Football Memorandum

サッカーで出来ることはなにか〜コナー・ザ・クラッシャーから学んだ事〜

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この動画を見て考えた。 果たしてこの大人が少年に何かを与えたのか。
それとも彼が大人に沢山の事を教えたのか。

WWEから「コナー・ザ・クラッシャー」へ捧ぐ5分19秒のプレゼント

ふと立ち止まって考えてみる。
常日頃僕らは子供達に「与える」「教える」と自然に考えている。
が、コナー君がHHHをパンチし、カバーしてカウントの瞬間、周りにいるWWEスターの表情を見てみると、彼らは本当に楽しそうだ。
コナー君がマイクに向かって「Wrestle Mania!」と叫ぶ後ろでファンサービスをするビッグ・ショーが満面の笑みでコナー君を見つめている。
僕はこの動画を見て泣いた。涙を流した。嗚咽した。
その一方で自分の身に置き換えて考えた時に、サッカー・ファミリーの一員としてサッカーで出来る事はなんだろう、と思った。



■育成過程でも出来る事

先日出場したある大会での出来事を書いた。
育成と大人 
TwitterのフォロワーさんがRTをして下さると、瞬く間に広がって一部の方々からご意見を頂いた。
僕がここで言いたかったのは、勝つとか負ける以前に4種(少年少女)のカテゴリーでも沢山出来ることがある、ということだ。
うちのチームにとってはこの野次は不幸な出来事で、選手達のみならずお父さんお母さんにも嫌な思いを残してしまった。
その一方で、皆が「国際化社会で国籍の違う選手と一緒にサッカーが出来る事は幸せなこと。」と改めて感じてくれる事が出来た。
乱暴な言い方をしてしまえば、一つの試合に勝ったところで、カテゴリに上がると4種の選手の多くがサッカーを辞めてしまうという流れが今の日本サッカーの背景に存在する。
経年変化で見る事が出来ないので、一概には言えないがJFAのデータを見ると、4種では30万人の選手登録が、3種になると24万程度、2種(高校)になると16万人と約半分になってしまう。
この減り方の一員を勝つことが出来ないチームの選手が辞めてしまう、ということは論理的でない。
その一方で辞めてしまう選手がいる、ということは日本サッカーにおける何らかの損失である、ということが言えるとは思っている。
サッカーを諦めて他のスポーツや活動に移行していくことは、選手個々については時間の浪費を避けるのだから、決して無駄な事ではない。
が、その元選手達が完全にサッカーを忘れ去ってしまっては、結局小学校年代の複数年を無駄にしてしまうことになる。
そう考えると、僕は「勝つことを主軸に置くよりも、サッカーを中心として色々な経験をした方が選手達の後々に繋がるのではないか。」と思い、自チームを率いる事を思い立った。
サッカーでは負けてしまったかもしれないが、負ける事から学ぶこと、そしてサッカーという経験を通して他者が感じることの出来ない喜びや感情を得られた、そんな事を後々に選手が思い立ってくれれば嬉しいと思っている。
こういう考え方は時にサッカー中心の考え方をする方々からは「甘い」とご指摘をいただく。
確かに甘いことを否定はしない。
ただ僕は、辞めるにしても続けるにしても、好きである限り試合に出れて楽しめる、という意外に見過ごされている事を正面から見据えてみよう、と思っただけだ。

