2008年11月07日
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その3 ~欧州バスケットボール事情③
ヨーロッパでのバスケットボールの普及に寄与したひとつの要因は、NBAによる欧州市場戦略にあったと思います。それは、1987年に、NBAとFIBA、国際バスケットボール連盟との共催で始まった“マクドナルド・オープン”という大会の開催から始まります。しかし、第1回目の1987年の大会は、開催地はアメリカのミルウォーキー。NBAからは地元のミルウォーキー・バックスが参加し、ヨーロッパからは、ソ連ナショナルチームとイタリアのクラブチーム、Tracer Milanoが参加しました。恐らく、最初からヨーロッパで開催するには諸々の事情があったようです。本格的なヨーロッパでの開催は、第2回の1988年からです。開催地は、スペインのマドリッド。ボストン・セルティックスがスペインに乗り込み、地元の強豪クラブ、レアル・マドリッド、ユーゴスラビアナショナルチームなどと対戦しました。第3回目以降は、ローマ、バルセロナ、パリと開催地を変えていき、ヨーロッパ各地で、このNBAプロモーションイベントとも言える大会が開催されていきます。1992年は開催されず、1993年以降、隔年開催となりますが、これは、日本でNBA公式戦の開催による影響によるものです。NBAのスタッフは、ヨーロッパでマクドナルド・チャンピオンシップを運営し、その足で日本での公式戦開催を行うという過酷なスケジュールをこなしていたため、準備や交渉面においても、非常に辛い日程を強いられていたのです。そして、“マクドナルド・オープン”は、“マクドナルド・チャンピオンシップ”と名を変えて、1989年からはNBAチームも含めて、ヨーロッパ各リーグの強豪クラブが参加するクラブ選手権の体制を整えました。本格的に、真のチャンピオンを決する大会と言えるようになるのは、1995年のロンドンで開催された第7回大会からです。NBAチャンピオンが参加することになったのです。その最初のチームは、オラジュワン、ドレクスラーなどを擁するヒューストン・ロケッツ。6チームによる戦いは、ロケッツがイタリアのボローニャを126-112で退け、第1回から続くNBAの地位を守りました。1997年、パリで行われた第8回大会には、ついにマイケル・ジョーダン率いる黄金期のシカゴ・ブルズがヨーロッパの地に登場。決勝では、ギリシャの強豪でヨーロッパチャンピオンの座についていたオリンピアコスと対戦。ジョーダンの55得点などにより、104-78で圧勝しています。1999年、イタリア・ミラノで開催された第9回大会では、デビット・ロビンソン、ティム・ダンカンのツインタワー率いるサンアントニオ・スパーズがNBAチャンピオンとして登場。決勝では、ブラジルのサッカーでも有名なバスコ・ダ・ガマを35点差の大差で破り、NBAチャンピオンとしての面目を保ちました。ちなみに、1995年にもオーストラリアからパース・ワイルドキャッツというチームが参加していますが、全6チームの中には、ヨーロッパ以外の国のリーグからも参戦するケースもあったようです。 こうして、NBAチャンピオンの参加によって、また、ヨーロッパ以外のクラブの参加もあり、いよいよ世界的なクラブ選手権の構想も浮上していたようですが、2001年は開催されることはありませんでした。FIBAは、2001年の4月に、“World Championship for Clubs”という構想を発表し、ドイツで10月に開催する目論見だったようですが、その年の7月には、マクドナルドのスポンサーからの撤退という事態を受けて、NBAとFIBA双方の合意により、新しい構想はキャンセルされることになったのです。2000年から、ユーロリーグがFIBAの管理下から脱退し、2001年には早速に混乱収束に向けた協議が行われ始めていたことを考えると、“World Championship for Clubs”の構想断念という結果も含めて、FIBA内部のクラブ政策に関する混乱が、スポンサー撤退以上に引き金になったように、私には思えてなりません。 逆に、ユーロリーグがULEBの下で本格的な始動を始め、今日の成功のもたらした大きな要因が、NBAのヨーロッパ進出であり、“マクドナルド・チャンピオンシップ”の開催であったのは間違いないでしょう。そして、NBAは、アメリカ代表の世界大会で敗北し続けた苦渋の時間を挟んで、2006年には再び、ヨーロッパでの新しい戦略を開始することになります。欧州勢がナショナルチームで世界を席巻する姿に呼応するかのように、優れたプレイヤーを輩出し続けるヨーロッパ各国のクラブチームの姿を背景に据えて、NBAが、ヨーロッパでのプレシーズンゲーム開催と供に、各クラブチームとのエキジビションマッチも組み込んだ“NBA Europe Live Tour”です。 2006年の大会は、フランスのヴィルウーバンヌ、スペインのバルセロナ、イタリアのローマ、フランスのパリの4都市で、NBA3チームと地元クラブなどが、まずは対戦しました。NBAからは、スパーズ、76ers、サンズが参加。しかし、76ersは、不覚にもヨーロッパトップクラスの強豪であるFCバルセロナに敗北を喫します。NBAチームがヨーロッパのクラブに敗退したのは、1988年のソ連ナショナルチームを含めると、これが6度目。国際大会でのナショナルチームだけではなく、クラブ毎の力も均衡してきていることが覗えます。