2009年12月23日
【5 years after】~コーチとして 入野貴幸(東海大三高)(2)
5 years after―。5年前、2004年に大学4年生だった選手たち。あの時同じ立場にいた彼らは、5年という時間を経て、今はそれぞれのフィールドに居場所を持っている。5年の間に得たもの、失ったもの、変わったこと、変わらなかったこと、そして今だからわかるあの日のこと、これからも続いてく日々のことまでを聞いた。 コーチとして 入野貴幸(1)はこちら ―――――――――――――「長野のバスケを強くしたい」と、東海大から母校・東海大三高に戻った入野。現役時代から“頑張る”というカラーがあったチームを“勝つ”方へ、その基盤がだいぶ整った4年目の年、バランスキー・ザックが入学した。日本育ちのアメリカ人で、中学時代はそれほど大きくなかったという。だが高校に入ってから身長が伸びた。はからずも待望のビッグマンとなってくれた。 チーム初のベスト8という目標を持って臨んだ2009年の近畿インターハイ。しかし2回戦の終盤で接戦に持ち込まれ、東海大三高は3点のビハインドを負う。ここで同点をかけた3Pを放ったのは、このザックだった。 だが、このシュートはリングに嫌われてしまう。上に行く手ごたえを感じた矢先にぶつかった、新しい“課題”。これを解決する「何か」を、チームはウインターカップまでに見つけているだろうか―?
やっぱり全力ディフェンス 恩師の後押し 入野はプレイヤーとして各カテゴリーで素晴らしい指導者と出会い、その哲学にふれてきた。指導者となった今も、それが生きている部分は大きい。 中でも東海大時代の師・陸川章監督には、コート内外で助けてもらったという。 「僕は出身は神奈川なので、長野の周りの先生方とは1から関係を作っていかなければなりませんでした。大学までプレーヤーをやっていたので、覚えていてくれた先生もいらっしゃいますが、陸川先生と一緒にいるときにご挨拶して連絡先を伺って…ということができたのが大きかった。コーチングに関しても、アドバイスをもらいますね」 全国大会でしか指導ぶりを見てもらうことはできないが、その度に話すようにしている。 「どうでしたか?と聞いて、これはこうだなと。特に負けると自信を失いそうになるんですが、“やってることは間違ってないよ”と言ってくれたりすると、やはり後押しになります」 入野と東海大三高の方向性、それは“守り合い”のゲームに持ち込むということだ。 「全国大会の他のゲームを見ると80点、90点のゲームが多いんですが、去年のウインターカップもインターハイも、うちはかなりのロースコア。やはりこういうディフェンスをやるしかないのかな、と。シュート力や高さがいつも揃えば点の取り合いでもいいのかもしれませんが、どのメンバーでも勝っていくためにはこのスタイルしかないと思います」 また、この発想のもととなったのは、入野に多大な影響を与え、今もともに東海大三高で指導する有賀正秋コーチの言葉だ。 「メンバーがよくない時こそ勝たないとダメだ、と言われたんです。それができたのが一昨年のインターハイ予選でした。決してメンバーが揃っていたわけではないんですが、あのとき勝てたのは大きかったと思います」 そしてそれができたのも、“全力”という東海大三高のモットーがあったからこそだった。 「以前のビデオを見ると“こんなバスケットをやっていたのか?”と思うこともあるんですよ。つまり全然ダメだったときも選手たちは文句も言わずにやってくれていたんですね。全力でやることが何より大事だよと言っていたのを理解してくれていた。だから卒業生には一生懸命ついてきてくれてありがとう、という気持ちでいっぱいです」 4年目の手ごたえと、5年目の発見 こうして取り組みを重ねていくうちに、選手たちも変わっていった。 「モチベーションや意識に関しては、自分が見だしてからは年を追うごとに高くなって、去年は特に高かったです。理想の状態と思えるくらいでした」 入野としては4年目に初めて、インターハイ・ウインターカップとも1勝以上をあげた。次のステップである上位進出に向け、特にウインターカップではチーム最高タイのベスト16に入るなど手ごたえも感じられるようになった。そして臨んだ2009年、5年目のシーズンだった。 「去年の状態を引き継いでさらに上を目指そうという目標でスタートできたので、去年のチームより今年のチームは強いと思います」という入野の言葉通り、東海大三高は冬の北信越新人大会で決勝まで進むと福井の強豪校・北陸に迫った。春、初夏もいい仕上がりできていたが、インターハイ前に怪我人が出てしまった。 「言い訳にならないと臨んだんですが、それで終盤に足が止まってしまった部分もあったかもしれません。控えメンバーも、作ってきたつもりでしたが僕の準備不足です」 ベスト8を狙う気持ちは充分だったが、そこにまだ身体がついてこなかったのだ。これが高校生の、上位を目指す上での難しさと言える。 しかし、裏を返せばそれを身をもって感じられるところまで来られたのだ。 「5年目を迎えて、全国の素性はもうわかったよという感じですね。次は勝てと周りからは見られるはずだし、自分自身もそう思います。もう1度、1から作り直しです」 目の前の選手たちにマッチする「何か」を求めて 上位をコンスタントに狙うにはクリアすべき課題。