■「ありがとうございました」

冒頭のコナー君の動画を僕が涙無くしてみれなかったのは、ある一人の選手を思い出したからだ。
当チーム5年生に所属するA君という選手だが、彼はダウン症の選手である。
2年前、うちのチームがどんな選手であれ試合に出す、という鉄の掟を持っていると口コミで聞いたお父様がある日彼を連れて練習場にやってきた。
他のコーチは戸惑っていた。
言葉は理解すれど、運動能力が良いとは言えないA君を選手として入団させる事がチームにどういう影響を与えるのか。
勝ちは優先しない、と言えども、僕らのようなチームも勝たなければならない試合もある。その時に彼をどうすれば良いのか。
僕も正直分らなかったが、体験練習に参加をしてもらった。
体験で来てくれる選手が居る場合は、試合形式を中心にする。
だから選手達も体験の「お友達」が来る事を何よりも喜ぶ。
その喜びが「お友達」を「仲間」として迎え入れる儀式になる。
A君は一生懸命走った。
とにかく頑張って走った。
その光景を今でも覚えているし、今でも彼のそのプレースタイルは変わらない。
ボールを持つ事は出来なかったけど、とにかくもう何かの機会が彼を動かしているのではないか、と思う程に縦横無尽に走ってボールを奪いに行く。
遂には彼はその目的を果たし、その試合の中で2回か3回ボール奪取に成功した。
「やるなー」
と傍らのコーチが驚いたように言った。
ボールを追えば選手同士も相手が健常であろうがなかろうが関係なくなる。
何度かパスが送られ、その度にA君はトラップ出来ずにがっかりとして膝に手をついた。
僕はその都度お父様を横目に見た。お父様も少々残念そうな表情をしていたのを覚えている。
コーチが試合終了の笛を吹き、「はい。練習終わり!集まって!」と声を掛けた。
その直後、僕もコーチも言葉に詰まった。
A君が側にいる選手一人一人に駆け寄って「ありがとうございました!」「ありがとうございました!」と握手を求めていたのだ。
普段の練習では絶対にあり得ない光景に唖然とする僕とコーチに、後ろから見ていた6年生のコーチが
「おい!最高じゃないですか!どこのチームでもこんなことやってないですよ!めちゃくちゃ最高ですよこれ!」
と声を上げた。
A君の何気ない、普段からお父様が「人と一緒に何かをしたら、ありがとう、って言うんだよ。」と教育からでた自然な行動が僕らに大きな事を気付かせた。
練習の最後にコーチに向けて「ありがとうございました」というのは良くある風景だが、試合形式の練習の後に「ありがとうございました」と選手同士が言う事は無い。
その瞬間は味方と相手に別れて闘っているのだから、全てをリセットする意味でも「ありがとうございました」というのは非常に意味がある行為なのである。

2年後の今日、彼は立派なうちのチームの選手だ。
どちらかと言えば、選手達が自分達でA君に気を使うようにもなった。
シュートを決めさせて上げたい、トラップが出来たらナイス!って言ってあげたい。そういう気持ちが個々の選手達の中で大きく実っている。
そしてA君自身も自分はボールを追いかける事、ムードメーカーとして「ドンマイ、ドンマイ!」「頑張れ!取れるぞー」と声を出す事が自分の得意領域だと頑張っている。

彼が僕らと行動を共にする間、嫌な思いも沢山した。
それをここで述べる必要は無い。
ただ、嫌な思いをしても彼は必ず「ありがとうございました!」と整列前から周囲の選手の手を握り続けてきた。
彼が僕らのチームに加入してから2年間、今では中学2年になった当時の選手もたまに練習見学に来てはA君を気に掛けて肩を抱いて言う。
「お前上手くなったじゃん。中学でもサッカーやりなよ。」

■国も障害も乗り越えられる

僕も今年で40になった。
ここ1年間足首の怪我に悩まされ手術までしたが好転せず、ついに選手としては引退(?)を決意した。
ふとこれまでの32年に及ぶプレーヤー人生を振り返ると、僕の原点も障害のある子や国籍の違う子とのプレーだった。
初めて入ったチームには知的障害を抱えた子が居た。
母から「あなたとちょっと違うだけなんだから、皆と一緒にパスもする、シュートも出来るんだから。それが出来ないならサッカーなんてやめなさい。」と言われたのを覚えている。
当の母は忘れているようだが。
ある日練習後に彼のお母さんに呼び止められて「ひろしくんとサッカー出来て楽しいみたいで、お家にいてもひろし、ひろし、って言ってるのよ。ありがとうね。」と言われた。
僕は何か気恥ずかしくて、逃げるように去ってしまったのだけど、なんだかとても嬉しかったのを覚えている。
キャプテン翼は「ボールは友達」と言って森崎君の恐怖心を取り除く事は出来たけど、僕はキャプテン翼もなし得なかった事をしたんだ、と勝手に思っていた。
先のA君の話をしたのも、冒頭のコナー君の話を引き合いにだしたのも、自分の事を言ったのも、根っこは同じだ。
ボールを通して通じるものは沢山あるのだ。
言葉や能力以前に、人としての心が読み取れる瞬間が来る。
ボールにはそういう魔力がある。

コナー君の動画を見て、僕はボールで出来る事、そこから学んだ事を違うシーンで活かして行こうと改めて思った。
こういう積み重ねが草の根から積み上がっていって、いつかJリーグを中心とした本当の意味でのサッカーファミリー=文化が形成されて、誰もが共に楽しみながらスタジアムで試合が観られる日が来る事を心から望む。
そのためにも、今から自分に出来ることを真剣に考えていきたい。

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