2006年10月26日

ファイターズマニア、札幌ドームを揺らす

寒風の吹き始めた札幌に来ている。日本シリーズの取材のためだ。

寒風が吹き荒ぶ、というのは誇張ではないのだが、しかし、札幌ドームのなかは熱気で充満している。無論、ドーム球場だからというのではない。ファイターズを応援する熱心なファンの存在が、10月下旬の札幌の街全体までをも熱くさせているのだ。

北海道のファンがファイターズを懸命に応援しているというのは、シーズンを通してテレビなどで見ていた。だが、実際に来てみるとその熱狂に改めて驚かされる。

第3戦は日本シリーズが初めて北海道で行われた記念すべきとなったが、そのなかでもハイライトは日本ハムが3-1でリードした8回裏に、5番の稲葉が3点本塁打を放った場面だ。

ファイターズは2点のリードしてはいたものの、初回以降追加点を奪うことができず、重苦しい雰囲気を漂わせていた。それだけに、ファイターズにもファンにもフラストレーションが溜まっていたのだが、稲葉がそれを一発で吹き飛ばしたのだ。

中日・中里の初球を躊躇なく叩いた稲葉にも驚かされたが、それ以上にドームのファンの応援が凄かった。クイーンの「I was born to love you」をバックに稲葉が打席に入ると、わずかな中日ファンを除いた観衆のほぼすべてがジャンプして稲葉にエネルギーを与えたのだ。

僕はバックネット裏上の記者席にいたのだが、ズンズンとその衝撃が身体に響き渡ってくるのがわかった。また、見た目にも何万という人々が飛び跳ねるなどという光景を目にするなど、はっきり言って日常では皆無であろう。だからというわけではないが、そのドームの光景が、なにか特殊な生き物にさえ見えてしまうという錯覚を引き起こした。

中日の外野手、井上は稲葉の打席のファンのジャンプについて「遠近感を失ったみたいな感じになった」と、第4戦の前に話したが、声援以外でファンがここまで相手チームの選手にプレッシャーをかけることができるというのも、他の球場ではないのではないだろうか。それほど、異様な光景であった。

といいつつ、僕にとっては嬉しい驚きであったのは間違いない。というのも僕は高校を卒業するまでのほとんどの年数をここ札幌で過ごしたからだ。

しかし、僕が札幌にいたころにはプロのスポーツチームなどなかった。コンサドーレ札幌もファイターズも、何もなかった。あるといえば、プロではないが、実業団アイスホッケーの雪印のチームくらいだった。プロ野球といえば、テレビのブラウン管を通して見る、遠い存在でしかなかった。

それが、04年――突如と言っていいだろう――ファイターズが移転してきた。それより前にはコンサドーレが一足先にプロスポーツチームとしては初めて札幌にフランチャイズを置いてはいたものの、プロ野球というこの国では圧倒的な歴史の長さと根強いファンを持つスポーツの球団がやってきたことは、はるかに大きな驚きだった。

もしかしたら、最初、道民は、札幌市民は戸惑ったかもしれない。地元にチームができて、いったいどうしたらいいのだろうか、と。涼しい気候によってばかりでなく、北海道の人々というのはえてして出不精なところが、本州に比べてあると言われる。

だが、チーム移転から3年。ファイターズが着実に力をつけ、それが今シーズン花開いたこともあって、ファンはようやくこのチームを北海道の球団として迎え入れた。「自分の街にプロ野球の球団が、応援すべき対象があるというのは本当にいいことなんだな」。札幌ドームに足を運ぶファンの心に去来するのはそういう気持ちだろう。その抑えきれない喜びが、ドームを揺るがす「ジャンプ」につながっているのではないだろうか。

先述の井上は、中日ナインは札幌ドームのファンを「すごいなあ」と感じ、「圧倒された」と言った。普段多くの観客が訪れる名古屋ドームでプレーするドラゴンズにとってさえ、そう感じるのだから、やはり札幌のファイターズファンは相当特殊なのだろう。

ヒルマン監督や選手らは札幌ドームのファンを「最高のファン」と呼ぶが、それは決して誇張ではなく、掛け値なしの言葉なのかもしれない。

posted by southernmiss |02:04 | トラックバック(2)
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