2010年03月11日
福岡大大濠高校・新監督就任に寄せて~「ソータ」(後編)
3月7日、福岡大大濠高校トロージャンズ公式サイト(http://www.trojans.jp/index.htm)にて、新監督の就任が発表された。 ファンから親しみを込めて“クニ先生”と呼ばれる田中国明現監督は、大濠高校にやってきてから45年が過ぎ、2008年3月の定年退職後は嘱託コーチとして指導に当たってきた。その嘱託コーチとして最後の年となる2010年シーズン、後進の指導にも本格的に着手する(※来年度以降も外部コーチとして携わる予定)。 この、伝統ある福岡大大濠高校について書くにはまだまだ及ばないが、新監督となる片峯聡太選手に2006年から2009年までの4年間、インタビューさせてもらった恩返しとして、彼がこれまでどんな道をどんな考えで歩んできたかや、指導者としての資質、そしてどれだけの覚悟を持って決断したかにスポットを当てたい。 前編は こちら 【プロフィール】 片峯聡太(かたみね・そうた) 1988年生まれ。飯塚一中-福岡大大濠高-筑波大。173cm/PG。 ミニバスからバスケットを始め、2002年のジュニアオールスターでは福岡代表としてベスト8入りを果たす。そのときのチームメート4人とともに福岡大大濠高に進学するため、難関の一般入試を突破。1年時からロスター入りするも、単独チームとして臨んだ4度の全国大会のうち3度が準優勝と涙を呑んだ。3年時にはキャプテンを務めた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あんな人に初めて出会った 大濠にある2つの原点 筑波大では説得力のあるキャプテンだった片峯。このスタイルは今後も変えないつもりだ。 「監督という立場になれば、自分は棚に上げてって言うんですかね(笑)、コーチとしての目だけで見られるので、選手のときよりもっと思い切って言えるかなと思います」 とはいえ、歳の近い、これから信頼関係を築かねばならない選手たちに、時に厳しくも言っていくのはいざやろうとしてもなかなか難しいものだ。しかし、それができる自信は?と訊くと、「あります」とキッパリとした答えが返ってきた。 説得力の裏には、自信がある。さらにその後ろには、自分への信頼を形成するプロセスがある。 片峯にとって、そのスタート地点はもちろん大濠にある。高校生にして自分のやり方を持っていた人、そんな先輩との出会いだ。
「たくさんの素晴らしい先輩たちを近くで見られたことも、大濠でよかったなと思うことの1つです。特に1年生のとき、2つ上の竹野さん(明倫/bj・新潟)のそばで過ごせたのが大きかった。あんな風になりたいと竹野さんのいないところで竹野さんの真似をしたり(笑)、竹野さんの自主練の手伝いもさせてもらったり。そこで思ったのは、竹野さんは野球選手のイチローみたいだなぁと。自分にはこういうことが必要だからこれをすると決めている。逆に、自分に必要ないことはしないんです。すでに高校のときからそうしていました。それを見ていたから、僕も自分に何が必要か考えて、課題をもってやるようになりましたね。もちろん竹野さんとはやり方は違うかもしれないですが、そういう姿勢を学びました」 ここに、片峯の“自信”の原点があった。自分に何が必要で何か必要でないかを考えるには、まず置かれた状況や自分のスキルを客観的に見る必要がある。その積み重ねを10代の半ばからやってきたからこそ、自分に何ができて何ができないかを今はっきり言えるのだ。 さらに、チームスポーツのバスケットでは、そうした客観的な視点は自分に対してに限らず、チームに対しても必要になる。そのチームに対する視点も、片峯は大濠時代にすでに持ち始めていた。きっかけは、タレント揃いの代のキャプテンを務めたことだ。 一般入試を突破した経歴、さらにポジションも他のメンバーをまとめるポイントガード。となれば、キャプテンを任されるのも当然―と思いきや、片峯は「全然キャプテンになるつもりはなかったんです」という。 「1つ上のキャプテンだった啓士朗さん(堤/bj・福岡)は、“俺がやるからついてこい”みたいな、絶対的なプレーで示すキャプテン。それなら大祐(小林/慶應義塾大)や純也(山田/早稲田大)がいると思ったんですが、啓士朗さんが“お前やれよ”と言ってくれてなりました。でも、僕はプレーで引っ張るタイプではないので、筑波で梁川(禎浩/JBL・パナソニック)さんの次を務めたときもそうだったんですが、難しかったです」 そこで、改めてチームを見渡してみると、同学年の小林や山田たちはもちろん、1つ下にも金丸晃輔(明治大)ら実力者が揃っていた。それを踏まえて片峯は、「1つのチームとしてどうまとめるか」に自分を費やした。 「高3のときは自分が言うのもなんですがタレントが多かったので、僕はそのタレントがばらばらにならないようにというのをすごく考えていました。もちろん1人でではなく、僕らの学年で集まってミーティングしたり、僕が厳しく言ったら副キャプテンの吉満がフォローしてくれたり。