2010年02月14日

上村愛子は正直で、優しくて、強い。

あと一つ。
あと一つだった。
もちろんメダルがすべてではない。
しかし、上村愛子が欲したメダルまで、あと一つだった。


「後悔やなぜだろうという思いはない」と上村は語った。
同時に、「最後に座っていた3番目の席に、例えそれが3番目でも、このまま座っていたいと思った」と正直に語った。もちろん、「みんなが失敗しちゃうことを願うのは、よくない。」という言葉も添えて。

涙を浮かべながら、それでも笑顔で答える表情の奥に
どれほどの感情が混ざり合っていたのだろう。
悔しさは計り知れない一方で、張り詰め続けてきた糸は解かれた。
やりきったという充実感と手が届かなかったという空虚さ。
安堵、感謝、回顧・・・
自然とあふれる涙には、今まで積み上げ、ため込み、エネルギーに変えてきた
上村愛子を形成する全てが凝縮されているようだった。

長野五輪で一躍スターになった女子高生。
メディアの必要以上の注目は純粋でまっすぐな少女を傷つけ、悩ませた。
モーグルをけん引する立場として、表舞台に立ち続けてきた。
人気が先行し、期待と実力が乖離している事に誰よりも本人が追いつめられたのではないだろうか。
トリノで「勝たなければならない」と悲愴感すら漂わせていた姿は記憶に新しい。
そんな中でも上村は逃げることなく、ふてくされることなく、不器用とも思えるほどに向き合ってきた。
時に弱い姿も見せながら、環境を受け入れていくようだった。

トリノ以後、上村は少しずつ、しかし着実に世界との距離を縮めていく。

一昨年のシーズン、女王になった上村は言った。
「これでようやく世界の1番を競う場に自分が立つことができた」と。
頂点に立ってなお、ここからが一番を争うスタートだという。
選手として冷静に世界との距離をはかれている証拠だった。

バンクーバーへ向けての上村は本当に強かった。
メディアに向き合う姿勢はいつも真摯だった。
実力を積み上げてきたという自負、
結果を出してきたという自信、
結婚という安堵感。
背景にはいろいろなものがあるのだろうが、
その落ち着きと柔らかさには嘘ではない優しさが見えた。
だから、強く見えた。

バンクーバーでの上村には「積み上げてきたものを全て出したい」という想いがあるようだった。
そのご褒美としてできればメダル手に取りたい。
そう思ってはいなかっただろうか。

「後悔はない、でもメダルがほしかった」という素直な気持ちが心に響く。
「何でこんなに一段一段なんだろう」。泣きながら笑う姿が胸を打つ。
僕たちもまた、上村愛子にメダルをあげたかった。


上村愛子は正直で、優しい。だから、強い。

posted by sportstamasii |22:57 | オリンピック | コメント(0) | トラックバック(0)
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