2009年11月03日

ナビスコカップを情緒的に語る【4】

プレビュー最終回。
あの日を振り返ります。

【4】下馬評も数的不利をも、覆す何か。


後にも先にも、僕はその光景に出くわしたことはない。
みんな、どこか変だった。何かに導かれていたんだ。

自分が応援するチームのゴールに強烈なシュートが飛んできたら--。
普通は、一瞬息が止まる。
普通は、目を背けたくなる。
自分が応援するチームのGKがそのシュートを弾き出したら--。
普通はほっと息を吐く。
普通は「おーっ」と唸って「あぶねぇ」と呟いて、そして拍手をする。
 
プレミアのサポーターなんかは敵のシュートが外れるとすぐに
こぶしを挙げて喜び、GKを称えたり敵をなじったりするが、
日本のスタンドはそんなに図太くない。特に東京のサポーターの反応は正直だから…。
 
ところが、2004年11月3日午後の国立競技場、千駄ヶ谷側ゴール裏は少し変だった。
最初のうちは、「おー」だったのだ、赤い軍団の決定機を防いだときの反応は。
しかし、回数を重ねるにつれ、変わっていった。
土肥洋一が浦和のシュートを防ぐたびに、
ぼくらは、こぶしを突き上げた。
いわゆるガッツポーズである。ゴールシーンのような。イェーイって。
シュートが放たれる瞬間にはもう、こぶしを挙げる準備をしていた、といってもいい。
 
それはもう、滅茶苦茶に劣勢だった。
その数年後にアジア一にまで上り詰めた浦和とは別の種類の強さが、
当時のレッズにはあった。乱暴な強さが。
そのうえ僕らは、ひとり退場で失っている。

そこへエメルソンが来る。田中達也が来る。永井が来る。
  
でも後半の途中から…そう、おそらくは戸田光洋がゴールライン上で
アルパイのヘディングをクリアしたあたりから、
僕らは根拠のない楽観に包まれていた。
コクリツのゴールは、僕らの味方だ、と。
 
そりゃ、強がりの一種ではあったさ。
半泣きの人もいた。
でも、本当にビクビクして心理的に窮地にいたら、
味方GKのセーブの瞬間にガッツポーズなんか出ない。
 
やっぱりちょっと変なテンションになっていたんだ。
何かが僕らを勝利に導いてくれると、根拠なく信じ込んでいた。
土肥がシュートを弾いてくれると、どういうわけかわかっていた。
事実上、失点が即敗北をもたらすと知っていながら、GKのセーブを楽しんでいた。
 
僕は、後にも先にも、GKのセーブで千人単位のファンがこぶしを突き上げる光景を、
見たことがない。
 
PKでの勝利を得た瞬間、涙する長年のサポーターやおばさんたち。
しかし僕は、ヘンテコなテンションから抜け出すのに失敗し、ヘラヘラ笑っていた。
あとからVTRを見たら、何度でも泣けるというのに。
  
決勝戦の雰囲気というのは、本当に不思議なものだ。



選手の水曜と金曜号のエルゴラッソをお読みだろうか。
2号続けて、そこには戸田光洋のインタビューが載っていた。

僕がいちばん好きな(今でも)選手、戸田。
戸田のファンだったことを誇りに思える内容だった。

あの日、後半終了を目前にしてピッチから退いた戸田は、
そのあとずっと、退場したジャーンと一緒にいたのだという。
責任を感じ、涙が止まらないジャーン(同級生なんだって)に寄り添って、
慰めていたそうだ。
戸田は言う。「ずーっと泣いてましたからね。アイツは男ですよ」。
君がいちばんオトコだよ!

さらに。
石川と戸田は後半ふたりとも脚が攣っていたそうだ。
ところが、ベンチ側に位置していた戸田は、石川のことについては黙っていた。
「俺よりもナオのほうがつっていても走れるし、
ナオを残しておくほうが個人的にも良いと思っていたので。
俺はナオのことは言わずに、自分がパンパンになるまで走って、
原さんに『もう無理です』って告げて交代しました」。

涙が止まらないじゃないか、このやろー!

続けて戸田は語る。
「ジャーン退場でピッチを去らなければいけなかったフミさん(三浦文丈)のことが忘れられないです。
フミさんがどれだけこの試合に懸けていたかも知っていただけに…」

そうだ、僕らも、文丈がピッチを去り、そっとヒロミと握手したシーンは
忘れられない光景として覚えている。



どうやら、決勝戦は、選手たちも別次元の世界へ連れて行くらしい。
こんないい話、そんじょそこらのリーグ戦では出てきませんよ。

文化の日のコクリツは、それはそれは素敵な空間なのだ。

藤山が退団、そして現役続行の意志を表明し(アマラオのように。)、
浅利が現役引退を発表した。
石川は車椅子でコクリツを訪れ、茂庭は顔がへこんでいる。

がんばる理由はいくらでもある。

誰かのためだとかは別としても、
あの日の優勝が僕たちサポーターに残したもの、
そしてピッチにいた当事者たちに残したのを見れば、
カップを掲げることの意味の大きさは語るまでもない。

タツヤよ、戸田のように走れ。
権田よ、土肥のように止めろ。
ブルーノよ、ジャーンのように泣き叫べ。(ただし試合が終わってから)

キックオフまで14時間。
予想外に雨が残った千駄ヶ谷にも、明日は日差しが戻るだろう。

勝とうぜ。

posted by sot-escape |00:20 | FC東京 | コメント(0) | トラックバック(0)
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