2009年12月22日

【5 years after】~コーチとして 入野貴幸(東海大三高)(1)

5 years after―。5年前、2004年に大学4年生だった選手たち。あの時同じ立場にいた彼らは、5年という時間を経て、今はそれぞれのフィールドに居場所を持っている。5年の間に得たもの、失ったもの、変わったこと、変わらなかったこと、そして今だからわかるあの日のこと、これからも続いてく日々のことまでを聞いた。

―――――――――――――

2009年7月30日、近畿インターハイ2回戦。長野県代表の東海大三高は、沖縄県代表の小禄に58-64で転負けを喫した。

指揮を執った入野貴幸は、悔しさと自身の力不足への反省、そしてある思いの入り混じった口調で試合を振り返った。

「去年のウインターカップのベスト8がけで負けたところからスタートしたチームなので、選手の意識はベスト8を向いてました。だからこそ、本当は勝たないといけない試合でした。特にこの点差は采配のミスですよね…。ただ、怪我人を抱えた、長野のチームだと思うと、戦えるところまで来たんだなとは思います」

この“だからこそ、”には12年分の思いが詰まっていた。

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【プロフィール】 入野貴幸(いりの・たかゆき) 1982年生まれ。伊勢原中-東海大三高-東海大。 2004年には、竹内譲次(現JBL日立、日本代表)や石崎巧(現JBL東芝、同)らゴールデン世代と呼ばれたメンバーを束ねるキャプテンとして、東海大の関東大学リーグ1部昇格の立役者となった。


長野のバスケを強くしたい 
今から12年前、神奈川の中学生だった入野貴幸は、長野県の東海大三高への進学を自分の目で決めた。「練習を見て、こんなに一生懸命やっているところがあるんだなぁと思ったんです」

しかし、その“一生懸命”はなかなか結果に結びつかなかった。自身の現役時代の最高成績は、2年の夏のインターハイベスト16。そもそも長野県代表が全国大会でベスト8に入ったのは1981年夏の吉田高が最後だった。入野は全国の壁に跳ね返されるたびに、漠然と思うようになった。「長野県のバスケを変えたい」

では、何を、どうすれば変えることができるのか? いくつかの方法が考えられる中で、入野は現場に立つ“指導者”を選んだ。

「高校の授業の時、慕っていた社会科の先生に“将来ここに戻ってきて、先生をやりたいんです”と言ったら、“その夢、叶うよ”って言ってもらえたんです。それで、“あぁ、先生を目指そう”と思いました」
入野の人生を決定付ける後押しをしたのもまた、“先生”だったのだ。

今は同僚となったその先生は、入野が再び母校の門をくぐった時にこう迎えてくれた。「よく戻ってきたなぁ」。あの日のやり取りを覚えていてくれたことがまた、入野の心を軽くした。

ここに、入野が指導者という道を選んだ原点があった。


一緒に練習してつかんだ1年目のインターハイ
入野が最初の“教え子”たちと顔を合わせたのは、2004年、大学4年の冬の県新人大会のときだった。

「長野吉田に20点差くらい(64-80)で負けてしまった時でした。長野県のその代は中学時代にジュニアオールスターで優勝しているんですが、そこで活躍した選手たちが県外や長野吉田に行って、うちはちょっと落ちていたんです。それもあって、“あの東海大から来てくれた”という目で見てくれました。若い分親しみやすかったのか、すぐ馴染めましたよ」

その年まで関東大学リーグ・東海大のメンバーとして現役でプレーしていた入野は、練習に参加するときはもちろん高校生たちと“一緒にやる”というスタイルをとった。

「“ディフェンスはこうやってやるんだよ、オフェンスもこうやって走るんだよ”って。選手たちのリアクションですか?“おお~”って(笑)。“そうやってやるんすか!”“そうだよ!”から入って、それが基盤になったと思います。やっぱり共有することが大事だと思うので、結局今も一緒にやっています」と笑う。

入野が在籍していたときも、もちろん今も、東海大は堅い全員ディフェンスを誇るチームだ。東海大三のカラーと通じるものがあった。

だが一方で、期待ばかりではなかった。長く東海大三を引っ張ってきた有賀正秋コーチの指導を受けたくて入学してきたメンバーもいるだろう、と入野は思っていた。入野もその1人だったから、気持ちはわかる。そんな彼らの心を掴むには、何よりも“勝ち”が大きい。そしてそれは入野の「長野を強くしたい」という目標にも1歩近づくものだった。

その年のインターハイ予選で、入野は1つ目の結果を出した。新人大会で敗れた長野吉田を逆に83-67で破っての出場。「勝たせてくれた、と思ってもらえたんじゃないかなと思います」


