Football Memorandum

極小規模で世界に挑戦 ~Ireland Premier Leagueのチーム運営~

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2013年3月15日から19日(帰国は20日)まで、知り合いの方の代行という形でアイルランドを訪問し、シャムロック・ローバーズというチームの試合を2試合(内1試合はボヘミアンズという同じダブリンを本拠地とするダブリンダービー)を観戦する機会に恵まれた。この事は非常に貴重な経験となった。
この記事はそのうちの一つであるチーム関係者との面談をインタビュー形式で記載したものです(文字起こししたら長くて驚いた・・・。)

ちなみに試合はお世辞にもレベルが高いとは言えない。
恐らく日本のJFLの方が高いレベルの試合を展開していると思う。そういえば、読者の方にもレベル感は伝わるかもしれない。

なので、こんなことを言うと色々と気遣いを頂いた皆さんに申し訳ないのだが、この日のシャムロック・ローバーズ(以下ローバーズ)のマーケティング担当役員マーク・リンチさんとの面談は、ローバーズの試合観戦よりも楽しみにしていた。
ローバーズが持つチーム運営方法をお聞きする良い機会となるはずだったからだ。
マークさんからも本面談の内容の大半(チーム運営のコアになるべき部分を除いて)をブログに掲載することにも許諾を頂いたので、せっかくの貴重な面談記録を掲載したい。
(※ちなみにところどころ英語で会話はしたものの、難しい内容は通訳に入って頂いた現地在留邦人の方に助けて頂きました。)



