2008年11月08日
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その4 ~欧州バスケットボール事情④
1990年に旧ソ連から独立した人口僅か360万人余りの小国、リトアニア共和国。首都のヴィリニュスが最大の都市ですが、それでも75万人足らずというこの国が、バスケットボール界では大きな勢力として君臨しています。1988年のソウル五輪でソ連が優勝したメンバーは、サルナス・マーシャロニス、アルビダス・サボニスなど、その当時からリトアニア出身選手が中心だったことからも、歴史的にバスケットボールが盛んな地域だったことが覗えます。1996年の世界選手権まで、世界のバスケットボールで負けを知らぬアメリカに、初めて敗北を味あわせたソ連、そしてユーゴスラビアは、既に地図の上からは国境線が消えていますが、数多くの名選手たちを輩出してきた伝統は生きており、いま、新たな国として歴史を作り始めたセルビアも、リトアニアと同様に、ヨーロッパでは見逃せない存在になりつつあります。セルビアの名は、旧セルビア・モンテネグロという国名で、バスケットボールファンならずともスポーツの強豪国として知られていると思いますが、その国も分離独立したいま、新たな世界挑戦を始めつつあります。現在、国際バスケットボール連盟、FIBAによる世界ランキングは、セルビアが5位。リトアニアは6位ですが、セルビアの5位は、旧セルビア・モンテネグロのポイントを引き継いでいるものと思われますので、本当の真価はこれから問われていくのでしょう。 この、かつて世界の頂点にあった2つの強国から独立し、いままた世界のバスケットボール界で力を誇示しているリトアニアとセルビアに今回はフォーカスし、若手の育成システムがどのように行われているのかを検証してみたいと思います。セルビアの人口は、リトアニアの2.5倍程度ありますが、それでも1,000万人には満たない規模です。彼らとタイトルを争う他の欧州各国の強豪は、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス、ロシアなど、何れも大国ですが、これらの国々以上の成績を維持し続けている、リトアニアやセルビアの選手強化、育成の秘密は何処にあるのでしょうか?。 リトアニアは、北京五輪で、惜しくもアルゼンチンに破れ4位に終わり、シドニー五輪以来のオリンピックでのメダルは逃しましたが、2000年以降の欧州選手権では常に上位に入り、世界への舞台は、ほぼ指定席となりつつあります。日本で行われた世界選手権でも、最終的に7位と不本意な成績に終わりましたが、注目すべきは、20歳以下の世代が、着実に欧州のトップクラスにいることです。FIBAヨーロッパがユース世代の強化として2003年から毎年開催しているU-16、U-18、U-20の各欧州選手権では、今年は、U-16で見事に優勝しているほか、U-18とU-20で何れも準優勝を勝ち取っています。ちなみに、U-18の覇者はギリシャ、そしてU-20はセルビアです。トップチームがオリンピックで4位となり、その下の世代は既に欧州のトップにいることを考えると、来年のU-19世界選手権、そしてユーロバスケットと呼ばれる2年に一度の欧州選手権での躍進は、かなり確率の高い話であるように思われます。頂点に上り詰めたスペインは世代交代の時期でもあり、また、そのことはドイツやギリシャなど、他の国にも言えることであり、今後のヨーロッパでの注目一番のチームとして、リトアニアが浮上するかもしれません。 そうしたリトアニアの、バスケットボールの育成や強化を支えているのは、数多くのスクールにあるようです。国内の主要な都市の中には、私営や公営のスクールが点在しており、特に有名なスクールというのが、実は、先に名前をご紹介した、かつてのNBAのオールスタープレイヤーでもある、マーシャロニスとサボニスのスクールであるということです。彼らがスクールを開設したのは、独立直後からとされていますが、その時はまだ現役バリバリの頃。彼らの若い世代の子供たちを指導する環境を作り出そうという信念は、彼らがリトアニアという地で生まれたからなのかもしれません。決して裕福ではない国だった過去の歴史の中で、スタープレイヤーとしての地位を手にした彼らは、国の子供たちに新しい夢を与えたかったのかもしれませんね。1992年には、彼らは7歳から18歳の年代の子供たちを対象としたプログラムを開始します。現在では、生徒は約800人以上もいるそうです。彼らは、スクールにいる10人以上のコーチたちに、7歳から18歳までの間、一貫して同じコーチの指導を受けています。これがスクールの特徴でもあり、個々の才能を伸ばしていける環境でもあります。また、ここでは、バスケットボールの指導を受けるだけではなく、社会に出てから役に立つためのライフスキルや英語なども学んでいるそうです。