2011年11月04日
スーペルエッタン観戦記2011 ハンマルビーIF対ヨンショーピン・ソードラIF
スウェーデン滞在最終日の10月17日、スーペルエッタン(男子2部)第29節のハンマルビーIF対ヨンショーピン・ソードラの試合を観戦した。ちょうどこの日は他会場でも試合が開催されることになっており、スーペルエッタンの首位決戦・GIFスンズバル対オートビーダベリFFやGAIS対ヨーテボリのヨーテボリダービーも観戦候補に挙がっていたのだが、この試合がスーペルエッタン残留争いの直接対決であり、かつヨンショーピン・ソードラが個人的に思い入れの強いクラブということもあり、前日のAIK対BKヘッケン同様にストックホルムで観戦することに決めた。 スーペルエッタンの場合、15位と16位はディビジョン1(3部。南北2リーグ制)に自動降格し、13位と14位はディビジョン1の優勝チームと入れ替え戦(ホーム&アウェー方式)に回ることとなる。前節終了時点での両チームの順位は、ハンマルビーが13位(勝ち点34)でヨンショーピンが11位(同37)。今日のゲームは両チームにとって残留をかけた大事な一戦だ。 試合会場ソーデル・スタディオンは1966年に完成した天然芝スタジアムで、16917人を収容。地下鉄Globen駅からわずか2、3分のところに位置している。なおソーデルスタディオンは、2013年完成予定の多目的競技場『ストックホルムアレーナ』が完成され次第、解体されることになっている。このストックホルムアレーナには早くからハンマルビーが新ホームスタジアムとして使用する意向を示していたが、先月、ローカルライバルのユールゴーデンIFもこの新競技場を本拠地として採用したい旨を表明。ユールゴーデン関係者はハンマルビーとホームスタジアムを共有することについて何も問題ないとの見解を示している。サポーターショップ。ストックホルムにここより大きなショップがあるらしい。 ソーデルスタディオンを訪れれば必ず目にするであろうもうひとつの建物についても紹介したい。ストックホルム・グローブ・アリーナ(Globen)だ。スタジアムのそばに設置されているこの白色のドーム状の建物は有名なアリーナで、半球状の建物としては世界最大。欧州の音楽コンテスト『ユーロビジョン』のスウェーデン国内予選『Melodifestivalen』やアイスホッケーの試合などがここで行われており、また世界一大きい太陽系モデル『スウェーデン・ソーラーシステム』の太陽として知られている。
左側に見えるドーム状の建物がグローベン ここで簡単に両チームを紹介。 ハンマルビーはストックホルムのソーデルマルムに拠点を置く国内屈指の人気クラブ。2001年にはケネディ・バキルチオグリュ(現ラシン・サンタンデール/スペイン)らを擁してリーグ制覇を果たしたのだが、2009年は財政難などが大きく影響してスーペルエッタンへ降格。今季はビョルン・ルンストロムやパウリーニョといった大物選手を獲得してアルスベンスカン昇格が大きく期待されていたが、序盤から不振にあえぎ、昇格どころか現在は残留プレーオフ圏内の13位に低迷。8月には、成績不振について公式HP上でサポーターに向けた謝罪文を掲載するという事態にまで追い込まれた。なおハンマルビーは、ソーデルマルムが労働者地域であることからしばし「労働者チーム」と見なされている。また余談だが、ハンマルビー地区ショースタッドは「ハンマルビー・ショースタッド」というエコタウンとして再開発され、二酸化炭素排出量が大幅に低減。同地区の成果によってストックホルムは2003年に欧州グリーン首都賞を受賞し、2010年のグリーン都市として指定された。
一方のヨンショーピン・ソードラは、スウェーデン南部スモーランド地方の中堅都市ヨンショーピンに拠点を置くクラブ。過去4シーズンで3度残留プレーオフに周っては辛うじて降格を免れてきたという「綱渡りチーム」だ。今季は序盤こそ好調を維持し一時は首位に肉薄するほどの勢いを見せていたのだが、中盤以降に失速。気がつけばやはりというべきか定位置に転落している。
私事で恐縮だが、冒頭で述べたようにヨンショーピン・ソードラは思い入れの強いクラブ。というのも、私がヨンショーピンに留学していたときに応援していたクラブだからだ。彼らの本拠地スタッツパルクスバッレンが学校の寮から徒歩わずか15分ということもあり、よくスタジアムに足を運んでは声援を送っていた。当時はスウェーデン代表FWヨハン・エルマンデルの実兄パトリックがプレーしていた。 ここで話がかなり逸れるが、少しばかりヨンショーピンの宣伝をさせていただきたい。どういうわけか旅行ガイドブックにまったくといってよいほど掲載されていないが、近年急速に発達している都市で見所は少なくない。とりわけ、スウェーデン第二の大湖ベッテルン湖の景色の美しさといったら。今年含めて3年連続でスウェーデンを訪れては留学時代の知人や友人に会うためにヨンショーピンに足を運んでいるのだが、毎度ベッテルン湖周辺を散歩してはその絶景に魅了されている。日本の旅行ガイドブック編集部はスウェーデンの観光スポットとしてベッテルン湖を紹介しなければならない(笑)。 ヨンショーピンは幾人かの著名人を輩出しており、元国連事務総長ダーグ・ハマーショルド(ハンマーショルド)、ABBAのアグネッタ・フェルトスコーグ、サッカー選手では2006年ドイツW杯スウェーデン代表登録メンバーのエリック・エドマンやカール・スベンソンの出身地でもある。また1990年代にスウェディッシュ・ポップブームの火付け役となったカーディガンズが結成された都市として知られている。 閑話休題。 試合の観戦場所はバックスタンド左。ハンマルビーの場合、ウルトラス(熱狂的サポーター)はゴール裏ではなくバックスタンドに陣取っている。彼らはキックオフ前からかなり熱い応援を展開し、一方でヨンショーピンのスタメン発表時には容赦ないブーイングを浴びせていた。キックオフ直前にハンマルビーのヘリがウルトラスに向かって「もっと盛り上がれ」と煽るとすぐさまウルトラスが反応。そしてそれに呼応するかのようにスタジアム全体が熱狂の渦に包まれた。
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中央に見えるのがヨンショーピンのサポーター キックオフ時からバックスタンドそしてメインスタンドの客は総立ち状態。座ったままではピッチが見えないので、私も立った状態で試合を追うことに。開始直後から両チームのあいだで激しい肉弾戦が展開され、ハンマルビーに不利な判定が下されるたびに耳をつんざくようなブーイングがスタジアム全体に響き渡る。ハンマルビーの試合を生で観戦するのは2年前のAIKとのストックホルムダービー以来今回で2回目だが、ここソーデルスタディオンで観るのは初めて。毎試合こんな雰囲気なのだろうか。それとも残留をかけた大事な一戦が大きく影響しているのだろうか。 スタジアムのこの熱狂的な雰囲気はハンマルビーに大きく味方するかに思われたが、序盤の主導権を握ったのはヨンショーピンのほうだった。私が見ていた当時はロングボールを多用する大味なサッカーだったのだが、この日の彼らは丁寧にショートパスをつないではピッチを広くに使うダイナミックなサッカーを展開。6分、左から右へ大きくサイドチェンジし、すかさず右サイドの選手が低いクロスボールを供給。これにテリンが合わせて早くもゴールネットを揺らした。
その後も引き続きヨンショーピンのペースで試合が進む。一方のハンマルビーはパスの精度を著しく欠き、なかなか良いかたちに持っていくことができない。そんな不甲斐ないホームチームに対して早くも観客席のあちこちから罵声が聞こえてくる。またエースのルンストロムがシュミレーションで警告を受けると彼らの怒りのボルテージはさらに上昇し、スタジアム全体が怒号に包まれた。この状態で近くの客に「私、実はヨンショーピンを応援しています」なんて言ったら無事では帰れない、そんな風に思わせるほどある種の恐怖感を抱いた。 だがルンストロムが警告を受けた数分後、ハンマルビーは試合を振り出しに戻す。ヘリのお膳立てからグスタフソンがゴールネットを揺らし、イライラが溜まっていた観客に歓喜をもたらした。
この同点ゴールから試合の流れはハンマルビーへ。29分にはルンストロムが勝ち越しゴールを挙げ、前半終了間際にはヨハンソンが加点した。対するヨンショーピンは序盤で見られた流麗なパス回しが鳴りを潜め、守勢に回る時間が多くなっていった。 リードして完全に機嫌が良くなった(?)ハンマルビーサポーターは後半が始まっても依然として大半の客が立ったまま試合を追っていたものの、前半のときのような殺気立った雰囲気は消え、どことなく落ち着いたようにみられた。 だが67分、ハンマルビーのヘリが自陣ペナルティエリア内で相手選手を引っ張ったことによってヨンショーピンにPKが与えられ、同時にヘリは2枚目のイエローカードを提示され退場処分に。これをリーグ得点ランクトップのフルゴタが落ち着いて決め、試合は1点差に。スタジアム全体が再び殺気立ってきた。
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残り約20分を10人で戦わなければならなくなったハンマルビー。試合終了までヨンショーピンが攻めてハンマルビーが守るという図式のもと展開されるかと思われたが、ヨンショーピンの攻めがアイデアに乏しく、かつパスの精度を欠いたために試合は動かず。逆に終盤、微妙な判定で2つのPKを獲得したハンマルビーがこれらをものにして加点。試合はそのまま5-2で終了した。
試合終了後、審判団と何やら話し込んでいるヨンショーピンの選手たち。おそらく、終盤にハンマルビーに与えられた2つのPKのことについてだろう。あの判定は彼らにとって気の毒だった
正直言って試合自体のレベルは高くなく、前日観戦したAIK対ヘッケンのそれを比べるとその差は歴然としていた。勝ったハンマルビーはとりあえず昇降格プレーオフ圏内を脱したが、アルスベンスカンに戻ってくるにはもう少し時間がかかりそうだ。一方、敗れたことによって例年通り入れ替え戦圏内に突入してしまったヨンショーピンは後半になるとサッカーの質が低下したものの、前半立ち上がりに披露した小気味良いパスサッカーには「ロングボール主体の大味なサッカー」というイメージが定着していた私にとってかなり驚かされた。この日PKで得点したフルゴタはクロアチアのルーツをもつ18歳で、クロアチアのメディアでも紹介されたことがあるという。今後が楽しみな若手選手だ(フルゴタは後日行われた最終節・GIFスンズバル戦でもフリーキックから得点をマークし、得点王のタイトルを獲得した)。 試合内容に関しては大して印象に残らなかったものの、スタジアムの雰囲気については試合後もつらつらと考えた。あの形容しがたい熱狂を生み出していたのは何なのか。もちろん熱狂的なハンマルビーのサポーターの存在も大きいが、スタジアムの規模が大きく関係しているのではないだろうか。ソーデルスタディオンの収容人数16917は欧州主要リーグのなかでは小規模な類に属するが、総人口930万人で年間の1試合平均観客数が10000に満たないスウェーデンにとっては身の丈に合っていると思う(なおハンマルビーの今季の1試合平均観客数は7953。この数字はスーペルエッタンにおいて最多、かつアルスベンスカン全体の1試合平均観客数7326を上回る)。実際、前日観戦したAIK対ヘッケンの観客数は今日のそれを上回る14517人だったのだが、この日のソーデルスタディオンのそれと比べるといまひとつ盛り上がりに欠けているように感じた(AIKサポーターが国内でも指折りの熱狂的な集団にもかかわらず、だ)。その理由は、AIKの本拠地ロースンダの収容人数35000がスウェーデンのクラブチームの集客数を考えた場合、キャパシティが大きすぎるからではないか(今季におけるAIKの1試合平均観客数は13865。この数字は今季のアルスベンスカンにおいて最多)。もちろん、ダービーマッチなど集客数が見込める試合に関しては話は別だが。 ハンマルビーと同じくストックホルムに拠点を置くAIKは、ホームスタジアムをロースンダ・スタディオンから現在建設中の新ナショナルスタジアム、スウェドバンク・アレナ(50000人収容)に変更することを検討しているという(後日、正式に決定した)。また冒頭でも述べたように、ハンマルビーとユールゴーデンも2013年完成予定の新スタジアム・ストックホルムアレーナ(30000人収容)を本拠地として使用したい意向を示している(今日におけるユールゴーデンの本拠地ストックホルム・スタディオンは14417人収容。ユールゴーデンの場合、このスタジアムが2014年シーズン以降のアルスベンスカンの基準に満たないと判断されたため、新しい本拠地を探している状態だ)。 スウェーデンは1992年欧州選手権のホスト国だったが、彼らが掲げたスローガンのひとつが「スモール・イズ・ビューティフル」だった。「小さいもの」から「大きいもの」が主流になりつつあった時代(この大会を最後に参加国は8から16に増えた)において、あえて「小さいもの」にこだわった運営によって生まれた、たとえば小規模スタジアムが生み出す一体感や独特の臨場感などは多くの関係者から高い評価を得たという。 小規模から中・大規模スタジアムへ本拠地を移転することは、インフラ面や国際的評価という点では大きなメリットがあるものの、一方で大事な「何か」が失われてしまうのではないか。そんな一抹の寂しさを感じながら、スタジアムをあとにした。 ※22日、スーペルエッタン最終節が行われ、ヨンショーピンは本拠地で2位スンズバルに逆転勝ちを収め、ハンマルビーも敵地で3位エンゲルホルムに対して勝ち点3を獲得。両チームとも見事残留を決めた。
