2008年11月20日
ホームアドバンテージとアジアを勝ち抜くための機会
ホームアドバンテージ。アメリカのプロスポーツでは、本拠地で戦う時の試合会場は、ほとんどがホームチームの応援で埋まります。しかも、国土が広いアメリカでは、敵地へ乗り込んで試合をする場合、かなりの移動距離を強いられ、コンディショニングという点においても、ホームで戦う場合の方が有利とされます。これは、国境を越えてヨーロッパ全域でリーグ戦を構成しているヨーロッパのプロスポーツにも当てはまるかもしれません。事実、ホームスタジアムやホームアリーナでの応援風景は、ホームチームに対する声援やコールの嵐になっている光景をテレビでもよく目にします。敵の良いプレーには激しいブーイングが起こり、得点シーンなどにはシーンと静まり返る、などは当たり前。こうした試合会場の雰囲気が、選手たちのモチベーションや精神的なプレッシャーに影響を及ぼさないはずがありません。長い時間の移動による肉体的な疲労もあるかもしれませんが、プレー中のちょっとした精神的な動揺など、気持ちの面におけるプレッシャーを与えるということでは、ホームアドバンテージは、少なからずの影響はありそうです。 ホームアドバンテージに関する学術的な研究は、特にアメリカにおいては研究事例があるらしいのですが、日本ではほとんどないそうです。ウェブで検索してみると、古いものかもしれませんが、大阪大学の釘原氏による、日米のプロ野球での比較結果が紹介されていました。 ◇日本のホームアドバンテージの程度はアメリカのそれに比べて低い。特にシリーズの差が大である。 ◇移動距離や地域がホームアドバンテージに影響することはない。 ◇アメリカのみ観衆効果が見出された。 ◇米では新本拠地移動直後からホームアドバンテージが見られたが、日本では5年近く要した。 ◇裏攻撃はホームアドバンテージに影響する要因ではなかった。 移動距離やホームの地域環境が影響しないことは意外でしたが、観衆効果、つまり、ファンの応援から受ける心理的影響なのだと思いますが、精神面での効果は、アメリカのプロスポーツのように、まさにホームタウン化しているファンの熱烈さがあれば、やはり高まるのでしょう。プロスポーツにおいて、このホームアドバンテージの効果がファンの動向によって左右されるものだとしたら、やはり、ファンの存在は、ホームチームとしての貴重な財産になるのですね。日本でも、少しづつ研究が進めば、地域によっては、おもしろい現象が分かるかもしれません。 さて、プロスポーツの世界でも、ホームで確実に勝ち点を獲得していくことや勝利を得ていくことは、リーグ戦を戦い抜く上で重要な戦略になることは言うまでもありませんが、日本代表という国を代表して世界の舞台を目指している選手たちには、ホームアドバンテージはどの程度の影響力があるのでしょうか?。 先のバンクーバー五輪予選で、女子アイスホッケーは、決勝で惜しくも敗れ、五輪へのキップを逃してしまいました。まさに、ほんの一歩手前まで捉えていたチャンスでした。決勝で日本を破ったのは、この五輪最終予選大会の開催国である中国。世界ランキングは、日本が9位。中国は8位。ほぼ同格です。ナショナルチームで戦う選手たちには、リーグで戦う時との違いを、国を代表しているというプレッシャー、という表現を用いてよく話します。ホームアドバンテージが代表をも勝たせる力に本当になっているのか?。今回の女子アイスホッケーでは、紙一重の差のところで活かされたのかもしれません。逆に、初のアジア制覇を成し遂げた女子バスケットボールのU-18代表。決勝の相手はこれも中国でしたが、接戦を見事に勝ち抜いています。男子同様に中国女子も、近年はアジアチャンピオンの座を不動のものにしているだけに、次の世代の選手たちが、アジアの強敵を破ったのは本当に価値ある勝利でした。しかも、戦いの舞台はインドネシア。完璧なアウェイではなかったものの、中国移民も多い国での勝利は、最近ではなかなか巡り会うことはなかったので、嬉しい限りです。若い世代には、アウェイでのプレッシャーなんか関係ないのでしょうか?。 日本人選手は、精神的なプレッシャーに弱い、と昔からよく言われます。特に、ここ一番という時に本来持つ力を発揮できないらしい。過去にも、そんな悔しい場面がいくつもあったようにも思います。バレーボールは、オリンピックを除けば、ほとんどのFIVB、国際バレーボール連盟主催の主要な大会は、ほとんどが日本で開催されています。特に印象に残るのは、先の北京五輪最終予選での男子バレーによる北京出場決定シーンでしょう。1998年、2006年の世界選手権、そして2010年には女子だけですが、連続して日本で世界選手権が開催されることになっています。五輪最終予選も、アテネの時に引き続き行われており、試合順が常に最終試合であり、日本を盛り上げる演出の過激さは、もう慣れましたが、凄いものがあります。どこが本当の優勝国なのかすら分からなくなるほどです。TBSやフジテレビによるテレビマネーは、FIVBの年間予算の6割を賄っていると聞いたことがありますが、あれほどの国際大会の開催頻度を見ると、それも間違いではないように思えてきます。