2008年10月29日
「総合型地域スポーツクラブの育成と将来」その1 ~クラブ育成の現状検証
1993年のJリーグ創設以降の、全国各地でのサッカークラブ創設の動きもそうでしたが、最近の、プロバスケットボールの独立リーグ、bjリーグへの新規加入を目指す各地区のチーム創設の動向の多さは、現状の日本のスポーツの置かれている環境を、雄弁に物語るもののひとつであるように思っています。大都市集中型で企業スポーツチーム中心のスポーツリーグ隆盛の時代から、各地方の都市や地域に根ざしたプロスポーツチームの創設、そして、野球では、地方のエリア毎に独立リーグが複数誕生する時代になりつつある中で、一般の人たちがスポーツを楽しむ機会の創出や子供たちのスポーツを通じた育成や教育、そしてスポーツそのものの普及という活動も、その動きは、いまでは各地方都市や地域から生まれてくるようになっています。 一方で、産業や経済の停滞、人口の大都市圏への流出などにより、大都市と地方都市の格差は広がっていく中で、地方行政は、その財政状況をますます悪化させている傾向にあります。当然のことながら、スポーツは、施設の新規建設が停滞し、現状の施設の改善も進まず、施設利用者からの収入もその運営費すら賄うことができない悪循環の中に置かれ、もはや行政に依存するスポーツの振興策は、年を重ねる毎に停滞してきているようにも見えます。オリンピックでメダルを獲得した選手たちも、自分たちの育ってきた地元の練習環境がなくなっていく様を見て、悲観に駆られるコメントを多く残しています。 こうした中で、地域の住民たちが、自らが運営し、自らが運営資金を調達しながら育てていこうとするスポーツクラブ組織が全国に広がりつつあります。総合型地域スポーツクラブです。スポーツ振興法に基づいて、長期的・総合的な視点から国が目指す21世紀のスポーツ振興の基本的方向を示すために、2000年に文部科学省によって策定された「スポーツ振興基本計画」の具体的な施策によって、いまその育成が進められているのです。 計画期間としている10年、つまり2010年までに、全国の市町村に少なくともひとつは総合型地域スポーツクラブを育成しようとするこの事業は、2008年7月までで、全国1,046市町村に、2,768ものクラブを創設させるまでになっています。育成率は、57.8%。まだ半分強といったところですが、2010年で100%達成は無理としても、その根は着実に伸びているように見て取れます。 総合型地域スポーツクラブとは、具体的にはどのようなものなのか?。 さまざまな資料や、一部のクラブの活動状況をWEB上で確認すると、一言で「多様性」に富んだ組織である、ということが言えます。まず、“総合型”という言葉の裏側にある3つの多様性です。一つ目は、クラブで活動する対象が、特定の年齢や世代に限られることがないこと。つまり、年齢や世代に関係なく、多様な人たちがクラブの活動の主役になっている、またはなれる、ということです。二つ目は、実際の活動で対象とされるスポーツも、その種目に何ら制限はなく、参加したいあらゆるスポーツ種目を体験し、または取り組んでいける、ということです。三つ目は、スポーツに参加する人たちの技術的なレベルも、初心者からトップアスリートまで、参加する条件に一切の制限がない、ということ。つまり、さまざまなスポーツの技術レベルに応じた参加方法や活動システムが備えられる、ということです。三つ目に関しては、クラブ組織の規模や中・長期でのクラブ運営の方針に関わるでしょうから、最初からあらゆる運営システムを備えていくことは無理でしょうが、理念としては、制限を設けない、というポリシーを置いている、ということなのだと思います。また、この3点だけを見ると、非常に内輪だけの活動のみを考えた組織のように思えますが、総合型地域スポーツクラブの最大の特徴は、“公益”を目指した経営意識を有する非営利的な組織である、という点です。つまり、地域社会に開かれた組織でなければ成り立ちません。特に、自主財源による運営を前提としていますので、公営性のある開かれた組織でなければ、運営資金となる会員からの会費収入や、事業企画による事業収入は得られません。行政の補助だけに頼る閉鎖的な組織では決してないのです。経営という観点があることで、非常にビジネスライクな組織運営を求められることも、単なる仲良しクラブ的な私益を前提としたクラブでないことを示しています。 このことは、総合的地域スポーツクラブの設立パターンを検証することでも分かります。代表的な設立例を取り上げてみると、以下のようになります。 ◇スポーツイベントの成功を契機として、参加した住民が中心になり生まれてクラブ ◇学校開放の運営組織が核となり生まれてクラブ ◇学校の運動部活動と地域との連携から生まれてクラブ ◇スポーツ少年団が核となり生まれてクラブ ◇既存の地域スポーツクラブの種目を核として多種目的に発展したクラブ ◇既存の地域スポーツクラブが連合して生まれたクラブ ◇公共スポーツ施設の有効活用を図る観点からスタートしたクラブ ◇既存の地域スポーツ振興組織の見直しや再構築を目指して生まれたクラブ ◇地域のスポーツ教室参加者が集まって生まれたクラブ ◇大学の人的資源や物的資源を活用して生まれたクラブ ◇企業チームを母体に地域のスポーツクラブに移行したクラブ などなど・・・。 