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posted by swe1707 |23:51 |
生観戦記 |
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サポーターショップ。ストックホルムにここより大きなショップがあるらしい。
ソーデルスタディオンを訪れれば必ず目にするであろうもうひとつの建物についても紹介したい。ストックホルム・グローブ・アリーナ(Globen)だ。スタジアムのそばに設置されているこの白色のドーム状の建物は有名なアリーナで、半球状の建物としては世界最大。欧州の音楽コンテスト『ユーロビジョン』のスウェーデン国内予選『Melodifestivalen』やアイスホッケーの試合などがここで行われており、また世界一大きい太陽系モデル『スウェーデン・ソーラーシステム』の太陽として知られている。
左側に見えるドーム状の建物がグローベン
ここで簡単に両チームを紹介。
ハンマルビーはストックホルムのソーデルマルムに拠点を置く国内屈指の人気クラブ。2001年にはケネディ・バキルチオグリュ(現ラシン・サンタンデール/スペイン)らを擁してリーグ制覇を果たしたのだが、2009年は財政難などが大きく影響してスーペルエッタンへ降格。今季はビョルン・ルンストロムやパウリーニョといった大物選手を獲得してアルスベンスカン昇格が大きく期待されていたが、序盤から不振にあえぎ、昇格どころか現在は残留プレーオフ圏内の13位に低迷。8月には、成績不振について公式HP上でサポーターに向けた謝罪文を掲載するという事態にまで追い込まれた。なおハンマルビーは、ソーデルマルムが労働者地域であることからしばし「労働者チーム」と見なされている。また余談だが、ハンマルビー地区ショースタッドは「ハンマルビー・ショースタッド」というエコタウンとして再開発され、二酸化炭素排出量が大幅に低減。同地区の成果によってストックホルムは2003年に欧州グリーン首都賞を受賞し、2010年のグリーン都市として指定された。
一方のヨンショーピン・ソードラは、スウェーデン南部スモーランド地方の中堅都市ヨンショーピンに拠点を置くクラブ。過去4シーズンで3度残留プレーオフに周っては辛うじて降格を免れてきたという「綱渡りチーム」だ。今季は序盤こそ好調を維持し一時は首位に肉薄するほどの勢いを見せていたのだが、中盤以降に失速。気がつけばやはりというべきか定位置に転落している。
私事で恐縮だが、冒頭で述べたようにヨンショーピン・ソードラは思い入れの強いクラブ。というのも、私がヨンショーピンに留学していたときに応援していたクラブだからだ。彼らの本拠地スタッツパルクスバッレンが学校の寮から徒歩わずか15分ということもあり、よくスタジアムに足を運んでは声援を送っていた。当時はスウェーデン代表FWヨハン・エルマンデルの実兄パトリックがプレーしていた。
ここで話がかなり逸れるが、少しばかりヨンショーピンの宣伝をさせていただきたい。どういうわけか旅行ガイドブックにまったくといってよいほど掲載されていないが、近年急速に発達している都市で見所は少なくない。とりわけ、スウェーデン第二の大湖ベッテルン湖の景色の美しさといったら。今年含めて3年連続でスウェーデンを訪れては留学時代の知人や友人に会うためにヨンショーピンに足を運んでいるのだが、毎度ベッテルン湖周辺を散歩してはその絶景に魅了されている。日本の旅行ガイドブック編集部はスウェーデンの観光スポットとしてベッテルン湖を紹介しなければならない(笑)。
ヨンショーピンは幾人かの著名人を輩出しており、元国連事務総長ダーグ・ハマーショルド(ハンマーショルド)、ABBAのアグネッタ・フェルトスコーグ、サッカー選手では2006年ドイツW杯スウェーデン代表登録メンバーのエリック・エドマンやカール・スベンソンの出身地でもある。また1990年代にスウェディッシュ・ポップブームの火付け役となったカーディガンズが結成された都市として知られている。
閑話休題。
試合の観戦場所はバックスタンド左。ハンマルビーの場合、ウルトラス(熱狂的サポーター)はゴール裏ではなくバックスタンドに陣取っている。彼らはキックオフ前からかなり熱い応援を展開し、一方でヨンショーピンのスタメン発表時には容赦ないブーイングを浴びせていた。キックオフ直前にハンマルビーのヘリがウルトラスに向かって「もっと盛り上がれ」と煽るとすぐさまウルトラスが反応。そしてそれに呼応するかのようにスタジアム全体が熱狂の渦に包まれた。
中央に見えるのがヨンショーピンのサポーター
キックオフ時からバックスタンドそしてメインスタンドの客は総立ち状態。座ったままではピッチが見えないので、私も立った状態で試合を追うことに。開始直後から両チームのあいだで激しい肉弾戦が展開され、ハンマルビーに不利な判定が下されるたびに耳をつんざくようなブーイングがスタジアム全体に響き渡る。ハンマルビーの試合を生で観戦するのは2年前のAIKとのストックホルムダービー以来今回で2回目だが、ここソーデルスタディオンで観るのは初めて。毎試合こんな雰囲気なのだろうか。それとも残留をかけた大事な一戦が大きく影響しているのだろうか。
スタジアムのこの熱狂的な雰囲気はハンマルビーに大きく味方するかに思われたが、序盤の主導権を握ったのはヨンショーピンのほうだった。私が見ていた当時はロングボールを多用する大味なサッカーだったのだが、この日の彼らは丁寧にショートパスをつないではピッチを広くに使うダイナミックなサッカーを展開。6分、左から右へ大きくサイドチェンジし、すかさず右サイドの選手が低いクロスボールを供給。これにテリンが合わせて早くもゴールネットを揺らした。
その後も引き続きヨンショーピンのペースで試合が進む。一方のハンマルビーはパスの精度を著しく欠き、なかなか良いかたちに持っていくことができない。そんな不甲斐ないホームチームに対して早くも観客席のあちこちから罵声が聞こえてくる。またエースのルンストロムがシュミレーションで警告を受けると彼らの怒りのボルテージはさらに上昇し、スタジアム全体が怒号に包まれた。この状態で近くの客に「私、実はヨンショーピンを応援しています」なんて言ったら無事では帰れない、そんな風に思わせるほどある種の恐怖感を抱いた。
だがルンストロムが警告を受けた数分後、ハンマルビーは試合を振り出しに戻す。ヘリのお膳立てからグスタフソンがゴールネットを揺らし、イライラが溜まっていた観客に歓喜をもたらした。
この同点ゴールから試合の流れはハンマルビーへ。29分にはルンストロムが勝ち越しゴールを挙げ、前半終了間際にはヨハンソンが加点した。対するヨンショーピンは序盤で見られた流麗なパス回しが鳴りを潜め、守勢に回る時間が多くなっていった。
リードして完全に機嫌が良くなった(?)ハンマルビーサポーターは後半が始まっても依然として大半の客が立ったまま試合を追っていたものの、前半のときのような殺気立った雰囲気は消え、どことなく落ち着いたようにみられた。
だが67分、ハンマルビーのヘリが自陣ペナルティエリア内で相手選手を引っ張ったことによってヨンショーピンにPKが与えられ、同時にヘリは2枚目のイエローカードを提示され退場処分に。これをリーグ得点ランクトップのフルゴタが落ち着いて決め、試合は1点差に。スタジアム全体が再び殺気立ってきた。
残り約20分を10人で戦わなければならなくなったハンマルビー。試合終了までヨンショーピンが攻めてハンマルビーが守るという図式のもと展開されるかと思われたが、ヨンショーピンの攻めがアイデアに乏しく、かつパスの精度を欠いたために試合は動かず。逆に終盤、微妙な判定で2つのPKを獲得したハンマルビーがこれらをものにして加点。試合はそのまま5-2で終了した。
試合終了後、審判団と何やら話し込んでいるヨンショーピンの選手たち。おそらく、終盤にハンマルビーに与えられた2つのPKのことについてだろう。あの判定は彼らにとって気の毒だった
正直言って試合自体のレベルは高くなく、前日観戦したAIK対ヘッケンのそれを比べるとその差は歴然としていた。勝ったハンマルビーはとりあえず昇降格プレーオフ圏内を脱したが、アルスベンスカンに戻ってくるにはもう少し時間がかかりそうだ。一方、敗れたことによって例年通り入れ替え戦圏内に突入してしまったヨンショーピンは後半になるとサッカーの質が低下したものの、前半立ち上がりに披露した小気味良いパスサッカーには「ロングボール主体の大味なサッカー」というイメージが定着していた私にとってかなり驚かされた。この日PKで得点したフルゴタはクロアチアのルーツをもつ18歳で、クロアチアのメディアでも紹介されたことがあるという。今後が楽しみな若手選手だ(フルゴタは後日行われた最終節・GIFスンズバル戦でもフリーキックから得点をマークし、得点王のタイトルを獲得した)。
試合内容に関しては大して印象に残らなかったものの、スタジアムの雰囲気については試合後もつらつらと考えた。あの形容しがたい熱狂を生み出していたのは何なのか。もちろん熱狂的なハンマルビーのサポーターの存在も大きいが、スタジアムの規模が大きく関係しているのではないだろうか。ソーデルスタディオンの収容人数16917は欧州主要リーグのなかでは小規模な類に属するが、総人口930万人で年間の1試合平均観客数が10000に満たないスウェーデンにとっては身の丈に合っていると思う(なおハンマルビーの今季の1試合平均観客数は7953。この数字はスーペルエッタンにおいて最多、かつアルスベンスカン全体の1試合平均観客数7326を上回る)。実際、前日観戦したAIK対ヘッケンの観客数は今日のそれを上回る14517人だったのだが、この日のソーデルスタディオンのそれと比べるといまひとつ盛り上がりに欠けているように感じた(AIKサポーターが国内でも指折りの熱狂的な集団にもかかわらず、だ)。その理由は、AIKの本拠地ロースンダの収容人数35000がスウェーデンのクラブチームの集客数を考えた場合、キャパシティが大きすぎるからではないか(今季におけるAIKの1試合平均観客数は13865。この数字は今季のアルスベンスカンにおいて最多)。もちろん、ダービーマッチなど集客数が見込める試合に関しては話は別だが。
ハンマルビーと同じくストックホルムに拠点を置くAIKは、ホームスタジアムをロースンダ・スタディオンから現在建設中の新ナショナルスタジアム、スウェドバンク・アレナ(50000人収容)に変更することを検討しているという(後日、正式に決定した)。また冒頭でも述べたように、ハンマルビーとユールゴーデンも2013年完成予定の新スタジアム・ストックホルムアレーナ(30000人収容)を本拠地として使用したい意向を示している(今日におけるユールゴーデンの本拠地ストックホルム・スタディオンは14417人収容。ユールゴーデンの場合、このスタジアムが2014年シーズン以降のアルスベンスカンの基準に満たないと判断されたため、新しい本拠地を探している状態だ)。
