2009年02月08日

「スポーツイベントとスポンサーシップ」その1 ~広告代理店という存在

スポーツイベントの開催費用を賄う上で、企業スポンサーからの協賛金収入は、大きな財源となります。もちろん、そのすべてをスポンサーからの協賛金で賄うことは、あっても単発的な冠イベントなど、ごく稀なケースで、ほとんどの場合は、入場料収入や販売収入などの収入計画を鑑みて、また、イベントそのものの市場価値を見極めた上で、適正な収入規模が策定されていきます。そして、そのスポンサーセールスを担うのは、ほとんどのケースでは広告代理店に委託しているのが現状でしょう。また、スポーツイベントのみならず、直接イベントというひとつのメディア価値を対価とせず、マーケティング上の活用価値のある、プロパティの使用権などを対価とするライセンスビジネス的なスポンサーシップにおいても、日常的に企業のマーケティング活動に携わる広告代理店にそのセールスを委託するケースが多く見られます。

世界的には、2001年に破綻したISLなどのようなスポーツマーケティング会社が、各国際競技連盟などの団体との契約により、スポンサーシップ権やテレビ放映権を販売する機会を、独占的に、または一定の条件下で与えられているケースが一般的です。しかし、ISLの破綻以降、ISLの創設時から関わる広告最大手、電通を筆頭に、広告代理店が直接、国際競技連盟と同様の契約を結ぶケースが多く見られるようになりました。電通がここ十数年の間に締結してきた契約を見ても、かつては専門のスポーツエージェントが取り扱ってきた内容の案件も、数多く直接取り込んでいることが見て取れます。

◇2006年FIFAワールドカップドイツ大会
・日系企業に対するスポンサーシップ独占販売権、およびアジア系企業への非独占販売権
  ・日本におけるテレビ放映権/アメリカにおけるテレビ番組販売
◇IAAF世界陸上競技選手権
  ・全世界におけるスポンサーシップ販売権
  ・欧州/アフリカを除く全世界のテレビ放映権
◇FINA国際水泳連盟
  ・全世界におけるマーケティングエージェント権
◇IOC国際オリンピック委員会
  ・日系企業に対するスポンサーシップ独占販売権
◇MLBメジャーリーグベースボール
  ・日本におけるテレビ放映権

FIFA、国際サッカー連盟や、IOC、国際オリンピック委員会は、ここ数年の間に、組織直轄の独自のマーケティング会社を設立するなどして、かつての“他力本願”スタイルを一変させるようになっています。ISLの破綻の影響もあると思いますが、一方では、スポーツの国際組織が、それぞれに独自の営業力を持ち始めた証であるようにも思います。テレビ放映権料の高騰に起因して、格差はまだまだあるものの、スポーツの国際組織は大きな収益を生み出せるようになり、そこから組織も拡大してきた結果なのでしょう。先の電通などが取り扱ってきた案件も、正確には、そうした国際競技連盟直轄のマーケティング会社からの“仕入れ”という場合もあるようです。電通ばかりでなく、博報堂(組織的には博報堂DYメディアパートナーズになると思います)も、昨年のサッカー欧州選手権の日本でのテレビ放映権を獲得するなど、国内イベントのスポンサーシップのみならず、世界的なイベントのスポンサーシップや、テレビ放映権の領域に至るまで、幅広いスポーツコンテンツの売買に関わるようになっています。

電通や博報堂などに限ったことではありませんが、経済不況の影響もさることながら、マスメディアの売り上げが硬直化しつつある広告ビジネスの現状にあって、新たなビジネス領域への着手は、広告代理店という業態からの変革も意味しているようにも感じます。そして、そのような状況の中で、広告代理店のスポーツに対するビジネススキームも、文字通りの“代理店”業務、つまり権利やコンテンツを販売する権利を仕入れて利ざやを稼ぐ、という旧来の手法ではなく、自らが権利やコンテンツを開発して、それをスポーツ組織や団体に提案し、その価値を拡大しながらビジネスの可能性を拡大していく、というようなマネジメントする側に立つスキームに変わっていっているようにも思います。そして、それは、本来、対価を得られる価値のある権利やコンテンツを保持しているスポーツ組織や団体の立場、つまり、“グランター”の立場からすると、“代理店”ではなく、“イコール・パートナー”の存在になりつつある、ということかもしれません。逆に、そうした考えに立ったビジネスを模索していかないと、現代のビジネス社会には、もはや適応していかない、ということなのです。

例えば、あるスポーツイベントにおいて、スポンサーシップ収入を得るための方策を考えなければならない、とします。主催する、または主管する組織は、恐らくそこに十分な営業能力は備えていないでしょうから、特定の、あるいはオープンで、広告代理店にセールスについてお願いすると思います。課題となるのはここからです。依頼先の広告代理店に、単にセールスをお願いするだけならば、それは“グランター”である主催者または主管者としての良識を疑います。何故ならば、スポンサーシップ権を売る、ということは、そのままイベントそのものの価値を売ることでもあり、売り方次第によっては、イベントそのものの価値を下げるリスクを負ってしまうからです。依頼先の広告代理店は、本当に対象となるイベントの価値を理解しているのでしょうか?。また、その広告代理店は、利益を得るがためだけにセールスをしようとしているのではないでしょうか?。スポンサーという存在は、時にはイベントのイメージと同化し、スポンサーの存在そのものがイベントの価値を向上させたり、スポンサーの顧客層をもイベントに引き付ける力を発揮します。それ故に、スポンサーシップ権の売り先ひとつにも、主催者または主管者は気を配る必要があると考えます。つまり、依頼先の広告代理店は、主催者または主管者の代理人である立場だけではなく、イベントに際しては“イコール・パートナー”として、イベントに関わる立場で付き合う必要があるのです。時には、先の電通のケースのように、国際競技連盟とのパイプが築かれている場合などは、対象となるイベントの運営や、イベントそのものの価値を、主催者や主管者以上に理解している場合もあります。そこには、良い意味で、より幅広い利用価値がその依頼先の広告代理店には出てきます。単なる発注元と発注先というような関係だけで、そうした利点を活かすビジネス環境は、決して生まれてきません。

