野球いじり

ID野球とはなんだったのか

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ID野球とは,野村克也監督の提唱したデータを重視した野球のことをいいます。

ちなみにIDはImportant Data(重要なデータ)の略で造語だそうです。
IDカードのIDはIdentity またはIdentification(身分証明)の略です。ややこしいですね。

セイバーメトリクスが登場するまでは,日本ではこのID野球がデータを重視する野球の代名詞ではなかったでしょうか。

 それでは,このID野球とはどのような野球だったのでしょうか。

 一般的によく聞くのは,野村監督は投手の配球の傾向や,打者の得意なコース苦手なコースをデータから把握して攻略に活かしている印象があります。以前いただいたコメントでは送りバントを多用するといった印象もあるようです。

ではチームを動かしていく戦略や採用する戦術ではどのようなデータを重視していたのでしょうか?

 野村監督の著書,野村再生工場 -叱り方,褒め方,教え方 (野村克也著,角川書店)では,アスレチックスやレッドソックスといったセイバーメトリクスを戦略の柱に据えるチームに対して,データを重視して結果を出しているが,方法論に対しては必ずしもうなずけるものばかりではないと言及しています。

 では,野村監督の目指す野球とはどんな野球だったのでしょうか,同著には,野村監督の求める野球についても言及があります。


 ・私が目指す野球の基本はいわば守り勝つ野球だといっていい
 ・編成には即戦力のピッチャーの獲得を第一に要請する
 ・足が速い,球が速い,ボールを遠くに飛ばす……そういう天性を持った選手を探してくれ
 ・天性ばかりは育成することができない,それ以外の部分は育てることができる


 それでは,実際に野村監督が指揮したチームは監督のポリシーをどれくらい反映しているのでしょうか。というわけで,今回は野村監督が指揮した3チームのうち,以下の3年をピックアップしました

 ・ヤクルトスワローズ:1997年(83勝52敗,勝率0.615)
 ・阪神タイガース:2001年(57勝80敗,勝率0.416)
 ・楽天イーグルス:2009年(77勝66敗,勝率0.538)

 これらのチームは,ヤクルトは監督在任時最後の日本一になったチーム,阪神,楽天は監督在任最終年のチームです。ヤクルトは1998に4位になって監督は辞任していますが,その前の日本一になって結果を出しているチームの方が監督のポリシーを反映しているのではないかと考え選びました。阪神と楽天については,監督在任最終年が最も監督のポリシーを反映しているのではないかと考え選びました。

 さて,これらのチームの特徴を検討するために比較材料が必要になります。3チームとも勝率がバラバラなので比較対象としてそれぞれ同程度の勝率を記録したチームとの比較を行いたいと思います。この比較によって野村監督特有の勝ち方が見えてくるのではないでしょうか。
 具体的には,各チームの勝率の±5%のチームとの比較を行いたいと思います。1996~2009年の全球団から,ヤクルト,阪神(1999以降),楽天(2006年以降)を除いた計141チームを対象に以下の68チームをピックアップしました。

 ヤクルト1997(83勝52敗,勝率0.615)→ 勝率575-.636(計14チーム)
 楽天2009(77勝66敗,勝率0.538)→ 勝率507-.561(計43チーム)
 阪神2001(57勝80敗,勝率0.416)→ 勝率386-.427(計11チーム)

比較する指標として以下の指標を用いました
 攻撃力(図1):平均得点,打率,本塁打,長打率,出塁率,犠打,盗塁,四球
 守備力(図2):平均失点,被安打,被本塁打,奪三振,与四球