もちろん、学校へも通っており、練習は、登校前の時間と放課後に行われます。7歳では、週に1回。10歳では4回。12歳では5回と、年齢を重ねるごとに練習頻度も多くなり、密度も濃くなります。以前にご紹介したスペインのニューヒーロー、リッキー・ルビオは14歳でプロ契約していますが、リトアニアでは18歳までプロ契約しないということです。じっくりと学び、その先の飛躍に結び付けていくためのシステムが確立している、ということなのでしょう。それがスクールの存在の重要度を増しているのかもしれません。18歳以降は、国内リーグのプロチームと契約する選手もいるようですが、ほとんどはアメリカの大学に進学するということです。今年U-18欧州選手権で準優勝したチームのエースで2m12cmのセンター、Donatas Motiejunas選手や、190cmのポイントガード、Augustas Pciukevicius選手は、どこへ進むのか、今後注目してみたいものです。ちなみに、Motiejunas選手は、準優勝でありながら大会MVPに選ばれています。また、2006年に日本で行われた世界選手権に出場したリトアニアチームの6人が、マーシャロニスまたはサボニスのスクール出身ということからしても、この2つのスクールのプログラムは、素晴らしいものだということが覗えます。ただし、月の授業料が約45ドルということで、これはリトアニアでの平均的な月収の1/10程度のものだということ。日本の塾での授業料よりは安そうですが、結構しっかりしたビジネスにもなっているのですね。もちろん、優秀な選手には、授業料免除や割引もあり、また、家庭環境に恵まれない子供たちにも特別な措置があるようですので、お金のためだけではないことは言うまでもありませんが・・・。 一方で、2006年に独立したセルビアはどのような環境にあるのでしょうか。 旧ユーゴスラビア時代から、セルビア地区からは数多くの代表選手を輩出してきました。NBAで活躍した、また現在も活躍している選手も多数います。キャブスのパブロビッチ、ホーネッツのストヤコビッチ、そして、2002年からNBAで活躍し、今年はグリズリーズに移籍したヤリッチなど、リトアニアが旧ソ連のバスケットボールチームの中心にいたのと同じく、セルビアも旧ユーゴ、旧セルビア・モンテネグロの中心選手を常に輩出していたのです。 このセルビアでは、リトアニアのスクールとは違い、800以上もあるユースチームが、若い選手たちの育成を支えているようです。現在14チームある国内リーグの各チームにもユースチームはありますが、それ以外にも、ユースチーム単独で活動している組織が多数あるようです。優秀な選手を生み出してきた歴史が、そうした組織を生み出しやすい環境を作り出してきたのかもしれません。ユーロリーグに進出しているセルビア・リーグのトップクラブであるパルチザンにも、ユースチームがあります。年齢を見ると、下は15歳から、上は19歳。19名の選手が登録されています。もちろん、専任のコーチングスタッフ、チームスタッフがついていることは言うまでもありません。彼らは、リトアニアでの育成環境と、どのように違う環境にいるのか。それは、スクールが支えているリトアニアと、ユースチームというクラブが支えているセルビア、ということからも明解です。つまり、セルビアでは、育成した選手を、サッカーなどと同様に、どんどんプロチームに売り込むのです。言い方は悪いですが、有望な選手を高い契約金で売り込むことになり、それで得た収益を次の世代の育成に投資していく、というシステムがセルビアの現状らしいです。日本から考えると何か空しいことなのかもしれませんが、育てて、しかもビジネスになり、それがクラブの育成システムを支えている、ということは、セルビアが過去に輩出してきた有名な選手たちを見ても、成功してきている、と言えるのでしょう。ただし、空しいことだけではありません。若い選手を育成する、ということは、そこには優秀な指導者、つまりコーチがいなければなりません。実は、セルビアは、優秀なコーチを生み出すシステムを持ち、各国リーグのトップチームのユース世代のコーチを、セルビア出身のコーチが務めていることも珍しいことではないそうです。ちなみに、ユーロリーグチャンピオンのCSKAモスクワのジュニアチームのコーチもセルビア人だということです。 セルビアの首都、ベオグラードには、コーチ専用のトレーニングセンターがあり、セルビアのコーチ協会には約1,500人ものコーチが登録しているそうです。人口約900万人のセルビアで、1,500人という数のバスケットボールコーチがいる、という事実は凄いことだと思います。だからこそ、厳しい競争もあるのでしょう。セルビアでは、どのレベルのコーチでも、セルビアのバスケットボール界の中でさまざまな活動や仕事をして、予備ライセンスをもらいます。