2008年11月13日

国策としてのスポーツ強化とソフト不足という視点

11月の初め、東京都北区西が丘にある国立スポーツ科学センターで、日本水泳連盟主催の小学生を対象とした合宿が開催されました。参加したのは、5年と6年の約30名。8年後、12年後のオリンピックでのメダリスト候補発掘の意図なのかどうかは分かりませんが、当日は、北島選手や中村礼子選手なども駆けつけ、模範の泳ぎを見せていたようです。この国立スポーツ科学センター(JISS)は、日本のスポーツにおける国際競技力の向上を目的としたスポーツ医学、スポーツ科学、そしてスポーツ情報の中枢機関として、2001年に開所しました。中には、プールや体育館はもちろんのこと、人工的な水流を起こして抵抗などを測定する設備など、スポーツ競技力向上を目的としたあらゆる実験、研究のための設備が満載です。診療やリハビリの設備もあり、トレーニング施設のほか、トップアスリートのサポート体制も万全です。日本でのドーピング対策の総本山、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)もこの中にあります。研究施設という点では、JISSは、まさに日本のスポーツ研究の中枢機関なのです。

そして、今年1月、JISSに併設する形で、日本で初の総合トレーニング施設が開所しました。ナショナルトレーニングセンター(NTC)です。プールやトレーニングルームはもちろんのこと、バレーボール、バドミントン、ハンドボール、バスケットボール、柔道、卓球、ボクシング、レスリング、ウェイトリフティングの9競技の専用競技施設も完備しています。つまり、世界に挑むトップアスリートたち、そして次の世代の世界挑戦者たちが、日常的に、いつでも本格的な競技環境の中でトレーニングできる施設が常設されているのです。また、約250名が宿泊可能なアスリートビレッジも併設されており、寄宿タイプではないものの、各チームが合宿を行う時に、あれこれその都度の手配をせずに可能にできます。今回の北京五輪直前にも、オリンピック参加選手やチームが合宿練習をしている様子が報道されていましたので、その存在は認知されつつあるのではないでしょうか?。NTCの管理運営は、先のJISSを管理運営している独立行政法人日本スポーツ振興センター(NAASH)が行っていますが、NTCに関しては、その主体的運営は、JOC、日本オリンピック委員会が行っています。NTCは、その利用者が、JOCの強化指定選手か各中央競技団体の推薦を受けた選手に限定されていますので、その点から、各競技団体との調整という意味合いもあり、JOCが運営しているものと思います。

しかし、JISSは研究機関としての機能があるので、技術やノウハウのある必要な人材は適切に配置されていますが、NTCは、施設運営という点を除けば、基本的には“ハコ”です。9競技の選手たちがトレーニングする上でも、選任のコーチやトレーナーなどのスタッフは、各競技団体による手配となります。トップアスリートは専任コーチがいますが、次の世代を担う若いアスリートたちの育成や強化という側面では、各競技団体がNTC以外の施設を全国で利用しながら行っている強化策の場合と何ら変わりありません。つまり、NTCは単なる“ハコ”なのです。専任で、一貫したコーチング制度の必要性が、北京五輪直後にも報道などで問われていましたが、その意味では、ソフトのないハード志向の日本のスポーツ政策の欠点が垣間見れる気がします。日本のスポーツ強化にとって、いま一番必要なのは、アスリートを育てるソフト、つまりコーチングにあると思うので、その点では、NTCがどんなに立派な施設であっても、4年後はもちろん、8年、12年後に向けての対策は、何も進まないような気がするのです。

このJISS及び、NTCのモデルになったと言われているのが、オーストラリアのAISです。オーストラリア・スポーツ研究所。名前はJISSと同じニュアンスですが、ここには、海外などから招聘された専任コーチが約80名以上、スタッフも200名以上が働いています。そして、それらコーチやスタッフにより、26もの競技で35のプログラムが運営されていると言います。つまり、AISは、単なるトレーニング施設という性格ではなく、現在、そして未来のスポーツ選手の育成・強化機関なのです。ただし、韓国や中国、かつての東欧共産諸国のように、一部のエリートアスリートやその卵たちをピンポイントで強化するためのものだけではありません。上部組織であり、政府組織のスポーツ観光省のひとつの部門であるオーストラリア・スポーツ・コミッション、ASCは、子供たちの肥満解消から体力の向上、そしてアフタースクールコミュニティの活動まで、AISを中核として、スポーツを利用した幅広い子供たちの育成活動にも着手しています。広大の敷地にある施設の素晴らしさもさることながら、それを活用するソフトの素晴らしさにこそ、AISに世界が注目する理由があるのですね。

ちなみに、日本サッカーのライバルである男女オーストラリア代表メンバーたちも、AISから数多く輩出されています。特に、女子サッカーは、このAISが強化の中核になっているということです。また、あのイアン・ソープ選手も、AISで育てられた選手の一人です。AISを管轄するASCの年間予算は、約200億円。しかも、この予算は、4年サイクルで計画されているということで、長期的な計画が構築できる政策も取れているようです。日本でのスポーツ強化に関する予算は、年間で40億円程度と報道されていましたが、その5倍の予算規模、ということです。

この11月7日に、JISS及びNTC、そして霞ヶ丘や代々木などの国立競技場を管理運営する日本スポーツ振興センターは、これら施設の管理運営に関する一般競争入札に関する概要を発表しました。競技場運営に関しては指定管理者制度が浸透し、より利便性の高い施設運営を実現するためにも非常に前向きな試みだと思いますが、JISSやNTCに関しては、ハードとしての運営はともかく、育成・強化という視点でのソフトの充実を先に論議すべきであるように思います。「スポーツ立国ニッポン」の具現化は、まず、こうしたことから始めないと・・・・・。

posted by umekichihouse |05:40 | イベントオペレーション | コメント(1) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL: (表示は許可制となっています)
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/umekichihouse/tb_ping/115
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
国策としてのスポーツ強化とソフト不足という視点

コメント投稿者ID :

素晴らしい施設や、幼少時から専門の指導を受けたり、潤沢な資金を投入したり。。
もはやスポーツは莫大な金をつぎ込まないとなりたたないのでしょうか?
近所で野球やサッカーができる広場もないのに億単位の予算がどこかで使われているのはびっくりです。
この流れ、なんとかならないものでしょうか。

posted by スポーツは好きだけど・・ | 2008-11-13 09:27

コメントする

「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。

※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
  例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
  例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」