フシ穴の眼 〜スポーツ編〜

この階級に日本人が覇権を打ち立てる可能性があるなんて、なんたる幸せ!(3)〝1995.12.19 水道橋の奇跡〟③

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1988年、単身上京。同郷の宮下政会長の沖ジムを訪ねた竹原慎二は衝撃を受けます。沖ジムは〝存在しなかった〟のですから。

沖ジムは当時、名前だけで協栄ジムに間借りしていたのです。

しかし、当時の協栄は日本ボクシング界を牽引する活気にあふれていました。竹原が「鬼塚勝也さんが新人ながら注目され、日本王者クラスもいっぱいいて、とても刺激的だった」と回想しています。

確かに、練習相手にも苦労するミドル級で、日本王者の田島吉秋とスパーリング出来た竹原は幸運でした。

自信満々でのぞんだプロテストはその通りに合格。

しかし、ミドル級が特別な階級であることは、東京に出てきたばかりの竹原にでも肌感覚で理解できていました。

「日本か東洋か、何かチャンピオンになりたいと思ってたけど、世界は全く意識できなかった」。

1987年、マービン・ハグラーがシュガー・レイ・レナードとのメガフィトに敗れて、王座は分散したものの、あの当時日本人がミドル級の世界王者になるなんてマンガにもならない現実離れした話でした。

自分よりも20㎝も小さな軽量級のボクサーたちが、軽々しく「世界王者になりたい」と語るのを聞いても、ミドル級の竹原は冗談でも「世界」を口にすることなど出来ませんでした。

あらゆるスポーツで歓迎されるはずの身長186㎝の恵まれた肉体は、ことボクシングとなると、重たい荷物に過ぎなかったのです。

実際に「日本王者になってから、かえって世界が遠く感じた」と言います。

かつて、日本人に身近だったJr.ミドル級もレナードがアユブ・カルレを屠った頃から、遠い存在になってしまいました。竹原がプロテストに合格した頃のJr.ミドルは、ドナルド・カリーやジョン・ムガビ、ジュリアン・ジャクソンらが覇権を争う世界でした。

ミドル級はもちろん、Jr.ミドルですら、周囲はもちろん、竹原本人も「世界は無理」と諦めるしかない世界だったのです。

それでも、日本王者、東洋王者と駒をを中で、竹原の胸に負けじ魂の火が灯ります。

実家で両親が経営していた焼き肉店で、酔った客が「ボクシングの日本王者なんて大したことない」とバカにするのを聞いて、普段温厚な母親が「あなたの息子は日本一になったことがあるのか」と激昂したという話も、竹原の耳に入ってきました。

「ミドル級で世界なんて絶対無理」。以前は、自身もうなずくしかなかった周囲の声が、いつのまにか腹立たしく聞こえるようになりました。

「絶対無理?だったらやってやろうじゃないか!」。

そして、時代と運も、竹原に寄り添うようになります。ハグラー陥落でタイトルが分散しただけでなく、レナードのエゴと気まぐれ共にメガファイトの舞台もスーパーミドルに移行、IBF王者のバーナード・ホプキンスが統一戦線に乗り出すまで、ミドル級は液状化の様相を呈するのです。

そんな地盤沈下のミドル級で、格好のターゲットが現れました。WBA王者のホルヘ・カストロです。

スピードとパワーを兼ね備えたWBC王者のクインシー・テーラー、後のレジェンドIBF王者のバーナード・ホプキンスと比べると何枚も格が落ちるカストロは「短命に終わる穴王者」と揶揄されながらも激闘と番狂わせを繰り返して、いつのまにか4度も防衛。

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世界のミドル級
世界に挑む日本人
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出張が多い仕事柄、移動の合間に書き込ませていただいています。

新幹線の車窓に流れる日本の郷愁あふれる街の風景や、夜の航空機から暗い雲間の隙間に現れるきっと訪れることのない知らない街の光に、えもしれぬ感傷に耽りながら大好きなスポーツの試合を独断と偏見で書き綴るのは、最高にリラックス出来る贅沢な時間です。

健康診断のたびに「運動せねば」「酒は控えねば」と自戒しつつもまた翌年の診断を迎える怠惰な中年ですが、アスリートの美しい躍動に、歓喜と感謝と精一杯の拍手を送っていきたいと思います。
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