2006年06月29日
ロディックのジレンマ~データでわかるロディックの内なる敵〈最終章〉
どうも、タケゾウです。 アンディ・ロディックvsヤンコ・ティプサレビッチの試合において、最後のダブルフォルトが後者の経験の無さや若さといったものを象徴するならば、試合全体そのものこそ、トッププレイヤーでありながらグランドスラムのタイトルをなかなか手にできない前者を象徴するものだった。 はじめに、ロディックとはどういうプレイヤーかを考えてみたい。 おそらく、ほとんどの人が「ビッグサーバー」と答えるのではないだろうか。しかも、スピードと威力のあるサービスは、ダブルフォルトの数はとても少なく、安定感がある。 「強力なフォアハンドが武器のプレイヤー」という人もいるだろう。 しかし、私の印象は少し違う。 スピードと威力のあるサーブや強力なストロークは、男子に限らず、女子テニス界でも当たり前になってきている。つまり、それらはロディックの武器のひとつかもしれないが、彼がトップランキングを位置し続けている直接の理由ではないのではないか。 では、ビッグサーブが当たり前となった今、ロディックをトップランキングたらしめるものは一体何なのだろう。
私が考えるロディックのトッププレイヤーとしての姿は、2001年の全仏オープンに集約されている。 2回戦でマイケル・チャンと当たったロディックは、5-7/6-3/3-4/6-7(5)/7-5という5時間50分にもわたる死闘を制した。疲労の残る3回戦でも、ストローク力に優れているヒューイットを相手にロディックは走り回った。TVカメラに激突するほどボールを追いかけ、シャツが汗と赤土でドロドロになった姿はとても印象的であった。しかし、7-6(6)/4-6/2-2とした時点で、彼の体力に限界がきてしまう。足を痙攣させ、そのままリタイアとなったのだ。 つまり、ロディックは、他の強力なサービスを武器とするプレイヤーたちのなかでは誰よりも、より走り、より拾い、より打つプレイヤーなのだ。チャンほどのフットワークはないかもしれないが、極端なことを言えば(わかりやすく言えば)、ここぞという場面でエースの獲れる強力なサービス力とフォアハンドを手に入れたマイケル・チャン、とでもいうところだろうか。 しかし、1試合で彼の倍以上のサービスエースを稼ぐプレイヤーはたくさんいる。彼よりも強烈なフォアハンドを繰り出すプレイヤーはたくさんいる。 それは、逆に考えると、(ネットプレイやレシーブ、ストローク力なども含めた)ひとつひとつのプレイはどれもレベルが高いものだが、それらをバラバラにしてひとつずつ他のプレイヤーと比べたとき、ロディックが圧倒的な差で他を引き離しているものがない=特徴がない、ということにも繋がってくる。 これまでの対戦成績のデータは、それを如実に示している(※)。 ※ATPの公式サイトで、各選手のProfile>Playing Activityに行けば、ほとんどの試合におけるデータ(statのテキストリンクをクリック)を見ることができる。この場合、同レベルの相手とのstatが一番参考になると思われる。 どんなプレイスタイルの相手であっても、一部を除いて(1試合に30本もエースを獲るようなビッグサーバー相手の試合では、当然、ロディックのレシーブによるポイント奪取率は下がる)、ほとんどのデータには際立った数字がないばかりか、勝った試合も負けた試合も、相手のデータと比較して、何かが顕著に異なるというような数字がとても少ないのだ。 ピート・サンプラスやアガシの時代が終焉に向かい、若手が群雄割拠していた時代はそれでもよかったが、今の状況は違う。ロジャー・フェデラーはすべてのプレイにおいて誰よりも突出しており、全盛期のサンプラスを彷彿とさせるプレイスタイルと強さでグランドスラムのタイトルを欲しいがままにしている。クレイコートでの戦いを除けば、残念ながら現在の男子シングルスの構図は「フェデラー対その他大勢」と言わざるを得ない。 しかし、ロジャー・フェデラーの存在だけが、ロディックのグランドスラム2つめのタイトルを阻んでいるわけではない。それを明確に感じたのが、昨日のティプサレビッチの1回戦だった。誤解を恐れずに言えば、ロディックは2003年(※)から、ほとんど何も変わっていないのではないだろうか。プレイにおける進歩の少なさが、いつもタイトルの手前で足踏みさせていると言えるのではないだろうか。 ※全米オープンで初のグランドスラムタイトルを手にしただけでなく、ATPマスターズシリーズでも初めてタイトルを手にした(モントリオール、シンシナティの2つ)、ハイライトとなる年。 そうなると、当然ながら、ランキングは常時トップ10内であっても格下の相手に苦戦を強いられることが増えてくる。近いところで言うと、昨晩以外の典型的な例は昨年の全米オープン1回戦敗退だろう。 相手のギレス・ミュラーのサーブの威力はロディックのほうが優れているにも関わらず、そして1stサービスの確率もミュラーの57%に対しロディックが72%と勝っているにも関わらず、ミュラーは24個ものサービスエースを奪っている。また、ロディックのミス15に対して、ミュラーはその倍以上の33も犯してしまっているが、ウィナーの数はミュラー65ポイントと、ロディックの39ポイントを圧倒している。 このときは、レフティのミュラーが徹底してロディックの弱点(特にバックハンド)を突くという展開だったのだが、データと照らし合わせれば、クオリティの高いパフォーマンスを見せながらも負けたロディックと、ミスを恐れずに攻め、圧倒的なウィナーを積み上げたミュラーの勝利ということがより浮き彫りになる。 試合後の記者会見でロディックは「何が(敗因の)原因だったんだろう。データを見てもらってもわかると思うけど、両者ともパフォーマンスは良かった。確かに執拗にバックハンドを攻められてフラストレーションはあったけど、調子は悪くなかった」というような発言をしている。 これはどこまで本気の発言かはわかりかねる。しかし、野村克也の言葉にあるように「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」である。2003年からロディックがレベルアップしていないという仮説が正しければ、いくらパフォーマンスの高い試合をしたとしても、同じような状況はまた訪れるだろう。逆に、どんな相手に対しても、自分が得意とする展開(ここぞという場面でのサービスエースやフォアハンドでのウィナー)に持ち込む以上のプレイができるようになれば、パフォーマンスの低い試合のときでも勝てるようになるのではないだろうか。 そのためにどこをどうレベルアップさせる必要があるのか、ということについてはわからない。 バックハンドやネットプレイの精度を上げるといった弱点の克服が有効なのか、長所をさらに磨くのがいいのか、ひとつひとつのプレイのスキルをレベルアップさせるのがいいのか、頭脳プレイに磨きをかけるのがいいのか…… ただ、「フェデラー対その他大勢」から抜け出すためには、少なくとも、その他大勢を圧倒する何かを得る必要があることだけは確かだ。 実は、2001年に足を痙攣したロディックが全仏オープンのコートを後にするとき、いつか彼は全仏のタイトルを獲るだろうと思った記憶がある。それはいまでも変わっていない。フェデラーを除けば、強力なサービスを持つプレイヤーの中で、全仏オープンのタイトルに一番近いプレイヤーだと思っている。4大大会で最も成績が悪く、今年は足首の状態が悪く1回戦で敗退しているが、彼が自分の殻を破ることができれば、それもまんざら夢ではないんじゃないだろうか。
posted by takezoh |16:00 |
ウィンブルドン2006 |
コメント(0) |
トラックバック(0)


