2008年07月07日

「歴史作っちゃったよ」 [ICU高vs都八王子桑志高]

Match No.053 2008.7.6
<野球>
第90回全国高等学校野球選手権大会西東京大会
国際基督教大学高校vs都立八王子桑志高校
@多摩市一本杉球場

ついに、神の思し召しか。
組み合わせ抽選の結果を新聞で見たとき、僕はそう思った。
創部以来二十数年、1勝もできずにいた国際基督教大学高校(以下ICU)の
初戦の相手は、創立2年目の都立高、大会初出場の都立八王子桑志高校だった。


モノレールの多摩センター駅からバスで10分ほど。
一本杉球場には初めて来た。
緑に囲まれているが、日陰は少ない。当然、暑かった。

事前情報をほとんど持っていない高校野球の観戦では、
なにかと想像するのが楽しい。
以下、「想像」部分が多くなるが、関係者の読者がおられた場合、お気になさらぬよう。

八王子桑志は部員10人。試合前のノックもなんだか寂しかった。
帰国子女の多いICUはもっとチャラチャラしてるのかと思ったけど(完全に先入観)、
ちゃんと高校野球っぽい声出しもあるし、監督も選手を怒鳴り散らしている。
髪型なんかは自由みたいだけど。

三塁側の桑志側スタンドには、ブラスバンドが。こちらも当然創立2年目、いいじゃない。

やっぱ夏はブラバンの音が胸に沁みるね


一塁側は寂しかった。あんなに金髪茶髪がウヨウヨいるICUなのに、
スタンドに応援に来ているのは至って健全そうな髪の色の女子生徒とOBが中心で、
選手の親もあんまり来ていなかったように思われる。
やはり、パパは商社マンでドバイに赴任中、みたいな生徒が多いんだろうか(想像)。

実は筆者は、ICU高に入ろうと思っていた。
入った暁には、「向いてないや」と思って小学校で諦めた野球をやり直そうと思っていた。
10年以上も前の話なのだが、その理由というのが、
「史上初の「夏の1勝」に立ち会えるかも。ICUならおれでも試合に出られるんじゃねーか。」
という非常に浅薄かつ不純な動機であった。申し訳ない。
とにかく、10年以上前から、ICUは「勝ったことがない」で有名だったのである。

そのICUと、1、2年生しかいない八王子桑志。
想像を超越するゲームになった。
内容をレビューすべきかかなり迷ったが、あえてGO。


1回表、ICUのエース浜野は制球が定まらずに連続四球でいきなりピンチ。
しかし信じられないことがいきなり起きた。
桑志の3番野村の初球になんとエンドラン。野村の打球はしかし、ショートへの小フライ。
インフィールドフライには足りない。するとどうなるか。そうです、捕ったショートから二塁、一塁と渡ってトリプルプレー。これがこの試合の幕開けだった。
いや、、、今思えば、エンドランではなかったかも知れない。
9球中1球しかストライクを放っていない投手相手に、初球エンドランなどあるだろうか。
しかしノーサインのわりには1、2塁走者は飛び出していた。う~ん…。
とにかく、1回表で僕は悟った。
この試合、野球のセオリーとか、そういうのはどうでもいいんだと。

その裏のICU、ヒットで出た先頭の主将・河村稀琳(以下キリンと呼ぶ)を
3番荻原がレフト前安打で返し、先制点を挙げた。
おそらくチーム史上、リードしたこともほとんどないだろう。
さらに4番加藤駿介の右中間への二塁打などで計3点をリードした。

初勝利へ快調なスタートだったが、2回表に
しっかりエラーがらみで2点を返されたICU。(もちろん桑志にとってチーム史上初得点だ)
それでも2回裏、二死2、3塁で2番斉藤がレフト前安打、続く荻原も三塁打で続き、
6-2とリードを広げた。

ICUの浜野に比べて、八王子桑志の先発・高橋(背番号5)は
コントロールは良かったし(ストライクがちゃんと入るという意味)、球速も浜野より出ていたが、
その分、打ちごろのボールだったようだ。

小机は高橋を盛り立てた


スタンドからは、守備プレーがぬかりなく成立するだけで歓声と拍手が起こる。
誰かが誰かにボールを投げるプレーひとつでいちいちドキドキしてしまう。
両校の選手たちの視線の先に甲子園があるのかどうかなんて、愚問だよね。
甲子園なんか、ク●食らえだぜまったく。

ICUの一塁手、加藤駿介クンは少々コロっとした体格なのだが、
2回の長打といい、3回表の2度にわたるファウルフライへのダイブといい(両方失敗)、
なかなか観ていて楽しいヤツだった。