しかし、バレーボール日本代表にとっては、絶好のホームアドバンテージの環境ですよね。単なる華試合ではなく、キチンとタイトルが掛かった世界に繋がる大会が、毎年のように日本で開催されることは、他のボールゲームの関係者が見ていたら羨ましいの一言かもしれません。それほどに、日本でのバレーボールの国際大会の会場は、日本ありきの運営です。 バスケットボールでも、見事にホームアドバンテージを活かして、力以上の奇跡を起こした試合がありました。アテネ五輪出場を決定した女子バスケットボールのアジア選手権大会でのことです。2003年6月に予定されていた大会は、当時アジア全域で猛威をふるっていたSARSの影響で、2004年1月に延期され、会場は延期前と同じ仙台市体育館で行われました。冬の寒い時期、しかも仙台の風は冷たく、期間中に大雪になったこともあったほどでした。日本チームは、予選ラウンドで4位。チャイニーズタイペイにも後れを取る結果となり、準決勝は予選トップの韓国と戦うことになります。3位でもキップは取れることにはなっていましたが、予選で負けているチャイニーズタイペイとの戦いに期待するわけにいきません。この大会の運営に携わっていた私が、試合前のコート整備を確認していたところ、「私の娘はどこにいるでしょうか?」、と聞いてきた女性の方がいらっしゃいました。ふっ、と見て、話を聞いてみると、その方は、日本代表のエースガード、楠田選手のお母さんでした。しかし、ウォームアップしている選手の中には見当たりません。そして、チームのスタッフに聞いたところ、なんと、ホテルで休んでいる、とのこと。連戦の疲れが出たのか、ダウンしていたのです。冬のアリーナ内は空調のため、想像以上に乾燥しています。そのために風邪をひくケースも選手の中にさえ多々あり、楠田選手もそうだったのかもしれません。 勝利に遠のいている韓国戦、そして司令塔の不在。多くの応援団が会場を埋め尽くしてくれましたが、不安は暗雲のように会場の中をただよっていたようにさえ思えました。日本をオリンピックに送り出すための、アジア予選の日本開催ですから、我々運営の裏方にも、大会の開催趣旨はキチンと理解されていました。大会の中での作為的なエコヒイキをするわけではありません。あくまでも、日本が戦いやすい環境を、できる範囲の中で全力でやる、ということです。朝一番から練習をする日本チームのために、早出をしていたスタッフもいました。暖房が効かない中でのコート整備を黙々とやっていたスタッフもいました。そして、日本チームは、すべての試合で同じロッカールームが割り当てられました。何でもないことでも、ストレスを感じさせないで試合に望める体制をサポートすることだけが、我々にできることだったのです。 結果は、再延長戦の末、見事に勝利。2位でアテネに乗り込むことになりました。試合が終わった後、コートの周辺は収拾がつかない騒ぎになり、ベンチエリアをガードしているフェンスが倒れるのを必死で押さえていたことだけは覚えています。残念なのは、ほとんどの人たちは、ここで大会が終わってしまっていたこと。次の日の決勝なんかは吹っ飛んでいましたね。せっかくのホームアドバンテージを200%活かせたチャンスだったのにもかかわらず、それを中国戦まで持続できなかったことを、いまでも悔やみます。その一戦の影響は、北京へのキップを逃したことに繋がっている気がしてなりません。ホームアドバンテージは、自然に生まれてくるものではなく、ファン、観客、そして運営に関るすべてのスタッフが一体となって選手たちのパフォーマンスを押し上げていくことだと思います。見えない力なんですね。そのことを、この時の仙台で勉強しました。そして、ホームアドバンテージは、選手たちも活かす意識が必要なんだと思いました。恐ろしいほどの集中力を発揮した韓国戦の力を持ってすれば、中国にももっと堂々と戦えたと、いまでも確信しています。2位で満足していた気持ちが、どこかで出てしまっていた精神的な弱さは、日本人だから判る気もしますが・・・。 誤審問題に揺れ、再試合の開催に至ったハンドボール。その原因となったアジア選手権は、日本で開催されています。愛知県豊田市にあるスカイホール豊田が試合会場でした。完成して間もない素晴らしい施設で、国際大会の運営には、恐らく日本でベスト5に入るものだと私は思っています。そこで行われた男子ハンドボールアジア選手権大会は、試合運営そのものをコントロールされ、本来発揮できたはずのホームアドバンテージ効果は無力に終わってしまいました。最も公平であるはずの競技の中核が、アドバンテージ以前の障害になってしまったのです。しかし、1月に行われた再試合の会場は、一部の赤い軍団を除けば、ブルー一色に染まり、まさにホームコートになりました。敗れたのは、現場で見ていて感じただけですが、あまりの応援に選手たちが力みすぎたのか、逆にプレッシャーになってしまったのか、非常に固くなってしまい、ミスが多くなってしまったのが原因のように思いました。