2009年02月09日

「スポーツイベントとスポンサーシップ」その2 ~得られる権利と課せられる義務

スポーツイベントやスポーツ組織、またはスポーツ選手のスポンサーとなることは、その契約対象がメディアとして、またはコンテンツそのものとして、マーケティングバリュー、つまり、訴求効果や情報発信力などが強ければ強いほど、スポンサーとして得られる権利の価値は高まります。そして、その対価は、スポンサーシップ・フィーという金銭となるわけですが、だからと言って、お金を支払えば何でも出来るわけではありません。スポンサーとなる、ということは、その対象のイベントや組織、選手などが持つイメージや社会的な人気、認知度、価値観までも同一化して捉えられることにもなるため、スポンサーは、その対象が、より価値を高めていくための活動や努力、さまざまな施策を協働して行っていく義務を負います。その“義務”が認識されないままにスポンサーシップという行為が行われた場合、それは、スポーツマーケティングで言うところの所謂スポンサーではなく単なるパトロン、もしくは単なる寄付をしただけの行為になってしまいます。対価を支払って、もしくは特有の物品やサービスを無償提供して、スポーツのスポンサーとなるということは、それによって多くの権利が得られる一方で、その権利をより効果的に具体化する“義務”が、スポンサーには課せられるのだと思います。対象とするスポーツイベントや組織、選手の価値が高まれば高まるほど、そのスポンサーシップの価値はより高まるのですから、スポンサーの“義務”というよりは、必然の行為とも言えるかもしれません。

私もよく経験しましたが、スポンサーとしての権利ばかりを主張する企業が、少なからずいるものです。特に、他のスポンサーとの契約内容の格差や、スポンサーとしての権利を具体化した際の露出効果の違いなどを引き合いにして、不利であることを主張したりするものです。スポーツメーカーとしてスポーツイベントに協賛した際には、そのイベントへの参加者や出場者に対する、イベントとしてのサービスを充実させていく取り組みを考えます。○○○がスポンサーしているイベントだから、参加したい、出場したい、観たい・・・。イベントそのものが第三者の目から評価される際に、イベントそのものの中に、独自性や特色がより魅力ある形で具体化されていることは、非常に効果的な要因となります。スポーツメーカーの場合、スポーツの中での活動ですから、用具や用品などの提供により、当然のことながら、目立つ存在になります。しかし、こうした行為は、メディア効果のみを求めた他のスポンサーからは、露出効果としての量的バランスを崩すものとして、クレーム(端的に言えば低次元のイチャモンですが)を受ける場合があります。これは、スポンサー自らの利益しか考えていない行為であり、「我社は我社独自の手法でイベントをもっと盛り上げていこう」とか、「スポンサーとしての立場をもっと効果的に利用した施策を考えよう」とか、対象とするイベントそのものの価値を向上させていくことを見据えた取り組みなどは、全く眼中にありません。そうしたスポンサーシップを許しているイベントは、ある意味で不幸です。金銭的な利益しか考えられません。

スポーツイベントには、サプライヤーという形でのスポンサーシップがあります。スポンサーシップとしての対価に相当する規模の物品やサービスを、イベント主催者に無償で提供することにより、イベントに関わるさまざまな権利を得られるものです。しかし、金銭の授受は、発生しない、もしくは小額であるケースですから、時には後回しにされることが往々にしてあります。ただし、イベントオペレーションの立場に立って考えると、このイベントサプライヤーの存在は、イベントの運営という側面だけでなく、財務面でも大きな利益となります。物品やサービスを無償で受けられる、というコスト面における利益だけではなく、その物品の品質やサービスの内容が、当初求めていたものよりもより高い価値のものである場合があるからです。サプライヤーとは言っても、イベントの価値が高まらなければ、その中で活用される物品やサービスの質の高さを、一般にアピールすることは出来ませんし、ましてや、クレーム対象となっては信用に関わる問題にもなります。より質の高い物品やサービスの提供により、サプライヤーとしての信頼も高まる一方で、イベントの運営の質も向上し、よりスポンサーシップの価値を高めることになる、ということを、イベント主催者もサプライヤー側も、双方で理解し、協力し合う環境を築くことが重要なのです。コピー機1台を提供されても、それに伴う消耗品の準備や、故障に対応するためのメンテナンスなど、さまざまな対応に迫られ、イベント主催者側としては、結果的に何のメリットもない、というケースも想定できます。サプライヤーを依頼していく場合でも、受ける物品やサービスの内容をお互いに吟味して、より効果的なプログラムを構築していくことが、主催者側には求められる、ということでもあります。