同じ日程で、モスクワでは、ロシアの2つのクラブと、LAクリッパーズがゲームを行っています。そこで、これもヨーロッパトップのクラブであるCSKAモスクワにクリッパーズは不覚を喫します。7度目の敗戦です。しかもその差は19点。完敗といえる結果でした。また、76ersとサンズは、ドイツのケルンで行われたトーナメント戦に参加しています。CSKAモスクワと、かつて4度(1978、1984では2回、2005の計4回)、NBAチームを破っているイスラエルのクラブ、マッカビ・テル・アビブ、そしてNBA2チームの4チームによるトーナメント戦です。最終戦で、76ersは、CSKAモスクワに勝ち、面目を保ち、サンズも過去にNBAチームに苦汁を舐めさせてきたマッカビ・テル・アビブを破りました。しかし、21世紀に入り、代表レベルだけでなく、クラブレベルでも、NBAには安泰という言葉は既になくなってきたようです。 2007年は、トルコのイスタンブール、イタリアのローマ、イギリスのロンドン、そしてスペインのマラガとマドリッドの5都市で、計7ゲーム行われました。そして、ここでもヨーロッパクラブによるNBAチーム敗北の記録は更新されることになります。NBAからは、当時、ケビン・ガーネット擁するミネソタ・ティンバーウルブズ、ボストン・セルティックス、トロント・ラプターズ、メンフィス・グリズリーズの4チームが参加。セルティックスはヨーロッパクラブとの対戦はありませんでしたが、ラプターズがレアル・マドリッドに、グリズリーズは、スペインのユニカジャ・マガラに、それぞれ接戦の末敗れたのです。計9度目の敗戦となります。ちなみに、この時ラフターズでプレーしていた2人の選手は、以前イタリアのベネトンのクラブでプレーしていた経歴があり、このとこからも、ヨーロッパの選手層の厚さは、NBAのチームにも大きく影響してきたことが覗えます。 2008年は、NBAの各チームからも、本当の意味でのプレシーズンゲームとしての機会を失いたくない、という希望があったことで、NBAチームのみの対戦となりました。参加したのは、ニュージャージー・ネッツ、マイアミ・ヒート、ワシントン・ウィザーズ、ニューオリンズ・ホーネッツの4チームで、パリ、ロンドン、ベルリン、バルセロナの4都市で計4ゲームが行われました。ヨーロッパクラブの参加がなかったのは残念ですが、各国のリーグも開幕直前、もしくは開幕していたこともあり、また、有力クラブはユーロリーグも開幕するために、敢えて参加を避けたのでしょうか?。この辺の事情は詳しくは分かりませんが、来年はぜひ、2007年までのスタイルで開催して欲しいものです。 このように、1980年代に始まったNBAの欧州戦略は、バスケットボールやNBAの人気の拡大だけでなく、ヨーロッパ全体のプロリーグ、クラブ、そしてプレイヤーたちを活気付かせ、20年後には、ヨーロッパ勢が、またそこでプレーする各国のプレイヤーたちが、NBAプレイヤー以上に世界を凌駕させるまでになりました。現在、NBAプレイヤーの約20%は外国籍選手だと言われています。その中の大半のプレイヤーたちは、ヨーロッパ各国のクラブで磨き、そして活躍してNBAプレイヤーとしての地位を獲得しています。彼らの力を伸ばしている環境は、前回も述べたように、各国のリーグ、そしてヨーロッパ全域で凌ぎを削るユーロリーグを始めとする広域リーグでの過酷な戦いの連続が作り上げているように思います。このような環境と、狭い島国の中でリーグを展開している日本の現状を照らし合わせると、日常的に常に競争にさらされているヨーロッパでの競技環境の厳しさが、全く違う次元に思えてくるのは私だけでしょうか?。 日本のライバルである中国も、2007年にはヨーロッパの強豪クラブを招待して、“CBA Euroleague Challenge”という大会を開催しています(CBAとは中国バスケットボール協会の意)。ここに参加した中国とは、ナショナルチームのトップチームです。翌年に北京五輪を控えていたことから強化策の一環という目的もあったのでしょうが、クラブチームとの対戦を組み込んでいることに興味を惹かれました。中国代表は、もちろんヤオ・ミンを始め、オリンピック出場候補が17名登録され、代表メンバーの選考という観点もあったものと見られます。中国に対したのは、移籍前のギリシャのエースであるパパルーカスもいたCSKAモスクワ、イタリアの強豪クラブのベネトン、そしてオーストラリアの強豪クラブ、シドニー・キングスの3チームです。中国代表は、ユーロリーグへの出場が途絶えているベネトンには辛くも勝利したものの、CSKAモスクワに敗れ、シドニー・キングスとは引き分け、という結果に終わりましたが、この結果を見るだけでも、アジアでの絶対的な地位を確保している中国でさえ、力の差を見せ付けられるほど各国クラブの実力は非常に高いのであることが分かります。中国がこのような試みを継続していくのかどうかは不明ですが、以前はアメリカへの遠征を繰り返して強化策を推進してきた中国にも、ヨーロッパとの戦いを見据えた戦略の必要性が強まってきたものと推測します。ちなみに、中国代表はNIKEに支援されていますが、CSKAモスクワもNIKEのサポートを受けていたり、ユーロカップやユーロチャレンジのスポンサーとしてもNIKEが付いていることから、NIKEが仕掛けた大会であったのかもしれない、と勝手に憶測してみたりするのは邪道ですね。 さて、今季のプレシーズンには、ヨーロッパの強豪クラブが、アメリカへ遠征に行き、そこでNBAチームとのプレシーズンマッチを行うケースが見られるようになりました。