2007年10月11日
「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
1954年。 日本シリーズに出場したのは中日ドラゴンズと西鉄ライオンズ(現在の西武ですね)でした。 当時巨人の監督を追われ、「都落ち」して九州へ向かったのが、 魔術師の呼び名で名高い三原脩監督です。 強打の二番打者豊田泰光、「怪童」中西太、青バットの大下弘、 同年自己最高の27本塁打を放った関口清治、 同じく同年に21の犠打を決めた河野昭修、 バッティングの巧い高倉照幸、 ルーキーながら投手からセカンドに転向し成功した仰木彬など、 強打で知られるチームであり、56年~58年、 ことごとく日本シリーズで巨人を撃破し(その時には鉄腕、稲尾和久も入団)、 三年連続日本一を達成した歴史的強豪の原型でした。
その若い西鉄打線でもっぱら噂になっていたのが、 魔球を投げると言う中日のエース杉下茂。 当時はビデオのない時代ですから目にした事はなく、 「遠征で一緒になった広島の選手にどぎゃんボールね、と聞く程度の情報。 シリーズが近づくにつれ妄想に近い物が頭に広がっていった」(豊田) のだとか。日本シリーズ、第一戦で、杉下はいきなり今久留主淳、 豊田、中西と三者三振に切ってとります。 「ぐらぐら揺れながら落ちた」(中西) と言うのが、魔球フォークボールでした。 彼にフォークを教えたのが当時明治大学監督であった天知俊一氏 (その後中日の技術顧問に招聘され当54年では中日監督)。 その天知氏は大リーガーであった全日本チームの捕手として1922年に来日した 大リーグチームのハーブ・ペノック投手から伝授されていたと言うことで、 当時杉下さん以外にフォークを投げる投手はおらず、その後活躍した 日本人フォークボール投手の大半を杉下さんが直接伝授したと言うのですから、 文字通り彼が日本におけるフォークの元祖であり神様と言えそうです。 結局日本シリーズのこの試合、西鉄打線から日本記録となる12奪三振。一失点完投勝利という内容だったのですが、実は杉下投手は二回り以降は 全くフォークボールを投げなかったそうです。 「いつフォークが来るか、そればかり気になってバッティングにならなかった」(豊田) 彼が一試合で投げるフォークボールは5~6球のみだったとか。 その理由は「勝負所で好打者に対してのみ投げるから」なのだそうです。 ウィニングショットを見せ球として使い、その刷り込みを利用しつつ他の球で抑える。 まさにピッチングの極意と言えるでしょう。 (余談ですが、この日本記録を塗り替えたのが、99年ダイエーの工藤公康投手。 そして、2007年日ハムのダルビッシュ投手の13個。 奇しくも二つとも相手は中日ドラゴンズでした。 中日はこの杉下投手が大活躍した54年以降日本一が無かったのですが、 2007年に悲願の日本一達成。 山井投手・岩瀬投手の完全試合リレーのおまけつきでありました) その魔球、フォークボールは後に多くの選手に伝わり、村山実、村田兆治、 山本和行、米田哲也などがフォークをウィニングショットに活躍しました。 時を経て90年代になると、フォークを武器とする投手は更に増加し、 フォーク全盛時代となるようになりました。 90年代のフォークの代表格と言えば野茂英雄、佐々木主浩の2人に尽きるでしょう。 フォークと言われて真っ先に思いつくのが、杉下さん、村田さん、そして この野茂投手と佐々木投手ではないでしょうか。 独特のピッチングフォームと、ストレートとフォークボールの組み立てで新人から 三年連続最多勝を挙げ、その後に海を渡り、日本人にはメジャーリーガーの夢を、 アメリカ人には日本人選手の可能性を見いださせてくれた、野茂英雄投手。 ごく簡単にキャリアを紹介すると、一年目に最多勝、最優秀防御率、 最多奪三振、沢村賞、新人王、MVP。 日本での五年間の勝利数は、18,17,18,17,8の計78勝。前人未踏の四年連続の最多勝、 最多奪三振を果たし、五年目は右肩痛で最多勝と最多奪三振の記録はストップ、 そのオフに任意引退扱いでドジャースへ。 今でこそメジャーのパイオニアとして讃えられている野茂のメジャー挑戦ですが、 野茂投手のメジャー入りに対して肯定的な意見は少なかったように思います。 日本人にとってメジャーと言う物が馴染みの薄いものであり、未知数という 事もありますが、それまでの経緯のゴタゴタの印象もあったかと思われます。 彼が一年目から数多くの三振を奪い、新人王を獲った時、アメリカのファン 以上に私たち日本人ファンが意外に感じ、また脅威を感じたのではないでしょうか。 