スウェーデンは1992年欧州選手権のホスト国だったが、彼らが掲げたスローガンのひとつが「スモール・イズ・ビューティフル」だった。「小さいもの」から「大きいもの」が主流になりつつあった時代(この大会を最後に参加国は8から16に増えた)において、あえて「小さいもの」にこだわった運営によって生まれた、たとえば小規模スタジアムが生み出す一体感や独特の臨場感などは多くの関係者から高い評価を得たという。
小規模から中・大規模スタジアムへ本拠地を移転することは、インフラ面や国際的評価という点では大きなメリットがあるものの、一方で大事な「何か」が失われてしまうのではないか。そんな一抹の寂しさを感じながら、スタジアムをあとにした。
※22日、スーペルエッタン最終節が行われ、ヨンショーピンは本拠地で2位スンズバルに逆転勝ちを収め、ハンマルビーも敵地で3位エンゲルホルムに対して勝ち点3を獲得。両チームとも見事残留を決めた。
ロースンダ・スタディオン
スタジアム周辺では様々な催しが行なわれていた
この日の試合会場であるロースンダ・スタディオンは36000人を収容するスウェーデン最大のスタジアムで、代表戦ではもっぱらこのスタジアムが利用される。1937年に完成されたこのスタジアムは、サッカーW杯で男女決勝が行なわれたことがある競技場として一部では知られている。男子は1958年、女子は1995年だが、1958年の男子決勝は地元スウェーデンとブラジルとの間で行なわれ、このときは王様ペレの活躍でブラジルが5対2で優勝を飾った。
なお現在のナショナルスタジアムはこのロースンダ・スタディオンだが、2012年からは現在建設中のスウェドバンク・アレナ(2012年完成予定)が新たなナショナルスタジアムとなる予定。この新スタジアムは50000人収容で、2013年女子欧州選手権の決勝が開催されることになっている。
オランダに次いでグループ2位のスウェーデンは、前節のフィンランド戦で勝利を収めたことにより2位以内を確保してプレーオフ進出の権利を獲得。このオランダ戦に勝てばグループ2位の成績最上位国としてプレーオフに回ることなくストレートで本大会出場権を獲得でき、敗れた場合は自動的にプレーオフへ回ることに。引き分けに終わった場合、他グループ2位チームの結果によってストレートインもしくはプレーオフという状況だった。
オランダのサポーター
フィンランド戦でイエローカードを受けたイブラヒモビッチは累積警告により出場停止。代わりに1トップを務めたのはこれまでトップ下でプレーしていたエルマンデル。トップ下にはトイボネンが配置された。
最終ラインはフィンランド戦と変わらず、右からルスティグ、メルベリ、マイストロビッチ、マルティン・オルソン。中盤に目を向けると、前試合でサイドハーフとして先発したビルヘルムソンがこの日はベンチ外。右にエルム、左にラーションが入り、センターにはシェルストレム、前節スタメン落ちしたスベンソンが起用された。
選手入場
国歌斉唱
スウェーデンの試合への入り方はいたって慎重だった。開始10分はオランダが自陣でボールを回しても前からプレスに行かず、1トップのエルマンデルを含めた全員が自陣に引いて構える展開に。そんな消極的な代表チームに不満を抱いたのか、スタジアムからは早くもスウェーデンコールが起こる。
13分、その観客の煽りに呼応したかのように、エルマンデルがゴール正面やや左の位置でフリーキックのチャンスを獲得。ボール付近にはエルムとシェルストレムが構えたが、位置を考えればキッカーは後者だというのは明白。サッカーサイト『Goal.com』が予選終了後に選出したドリームイレブンに選出された29歳のレフティーが放ったシュートは、美しい弧を描いてオランダゴールに吸い込まれていった。
先制後、スタジアムにはある程度の余裕が生まれたように感じられた。スウェーデンではサッカーのみならず色々なスポーツで典型的な掛け合いがあり、一方のスタンド側が「Andra sidan är ni klara?(反対側、準備はいいか?)」と叫ぶと、反対側が「Jaja mensan fattas bara!(もちろん、当たり前だ!)」と返すのだが、その掛け合いを私の後方にいた少年複数名がやろうとしており、何度も「Andra sidan är ni klara?」と叫ぶ。だが当然ながら反対側ゴール裏の観客席に聞こえるわけがない。そんな微笑ましい努力に周囲は笑いに包まれた。
だが、周囲が和やかなムードに包まれたそのとき、スウェーデンは失点を喫してしまう。右サイドからのクロスをフンテラールに決められ、試合は振り出しに。
その後はオランダがボールを支配して試合が進むものの、スウェーデン側も幾度かチャンスを得る。エルムの十八番ロングスローからトイボネンがゴールを狙うが、惜しくも勝ち越しゴールにはならなかった。
前半終了時点でのボールポゼッション率はオランダの65%と圧倒されていたが、見ている側にとっては劣勢という感じがしなかった。それはスウェーデンの縦と横のラインが非常にコンパクトで、安定感があったからだ(それがイブラヒモビッチ不在によるものなのかはわからないが)。まるで、アルゼンチンやイングランドが同居した死の組を1位で通過した2002年日韓W杯で見せたような構築美を思い起こさせた。
後半立ち上がり、慎重だった前半序盤と違って前からプレスをかけるスウェーデン。そんな姿に、勝利への意志、すなわちプレーオフに回ることなくストレートで本大会に行くという気迫のようなものが感じられた。
だが、勝ち越しゴールを挙げたのはオランダのほうだった。50分、ゴール正面でラストパスを通され、ファンペルシーのシュートはイサクソンが防いだものの、そのこぼれ球をカイトに押し込まれた。失点後スタジアムは静まり返るが、それはこの失点から始まるわずか4分間で起きたドラマの序章に過ぎなかった。
52分、トイボネンのパスに抜け出したエルマンデルが狙ったシュートが相手の手に当たり、スウェーデンはPKを獲得。この幸運なビッグチャンスをキックの名手ラーションが落ち着いて決めてすかさず試合を振り出しに戻した。
同点ゴールに興奮冷めやらぬスタジアムがさらに爆発したのは、わずか1分後のこと。ルスティグの素早いスローインからエルマンデルが右サイドを突破し、ゴール前に折り返す。相手DFに当たったボールをトイボネンが左足で押し込み、スウェーデンが勝ち越した。トイボネンがゴールネットを揺らした瞬間、決して大げさではなく、スタジアムが揺れた。
観戦時には気づかなかったが、勝ち越しゴールにはルスティグにボールを供給したボールボーイが大きく貢献したことが判明。スウェーデンのトップリーグ・AIKの16歳以下チームでプレーするダビド君(15)は、ボールがタッチラインを割ったあと間髪入れずにニューボールをルスティグへ。彼の素早い行動がエルマンデルの突破、そしてトイボネンのゴールにつながった。試合翌日、夕刊紙『Aftonbladet』の助けによりダビド君は代表チームが宿泊しているホテルを訪れルスティグと再会。ルスティグはこの少年に対して「ありがとう。君はヒーローだ」とたたえたという。なお、同紙の試合後の選手採点にはダビド君も対象とされており、満点の5点がつけられた。
スウェーデンはその後、相手に押し込まれる展開が続くもイサクソンの好セーブなどもあり得点を許さず。オランダの全勝突破を阻んだと同時に、成績最上位の2位チームとして4大会連続5度目の本大会出場権を獲得した。
改めて試合を振り返ると、DF陣が多少不安定だったものの、前線から最終ラインまでが縦横非常にコンパクトにまとまっており、うまく連動していた。強豪国相手でも大崩れしない守備が最大の売りだった1990年代末~2000年代前半当時のチームのようだった。今回のような試合ができれば、スペインやドイツが相手でも惨敗するようなことはないのではないか。
選手個人に目を向けると、全得点に絡んだエルマンデルの動きが際立っていた。今年30回目の誕生日を迎えたストライカーは、キックオフからタイムアップまで休むことなく走り続け、攻撃を活性化させた。彼は試合後、「われわれのプレーはパーフェクトだった」と振り返った。
イサクソンの存在も忘れてはならない。エルマンデルと同じく今年30歳になった守護神は前節のフィンランド戦と同様に安定感溢れるセービングを披露。終盤にはスタジアムからイサクソンコールが起こったほどだ。一時期、ビランドのほうが正守護神としてふさわしいのではないかという意見が上がっていたが、最近のイサクソンはそんな批判をかき消すかのような奮闘をみせている。
一方、本大会に向けて懸念すべき点もある。
まずはスウェーデンメディアでも不安材料とされている左サイドバックだ。この日先発出場したオルソンは1失点目に絡んでしまうなどディフェンス時において何度か不安定なシーンがあった。このオルソン、そして今回は選考外だったサファリとベントらで今後もレギュラー争いは続くだろう。
また左ばかりが不安視されているが、ルスティグ以外に適任者がいない右サイドバックの人材不足も深刻だ。ラーションがこのポジションでプレーできるが、彼の本職はサイドMF。ハムレーン監督は、一刻も早くルスティグのバックアッパーを探さなければならないだろう。
そして最後にイブラヒモビッチについて。
これまでも何度か「ズラタン不要論」が出ていたが、エース抜きで強豪オランダに勝利したことによって彼を要らないという声はさらに大きくなりそうだ。
イブラヒモビッチが代表デビューを果たした2001年以降の欧州選手権予選における代表チームの成績
イブラヒモビッチが出場しなかった試合 10戦10勝
イブラヒモビッチが出場した試合 20戦11勝4分5敗
『Aftonbladet』電子版がオランダ戦後に実施したアンケート「代表チームはズラタン抜きのほうが良いか?」
投票数59538。10月11日現在
はい 74%
いいえ 26%
夕刊紙『Expressen』電子版がオランダ戦後に実施したアンケート「欧州選手権本大会でのズラタンのポジションはどこが良いか?」
投票数4474。10月12日現在
FW(スタメンとして) 28%
FW以外のポジション(スタメンとして) 17%
ベンチ 19%
イタリアのミラノ(選考外) 36%
ただこうしたズラタン不要派は、彼によって救われた試合があることを忘れている。2004年欧州選手権のイタリア戦、2005年のハンガリー戦(2006年ドイツW予選)など枚挙に暇がない。前回大会のグループリーグ・スペイン戦では、彼のゴールによって同点に追い付くなど前半に関しては良い試合運びをしていたものの、怪我によって彼がベンチに下がった途端に相手に主導権を握られ、終盤に勝ち越しゴールを許して敗れた。
また、エンターテイメントの面でもイブラヒモビッチの存在は不可欠だ。
調査会社リトリーバーが昨年実施した調査によると、彼は2010年度のスウェーデンメディアでもっとも多く紹介されたスポーツ選手だ。テニスのロビン・ソーデリングや同年冬季五輪メダリストのシャーロッテ・カッラらを押しのけてトップに輝いたという事実は、彼の人気の高さがうかがえる。また大手ブックメーカー『Unibet』は新札として発行予定の200クローナ札の肖像候補者リストにイブラヒモビッチの名前を挙げた(最終的に映画監督イングマール・ベルイマンに決定)。ズラタンはもはやスウェーデンサッカーのみならずスウェーデンという国を代表する人物だ。彼のいない代表チームは、陳腐な表現だがメインディッシュのない食卓のようなものだ。
代表チームの選手もイブラヒモビッチの必要性を十分に感じているようだ。以下はズラタンに対する選手たちのコメント。
スベンソン「言うまでもない。ズラタンは代表にいるべきだ」
エルマンデル「ズラタンに適したプレーシステムを見つけなければならない」
シェルストレム「言うまでもなくズラタンはチームで最高の選手。彼がいればわれわれにとってつねにプラスになる。彼は相手のマークをひきつけてくれるし、他選手のためにスペースをつくってくれる」
ラーション「ズラタンが本調子であれば、彼はプレーすべき。それはチーム全員が望んでいることだ」