一方で、広告代理店の立場に立つと、単にスポンサーを売ってくれ、と主催者または主管者である組織や団体に言われても、それだけだとマスメディアの広告スペースを販売するスペースブローカー的なビジネスに終始してしまいます。当然、その場合には、イベントがメディアとしての価値をどれくらい持っているのかが判断材料になります。価値が高ければ売りやすいですし、高く売れればそれだけ利益額が多くなります。人間ですから、安い商売にそれ程のパワーを投入しようとはしませんし、高い商売でも、専任ではなく“売り切れ御免”方式のオープンセールスならば、やはり力の入れ様は大きく違ってくるでしょう。専任の立場で、イベントそのものの価値を上げていくところから関わり、より大きなビジネスチャンスを作り出すチャンスを得られるならば、広告代理店として独自に持つ、さまざまな経験やノウハウを積極的に使おうとするだろうし、取り組み規模も違ってくるでしょう。当然、セールスに際しても、イベントに適切なスポンサーとはどこか、イベントに有益なリソースを持つ企業はどこか、など、さまざまな戦略を構築していくでしょう。モチベーションという精神的な要素もあると思いますが、単なる“売る”という行為だけで売れるものではないのがイベントスポンサーシップであり、スポーツの場合は、そこにメディアとしての価値なども求められますから、広い意味での広告やマーケティングという専門的なノウハウを活かしていくためにも、依頼先の広告代理店のリソースを、どうしたら活かせるか、ということを念頭に置いたビジネスパートナーとしての取り組み方を、“グランター”であるイベントの主催者または主管者は、留意すべきだと思います。

私の個人的な経験ですが、さまざまな企業に在籍していた関係で、グランターとしての立場、スポンサーとしての立場、そして広告代理店としての立場と、イベントやスポーツに関わるひと通りの立場で仕事をしてきました。

まず、NBAの日本国内の総代理店業務に携わっていた時は、まさに、グランターの立場で、3つのスポンサーシップの具体化に関わりました。日本での公式戦イベントの開催の際のイベントスポンサーの獲得。独自に企画したテレビ番組の番組スポンサーの獲得。そして、NBAの持つリーグプロパティの使用権を許可する日本市場独自のリーグスポンサーの獲得です。基本的には、セールス内容から付帯資料に至るすべての要件は自らが作成し、そのセールス対象も、自らが探し出し実行に移していました。その当時、NBAの日本総代理店を務めていたのは総合商社でしたから、その巨大な営業力を背景にして、広告代理店とは取引先としての窓口は違っても、先方への影響力は強いものでしたので、一味違った営業戦略を展開できたのだと思います。もちろん、そうは言っても、結果を出すことは容易なことではありませんでしたが・・・。また、日本での公式戦イベント開催の際には、スポンサーとしての契約を締結するまでの作業は独自に行いましたが、そのスポンサーの活動を具体化するための作業は、当然のことながら、そのスポンサーの広告やマーケティング活動を担当する広告代理店の力を借りたことは、言うまでもありません。もちろん、独自のテレビ番組についても、テレビ局との取引口座はありませんから、広告代理店のメディア部門との協働体制を取りました。金銭的なギャランティの義務は伴いますが、セールス上の協力体制も敷いてくれるなど、“イコール・パートナー”としての関係をうまく活用できたと思います。最近では、総合商社がコンテンツビジネスを展開する際に、スポーツをもその領域に加えているケースも出てきており、何でも売買する日本特有の総合商社の存在は、今後の日本のスポーツビジネスの発展にも、大きく影響を及ぼすものと思います。

スポーツメーカーに在籍していた時は、スポンサーシップする対象のイベントを主催する競技団体などの代理店として、それら広告代理店とのお付き合いがありました。もちろん、直接契約する場合もありましたが、担当する広告代理店との作業となる場合には、時には好条件を引き出すために、腹の探りあいをするなど、決して馴れ合うことなく緊張感ある関係が保てたと思っています。ここでも、担当する広告代理店の独自のリソースは何か?、どこにあるか?、などということを常に考えて、お互いにメリットを享受できる関係を築くことを前提にして、“イコール・パートナー”としての関係を維持できたと思います。在籍していた経験から、広告代理店の立場に立ったものの考え方が、よく理解できていたから、だとも言えるのでしょう。

日本のスポーツ業界は、まだまだ古い体質が残っていますから、特に地方の競技団体の方々からは、広告代理店やスポーツメーカー等は、よく“業者扱い”されます。しかし、それでは、最良の結果を求めることは決して出来ません。お互いの信頼と、お互いの利点をうまく協働していくこと、それが“イコール・パートナー”となることなのです。

posted by umekichihouse |06:57 | イベントオペレーション | コメント(0) | トラックバック(0)
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