以下はメジャー以降の野茂投手の所属チーム。 1990~1994 近鉄バファローズ 1995~1998.6 ロサンゼルス・ドジャース 1998.6~1998.9 ニューヨーク・メッツ 1999 ミルウォーキー・ブルワーズ 2000 デトロイト・タイガース 2001 ボストン・レッドソックス 2002~2004 ロサンゼルス・ドジャース 2005~2005.7 タンパベイ・デビルレイズ(マイナー契約・後にメジャー昇格) 2005.7 ニューヨーク・ヤンキース(マイナー契約) 2006.3~2006.6 シカゴ・ホワイトソックス(マイナー契約) 2007 所属無し 振り返ってみると、私が思っていた以上に野茂投手は数多くの球団を渡り 歩いていました。最近では、野茂投手がベネズエラリーグに参加、と言う嬉しい ニュースも入ってきてくれました。間違いなく日本を代表する投手でありながら、 彼自身は全くその素振りも見せず、自分のやりたいことを貫き通しているような 印象を受ける投手です。伊良部秀輝投手なども、同じ印象を受けたりします。 これは偏見と言えるかも知れませんが、フォークボーラーには、頑固な投手が 多いように思います。一本気で、良くも悪くも人の意見に耳を貸さず、 自分の信念を貫くと言った。 ところで、近鉄時代の野茂投手を評して、落合博満氏がこんな事を言っています。 「フォークボールばかり投げる、ジジ臭い投手」 あくまでストレートとフォークのスタイルを貫き、堂々と打者に向かう姿勢を 感じる野茂に対してジジ臭い投手、と言う評価ほど野茂投手に当てはまらない 言葉はないんじゃないかと思いますが、これは落合さんから見て若い癖にストレート以上に 変化球に頼る投手と言うイメージを持っていたからに違いないでしょう。 落合さんの評価は、フォークの神様と言われた杉下さんがそのフォークは 見せ球に使った事と対照的になっていて興味深いです。 ところで、全ての球種に言える事ですが、そもそも一口にフォークと言っても、 杉下さんの投げたフォークと現代で認識されているフォークではズレが 生じているようです。 以下は杉下さんの言葉です。 「フォークは、ボールの放し方がポイントだ。僕は、直球と同じボールの放し方をするが、 手首の使い方で、ボールが2本の指の間からうしろへ抜ける抜け方に違いが出る。 うまく抜けたボールは、まったく回転がない。回転がないから風圧によって、 横に揺れたり、縦に揺れたりする。 直球は回転があるので、ボールの後方に流線形の空気の流れができるため直線的に進むが、 フォークは、回転がないから空気の流れがない。つまり、ボールの抜け方によって変化する。 また、自分はもともとストレートが速かったので、フォークを有効に使えたと思う」 このことから、杉下さんのフォークに対する解釈はナックルの特性に近い物と 言えると思います。現代のほとんどの投手の投げるフォークに対しては、 SFFと言う解釈をされているそうです。斉藤和巳投手などは、もっと浅い握りから 140km/h以上の変化率の少ないフォークも投げており、打者を打たせてとるための よりSFF型のフォークと言えるでしょう。また上原浩治投手は左投手で言うところの スクリューのような、シュート気味のフォークを投げたりもします。 従来ナックルタイプのフォークを投げていた(あるいは、いる)のは、 村田兆治氏や中日の金剛弘樹投手などごく僅かなのだとか。 現代では更にスライダーやチェンジアップなど、多くの変化球を身につけた上で フォークも投げる投手、と言うパターンも多くなっていると思います。 ただいずれにせよ、ウイニングショットとして放たれるフォークをバッターが 空振りするのは、気持ちよいものです。あの、野茂投手が大リーガー相手に三振の山を築き、 ファンが「K」を次々に貼りだしていった心地よさは忘れられません。 カーブだろうとスライダーだろうと、決め球として使われる変化球はその投手にとって 特別なボールであるはずです。それでも、「魂でもって投げる」とまで 表現できるような変化球は、フォークしか持ち得ないのではないか、と思ったりします。 私がこう思うのは、村田さんの投手としての生き様や、野茂投手の近鉄や メジャーでの奮闘をフォークという球に重ね合わせてしまうからでしょう。 代表的なフォークの投手と併せて「無骨」と言う言葉が似合いそうな球、 どこか「サムライ」の匂いのするボール、それが私にとってのフォークの印象であり、 フォークボールに対して特別に思い入れのある理由になっていたりします。 フォークボール。あなたはどんな印象を持ち、どんな投手を思い描きますか?