■受け皿としての自国リーグ■

 ーーマークさん、今日は本当に貴重な機会を有り難うございます。お話出来るのを楽しみにしていました。また昨日は3−0での勝利、おめでとうございます。
 マーク(ML)どうもありがとうございます。日本からのゲストの前で素晴らしいゲームをお届け出来て良かったです。日本からわざわざ来て頂いて、しかもローバーズに興味を持って頂けたということで、嬉しく思います。
昨日はタラトで少しだけお会いしましたが、試合はどうでしたか?
 ーー想像と違って驚いたというのが正直な感想です。もっとロングボールで中盤を省略したサッカーをするのかと思いましたが、結構ボールを繋いで行くサッカーですね。
 ML そうですね。確かにあなたが言う通り、ロングボール主体のサッカーをするチームも多いですが、我々は少しでも上の戦いをするためには、きちんとボールを繋ぐサッカーをすべきと考えていますから、あなたの想像を裏切ることが出来て嬉しいですね(笑)。
ーー少しでも上の戦い、というのは2010-2011シーズンに戦ったEurope League(EL)のような国際舞台を指しているという理解で良いですか?
 ML はい。我々のような小国のチームにとってはEL本戦への出場は夢のようなものです。実際のところ2010/11はユベントスと戦ってホームで0-2、アウェイ1−0で負けてしまいましたが、ああいった高いレベルのチームと戦うことが出来れば、観客も増えますし、選手のモチベーションにもなります。
また2009年にはレアル・マドリードがダブリンに来て、プレシーズン・マッチを行いました。この時はチケット代金が€60と通常の4倍も高かったのですが、タラト・スタジアムは満員になりました。この時も結果は0−1と負けましたが、主力を欠くメンバーとはいえ、あのレアル相手に0−1というのは選手にとっても大きな自信になったはずです。
 ーー正直、アイルランドと言えば、代表チームはワールドカップの常連ですが、クラブチームの名前はあまり聞きません。失礼ながら選手は一人も分りませんでした。そういうチームが世界的なチームと対戦することは確かに重要ですね。
 ML ええ。あなたが我々のチームの選手を全く知らない、というのも仕方がないことでしょう。世界には質の高いサッカークラブが沢山ありますからね。それこそ我々も海峡の向こう側にはプレミアリーグという世界最高のリーグがあります。実際に我が国のサッカーファンの大半も、我々の試合を見に来るよりもプレミアを見る方に熱心です。
 ーーそのような非常に厳しい状況の中で、どうやってファンを確保するのか、動員を確保するのかが重要になるので、ビッグネームとの対戦は良い宣伝機会になる、ということですか?
 ML そうです。ローバーズと試合をしたチームのファンや、または普段ローバーズに興味が無い人が、我々の試合を観て「面白い」と思ってくれることが一番重要なのです。なので、もちろん本選にも進みたいですが、ELの予選を戦うこと、尚且つそこできちんとしたフットボールを展開することが我々にとっては重要なのです。
 ーーただ、過去を見ると、アイルランドの選手というのはプレミア等で活躍していて、代表チームの顔ぶれも殆どが名前と顔が一致する選手ばかりです。一方で国内リーグの選手が代表チームに入っていることは皆無だと思いますが、このようなギャップについてはどのようにお考えですか?
 ML 確かに我々のチームの選手が代表チームに入ってくれれば良いのですが、レベルが違い過ぎます。ご存知とは思いますが、海外で活躍している選手の大半はユース時代、15歳とか早い子供なら10歳にもならないうちからイングランドやスコットランドのチームでプレーをします。
これは我々のリーグに魅力がない、というよりも歴史的に自国のチームよりもプレミアでプレーすることの方が現実的であることが背景にあります。元来国内のサッカー人気は非常に低かったんです。国内での人気スポーツと言えばゲーリックフットボール、ラグビーやクリケットが人気でした。サッカーも代表は人気がありますが、歴史的に代表=海外の選手、というのが当たり前だったので、若ければ若い選手ほど国内リーグに目を向ける選手は少ないです。
 ーーそのような中でIreland Premier、First Division含めて20以上のチームが存在しますが、その存続意義というか、位置付けはどうなっているのでしょうか。
 ML 恐らく二つの見方があるのではないかと思っています。一つはファンにとってのチームという見方です。チームというのは街の象徴でもありますし、サッカー人気が低いといってもイングランドプレミアを見たりする人は多いので、やはりサッカー文化というかサッカーが好きという気持ちは国民全体のどこかに根付いていると思います。でなければローバーズは1901年から今日まで存在し続けないでしょ?(笑)そのような人々が身近に感じられるサッカー、それがIreland Premierでいいのではないかと思います。 二つ目が選手達にとってのリーグですね。先ほどもお話した通り、アイルランドの若いプレーヤーはどんどんイングランドやスコットランドに出て行ってしまいます。が、その全員が成功出来るわけではありません。夢を実現出来ずに帰国する選手が大半なのです。そういう選手が帰国して働くにしても、いきなりコンピューター産業で働くわけにもいかないですよね(注:アイルランドはソフトウェア産業が盛ん)。そういった若い時からサッカーばかりをしてきて、なかなか職に就けない選手達を受け入れる、という意味でも我々のリーグは大きな意義があると思っています。
 ーー夢が叶わなかった選手のセカンドキャリアとしてのリーグ、というところでしょうか?
 ML そうです。例えばローバーズのスター選手でコナー・マコーマックという選手が居ます。彼は10代でマンチェスター・ユナイテッドに加入をし、アイルランドユース代表にも選ばれる将来有望な選手でした。が、ユナイテッドでプロ契約を得ることは出来ませんでした。それでも諦められず、レベルの高いサッカーを経験したいとイタリアに渡ってトリエスティーナというセリエBのチームに加入をし20歳までプレーをしましたが、そこでも上手く行くことができませんでした。フラストレーションがたまるような経験を海外でしてきた20歳の彼にとっては、もう一度フレッシュな気持ちでサッカーに取り組める環境が必要だったのです。そのために帰国をし、ローバーズに加入をしました。彼自身非常にのびのびとプレーをしていますし、また周りも帰国した彼を喜んで迎え入れてサポートしています。彼のような選手は数多くいますから、そういう選手が地元のサポーターと共に楽しい時間を過ごせるようにする、と言う意味でも我々が存続し続けていきたいと思います。