図1は下の方で横にスライドさせてみる事ができます

図1 攻撃力の比較
図2 守備力の比較
 図中の色つきの枠で囲ってある指標は比較グループとの間の差に統計的に意味があると判断された値です。 枠のない指標は,見かけ上は差があるようで統計的には意味のある差ではないと判断された指標です。 ヤクルト1997  攻撃力では,本塁打が少ないことと,盗塁が多いこと以外は,同程度の成績を上げたチームと変わらないという結果でした。  守備力では,平均失点と被安打が少なく,奪三振も少ないという結果でした。  これらの結果から,同程度の成績を上げたチームと比較してこの年のヤクルトは守り勝つ野球ができていたといえるのではないでしょうか。 楽天2009  攻撃力では,平均得点,本塁打,長打率が低いことから,同程度の成績を上げたチームと比較して打力が低かったと言えるのではないでしょうか。盗塁が多いことヤクルト時代から共通しています。  守備力では,被安打が多く,被本塁打が少ないこと以外は,他の指標は同程度の成績を上げたチームと変わらないという結果でした。  これらの結果から,同程度の成績を上げたチームと比較してこの年の楽天は攻撃直が低く,守備力が高いとは言えないチームでした。接戦をものにしてきたのでしょうか? 阪神2001  攻撃力では,平均得点,打率,本塁打,長打率,出塁率が低いことから,同程度の成績を上げたチームと比較して打力がかなり低かったと言えるのではないでしょうか。犠打が多いところがこのチームの特徴でしょうか。  守備力では,平均失点と被安打,被本塁打が少なく,奪三振も少ないという結果でした。奪三振こそ少ないものの,この勝率でも守り勝つ野球の芽は出つつあったと言えるのではないでしょうか。 まとめ  野村監督が率いたチームから3チームをピックアップして,同程度の成績を収めたチームとの比較を行いました。全てが野村監督の意図した成績ではないでしょうが,この3チームから野村監督のチームの特徴が見えてきます。 ①投手力の重視  まずは投手力から,というのは一貫しているのではないでしょうか。阪神時代にはまずは投手力の面で結果を出していると。いえるのではないでしょうか。 ②本塁打が少ない  才能としては長打力がある選手を求めているようなことを言っていましたが,一貫して本塁打は少ないです。池山選手にホームランを減らすよう指導したエピソードが示すように,力強く振り回すよりは状況に応じたバッティングを心がけた結果でしょうか。 ③走力重視  積極的に盗塁を狙っていく,というのは一貫した特徴ではないでしょうか。阪神はそこまで多くはないのですが,2001年にF1セブンといってチームの機動力向上を図っています。撒いた種はすぐに芽を出さなかったのでしょうか。 ID野球とセイバーメトリクス  以上,野村監督の率いたチームの特徴を検討してきました。チームの特徴は著書であげた特徴がよく出ていました。これらの特徴は,監督のポリシーでもあり,就任時に弱いチームを任された事情というのもあるのではないかと思います。  これらの特徴をセイバーメトリクスの観点からみるとどうでしょうか。 ①投手力の重視  セイバーメトリクスでは攻撃力を重視します。これは守備力のデータが扱いづらいという事情もあるので一概にはどちらがよいとは言えないところがあります。 ②本塁打が少ない  力強く振り回すよりは状況に応じたバッティングを重視するID野球では長打力が犠牲になってしまっています。これは一見してまずいことといえそうです。しかし,これの是非については,“状況に応じたバッティング”を指標化する必要があります。これを仮にKYB(K=空気をY=読んだB=バッティング)と名付けます。KYBと長打率のどちらが得点力または,チームの勝利に貢献しているかを明らかにすることで,野村監督の戦略の是非が明らかになります。 ③走力の重視  セイバーメトリクスでは,アウトカウントが増えることを非常に嫌いますので,盗塁はあまり必要ではないと考えられています。一方ID野球では積極的に盗塁を行っています。1997年のヤクルトは盗塁の数が多く,チームの成績が良いです。では,チームの得点や勝利に盗塁がどの程度貢献したかは未検討なので,そのあたりの分析が待たれます。  以上データを重視するID野球はセイバーメトリクスの観点からは有効とはいえない戦略・戦術を多用する傾向にあります。しかし,ID野球の戦略が本当にまずいかどうかはもう少し研究が必要そうです 引用文献 野村再生工場 -叱り方,褒め方,教え方 (野村克也著,角川書店 2008)




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タグ:
ID野球
セイバーメトリクス
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コメント返信

あー さんへ

コメントありがとうございます

>野村監督が勝つ時は総数は少なくても長打重視で期待出来る野手を必ず入れる。
また、その成否が結構成績に影響してる。

 確かにそんな印象はありますね。

 つまり、大量点が勝利につながるのではなく、適所で打つ事が勝利につながる。ということでしょうか、なかなか大胆な仮説で面白いと思います。

 これを検証するには、年間成績ではなく例えばヤクルトの1997年の137試合分のデータがあれば分析が可能なんですが、どこかで手に入れることはできませんかね?

