2009年03月20日
「部活が危ない!?・・・日本の若年スポーツ育成現場が抱く危惧」その4 ~指導現場からの視点
部活の数が減少し、特に運動部の指導教員に掛かる負担が増大している。それは、部活に関わらず、教員が抱える日常の仕事量の増大、そして、指導教員の置かれた環境、つまり、制度そのものにも起因しているようで、少子化が進む中、日本のスポーツの普及の根底にあったはずの部活は、その裾野をしぼめる傾向にあるように感じます。今回は、このブログを通してお会いする機会を頂き、スポーツビジネスに関する教育や、スポーツの指導、強化という現場について、いろいろとお話させていただく機会がありました、お二人の大学の先生にお聞きしたご意見をご紹介したいと思います。お一人は、和光大学経済経営学部准教授で、スポーツビジネス論を担当されている原田尚幸先生です。そして、もうお一人は、愛知学泉大学経営学部准教授で、バスケットボールコーチ論などを研究分野とし、実際に男子バスケットボール部の監督を務められている山本明先生です。お二人には、あくまでもご好意で、中学や高校の部活の現状を、指導教員の在り方や、指導教員が現実に直面している課題などを前提として、いろいろとご意見を賜りました。 JOC、日本オリンピック委員会のゴールドプラン専門委員会「国際競技力向上のための諸問題検討プロジェクト」メンバーや、日本プロスポーツ協会のキャリアサポートセンター運営委員なども務められている原田先生には、スポーツビジネスを研究されている立場から、以下のようなご意見を頂きました。 原田先生は、「実績のある指導者、充実した施設と設備、そして奨学金や遠征費のサポートなど、タイガーマスクの『虎の穴』のような学校と、そうでない学校の二極化は、今後も進むものと推察される」、とした上で、学校の部活に競技力を担う役割は限定的である、と述べられています。それは、顧問教員の存在による影響力が大きく、継続性や一貫性に乏しいから、ということです。つまり、学校教員のマニュアルとも言える学習指導要領に明確な位置付けがない課外活動としての部活に、競技力向上を期待するのには限界がある、ということです。 更に、JOCのプロジェクトメンバーの立場から、日本のスポーツ界が求められている国際競技力の向上という視点では、学校の部活よりも競技団体を主体としたジュニア期からの育成プログラムの開発、展開が図られている、とも述べられています。確かに、サッカー、バレーボール、新体操などは、マスコミ報道でも取り上げられた経緯がありますが、英才教育的な選手の育成や強化におけるプログラムが、競技団体主導で進められているケースも出ています。昨年4月からは、ナショナルトレーニングセンター(NTC)を拠点として、JOCが運営する“JOCエリートアカデミー事業”もスタートしました。では、スポーツの普及という側面での学校の部活についてはどうか?。 原田先生は、これに対しては、2つの側面からご意見を頂きました。教員側の事情と、子供を取り巻く環境の変化、ということです。教員側の事情ということでは、特に、教員としての日常の業務が多忙であり、自己犠牲的な取り組みをしないと、部活の指導まで手が回らないのが現状であるようです。手当てなどの金銭的な補助があったとしても、その犠牲の度合いを補うことは難しいのでないか・・・、とも述べられています。また、これは後述の山本先生ともご意見が一致するところですが、教員のやる気の問題もあるといいます。半ば強制的に担当させられていたり、やむを得ず希望とは異なる部活の担当にならざるを得なかったりする場合もあります。原田先生は、これらに起因して、一生懸命に活動したい、指導して欲しいと願う生徒のモチベーションが低下したり、時には生徒間でトラブルに発展するようなことを危惧されています。やる気の問題は、当人である教員の問題だけに止まらず、生徒にもその影響が強く及ぶことで、決して教員の自己責任に留まる問題ではなく、時には生徒の保護者との軋轢を生むことも有り得るようです。 子供を取り巻く環境ということでは、生徒の部活動に費やす時間が減少していることに注目されています。ベネッセ教育研究開発センターのデータ(2005年)によると、受験対策のために塾に通う生徒の割合が、中学1年生では36%、中学2年では約半数の44.9%、そして中学3年では59.4%と6割にもなっており、これでは、あくまでも課外活動である部活動に費やす時間が少なくなるのも当然でしょう。また、同センターの2007年のデータでは、小学5年生の男子生徒の65.4%が、スポーツ系の習い事、つまり、水泳、柔道、体操、野球、サッカーなどの地域のスクールなどに通っている、という調査結果もあるそうです。そしてこの数値は、10年前と比較すると10%も高いものになっているそうなのです。以前取り上げさせていただいたスポーツライターの生島淳氏のコラムでも、、「北京五輪のメダリストを見ると、部活動育ちではない選手が増えている」、として、スイミングスクールや町の道場、親子での師弟関係の中でのトレーニング環境などが、メダリストの競技環境としてのベースになっていることを述べていましたが、生徒の保護者が望むスポーツの指導環境は、もはや学校の部活にはないことを、保護者が見限っているのかもしれません。また、スポーツを通して健康になって欲しい、たくましくなって欲しい、という目的意識と、どうせやるなら子供を勝たせてやりたい、強くしたい、という目的意識の、保護者の二極化も進んでいるのかもしれません。もちろん、このことを突き詰めれば、家庭の経済力や生活環境にも及ぶ課題に行きつく可能性もあり、単に学校の制度や教員云々というレベルを超えた問題になるのかもしれません。 では、実際にスポーツの指導の現場に立ち、また、指導者に対する講習会の講師なども務めていらっしゃる愛知学泉大学の山本明先生のご意見をご紹介したいと思います。山本先生からは、指導の現場から見た中学や高校の先生方の姿や意識を、率直に述べていただきました。また、社会人としての教員となる直前の学生を受け持つ立場としてのご意見も、忌憚なく述べていただいています。 山本先生の最も強調するところは、教育者の質の変化です。意識の変化と言えるかもしれません。