田端到の東京五輪&ヤクルト・スワローズ研究所

平野美宇の「矛」が、丁寧の「盾」を突き破った日

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 どんな盾でも突き通す「矛」と、どんな矛でも突き通せない「盾」。この矛と盾が戦ったら、どっちが勝つのか。ここから「矛盾」という言葉が生まれた。中国の故事に基づく、有名な話だ。

 2017年の卓球アジア選手権。女子シングルスの平野美宇が快挙×快挙×快挙をなしとげた。準々決勝で世界ランク1位の丁寧(ディンニン)、準決勝で世界ランク2位の朱雨玲(ジュユリン)、決勝で世界ランク5位の陳夢(チェンムン)と、中国のトップ選手を連続撃破。卓球王国の地元開催の大会で、日の丸をセンターポールに揚げたのである。

 私はこの大会を現地の無錫で観戦してきた。16歳の3人を中心にした女子日本代表のメンバーが発表されたときに、何か起こりそうな期待と、のちのちまで語られる重要な大会になるのではないかという予感めいたものがあったからだ。

 ある中国のメディアは、平野美宇vs丁寧の一戦に「矛」と「盾」の比喩を当てはめた。中国語は読解できないので適当に超訳すると、なんでも突き通す平野美宇の矛(攻撃力)と、なんでも受け止める丁寧の盾(守備力)の戦いに見立てたのだと思う。  しかし、勝負の世界に矛盾は生じない。必ずどちらかが勝つ。最終的に、平野美宇の矛は丁寧の盾を突き破った。

 試合中の戦術転換もあった。1ゲーム、2ゲームはフリックのミスなどが目立ち、歯が立たない感じだったが、左利き丁寧のフォアサイドを抜くフォアのストレートが有効とわかってからは、その一打を効果的に使った。  丁寧はフットワークに絶対の自信を持ち、フォアサイドを広めに開けて構えている。厳しいコースを突かれても長い手を伸ばして届くからだ。しかし、フォアを開けて構える選手は、じつはバックに弱点のある場合が多い。野球で言えばベースから離れて構える打者は、外角に自信があると見せて、内角を嫌がるのと一緒である。  3ゲーム以降、平野美宇の速いテンポのフォア・ストレートが何度も得点になると、丁寧は少しだけいつもよりフォア寄りのポジションに立ち位置を変えた。ついに金メダリストのスタンダート・ポジションを変えさせたのだ。

 するとここから平野美宇の新しい槍が飛び始める。広くなった丁寧のバックサイドへ、一段と鋭角な打球を集め始めた。ベンチの馬場美香監督の指示もあったのだろう、丁寧のバックは盾としては強固だが盾でしかない。  何度も打ち込むことでまた普段通りのポジションに戻し、最終的にはフォアサイドへストレートか、強烈なバックドライブのクロスが飛んでいく。左右に振られ、手を伸ばしても届かない丁寧は、いらだちの声を隠さず、顔を歪めた。

 ちなみに今大会が開催された無錫市は、三国志でいう「呉」の国にあたり、会場となった体育館からそう遠くない場所には三国志のテーマパークもある。  ここは近郊の小学校の遠足・修学旅行コースになっているのか、子供たちで賑わっていたが、土産物売り場にはおもちゃの槍や刀が売られ、男の子が槍を突き刺す素振りをしながら遊ぶ姿が見られた(奈良や京都でも見られるおなじみの光景だ)。そんな土地における、時代を超えた矛と盾の決戦だった。

 ただし、一連の報道を見て、いくつか不満もある。  丁寧を破った準々決勝。最大の見どころ、最高の語りどころは、第4ゲームに丁寧のマッチポイントを5度しのいで、平野美宇が逆転した場面である。  あの5度のマッチポイントを、もし1度でもしのげていなかったら、当たり前だが平野美宇は負けていた。これだとその後の快進撃もなく、「ベスト8で中国選手に負けておしまい」というよくあるパターンで何のニュースにもならなかっただろう。  5度のマッチポイントをしのいで逆転したという試合経過は、もっともっとクローズアップされるべきで、結果を報じた記事の中にもこの一文は入れて欲しかった。

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若松勉に魅せられて以来、40年以上のキャリアを持つヤクルト・スワローズ幸福党。著書に『なぜスワローズは最下位から優勝できたのか』など多数。
ヤクルトの話題を中心に、卓球、体操、陸上などを扱う。最近は卓球に偏り気味で、天才・伊藤美誠、秀才・平野美宇、大器・早田ひなの黄金世代の追っかけ。
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