そして、少なくとも2ヶ月以上の間は、週に何回かの講習を受けていきます。より高いレベルのコーチライセンスを得ようとすると、2年間トレーニングセンターに通わなければならないそうです。もはや、日本の短大並みのレベルですね。ユースチームが数多くある、という事実の裏には、しっかりとした指導者の育成システムもあったのですね。だからこそ、ユースチームも数多く生まれる土壌も出来るわけです。 ヨーロッパのバスケットボールが世界から注目されている中で、ジュニア、ユース世代の育成でも、いまやアメリカ以上の取組みが進んでいるように思えます。そして、それぞれのバスケットボールの歴史を背景にして、さまざまな取組みがあるのもヨーロッパらしいと考えます。逆に、それがヨーロッパ勢の躍進を支えているのかもしれません。アメリカでは、一部のバスケットボール関係者から、ヨーロッパから若手選手がぞくぞく生まれている現状を鑑みて、アメリカでのユース世代の選手の育成方法を改善する考えが示されている、と聞いています。具体的な内容までは表面化していないようですが、オリンピックの頂点は取り戻したものの、次の世代、そのまた次の世代、と考えていくと、ヨーロッパの底の深さが非常に強く感じられ、魅力あるものに映ってきます。 最後に、日本で始動し始めたナショナルトレーニングセンター(NTC)のモデルのひとつにもなったというフランス国立スポーツ研究所(INSEP)を取り上げたいと思います。国家の機関としてのスポーツの取組みは、オーストラリアのAISが有名ですが、1976年のモントリオール五輪でのメダルゼロに始まるオーストラリアの取組みより、その約20年の前の、いまから半世紀近く前より競技強化を行ってきたINSEPは、歴史もさることながら、ノウハウ的な面でも突出しているらしい。そして、INSEPは、フランス・スポーツ省の管轄にあることで、いま日本でも取り上げられつつある国策としてのスポーツ強化を推進している、というわけです。日本のNTCとの最大の違いは、NTCは寄宿制の選手養成機関ではなく、どちらかというと代表クラスの競技団体主体の強化施設、という面です。つまり、INSEPは寄宿制で、フランス国中から有望選手が集められている養成機関としての性格があるようです。事実、誰にでもINSEPに入れるチャンスはあるわけではなく、入れない選手たちは、国内5地区にあるSport-EtudesというところでINSEPを目指してトレーニングすることになるそうです。バスケットボールで言うならば、NBAの中で、海外選手として初めてNBAファイナルのMVPを獲得したトニー・パーカーがこのINSEPの出身で、15歳で入り、INSEPのチームでプレーした後、国内リーグのプロチームと17歳でプロ契約しています。2006年の世界選手権で、フランスは5位に入っていますが、北京五輪への出場権を逃すなど、最近は成果がいまひとつかも・・・?。
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posted by umekichihouse |06:17 |
バスケットボール |
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「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その4 ~欧州バスケットボール事情④
コメント投稿者ID :
NBA選手が増えているという意味では、フランスもそこそこの成果ではないですか?欧州の予選突破は難しいはずですし
posted by goman2.0 | 2008-11-08 22:33
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その4 ~欧州バスケットボール事情④
コメント投稿者ID :
>。1996年の世界選手権まで、世界のバスケットボールで負けを知らぬアメリカに、初めて敗北を味あわせたソ連
これ間違ってない?
>ヨーロッパのバスケットボールが世界から注目されている中で、ジュニア、ユース世代の育成でも、いまやアメリカ以上の取組みが進んでいるように思えます
アメリカのジュニア~ユース世代は部活が中心ですから単純比較できないし、どちらが上とも言えないでしょ?
それと、この書き方だと、まるでシニアではアメリカより欧州のほうが上みたいな言い方ですね?w
日本もアメリカと同じで部活中心ですが、それよりも欧州のような地域クラブでスポーツを学ぶスタイルのほうが良いってことを言いたいんですか?
どちらがいいかは別にして、文化が違うので無理じゃない?
posted by コービー牛 | 2008-11-08 07:58
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