■Jリーグでも参考にし得るマネタイズ■

 ーーチームの存続、という言葉が出ましたが、チーム運営についても少し聞かせて下さい。私がとても興味深いと思ったのが、ローバーズの運営方法とマーケティング手法なんです。
 ML それはありがとう。私の仕事ですから、あなたのような海外からのお客様に褒められると嬉しいですよ(笑)
 ーー運営面においては、メンバーという方法をとられていますよね。これは例えば世界的に見ればバルセロナのSOCIOの仕組みと似ていると思うのですが、もう少し詳しく教えてもらえませんか?
 ML バルセロナの仕組みと同様ですね。数は全然違いますけど(笑)。
メンバーは毎月€50を支払えば誰でもなることが出来ます。チケットやスタジアム内のラウンジを利用することが出来る等の特典が与えられますが、一番の特徴はチームはメンバー内から選ばれた役員によって運営されるという点です。バルセロナの仕組みと同様でしょ?
 ーーその方法はずっと以前から採られていたのですか?
 ML いいえ。その点についてはバルセロナとは大きな違いがあります。2002年にローバーズ自体が深刻な経営危機に陥りまして、その時にサポーターの有志が400人以上集まって資金を出してくれたことがきっかけです。その時の名称は400クラブという名称でした。2005年にはクラブが持つ負債の大半を400クラブが引き受けることで、役員を出すようになりそこから今の形態になりました。
 ーー非常に興味深い話ですね。チームの負債、とは一体どの程度あったのでしょうか。
 ML 財務状況を公にしていないので、ブログに載せないという条件で後でお教えしましょう(笑)。でも、ヒントとしては400クラブが負担してくれたのは半分弱でしたね。当時彼らが負担した金額は、今のメンバーズ費用を参考にすればある程度推測出来ると思います。
 ーー€50/月が400人で1年間分、って感じですか?
 ML 後で教えますよ(笑)
 ーーいづれにしても後でこのお金の部分はお聞きしますよ?(笑)
 ML 答えられる範囲でお答えします(笑)
 ーーでは次に面白いと思ったのが、シーズンチケット以外のスポンサー制度です。昨晩タラトでスポンサーシップのブローシャー(http://www.shamrockrovers.ie/pdfs/spons-broch-2013.pdf)
を拝見していたのですが、企業向けだけでなく、個人でも手の届きそうな金額で、本当に沢山のプログラムを提示されていますね。
 ML その通りです。スポンサーシップというのは、我々のみならず、どんなビッグリーグでも重要な要素です。しかし、我々の場合はビッグリーグのように沢山のお金がスポンサードされるわけではないので、広くスポンサーを集める必要があります。スタジアムへ掲出する広告は安くはありませんが、それでもビッグリーグに比べれば格安です。あなたが見たブローシャーにもある通り、タッチラインサイドでも年間で€1,500(125円換算で187,500円)で、広告主には2名分のシーズンチケットが付いていますから、かなりお得です。あなたが自分の名前を"カンジ"で出すことも可能ですよ(笑)。
それに他にも1試合毎のスポンサーシップも用意してあります。€700で8名分のチケットをお付けした、接待や誕生日等にも使うことが出来るプログラムです。ローバーズの選手に合うことも出来ますし、ユニフォームプレゼントをハーフタイムにしたりも含まれています。その他にもブローシャーに掲載されているように、個人のファンが楽しめるプログラムを沢山用意しているつもりです。
 ーー私の名前を出しても私が何か得になるような思いがしないので、それは将来やりたいことリストに入れさせて下さい(笑)。面白いのは、€125でリーフレットを配ってくれる、という物があったり同様の金額でその日のマッチボールに選手がサインを入れて貰えたりと、本当に多様ですよね。実際の利用頻度はどうなんでしょうか。