「頑張る」ベクトルを「上」へ 基盤となった2年目
1年目の春から夏まで、プレイヤーから指導者に転じたばかりの入野が取り組んだこと。それは、チームのベクトルをこれまでよりも“上”へ向けることだった。「全力でやるというのがチームカラーとしてずっとあったんですが、では上を目指すためにはどうしたらいいか?と考えて取り組みを変えていきました」

厳しいかもしれなくても結果がついてくるところでやりたいと入ってきてくれた子達、と入野は選手達のメンタリティを評した。県内の中学生のうち、サイズのある選手は県外に出てしまったり、中には厳しい練習を避ける向きもなくはない。だが、東海大三には「たとえうまくなくても気持ちがある、頑張る、泥臭くやるような子が来てくれていました」

そんな選手達と、「指導者になったら熱くやりたかった」という入野が力を合わせれば、伸びていかないわけはなかった。「そういう子達が基盤になっているので、うまい子達も自然に泥臭くやるようになって、そうしたら今度はそういうバスケットをやりたいという子が集まってくれるようになりましたね」

東海大三高にきて5年目を迎えた今、全国ベスト8を臨もうとするチームの土台は、これまでの卒業生たちが作ってくれたものだとしみじみ感じるという。特に顔が浮かぶのは、入野の2年目の代のメンバーだ。
「僕が来て2年目の代だけはインターハイにもウインターカップにも連れて行ってあげられなかった。でも、その代の子達が1番よく遊びに来てくれるんです。そういうの…いいですよね」

たとえそのときの結果には表れなくても、卒業後に必ず、3年間やってきたことの貴重さがわかる瞬間があるのだろう。
「引退してから、“コーチが言っていることがわかりました!”って子、いますよ。遅いよって感じですけど(笑)、立場が変われば見方も変わってくれるのかなと思うと、大事なことは言い続けないといけないなと思います」


恩師から教わってきたこと―選手を信頼する
気持ちのある選手がついてきてくれたなら、恩師たちも入野を支えてくれた。

入野の現役時代の監督で、今も協力してチームを見ている有賀正秋コーチからは、指導者のキャリアをスタートさせた当初に印象的な言葉をもらった。いわく、“指導者は選手に慕われるような人でなければだめだ”。

「最初の1・2年は、きちっと基礎トレーニングを積ませていないのに強度なメニューをやらせてしまっていた分、怪我人も多かったんです。それでそのときの僕はというと、怪我したらだめだよ、とどちらかというと突き放していました」

しかしそのアドバイスをもらってから、入野は“遠慮はしないけれど、配慮はする”というスタンスをとるように変わった。「トレーニング室が体育館の横なので、体育館に入る前に“どうだ調子は?”と声を掛けるとか、常に見てるよ、というのを表すようにしました」。それが入野なりの解釈の仕方だった。

結果として、そのメッセージはしっかりと選手に届き、最終的に入野に返ってきた。
「例えばメンバー選考にしても、頑張ってきた3年生をベンチに入れてあげたい、彼らを勝たせてあげたいという思いが伝わるから、生徒はついて来てくれる。それは入ってきたばかりの1年生でもわかってくれていると思います。なんでメンバーに入れないんだよじゃなくて、3年生が頑張って来ているのを知っているから、と。3年生も3年生で、マネージャーが1人しかベンチに入れないときは、率先して水汲みなど裏方の仕事をやっているんです。そこは大人というか、精神的に成長してくれているなと感じます」

その成長はオンコートだけに限らない。寮も見ている入野の1日は朝6時半の点呼から始まり、21時半の点呼まで常に選手のそばにいるが、近づき過ぎず、指導者と選手という関係を変わらず保てているのも同じ心掛けによるのは間違いない。

「最初は力が入り過ぎていたなと思うところもありましたが(苦笑)、今は手を離すところは離す、許さないところは許さないとメリハリをつけられるようになりました。そうやって選手のことを信頼しているので、実際訊いてみたわけではないんですが、彼らも感じるものがあるんじゃないかなと思います」

バスケット以外の会話もよくするというが、選手達はその中でも有賀コーチや入野に気を遣うところは忘れない。その関係があるから、いざ練習で「ガンガン怒られ」ても、入野が「よくついてくるな」と思うくらい選手たちは入野やバスケットから逃げる、ということがない。

「今は、愛情を注いでいれば、大丈夫だなって思います」

こうして、上を目指す環境は整った。

(続く)

posted by summership |23:00 | コラム | コメント(0) | トラックバック(1)
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