posted by 智 |01:43 |
球種のはなし |
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Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
僕は上原のフォークが好きですね!フォームとかもリズミカルで好きです。
杉下さんのピッチングを見たことはありませんが、長嶋監督が「杉下さん?すごかったね~、フォークは良く落ちるし~、メガネはかけてるし~」と言ってたのを聞いて爆笑しました。
posted by GG | 2007-10-11 02:11
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
なんとなく、本当になんとなくですが
フォークを武器にした投手に対して私は
「直球も速い」というイメージを持ってしまいます。
野茂、佐々木両選手に関しても
晩年の最高球速は140がせいぜいですが
(野茂選手はたまに速くなりますが)
それでも145くらいのイメージを持ってしまいます。
posted by nanashi | 2007-10-11 02:50
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
目からうろこが落ちるとはこの事。すばらしいご教示ありがとうございます。
来年の藤川も壊れる前にぜひ杉下元祖フォークボールに続いてほしいものです。
それにしても佐々木のフォークもすごかったけど、野茂はもっともっと偉大だったかも。江夏が負け惜しみ的に大リーグから帰ってきていってけど、やっぱり手の大きさも関係するのでしょうね。野茂のフォークがあって、松坂も岡島もがんばれるのでしょう。メジャーは縦の変化に弱いと野村さんも野茂の成功を保証してましたよねえ。いやあ、ストレートが速いことが大事なのですね。藤川君貴方はぜひ元祖杉下にあやかってもらいたいものです。
posted by なんば花月 | 2007-10-11 03:20
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
日本のプロ野球でのフォークボールの話でしたら、大洋ホエールズの遠藤和彦投手を忘れないでくださ~い。すごいキレだったと思います。
posted by Taki | 2007-10-11 05:45
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
失礼、一彦です。
posted by Taki | 2007-10-11 05:45
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
藤川投手は今はまだ若いからフォークを余り投げない方が良いと思いますよ。
フォークやシュートなど手首や肘に負担が掛かる球を多投すると直球が衰えますから。藤川投手は野茂投手や佐々木投手のような球威で押す直球ではなく、バックスピンによる切れのある直球の質ですからより影響は大きい。因みに日本ハムのダルビッシュも今期、シンカーを封印しました。
フォーク多投は直球で勝負できなくなってからでも遅くはないですから、今は直球の切れに磨きをかけて欲しいです。
岡田はん、あんなに酷使したら潰れるで。使える先発、中継ぎを増やさなあかん。
posted by 使い過ぎや | 2007-10-11 13:54
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
「フォークボールばかり投げる、ジジ臭い投手」
懐かしいですね。この発言のあとのオールスターではたしか直球勝負でしたね。打たれたけど。
フォークと言えば渡辺久はどうでしょう。あ、別にドカベンプロ野球編を読んで言ってるわけじゃないですよ。
posted by ココ | 2007-10-11 19:29
Re:「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
フォークボール
現在どうしても気になるのがカープの永川投手です^^;
彼はやはりフォークを投げすぎor頼りすぎて直球を上手く使えてないというか。。フォークを上手く使えてないのか。。
やっぱり良いフォークを持っていても直球のスピードとコントロールが良くないといけないのかもしれませんね^^;
posted by たかしー | 2007-10-16 20:43
「フォークばかり投げるジジ臭い投手」
>GGさん
上原投手はもしかしたら私が見てきたフォーク
ピッチャーの中で一番好きな投手かも
知れません。非常に良い組立とテンポだなぁと
よく感じます。
>メガネもかけてるし~
私もそれ、聞いたことあります(笑
>nanashiさん
私も同じく「フォーク=速球派」と言うイメージですね^-^;
本当にこれはなんとなくなんですが 笑
>なんば花月さん
使い過ぎやさんも仰るとおり、藤川投手は
直球一本(と言っても彼の直球にも色々ありますが)
で勝負できる投手だと私も思います。
フォークやカーブなどもゆくゆくは覚えるでしょうし
幅も広げていくと思いますが、彼の直球勝負は
価値のあるものだと思いますよ。
できるだけ長く見たいと思っています。
>Takiさん
遠藤さんや牛島さんなど、書きたいピッチャーも
多くいたのですが非情に長くなる&雑然となった
為割愛してしまいました。すいません。
いや、すごいキレだったそうですね。
(↑リアルタイムで見たことない)
>使い過ぎやさん
藤川投手、久保田投手に関しては本人や監督も
そうですが、トレーナーの意見が一番だと
思っています。体の状態を見て、疲労が故障に
繋がらないのか、どうか。
登板数だけで監督批判に繋がるのは早急かも
知れないです。
>ココさん
おぉ、ブルースカイフォークですね!(違
水島先生ってアンダースローからフォークって
言うのが好きですよね。暴投連発しそう。
>たかしーさん
私はルーキー時代の永川投手を指して牛島さんが
「バランスが悪い」と指摘し、彼の長所を生かしつつ
修正するのが好ましいのではないかと
仰られたのを見て頷いた事があります。
以来永川投手に関してはバランス、と言う感じで
見ていたりしますね。
posted by 智(ブログ主) | 2007-11-09 02:24