堅実で、常に実力通りの力を発揮する韓国に、ホームアドバンテージの見えない力も、及ばなかったようです。 最近、世界レベルの大きな大会をスペインが積極的に招致しようとしているのを目にします。会場施設が建設され、また整備され、何か国策的な勢いを感じます。2010年に男子バスケットボール世界選手権を行うトルコもそうです。日本の経済力やまあまあの施設環境を見ると、もっと頻繁に世界レベルの大会が日本で行われるように期待せざるを得ません。単なる興行という意味合いではなく、ホームアドバンテージの効果を醸成して、日本代表を世界の舞台へ送り出すための戦いの舞台を、ぜひ数多く待ち望みたいと思います。もちろん、アジアレベルの大会も同様です。バスケットボールは、中東勢の台頭により、中国、韓国、そして日本で頻繁に開催されていたアジア選手権レベルの大会が、中東などへ開催機会が移っているように感じます。オイルマネーによる施設環境の整備や、スポーツの強化策に起因するものだとおもいますが、一方で、中東の有力国によるスポーツ競技の政治的支配力も強固になってきているようにも感じます。ハンドボールも然りです。バスケットボールやハンドボールなど、バレーボールのようにテレビマネーの後ろ盾が期待できないスポーツ競技では、とにかく、アジア、そして世界の舞台で戦う日本代表の姿を、ファンの前で見せていくことも、大きなマーケティングチャンスになるでしょう。そして、そこにファンによってホームアドバンテージの力が最大限になるように力を注げば、逃し続けていたチャンスも広がるかもしれません。結果を出したバレーボールが、どんな経緯にしろ、それを実証しているのだと思います。
posted by umekichihouse |07:17 |
イベントオペレーション |
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ホームアドバンテージとアジアを勝ち抜くための機会
>東京発仙台行 様
仙台市体育館での興奮の中にいたのですね。
確かに、あの試合の雰囲気は、凄かったですね。
選手たちの気迫も伝わってきましたし・・・。
徳島では、ご指摘の通り、いろいろありました。
会場作りに関しては、過去にない苦労がありましたが、
詳しくは、後日、取り上げたいと思います。
(想像を絶する制約がある中での苦渋の決断もありました)
選手たちはもちろん頑張っていたと思いますが、
関係者を含めた会場の中の雰囲気がいまひとつ盛り上がらなかったのは、
確かにその通りかもしれません。
お話しできないこともいろいろありましたが、
徳島での結果を見れば、それがすべてでしょう。
私も疲れ切った思い出しかありません。
posted by 管理人 | 2008-11-27 06:20
ホームアドバンテージとアジアを勝ち抜くための機会
文中の「仙台の奇跡」
観客としてホームアドバンテージ作りに参加してました。
予選リーグでは配布されなかったスティックバルーンと
市販モノの赤メガホンを持って、ついつい我を忘れて
叫びまくっていました。
リーグ戦同様、どうしても観客の大半は大会運営に近い人、先週の家族や知人、そして協会から招待された?小中学生などと、一致団結してホームアドバンテージを作り出すのは難しい構成となっていた気がしましたが、
実際には(後に確認した)テレビ中継では伝わりきらないほどのボルテージでしたね。
まさに観客・スタッフ・その他全ての人々が作り出した「見えない力」が選手たちに力を与えたと思ってます。
逆に残念だったのは徳島でした。
地元の人にとっては、阿波踊りの方が重要らしい、との
声が聞こえてきましたが、実際そのように感じました。
日本に勝ってほしい、という思いが仙台に比べて
遥かに少なかった気がします。
もし今さんがこちらの運営にも携わっていたとしたら、
大変申し訳ないことですが、
特に自力での決勝トーナメント進出が消えた韓国戦後の大会関係者たちからは、悔しさや絶望感などといったものはまるで感じられませんでした。
もう少し書かせてもらいますが、会場作りの点においても疑問を抱きました。
メディア席・選手席・大会関係者席が必要なのはわかりますが、3000人規模の会場でバックスタンド側全てをそれに充当してしまうのはいかがなものかと思いました。
TVカメラはそのバックスタンド側に設置されてましたので、メインスタンドから応援している我々観客は、満員に見えたかもしれませんが、
逆に我々から見れば、コートの反対側はガラガラで、
数百人分用意された席にポツンポツンと数人の関係者がふんぞり返って見ている状態では、
とてもじゃありませんが、会場一体となっての後押しなど
出来るはずもありませんでした。
来年の世界選手権アジア予選の、東アジア地区予選を
日本で開催しようと協会は動いているみたいですね。
日本のどこで行われるのか知りませんが、本当の意味でプロフェッショナルな方々に運営していただきたいものです。
posted by 東京発仙台行 | 2008-11-26 23:19