NBAが世界戦略を展開するパターンと全く逆で、ヨーロッパの強豪クラブが、NBAチームを相手にチーム強化を行うためにアメリカに乗り込んできた、ということなのでしょうか?。ほんの数年前までは考えられなかったことです。アメリカに乗り込んだのは、CSKAモスクワ、FCバルセロナ、そしてリトアニアのBCリェトゥボス・リータスなどです。それぞれ1~2戦のスケジュールだったようですが、FCバルセロナは、ロサンゼルスでクリッパーズ、レイカーズと対戦。かなりの接戦を演じていたようです。FCバルセロナには、ヨーロッパに復帰したナバーロなどNBA級のスター選手がいるので、ひょっとしたら興行的な企画として呼んだのかもしれませんが、時代は確実に変わってきていることは間違いありません。このことを踏まえると、FIBAの長年の構想である世界クラブ選手権の実現も、そう遠くはないのかもしれません。 NBAが世界戦略に動き出し、ヨーロッパでの本格的な活動を開始して20年以上が経過しますが、その中で、確実にヨーロッパでのバスケットボール市場が拡大してきていることは間違いなく、それどころか、世界のバスケットボール界の注目は、いまやアメリカではなく、ヨーロッパに注がれてきているようにも感じます。サッカーを土台としたクラブ組織の充実が、その動きを支え、そして発展させていることも事実で、単なるプロ、という存在だけではなく、地域や国も巻き込んだクラブ組織の存在そのものが、欧州バスケットボールの底辺であるように思います。
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posted by umekichihouse |06:07 |
バスケットボール |
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「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その3 ~欧州バスケットボール事情③
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http://d.hatena.ne.jp/gomanjp/20080406
ACLの開催、中国・韓国・NBLリーグとのアライアンスが急務ですね
posted by goman2.0 | 2008-11-08 22:39
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その3 ~欧州バスケットボール事情③
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NBAのチームがヨーロッパのクラブに数回負けたことを取り上げて色々書いてますが
所詮は親善試合で、しかも勝率はNBAチームが圧倒してますよね?
それでNBAプレーヤー以上に世界を凌駕させるまでになった?、なんでやねんw
そんなこと言ったらサッカーで欧州のビッグクラブが日本に遠征に来て、Jのクラブと引き分けたり、負けたりしてますけど
それで日本のクラブが世界レベルとか言わないでしょ?
posted by コービー牛 | 2008-11-08 08:21
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その3 ~欧州バスケットボール事情③
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バスケットを愛する者として、ヨーロッパのクラブチームの組織戦略は前から気になっていました。同様の意見です。
日本も日本リーグとbjリーグなどと、ただでさえバスケ人気が少ない中で、二つのリーグが混在するなど、意味不明なことをせずに一つのプロリーグとして早く整備してほしいです。Jリーグが出来る前の日本リーグの状況に似てるのではないか、と感じますね。 Jリーグのクラブチームの中にバスケットボールのクラブ部門を作って組織化し、若年世代から育成してトップのプロを目指すというクラブチームの方向が良いのではないか、と思っていました。
今の現状のままでは、何年経ってもオリンピックにも出られず、小中学生などせっかく競技人口が多い子供が、目指すべきプロチームと呼べるような魅力あるチームもないままバスケ自体が下降していくのが悲しいですね。
権力争いばかりしてる、アホな日本バスケット協会には昔から愛想がつきてますが、日本のバスケットを本気で強くして魅力あるプロリーグを作ろうという、川渕キャプテンのようなある種、統率力を持った人が現れるのを待つしか道はないんですかね。
出来ることから始める、か。。
posted by ebizou | 2008-11-07 23:36
「欧州の現状、そして日本バスケットボールの行く末」その3 ~欧州バスケットボール事情③
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揚げ足をとるつもりはありませんが、
>スペインのユニカジャ・マガラに
これはウニカハ(マラガ)と現地では呼ばれています。
と言いますかクラブの名前はウニカハです。
posted by マラガからです | 2008-11-07 17:26
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