2008年10月24日

日本の男子テニスが世界に通用しない理由(4)

前3回では、テニスに特化して書いてきたが、いくつもの要因の中にはもう少し包括的に捉える必要があるファクターもあると考える。
純粋に日本で育ったプレーヤーがなかなか世界で活躍出来ないという結果になっていると考えられる要因について、今回は、そういったものを拾い上げてみようと思う。

日本のスポーツ環境

近年、体格に優れた東欧諸国の選手の活躍が目立つ男子テニス界だが、そんな中でも、伝統的に数々のTOPのプレーヤーを輩出してきた西欧諸国は、今でも非常に厚い選手層を持つ国が多い。
西欧諸国は、テニスのみならず、サッカー、自転車のロードレース、バスケット、バレーボール、ラグビーといった競技でも、TOPプレーヤーを多く出すなど、常に国際的なスポーツをリードしてきた。
国土こそ日本より広いものの人口は日本のより少ないこれらの国々で、何故これほどまでに、TOPアスリートが生まれるのか、ここを掘り下げてみる事で、逆に日本の男子テニスが世界で通用しない理由の一つを解き明かす事ができないだろうか。

西欧では、ジュニアがスポーツを始める場合、学校ではなく、地域のスポーツクラブで始める事が多い。
スポーツクラブには、小規模クラブから世界に名だたる巨大クラブまで、また、単一スポーツのものから、いろいろなスポーツが一つの場所で楽しめる総合スポーツクラブまで様々ではあるが、スポーツを楽しむだけでなく、そのどれもが地域住人に愛され、憩いの場ともなって定着している。
これらは、施設の所有は行政、(巨大クラブであれば自前の施設であるが、これも行政からの補助がある)運営はクラブ又は、行政・クラブ共同というのが一般的で、地域ぐるみかつ、官民一体となり地域のコミュニティーを形成し、ジュニアのスポーツへの足がかり的な役目として機能している。
運営費は地域住人(会員)の会費によって運営されているが、(巨大クラブになればテレビ放映料やグッズ販売益)スタッフに関してもボランティアや、地域の住人の副業等、協力を得ながら支えられている。
そして多くのスポーツクラブは、地域住人の誇りとなり、またスポーツの魅力を伝えると共に、各種スポーツのジュニア育成を担っていたり、世界(プロ)へ直結するルートを保有していたりもする。
この様に、西欧では行政も人民のスポーツ権をしっかりと認め、地域に根ざしたスポーツクラブを軸に、自然にスポーツに触れ、趣味としてスポーツを楽しんでいく人、地域のスポーツクラブを支える事に意義を見出す人、プロのアスリートを目指す人がうまく融合し、生活の中にスポーツが溶け込んだスタイルとなっている。
子供達は、ここでスポーツと触れ合い、スポーツを楽しむ事がらスタートし、自分にあった道を見つけ、更に自らの技術を磨き、競技レベルの向上を目指す場合には、専門的な指導を仰げるTOPクラブのカンテラであったり、各種アカデミーといった所へステップアップしていく事が出来る。
こういった背景が、数々のスポーツで才能ある多くのTOPアスリートを輩出する礎となっている事は、疑う余地がないだろう。

一方日本では、子供達は比較的どの地域でもクラブが存在しているサッカーや野球といったスポーツ以外となると、学校でスポーツを始める(クラブや部活動)事が多く、指導も必然的に教員が行うというのが一般的なスタイルとなる。
学校教育でのスポーツから社会人やプロのアスリートという図式は、決して悪い形ではなく、一部、それで成功を収めている競技も存在する。
しかし学校でのスポーツは、あくまでも教育が基本であり、技術や戦績よりも、スポーツを通しての人格形成、協調性、礼儀などに重きが置かれ、個人よりも団体が優先される傾向にある。
一人の卓越した素質があろうとも、そこだけに指導、資金を集中し、他を疎かにする事は許されない。
また、教員が指導者である事は、指導者のレベルの差に目を瞑らなければならない側面も有している。
必ずしもその競技の経験者が学校内の教員にいるとは限らないし、また、経験の有無以上に、その教員の情熱に差がある事の方が大きな問題となってくるからだ。
教員の立場からいえば、本来の職務とは別に付属的な活動であって、そこへ情熱をかけなければならない義務もなければ、本分である学業に力を注ぎたいと考える人がいてもなんら不思議ではない。
学校でのクラブ・部活動は無料で、所によっては非常に熱心な指導が受けられるというメリットもあるが、これにも格差がありすぎたり、学区の制約で自由に進路が選択できなかったりと、当たりはずれの要素が強い。
また、公共の施設であるにもかかわらず、学校のスポーツ施設(グラウンドやコート、体育館等)は、その学校の生徒専門の施設となり、殆どの場合、一般の人は使う事が出来ない。
さらにその学校の生徒といえども、いつでも自由に使えるわけではなく、監督者(教員)がいない場合は、空いていてもただ遊ばせておくスペースとなってしまう。
こういった事が、公共の施設数の割りに、地域住民に供給が行き届かない原因の一つともなっている。
日本でも近年では、西欧に習い、公共の総合スポーツセンターが、各地域に建設されてきたが、その数はスポーツ愛好家の需要に全く足りておらず、また行政の押し付け的な手法と地域住民の意向との乖離が甚だしいのが現状だ。
休日にスポーツを楽しもうと思っても、2ヶ月前に予約、それから抽選というような状況で、運良く当たったときだけ利用できるでは、とてもではないが一般の人が気軽に楽しめるような環境とは言いがたい。
それなら、民間のスポーツ施設を利用という事になるのだが、民間で施設の管理から運営まで行っていく事は容易ではなく、また税制面でもスポーツ施設は非常に苦境に立たされており、その数を年々減らしているのが実情だ。
更には、体を鍛えるならフィットネスクラブ、ゴルフならゴルフ練習場、テニスならテニスクラブと、それぞれ専門的かつ会員精度を有しており、全くの素人が利用するには敷居が高く、とりあえずそこへ行ってみようというような場所にはなっていないという面でも、日本では地域で気軽にスポーツに親しめる環境が整備されているとは言いがたい。
この民間のスポーツ施設の減少、スポーツ施設が地域のコミュニティーになりえていない現状は、地域によっては、自分のしたいスポーツが出来ないといった事に繋がり、そういった事で、若く才能あるジュニアが埋もれていってしまうケースも十分に考えられる。

