2009年01月27日
「スポーツイベントにおける会場設営と仮設制作」その4 ~コストとの戦い
スポーツイベントが計画される段階で、支出額の見込み、つまりコスト規模に関しては、往々にして、見込める、または目標とする収入額に応じて設定されるケースが多々あります。特に、地方開催される国際大会などのケースでは、行政などの負担分が財源の基礎とされる場合が多く、また、支出に関しては、その段階ではイベントの実態を掴んでいないケースがあり、概算数字はともかく、必要不可欠な費目の精査もままならないため、過去の実例や類似例を元に暫定計上されている場合の方が多いように思います。その場合、特に問題になるのは、行政の財政負担が突如として減額されたり、予想を超える規模の支出額に、想定した財源負担の規模が追いつかない場合などです。一言で言って、計画性の甘さと言えば簡単ですが、特に、ウインタースポーツの場合、通常の会場施設が整っているアリーナやスタジアムでの開催と異なり、競技会場の整備を一から行ったり、寒さや悪天候対策のための仮設施設の設置や暖房設備などの設備対応も必要となるため、予め必要な費目設定をした上での実施レベルの検証をしていかないと、費目そのものが漏れている場合は、そっくりそのまま予定外支出となってしまう場合もあります。 今年3月上旬に福島県猪苗代町、磐梯町で開催されるFISフリースタイルスキー世界選手権も、数年も前から、大会実施予算に関して、県や町が右往左往している様子が報道されていました。当初の実施予算と比較して倍を超える規模の支出額が飛び出してみたり、更には3倍という数字も出ていました。結果的には、本大会運営費を含む20年度予算は総額5億1282万2000円ということで組織委員会の発表がありましたが、期待していた協賛金もなかなか集まらないということも聞き、福島県や猪苗代町などからの補助金計1億6250万円も、どこまで膨らんでいくのか、心配の種はまだまだ尽きないようです。日本で常に世界トップレベルのスポーツ競技シーンを見られることが続けられるように、ひとつの大きな失敗が悪しき例にならぬよう、ぜひ成功させて欲しいものです。 最大の課題は、初期段階でのコストに関する精査でしょう。特に、精査すべき費目の策定が、あまり具体的に考えられていなかったのではないでしょうか?。行政がスポーツイベントの予算書を策定する際の費目は、概ね非常に大雑把で、例えば、仮設施設のためにいくらとか、どれどれの緊急対策のためにいくら、などという細かな費目については、実際に精査しているのかどうかはわかりません。もちろん、国際スキー連盟から、大会に関する何らかのレギュレーションが出されているはずですから、開催地としての負担や、業務としての義務に関する内容は把握されているはずで、それに対する実際の業務の内容と実行費用の見込みを丁寧に積算するだけで、数倍もの見込み違いを生むことはないはずです。もしゼロならばそれでひとつの精査は出来るわけですし、精査すべき費目が抜けていることが一番怖いことなのです。やるべきことなのに予算がなく出来ない。これでは、国際大会を開催に向かってのスタートラインにも付くことは出来ません。 アリーナやスタジアムで実施されるスポーツイベントでも、前回までに述べたように、施設要件によっては予想外の支出を強いられるケースがあります。しかし、これも、支出費目として予め想定されていれば、施設要件において不必要な費目はゼロになるし、必要な場合は、その施設の状況と開催レベルの応じた規模において精査していけばよいことです。例えば、アリーナ施設におけるインドアスポーツの場合では、以下の6点に絞って、前々回述べたような会場の利用計画や運営計画で見出した要件を当てはめながら、まずは必要とされる競技会場の設営内容を吟味していきます。この場合、競技会場の既存施設や設備でカバーできるケースでは、会場施設使用料としての負担は増えますが、仮設などの設営費用に関しては負担が軽減されるということになり、その辺は最良の手法や手段を見極めていくことが重要になります。 1)競技会場の使用料(付帯設備や備品の使用なども精査していく) 2)仮設制作に関する制作費用(仮設対応で設置しなければならない制作物の制作原価) 3)終了後に減価償却されてしまう会場装飾用などの看板、サイン、掲出物などの制作費用 4)電気や通信に関する工事費用(競技会場の既存設備の能力に応じて異なってくる場合あり) 5)外部から持込が必要な什器や機材、備品に関するリースや手配費用(競技会場に常備されているもの以外) 6)設営、撤去に関する人件費、輸送費、諸雑費などの経費 あくまでも私個人のやり方かもしれませんが、4)の専門資格や技術が必要な工事費用は別として、設営に関る人工さんや大工さん、またはアルバイトのスタッフなどの人件費は、設営全体の計画の中で複数の作業を担当することから、ひとつひとつの作業の中に人件費や輸送費、諸雑費などの経費は含まずに積算し、それらは別の項目として算出します。つまり、2)の規模が大きければ大きいほど、関わる人工さんの数は多くなりますが、その設営作業が終了した後の作業では、複数の作業を同時並行で進められる規模の人数ということで、作業スケジュールの組み方次第で、個々の作業を積み上げて必要な数のスタッフを揃え、そこにそれぞれの人件費が計上されるよりも、効率的で分かりやすい費用の精査を可能にします。