2006年10月30日

日本サッカー強化と芝のピッチと

日本代表が決定力不足を叫ばれて久しい。
その原因に関しては、「南米選手に比べてハングリーさが足りない」という精神論的な物から、「局面を想定した練習が不足している」というトレーニングレベルの物まで、非常に広義なやり取りがなされている。
こういった議論のどれしもが正解なのであろう。
欧州や南米の強豪と比した時に、これらの事が浮き彫りになるのは明白なのだから、正解なのであろう。
こういった議論に追加するように、現在「ストライカーキャンプ」なるものがサッカー協会主導で行われている。
育成年代の有望な選手に対して、ストライカーとしてのトレーニングを行うというものである。
これはこれでまた新たな試みであるから、このプロジェクトからJリーグで活躍するようなストライカーが生まれ、代表入りすれば、一定の成果を上げたと見て良いだろう。
2004年からの取り組みであるから、早ければ再来年辺りにはそれ相応の結果が見えてくるかもしれない。

少々前置きが長くなったが、こういったストライカー育成議論に対して、ここでは「Jリーグ100年構想」の一環でもある「緑のピッチ」を議題にして、私見を論じていきたい。

芝の時間

私は、ストライカーに限らず、サッカーを行う上で欧州や南米との差が埋まらないのは「芝で過ごす時間」の絶対的な短さではないかと考えている。
日本の育成期が土のグラウンドで大半を過ごすのに対して、欧州の育成年代はその殆どを芝で過ごすことが出来る。
その違いによって生まれるのは、サッカーの基礎となるキックの質である。
まずどのような違いが生まれるのかを考えてみる。

【芝の場合】
○蹴り足
芝の場合、ボールは芝の上に乗っかっている、すなはち「浮いている」状態にある。
浮いている分だけ、蹴り足を真っ直ぐ後ろに引いて振る時に、芝を刈るように爪先を潜らせて足を振ることが出来る。
それにより足の甲の一番固い部分、足首に近い地点にボールを当てることが出来る。
○軸足
「浮いた」ボールに対して足を振るために、しっかりと踏み込む事が必要になる。
この踏み込みが甘いと、インステップキック時に爪先に近い部分に当たってしまう。
○ボールスピード
芝の上にボールが浮いている、という状態は芝とボールが接している面積が大きいことになる(水の上にボールが浮いている場合を想定して欲しい)。
そのため、ボールスピードを高めることで芝の摩擦抵抗に逆らうことが出来る。

【土の場合】
○蹴り足
土の場合、ボールは最下部の1点が接地しているだけである。
そのため、爪先が地面に触れるか触れないかの状態で足の甲をボールにぶつける必要がある。
芝に比べて蹴り足があたる部分は甲のやや爪先よりになる。
最も硬い足首よりの部分で蹴るためには、足をやや斜めに振り下ろす必要が生じる。
これを芝の状態で行うと、ボールを捉えるポイントがボールの中心よりやや下となり、浮き球になりやすい。
○軸足
蹴り足が斜めに振り下ろされるため、必然的に軸足はボールからやや離れた地点に置かれることになる。
○ボールスピード
芝に比べて摩擦が少ないため、ある程度ボールの中心に近い部分を蹴ることが出来れば、強いボールを蹴ることが出来る。

上記の対比から、芝の上でボールを蹴ることと土の上で蹴ることは、似て非なる物と言っても過言ではないだろう。
図解できれば分かりやすいのだが、真後ろに足を振り上げてそのままボールにインパクトさせるのと、斜めに振り下ろしてボールを捉えるのとでは、ボールに伝わる力が違う。
そしてまた土の上で蹴ることに慣れてしまうと、芝の上でのボールの進み方に慣れる必要性が出てくる。
つまり、育成年代の最も重要な小学校3年から中学校くらいまでの間を土で過ごし、芝で活動が出来るような機会が(多少)増える高校自体において、一旦体が覚えた技術を修正する必要性が出てくる。
対して欧州の育成年代は、常に芝の上でのプレーを経験しているため、インステップキックに関しても、非常に強いボールを蹴ることが出来る。
僅か20ミリから30ミリの芝であっても、足先1cmを潜らせることが出来るだけで、甲にあたる部分が変わるのだからその差は激しい。

蛇足だが、公園の芝生の上で子供がボールを蹴るときに、山なりボールになりがちなのは、ボールを下から掬うだけの隙間を芝生が提供しているからだ。
子供の足がボールの下にすっぽりと入ってしまうことを考えれば、芝生が持ちうるキックへの影響は計り知れない。

