2009年01月18日

その7~プロレスは遠くなりにけり③

 プロレスに大きなダメージを与えた出来事は、1990年代から始まる総合格闘技の登場とそこにおける試合でのプロレスラーの敗北である。その代表は高田延彦である。
 
 高田はプロレスラーとして、新日本プロレスに残っていても大成したと思う。前田と比較して、考え方に柔軟性があり、運動能力的にも前田を遙かに上回り、プロレス特有のとんだりはねたりは大の得意であった。前田の弟分的存在で、やんちゃな兄の前田を常にサポートした。

 旧UWF、新日本プロレス復帰、新生UWFと前田程目立ちはしないが、その存在感を示していた。前田追放後も、新日本に残れば、将来のエース的存在を保障されていたにもかかわらず、前田を追って新日本を出た高田を僕は尊敬した。
 
 前田への義理もあったろうが、強さを追求するためには、新日本に残って自己を偽った試合をするより、格闘技色の強い道を歩むことを優先したのであろう。
 
 ただ、新生UWFの頃の高田は、やや体重オーバーで、パッとしなかった。船木との試合などでも船木に圧倒され、説得力のある試合をすることができなかった。
 
 高田が一番輝いていたのは、UWFインター時代であった。身体をしぼり、黒タイツから紫色などのタイツにかえ、オブライトやベーダー、北尾、バービックなどの試合は印象に残るもので、前田と別れて初めて高田はその怖さ・真骨頂を発揮できるようになった。

 僕は、UWFインターの復古主義的な異種格闘技戦等に対して疑問に思っていたが、リングス前田に比べて、肉体的なピークと精神的な安定感を備えた高田は、風格もあり、日本人レスラーNO.1の実力を持っていたように思う。

 その高田が、UWFインターの経営危機の中で、新日本プロレスと合流し、末期国際プロレスが新日本プロレスと交わり、R木村や浜口などが無惨にも崩されていったように、新日本主導の武藤や橋本との試合においてその輝きを消されていった。高田はさぞかし、無念であったろう。そのような状況の中で、現役を続けていくことに情熱を失い、引退宣言し、国会議員選挙にうって出たりする高田であったが、ヒクソンの存在を知り、格闘技に対する情熱を再燃させていく。
 
 ヒクソン・グレイシー。400戦無敗の神話を持ち、初期UFCにおいて、パンクラスでは当時強さには定評があったシャムロックを破り、僕らに衝撃を与えたホイス・グレイシーをして、数倍強いと言わしめた兄ヒクソン。試合をしなくなった現在でも、総合格闘技において存在感のあるヒクソン。
 
 あれから10年以上たち、ヒョードル、ノゲイラ、ミルコ等、様々な強い格闘家が現れはしたが、ヒクソンの試合は一種独特の抜き差しならぬ緊張感、一つまちがえば、一瞬のうちにしとめられるのではなかろうかという抜け目のなさにおいて、他の追随を許さぬものがあると今でも思う。あのたたずまい、あの表情はただの格闘家の域を超えて、宗教家あるいは求道者とも言えるものをもっている。
 
 そのヒクソンと高田の試合。僕らの甘い予想を完全に裏切って、高田は4分程度で自分の得意技でもある、腕ひしぎ十字固めで完敗する。試合の次の朝、駅まで行き、スポーツ新聞を見た時の落胆、後にそのビデオを繰り返し繰り返し見た時の両者の実力の差に愕然とした。
 
 僕たちが応援してきたプロレス、UWFは何だったのかという心。その現実に自分の心をうまく整理できずに呆然とする自分がいた。新日本プロレスからUWFと培ってきた技術だけでは、総合格闘技という競技の中では勝てないのだという今となっては自明の現実を高田本人は勿論、プロレス関係者はつきつけられたのだ。

 そして、プロレスが衰退していく最大の原因になったのは、高田がヒクソンに負けたということではなく、その現実に対して、プロレスラー及びプロレス関係者が仲間である高田を批判したり、直視せず、他人事として対応していったことにある。

 猪木は例によって、「一番弱い奴が出て行った」と高田がただ弱かっただけだという意味のことを言い、長州を中心とする新日本は、黙殺した。「プロレスこそ最強である。」ということをまともに信じていた者は、当時にしても少数の者にしか過ぎなかったと思うが、高田の敗北はプロレスに関わる者にとっては衝撃であったはずなのに、高田は負けたが、そりかわりに俺がやってやるといったレスラーはほとんどいなかったのだ。

 そんな中、高田を擁護し、その敗北に真正面から反論したのは他でもない旧友、前田日明であった。前田はヒクソンとの試合を模索した。前田の前田たる姿勢をそこでも示し、うちひしがれ、プロレス界に対していいようのない感情を持ち始めた僕らの心にわずかではあるが灯ともしてくれた。

 しかし、結局、交渉はまとまらず、ヒクソンは再び高田と戦うことになる。高田はその戦いにも敗れる。しかし、当時の一級プロレスラーの中で唯一、総合格闘技にうって出た高田は、批判や中傷の嵐を一時的に受けはするが、「プライド」は回重ねる毎に人気を博し、やがてパイオニア的な存在として、その勇気ある行動は賞賛されていくことになる。