 ML お陰様で需要はあるんですよ。得にマッチデーマスコット(€100)は、ファンが子供と選手を触れ合わせる良い機会でもあるので人気がありますね。リーフレットも定常的に需要がありますし、マッチデープログラムへの広告掲載も同様です。そもそもアイルランドという国自体が、何度も経済不況になっていることもあるため、年間で何十万ユーロというお金を出費するよりも、必要な時に必要なだけお金を出すことの方が需要を喚起出来る、というのがこのプログラムの目的です。更には、ファンがその時々の試合を思い出に出来るために、沢山の経験を出来るようなプログラムを用意することで、ファンの「得別感」を演出出来ればと思っています。日本で同様の事は行われていますか?
 ーー日本でこのようなサービスは無いですね。なので私は非常に面白いと思いました。個人的な思いですが、日本の場合はサポーターとチームはある種別物なんです。サポーターがチームに求めないと言う面もありますし、チーム側も一定の線を引いてサポーターと接している感じが個人的にはしています。それによって選手はよりヒーロー化しますから、スタジアムでヒーローを見るために足を運ぶ、という点もあると思いますけど。
しかし、こういうマネタイズの方法、つまり金で得別感を買うという方法は日本ではどこか毛嫌いされる感じがあるかもしれません。
 ML それは何故ですか?日本のサポーターもジャージ(ユニホーム)を買ったり、マッチデープログラムを買ったりしますよね?なのにマッチデーボールを得る権利をお金で買う事は嫌われるのですか?
 ーーなんて言えばいいんだろう(汗)。恐らくですけど、私はチームフロントとして働いた経験はないので推測ですが、チーム側もそういう「お金出して買って下さい」みたいなことはやりたくないんだと思います。なんていうか、「武士は食わねど高楊枝」っていうことわざがあるのですが、お金がないって思われたくないのかもしれません。もしくはお金で何かを売りつけようとした瞬間にサポーターにそっぽ向かれたり、良くない思いを抱かれるのが怖いのではないかと思うんです。ユニホームやマッチデープログラムは当たり前にあるものですけど、ボールを売るとか、マスコットキッズ権利を売ると「金持ちを優遇するのか!」って声も出る訳で。なかなか難しいんではないかと思います。
ML (苦笑いしつつ)昨日話をしましたが、私は2002年のワールドカップの時に日本に行きました。皆さんとっても親切で、凄く良い経験をしました。その一方で、旅行客を騙そうとかする人が全然いないんです。スリも見ない。イタリアなんかはスリだらけですよね(笑)。アイルランドもそうです。気をつけて下さいね。でも日本ではそんな人は全くいない。どこか皆さん余裕がある感じがしましたが、それがあなたが今言った事になるのかもしれませんね。お金に困ってないというか、基本的に裕福なのかもしれない。
 ーーというよりも、外国人を騙したりして暴れられたら勝ち目が無いからではないでしょうか(笑)。特にアイルランドの人はいいからだした人が多いですし。 
 ML そうですね。身体の大きい人が怒ったら止められないですよね(笑)。それならば危険が及ぶような事はしないのが正しいでしょうね。
 ーーただ、2002年の時はアイルランド代表は日本でとても人気が高かったですし、サポーターも人気者でした。ご存知ですか?
 ML 後から新聞で読みました。我々の国民性でもありますが、とにかく諦めないで戦いますし、負けて暴れるような事はありません。基本的にその試合一つ一つを楽しむ事が重要なんです。昨日の試合もそうですが、イングランドやイタリアのように危険を感じる事はなかったでしょ?
 ーーそうですね。私はどちらも最近試合を観る機会がありましたけど、危険を感じることはなくても、緊張感はありますよね。銃を持った警察官が沢山居て目を光らせていたり。