そのような状況を幼年期に体に叩き込んでいる欧米南米のプレーヤーと、筋肉が発達した時点で戦うのは、少々分が悪い。

逆もまた真なり

土と芝の違いについて論じたが、逆説もまた成り立つ。
日本の育成年代は、イレギュラーが当たり前の土のグラウンドでのプレーを経験しているので、多少凹凸のあるグラウンドでも、しっかりとプレーすることが出来る。
ボールをしっかり見て、不規則なバウンドを自分の足元に収める技術がある。
これは日本のユース世代が高い技術を誇る、ということと全く関係ないとはいえないだろう。
もちろん、元来手足の器用さは世界でも有数の民族であるから、サッカーの技術向上に関してもそれに倣うのであろう。
が、育成年代の試合であれば、むしろ欧州のチームよりは強い場合が多い。
それは、発育途上の年代であるために肉体的な差以前に、技術の差で勝敗が決しやすい世代だからかもしれない。

コンマの差

日本人が高い技術を若い年代で持っていることは先述、及び昨今のユース年代の快進撃を見れば分かることである。
その上で、先述した芝適正を向上することで、決定力の向上も図れるのではないかというのが筆者の考えだ。
先ほども触れたように、幼年期から芝適正を鍛え上げられた人間と、一定期間でも土→芝という適正変更を強いられる人間とでは、自ずとボールに対する反応速度が変わってくる。
ボールへの反応が変わるということは、正確なキックをするための準備時間が短くなることを指す。
このコンマ数秒の違いが決定力の差になると言えるのではないだろうか。
欧州の選手は体に染み付いた計算能力で、芝の上を転がってくるボールの挙動を見極め、コンマ数秒の差でボールに触れゴールする。
日本の場合、どんなに芝に慣れたプロであっても、その乗り越えられないコンマ数秒が存在しているのではなかろうか。
その数秒で「ゴールへのパス」と言われる得点機会を逸してしまっているのだ。
コンマ数秒で立ち足をしっかりと踏み、ボールを当てるべき場所に当て、正確にゴールを狙う。
この一連の動作は体が覚えるものであり、その時期は早ければ早いに越したことがない。
その分、自分のものになってからの成熟度が違う。
すなはち、あまりにも数少ない育成世代の芝でのプレー機会が、日本と欧州の間に大きな溝をもたらしていることも、根っこの部分では決定力不足の要因にもなっている。

子供達に芝でのプレーを

いきなりサブタイトルが標語っぽくなったが、世界で伍していくためには、絶対的に芝でのプレー機会と、そのボールの挙動を幼いうちから体感して欲しい。
そこで正しいキックの仕方、どこにボールを当てるのか、をきちんと教えることで、基礎の重要性が大きく変わる。
世の中には芝とは名ばかりの河川敷グラウンドが多く点在する。
グランドキープが大変ではあるが、せめてハイブリッド・ターフ(天然芝に酷似した人工芝)の導入を行い、芝に近い状況でのプレー機会を与えても良いのではないか。
土の上でのプレー全てを否定するつもりは毛頭ないが、育成世代での怪我の減少などを鑑みても、芝(ハイブリッドターフ)などの導入は決して無駄にはなるまい。
せっせと裏金集めて、ばれそうだから燃やしました、なんてことをしている暇があるのなら、こういった有意義なことに使って欲しい。
裾野が広がれば、その分強化すべき選手の母数も増えて選手層が厚くなる。

無論、芝のグラウンドが増えるということは、サッカーのみならず野球やラグビーといったスポーツの育成にも役立つ。
Jリーグ100年構想といわず、スポーツ界全体が一丸となって、緑のグラウンドを増やして欲しい。

追記
そのような意味合いでは、私企業として開放型芝グラウンドを有するレッズランドを提供する浦和レッズの理念は素晴らしい。
こういった取り組みが広く行われることを切に願います。

posted by stanger |23:19 | 考察 | コメント(2) | トラックバック(0)
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Re:日本サッカー強化と芝のピッチと

日本代表は決定力がなさすぎる。3試合で2点しか取ってない、1試合最低5点を取らないと野球は勝てない。

posted by 長島 | 2006-10-31 03:54

Re:日本サッカー強化と芝のピッチと

まず、レスの長島さんに言いたい。あまり暴言とかはしたく無いけど・・・「野球さんと同列に語らないで。(喝)の人らに中西哲は何も言わないが、彼らは入ってくるのもどーか?・・・。GKは防具つけろ?・・・とかね。」凄いズレてすいません。芝はGKの為にも良いっすよね。

posted by 上段青天 | 2006-11-02 12:34

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