 一方、高田を散々叩きに叩いたプロレス界は、レスラーたちの実力が白日の下にさらされ、プロレスラーは弱い、弱いし、総合に挑戦する勇気もないと判断され、その存在感・人気は奈落の底に落ちていく。そして、高田の後継者たる桜庭が、ホイス等との試合に勝利をおさめ、日本人レスラーの中では光を放ち、「プライド」は全盛期を迎えていく。

 2000年代に入って、プロレスと総合格闘技の立場は完全に逆転することになる。総合格闘技の方が世間的にメジャーな存在として、認知されたのだ。あせった猪木新日本は、内輪で総合格闘技もどきの試合を行ったり、永田を送り込んだりしたが、時すでに遅しであった。

 新日本プロレスとの戦いに完全に勝利を収めた高田は、プライドとは全く相反する「ハッスル」をスタートさせる。リアルな真剣勝負の場である「プライド」とエンターテイメントを満度に取り込んだ「ハッスル」とを提供し、新日本プロレスのリングで行われているものは、真剣勝負では決してなく、またショー的な要素においても中途半端なのだといわんばかりに。高田はUWFインター時代に受けた屈辱を完全に晴らした。

 プロレスはもはや強さを示す格闘技色を全く廃し、プロレスはプロレスとして、別のジャンルに完全になり、しかもショーとしても中途半端なものを提供し、多くの人の興味対象から離れ、ごく少数のマニアだけの娯楽になり果てていく。(つづく)

posted by sogofunkyozo |21:58 | 総合格闘技 | コメント(10) | トラックバック(0)
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その7~プロレスは遠くなりにけり③

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いや~今回の記事は面白かったです
意外とまともな人じゃないですかw

旧式のプヲタでプロレスガチ幻想から抜け出せないかわいそうな人かと思ってた

posted by たくや | 2009-01-18 22:54

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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うん、いろいろ賛否両論あるだろうけど良かった。
前の二本でかなり焦ったけど。

posted by スパッツ | 2009-01-19 01:20

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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高田に関しては自身の出した暴露本にも触れろよ。
つかそのほうがよほど科学的考察になるだろ。
いつになったら科学するんだ??

高田も前田も一度も真剣勝負の格闘技はして来なかった。
それがいきなり真剣勝負の格闘技しかして来なかったヒクソンとやってどうにかできるはずがなかったな。
暴露本だけでなく、試合としても暴露してしまったわけだ。
前田もカレリンに実質子供扱いされたことで格闘家としての実力のなさを暴露してしまった。
ハッキリ言って、この暴露してしまったこと、幻想を壊したことがプロレス衰退の岐路だったろう。
彼らが本当に格闘家としての強さを求めてのことならしょうがないが、
偽物の戦いしかしてこなかったくせに本物に勝てると本気で思っていたのだとしたら
これほど頭の悪い人間はいないだろう。
船木のほうがよほど自分と現実が見えていたと言える。

posted by 羽主 | 2009-01-19 01:42

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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最初は何でもありの戦い方なんてグレイシーしか知らないからあらゆる格闘技がホイスグレイシーにやられちゃってましたよね。93年にアルティメットが始まり高田・ヒクソンが97年。研究する余地は有り余るほどだと思うのですが、高田が無策だったのが一番びっくりでした。
頭が悪いという意見には羽主さんと全く同感ですが、頭が悪い理由は「偽物の戦いしかしてこなかった」からではなく「無策」だったからです。

posted by cs | 2009-01-19 08:05

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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プロレスラーは馬鹿ばかりという結論でよし

posted by じゃあ | 2009-01-19 11:11

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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プロレスラーやプオタがアホだのヤオだのガチだのって話は
今さらもうやめてくれ〜

偽物の戦いっつーか、客入れてテレビで流してたんだから、
それは本物でしょう? 
確かに無策は言えてる。誰でもいいからガチ強い奴にプロレスラーの肩書き付けてやらすか、猪木の様にプロレス最強論を作り上げるため、仕込みができなかったのが「無策」ですな

posted by e | 2009-01-19 13:23

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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ショーとしては本物でも格闘技(特に勝敗を競うアマチュア的には)偽物だろう。
だって本質的にはWWEと同じだぜ。
あれが格闘技として本物か?

posted by なぁ | 2009-01-19 17:05

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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そう言えば猪木がヒクソンに高田に負けるように数億円で八百長を持ちかけたが断られたってどこかで読んだな。

posted by   | 2009-01-19 17:06

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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高田が罪なのはテレビを巻き込んで
自らがプロレスを背負うようなスタンスでヒクソンと戦ったこと。
同じプロレスラーという肩書きでリングに上がった小川や藤田は
あくまで個人として戦っている。
高田はプロレスを背負って戦うほど強くはなかった。

posted by ちゃんぽん | 2009-01-19 19:04

その7~プロレスは遠くなりにけり③

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そんなにヒクソンとやりたきゃ安生みたいに殴りこみに行けば良かったのにね。金もかかんねぇし。

そうゆう意味で安生は面白キャラだけど、凄いプロレスラーらしいプロレスラーだと思う。前田も伸してるしね。

posted by そうね | 2009-01-19 22:51

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