ICUは3回裏にもキリン主将の2点タイムリーなどで加点し、9-2と大きくリードした。
この時点で僕は、5回コールドになるな、と思っていた。
昨年も一昨年も5回コールドで敗れているICU。
勝っても負けても9回までやれないんだなぁかわいそうに、なんて思っていたのだ。
自分の甘さを思い知った。

桑志は、先発の高橋祥弘と4番ショートで主将の小机隆太の2人だけで
野球をやっているようなものだった。
野球のキャリアを感じさせるのが、彼ら2人だけだった(ほかにもいたらゴメン)。
4回表、その小机がヒットで出塁する。
実のところ、それ以後のこの回の攻撃を見ても、
やはり小机だけなのだ、名前を登場させるべきなのは。
それでも、彼がこの回2度目の打席で同点2点タイムリーを放つまでに、
誰も安打せずに5点が入った。

話を戻そう。
先頭の小机のあと、連続死球で無死満塁になった。ICUの浜野はどうもこの辺りからおかしかった。
それでも桑志の下位打線で2アウトを取り、迎えるは9番の安部。
申し訳ないが、はっきり言って彼は10人の野球部で9番バッターになる選手だ。
しかし、浜野はストライクを3球放れず、押し出し。
さらに、1番高橋の打席で野生的投球すなわちワイルドピッチ、
高橋は四球、その四球になったボールがまた暴投。これで9-5。
2番、3番と続けて四球を選び、9-7。
そして小机のタイムリー二塁打である。ほらね、小机しか打ってないでしょ。
それでも同点なのだ。
突如乱れた浜野


5番宮下がやっと打ってくれた遊ゴロは暴投でついに逆転、9-10。
ここでICU高柳監督はついに腕を振れないエースを代えた。
浜野は一塁へ。一塁手の加藤駿介が捕手。そして捕手だった荻原がマウンドに上がった。
さっき述べたぽっちゃりの加藤駿に負けず劣らずズッシリ体型の荻原。
浜野の球をポロポロ後逸してたくせに、平気な顔でズンズン速球を投げ込んだ。
なんだよ、早く代えておけばよかったじゃないか。

荻原も暴投で1点を献上したが、なんとか攻撃は終わった。

ICUベンチでは監督が吠えまくっている。そりゃそうだ。
2安打で9点も取られたら、誰だって怒る。

さて、ICU5回コールド説はどこへやら。

不思議なもので、リードした途端に桑志の守備が締まり出した。
鋭い打球も野手の正面を突く。
それでも5回裏、ICUは当たっている浜野のヒットを足がかりに2点を挙げ、
なんとか同点に追いついた。


ICUは2年連続5回コールドで敗れており、今年の代の選手にとっては
未知なるイニングに試合は入っていった。



桑志が弱いのは理解できる。10人の部員では練習もままなるまい。
そしてこの高校はシステム情報やデザインといった科目に特化した都立高校。
野球部が創立2年目でいきなりちゃんとやれる理由はない。

対するICUを観ていて思ったこと。
少年野球経験者が少ないな、と思った。それに、
練習試合を全然していないだろうな、と(想像だよあくまで)。

ICU高における部活の位置づけはよく知らない。
アメリカやらインドやらで生活したことのある、「自由!」と背中に書いてある子たちと、
「高校野球」という存在がそもそもミスマッチだ(ひどい偏見だけど)。
ただとにかく、チームに「根っこ」がない気がした。

根っことは、
強力なリーダーシップと理論を持つ監督であったり、
練習量であったり、培われた伝統であったり、学校を挙げての応援団だったり
すると思うのだが、そのどれも見当たらない。
いっそのこと、アメリカナイズされたベースボールをやってくれればまだスッキリするんだけど、
彼らが実践しようとしているのはあくまで日本の高校野球のようだ。

そんな根っこがないならば、自分達で学ぶしかないのだ。
どこから学ぶか。
チームの誰かが、受け売りでもなんでも、チームに方法論や情報をもたらすか、
試合を通じて自らが学び取っていくしかない。

少年野球をかじってさえいれば誰でもわかるようなことを、
ICUの選手は実践できていない。
外野の守備位置が無闇に浅かったり、捕手がワンバウンドを手で捕りにいったり。
6回裏には1死1、2塁でPゴロを打った打者が、2塁ランナーがサードでフォースアウトに
なるかどうかを見ながら走っていたせいで、1塁でアウトになった。
信じられないことが次々に起こるのだ。
洞察力も足りない。7回裏、1死3塁でキリンのレフトフライでタッチアップした選手が、
ベースを離れるのが早すぎてアウトになった。ベンチに帰ったあとで。
これも、八王子桑志の外野からまともな返球が来る確率、というものを
冷静に分析できていれば全く焦る必要などなかったプレーだ。
荻原のストレートを誰もまともに捕らえていないのに、妙に緩急をつけたがって
球数を増やしていたバッテリーも、観察力が足りない。

