会独自の要件をカバーするためには必要な措置ですが、計画段階において、こうした考えが欠落していると、結果的に金額規模で数倍の狂いが生じる場合もありますので、気を付けなければならないでしょう。 更に、最大の懸念は、会場施設の状態にあります。国際大会レベルの大会開催に適応した施設や設備が整っていれば、金銭的には非常に効率的なものになります。会場の既存施設や設備の活用で、運営上の必要要件をカバーでき、会場使用料の負担額だけをフォーカスすれば良いからです。しかし、そうでない場合、仮設設置の必要や、臨時での敷設や設備導入を余儀なくされる場合も、珍しくはありません。特に、IT関連の設備導入は、仮設とは言え、場合によっては、予算額を数倍に引き上げてしまう危険性も含みます。屋内施設だけでなく、屋外のウインタースポーツでは、もっと深刻な問題かもしれません。競技リザルトシステムを導入している場合、当然、情報伝送および管理システムは、仮設のITインフラの上に構築されることになりますので、インドアイベント以上に、その負担は増大するはずです。先に述べた“削れない負担”が、そこにあります。 以前にブログで述べた各種スポーツイベント要件が、いろいろ出てきましたが、要は、イベント現場でのシュミレーションなくして、現実的な予算数字は保障できない、ということです。
posted by umekichihouse |07:18 |
イベントオペレーション |
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