人材派遣会社が、通訳の派遣や一般スタッフの派遣、時には、ボランティアの教育や研修を担う業務に関するサービスを提供するケースもあります。そこでは、サービスを提供する企業としては、優秀なスタッフを派遣する企業であることを、実際の仕事の現場でアピールできる利点が考えられますが、一方で、その人件費やサービスに関わるコストに対して、イベント主催者の認識が、全く金銭感覚とかけ離れたものである場合も、よく耳にします。「自前のスタッフなんだから無償は当然だろう」、というような発想です。用具や用品を提供するサプライヤーに対しても、同様の問題がある場合が多々あります。「自社の製品なんだからタダでしょう?」、というなんとも勘違いはなはだしい、低次元の理解しか出来ないイベント主催者がいる場合です。物品を提供する企業をサプライヤー、サービスを提供する企業をサービスプロバイダーと分けて呼んでいますが、どちらの場合も、企業としての原価基準があり、イベントに対して提供する場合でも、その原価を支出する、ということであり、時には金銭を支払うスポンサーよりも、その原価の合計金額の方が高くなる場合もあります。スタッフ用のTシャツにしても、タダではありません。そこには、正当な原価というものがあり、サプライヤーは、その原価を、社内のコストとしてイベント協賛費に当てているのです。もちろん、サプライヤー側も、より高い品質の製品を提供することで、自社のPR効果を高め、イベントそのものの価値を高める効果の一端を担っていることを意識していれば、製品原価を意図的に下げるような姑息なことはしないはずです。その辺は、イベント主催者とサプライヤー、サービスプロバイダーとの信頼関係です。

さて、特定のスポーツイベントというスポンサーシップを具体化する場を想定しない、スポーツ組織の商標や意匠、またはスポンサーとしての呼称権を得られるようなスポンサーシップの形態では、それに伴う“義務”というものはどのように考えるべきなのでしょうか?。

例えば、JOC、日本オリンピック委員会のオフィシャルパートナーや、JADA、日本アンチドーピング機構のスポンサーシッププログラムなど、実態としてのイベントの現場でのメディア効果ではなく、JOCやJADAという組織、またはその組織の持つ商標や意匠などのプロパティに価値を見出して、その活用機会に対する対価をスポンサー料として売る場合などです。オリンピックも、世界最大のスポーツイベントではありますが、イベントの現場には、スポンサーにとってのメディア価値はほとんどなく、多くは、オリンピックという世界最大のスポーツイベントの持つ世界的なマーケティングバリューを、業種を独占して利用できるところに価値を見出しているものだと思います。それだけに、世界的に、または国民的に認知された商標や意匠、またはスポンサーとしての呼称権を、自社のマーケティングで活用できる、ということは、それらプログラムの大きなメリットと言えます。オリンピックはもちろんですが、アンチドーピングのムーブメントも、世界のスポーツ界では重要なテーマになっていますし、不正を許さないスポーツの精神を体現するもののひとつとして、その活動に支援企業としてスポンサーすることは、企業の信頼度という側面からも、効果は高いようにも思います。こうした組織のスポンサーシップの場合、それらスポンサーに課せられる義務とは、得られる権利を最大限に活用することにあります。他のライバル会社にやられないように押さえておこう、とか、とりあえず乗ってみようとか、そんな消極的な意図では、全くスポンサーとしての効果がないばかりか、その資格さえもありません。北京五輪の際にも、最大で28社にもなったJOCスポンサーが、それぞれ独自のマーケティング活動に、JOCスポンサーとして得られる権利を活用していました。中心となっていたのは、シンボルアスリートをキャラクターとして起用したテレビ広告の展開であったようですが、オリンピックというイベントの魅力や存在を知らしめる効果としては、間違いなく大きかったと思います。JOCとそのオフィシャルパートナーとの、まさに協働効果が発揮されていたと思います。