ただ、ズラタン不要派の気持ちも分からないわけではない。上記のとおり、イブラヒモビッチが代表デビューした2001年以降の欧州選手権予選を振り返ると彼がいないチームのほうが良い成績を収めているし、また最近の代表戦においては彼不在のほうがチームとして機能していることは認めざるを得ない。
では、どうすればよいのか。答えは、上記エルマンデルのコメントが示している。イブラヒモビッチに適したシステムを見つければよいのだ。
実は、イブラヒモビッチが代表復帰した2010年夏ごろは代表チームはうまく機能していた。彼がフリーロールとして時に中盤まで下がり、時にサイドに流れるなど自由自在に動いていたからだ。多方面でも言われていることだが、イブラヒモビッチはゲームメーカーとしても優秀だ。攻撃がこう着した際には自らポジションを変えてゲームを作ることにより、他選手をいかしていた。
ただ、いつごろからか正確には記憶していないが、予選中盤以降からのイブラヒモビッチは前線に張り付いているばかりで、ただ味方からのパスを待つことが多くなった。これが彼本人による判断なのか、それともハムレーン監督の指示によるものなのか定かではないが、イブラヒモビッチが自由自在にピッチを動き回るとき、ズラタン不要論はなくなるはずだ。
スウェーデンは来月にデンマーク(11日、コペンハーゲン)イングランド(15日、ロンドン)と親善試合を行なう。グループリーグ敗退した前回大会の轍を踏まないためにも、残された課題は少なくない。
『Fotbollskanalen』による選手採点(5が最高、1が最低)
イサクソン 2
ルスティグ 4
メルベリ 3
マイストロビッチ 2
マルティン・オルソン 2
スベンソン 3
シェルストレム 4
ラーション 4
トイボネン 4
(75分 ベルンブローム 採点なし)
ラスムス・エルム 4
エルマンデル 5
おまけ
試合後、スタジアムの前に止まっていたオランダのサポーター用バス。バスに備え付けられていたスピーカーからはスウェーデンが誇るポップグループABBAの代表曲「The winner takes it al」「Wateroo」「SOS」が立て続けに爆音で流れていた。彼らの粋な計らいに感謝したい。
試合会場のグリムスタIPは総合競技場で、収容人数8000人。地下鉄Jonannelund駅から徒歩約15分のところに構えている。今季から人工芝のピッチに張り替えられた(人工芝を採用しているアルスベンスカンのクラブは全16チームのうち、このブロンマポイカルナ、エルフスボリ、イェブレIF、オレブロー、オートビーダベリFFの5チームだ)。
ここで両チームについて紹介。
ブロンマポイカルナはストックホルム西部に位置するブロンマを拠点とするクラブ。クラブ設立は1942年、初めてアルスベンスカンでプレーしたのが2007年とクラブとしてのキャリアは浅いが、所属する選手の数は全年代合わせて約4000人で、チーム数は約250。これらの数字は欧州で最多だ。つまりこのクラブは、見方によっては「欧州最大のクラブ」と呼ぶことができる。それだけに若い選手の育成には定評があり、過去にさかのぼれば90年代にアーセナルFC(イングランド)で活躍したアンデシュ・リンパル、現在ではイタリアのボローニャFCでレギュラーとしてプレーするアルビン・エクダル、マンチェスター・シティ(イングランド)に籍を置き現在は同チャンピオンシップのバーンリーFCにレンタルされているヨン・グイデッティ、オランダのSCヘーレンフェーンに所属するフィリップ・ハーグルンドといった選手を輩出している。試合前に配布されたマッチデイプログラムによると、今季トップチームでプレーしている選手のうち約7割がクラブのユース出身だそうだ。また、現在スウェーデン代表を指揮するエリック・ハムレーン監督も1990年から1年間このクラブの監督を務めていた。今季は、W杯による中断前は中位に位置していたのだが、その後ずるずると順位を下げてしまい、この試合が始まる時点では最下位に低迷。今日負けると2部への降格が事実上決定するという状況に追い込まれていた。
一方のマルメは、スウェーデン南部のスコーネ地方に拠点を置く国内屈指の強豪クラブ。欧州チャンピオンズカップ(現在のチャンピオンズリーグ)の決勝に進出したスウェーデン唯一のクラブで、これまで15度のリーグ制覇を成し遂げている歴史あるチームだ。イタリアのACミランでプレーするズラタン・イブラヒモビッチの出身クラブとして知られている。2004年には現スウェーデン代表ダニエル・マイストロビッチ(現セルティックFC/スコットランド)を擁してリーグ優勝を達成したが、以後5シーズンの順位は5位、7位、9位、6位、7位と豊富な資金力に見合った成績を残せずにいた。
だが今季は、元スウェーデン代表でこれまで中盤を本職としていたダニエル・アンデションがセンターバックのポジションに完全に定着したことにより、これまでも定評があった守備力がさらに強化された。またアゴン・メフメティやジロラン・ハマド、イボ・ペカルスキ、グイレルモ・モリンスといった外国のルーツをもつ若い選手たちがブレイク(ペカルスキは、今年の最優秀新人賞に選ばれた)。リーグ序盤こそ、同じスコーネ地方を拠点とするヘルシンボリIFに首位の座を譲っていたが、徐々に勝ち点差を縮め、第21節に初めて首位に浮上した。23節に行なわれたヘルシンボリとの頂上決戦「スコーネ・ダービー」でも2‐0で快勝。今日の試合が始まる時点では、ヘルシンボリが前日の試合でハルムスタッドBKに勝利したことにより2位だったのだが、今日勝てば得失点差で再び首位に返り咲くという状況だった。
マルメの主将でスウェーデン代表経験をもつダニエル・アンデション。
試合開始の約2時間前にスタジアムに到着。周りを見渡すとブロンマポイカルナのサポーターはあまり見かけず、マルメサポーターが多く見られる。これではどちらのホームゲームだかわからない。優勝争いを演じているマルメのサポーターが敵地でも応援にかけつけるというのは珍しいことでも何でもない。だが、降格の危機に立たされているブロンマポイカルナのサポーターが少ないのはいったいどういうことか。「08」(「ストックホルムに住む人」という意味。ストックホルムの市外局番が08でことに由来する)にとって応援するクラブといえばAIKやユールゴーデンIF、ハンマルビーIFであって、ブロンマポイカルナは選択肢のうちに入らないのだろうか。
スタジアム外でチャントをするマルメサポーター。
試合前から盛り上がりをみせるマルメサポーター。
繰り返すが、ここはマルメのホームではない。
スタジアム外でチャントをするなど早くも盛り上がるマルメサポーターの姿をみて苦笑しながら、スタジアムに入場。前日のAIK対エルフスボリIF同様、この日もメインスタンド中央の前列2列目の席を確保。前日観戦したロースンダと比べると、観客席とピッチとの距離がかなり近い。スタンドを見渡すと、バックスタンド側にマルメサポーターの一団が構えているのが見られるが、ブロンマポイカルナの一団は見られない。繰り返しになるが、どちらのホームゲームだかわからない。
ほぼ定刻どおりにキックオフを迎えたこの試合は、大方の予想通りマルメのペースで進んでいく。マルメは最終ラインから前線までが非常にコンパクトで、チームとしての完成度の高さがうかがえる。ブロンマポイカルナの選手はマイボールになっても攻撃を仕掛けることができず、マルメの守備網にかかりあっさりボールを失うシーンが数多くみられた。
選手個々人に目を向けると、目立っていたのは右サイドのモリンス。ウルグアイのリーツをもつこのU21スウェーデン代表MFは右サイドを完全に支配し、対峙するDFを何度となくかわしチャンスを演出。ときおりゴール中央にも顔を出し、開始8分には強烈なミドルシュートを放ち相手ゴールをおびやかした。だが、逆サイドで構えるハマドの動きが今ひとつだったためにマルメの攻撃はモリンスの右サイドに偏重してしまい、なかなか決定的な場面を作り出すには至らず。両チーム無得点のまま前半が終了した。
それにしても、再三になるが、どちらのホーム試合だかわからない。マルメがいいプレーをみせればスタジアム全体から大きな拍手があがる一方、ブロンマポイカルナのそれに対しては起こる拍手はごくわずか。ブロンマポイカルナの選手たちにとって、本拠地でアウェーの扱いを受けるのはかなり堪えたのではないだろうか。
ハーフタイム中、ユースの大会で好成績を収め表彰されるブロンマポイカルナユースの少年たち。このなかから「第2のリンパル、エクダル」は現れるか。
それと、あるマルメサポーターにも触れておこう。前日のAIK対エルフスボリでは前に座っていた女の子2人のパフォーマンスに目を奪われてしまったのだが、この日もあるひとりの男性に目がいってしまった(とはいえ、試合に集中できなくなるというほどではなかったが)。マルメのニットとマフラーを身に着けた見た目30代の彼は、マルメに対して不利な判定が下されるたびにフェンスに身を乗り出して審判に対して野次。警備員が何度か注意をするのだが、まったく意に介さず、ひたすらマルティン・イングバルション主審、そばにいた副審に対して放送禁止用語を連呼していた。
後半が始まると、前半まるでいいところがなかったブロンマポイカルナが巻き返しをはかる。ボールを奪ったら前線の選手に対してシンプルにボールを放り込むとシーンがみられ、これにマルメDF陣の混乱を誘った。
前半の勢いがなくなったマルメ。ローランド・ニルソン監督は業を煮やしたのか、精彩を欠くハマドに代えてジェフレイ・アウビンを投入。そしてその4分後、アウビンがニルソン監督の期待に応える。ガーナのルーツを持つこの33歳は59分、右サイドからの折り返しに対して頭であわせ、チームに先制点をもたらした。マルメサポーターが陣取るバックスタンドでは発炎筒がたかれ、警備員が応対しているのが見られた。
これで勢いづいたマルメは、勝ち点3獲得というミッション達成をより確実なものにする。先制点から20分後、ダニエル・ラーションに代わって入ったダルダン・レジェピが左サイドを破り、グラウンダーでゴール前に折り返すと、これにメフメティが反応。コソボのルーツをもつ2人のホットラインがチームに追加点をもたらした。
秀逸だったのはメフメティのゴールパフォーマンスだ。彼はどこから持ってきたのか知らないが、カメラを手にしてカメラマンに扮し、ゴールを祝福するために集まってきたチームメイトたちを撮りはじめたのだ。観客席から大きな笑いが起こり、スタジアム全体が和やかなムードに包まれた(あとでわかったことだが、メフメティが借りたカメラは、スウェーデン南部の大手国内紙『Sydsvenska』のカメラマン所有のものだったらしい)。
3点目が決まった直後のシーン。手前で警備員とハイタッチしているのは、先述したマルメサポーター。マルメが先制点を奪ってからだいぶおとなしくなった。
マルメサポーターが完全にお祭り騒ぎのなか、マルメはその後、83分にレジェピが、そしてロスタイムにはダニエル・アンデションがPKを決めて計4点を奪取。格下相手に確実に勝利を手にし、得失点差でヘルシンボリを上回り再び首位に返り咲いた。
一方のブロンマポイカルナ。この日の敗戦によって、昇降格プレーオフ進出のためには最終節(対ヘッケンBK)で10点差以上での勝利が絶対条件となり、事実上のスーペルエッタン降格が決まった。若手の育成に定評のあるクラブがアルスベンスカンを去らなければならないのは非常に残念だが、クラブにとってまずはサポーターの確保が大事ではないかと感じた。今日は優勝争いをしているマルメが相手だったとはいえ、ホームにもかかわらずアウェーの雰囲気で試合をしなければならなかった選手たちがあまりにも気の毒だった。クラブは今後、プロモーション活動により力を出していくべきだろう。
IFブロンマポイカルナ0-4マルメFF
59分 アウビン(0-1)
79分 メフメティ(0-2)
83分 レジェピ(0-3)
90分 ダニエル・アンデション(0-4)
ブロンマポイカルナ
ノードフェルト:ステファニディス、コルクマス、オデリウス 、ミーコ・アルボルノス:ルンネモ、ヌゴウリ、イェンセン、ベンヤヒア(78分 ビラダマ):グーテシュタム、アンドレアス・エリクソン(78分 バフーリ)
マルメ
ダーリン:ビンセンツ、フェルナンデス、ダニエル・アンデション、リカルド:ペカルスキ、モリンス、フィゲイレード、ハマド(55分 アウビン):ダニエル・ラーション(77分 レジェピ)、メフメティ(84分 ドゥルマス)