ここまであえてスポーツという枠組みで書いてきたが、ことテニスに絞って考えてみても、上に書いたような事は決して例外とはいえない。
地域に根ざしたスポーツクラブの形態がうまく機能している西欧に比べ、日本ではテニスを始める敷居も高く、気軽に楽しめる場所も少ない。
更に、日本では、テニスの試合をテレビで見る事も叶わず(一部有料放送のみ)、TOPプレーヤーを間近に見る機会もほとんどないとなれば、子供達がテニスに夢を持つ事など殆どないのは、当然の成り行きであろう。
自然に子供達がテニスに触れ合っていく形が出来ていない上に、学校ではソフトテニスが中心である事、また子供達が夢を持つような環境整備が出来ていない事を踏まえると、日本の硬式テニスの底辺が世界に比べ脆弱であるのも無理からぬ事といえる。

また、スポーツクラブの運営以外においても、フランスやイギリスでは、政府の手によってスポーツマンの育成が図られており、テニス協会が国内テニスクラブを組織化し、トップ・プレーヤーの育成・支援を行っている。
更には4歳,5歳といった子供達に対しても「ミニテニス」と呼ばれるプログラムを用意して、自然にテニスに親しむことができる環境をサポートしたりしている。
これら全ては、行政からの一方的な押し付け制度ではなく、きちんと一般市民のスポーツ権に根ざした取り組みとして成功しているのに比べ、日本では、このような行政の取り組みがうまくいくケースは稀である。
これは、上記でも書いた日本の総合スポーツセンターのように、従来の形式や地域住民の声を無視した形で行政が形式だけを持ち込もうとした結果、うまくいかなかった顕著な例であり、取り組み自体はしているものの、全く結果に繋がらない悪いパターンといえるだろう。

ここまで日本のスポーツ環境に対し、否定的な意見を書いてきたが、全てが悪いわけでもなく、現状で一定の成功を収めている競技も少なくはない。
また西欧の仕組みをそのまま日本に持ち込もうとしても、風土も文化も違う国では、うまくいかない事を我々は十分に学んでもきたはずだ。
しかし、ことテニスにいたっては、現状のままでは、やはり西欧のシステムに一日の長があるのは否めない。
ここに、日本の男子テニスが世界で通用しない理由を全て押し付ける事はできないが、やはりTOPプレーヤーを生み出す土壌をしっかり整える事が、世界への最も近道であるようにも感じる。
これはこれで短絡的に、こうすれば全て解決というようなカンフル剤が存在する問題ではないのだが、少なくとも、民間スポーツ施設への補助や、税制の見直し、学校を含めた公共スポーツ施設の一般開放、そして地域ぐるみでのスポーツへの取り組みの推進に自治体が積極的に策を講ずる等、出来る事から少しづつ変えていくことが、明日につながっていくのではないだろうか。

日本の男子テニスが世界に通用しない理由(5)へ続く


※ここに書かれている事はあくまでも私見であり、必ずしも万人が納得するものとも思っておりません。
 ご意見は頂戴いたしますが、荒れると思われるようなコメントはお控え下さい。

posted by tenniscom |18:29 | テニス | コメント(2) | トラックバック(0)
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日本の男子テニスが世界に通用しない理由(4)

コメント投稿者ID :

おはようございます。
テニスとは直接関係ないのかも知れませんが欧米の公園やグラウンドなどは基本が芝ですよね?
当然のことながら芝の方が土のグラウンドよりクッションが効いているので何をするにも思い切ったことができるように思います。
硬くて滑りやすい土の上でしか遊んでいない日本の子供たちは自然とその体の中にリミッターを埋め込んでいるというのはうがち過ぎでしょうか?
最近ある場所で芝のグラウンドを作った小学校を見て日本でもそういう取り組みが出てきたことをうれしいと思うとともに自分たちが子供のころにあったらよかっただろうなぁと思ったしだいです。

posted by capa | 2008-10-25 10:10

日本の男子テニスが世界に通用しない理由(4)

コメント投稿者ID :

>capaさん
いつもコメントありがとうございます
芝の事は、直接的な原因ではなくても、capaさんの言われるとおり、何かしら副作用はあるかもしれませんね。
確かに日本では一部のコミュニティー施設などでないと、一面芝の広場などにおめにかかれず、そういった所では、子供たちが寝ながら転がったり、思い切り駆け回っていたりしますもんね。

話はとびますけど、私は中学生の時、サッカー部だったのですが、遊びでPK戦などをやっているときに、あの土のグランウンドの上でとびついて取る気になれませんでした。
だって、そこらじゅうすりむけて傷だらけになっちゃいますから。
でも、欧州ではサッカーを芝の上で出来る環境が多くキーパーが、小さい頃からダイビングするのに躊躇しないというような話を聞いた事があります。
そんなような事が、深層心理の中に働いていて動きに差がでるのかもしれませんね。

posted by Tennis-navi管理人 | 2008-10-26 13:12

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