2008年12月03日
「スポーツイベントとチケッティング戦略」その8 ~新しいマーケティングアプローチの応用②
「チケットを売る=イベントを売る」。このことは以前も述べましたが、イベントそのものに確固たる形はありません。チケットという紙切れに記載された情報が、唯一形となっているだけです。イベントは、その現場で得られる体験のすべてですから、特に、スポーツイベントでは、ゲームやレースが終わってみるまで分からない不確定要素の多い商品である、と言えます。その不確定要素の多い商品を売るための戦略なのですから、そこでのチケッティング戦略とは、形のある消費財のようなものよりも、もっと科学的に、そして綿密に計画されるべきものなのでしょう。 ターゲットのセグメントや見極めにより、情報伝達の戦術としてクロスメディアという考え方が活かされ、ターゲットの能動的な行動を導き出し、購入に繋げていく、というプロセスを前回述べましたが、インターネットの時代である現在は、そのプロセスがそこで終わるわけではありません。購入まで導かれたターゲットが、その購入した商品に対する主観的な情報を、更にインターネットを通じて情報を分散する行為を行います。ブログ、メール、自己のウェブサイトがある場合はそこでの情報掲示など、CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれていますが、消費者自らが作り出すメディアに載せて、情報は更に送り出されることになるのです。もちろん、購入した商品や体験したイベントの内容に満足しなければ、送り出される情報はマイナス要因になるかもしれません。しかし、それは商品またはイベントそのものに欠点があることですから、致し方ありません。逆に言えば、その情報を分散する行為を、商品やイベントの場を提供する側は、決して無視できない、ということです。 こうしたプロセスは、それまでのコミュニケーション戦略で用いられた「AIDMA」という概念と、大きく異なっています。それは、「AISAS」と呼ばれるもので、2004年に電通が提唱し、2005年には商標登録もされています。では、この「AISAS」とはどのような考え方なのか?。 「AISAS」とは、マーケティングプロセスにおける以下の消費者行動を示す言葉の頭文字をとったものです。 「A」ttention(注意が喚起され・・・) 「I」nterest(興味が生まれ・・・) 「S」earch(検索し・・・) 「A」ction(購買し・・・) 「S」hare(情報を共有する) 「AIDMA」理論と決定的に異なることは、購入に至る過程での商品に対する吟味や考えることが記憶(Memory)させる機会を捉えず、インターネットを利用した行動を重視して、検索(Search)や情報共有(Share)を購入の決め手としていることです。つまり、インターネット時代を反映した消費者行動を前提とする考え方なのです。 また、「AIDMA」理論では、“注意→興味→欲求→記憶→行動”と、段階的な行動プロセスを示しているのに対して、「AISAS」理論では、“注意→興味”というプロセスは同様でも、その先のプロセスは、一定の法則がありません。つまり、興味を持ったら、次に検索する場合もあるし、その情報を直ぐに共有する行為を行うこともあるし、また、直ぐに購入してしまうこともある、と考えられています。 検索(Search)においては、最近のTVコマーシャルの大半は、CMの最後に特定のウェブサイトを検索してもらえるように検索キーワードを表示しています。“詳しくはウェブで・・・”というコマーシャルメッセージが違和感なく聞けるのもインターネットが普及していることの裏返しなのでしょう。最近では、この検索ワード自体が高値で取引されている、という話しを聞くほどです。スポーツイベントなどでも、チケット販売の詳細を専用のウェブサイトで閲覧してもらえるような導き方をしている広告表現が当たり前になっています。更に、そのウェブサイトには、チケットを販売しているチケットエージェンシーのウェブサイトへの導入の仕掛けもされており、消費者は数回のクリックをするだけでチケットの購入画面にたどりつけるようになっています。記憶する間もなく、感覚的な発想だけで購入直前のポジションにまで導き出せているのです。 情報共有(Share)においては、ブログやメールなどにより、消費者個々の判断で、瞬時に情報は拡散されています。先に述べたように、その内容はマイナス要因もあり、リスクも多いのです。予測もしない誹謗中傷に見舞われることがあるかもしれません。そのために、イベントの現場などでは、観客に対して、イベントの感動や経験をより良いものとして発信してもらうための仕掛けを、イベント会場で行っているケースも出てきました。以前にご紹介した東京ディズニーリゾートにオープンした「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」でも、観客に対して、リピーターを呼び込む仕掛けとして配布物などに工夫を凝らしています。イベント主催者は、「AISAS」理論の上では、イベントが終わったら観客は帰るだけ、という考えが、場合によっては大きなリスクを負うことになる、ということを意識すべきでしょう。如何に観客サービスが重要か、そして観戦環境の整備が重要か、ということも、戦略や戦術として考えられなければ、次のお客を呼び込むことすら出来なくなる可能性も導き出してしまうのです。 eコマース、つまりインターネットを通じた商取引や知的活動が当たり前の時代になり、マーケティングやコミュニケーション活動に対する考え方や理論も大きく変化している中で、イベントという目に見えない価値を売っているイベントビジネスの現場でも、より科学的で緻密な戦略や戦術に対する要求は、ますます高くなる気がしています。
posted by umekichihouse |08:02 |
イベントオペレーション |
コメント(0) |
トラックバック(0)