地下鉄Solna Centrum駅で下車し地上に出れば、眼前にはスタジアムが見える。スタジアムに行く途中、トンネルがあるのだが、そのトンネルの中には過去の名選手の手形ならぬ足形が飾られている。それらのなかには、ラルフ・エドストロームやグレン・ヒセーンといった70-80年代に活躍した選手から、トーマス・ブロリンやマルティン・ダーリン、トーマス・ラベリといった94年米国W杯組のものまである。
キックオフの約1時間前にスタジアムに到着。ロースンダでの観戦は2年連続ということになるが、去年のAIK対ハンマルビーIFのストックホルムダービーのときは試合前からチームのサポーターズソングを歌う熱狂的なAIKサポーターをちらほら見かけたのだが、今回はそのような光景を目にすることはなかった。ダービーマッチではないという理由もあるだろうが、チームの不振がサポーターにも影響を与えているのではないかという気がした。
AIKのオフィシャルショップ。
この日押さえた席は、メインスタンド中央の前列2番目。去年スウェーデンを訪れたときはピッチ全体を俯瞰して観戦したいという目的でメインあるいはバックスタンドの2階席中央を確保したのだが、今回は選手を間近で観たいという理由から、前の席を選択した。チケットは去年と同じく、ストックホルム中央駅付近のセルゲル広場のすぐそばにあるサッカーショップ「DERBY」で購入した。
ここで両チームについて紹介。AIKはストックホルムのソルナに本拠を置くクラブで、スウェーデンのなかでも伝統あるチームのひとつだ。日本では、日系人ステファン・イシザキ選手(現IFエルフスボリ)が所属していたクラブとして知られているかもしれない。昨季は堅い守備をベースにしてリーグ戦とカップ戦の2冠を達成。だが今季は、昨季までのレギュラーが6人離脱したことが大きく響いたのか、序盤から下位に低迷し、現在は残留争いを強いられている。ピッチの外に目をむければ、リベリア人ジョンソンが婦女暴行容疑で逮捕され、サポーターが経営陣の解任を要求するなど、クラブにとって散々な1年となってしまっている。なお現在の監督は、かつてジェフ千葉で指揮した経験をもつスコットランド人アレックス・ミラーだ。
一方のエルフスボリは、スウェーデン南西部のボロースに拠点を置くクラブ。1930年代から40年代にかけて3度のリーグ制覇を成し遂げたのだが、以後は可もなく不可もないといった成績で国内での存在感は決して高くはなかった。だが、2005年に転機を迎える。コミューンの協力もあり、人工芝のピッチを備えるボロース・アレナを建設し新たなホームスタジアムに。さらに同年、2002年の日韓W杯でスウェーデン代表の中心として活躍し、当時イングランドのサウサンプトンFCでプレーしていたアンデシュ・スベンソンを獲得。するとその翌年には45年ぶりとなるリーグ制覇を達成。人工芝のホームスタジアムをもつクラブとして初のリーグチャンピオンに輝いた。以後はすっかり強豪クラブとして定着し、2007年以後は4位、2位、3位と安定した成績を残している。今季も序盤から安定した戦いぶりを披露し、マグヌス・ハーグルンド監督が採用する4-2-3-1はもはや円熟の域に達しており、攻守において質の高いサッカーを展開。ゴールを守るデンマーク代表イェスペア・クリスチャンセン、アンデシュ・スベンソン、イシザキなど好選手をずらりと揃えているが、注目は1トップを務めるデンニ・アブディッチ。U-21スウェーデン代表の22歳は今季19得点をマークし、リーグ得点ランク2位につけている。
スタジアムのなかに入ると、すでにエルフスボリの選手がピッチで練習を始めていた。AIKの選手はまだ登場していないようだ。席について、配られたマッチデープログラムをみていると、突然タバコの煙が鼻をついてきた。右後ろに座っていたガラの悪い男性2人(おそらくスウェーデン人)がタバコを吸い始めたのだ。「喫煙所で吸えよコノヤロウ!!」と注意する勇気は私にはなく、周りの観客も見て見ぬふり。煙が目にしみ始め、イライラ指数がどんどん高くなってきた。だがそのとき、警備員がやってきて彼らに対し、「タバコを吸う場所があるからそこで吸いなさい」と注意。2人組は「わかった」と答え、喫煙をやめた。これまで国内外問わずいくつかサッカー観戦をしてきたが、指定されたエリア以外でタバコを吸っている観客をみたのは始めてた。
ほっと一安心したところで、大きな歓声があがる。AIKの選手たちがピッチに登場したのだ。
ニルス・エリック・ヨハンソンやケニー・ペイビー、それにチームのエースになりつつあるモハメド・バングラの姿も見えが、遠目でみて誰だかわからない選手が少なくない(自分の勉強不足のせいもあるが)。こうしてみると、ダニエル・オールンドやマルティン・ムトゥンバ、それにイバン・オボロといった昨季のリーグ優勝に貢献した選手たちが他クラブへ移籍してしまったという事実を改めて認識させられる。
ここで、ツイッターでフォローしていただいている方から依頼されていた現地でのミラー監督の評判のことを思い出し、私の両隣に座っていた男性に聞いてみた。彼らの答えは、「彼は良い仕事をしている。悪いのは選手たちだ」とのこと。考えてみれば、ミラーが就任した6月の時点でチームはすでに下位に低迷していたわけだから、今季の不振の責任を彼に押し付けるのは間違いだ。昨季までのレギュラーの約半数が抜けたのだから、戦力低下は必至だろう。そんなことを考えていると、左に座っていた中年の男性が突然、「アッタを起用しないからだ。彼がいないから守備はひどいことになっているんだ」と言い出した。
バリド・アッタ。エリトリアのルーツをもつ24歳のセンターバックで、リーグ序盤は先発で出場していた選手だ。だが今夏にクラブとの契約を延長しないことがわかると、サポーターがクラブに対してアッタをプレーさせないよう要求。クラブは最終的に彼らの要求を受け入れ、以後アッタは18節を最後にピッチに立つことはなくなった。だが、27節にセントラルMFとして復帰すると、前節のハルムスタッドBK戦でもプレーしチームの勝利に貢献した。なお、アッタが復帰した理由については定かではない。
たしかに、アッタは不調のチームにあってなかなか良いプレーを見せていたのは記憶している。それでも、チームの成績を左右するほどの選手ではないと思っていたので、先述した中年男性のいうことを半ば聞き流していた。
両チームの練習中、今日のスタメンが発表された。印象的だったのは、エルフスボリのイシザキの名前がコールされると、スタジアム全体から小さくはない拍手が起きたこと。彼は1999年から2004年までAIKでプレーしていたのだが、いかに彼がクラブで愛されていたのかがわかる。AIKのスターティングイレブンに目を向けると、中年男性お薦めのアッタはセンターバックとして先発に名を連ねていた。
ステファン・イシザキ。かつてAIKでプレーしていた。
両チームの選手が練習を終えていったんピッチを後にすると、ゴール裏のAIKサポーター席からは様々なチャントが起こり、さらには発炎筒が炊かれ、煙がスタジアム全体に充満。キックオフへの期待が高まる。
定刻どおり17時にキックオフを迎えたこの試合は、序盤からエルフスボリ優勢で進む。セントラルMFとして構える現役スウェーデン代表アンデシュ・スベンソンを中心に小気味よくパスをつなげ、AIKを自陣に押し込んでいく。前半終盤には、イシザキがゴール左45度の位置から強烈なミドルシュートを放ちゴールを脅かした。一方のAIKは、右サイドで構えるルンドベリとペイビーが奮闘するが、最後のクロスのところで精度を欠き、チャンスを作り出すには至らない。両チームの順位がそのまま反映されたような前半が終了した。
実をいうと、前半に関してはあまり試合に集中できなかった。最前列に座っていた、父親に連れられた5歳くらいの女の子2人の「パフォーマンス」に思わず目を奪われてしまったからだ。父親の右側に座っていた子は発炎筒によってスタジアム全体に充満した火薬の臭いに顔をしかめながら手で払う仕草をみせていたのだが、その可愛らしい姿に思わず目がいってしまったのだ(変な趣味はないので。あしからず)。
その後、スタジアム全体を覆っていた発炎筒の煙がほぼ消え、その女の子が臭いを気にしなくなったので、これで自分も試合に集中できると思ったら、今度は左側に座っていた女の子が、座席を踏み台にして上り下り運動を始めたのだ。父親のほうはというと、止めさせるのではなく「がんばれがんばれ!」と言い始め、女の子の運動を煽る始末。スウェーデン在住の方のブログに「スウェーデンでは、親の子に対する躾がなっていない」といった内容のことが書かれていたのを思い出したが、実際はどうなのだろうか。今回の場合は、単純に父子のやりとりを楽しませてもらったのだが。
また、前半から何度か発生していた一部のAIKサポーターからの「デブ!」という野次が誰に向けられているものなのか、こちらも気になっていた。去年ストックホルム・スタディオンでユールゴーデンIF対オルグリテISを観戦したときには主審のマルティン・ハンソン氏に対して同様の野次が浴びせられていたのを思い出したが、今日の主審はハンソン氏ほど太いわけではない。むしろ痩せ型の部類に入るほうだ。そうなると、エルフスボリの誰かなのだろう。
閑話休題。後半が始まっても、試合は依然としてエルフスボリのペース。だがAIKは、残留への執念がそうさせるのか、気合の入った守りで相手の攻撃を防ぐ。とりわけ球際での強さが光った。
そして触れなければいけないのが、先述した中年男性お薦めのアッタだ。彼はエルフスボリの要注意人物アブディッチにボールが入りそうになると、タイミングの良いインターセプトでボールをカットし、空中戦では10センチ大きい彼に常時競り勝っていた。攻撃面でも、時折みせるオーバーラップによってチームのオフェンスに貢献。アフリカのルーツを持つセンターバックというと、デンマークのFCコペンハーゲンに所属するマティアス・ヨルゲンセンがいるが、個人的にはアッタのほうが好みだ。積極的にインターセプトを狙う姿勢は、元デンマーク代表のマルティン・ラウルセンを彷彿とさせた。彼がシーズンを通して出場していれば、少なくともクラブが残留争いを強いられることはなかったのではないか、そう思わずにはいられなかった。
そんなことを考えていたら、ついに試合の均衡が破られる。ゴールネットを揺らしたのはAIKのほうだった。50分、左サイドからの折り返しをペナルティエリア内で受けたバングラが相手DFに競り負けることなくボールをキープし、右足でエルフスボリゴールを揺らした。前節のハルムスタッド戦でゴールを挙げたシエラレオネ人ストライカーがまたしてもゴール!得点後にダンスを披露した彼に対し、サポーターから「バン・バングラ!」の大合唱が起こり、ゴール裏席からは発炎筒が炊かれた。
これで試合の流れが変わり、前半から冴えをみせていたエルフスボリのボール回しが見られなくなり、ペースはAIKに傾いていく。それと、前半から気になっていた一部のAIKサポーターからの「デブ!」という野次が誰に向けられたものなのか、ようやくわかった。エルフスブリのアンデシュ・スベンソンだ。確かにサッカー選手としては太いほうかもしれないが、デブというほどではないだろう。現役スウェーデン代表選手なのだから、野次るならもう少し柔らかい表現にしてくれ。
70分過ぎになると、ゴール裏のサポーター席から「みんな立ち上がれ!」という掛け声が聞こえ、ほんの一部を除いてスタンドにいるほぼ全員が席を立って応援。そして75分、試合を決める追加点が生まれる。先制点を挙げたバングラのお膳立てから、右サイドでいい動きをみせていたルンドベリがチームに2点目をもたらし大勢は決した。ホーム最終戦を勝利で飾ったAIKは、これで残留が確定。ピッチ内外で様々なことが起き散々な1年だったと思われるが、笑ってシーズンを終えられそうだ。
この日1得点1アシストを記録したバングラ。
それにしても、アブディッチを押さえ込んだアッタのプレーには感銘を受けた。試合終了後、中年男性に「アッタは(全得点に絡んだ)バングラよりも良かった」と言うと、彼は「そうだろ?」と嬉しそうにうなずいた(あとでわかったことだが、アッタを視察するためにスコットランドのグラスゴー・レンジャースのスカウトがこの試合の視察に訪れていたそうだ。アッタが最終的に選択したのは、クロアチアの強豪ディナモ・ザグレブ(11月11日にサイン)。新天地での活躍に期待したい)。