 ML そうですよね。そういう事はアイルランドではめったにありません。代表の試合ぐらいでしょう。だから試合中でもサポーターは歌って懸命にチームを鼓舞してくれますが、終わったらそれまで。チームや相手サポーターに危害を及ぼすような事はしません。これは恐らくですけど、我々も日本の皆さんも島に住んでいるからではないか、とその新聞には書いてありましたよ。島国の人々なので、入ってくる人は歓迎したいし、同じ島に住んでいる人同士は助け合いたい、そういう気持ちがあるのだと思います。
 ーーそういわれると、そういう点では同じ気持ちを持っている感じはしますよね。昨日スタジアムでも何人かのサポーターに「日本人か?楽しんでいけよ」とか「分らない事があれば教えるよ」と声をかけられました。本当に親切な人が多いな、と思いましたね。あ、あなたもですけど。
 ML 有り難うございます(笑)。後で沢山ビールをごちそうしないと!でも、話を戻しますけど、そのマネタイズする事が悪いというのは何か違う気がしますね。スポーツチームに限らず、企業というのはお金を儲けて、そのお金で更に顧客に対して良いサービスを提供するわけですよね?ローバーズでいえば、お金を得ることでチームを強化して再び優勝をする、という事が目的なのですが、日本のチームも同様のはずです。そういったマネタイズがされないというのは本当に不思議です。サイン入りボールを売ったら欲しい人はお金を払いませんか?あなたは欲しくないですか?
 ーー欲しいですね。特に自分がサポートするチームの物なら。
 ML ですよね?そういう事をチームがしたい場合、どうするのですか?
 ーー年間チケットを購入している人を対象に抽選にする、というのが多いのではないでしょうか。
 ML という事は、お金を多く払っていても、当たらなかったら手に入れられない?
 ーーそうですね。そういうことです。ただ、バルセロナやマンチェスターユナイテッドのように何万人ものサポーターが居る場合は、そのようなマネタイズは不要ですよね。日本の場合は多いところだと5万規模の観客を集めるチームもありますし、私がサポートするチームの場合でも年間チケット購入者は1万人程度います。なので、それだけ多くのサポーター相手にボール入手権をマネタイズしたとしても、結局は抽選とか早い者勝ちにならざるを得ないと思います。
 ML なるほど。それを早く聞けば良かったですね。それだけの数が居ると、確かに私たちのやり方を適用するのは難しいかもしれませんね。我々はタラトが満員になってもせいぜい6,000人弱です。年間チケット保有者も2,500人程度ですからね。その数少ないサポーターに対して、どうやってアップリフトする提案をするか、特別感を出すか、は重要な要素なんです。
 ーー規模の違いはありますね。ただ、そういうアップリフトをしつつも、顧客ロイヤリティを高める方法論は日本よりも欧米の方が上手ですよ。日本のチームでももっともっと出来ること、マネタイズする仕組みはあるはずですが、まだまだ企業スポンサーに頼っている部分は大きいですね。定常的に2万人の観客を呼んでも、試合数はせいぜい20試合程度なので、チーム運営のためには企業スポンサーから沢山のお金を出してもらうより仕方がありません。
 ML それは我々も同じです。しかし、企業スポンサーは来年も同じようにスポンサーとなってくれるとは限りません。そのためにも、サポーターのロイヤリティを高めて、重要な収入基盤としなくてはなりません。サポーターはチーム運営にとっても選手にとっても、非常に重要な要素なのです。
 ーーチームがそうやってサポーターを重要視してくれるのは有り難いことですよね。日本でも同じようなマネタイズの方法であったり、個人スポンサーシップのあり方を取り入れても良いのではないかと思っています。リーグ全体の統制が厳しい部分もありますけど、固定化してくれている顧客一人一人にどうやってアップリフトする提案をしていくのか、はビジネスの世界では絶対的に必要なことですね。
 ML 私もそう思います。日本のリーグはとっても好調なようなので、私たちのやり方を参考にして、より素晴らしいリーグにしてくれればと思います。