インターハイ2回戦はそれが明確になった試合でもあった。 「4Qの競ったところで攻め手がなくなってしまった。エース不在なんですよね。と言うかザックがエースなんですが、そこが揺らいだときにもう1つ2つアクセントが足りなかったです」 ディフェンスに自信を持てるようになったが、ディフェンスが報われるのはそれが得点につながってこそ、というのがバスケットというスポーツだ。 「ディフェンスはうまい下手じゃなくて努力だと思っていますし、僕らを裏切りません。ただ、やっぱり全国大会に来て感じることは、守っただけでは勝てない。2回戦の勝負所もナンバープレイからノーマークを作るまでは出来ていたんですが、決められなかったですね。力不足です」 この“力不足”という一言から思い出されるのは、入野が大学4年の時に言っていた“力があると言われても勝っていない。勝ってはじめて強いと言える”という言葉だ。入野がキャプテンを務めた年の東海大には日本代表にも選出されていた竹内譲次ら豪華なメンバーが揃っていたが、チームは2部、春の関東トーナメントでもベスト16に終わっていた。 「そのときと同じ思いです。北信越大会2位などと言ってもらっても、全国で、この舞台で結果を出さないと強いチームではない。チャンスはあったのにそれをものにできないということは何かが足りないんです。何かな何かなってずっと考えているんですが…」 その「何か」は、大学4年の時にチームを初の関東1部に導いたときの「何か」とは違うのだろうか? 「あの時は力はあったんですよ。あとはまとまるだけといった感じでした。でも、今うちにいる選手は日の丸をつけるような選手ではない。スタメンの中でもジュニアオールスター(中学の県選抜)のメンバーに入ったのは1人だけですし、メンバーに入ったとは言っても試合にはほとんど出ていない子達です。だからその“何か”というのは、本当にこの子達にマッチするようなことじゃないとと思います。そうじゃないと、いつも言っている“高校は努力次第、中学のキャリアは関係ない”というのを証明できないですから」 その「何か」は、ウインターカップまでの5ヶ月間で突き止められただろうか。答えは12月の東京体育館のコートにある。 「指導者」という道を選んで 指導者として5年目を向かえた今、1・2年目振り返ると「色々な意味ですごかったなと…」と苦笑いを浮かべた。「そういう風に見られるのも、ちょっとは成長したからかなとは思います。でもまだ全然満足していない。インターハイだってすごく悔しかったですし…」 入野にとって“教える”とは、「僕の人生の一部」だという。一生をかけるに足る取り組みだけに、覚悟もある。 「やると決めたので、最後までやり通します。もちろん、休みたいなと思うときもありますよ。でも、決めたので、やるしかないです」 バスケット面ではもう、土台は固まった。 「年を取ろうがずっとこのスタイルで行くつもりです。根気だと思うんですよ。うまくいかないからやめてしまっては意味がない。もちろん色々工夫はしますが、根本は変わりません。全力でやるのがうちの最低ラインです」 そして、本当の意味での“指導”においても、入野だからこそ伝えられるものを大事にしていく。 「学校生活の中にバスケットが存在しているので、バスケットを通して社会で生きる力を得てくれたらなという気持ちで教えています。よく言うのは、練習がきつくて辞めたいという子が来たとき、続ける道とやめる道、どちらがいいかわかるよね?と。やり続けることの価値はやり通さないとわからない。それは自分も実際の経験として知っていますし、もちろん他の誰が見ても続ける道の方がいいでしょう。でもそう言ってきた子はまだ判断がついていないんです。だからそういう判断を間違わないようにするために、バスケットをやる。そこで正しく判断する力と、コートで自分で行った方がいいのかパスをさばいた方がいいのか判断する力は同じです。だからバスケットはもちろん、社会人になっても判断を間違えないようにするために、自分の道をきちっと歩むためにもバスケットをやっているというのを伝えたいですね。どちらかと言えば、そちらの気持ちの方が大きいかもしれません」 生徒を立派な人として社会に送り出す、これこそが指導者の醍醐味かだ。東海大三高バスケット部のOB、現役メンバーに教員志望が何人もいるのを見ると、この入野の熱意はしっかり伝わっていると感じられる。 「長野に戻ってきてくれるといいですね。それで中学を見て、いい子をうちに送ってくれたら…なんて(笑)」と冗談を口にしたが、それが入野の原点、長野のバスケットが変わることにつながるならこの上ない喜びだろう。 「以前は長野のチームは北信越の中でも相手の名前に負けていました。でもそこで、負けていいの?やられていいの?と問いかけて。戦えばできるじゃないと励まして。ちょっと時間はかかりましたが、今はやるぞという雰囲気に溢れています」 かつて東海大の歴史を変えた入野がいる限り、長野のチーム、東海大三高が全国のトップ8に名乗りを上げる日はそう遠くない。
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posted by summership |18:00 |
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