試合後、AIKの選手たちがスタジアムを一周し始め観客へ感謝。そのとき、ちょうど後ろに座っていた少女2人組が何やら横断幕を取り出し、それを掲げ始めた。ペイビーのファンらしい。可愛らしかったので、1枚撮らせてもらった。
翌日は、同じくストックホルムで行なわれるIFブロンマポイカルナ対マルメFFの試合を観戦する。
AIK2-0IFエルフスボリ
50分 バングラ(1-0)
75分 ルンドベリ(2-0)
AIK
トゥリナ:ペイビー、バックマン、アッタ(90分 マリプー)、ニルス・エリック・ヨハンソン:ダニエルソン、ロベルト・オーマン・ペーション、フラビオ(85分 カトビッチ)、ルンドベリ(76分 シェルンストローム):バングラ、リュボイェビッチ
エルフスボリ
イェスペア・クリスチャンセン:マティアス・フロレーン、マルティン・アンデション、ヨン・ヨンソン、クラーシュトローム:アンデシュ・スベンソン、モバエク、キーン、マルティン・エリクソン、イシザキ(80分 ヨハン・ラーション):アブディッチ
訪問者カード。
記者会見場。ここで4日前、AIKの会見が行われたそうだ。代表チームの記者会見もここで行われる。
ホームチーム用のロッカールーム。
シャワールーム。
各国クラブとの交流の跡。セルティックのグッズが目立つのは、かつてヘンリク・ラーションやヨハン・ミェルビーといったスウェーデン人選手が所属していたからだそうだ。
各国協会のペナント。
ピッチからみたロースンダ・スタディオン。








そこで私は、ストックホルムに戻らずにヘルシンボリに向かい、ヘルシンボリIF対ユールゴーデンIFの試合を観戦するという選択肢を入れることにした。理由は、ヘンリク・ラーションの現役最後の試合を観るためだ。これまで幾度となく引退を表明しては復帰を繰り返してきたヘンケだが、今回ばかりは本当に最後のような気がしていたのだ。よって、明日ストックホルムに戻るか、それともヘルシンボリへ南下するかどうかは、今日の試合の結果に委ねられることになった。
ストックホルムから、特急列車X2000で3時間ほどでヨーテボリに到着。駅から徒歩5分くらいのところに、この日の試合会場であるヨーテボリの本拠地ガムラ・ウッレビィがある。ガムラ・ウッレビィは、1906年に建設されたスタジアムだが、2007年にキャパシティ増加のため解体され、2009年4月に建て直された。収容人数は19000人で、デンマークのブロンビーIFの本拠地であるブロンビー・スタディオンにインスパイアされたそうだ。ヨーテボリのほかに、GAISとオルグリテISがこのスタジアムをホームとしている。
ここで今日対戦する両チームの紹介。ヨーテボリは、スウェーデンを代表する強豪クラブで、一昨年のリーグ覇者だ。1980年代に2度UEFAカップを制し、また1994-1995シーズンのチャンピオンズリーグではイェスペア・ブロンクビストやヨアキム・ビョークルンドといった当時のスウェーデン代表メンバーを擁し、ベスト8に進出した。「グレ・ノ・リ」のひとり、グンナール・グレンはこのクラブの出身で、ガムラ・ウッレビィの前には彼の像が飾られている。
今季も前評判通りの強さを見せ、これまで首位AIKに勝ち点差1で2位につけているヨーテボリだが、チームは野戦病院と化しており、これまでロビン・ソーデルやアダム・ヨハンソンら4選手が靭帯損傷という重症を負い、すでに今季絶望となっている。にもかかわらず、こうして優勝争いに残っている要因としては、若手に対する育成が充実しているからなのかもしれない。たとえば、現在のチームで最終ラインの一角を担うミカエル・ディーレスタムはわずか17歳だ。ほかにも、ニクラス・ベルクロート(17歳)、セバスティアン・エリクソン(20歳)といった若手が少なからずチームに貢献している。先述したソーデル(18歳)は、ACミラン(イタリア)やバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)といったビッグクラブが興味を示したことがある、国内で最も期待されている選手だ。今夏行なわれたU-21欧州選手権に参加したスウェーデン代表のレギュラーのうち、DFマティアス・ビェシュミル、MFポントゥス・ベルンブローム、グスタブ・スベンソン、そして大会得点王とMVPを獲得したFWマルクス・ベリの4選手がヨーテボリ出身であることから、いかにクラブの育成が優れているかが窺い知れる。チームの若手育成を担当しているロゲル・グスタフソン氏は、指導者として高い評価を受けている。
一方のハルムスタッドは、かつてイングランドのアーセナルでプレーしたことのあるフレデリク・ユングベリ(現シアトル・サウンダーズFC/米国)の出身クラブとして知られている。2000年には名将トム・プラール監督(現トレッレボリFF監督)のもと、ペッテル・ハンソン(現スタッド・レンヌ/フランス)やステファン・セラコビッチ(現IFKヨーテボリ)らを擁しリーグを制覇した。だがその後は、2位に入った2004年以外は中位でフィニッシュ。現在はアルスベンスカンのなかでも可も不可もないチームだが、U‐21スウェーデン代表のエーミル・サロモンソン、エミール・クヨビッチ、ドイツ人ミカエル・ゲルリッツ、それにフィンランド代表として今夏のU‐21欧州選手権に出場し高い評価を得たティム・スパルブなど将来を嘱望される若手が多数所属しており、今後が楽しみなチームだ。
スタジアム到着後、まずチケット売り場でチケットを購入。バックスタンド側の2階席最前列を確保した。その後、しばらく観光に時間を充て、試合開始の約2時間前に再びスタジアムに戻り、中に入る。この際、ボディチェックとバッグの中の検査がきちんと行なわれることに。ストックホルムでの過去2試合ではなかった、まともな入場チェックがようやくみられた気がした。
両チームのスタメンは以下のとおり。
ヨーテボリ(4-2-3-1)
クリステンセン:ディーレスタム、シグルドソン、トゥルネン、ルンド:グスタフ・スベンソン、ヤコブ・ヨハンソン、セラコビッチ、セバスティアン・エリクソン、ヒセーン:ベルクロート
ハルムスタッド(4-2-3-1)
バーネ:マルクス・グスタフソン、ズビルグズダウスカス、ロセーン、サロモンソン:スパルブ、ラスカイ、サエバション、ゲルリッツ、エミール・クヨビッチ:シセ
予定通り、19時に試合が開始される。序盤、意外なことにハルムスタッドのほうが動きがよい。1トップの15番、シセに当ててその後方から中盤陣がサポートする攻撃は幾度かヨーテボリ守備陣を慌てさせる。一方、ヨーテボリは両サイドから崩そうという意図は見られるものの、なかなか決定的なチャンスを作り出すには至らない。
それでも、この試合最初のビッグチャンスを迎えたのはヨーテボリ。コーナーキックのこぼれ球からハンネ・スティッレルがゴール中央でフリーになるが、彼の放ったシュートは惜しくも枠を外れた。
するとその直後の29分、逆にハルムスタッドがチャンスをものにする。4-2-3-1の「3」の中央に位置し、これまでも再三ヨーテボリを脅かしていたクヨビッチがコーナーキックを右足でダイレクトで合わせ、ヨーテボリのゴールネットを揺らした。
戦前のメディアの予想ではヨーテボリ勝利を推す声が大半を占めていたが、優勝争いのプレッシャーからなのか、ヨーテボリイレブンの動きは良くない。逆にこの試合に何もモチベーションがないハルムスタッドは、攻撃陣が溌剌とした動きをみせる。すると44分、ハルムスタッドに2点目が生まれる。ゲルリッツが鮮やかなドリブルでヨーテボリの左サイドをズタズタに切り裂き、中央のシセにパスを供給。シセはこれを170センチの小兵サエバションに渡し、サエバションはダイレクトでキム・クリステンセンが守るゴールを割った。
これまでホームでの試合では13戦で11勝3分と圧倒的な強さを誇ってきたヨーテボリにとって、この展開はまさに予想外。攻めに出ようとするもののサイド攻撃は機能せず、さらには最終ラインからの単調なロングボールに終始する始末。ふがいないチームに対し、サポーターからは早くも罵声が飛び交っていた。
動きに精彩を欠くヨーテボリを尻目に、ハルムスタッドはさらに攻勢に転じる。ハルムスタッドの攻めが機能している原因は明らか。シセの下で構えるクヨビッチが前を向いた状態でボールを受け、自由にプレーできるからだ。彼が自由に攻撃のタクトを振るうことができることによって、チームの攻撃はよりダイナミックになっていた。ヨーテボリにとって、セントラルMFを担当するグスタブ・スベンソンがクヨビッチを抑えなければならないのだが、掴みきれていない印象を受けた。
前半終了を告げる笛がなったとき、スタジアムはブーイングというよりも静寂が包んだ。サポーターはもう勝利を諦めてしまったのだろうか。
ハーフタイム中、スクリーンには、累積警告によりこの試合の欠場を余儀なくされたトーマス・オルソンがインタビューに答えていたが、第一声が大きなため息であることから、いかに彼がチームの出来に不満かが窺い知れた。
後半が始っても、依然としてヨーテボリの動きは重い。サイドから崩そうという意図は感じられるのだが、いかんせんドリブル、パス、そして最後のクロスの精度が低いために相手ゴールを脅かすには至らない。
だがそれでも、リーグ得点ランク2位につけるヒセーンが独力で1点を返す。28歳のレフティは52分、右サイドでボールを受けると、対峙したスパルブを股抜きしてフリーになり、左足を一閃。リーグ屈指のGKマグヌス・バーネはボールがネットに吸い込まれていくのをただ見送るしかなかった。
これで流れはヨーテボリに傾く。57分には、先月現役復帰を果たした前スウェーデン代表のニクラス・アレクサンデションがピッチに投入される。左サイドハーフとして配置されたこの38歳は、いきなり好クロスを供給し、スタンドを沸かせる。アレクサンデションの登場でヨーテボリが完全に息を吹き返したのは明らかで、徐々にハルムスタッドを追い込んでいく。
だが69分、グスタフ・スベンソンがシセを後方から倒してしまいイエローカードを受けてしまう。これでスベンソンは、5日後に最終節、AIKとの直接対決を欠場することになってしまった。メディアの間でも「代えのきかない選手」と高い評価を受けていたこの23歳のセントラルMFが最終決戦に出場できないという事実は、少なからずサポーターに影響を与えたようで、その後しばらくは何となく盛り上がりを欠いたように感じられた。
だが、そんなスタジアムの雰囲気を変えたのはやはりというべきか、ヒセーンだった。76分、右サイドのセラコビッチがゴール前に折り返すと、これがバーネのキャッチミスを誘う。そのこぼれ球に再びヒセーンが反応し、ヨーテボリが試合を振り出しに戻した。
これでスタジアムが俄然盛り上がる。サポーターは「Kom igen Blaavit(さあ来い、ブロービット(ヨーテボリの愛称。「青と白」という意味」)と叫び、選手を後押しする。このままの勢いで逆転、といきたいところだったが、どういうわけかヨーテボリの選手に得点に対する執念のようなものが感じられない。ロスタイムに突入後、ヨーテボリはフリーキックのチャンスをつかんだのだが、引き分けという結果で満足しているのか、4人がセンターサークルに残りカウンターに備えるという消極策を選択。勝ち点3を獲得し、翌日試合があるAIKに対してできる限りプレッシャーをかけるべきではないのか。そんなことを考えていると、試合はタイムアップを迎えた。
この試合、前半は完全にハルムスタッドのゲームだった。攻守に奮闘したスパルブ、攻撃の中心だったクヨビッチ、そしてタイミングのよいオーバーラップでサイドアタックを活性化させたサロモンソンらの若手選手は、期待に違わぬプレーを披露。来季が楽しみなチームだ。
そしてヨーテボリ。ボロボロだった前半から一気に後半に巻き返し同点に追いついた点は評価できるが、引き分けでも満足している雰囲気が漂っていたのは気になった。だがとにかく、ヨーテボリはAIKに勝ち点で並んだため、明日AIKが優勝する可能性はなくなった。よって、明日はストックホルムに戻らずヘルシンボリに向かいラーションの引退試合を観ることになった。
IFKヨーテボリ2‐2ハルムスタッドBK
29分 エミール・クヨビッチ(0‐1)
44分 サエバション(0‐2)
52分 ヒセーン(1‐2)
