2009年03月23日

「現役新聞記者の著書から感じたスポーツジャーナリストの姿」その3 ~メディアビジネスと報道

テレビマネー。テレビジョンパワー。テレビの力は、オリンピックを見るまでもなく、スポーツ競技の現場に、多大な影響を及ぼすものに増大しています。その力の源は、言うまでもなく、お金です。時には、数百億円という莫大な契約金額が報道を賑わし、時には、その契約は、向こう10年先にまで及ぶこともあります。そのお金は、国際競技連盟や組織の財源として、世界大会やオリンピック大会の大会運営を支え、肥大化する大会規模に比例していくかの如く、ますます大きな規模になりつつあります。しかし、競技団体や大会を潤すそうした財源は、スポーツ競技のルールにまでその力を及ぼし、また、オリンピックでさえ、競技スケジュールを変えるまでに、その影響力は増し続けています。バレーボールや卓球、バドミントンなどの競技では、ラリーポイント制が導入され、テレビ放送の都合に合わせやすいように試合時間の短縮が図られるようになりました。また、先の北京五輪では、競泳の決勝は、アメリカの現地時間の都合に合わせるために、開催地の現地時間で昼前の時間帯に行われました。日本で行われたFIS世界ノルディックスキー選手権札幌大会でも、ヨーロッパの現地時間帯に合わせるように、決勝は夜間に行われ、そのために照明設備などの付帯設備の用意を強いられ、大きな経費負担が生じたと聞いています。いまや、テレビマネーは、世界的なスポーツ競技大会の巨大なスポンサーの如く、その発言権を増しており、メディアとして、報道機関としての立場を超えて、大会の運営にまで大きな力を及ぼす存在になっているのです。その姿は、もはやメディアと言うよりは、コンテンツホルダーなのです。

毎日新聞の現役記者、滝口隆司氏の著書「スポーツ報道論」の中でも、“世界のスポーツを変えたテレビマネー”として、巨大な放送権料を背景としたテレビの存在の大きさに対する脅威が語られています。また、スポーツがビジネスの場で語られるようになっている中で、2006年にNHKが打ち出した改革案のひとつである、“報道は受信料で賄い、娯楽は有料化する”、という方針を取り上げています。これは、テレビというメディアが、報道機関としての顔と、先のようなビジネスセクターとしての顔の、2つの顔を持つようになっていることを顕著に示した例であり、滝口氏は、このことを、“スポーツは報道か、娯楽か”、という視点で切り込んでいます。スポーツ中継を娯楽とするならば、スポーツ中継は有料コンテンツとして、NHKですらビジネスの対象にしてしまいます。そこから得た視聴料収入から、先に述べたように巨額の放送権料が捻出されていく構図です。しかし、ヨーロッパにあるように、ユニバーサルアクセス権という考え方や、スポーツの普及のために、衛星放送などの有料放送に依存しない中継体制を取ろうとするIOCを始めとする国際競技団体の考え方から考えると、スポーツのすべてを娯楽と捉えて、ビジネスの対象としていくことは、スポーツ市場に価値をもたらす普及という側面を否定することにもなりかねません。ヨーロッパでのプロサッカーリーグの放送権を巡っても、ここ10年の間にさまざまな論争がありました。ルパード・マードック氏率いる衛星放送ビジネスは、スポーツを最も優良なビジネスコンテンツとして捉え、巨額な放送権料の見返りとして、巨大なコンテンツホルダーになっています。プロスポーツの世界だから・・・、ということで考えたとしても、そこにはプロチームを支えているファンの存在もあり、そこに論争の火種はあったのです。“スポーツは報道か、娯楽か”。それは、スポーツの現場が、ビジネスによる財源なくして成り立たない現状からすると、杓子定規に考えることは無理でしょう。だからこそ、スポーツジャーナリストたちは、スポーツ報道の現場で、テレビが見せる2つの顔の矛盾と、戦わなくてはならない状況に追い込まれているのだと思います。

最近では、テレビメディアのみならず、新聞や雑誌などの活字メディアも、スポーツをビジネスの対象として捉える傾向を見ることが出来ます。スポーツイベントや競技団体等のスポーツ組織へのスポンサーシップです。滝口氏の「スポーツ報道論」の中では、シドニー五輪で巻き起こった新聞社のスポンサーシップにまつわる報道とプロモーションとの区別に関する論議が紹介されていますが、確かに、報道機関としての立場を有するメディアが、スポーツ・スポンサーシップに参画した場合、その対価としての権利が、報道することまでに及ぶかどうかという境界線まで明確に示すことができるかどうかは、曖昧です。スポーツイベントや大会の主催者は、メディアのスポンサードによって、金銭的な収入を得ることよりも、その報道機関としての力を利用したイベントや大会のPR、プロモーションといった効果を期待するからです。問題なのは、そのPRやプロモーションが、果たして報道なのかどうか、ということです。イベントや大会主催者から見ると、それは“パブリック”リレーション、つまりニュースとしての情報発信でしょう。一方で、利用されるメディアからすると、“ちょうちん記事”と認識した上でのサービス、もしくはイベントや大会への協力、という捉え方なのかもしれません。しかし、全くのニュートラルな立場にいるメディアからすると、スポンサードしているメディアの行動は、報道の優先権を勝ち得た存在に映るでしょうし、事実、イベントや大会主催者からスポンサードするメディアにもたらされる情報は、他のメディアに優先して提供されていることは明白です。

朝日新聞は、オフィシャルニュースペーパーとして、2002年日韓ワールドカップにスポンサードし、その後、Jリーグ百年構想のパートナー、アジアサッカー連盟のスポンサーなどに名乗りを上げ、“サッカーは朝日”というイメージを定着させようとしています。それに対抗して、読売新聞は、JOCのオフィシャルパートナーになるなど、スポーツ・スポンサーシップへの参画に積極的のようです。新聞という商品の販売促進の効果を狙うものなのか、はたまた読者に対するサービスの拡充を狙うものなのか。何れにしても、報道の力の、企業ビジネスへの活用なのでしょう。

posted by umekichihouse |06:28 | メディアとスポーツ | コメント(0) | トラックバック(0)
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