フシ穴の眼 〜スポーツ編〜

覇王への前奏曲〜村田諒太よ!〝まさかの坂〟を登り切れ!②

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プロボクシングの魅力は、勝者と敗者のコントラストの鮮やかさです。

ビートたけしが語るように「勝者がロープに登って歓喜の雄叫びをあげている、その真下で血まみれになってキャンバスに転がされた敗者。こんなスポーツは他には無い」のです。

勝者と敗者のコントラストは、現実のリング上で起きる事象にとどまりません。勝者は敗者から強引に〝遺産相続〟までしてしまうのです。モハメド・アリはジョージ・フォアマンを倒すことで、文字通りのレガシーを強奪し、マニー・パッキャオはオスカー・デラホーヤを打ち負かして、そのレガシーを引き継ぎました。

「ボクシングで勝つということは、相手を踏みにじって上に行くこと。だから責任がともなう。これからは彼の分も戦う」(村田諒太)ことになるのです。

「私が喫した二つの黒星は、私のキャリアにとって深刻な挫折だったし、二つ目は私のキャリアを終わらせた。しかし、この二つの敗北こそが、私のキャリアの勲章だ」(ヘナロ・エルナンデス)。彼が40戦を数える戦績で、負けたのはデラホーヤとフロイド・メイウェザーJr.の2敗だけです。

ボクシングは「誰に勝ったか」が問われるスポーツですが、「誰に負けたのか」もまたコインの裏表なのです。ヘナロのボクシング人生は間違いなく幸せでした。

偉大な相手に負けることは、恥ずかしいことではなく、時間さえ経てば、敗者も納得出来る誇りに昇華します。寺尾新や千里馬哲虎がマニー・パッキャオを語るとき、それは誰の耳にも自慢話にしか聞こえません。

この残酷なスポーツにおける、勝者と敗者のコントラストは、それだけにとどまりません。誇りに昇華する敗北もあれば、そのボクサーにとって生涯の悪夢となる呪縛の1敗もあります。

サッカーや野球の世界での敗北は多くの場合、勝利によって帳消しになります。しかし、ボクシングにおける1敗は、ときとして取り返しがつきません。

ビッグイフですが、フォアマンがアリに負けていなければ、トーマス・ハーンズがシュガー・レイ・レナードとの初戦に勝利していたら、彼らのキャリア、評価、いいえその人生が全く違ったものになっていたでしょう。どんな勝利によっても、けして払拭できない、悪霊のような敗北に、彼らは一生付きまとわれるのです。

頂点を目指して対戦相手を踏みにじり続けてきたフォアマンやハーンズが喫した1敗が自慢話になることは、永遠にありません。けして癒えることがない生々しい宿痾として、いつまでも残るだけです。

【「隣の芝生は青い」のかもしれませんが、フジテレビよりもESPNの放送の方が、テレビ画面も解説もクールです。】

フォアマンやハーンズですら挫折した峻厳な獣道に足を踏み入れたのが、村田諒太です。彼はすでに1敗はしていますが、幸いなことにこの1敗は、取り返しのつかない悪霊ではありません。

He won the fight and got absolutely robbed. (ESPN:勝ったのは村田、彼は絶対的に勝利を盗まれた)というのが、この1敗の世界的な認識です。

しかし、村田がこの獣道を突き進み、アリやレナードのように頂上に辿り着けるのか、となると楽観的な見方が出来るボクシングファンはいないでしょう。

現在、リング誌で6位、ESPNで9位と着実に世界評価を上げています。「ガードの固さと、右の一撃は階級最高」と評価される一方で、「そのアゴは一度も試されていない。右につなげる左のリードパンチがどこまでのレベルにあるのかもまだ見えない」と未知数の不安を指摘されています。また「これからの対戦相手は、村田の右が最も効果的な距離を潰しにかかるのは間違いない」「クロスレンジでパンチの回転がもとめられるインファイトはおそらく苦手だろう」とも。

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覇王への前奏曲〜村田諒太よ!〝まさかの坂〟を登り切れ!②

soukoike様

お読みいただき、ありがとうございます。

気晴らしに書き散らした駄文を楽しんでいただけていたとしたら、
こんなに嬉しく、ありがたいことはありません。

引っ越し中なので、転居先が決まればまたお知らせします。

覇王への前奏曲〜村田諒太よ!〝まさかの坂〟を登り切れ!②

いつも楽しく拝読しています。雑食性の格闘技好きですが、当ブログを購読するようになって以来、あらためてボクシングの魅力にとりつかれ、動画サイトで色々と観戦している毎日です。

こちらのサービスが終了後、どうされるのかがとても気にかかっています。別のブログサービスで更新を続けるのかどうか、気にかかっています。

いずれにしても、ファンがここにいることをお伝えしたく、初めてコメントを書きました。今後とも期待しています。

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出張が多い仕事柄、移動の合間に書き込ませていただいています。

新幹線の車窓に流れる日本の郷愁あふれる街の風景や、夜の航空機から暗い雲間の隙間に現れるきっと訪れることのない知らない街の光に、えもしれぬ感傷に耽りながら大好きなスポーツの試合を独断と偏見で書き綴るのは、最高にリラックス出来る贅沢な時間です。

健康診断のたびに「運動せねば」「酒は控えねば」と自戒しつつもまた翌年の診断を迎える怠惰な中年ですが、アスリートの美しい躍動に、歓喜と感謝と精一杯の拍手を送っていきたいと思います。
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