2009年03月02日
「オリンピック・マーケティング」その2 ~TOPプログラムと“GE”というスポンサーの存在
4年間を契約期間単位として、IOCがその最高位のスポンサーと位置付ける“TOP”スポンサー(Partners)。1988年の冬季カルガリー大会と夏季ソウル大会を対象として第一期(TOPⅠ)の制度が開始されたこのプログラムは、9社で9,600万ドルの収入を得て始まり、2010年の冬季バンクーバー大会と2012年夏季ロンドン大会を対象としたTOPⅦでは、その収入がついに10億ドルを突破すると言います。TOPⅠの10倍もの規模です。そして、北京五輪前のIOC、国際オリンピック委員会のジャック・ロゲ会長は、記者会見で、2014年の冬季ソチ大会と、東京が名乗りを上げている2016年夏季五輪を対象としたTOPⅧでは11億ドルにまで達するだろう、と言っているほどに、TOPプログラムが集める財源はまだまだ拡大傾向にあるようです。しかし、TOPⅦがスタートした現在のTOPスポンサーの顔ぶれは、前期TOPⅥまでの契約スポンサー数から、コダック、ジョンソン&ジョンソン、マニュライフ、そしてレノボの4社が撤退し、また、そのレノボの代わりのコンピュータ機器分野で、日本でも小型モバイルパソコンで売り上げを拡大しつつあるエイサーが加わるなどの変動もあり、結果的に、9社となっています。 <TOP Partners TOPⅦ 2009-2012> ・Coca-Cola(TOPⅠ~):ノンアルコール飲料分野 ・acer(TOPⅦ~):コンピュータ機器 ・AtosOrigin(TOPⅤ~):IT分野 ・GE(TOPⅤ~):※後述 ・McDonald‘s(TOPⅣ~):店舗フードサービス分野 ・OMEGA(TOPⅤ~):計時、得点表示、リザルトサービス分野 ・Panasonic(TOPⅠ~):※後述 ・SAMSUNG(TOPⅣ~):無線通信機器分野 ・VISA(TOPⅠ~):個人支払システム 世界的経済不況の影響もあったのか、医薬品分野のジョンソン&ジョンソンの撤退は、マスコミ報道でも伝えられましたが、ジョンソン&ジョンソンは、2006年からの契約であり、1期のみの契約であったようです。また、第一期から契約を継続していたコダックの撤退は、デジタル技術の進歩に伴うスポンサーカテゴリーの狭間で、そのスポンサー価値を見出せなくなってきたこともひとつの要因であるように、以前報じられていました。 元々、オリンピックスポンサーは、オリンピック憲章の規定に従い、オリンピック大会の競技場には、一切の広告表示を置くことが許されていません。世界的スポーツイベントであるサッカーのワールドカップや、世界陸上などの単一競技での世界最高峰の舞台が、競技会場に広告看板を設置し、テレビ中継を通じて世界中に社名やブランド名を露出していくことに価値を見出しているスポンサーシップシステムとは、明らかに一線を画しています。 では、TOPスポンサーとしての価値とは、どこにあるのか?。IOCは、TOPスポンサーの権利とその行使機会について、以下のように定義しています。 「TOPスポンサーは、指定された製品カテゴリ-の中で、独占的な世界規模でのマーケティング権利と機会を受け、また、オリンピック・ムーブメントの様々なメンバーがIOC、各国オリンピック委員会、およびオリンピック組織委員会というさまざまなオリンピック・ムーブメントのメンバーと供に、マーケティングプログラムを開発することができます。 加えて、以下の世界規模でのマーケティング機会を、TOPスポンサーは享受できます。 - すべてのオリンピックのイメージの使用、および商品・製品における適切なオリンピックの称号の使用 - オリンピック大会における招待、接遇(ホスピタリティ)機会 - オリンピック放送での優先的な広告機会を含む、顧客に対する直接的な広告とプロモーションの機会 - オリンピック大会会場における売店、店舗の設置、および販売、展示の機会 - 便乗商法(アンブッシュ・マーケティング)からの権利保護 - 公式なオリンピックスポンサーであることを示す一団としての表示を通じた幅広い認知拡大」 つまり、オリンピックという大会の存在自体の価値や意義、そして世界的な認知を背景として、オリンピックを公式に支援できる機会を提供されているという独占的な権利を有していることが、TOPスポンサーとしての価値であり、与えられる権利の行使によって、その価値は具体化される、というものです。露出という一方的なメディア価値を対価としているスポンサーシップの場合、単に、広告看板等でメディアに社名やブランド名が露出する度合いを、その評価基準としますが、オリンピックのスポンサーシップでは、オリンピックという総合スポーツ競技大会そのものが持つ価値の高さのみが、その評価基準である、ということもいえるのではないでしょうか?。よって、IOCは、これらスポンサーの力を得ながら、自らがオリンピックの価値をより向上していく努力が求められるということで、その具体的な活動がオリンピック・ムーブメント、ということになります。IOCとTOPスポンサーは、オリンピックの価値を高めていくという責務を背負っている、という点においては、ある種の運命共同体のような関係にあるのかもしれません。それだけに、TOPスポンサーとしての価値は、そのスポンサーとなる企業の価値をも示すことにもなります。 この点において、オリンピックのスポンサーシップシステムは、スポンサー企業それぞれの製品やサービスのクォリティの高さを、オリンピック大会の運営そのものに活かす機会を設けており、その機会とは、オリンピックという大会が全世界に注目される存在であるだけに、世界最高レベルのメディア報道やテレビ放送による情報の発信力を背景として、巨大なショーケースとなっています。