小中で野球をやったことがなかったのなら、実戦で学ぶしかない。
だが、観ていてわかった。彼らは、「悔しさから学んだこと」という財産がなさすぎる。
それはきっと(やっぱり想像ですが)試合経験があまりに足りないせいなのだ。

そしてそれはおそらく、チームによっては真剣勝負が年に2試合しかない、
高校野球の狂ったシステムにも問題があるのだろう・・・。


7回裏、打席で浜野が足を攣らせて交代した。
控え投手はいるようだが、荻原の負担は大きくなった。
それでも8回は見事に三者凡退に斬って取った。

そして8回裏。
先頭の斉藤を歩かせたところで、桑志は先発の高橋がマウンドを降り、セカンドに退いた。
彼は、本当によく頑張っていた。小さな背中で、頼りない野手陣を引っ張っていた。

マウンドには背番号1の枦元がセカンドから回った。
最初の荻原を四球で出し、4番加藤駿介のサードゴロがエラーになり、
にわかに投手戦になっていた試合は、ついに12点目がICUに入った。
5番・加藤玄が三遊間を破り2点差。
送球に難のある捕手・馬場の隙を突いて出る走者は皆走りまくる。
1死のあと、ワイルドピッチのベースカバーに入った枦元が、
こちらも脚を攣らせ、座り込んだ。野手からマウンドに上がるのは、簡単なことではないのだ。
枦元も無念の痙攣


八王子桑志の小野監督はここで、唯一試合に出ていなかった橋本をマウンドに送った。
アンダースローの橋本から、ICUは四球と死球で15点目を入れる。

さらに暴投で16点。
ここで高校野球の予選のテキトーさが出た。選手たちは命がけなのに。
センター後方のスコアボードが、この16点目を入れ損ねた。
そこへ、キリン主将がセンター前へ2点タイムリーを放った。
まずは17-11と表示された。

ここで、桑志は再び高橋をマウンドに送り、投球練習。
しかしこのとき、スコアボードの人間が、訂正で18点目を表示した。

審判はここで初めて、何かがおかしいと気付き、
公式スコア係に問い合わせた。おそらく、自分の過ち(得点を数えていなかった)
に気付いたのだろうが、強行して試合を続行させた。
そう。18-11ならば、コールドが成立しているのだ。
だがここで「ゲ~ムセット!」なんて間抜けな声はかけられないと思ったのか・・・。

そして3番荻原による、(「幻の」であるべき)走者一掃のランニングホームランが、
試合を締めたことになった。
高橋君にとっては、最後にマウンドにいたことが、吹っ切れる材料になったと
いえるといいのだが。

なにはともあれ、試合を象徴するようなバタバタっぷりで、
ICUは、チーム史上初めて、夏の西東京に白星を刻んだ。

まっったくの部外者である僕にとっても、それはなんだか、重い出来事に感じられる。

ベンチで休む枦元を残し、桑志は9人の選手が整列し、挨拶をした。
彼らにとって、9回表を戦えなかったことが、バネとなり、来年への糧となりますように。
そして小机隆太がまた長い髪をなびかせて、強いチームを引き連れて戻ってきますように。

そしてICU。
大学生と思われるOBから「監督おめでとう!」と声がかかった。
キリン主将は歓喜よりも使命感を先に立たせ、選手を整列させて観客席にお辞儀をした。
細い腕、太い腹、メガネ、ボサボサ頭。よく見ると、本当に「高校野球」が不似合いな連中だ。
勝利の挨拶


だが、彼らは自覚してほしい。
世間はいつでも(漫画家たちも)、冷酷非道な監督率いる坊主の野球バカ達を倒す、
スマートで論理的で、垢抜けたチームの誕生と活躍を、待っているということを。
気概を持ちなさい。君たちの多くは英語も喋れるし、偏差値も高い。
1勝で満足してはいけない。高校野球に、なんらかの風を起こしてくれ。

引き上げてきた選手たち。「勝ったー」と、歓喜より安堵の声が響く。
冗談交じりに「歴史作っちゃったよ」とおどけるヤツもいる。
大事なのは、経験すること、そしてそれを伝えること。
彼らは幸い、勝利の味と同時に、簡単には勝てない難しさもこの試合で学んだはずだ。

もちろん創部以来初勝利だ。ただそれだけではなく、
反省点を次の試合に生かせる、史上初のチームなんだということを、
彼らが気付いているといいな、と思う。

ICU高 18-11 都八王子桑志




posted by sot-escape |00:24 | 高校野球 | コメント(15) | トラックバック(0)
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