そのときから、プレイヤーの視点と、キャプテンの視点があったなと思います。もちろん自分もバスケがうまくなりたいから頑張るんですが、もう1つ、ちょっと引いて見る自分もいました」 そうやってやってきたからこそ、今、言える。 「僕が大濠の監督になると言ったら、“ご愁傷様”という人もいます。そもそも大濠自体の力が落ちているから、誰が引き受けても(福岡)第一には勝てないだろうと。でもやる前にそんなことがわかりますか?だから僕は、誰に言われようとそんなことは無視します」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――【こぼれ話~(2)OBの反応】 ウインターカップの壮行会のときに色々な年代の方とお会いして、色々なお話を聞きました。皆さん決まって言ってくださったのは、「田中先生が決めてお前にしたんだから、皆で支援するからな」と。それは心強くなれる言葉でしたし、自分に対してのいいプレッシャーにもなりました。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1人1人と向き合うけれど、選手に好かれようとは思わない ただ、意思は固めても、それだけでは監督にはなれない。福岡県では毎年夏に私立学校教員適性検査を行っているため、ここで一般的に採用に必要とされるB判定(A~Dの各段階)以上を取り、さらに各学校での採用試験を突破する必要がある。 片峯はきっちりこれを通った。 「“バスケで教員になった”というのはカッコ悪いので、しっかり勉強しました。大濠での面接では、自分がつい何年か前に教わった先生たちが面接官だったので、ちょっと不思議な感じでしたね」 晴れて教員になれば、普段からメンバーを見守ることができる。これが何より大きい。 「私生活はバスケットにもすごく関係していると思います。例えば自分達の荷物がばらばらだったりしたら、ゲームにもそういうゆるいところが出てしまうはず。細かいところかもしれないですが、それを徹底させるのも僕が入ったらやろうと思っています。全部完璧にしろとは言わないですが、しっかり周りにアンテナを張って考えて行動することは必要だと思います」 これは実は、田中監督が嘱託コーチとなってからは度々周囲から指摘されていた。コートの中では選手の判断力、人としての器量が全てで、指導者にはどうにもできないからこそ、日常が重要になる。それを踏まえた上で、片峯は改善に取り組む。 では、どのようにアプローチしていくのだろうか。 「完全に初対面というわけではなく、OBとして練習に行ったときに顔を合わせてはいます。ただそのときは助言する程度だったので、“いい人や”くらいに思っているんじゃないかな。なので最初に、“普段はともかく、指導者としては厳しくするよ”と一言言おうかなと思っています。笑顔で、覚悟しといてねって(笑)」 とユーモアを交えつつ、指導者として高校生と接するイメージはもうしっかりと描いていた。 「あまり距離を作りすぎても離れてしまうので難しいんですが…。選手に好かれようとは思いません。ただ、“この人の言うことは聞こう”と思わせられるようにしたいです。1番最初は、練習を指導する前に1人1人と話そうと思っていて、その資料を今(※1月)ちょっとずつ作っています。話すのは初めてのメンバーも多いので、まず本当にどういうヤツかというのを見たい。素直な子だといいなと思います。それから、その子が目指しているもの、どこを見ているのかを知りたいと思っています」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【こぼれ話~(3)仮想○○】
練習方法もたくさん知りたいですし、自分のチームを知ることはもちろん、相手チームの研究も、ビデオを観たりして始めています。僕…よく妄想するんですよ(笑)。夜、対戦相手とのマッチアップとかを頭の中で考えて、それで思いついたことをノートにメモして。そのせいでいつもめっちゃ寝不足になります(苦笑)。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 恩師と相談しながらも、中途半端なことはしない 一方、その機会には、選手の方も片峯聡太という指導者が“どういうヤツか”探ることになるが、選手の前に出ていく準備はできる限りしてきた。 「指導者に1番大事なのは、人間性だと思います。僕は選手たちと歳が近いですが、何倍もの人間性を磨くために、色々な本を読んだりしています。今後のことを考えても、自分の倍ほども生きている親御さんに“息子さんをうちに”と言わないといけない。この22歳の新米教師に預けてもらえるよう、魅力ある監督にならなければと思います」 人間性と言えば、高校の師・田中監督も、大学の師・吉田監督も、片峯は心から尊敬し、慕っている。 「吉田先生は1つ質問すれば何倍にもなって返ってくる、僕にとって“バスケットの宝の山”です(笑)。バスケットの知識にしても何にしても、自分が吉田先生の立場だったら天狗になってしまうでしょうが、吉田先生はチームの中で1番上なのに同時に1番謙虚な人でもある。