極端に言えば、テーブル一本だけ設置するのに、そのためだけにスタッフの人件費を支払うことはないのです。輸送に関しても、混載可能な方法を考えたり、車輌運用の効率を考えることが、この考えに基づけばできるのです。一概には言えませんが、これは、搬入口のコントロールが煩雑になる搬入や搬出時のリスクを軽減することに繋がります。個々の作業別に搬入や搬出用のトラックが出入りするのでは、トラック車輌自体が作業場の大きな障害物になりかねません。そこで、輸送のシステムを可能な限り効率化することによって、そうした煩雑作業を減少させ、更には輸送コストを軽減しようということです。 既存固定席だけで4,500~5,000人程度収容可能な客席規模を有する築20年以上の体育館で、ボールゲームの国際大会を開催した際に掛かる平均的な設営費用について検証してみます。<参考例> ◇アリーナ席用仮設スタンド席用部材ユニット関連費(イスは体育館常備備品を使用) 約689万円 ・コートサイド用 2組 約434万円 ・コートエンド用 2組 約255万円 ◇コート周辺及び仮設席上テーブル席設置関連費(W1,800mm幅テーブル計60台をすべて持込み、イスは体育館常備備品を使用、プレス席、競技運営関連席、その他) 約46万円 ・テーブル及びテーブルクロスリース 約28万円 ・テーブル席嵩上げ用山台 約18万円 ◇その他メインアリーナ用仮設制作関連費 約9万円 ・テレビカメラ用イントレ台 約3万円 ・スコアボード用イントレ台 2組 約6万円 ◇2F客席内仮設テーブル席設置関連費(設置可能仕様の新規制作テーブル計12台をすべて持込み、イスは既存客席のイスをそのまま使用、コメンタリーポジション) 約30万円 ・テーブル及びテーブルクロスリース 約30万円 ◇その他スタンド客席内仮設制作関連費 約8万円 ・テレビカメラ用イントレ台 3組 約8万円 ◇各諸室内整備設営関連費(テーブルおよびイスは体育館常備備品を使用) 約124万円 ・会議室以外の土足禁止室内床養生対策 約500㎡ 約20万円 ・間仕切り用パテーションボードリース 120台 約84万円 ・キャビネット、スチール棚等什器リース 約20万円 ◇各入場口および受付の整備設営関連費(テーブルおよびイスは体育館常備備品を使用) 約6万円 ・屋外テント 2張 約6万円 ◇各種看板、サインボード制作関連費(建込み用材料費含む) 約220万円 ・メディアエリア用バックドロップボード 3式 約46万円 ・大会タイトル表示看板 2式 約25万円 ・インフォメーション用ボードパネル 2式 約25万円 ・立看板 25枚 約68万円 ・サインボードおよび表示パネル 80枚 約56万円 ◇電気工事関連費 ・幹線工事、分電盤設備、コンセント設置工事等 一式 約136万円 ◇設営および撤去作業経費 約480万円 ・設営管理者および本番期間中メンテナンス要員 延べ15名 40万円 ・人工およびアルバイトスタッフ 延べ180人 約310万円 ・重機使用(フォークリフト) 8台 約20万円 ・設営関連輸送費(10tX12台、4tX6台) 約110万円 上記合計で、約1,748万円となります。ちなみに、仮設によるロッカールーム設置には、2部屋の工事費込みで約900万円掛かります(空調、照明設備費含む)。また、冷房設備が完全に完備されていない施設の場合などは、最大で1,300万円前後の費用が掛かります。会場施設の貧弱さは、即、コストに跳ね返ってくる、ということです。 国際大会では、可能な限り思惑を排除した上で、その時点で考えられる収入規模を慎重に積算し、その金額を上限として、運営規模、つまり、大会の開催に関わる支出費用を精査していく手段もあります。しかし、この場合、積算から算出された支出規模ではありませんから、計画が具体化した時に精査する金額とかなりの開きを生じる場合があります。その場合は、どの費目要件がそのオーバーする分に相当するのかを、正確に見極めておく必要があります。つまり、オーバーする分は、場合によっては赤字決算となる要因になるものですから、競技上のレギュレーションや、運営上のリスク、または大会全体に影響するような開催内容の貧弱性を露呈する場合などを想定して、犠牲にすべきものを、ひとつひとつ精査していくのです。欲を言えばキリがありませんが、天井が明確に設定されているわけですから、そこは英断しやすいところでもあります。これをやれるかやれないかも、スポーツイベントに関わらず、すべてのビジネスにおけるは面と同様に、経営的なセンスが問われることになるのでしょう。また、そのセンスを持ち合わせるトップが存在する運営組織があれば、必ずやそのイベントは成功に向かうと思います。
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posted by umekichihouse |07:14 |
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