つまり、社名やブランド名、商品名の露出による効果よりも、より具体的に、企業価値、商品価値、ブランド価値を、全世界に伝える機会を、独占的に持つことが出来る、というわけです。 最も特徴的な例は、2005年からTOPスポンサーの一員となったアメリカを代表するコングロマリット、GEです。GEがTOPスポンサーとなった経緯は、他のスポンサーとは全く異なり、アメリカにおけるテレビ放映権契約と密接に絡み合っています。GEは、1986年に電気機器メーカーであるRCAを買収し、同時にRCAが設立したNBCをも傘下に収めています。そして、NBCは、夏季大会は1988年ソウル大会以降、冬季大会は2002年ソルトレイク大会から、長期に渡るオリンピック放映権を獲得していますが、2004年のアテネ大会前に行われた2010年の冬季大会、2012年の夏季大会(当時はまだ開催地は未決定)の放映権交渉では、かつてない条件で契約を締結したのです。2010年の冬季バンクーバー大会を、8億2,000万ドル、2012年の夏季大会を、11億8,100万ドルで契約した上で、更に、親会社であるGEのTOPスポンサー契約を上乗せしたのです。その額は、2億ドル。総計で22億ドルを超える規模の大型契約となりました。テレビ放映権の契約交渉に、スポンサーシップ契約をも持ち出した背景は、IOCの要求だったという話しもありますが、それにしても、金銭以上に、GEグループの支援を得られるというメリットは、オリンピックという巨大なインフラ整備を必要とするスポーツイベントの運営環境を整える上で、IOCにとってはこの上ないものがあったのではないでしょうか?。GEのスポンサーシップ・カテゴリーは、一言で言えば、インフラストラクチャー・ソリューションといったところです。事実、北京五輪では、インフラ整備を目的とした19ものプロジェクトに参加しています。GEのスポンサーシップ・カテゴリーを、IOCの資料では、GEグループ7社の社名を列記して、その各社製品やサービスを選択する(Select)、と記載しています。7社とは、GE Energy、GE Healthcare、GE Transport、GE Infrastructure、GE Cosumer & Industrial、GE Advanced Materials、GE Equipment Service、です。社名を見るだけで、何でも出来る、と思うくらいに、1社でこれだけの複雑で大規模な受注を受けることが出来る企業は、なかなかありません。ちなみに、北京五輪でGEが携わったインフラ整備事業、および設備設置事業の具体例は、下記の通りです。 ◇電力と冷暖房を供給する天然ガスによるコンバインドサイクル発電用タービンの供給 ◇市街の排水処理に対応した最先端の膜/フィルター製品を提供 ◇『鳥の巣』国立スタジアムに送電システムおよび照明装置を配備 ◇『Water Cube』国立競泳センターに競技用照明装置を配備 ◇組織委員会ビルに先進の照明装置および無停電電源装置(UPS)を配備 ◇国立コンベンション・センターに電力ソリューションおよびセキュリティ・システムを配備 ◇老山競輪場と北京射撃競技ホールに配電システムを配備 ◇北京電力供給局に電力管理ソリューションを提供 ◇北京空港に爆発物探知を可能にする中国初の手荷物検査装置を配備 ◇北京市地下鉄に監視システムを提供、および先進の火災警報およびセキュリティ・システムを納入 ◇豊台ソフトボール競技場および北京コンベンション・センターにセキュリティ/監視システムを配備 ◇北京の市街路に交通監視や照明装置を導入 ◇北京オリンピックの選手村の総合病院に磁気共鳴断層撮影装置(MRI)を設置 ※このMRIは、GEヘルスケアグループの日本法人であるGE横河メディカルシステムが開発・製造 また、TOPⅦからは、日本企業として唯一、TOPⅠからオリンピックスポンサーを継続しているパナソニックが、その契約領域を拡大し、それまでのAV機器および放送機器分野に加えて、デジタルスチルカメラの要素が追加され、また、テレビ、音響機器、AV記録メディア、カーマルチメディア機器等もカテゴリー分野として追加されています。コダックのカテゴリーであったスチルカメラ分野が、デジタル機器への流れをそのままに、パナソニックがその契約対象としたようですね。技術の進化や企業のグループ化や業界の再編成によって、製品やサービスの領域だけによる、スポンサーシップ・カテゴリーの分類が難しくなってきている中で、企業数という点でのスポンサーシップの拡大よりも、今後は、ひとつひとつの契約対象の拡大によって、オリンピック・スポンサーシップも様変わりしていくのかもしれません。ちなみに、パナソニックは、2016年(TOPⅧ)まで、契約を更新しています。 オリンピックは、世界最大の“ショーケース”とも言われます。世界中から注目され、人が集まり、そして膨大な情報が発信される舞台に、選手のみならず、開発力や技術力をアピールしようとするスポンサー各社も、ライバルに勝つために乗り込んでくるのです。そこに、社名やブランド名があるだけでは、選手がエントリーしただけの状態と変わりなく、そこで如何に最良のパフォーマンスを示すか、ということが、スポンサー企業のミッションでもあるわけです。オリンピックという大会の価値は、スポンサーという存在があってこそ、高められる時代なのかもしれません。
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posted by umekichihouse |05:58 |
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