これは、勉強や学習という側面からの教師としてのテクニック的なものではなく、所謂「先生」としての資質のことを仰っているのです。山本先生は、運動部を担当する教員が生徒を指導していく上で、ひとつの考え方を明確に持っていらっしゃいます。「指導する立場の人間が、選手を育てようと思えば、選手の人間性を高める教育を行い、選手がスポーツに対して取り組む考え方や態度を方向付けてあげるべきであり、それこそが勝利にも繋がり、スポーツの価値をも感じる道だと思っている」。つまり、技術とか戦術とかいう以前に、人間そのものの価値を伸ばし、向上させていくための哲学なり、方法論なりを、指導する側がしっかり持つことが重要で、その結果は自ずと付いてくる、ということなのだと思います。実際に、バスケットボールというスポーツの部活を担当する先生方に対する指導をされている立場として、最近では、コーチングの哲学のようなものを、まず伝えることに重きを置いているようです。 以前は、山本先生も、スポーツを専門的に経験したり学んでこなかった先生方に対して、どのようにして子供たちを育てていって欲しいか、などということは真剣に考えていなかったそうです。しかし、そうした先生方に対する講習会などを経験する中で、その立場が考え方を変えさせた、ということのようです。「技術や戦術論は、やる気があれば勉強できる。大事なことは、チームを作ること。チームを作るために選手たちに何をしなければならないかを教えること。これがまず大切なことです」。経済産業省では、“社会人基礎力”というものを提唱し、これを大学と企業が連携して企業が求める力を大学で養って欲しい、ということを打ち出しているということです。山本先生は、これに当たるのが、先の“チームとして働く力”だと言います。部活は、個人競技のスポーツであっても活動は団体活動であり、それはチームとしてのものです。 確かに、私も社会に出て、良い意味での組織力の強さ、というものを学びましたし、肌で感じてきました。そこには、自分の力を活かせる組織か否か、自分を活かすためにはどうしたらいいか、そして、強い組織にするために自分は何が出来るか、ということを考えさせられる場面が多々ありました。私も組織を預かる立場に置かれたこともあるので、山本先生の仰る“チームとして働く力”というのは、それを構築していくのも、育てていくのも、それ程簡単ではない、と認識しています。組織を強くするために、時には人間としての個性を削ぐ判断に迫られる時もありましたし、それでいいのか?、と自分自身で葛藤したこともあります。昔は運動部に在籍していた学生は就職に有利だ、と言われていました。それは、根性とか、我慢とかいう精神論的なものが根底にあったことは間違いありません。しかし、いまこうして考えてみると、“チームとして働く力”が身に付けられていた、ということも大きな要因だったのでしょう。中学の部活に関してこうしたことまで考えるのが、適当かどうかは分かりませんが、少なくとも、人間力という側面としては、ひとつの大きな要素であり、育てるべき資質のひとつであることは間違いないようです。 しかし、山本先生は、現在の教育界、特に部活をテーマとするならば、教員の評価というものは、“育てた指導者”よりも“勝たせた指導者”に対するものの方が高い、という考えも一部にはある、と言います。また、このように考える指導者も多いそうです。選手のための部活ではなく、指導者の功績のための部活。決してそれだけではないと思いますが、そうした意識に向かわせる学校経営や、保護者の存在があることも無視は出来ないでしょう。それが、勝利至上主義を生み出す要因のひとつになっていることも事実だと思います。外部から指導員を招聘して部活の存続を維持しようとする動きは、山本先生の地元である愛知県では、かなり以前から取り入れられているそうです。東京都では、ようやく来年度からその制度が導入される、という報道がありました。しかし、私は、ひとつ間違えると、外部からの指導員の招聘には、先に述べたような勝利至上主義を生み出すキッカケになるような危惧も感じないではありません。指導員そのものに対する評価の基準や、その評価に対する考え方の問題だと思います。 山本先生は、“人を育てる”という意識を持った教員が少なくなった、と言います。法制度(個人情報保護法など)の改訂などによる業務体系の変化や複雑化が、教員の仕事の現場をますます忙しくさせていることは確かなようです。しかし、それが教育の質を低下させる原因になっている、ということはなかなか言えないでしょう。それは、制度が制度を否定してしまうことに繋がるからです。また、教員はサラリーマン化している、とも言われています。サラリーマンであって、何が悪い?、という教員もいるかもしれません。それも否定は出来ません。ただし、その否定できないところに、問題の根源があるようにも感じます。私のような教育の素人には、そこまでしか言えませんが・・・。 現在は随分と様相を変えてきていますが、かつての日本のスポーツのトップは企業スポーツが支えていました。そして、日本のスポーツの底辺を支えていたのは、中学校や高校の部活です。その証拠に、各競技団体に登録されている競技人口は、基本的には学校の部活に所属する生徒たちの数が大半です。その部活が減少しているのは、間違いのない事実ですし、今後はますますその減少は進むことも間違いありません。原田先生は、現在の実情から、生活環境などを含めた時代の変化が部活の在り方を変えている、と仰っているように感じました。また、山本先生は、教員の意識の変化(質の低下ということも含めて)が部活の在り方を変えつつある、と仰っているように捉えました。何れにしても、まだまだ決定的な解決策は見つからないでしょうし、都市、地域によっても実情は随分と異なっているようです。お二人のご意見をお聞きして、ますます事の深刻さを痛感させられました。
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posted by umekichihouse |07:14 |
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