76分 ヒセーン(2‐2)
ヨーテボリ(4-2-3-1)
クリステンセン:ディーレスタム、シグルドソン、トゥルネン(46分 スティッレル)、ルンド:グスタフ・スベンソン、ヤコブ・ヨハンソン、セラコビッチ、セバスティアン・エリクソン、ヒセーン:ベルクロート(57分 ニクラス・アレクサンデション)
ハルムスタッド(4-2-3-1)
バーネ:マルクス・グスタフソン、ズビルグズダウスカス、ロセーン、サロモンソン:スパルブ、ラスカイ(71分 マハマト)、サエバション、ゲルリッツ、エミール・クヨビッチ:シセ
ハイライトは
今日10月25日は、今回の滞在で最も楽しみにしていたカード、ハンマルビーとAIKのダービーマッチが行なわれる。この2チームにユールゴーデンIF、ブロンマポイカルナIFを加えた4チームによる「ストックホルムダービー」は、スウェーデン最大のダービーマッチだ。このダービーマッチ、近年はサポーターによる暴動が激化しており、毎試合数十人の逮捕者を出している。5月に行なわれたAIKとハンマルビーの試合では観客席間で発炎筒などが投げ込まれ、スタジアムは一時騒然となった。盛り上がるのはよいが、度を越えた行為は勘弁してほしいと願いながらスタジアムに向かった。
この日の試合会場であるロースンダ・スタディオンは36000人を収容するスウェーデン最大のスタジアムで、代表戦ではもっぱらこのスタジアムが利用される。1937年に完成されたこのスタジアムは、サッカーW杯で男女決勝が行なわれたことがある競技場として一部では知られている。男子は1958年、女子は1995年だが、1958年の男子決勝は地元スウェーデンとブラジルとの間で行なわれ、このときは王様ペレの活躍でブラジルが5対2で優勝を飾った。
地下鉄Solna Centrum駅で下車し地上に出れば、眼前にはスタジアムが見える。スタジアムに行く途中、トンネルがあるのだが、そのトンネルの中には過去の名選手の手形ならぬ足形が飾られている。それらのなかには、ラルフ・エドストロームやグレン・ヒセーンといった70-80年代に活躍した選手から、トーマス・ブロリンやマルティン・ダーリン、トーマス・ラベリといった94年米国W杯組のものまである。
前日のユールゴーデン対オルグリテの試合よりも少し早く、キックオフの2時間前にスタジアムに到着。試合開始までまだ時間があるというのに、すでに少なくない数のサポーター、そして警備員の姿が見られる。「警備員の出番がありませんように」と願いながら中に入る。この日押さえた席は、昨日のメインスタンドとは逆のバックスタンド側だ。チケットは、ストックホルム中央駅付近のセルゲル広場のすぐそばにあるサッカーショップ「DERBY」で購入したのだが、販売員の男性と交渉し、2階席の最前列ほぼ中央を確保した。
ここで両チームについて紹介。AIKはストックホルムのソルナに本拠を置くクラブで、スウェーデンのなかでも伝統あるチームのひとつだ。日本では、日系人ステファン・イシザキ選手(現IFエルフスボリ)が所属していたクラブとして知られているかもしれない。近年は優勝争いに絡むことができなかったのだが、今年は鉄壁の最終ライン、そしてブラジル人フラビオ、リベリア人ジョンソン、そしてアルゼンチン人オボロといった外国人選手が中心になって、序盤から好調を維持。今日の時点ではIFKヨーテボリと勝ち点2で2位だが、1試合消化が少なく、この日のダービーを制すれば首位に立つことができる。
一方のハンマルビーは、こちらもAIK同様に伝統のあるクラブで、ストックホルムのソーデルマルムに本拠を置く。2001年には現アヤックス・アムステルダム(オランダ)所属のケネディ・バキルチオグリュを擁してリーグ制覇を果たしたのだが、以後は中位と上位でのフィニッシュを繰り返していた。そして今季は、序盤から下位に低迷。財政難という追い討ちもあり、シーズン途中で監督、会長が変わるというドタバタ劇を演じ、現在はリーグ最下位。相手が優勝を争うAIKとはいえ、この試合で勝たなければアルスベンスカンからの降格がいよいよ現実味を帯びてくる。ちなみに、現在スペインのビジャレアルでプレーしているウルグアイ代表セバスティアン・エグレンは2006年から2年間、ハンマルビーでプレー。また米国代表FWで、今月半ばに自動車事故を起こしW杯出場が危ぶまれているチャーリー・デイビスも、2007年から今年の夏までこのストックホルムのクラブに所属していた。
両チームのスタメン発表時、AIKのメンバーが紹介されたときにはハンマルビーサポーターは無反応だったのだが、ハンマルビーのメンバーが紹介されるとAIKサポーターからは大きなブーイングが。このとき、3年くらい前に呼んだ雑誌に、最も危険なサポーターがAIKで、逆に最も安全なサポーターがハンマルビーと書かれていたのを思い出した。
両チームのスタメンは以下のとおり。
ハンマルビー(4-4-2)
ビョークルンド:モンテイロ、ゲルブランド、アーマス、エーミル・ヨハンソン:トラオレ、ダール、ソーデルストローム、ヘリ:ダ・シルバ、ソーデルベリ
AIK(4-4-2)
オールンド:マルクス・ヨンソン、ペール・カールソン、ホーイフェルト、ニルス・エリック・ヨハンソン:ムトゥンバ、オルリッツ、ジョンソン、ジョルディッチ:フラビオ、オボロ
その後、ちょっとした私情があり、両チームの練習風景をみることができず、再び席についたときにはすでに両チームの選手は練習を終えピッチを後にしていた。キックオフ15分前、この日ホーム扱いのハンマルビーのサポーターソングが流れ、観客は立ち上がり合唱。歌が終わったあと、ゴール裏に占める両チームのサポーター席に目が釘付けになる。ハンマルビー側では紙吹雪が振り、その後スタンド中央に発煙筒がたかれた。これまで、スタジアムにおける発煙筒といえば危険なイメージがあったのだが、今回ばかりは、こう言ってはおかしいが「美しい」と感じた。一方、反対のAIK側をみると、観客席全体でチームロゴが。この時点ですでに興奮度100%に達していたのだが、その直後、追い打ちをかけるようにスタジアム全体で「あの」掛け合いが始まった。「あの」といわれてもスウェーデンファン以外の方々には理解してもらえないだろう。この掛け合いはサッカーのみならず、スウェーデンでは典型的な応援として知られている。一方のスタンド側が「Andra sidan är ni klara?(反対側、準備はいいか?)」と叫ぶと、反対側が「Jaja mensan fattas bara!(もちろん、当たり前だ!)」と返す。そして、交互に「Vi är svenska fans allihopa!(我々みんなはスウェーデンのファンだ!)」と叫ぶのだ。この掛け合いを初めて生で聞いたのは3年前、この試合と同じくロースンダで行なわれた欧州選手権予選のスウェーデン対スペインの一戦だったのだが、当時は掛け合いについて知らなかったためにただ聞き流していた。
だが今回は違う。思わず一緒になって掛け合いに参加。掛け合いが終わった後、興奮は最高潮を超えて絶頂に。これまでアムステルダム・アレナ、セント・ジェームズ・パーク(ニューカッスル)、パーケン(コペンハーゲン)、ボーロス、そしてカンプ・ノウ(バルセロナ)といくつか海外のスタジアムを訪れたが、この日ほど心が震えたことはなかった。
そして定刻どおり、12時半にキックオフを迎えた。しばらく放心状態でまともに試合を観戦できなかったのだが、序盤は両チームとも仕掛けることなく静かな立ち上がり。だがその後、現在のチーム状態どおり、徐々にAIKが試合の主導権を握っていく。近年は満足な成績を残せていなかったAIKだが、今季の強さの秘密は、失点数がリーグ最少というデータが示すとおり、その守備力にある。右からマルクス・ヨンソン、ヨス・ホーイフェルト、ペール・カールソン、そしてニルス・エリック・ヨハンソンによって形成される4バックは、4人とも高くて強い。レベルは違えど、2002年日韓W杯でアルゼンチンやイングランドを苦しめた当時のスウェーデン代表の最終ラインと似ている。時折、ハンマルビーの左サイドバック、エーミル・ヨハンソンが放るクロスはAIK守備陣によっていとも簡単に跳ね返された。
AIKの中盤から前線にかけては、互いに機能していることは勿論、局面で状況を打開できる選手を備えているのが特長だ。たとえば、「アルスベンスカン最高の選手のひとり」といわれるイバン・オボロは、そのテクニカルなドリブルで幾度となく相手DFに絶望を与えてきた。このアルゼンチン人は今日は本来の動きではなかったが、その分、相棒のブラジル人フラビオがしなやかな動きでハンマルビー守備陣を混乱に陥れる。そして34分、コーナーキックからそのフラビオが押し込みAIKが先制。その後もAIKのペースのまま試合は進み、ハーフタイムを迎えた。
この試合、個人的に気になったのはAIKでセントラルMFを務めていたジュリー・ジョンソンだ。走る姿とボールを受ける前に首を振る様子がどことなく前日本代表の中田英寿氏に似ているこのリベリア代表の24歳は、昨年は無免許・飲酒運転の容疑で警察に逮捕され、最近では寝過ごして練習に遅刻し数日後の試合に出場できなくなるという、メディアの格好の餌食になるような話題を提供していたのだが、その破天荒さとは逆に、プレーはクレバーそのもの。同じくセントラルMFで、ポルトガルの名門FCポルト所属時代にはあのモウリーニョ監督のもとでプレーしていたハンマルビーのフレデリク・ソーデルストロームとは存在感がまるで違っていた。
そしてもう1人、試合前もっとも注目していたのがAIKの主将を務める左サイドバックのヨハンソンだ。地元ストックホルム出身のこの29歳は、1997年にドイツの名門バイエルン・ミュンヘンに移籍して以来、以後10年をドイツ、イングランドでプレーしてきた。何というか、彼のように長年国外でプレーしてきた(している)選手に私は滅法弱い。独特のオーラのようなものを放っているように感じられるからだ。この日のヨハンソンもまさにそうで、その落ち着き払ったプレーだけで存在感十分だった。
ハーフタイム中、国内カップ戦で優勝したハンマルビーの若年層のチームがスタジアムを一周し祝福を受けていたが、ゴール裏のAIKサポーターから大きなブーイングが。「こういうときくらい一緒に喜んでやれよ」という考えは日本的か。
後半が始まると、徐々にハンマルビーが巻き返しを図る。すると60分、右サイドで粘ってボールをキープしたホセ・モンテイロがゴール前に折り返すと、そこにシモン・ヘリが頭で反応。AIKのゴールネットを揺らした瞬間、スタジアムはこの日一番の歓声が上がり、私の斜め前に座っていた高校生くらいの少女2人は抱き合って喜んでいた。
同点ゴールで勢いづくハンマルビーは、その後も幾度かAIKゴールを脅かしアルスベンスカン残留への執念を見せる。だが、リードを奪ったのはAIKのほうだった。71分、右サイドからのグラウンダーのクロスにオボロがスライディングで狙う。これはGKに阻まれるが、そのこぼれ球を途中出場の英国人ケニー・ペイビーが押し込んだ。ミカエル・スターレ監督の采配がずばり的中。今度は、先述した少女2人にお返しとばかりに、彼女らの横に座っていた少年が両手を突き上げて喜びを表した。
AIKリードのまま試合時間が残り10分をきったところで、ゴール裏のAIKサポーターはハンマルビーに向かって「スーペルエッタン(2部)に落ちろ!」と叫び、さらには蛍の光(Auld Lang Syne)のメロディに乗せて「Bye bye、Bajen(ハンマルビーの愛称)」と合唱し始めた。
閉店時間間際のハンマルビーは、今夏に行なわれたU-21欧州選手権でレギュラーとして出場した左サイドバックのエーミル・ヨハンソンが衰え知らずの運動量で左サイドを駆け上がるが、強固なAIK守備陣を狼狽させるには至らない。そして試合はそのままタイムアップ。今年最後のストックホルムダービーはAIKが勝利し、これでヨーテボリを抜いて再び首位に返り咲いた。一方のハンマルビーは、最下位を脱出できず。これでアルスベンスカン降格が現実味を帯びてきた。
スウェーデン最高のダービーマッチの雰囲気は予想をはるかに超えていた。これまで生で観た試合のなかでは(といっても、数えるほどしかないが)、間違いなくベストだ。最高に気分が良い状態で、ロースンダを後にした。次は2日後、AIKのライバルのヨーテボリの試合を観に、ヨーテボリに向かう。