また、単に、メディア効果を狙ったものだけではありません。中には、所属する選手を積極的に活用した広告展開も目立ち、オリンピックアスリートの活動環境を支えている、という企業の姿勢も見え隠れしていました。オリンピックを目指すアスリートたちを、日常から支援していく環境を、社会貢献の一環として体制を整えていく際のキッカケとしても、JOCのプログラムが派生機能していけば、まだまだ小さい日本のアスリート支援の環境を、少しでも拡大していくことが出来るのではないでしょうか?。そうしたポリシーを共有する、という意識の醸成も、スポーツ組織のスポンサーシップの“課せられる義務”として、認識していくことも必要なのかもしれません。

アメリカオリンピック委員会、USOCでは、スポンサーとなっている企業が、オリンピックを目指すアスリートに、職場を提供するケースもあると言います。スポーツ大国アメリカと言えども、マイナー競技でオリンピックを目指しているアスリートたちにとっては、その活動資金を簡単に得られる環境にはないのです。自ら稼ぎながら競技活動を続けているアスリートたちも少なくありません。そんなアスリートたちを、プログラムとして、スポンサーの義務のひとつとして課しているのが、USOCの特異なところでもあります。全米に展開する大型スーパーマーケットや、フランチャイズチェーンなどが、アスリートの練習時間を考慮しながら、パートタイムでの就業時間を設定して、仕事の機会を与えている、というのです。世界的経済不況の折、アメリカだけではなく、日本の就業環境もより厳しくなっている中で、こうした取り組みは、スポーツそのものの底辺を維持していくためにも必要なことであり、有意義であると思います。しかし、チームそのものの廃部が出てきている日本の企業スポーツそのものが置かれている環境の厳しさが、何処まで続くのか、という現実的な懸念もあり、スポーツを支援している企業には、その理念だけは失わずにいて欲しい、と思うところです。

日本のスポーツ・スポンサーシップは、一般的には、メディア効果をそのメリットとして構成されているケースがほとんどです。しかし、最近では、アメリカのプロスポーツのスポンサーシップに倣って、さまざまなマーケティング権をプログラムの主体に置くものも登場してきました。商標や意匠の使用や呼称権といった権利のみならず、ホスピタリティやプロモーション機会、更にはライセンシングやマーチャンダイジングに関わる権利もパッケージングされたものもあります。より高いフィーを得るための対価として、スポンサーメリットはますます拡大していますが、イベント主催者やスポーツ組織としては、いま一度、スポンサーメリットの対価として“課せられる義務”という視点で、スポンサーとの関係を検証してみることも必要であるように思います。また、より良質のイベント環境を、観客やメディア、その他イベントを楽しむすべての人たちに提供していくために、自らがイベントの価値を高めていく意義を、スポンサーとなる企業にも、いま一度、スポンサーメリットの対価として“課せられる義務”というものを考えて欲しいです。

posted by umekichihouse |05:48 | イベントオペレーション | コメント(1) | トラックバック(1)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL: (表示は許可制となっています)
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/umekichihouse/tb_ping/168
この記事に対するトラックバック一覧
不況の大波、日産スポーツ部休部 【スポーツスポンサー獲得Lab.】

■ソース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090209-00000111-mai-base ■概略 世界的な金融危機を受け、新たなリストラ策を発表した日産自動車が9日、 社内の野球部、陸上競技部、卓球部の休部を発表。 各競技で国内トップクラスの成績を残した実績を持つ企業スポーツ部..

2009-02-11 19:08 | 続きを読む
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
「スポーツイベントとスポンサーシップ」その2 ~得られる権利と課せられる義務

コメント投稿者ID :

今様、
ブログコメントをありがとうございました。
K氏を通じて、貴ブログを読ませて頂いています。
私は、プロや大会系協賛の世界よりも、
スポーツの底辺であるアマ選手の協賛の世界にいます。
プロスポーツが企業経営環境からリスクを受ける中で、
アマこそ、上記のようなスポンサーアクティベーション策を
遂行するべきと選手に伝えています。
プロとメディアの関係も更に問われていく中で、
スポーツ全体をマクロに見なければなりませんよね。
今後共、よろしく御指導下さい。

posted by sports777 | 2009-02-11 19:07

コメントする

「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。

※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
  例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
  例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」