本当にずっとバスケットのことを考えている方です。 田中先生は、あのニクまれない人間性が僕はすごく好きです。練習中は顔も怖いし、体育館に入ってきたら機嫌が一発でわかる。でも、普段の学校生活では…あの、“いいジイちゃん”なんですよ。すみません!こんなこと言って(笑)。何十年もやられてきたからでしょうが、選手の見極めがすごくうまいです。他人には言わないかもしれないですが、“こいつはこうやって育てる”というのを自分の中で持っているんじゃないかなと思います」 今後は、その田中監督と相談しつつ、吉田監督のもとで学んだバスケットや練習法をベースに、少しずつ片峯自身のカラーを出していくことになる。 「全部一気に変えるわけではなくて、ちょっとずつ。今の僕の持っているものを彼らに合わせてアレンジして、時間が掛かるかもしれないですが自分の目で結果を見て、自分のカラーを出せたらなと思います。もちろん中途半端なことはしたくないので、戦術やベンチワークはこれと決めたらそれをやるつもりですが、その中にも、プレイヤーのときもそうだったようにコーチになってもしたたかさを持っておこうかなとも思っています」 と笑みを見せた。いい意味で“ど”がつくほどストレートな田中監督とのコンビは、かなり期待できるものになりそうだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【こぼれ話~(4)響いた言葉】 色々勉強する中で印象に残ったのは、まず野球の野村克也監督の“組織はリーダーの器以上に大きくならない”という言葉。本当にその通りだなぁと気持ちが引き締まりました。あと、ソクラテスの“指導者は知識を生ませる助産婦である”。そこから、選手の気付きを促したいなという理想ができました。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― “促す”ような指導がしたい このインタビューの後、福岡に渡る片峯には、3月末に大東カップ、そして4月末にはもう公式戦という怒とうのスケジュールが待っていた。 めまぐるしい日々が始まる前だからこそ訊けるような質問を、最後に2つぶつけてみた。 まず、指導者としてどんな理想を持っているか。 「これは僕自身のテーマでもあるんですが、挑戦し続ける精神と、自分とチームに対して常に自問自答する姿勢を身につけてほしいです。僕が頑張れと言えば挑戦し続ける、これどうだ?と訊けば考える子はいるでしょう。そうじゃなくて、それを自分でやれるように促してあげるのが本当の指導者かなと思います。もちろんある程度のルールは必要なので、時にはこうしろと言いますが、そこを超えたら、選手自身に気付かせたい。それが僕の理想です。ただ、じゃあそれをどうやってやるかというところはまだまだですが…」 もう1つは、高校バスケ界における大濠はどういう存在であるか。 「スターのいるチームだと思います。先輩を見てもそうですし、そうなれる環境もととのっている。ならないといけないわけではないですが、頑張り次第でなれるチームだと僕は思います。プレースタイルでいえば、1on1だったら絶対にうちは強いので、対戦チームの策略をも食べるくらい、1on1にこだわっていきたいです。…今これを言うのはちょっと恐れ多いんですが(笑)」 大濠の“魂”をしっかり引き継いで、最後は“スウィート・チャイルド”と言われた笑顔で締めくくった。 次はもちろん、コートサイドでこの笑顔を見たい。
posted by summership |23:59 |
インタビュー |
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福岡大大濠高校・新監督就任に寄せて~「ソータ」(後編)
コメント投稿者ID : NID00004655
読ませていただきました
新監督良さそうですね。
やはり理論がしっかりしていると説得力があるし、
それだけこれまでの人生でいい先駆者に出会えた証拠ですよね。
「田中先生の胴上げ」という目標が今度こそ達成できるよう頑張ってほしいです
posted by アルファ | 2010-03-19 15:19
福岡大大濠高校・新監督就任に寄せて~「ソータ」(後編)
コメント投稿者ID : summership
アルファさん
ありがとうございます!
インタビューするまで、ずっと2つの「何故?」があって、
それは“引き受ける決め手”と、“いつも(いい意味で)ブレない理由”でした。
前者はクニ先生を胴上げしたいという思いであり、後者は先輩の存在があったんだなーと思うとものすごくつながったんです。
彼が引き継ぐのは必然だったんだなぁと。
ベンチワークや人を育てることは簡単なことではないでしょうが、「田中先生の胴上げ」に向けて、ガンバレー!と私も心から思っています。
posted by summer | 2010-03-22 22:49
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