■極小規模のチーム事情■

 ーーさて、少し財政的なお話を伺いたいのですが、スポンサードのブローシャーを拝見してみて、実は昨晩ホテルでローバーズの収入をモデリングしてみたのですが。
 ML 具体的な数字については申し上げられないのですが。
 ーーええ、それは分った上でお話を伺いたいと思います。なので、私の仮説を基にお話させてください。
 ML 構いませんよ。
 ーー年間チケット、スポンサー料金、メンバーズとここまでお聞きした話がチームの主要な収入源だと思います。それに恐らく、選手の広告出演などのプラスアルファがあると考えると年間で€100万〜120万ぐらい(1億2千万〜1億5千万億弱)の収入かと思うのですが。
 ML 当たっているかどうかについては答えませんよ(笑)。多いとも少ないともいえませんが。でも遠くはないですね。あなたの推察の通り、他のリーグに比べると非常に少ない金額で運営をしなくてはなりません。恐らく我々がメッシを取ろう!なんて言うと、サポーターは全然違うメッシという同姓同名の人と契約することを想像するでしょう。本物のメッシと契約なんてしたら、チームが直ぐにつぶれてしまいますよ(笑)。
 ーーそのような小さな運営金額で、どのようにして選手を確保し、そして運営していくのでしょうか。特に選手のモチベーションはどこにあるのだろうか、と思うのですが。
 ML 凄く悪い言い方をすると、選手は先ほども言った通り、海外で夢破れた選手や海外に行く機会もなかったような選手が大半です。なので、サラリーについて大きな事を言う選手もいないんですよ。チームの経営事情を選手も理解をしているので、選手も代理人も法外な年俸を要求するような事がありません。更には、チーム運営はサポーターであるメンバーが行っていますから、無理な要求はサポーターから嫌われる原因にもなる。どうしても年俸を上げたいのならば、収入源であるスポンサーやサポーターに満足をしてもらって、もっともっとお金をローバーズのために使いたい、って思ってもらうしかないので、選手は率先してスポンサーサービス、サポーターサービスに協力してくれます。つまり、ローバーズが上手く行って、長年リーグのトップチームとしていられるのは、サポーター、スポンサー、選手の3つの重要な要素が非常に良いバランスで関係を築けているからだと思います。
 ーーつまり、これまでお話して頂いたように、スポンサーにとってはELなどで世界的なチームと対戦することで広く名前を売れるし、サポーターにとっては選手がサービスしてくれるのであればスポンサープログラムにもお金を払って支えていきたい、選手にとってはスポンサーとサポーターにサービスすることが、自分の生活を保障することに繋がると。それらが良い均衡を生み出しているから、非常に大変だったチームの経済状況も脱して今も尚ELの舞台にチャレンジ出来るような、国内屈指の強豪で居られる、と。
 ML そうですね。我々のようなビジネススタッフは、スポンサー・サポーター・選手やスタッフがあるから仕事ができるのですけど、ビジネススタッフもその3要素の均衡が崩れないようにアイディアを出していかなくてはいけないのです。もう2002年や2005年のような思いはしたくありません。2009年まではホームスタジアムも持たずに、遊牧民のようなチームでした。タラトにホームスタジアムを構えて、サポーターと共に楽しめる場所も出来ました。チームが150年、200年と続いていけるような、新たな基盤をこの10年間で作ってこれたと思います。これを続けて、そしていつかはELの本選で選手達が少しでも上に上がっていってくれれば、と思います。
 ーーチームの財政という観点でもう一つだけお聞きしたいのですが、ローバーズから海外のチームに移籍する選手はいないのでしょうか?そういう選手育成もまたチームの財政基盤の一つになると思うのですが。
 ML それももちろん狙いたいと思います。実際のところはなかなか難しいのですが、定常的にELに出ることで、そういう事も起こり得ると思います。若い選手も沢山いますので、スコットランドでもイングランドでも、フランスでも、そういう選手が出てきてくれれば、今海外に出て行ってしまっている少年達がローバースに入りたいと思ってくれるようになるでしょう。そのためにも、チームをより良い環境にして、より強くしていかなくてはいけません。
 ーー日本でも活躍の場を求めて海外に渡ってプロとして頑張っている選手が沢山います。ふと思ったのは、日本の若い選手がアイルランドでプレーするのも良いと思います。あなた方のホスピタリティや、島に住む国民性を考えると、非常に良いかもしれないですよね。
 ML 面白いと思いますよ。ただその分アイルランド人選手が一人ベンチから外れてしまいますけど(笑)。ただ、南米国籍の選手がいるチームもありますし、そういう多様性を我々のリーグも持つようにならないといけないのかもしれません。歴史的にも外からの力に対して戦う事が多かった国民性もあるのですが、協調して強くなっていく方法もあると思います。国の経済を助けたのは海外企業を誘致して労働機会を得る事が出来たからです。それと同じ事をスポーツの世界で出来ないとは思いませんから。
 ーーその点は日本も同様ですね。特に日本は英語を話さない人が多いので、グローバリゼーションという観点では非常に危うい状況にあります。海外から沢山労働者が入ってきたりして、同じ仕事を安くやってくれますし。国境を越えて協力しながら、お互いがwin-winでやれるような世界になるといいですよね。
 ML 私もそう思います。なので、あなたがこのアイルランドで経験したことを、ブログやTwitterで書いてくれて、少しでもアイルランドに興味を持ってくれる、ローバーズに興味を持ってくれる人がいれば、お互いwin-winになれますので、まずはここから協力しましょう(笑)。
 ーーそうですね(笑)。でもあなたは私の仮説が正しいかどうかに答えてくれなかったので、まだ私はwinになれないですよ(笑)
 ML 後で私が沢山お酒を飲んだ時にあなたがwinになれると思いますよ(笑)。ただ、それまでにあなたが寝なければ、ですけどね(笑)。

こうして僕らの会話は一旦終了して、僕は簡単なダブリン市内観光をし、夜に再びマークさんと合流して食事を頂いた。
マークさんは最後まで酔うことはなかったけれど、別れ際にA4用紙で20枚に及ぶチーム財政に関する書類をくれた。
この書類については彼との約束もあるので、内容を公には出来ないが、概ね僕の仮説が正しいことを表していた。
非常に苦しい台所事情の中、それでも2,500を超える年間チケットホルダーがいて、1901年からの歴史の灯を継承し続けているチームがあるということは、欧州サッカーが持つ歴史の奥深さを感じた瞬間でもあった。

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2014/06/05 stanger@管理人

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サッカーを愛し、サッカーを憎み、サッカー無しでは生きていけない偏愛サッカー主義者。
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【好きなプレーヤー】
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