ハンマルビー1‐2AIK
34分 フラビオ(0‐1)
60分 ヘリ(1‐1)
71分 ペイビー(1‐2)
ハンマルビー
ビョークルンド:モンテイロ、ゲルブランド、アーマス、エーミル・ヨハンソン:トラオレ(79分 ズロユトロ)、ダール、ソーデルストローム、ヘリ:ダ・シルバ(46分 ガエテ)、ソーデルベリ(62分 ラファエル)
AIK
オールンド:マルクス・ヨンソン、ペール・カールソン、ホーイフェルト、ニルス・エリック・ヨハンソン:ムトゥンバ(85分 シェルンストローム)、オルリッツ、ジョンソン、ジョルディッチ(69分 ペイビー):フラビオ、オボロ
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この日観戦するユールゴーデンIF対オルグリテISの試合は、残留を争うチーム同士の一戦ということもあり白熱した戦いになることが予想された。ホームのユールゴーデンは、2000年代に入って5度の優勝経験をもつ強豪で、かつてはキム・シェルストロームやアンドレアス・イサクソン、ヨハン・エルマンデルといった現役スウェーデン代表選手、それに前イングランド代表のテディ・シェリンガムや前フランス代表で「サッカー界のデニス・ロッドマン」といわれたイブラヒム・バといった選手がこのクラブでプレーした経験をもつ。今季、シーズン開幕前はメディアの間で優勝争いに絡んでくると言われていたが、蓋を開けてみれば27節終了時点で最下位に低迷。「ストックホルムの誇り」という愛称をもつが、このままアルスベンスカンから降格ということになってしまえば、誇りどころか「ストックホルムの恥」なんて言われそうだ。
一方のオルグリテは、今季スーペルエッタン(2部)から昇格した、第2の都市ヨーテボリを本拠に置くクラブ。元スウェーデン代表マルクス・アルベックとブラジル人アルバロ・サントスの強力2トップを擁し、こちらもユールゴーデン同様に開幕前の評価は高く、「サプライズを提供するかもしれない」といわれていた。だがこちらも周囲の期待を大きく裏切り、開幕から6連敗。折り返し地点の15節になってようやく初勝利を挙げたという、別の意味でサプライズを提供してしまった。とはいえ、後半戦に入るとようやく戦力に見合った戦いをするようになり、徐々に勝ち点を伸ばす。前節ではヘルシンボリIFに3対0と快勝し降格圏外の18位に浮上。意気揚々とストックホルムに乗り込んできた。
試合会場のストックホルム・スタディオンは、正式名称はストックホルム・オリンピアスタディオンだが、今日ではスタディオンと呼ばれることが多い。地下鉄Stadion駅から徒歩約2分のところに位置するこのスタジアムは、1912年のストックホルム五輪のために建設された総合競技場で、国内建築家のトルベン・グルト氏によって設計された。収容人数は約15000人で、ユールゴーデンの試合はもちろん、フロアボール(インネバンディ)といった他スポーツはもちろん、コンサート会場としても使用されることが多く、スウェーデンの有名なロックバンドKent、国外ではKissや故マイケル・ジャクソン、ローリンズ・ストーンズといった有名アーティストが公演を行なったことがある。ロマン主義をもとに建てられたそうだが、スタジアム全体がゴシック風で荘厳な雰囲気を醸し出しているのが印象的で、この日のどんよりとした天候によってそれらは一層際立っていた。
試合開始時刻は14時。約1時間半前にスタジアムに到着したが、案の定、人はほとんどいない。入場しようとしたら、係りの人に「いまはまだ駄目。12時45分に開場だよ」といわれてしまった。何もすることがないので、サポーターショップで時間をつぶすことに。だが、ちょうど店の前に着いたとき、1台のバスが到着。「もしかして選手が乗っているのか?」と期待を膨らませていたら、やはり選手移動用バスだった。中からユールゴーデンの選手が続々と降りてくる。近くにいたサポーターが、チームの有名選手のひとり、セバスティアン・ラヤラクソ選手に対して「ラッヤ!」と声をかけると、ラヤラクソ選手はそれに対して手を挙げて応えていた。
サポーターショップで時間をつぶした後、開場時間を少し過ぎてから係員にチケットをみせ入場。同時に荷物検査が行なわれることに。バッグ、それに日本でもおなじみのファッションメーカーH&Mの袋をもっていたのだが、係員は「なかに何か硬いものは入っていないか?」と聞くだけで中身を見ようとしない。「まず中をチェックしろよ」と突っ込みたくなったが、「入ってない」と答えるとそのまま入場できた。
押さえた席は、メインスタンドの真ん中あたり。まだ選手らはピッチに姿を見せておらず、観客もまばら。写真を撮りつつ、配布されていたマッチプログラムとタブロイド紙Aftonbladetを読みながら時間をつぶす。Aftonbladetに入っているスポーツ紙Sportbladetの一面には、ドイツのローター・マテウス氏がスウェーデン代表監督に関心を示しているという記事が。「どうせまたガセネタだろう」と呆れながらページをめくっていくと、ブーイングが聞こえてきた。オルグリテの選手が登場したのだ。そのなかには、40歳のGKベングト・アンデション、そしてアルベックの姿もみられる。その直後、反対側からユールゴーデンの選手も登場。観客からは大きな拍手が起こる。両チーム選手の練習時間は、13時15分からおよそ30分間。パス練習や鳥かごを中心に行なっていた。
選手らがいったん姿を消すと、その後スタジアムに曲が流れてきた。どうやらサポーターソングのようで、観客も一緒になって歌う。曲が終わると、いよいよ試合が始まるという雰囲気が漂ってくる。そして、いよいよ両チームの選手らがピッチに入場。選手ひとりひとりの名前が紹介され、22人が持ち場のポジションに散ったあと、マルティン・ハンソン主審の笛によって試合が開始された。
両チームのスタメンは以下のとおり。個人的に一番注目していたユールゴーデンのラヤラクソはベンチスタートだった。
ユールゴーデン(4-4-2)
トウライ:セーサイ、ヨハネッソン、クイバスト、ペッテル・グスタフソン:ユセフ、エコング、ハギンゲ、ミリッチ:ダールベリ、ヘルクイスト
オルグリテ(4-4-2)
ベングト・アンデション:ロビン・ヨンソン、デニス・ヨンソン、エルナンデス、ペレイラ:マルクス・グスタフソン、セバスティアン・ヨハンソン、メルクビスト、サバディル:アルベック、アルバロ・サントス
序盤、ユールゴーデンが左サイドのミリッチを中心に仕掛けるが、決定的なチャンスには至らない。ピッチを広く使おうという意図は感じられるが、セントラルMFのハギンゲとエコングはどちらも視野が広いとはいえず、なかなか良い攻撃には結びつかない。対するオルグリテは、右サイドのマルクス・グスタフソンが何度か好クロスを供給。だがこちらも攻めがちぐはぐで、前線のアルベックとアルバロ・サントスはほとんどボールに触れることができない。
この試合、オルグリテにとっては引き分けでも十分だが、最下位ユールゴーデンにとっては勝利が絶対必要だった。そういうわけで、ふがいないサッカーをみせるチームに対しサポーターは徐々に苛立ちをみせる。私の数列前に座っていた男性は、最初は選手に対して文句をいっていたのだが、しまいにはピッチとは別の方向に向かって中指を立て始めた。その向かう先をみると、ユールゴーデンのベンチ。「こんなチームになったのはお前ら首脳陣のせいだ!」とでもいいたかったのだろうか。
だが、スタジアムに険悪な雰囲気が漂い始めたそのとき、ユールゴーデンは先制に成功する。31分、ゴール中央でミリッチからのパスを受けたハギンゲがワントラップして右足を一閃。低い弾道のシュートはオルグリテゴールに突き刺さった。
このゴールで波に乗りたいユールゴーデンだが、依然として動きは良くない。先述したようにセントラルMFに展開力がないのも原因のひとつだが、さらにわかったことはボール保持者に対してのサポートがおそい。たとえば、左サイドでミリッチがボールをキープしても、左サイドバックのペッテル・グスタフソンのサポートが遅い、あるいはまったくないために攻撃が手詰まりになってしまう場面が何度もみられた。前半終了時、リードしているにもかかわらず、スタジアムには決して小さくはないブーイングが響いた。
後半が始まると、1点ビハインドのオルグリテが徐々に攻勢に出る。すると53分、コーナーキックからメルクビストが頭で合わせ試合を振り出しに戻す。
そしてその1分後、ユールゴーデンは不利な立場に追い込まれる。先制点を挙げたハギンゲが左サイドで相手選手のタックルを受ける。ピッチに倒れこむハギンゲ。スクリーンで見る限りでは明らかに足に当たっていたのだが、ハンソン主審はこれをシュミレーションと判断したのか、ハギンゲに何とレッドカードを提示。この判定に納得いかないユールゴーデンの選手はハンソン主審に抗議するが、判定が覆るはずはなく、ユールゴーデンはひとり少ない状態で戦う羽目になった。
ハギンゲの退場から1分後、ハンソン主審は今度はユールゴーデンを助ける。ペナルティエリア内ぎりぎりの位置でユセフが倒されると、ハンソン主審はPKの判定。これをミリッチが決め、ユールゴーデンは再びリードを奪った。
だがその数分後、ハンソン主審はミリッチが相手選手に仕掛けたタックルが危険な行為だと判断し、この日2枚目の赤紙を提示。ハギンゲとミリッチ、ゴールを決めた2人が退場処分を受けることになったのだ。
ハンソン主審はその後も、ユールゴーデンサポーターのブーイングというBGMを前に、「この試合の主演は俺だ」といわんばかりのジャッジを下していく。誰の目にも明らかなユールゴーデンのコーナーキックをゴールキックと判定したり、例をあげれば枚挙に暇がない。サポーターの怒りは頂点に達し、「Skit domare(ダメ審判)!」「Idiot(馬鹿)!」なんてのはまだマシなほうで、なかには「Tjockis(デブ)!」なんて叫んでいる観客も。
ハンソン主審の独演がしばらく続いたあと、66分、お目当てのラヤラクソがピッチに登場。FWと攻撃的MFと主に担当するこの21歳は昨シーズン、開幕から5試合連続ゴールを挙げるという離れ業をやってのけ一躍注目を浴びたが、その後のカルマルFF戦でラスムス・エルムに対し危険なタックルを見舞ったことによって退場処分をうけてしまい、以後ノーゴールに終わった。今季もこれまでわずか3得点と苦しんでいる。
2人少ないユールゴーデンは、ラヤラクソをトップに配置し4-3-1の布陣でオルグリテの攻めに耐える。それでも、オルグリテの攻撃がアイデアに欠けるために一方的な展開にはならず、ユールゴーデンは時折ラヤラクソが単独で相手DFを抜き去るなどしてチャンスをつくる。サポーターは、何度も「Kämpa Djurgården(戦えユールゴーデン)!」を合唱し、勝利を待ちわびる。そして規定のロスタイムが経過したあと、ついにタイムアップ。残留争いのライバルから勝ち点3をもぎとったユールゴーデンは、これでストックホルムのライバルであるハンマルビーを抜き15位に浮上。依然として厳しい状況であることに変わりはないが、9人で勝利を収めたことによって、チームは良い方向に向かうのではないか。
あとやはりこの試合で気になったのが、ハンソン主審だ。この日の彼のジャッジは、客観的にみても不可解な点が多すぎた。チャンピオンズリーグで笛を吹いたことがあり、さらには今年のコンフェデ杯決勝でも主審を担当したが、今後UEFAとFIFAは人選を改めたほうがよいのではないか、そう感じずにはいられなかった。
ユールゴーデンIF2-1オルグリテIS
31分 ハギンゲ(1-0)
53分 メルクビスト(1-1)
55分 ミリッチ(2-1)
ユールゴーデン
トウライ:セーサイ、ヨハネッソン、クイバスト、ペッテル・グスタフソン:ユセフ(72分 アユバ)、エコング、ハギンゲ、ミリッチ:ダールベリ、ヘルクイスト(65分 ラヤラクソ)
オルグリテ
ベングト・アンデション:ロビン・ヨンソン(78分 サンドベリ)、デニス・ヨンソン(46分 レイナル)、エルナンデス、ペレイラ(63分 アダム・エリクソン):マルクス・グスタフソン、セバスティアン・ヨハンソン、メルクビスト、サバディル:アルベック、アルバロ・サントス
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