大学にある“資源”を活用して誕生したクラブとしては、早稲田大学が所沢キャンパスを中心に展開している早稲田クラブ2000という組織が、以前、報道でも取り上げられています。なんと1,200名以上もの会員がいて、13種目のスポーツの活動を行っているとのことです。大学は、単なる教育機関としての性格だけではなく、企業や産業界との連携、そして、社会貢献活動においても重要な役割を担うようになってきています。プロスポーツチームではないですが、地域密着という観点でも、校舎を構えている地元地域との連携や共同事業など、大学はその中心的な役割を求められるようになってきているのです。早稲田クラブ2000の正式名称は、所沢市西地区総合型地域スポーツクラブで、2000年5月に誕生しました。早稲田大学所沢キャンパスや周辺の公共スポーツ施設などの有効活用や、大学の人的資源などをうまく地域住民のスポーツ活動に役立てていくための組織として、幅広く活動しているようです。首都圏の各大学は、都市中心部から郊外への校舎移転が進み、ベットタウンの中に大学校舎がそびえ立つ姿をよく目にしますが、学生のための大学という観点から、地域でのスポーツや文化の活動や交流の場として変革していくことが、ある意味で今後の大学のあり方として求められることなのかもしれません。 企業スポーツとの関わりという点から見てみると、パナソニックの企業チームと地元の総合型地域スポーツクラブとの連携で、将来の日本代表選手を地元から育てよう、という画期的な取り組みもあります。総合型地域スポーツクラブの枚方キングフィッシャーズスポーツクラブと、バレーボールVプレミアリーグの強豪、パナソニックパンサーズとの共催によりパンサーズジュニアバレーボールチームが2006年に誕生したのです。日本のトップリーグのチームにある指導ノウハウや、所属選手やコーチの協力で、未来のトップ選手を育てようとするこの試みは、普及や育成という観点を超えたスポーツ強化に至る範疇まで、総合型地域スポーツクラブはその可能性を見出せることを実証しています。従来は、企業スポーツチームの存在とは、企業の広報や宣伝という側面ばかりに目が行きがちでしたが、先の大学と同じように、企業の社会貢献がスポーツにも活かせることを、地域のスポーツクラブがあるお蔭で具体化できたのだと思います。 一方で、公共スポーツ施設の有効活用を図る観点からスタートしたクラブは、意外に多いのではないでしょうか?。施設の維持管理や運営費に、毎年数千万円から大規模な施設になると何億円もの費用が税金から支出されている中で、指定管理者制度の導入により、施設の運営手法の見直しや収益性を高めるなどの努力が進められているようですが、根本的には、施設の利用率をどのように上げていくかが最大の課題となっています。総合型地域スポーツクラブは、会員からの会費収入やスポーツ教室やスクールの展開による事業収入によって、その自主財源を確保しながら運営することを基本としていますから、公共のスポーツ施設を活動拠点として活動することにより、施設の稼働率も上がり、収益も向上していきます。公共のスポーツ施設は、施設の運営に関して、単なる維持管理という性格が強い体制にあるように見られますので、クラブの活動拠点となることによって、運営という側面からソフト面でのノウハウ蓄積にも一役買うことになっていくのかもしれません。詳細は調査していませんが、クラブが指定管理者となって、直接施設の運営に関るケースも出てくることも望ましいことだと思います。 今年7月現在の総合型地域スポーツクラブは、全国の1,810市町村の内、育成率は57.8%であることは前述しましたが、その数値が、既に100%に達している県もあります。富山県と兵庫県です。富山県は、市町村数が15と、全国的にも少ない部類ですが、兵庫県は41です。しかも、兵庫県のクラブ数は、831にも拡大しています。NPO法人としての法人格取得はまだ進んでいないようですが、全国の37%もの数のクラブが活動しているという実績は、賞賛に値する思います。富山県に関しては、クラブ数は56ですが、NPO法人となっているクラブが18例あり、先に述べた施設の指定管理者になっているケースが、その中の12例もあります。東京のNPO法人数が20ですから、如何に組織の基盤作りが進んでいるかが伺えます。各都道府県は、それぞれの地域の特色により総合型地域スポーツクラブの育成を進めているようです。以下は、育成率の高い都道府県のランキングです。 (順位/都道府県名/育成率/市町村数/設立済クラブ数/法人格取得クラブ数) 1.富山県/100%/15/56/18 1.兵庫県/100%/41/831/2 3.秋田県/92.0%/25/24/2 4.鳥取県/84.2%/19/21/5 5.徳島県/83.3%/24/22/1 5.大分県/83.3%/18/21/2 7.長崎県/82.6%/23/17/2 尚、育成率の低い都道府県は、以下の通りです。 1.奈良県/35.9%/39/14/3 2.長野県/38.3%/81/29/4 3.宮城県/41.7%/36/25/9 ただし、上記は市町村数によって差が出ますので、単なる指標であり、評価の対象とされるものではありません。
posted by umekichihouse |05:34 |
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