>セイバーメトリクスで分析した場合、野村監督の残した結果は優れたモノなのか当然なのか足りないのかそんなのにも興味湧きました

 これは、得点と失点に対して勝ち星が多いか少ないか、ということでしょうか?

 ちょっと分析のため1996~2009年の全チームの年間成績、計168チームを対象に
勝率=a1*(平均得点)+a2*(平均失点)+定数と、このような予測式を立てて検証したところ

→ 予想勝率=0.082*(平均得点)-0.077*(平均失点)+0.478 と、なりました。

この式に平均得点と平均失点を代入すれば予想勝率(この程度の得失点であれば大体これぐらい勝てる)が計算できます。

この式に今回紹介した3チームの成績を代入するとヤクルトと楽天は予想される勝率よりも実際の勝率の方が高かったです。阪神は予想よりも実際の成績が低かったです。なので、ヤクルトと楽天は頑張っていたといえるのではないでしょうか。

コメント返信

toshi さんへ
コメントありがとうございます

>野村さんの求める人材像はチーム成績の数値に反映されやすいものとそうでないものがあるとおもいます。

 鋭いご指摘……

 これはおっしゃるとおりだと思います。野球ってたくさん数値があるようでして、まだまだ数値化されていない要素はあると思います。

 しかし、数値に反映されにくいからと言って、目に見えないものを後生大事にしていては、気がつけば空の本尊を拝んでいたと言う事にもなりかねません。

 ここは難しいですが、野村監督が目指した数値に反映されにくい野球を数値化していく必要があると考えてます。とはいえ具体的にどうしたらというのは、なにぶん頭が固いものでよい知恵が浮かんできません。何か良いアイデアは無いでしょうか?

コメント返信

かず さんへ

コメントありがとうございます

>推測ですが、野村監督は自身の采配や選手起用について、そのような検証はした事がなかったのではないでしょうか。

引用文献を読んだ印象では、野村監督(本当は元監督なんでしょうが、やっぱり野村監督が一番しっくりきますよね)が扱っていたデータは、投手の配球の傾向や、打者の得意、不得意なコースの割り出しであると思われます。
 これは、野村監督の現役時代の経験から編み出されたそうなのですが、当時日本では「そんなことなど考えて野球をしている人はいなかった」と言っていますから、革新的なやり方であったと思います。
 しかし、セイバーメトリクスのようにデータを使って、何が勝利のために必要か、戦術の費用対効果の分析をしたような言及はありませんでした。
 とはいえ、これもセイバーメトリクスの考えが広まっている今だからこそ言えることで、当時「そんなことなど考えて野球をしている人はいなかった」のも当然であると思います(まぁ野村監督は去年まで監督していましたが……)。
野球を見る人間からしてみると、データ重視のID野球という認識が広まっていたからこそ、セイバーメトリクスを受け入れやすくなっているような気もします。

ID野球とはなんだったのか

野村監督が勝つ時は総数は少なくても
長打重視で期待出来る野手を必ず入れる
また、その成否が結構成績に影響してる
97年はホージーがタイトル獲ってますよね
小早川を相手により使ったり
その年20本越える稲葉が2番だったり
楽天でも繫がりは悪くても山崎武を真ん中に置いたし
補強もセギノールやリンデンと長打を求めいた
セイバーメトリクスとは違う方法論で辿り着いたのかもしれないが
長打の重要性は認識していたでしょう

弱い又は経済的に厳しいチームは安定した長打力を期待出来る
打者を複数置くのは難しい
だから、少ないそれを効果的にする方法や
それ以外で点をとる方法に重きを置いたのかな

セイバーメトリクスで分析した場合
野村監督の残した結果は優れたモノなのか当然なのか
足りないのかそんなのにも興味湧きました

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